(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142214
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】光学装置、露光装置および露光方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20230928BHJP
G02B 5/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G03F7/20 505
G03F7/20 521
G02B5/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048979
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】西村 辰彦
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 泰充
【テーマコード(参考)】
2H042
2H197
【Fターム(参考)】
2H042CA00
2H042CA12
2H042CA17
2H197AA22
2H197BA02
2H197BA03
2H197BA06
2H197BA09
2H197CA07
2H197CB16
2H197CB18
2H197CC05
2H197CC16
2H197CD12
2H197CD41
2H197DB05
2H197DB10
2H197DB11
2H197DB23
2H197HA02
2H197HA03
2H197HA04
(57)【要約】
【課題】光の進路をシフトさせる技術において、簡単な構成でありながら、非点隔差の増大を抑えつつシフト量の調整を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】本発明は、入力光の進路をシフトさせて、入力光の光路と平行であって同一でない光路に沿った出力光を出力する光学装置であって、入力光の入射角が、出射光の偏角が最小となる角度に設定された第1ウェッジプリズムと、頂角が第1ウェッジプリズムと略同一であり、第1ウェッジプリズムとは逆向きに対向配置された第2ウェッジプリズムと、第1ウェッジプリズムと第2ウェッジプリズムとを支持し、それらの間の距離を変化させてシフト量を調整するシフト量調整機構と、入力光の光路または出力光の光路に配置されて出力光に現れる非点隔差を補正する補正光学素子とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力光の進路をシフトさせて、前記入力光の光路と平行であって同一でない光路に沿った出力光を出力する光学装置であって、
前記入力光の入射角が、出射光の偏角が最小となる角度に設定された第1ウェッジプリズムと、
頂角が前記第1ウェッジプリズムと略同一であり、前記第1ウェッジプリズムとは逆向きに対向配置されて、前記第1ウェッジプリズムに対向する面とは反対側の面から前記出力光を出射する第2ウェッジプリズムと、
前記第1ウェッジプリズムと前記第2ウェッジプリズムとを支持し、それらの間の距離を変化させてシフト量を調整するシフト量調整機構と、
前記入力光の光路または前記出力光の光路に配置されて前記出力光に現れる非点隔差を補正する補正光学素子と
を備える、光学装置。
【請求項2】
前記入力光の入射方向に垂直かつ前記入力光に対する前記出力光のシフト方向と平行な方向を第1方向とし、前記入射方向および前記第1方向に垂直な方向を第2方向とするとき、
前記補正光学素子は、前記第1方向と前記第2方向との間で非点収差を生じさせる光学素子である、請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記補正光学素子は、前記第1方向と前記第2方向とで焦点距離が異なるレンズである、請求項2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記補正光学素子を前記光路に沿った方向に移動させることで前記非点隔差の補正量を調整する補正量調整機構を備える、請求項3に記載の光学装置。
【請求項5】
前記補正光学素子は、前記第1方向を含む断面と前記第2方向を含む断面とで曲率を変化させる曲率可変ミラーである、請求項2に記載の光学装置。
【請求項6】
前記補正光学素子は、主面の法線ベクトルが前記第1方向および前記第2方向のいずれか一方の成分を有するように、前記光路に対して傾けられた平行平面平板である、請求項2に記載の光学装置。
【請求項7】
前記補正光学素子の傾きを変化させることで前記非点隔差の補正量を調整する補正量調整機構を備える、請求項6に記載の光学装置。
【請求項8】
処理対象の基板を支持するステージと、
所定の露光データに基づき光ビームを変調し、変調された前記光ビームを請求項1ないし7のいずれかに記載の光学装置を介して前記基板の表面に入射させる露光部と、
前記ステージと前記露光部とを相対移動させる移動機構と
を備える、露光装置。
【請求項9】
所定の露光データに基づき変調した光ビームを基板の表面に入射させて前記基板を露光する露光方法であって、
前記光ビームの光路上に請求項4または7に記載の光学装置を配置し、
予め前記補正量調整機構を作動させて、前記出力光に現れる非点隔差が最小となるように前記補正量を最適化しておき、
前記シフト量調整機構を作動させて前記シフト量を変化させる際、前記補正量調整機構による前記補正量を変化させない、露光方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばプリント配線基板やガラス基板等の基板にパターンを描画するために基板を露光する技術に適用可能な光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、プリント配線基板、ガラス基板等の各種基板に配線パターン等のパターンを形成する技術として、基板表面に形成された感光層に、描画データに応じて変調された光ビームを入射し、感光層を露光させるものがある。この種の技術においては、基板の歪みや変形等に適合させつつ適正な位置に描画を行うために、基板に対する光ビームの入射位置をシフトさせる手段が光路上に設けられる。
【0003】
例えば特許文献1に記載の技術では、互いに逆向きに対向配置された1対のウェッジプリズムが光路上に配置されている。そして、ウェッジプリズム間の距離を変化させることにより、通過する光ビームが像面に形成する像の位置のシフトが実現されている。この技術では、プリズム間の距離が基準値であるときに非点隔差がほぼゼロとなるように、プリズムに対する光の入射角が設定されている。このときプリズム間の距離の変化に伴い非点隔差が増大するという問題に対しては、ウェッジプリズム対を回動させて光の入射角を変化させるという解決方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、非点隔差を増大させることなくシフト量を変更するためには、プリズム間の距離の変更に応じてプリズム対を回転させる必要がある。特に、回動運動を実現する必要があるという点において、ウェッジプリズム対を支持し移動させるための機構が複雑になる。また、シフト量変更処理の高速化を図る上でも、支持および調整のための機構は簡潔なものであることが望ましい。例えば、シフト量の変更をプリズム間の距離の変更だけで完結させることができればより望ましい。これらの点において、上記従来技術には改善の余地が残されている。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、光の進路をシフトさせる技術において、簡単な構成でありながら、非点隔差の増大を抑えつつシフト量の調整を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、入力光の進路をシフトさせて、前記入力光の光路と平行であって同一でない光路に沿った出力光を出力する光学装置であって、前記入力光の入射角が、出射光の偏角が最小となる角度に設定された第1ウェッジプリズムと、頂角が前記第1ウェッジプリズムと略同一であり、前記第1ウェッジプリズムとは逆向きに対向配置されて、前記第1ウェッジプリズムに対向する面とは反対側の面から前記出力光を出射する第2ウェッジプリズムと、前記第1ウェッジプリズムと前記第2ウェッジプリズムとを支持し、それらの間の距離を変化させてシフト量を調整するシフト量調整機構と、前記入力光の光路または前記出力光の光路に配置されて前記出力光に現れる非点隔差を補正する補正光学素子とを備える、光学装置である。
【0008】
このように構成された発明では、特許文献1に記載の技術と同様に、2つのウェッジプリズムを組み合わせたウェッジプリズム対により光路のシフトを実現し、ウェッジプリズム間の距離を変化させることでシフト量を調整する。ただし、入力光が入射する第1ウェッジプリズムにおいて、その入射角は、特許文献1に記載のように非点隔差が最小となる値ではなく、偏角が最小となる値に設定される。このとき、特許文献1にも記載されているように、ウェッジプリズム間の距離によらず非点隔差の大きさはほぼ一定となる。一方で、そのとき無視できない大きさの非点隔差が残留する。
【0009】
そこで、この発明では、光路上に非点隔差を補正するための補正光学素子が別途設けられる。具体的には、例えば、ウェッジプリズム対により生じる非点収差を相殺するような非点収差を生じさせる光学素子を光路上に配置することにより、非点隔差の補正を行うことができる。
【0010】
こうして補正が実現されていれば、シフト量を変更すべくウェッジプリズム間の距離を変化させても非点隔差が補正された状態は維持される。つまり、シフト量に応じて非点隔差の補正量を変化させる必要はない。これにより、ウェッジプリズム対を支持する機構については、ウェッジプリズム間の距離を変化させる直動運動が実現されていれば足りる。このため、比較的簡単な構成を採用することが可能である。また、シフト量の変化に合わせてウェッジプリズム対を回動させる必要もないので、シフト量を調整するための処理の高速化を図ることが可能である。
【0011】
また、この発明の他の一の態様は、処理対象の基板を支持するステージと、所定の露光データに基づき光ビームを変調し、変調された前記光ビームを上記の光学装置を介して前記基板の表面に入射させる露光部と、前記ステージと前記露光部とを相対移動させる移動機構とを備える、露光装置である。
【0012】
このように構成された発明では、基板表面を変調された光ビームで露光するのに際して、光ビームの光路に上記した光学装置が設けられる。このため、例えば基板の変形やステージ上における位置ずれ等に対応して光ビームの入射位置を調整する必要がある際に、光学装置による光のシフトを利用することができる。本発明の光学装置は、シフト量によらず非点隔差が小さいため、このような用途に特に好適である。
【0013】
また、この発明の他の一の態様は、所定の露光データに基づき変調した光ビームを基板の表面に入射させて前記基板を露光する露光方法である。この発明において、前記光ビームの光路上に、補正量調整機構を有する上記の光学装置を配置し、予め前記補正量調整機構を作動させて、前記出力光に現れる非点隔差が最小となるように前記補正量を最適化しておく。そうすると、前記シフト量調整機構を作動させて前記シフト量を変化させる際、前記補正量調整機構による前記補正量を変化させる必要がない。
【0014】
このように構成された発明においても、本発明の光学装置を光路上に配置することで、基板に対する光ビームの入射位置を調整することが可能である。そして、予め非点隔差が最小(理想的にはゼロ)となるように調整しておけば、その後にシフト量が変更される場合であっても、非点隔差が増大することはない。また、シフト量の変更はウェッジプリズム間の距離の変更だけで実現することが可能であり、高速の調整処理が可能である。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明では、2つのウェッジプリズムで光をシフトさせるのに際して、光の入射角を偏角が最小となる条件に設定し、残留する非点隔差については補正光学素子により補正する。このため、非点隔差を増大させることなくシフト量の変更が可能な光学装置を、比較的簡単な構成により実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】露光装置の第1の構成例を模式的に示す図である。
【
図2】露光装置の第2の構成例を模式的に示す図である。
【
図4】シフト量と非点隔差との関係を示す図である。
【
図5】非点隔差の補正量を調整するための装置構成を示す図である。
【
図6】補正量の調整のための処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る光学装置の具体的態様について、いくつかの実施形態を示して説明する。ここでは、変調光ビームにより基板を露光して描画する露光装置に本発明に係る光学装置を適用した場合の実施形態について説明する。この露光装置は、レジストなどの感光材料の層が形成された基板に所定のパターンのレーザー光を照射することで、感光材料にパターンを描画する。露光対象となる基板としては、例えばプリント配線基板、各種表示装置用のガラス基板、半導体基板などの各種基板を適用可能である。
【0018】
最初に、本発明に係る光学装置を適用可能な露光装置の2つの構成例について説明し、その後で、これらの露光装置に適用される光学装置の詳細について説明する。
【0019】
<第1の構成例の露光装置>
図1は本発明に係る光学装置を含む露光装置の第1の構成例を模式的に示す図である。この露光装置2の基本的構成は、特許文献1に「光学装置2」として記載されたものと同じである。そこで、特許文献1を参照することで理解し得る原理や基本構成等については説明を省略し、可能な限り符号を共通化して、ここでは装置構成の概略について簡単に説明する。
【0020】
以下の説明のために、XYZ直交座標系を
図1に示すように定義する。
図1は露光装置2の側面視を示す図であり、水平かつ
図1紙面に垂直な方向をX方向、これと直交する水平かつ
図1紙面に沿った方向をY方向とする。また、鉛直下向き方向をZ方向とする。
【0021】
露光装置2は、可動ステージ20、露光ヘッド21および制御部22を備えている。可動ステージ20は露光対象の基板9を水平姿勢に保持し、該基板9に対し、露光ヘッド21が変調光ビームを入射させることにより、基板9に微細なパターンが描画される。制御部22は予め用意された制御プログラムを実行して装置各部を制御することで、所定の動作を実現する。
【0022】
図示を省略しているが、可動ステージ20にはステージ駆動機構201が連結されている。ステージ駆動機構201は、可動ステージ20をY方向に移動させる主走査駆動機構と、X方向に移動させる副走査駆動機構と、Z方向に移動させる昇降機構とを含んでいる。このような機構の駆動源としては、例えばリニアモーターを使用することができる。これにより、露光装置2は、露光ヘッド21から出射される露光ビームを基板9の任意の位置に入射させて描画を行うことができる。
【0023】
露光ヘッド21は、光源23、照明光学系24、空間光変調デバイス25および結像光学系26を備えている。光源23は、露光ビームとなる光を照射する、例えばランプである。照明光学系24は、光源23から出射された光を空間光変調デバイス25に導く。空間光変調デバイス25は、照明光学系24により導かれた光を所定の描画データに基づき変調して変調光ビームを生成する。
【0024】
照明光学系24は、ミラー240、レンズ241、光学フィルタ242、ロッドインテグレータ243、レンズ244およびミラー245,246等の光学素子を備えている。これらの光学素子の作用により、光源23からの光はビーム状に成形されて所定の入射角で空間光変調デバイス25に案内される。
【0025】
空間光変調デバイス25としては、例えばDMD(デジタルマイクロミラーデバイス)、回折格子型空間光変調素子等を用いることができる。空間光変調デバイス25は、入射する光ビームを描画データに基づき変調する。これにより、描画すべきパターンの形状に応じて光ビームが変調される。変調光ビームは結像光学系26を介して基板9の表面に入射する。
【0026】
結像光学系26は、第1結像レンズ260、ミラー261、像位置調整位置1および第2結像レンズ262等の光学素子を備え、縮小光学系を構成している。これらの光学素子の作用により、描画すべきパターンの形状に応じた光学像が、基板9の表面に結像する。具体的には、変調光ビームは第1結像レンズ260によって一次像(中間像)を形成し、一次像は第2結像レンズ262により像面である基板9表面で結像して最終像となる。
【0027】
また、結像光学系26には、第2結像レンズ262をZ方向に移動させるフォーカス駆動機構(図示省略)が結合されている。制御部42が該フォーカス駆動機構を作動させることにより、点線矢印で示すように第2結像レンズ262が基板9に接近および離間方向に移動する。これにより、第2結像レンズ262から出射される光ビームが基板9の表面に収束するように、結像光学系26のフォーカス調整がなされる。
【0028】
像位置調整装置1は、本発明に係る「光学装置」の一実施形態に相当するものであり、入射する光をX軸方向に任意の距離だけシフトさせる機能を有している。本発明に係る光学装置が露光装置2に適用されるとき、像面に結像する像の位置をシフトさせる機能を有することとなり、この意味において像位置調整装置として機能する。この実施形態において、像位置調整装置1は一次像と第2結像レンズ262との間に配置されている。その構造および動作については後述する。
【0029】
<第2の構成例の露光装置>
図2は本発明に係る光学装置を含む露光装置の第2の構成例を模式的に示す図である。
図2においても、
図1に準じてXYZ直交座標系を定義する。すなわち、
図2は露光装置4の側面視を示す図であり、水平かつ
図2紙面に垂直な方向をX方向、これと直交する水平かつ
図2紙面に沿った方向をY方向とする。また、鉛直下向き方向をZ方向とする。
【0030】
図2に示すように、露光装置4は、可動ステージ40、露光ヘッド41、制御部42および光源ユニット43を備えている。可動ステージ40は露光対象の基板9を水平姿勢に保持し、ステージ駆動機構401によりX方向、Y方向およびZ方向に移動される。該基板9に対し、露光ヘッド41が変調光ビームを入射させることにより、基板9に微細なパターンが描画される。制御部42は予め用意された制御プログラムを実行して装置各部を制御することで、所定の動作を実現する。
【0031】
光源ユニット43は、レーザー光源としての例えばレーザーダイオード431と、その出射光を平行光に成形するコリメートレンズを含む照明光学系432とを備えており、露光ビームとなるレーザー光ビームを露光ヘッド41に入射させる。
【0032】
露光ヘッド41には、回折光学素子411を有する空間光変調器410が設けられている。具体的には、露光ヘッド41に上下方向(Z方向)に延設された支柱400の上部に取り付けられた空間光変調器410は、回折光学素子411の反射面を下方に向けた状態で、可動ステージ412を介して支柱400に支持されている。
【0033】
露光ヘッド41において、回折光学素子411は、その反射面の法線が入射光ビームの光軸に対して傾斜して配置されており、光源ユニット43から射出された光は、支柱400の開口を通してミラー413に入射し、ミラー413によって反射された後に回折光学素子411に照射される。そして、回折光学素子411の各チャンネルの状態が露光データに応じて制御部42によって切り換えられて、回折光学素子411に入射したレーザー光ビームが変調される。
【0034】
そして、回折光学素子411から0次回折光として反射されたレーザー光が結像光学系414のレンズへ入射する一方、回折光学素子411から1次以上の回折光として反射されたレーザー光は結像光学系414のレンズへ入射しない。つまり、基本的には回折光学素子411で反射された0次回折光のみが結像光学系414へ入射するように構成されている。
【0035】
結像光学系414のレンズを通過した光は、フォーカシングレンズ415により収束され露光ビームとして所定の倍率にて基板9上へ導かれる。結像光学系414は縮小光学系を構成している。このフォーカシングレンズ415はフォーカス駆動機構416に取り付けられている。そして、制御部42からの制御指令に応じてフォーカス駆動機構416がフォーカシングレンズ415を鉛直方向(Z軸方向)に沿って昇降させることで、フォーカシングレンズ415から射出された露光ビームの収束位置が基板9の上面に調整される。
【0036】
このようにして、描画すべきパターンの形状に応じて光ビームが変調され、変調光ビームが結像光学系414を介して基板9の表面に入射することで、基板9の表面に所定のパターンが描画される。
【0037】
回折光学素子411から結像光学系414へ向かう光路上には、像位置調整装置1が配置されている。像位置調整装置1の構成および機能は、第1の構成例の露光装置2に設けられたものと同一である。
【0038】
図3は像位置調整装置の構成を示す図である。この像位置調整装置1は、1対をなす2つのウェッジプリズム、すなわち第1ウェッジプリズム13および第2ウェッジプリズム14の組み合わせにより光ビームをX方向にシフトさせるものである。その基本原理および具体的な設計方法については特許文献1に記載されており、本実施形態においても同様の考え方を採ることができる。したがって、ここではウェッジプリズム対10による光シフトの原理および構成について、その要部を簡単に説明する。
【0039】
ウェッジプリズム対10を構成する第1ウェッジプリズム13と第2ウェッジプリズム14とは、略同一の構造(例えば、頂角α、屈折率nがいずれも同一)を有しており、互いに逆向きに、かつ対向する面が互いに平行となるように、所定のギャップを隔てて配置される。後述するようにギャップは可変であり、シフト量の調整に用いられる。
【0040】
第1ウェッジプリズム13は、支持部130により、適宜の筐体に固定支持されている。一方、第2ウェッジプリズム14は、直動機構141を有する支持部140を介して支持されている。直動機構140としては、例えば、制御部42により制御される回転モーターとボールネジ機構とを組み合わせたもの、あるいは、リニアモーター等を用いることができる。
【0041】
直動機構141は、制御部42からの制御指令に応じて第2ウェッジプリズム14を上下方向(Z方向)に移動させる。これにより、第1ウェッジプリズム13に対して、第2ウェッジプリズム14が点線矢印で示すように接近方向および離間方向に所定の可動範囲内で移動する。その結果、両者の相対距離D1が変化する。
【0042】
ウェッジプリズム対10には、(+Z)方向に進行する入力光Liが入射する。具体的には、2つのウェッジプリズムのうち上側、つまり(-Z)側にある第1ウェッジプリズム13の上面(第2ウェッジプリズム14と対向する対向面13bとは反対側の非対向面13a)に、入力光Liが入射する。このときの第1ウェッジプリズム13への入射角を符号φiにより表すこととする。
【0043】
第1ウェッジプリズム13に入射した光は第1ウェッジプリズム13の非対向面13aおよび対向面13bでそれぞれ屈折し、点線で示される光の直進方向に対し偏角θをもって対向面13bから出射される。光はさらに第2ウェッジプリズム14の対向面14aおよび非対向面14bで屈折し、出力光Loとして下方へ出射される。
【0044】
この出力光Loの進行方向は、入力光Liと同じ(+Z)方向である。したがって、入力光Liが屈折せずそのまま直進した場合に出力される光Loaと平行であり、かつ、その光路は光Loaの光路に対し距離D2だけ(-X)方向にずれている。つまり、このウェッジプリズム対10は、入力光Liを(-X)方向にシフトさせた出力光Loを出力する機能を有している。これにより、最終的に基板9に投影される像の位置がX方向に変化することになる。
【0045】
なお、ウェッジプリズム対10においては、光は2つのウェッジプリズムそれぞれに対して入射し出射することとなる。そのため、本明細書では混乱を避けるために、ウェッジプリズム対10に対して外部から一次的に入射する光を「入力光」、最終的にウェッジプリズム対10から出射される光を「出力光」と称している。
【0046】
図3から明らかなように、第1ウェッジプリズム13と第2ウェッジプリズム14との距離D1が大きいほど、シフト量D2は大きくなる。つまり、第2ウェッジプリズム14を移動させて距離D1を変化させることで、シフト量D2を変化させることができる。直動機構141による第2ウェッジプリズム14の移動量を制御部42が制御することで、任意のシフト量を実現することができる。
【0047】
ここで、ウェッジプリズム対10を通過する光は屈折によりX方向に曲げられる一方、Y方向においては進行方向が変わらない。このような異方性に起因して、出力光Loには非点隔差が現れる。そのため、次に説明するように、最終的に基板9の表面に光ビームを収束する際にX方向とY方向とで像面に対する合焦位置に差が生じ、描画品質の低下が生じ得る。
【0048】
図4はシフト量と非点隔差との関係を示す図である。より具体的には、
図4(a)はシフト量を変化させたときの非点隔差の変化を模式的に示すグラフである。特許文献1にも記載されているように、また
図4(a)に複数の破線でプロットされるように、ウェッジプリズム間の距離D1を変更してシフト量D2を変化させたときの非点隔差の振る舞いは、入射角φiにより異なる。
【0049】
特許文献1に記載の技術では、シフト量の可変範囲における中心を基準値(シフト量ゼロ)として、シフト量が基準値に設定されているときに非点隔差がゼロとなるプロットPbが採用されていた。この場合、シフト量が基準値から離れるほど非点隔差は大きくなり、これを回避するためにシフト量に応じて入射角φiを変化させる方法として、ウェッジプリズム対を回動させることが提案されている。
【0050】
一方、本実施形態では、シフト量を変化させても非点隔差が変わらないプロットPaが採用される。入射角φiと偏角θとの関係において偏角θが最小となるように入射角が設定されたとき、このように非点隔差の変動が生じないことが知られている。ただしこのとき、シフト量Sの設定に関わりなく、必ずしも小さくない非点隔差Daが残る。本実施形態では、以下の考え方により、シフト量Sに関係なく非点隔差をゼロにすることが図られている。
【0051】
図4(b)は、ウェッジプリズム間の距離D1を変化させたときの結像光学系の合焦位置の変化を模式的に示す図である。ウェッジプリズム間の距離D1が変化すると実効的な光路長が変化するため、像面に対する結像光学系(第1の構成例における結像光学系26、第2の構成例における結像光学系414)の合焦位置は変動する。また、非点隔差があるとき、X方向とY方向との間で合焦位置は異なっている。
【0052】
ただし、偏角θが最小となるように入射角φiが設定されているとき、X方向の合焦位置とY方向の合焦位置との距離、すなわち非点隔差は、ウェッジプリズム間の距離D1によらず一定値Daである。したがって、ウェッジプリズム対10とは別に、この非点隔差をキャンセルするような光学素子を「補正光学素子」として光路上に配置することで、非点隔差の解消を図ることが考えられる。
【0053】
具体的には、例えばX方向における合焦位置がY方向よりも遠くなるような非点隔差に対しては、これとは逆に、Y方向における合焦位置がX方向よりも遠くなるような非点収差を生じさせる光学素子を光路上に配置すれば、互いの非点隔差を相殺することによる補正が可能となる。このような光学素子により生じる非点隔差が、ウェッジプリズム対10により生じる非点隔差と符号が逆で絶対値が同じであれば、最終的に像面における非点隔差をゼロとすることができる。
【0054】
このような補正光学素子としては例えば、X方向とY方向とで焦点距離の異なる非対称なレンズを用いることができる。例えば軸方向をX方向またはY方向として配置されたシリンドリカルレンズは、軸方向と直交する方向にのみパワーを有しており、このような目的に好適である。
【0055】
この実施形態では、
図3に示すように、このような非点隔差の補正を目的とする補正光学素子としての補正レンズ15が、第1ウェッジプリズム13の上方に設けられている。この例では、補正レンズ15はY方向を軸方向とするシリンドリカルレンズである。このような構成によれば、像面に対する結像光学系の合焦位置を、Y方向については維持しつつX方向については結像光学系側に近づけることができる。
【0056】
非点隔差をゼロに追い込むことを可能とするために、補正レンズ15は上下動可能に支持されている。具体的には、補正レンズ15は、直動機構151を有する支持部150により支持されている。直動機構151は例えば回転モーターとボールねじ機構との組み合わせ、またはリニアモーターにより実現可能である。直動機構151は、制御部42からの制御指令に応じて作動し、補正レンズ15を上下方向(Z方向)に移動させる。これにより、非点隔差に対する補正量を調整して、ウェッジプリズム対10に起因する非点隔差が完全にキャンセルされる条件を実現することができる。
【0057】
本実施形態による非点隔差の補正効果は、次のようにして得られる。まず、装置の設計段階で、第1ウェッジプリズム13および第2ウェッジプリズム14の仕様が決定され、それに応じて、当該ウェッジプリズム対10に対する入力光Liの入射角φiが決定される。具体的には、特許文献1に記載の手法により、頂角α、屈折率n、像面において要求される最大実シフト量S、第2ウェッジプリズム14の可動範囲幅d、および、像位置調整装置1以降のレンズの倍率Mを用いて次式:
【数1】
の関係を満たすように、第1ウェッジプリズム13、第2ウェッジプリズム14および支持部140の仕様が決定される。次に、こうして仕様が決定されたウェッジプリズム対10に対する入力光Liの入射角φiが、偏角θが最小となる条件を表す次式:
【数2】
の関係を満たすように定められる。
【0058】
このように、本実施形態では、ウェッジプリズム対10の仕様が決まればそれに対する入力光の入射角φiも設計段階で決まっている。したがって、装置の組み立て時や初期調整時等に十分な精度で入射角φiが設定されていれば、その後これを変更する必要は基本的に生じない。
【0059】
一方、非点隔差の補正効果を最大化する(理想的には非点隔差をゼロにする)ためには、補正レンズ15であるシリンドリカルレンズの曲率半径および光路上における配設位置を適切に設定する必要がある。より簡便には、以下のようにして補正レンズ15の位置調整を行うことで、非点隔差の補正量を最適化することが可能である。なお、ここでは第1の構成例の露光装置2を用いた調整処理について説明するが、第2の露光装置4についても同様の考え方を適用することが可能である。
【0060】
図5は非点隔差の補正量を調整するための装置構成を示す図である。また、
図6はこの調整のための処理を示すフローチャートである。シリンドリカルレンズ15による非点隔差の補正量を最適化するための処理は、
図5に示すように、像面に対応する位置に、基板9に代えてダミー基板52を配置し、ダミー基板52に投影される像を観察用カメラ51により撮像することにより行う。観察用カメラ51およびダミー基板52については、この目的のために設けられてもよいが、例えば露光ヘッドにおけるオートフォーカス機構のキャリブレーション等の目的で予め設けられたものであってもよい。
【0061】
可動ステージ20と選択的に露光ヘッド21の直下位置に位置決めされるために、観察用カメラ51およびダミー基板52には、水平方向に移動することが求められる。また、後述する合焦位置の探索のために、Z方向へ移動することが求められる。例えば、これらの方向への移動機構を備えた可動ステージ20の側部に、このような機構を取り付けておくことができる。
【0062】
具体的な処理は以下の通りである。最初に、露光ビームの像面に当たる位置に、可動ステージ20に代えてダミー基板52および観察用カメラ51が配置される(ステップS101)。また、補正レンズ15は適宜の基準位置に仮設定される(ステップS102)。このときの第2ウェッジプリズム14の位置は任意であるが、例えば基準位置としておくことができる。
【0063】
この状態で、露光ヘッド21により、像面にあるダミー基板52の表面に対して所定の基準パターンを投影する(ステップS103)。この基準パターンは、X方向およびY方向の合焦位置を個別に測定するためのものであり、例えばX方向のラインとY方向のラインとを組み合わせたものを用いることができる。基準パターンの投影は、空間光変調デバイス25により露光ビームを変調することによってなされてもよく、また調整用のマスクが光路上に配置されることによってなされてもよい。
【0064】
こうしてダミー基板52の表面に投影される基準パターンを用いて非点隔差が求められる。具体的には、観察用カメラ51が基準パターンを撮像し、画像データは制御部22に与えられる。制御部22は、観察用カメラ51およびダミー基板52を一体的にZ方向に移動させながら、X方向の基準パターンが像面に最も鮮明に投影される、つまり像面に合焦するときの位置と、Y方向の基準パターンが像面に合焦するときの位置とを取得し(ステップS104)、それらの差を算出して非点隔差とする(ステップS105)。
【0065】
求められた非点隔差が予め定められた許容値以下であれば(ステップS106においてYES)、非点隔差の補正が有効に機能しているため、調整処理を終了することができる。一方、非点隔差が予め定められた許容値を超えている場合には(ステップS106においてNO)、その大きさおよび符号に基づいて補正レンズ15の移動量を算出し、移動量に応じて補正レンズ15をZ方向に移動させる(ステップS107)。補正レンズ15の移動量としては、例えば、像面において算出された非点隔差の値を、像位置調整装置1と像面との間にある光学系の倍率の2乗で除した値を用いることができる。
【0066】
その上で、ステップS104~S106の非点隔差の評価を再度実行する。これを繰り返すことで、非点隔差を最小(理想的にはゼロ)とするための補正レンズ15の位置を最適位置に追い込んでゆくことができる。
【0067】
このようにして最適化された非点隔差の補正は、第2ウェッジプリズム14の位置が変更された場合でも有効に機能する。言い換えれば、これを可能とするために、ウェッジプリズム対10に対する入力光Liの入射角φiが偏角θを最小とする値に選ばれている。したがって、その後の露光動作においてシフト量を変更するために第2ウェッジプリズム14の位置が変更されても、補正レンズ15の位置を変更する必要はない。
【0068】
この調整処理は、装置の起動時、定期メンテナンス時、装置の稼働時間または基板の処理枚数が所定値に達した時などのタイミングで実行されれば十分である。また例えば装置が温度変化の少ない安定した環境に置かれるような場合には、極端には設置時に調整を行うだけでもよい。いずれにしても、実行頻度はそれほど高くならず、特に次に説明する露光動作の実行中に行う必要はない。
【0069】
図7は露光動作を示すフローチャートである。上記した調整処理がなされた状態で、露光処理の対象となる基板9が装置に搬入され、可動ステージ20に載置される(ステップS201)。次に、可動ステージ20上の基板9と露光ヘッド21との位置関係を把握し、必要に応じて位置調整を行う、アライメント調整が実行される(ステップS202)。アライメント調整としては公知の技術を適用可能であるから説明を省略する。
【0070】
そして、可動ステージ20が所定の露光位置に移動位置決めされ(ステップS203)、アライメント調整で把握された基板9の位置ずれに対応するために必要な像のシフト量を算出する(ステップS204)。像面において必要なシフト量に応じて、第2ウェッジプリズム14において必要な移動量が求められる(ステップS205)。具体的には、像面で必要なシフト量と結像光学系の倍率とから、第2ウェッジプリズム14の移動量が求められる。その結果に基づき、第2ウェッジプリズム14が新たな位置へ移動位置決めされる(ステップS206)。このとき、第2ウェッジプリズム14に伴う非点隔差の変動は生じない。したがって、補正レンズ15を移動させる必要はない。
【0071】
図4(b)に示す関係から、ウェッジプリズム対10における距離D1の変更は結像光学系26の合焦位置の変動をもたらす。そこで、新たな第2ウェッジプリズム14の位置に応じて、結像レンズ、具体的には第2結像レンズ262のZ方向位置が、フォーカス駆動機構により変更される(ステップS207)。
【0072】
この状態で、露光ヘッド21から描画データに応じて変調された露光ビームが照射されることで基板9の表面が露光され(ステップS208)、所定にパターンが描画される。当該基板9に対する描画が終了するまで(ステップS209)、ステップS203~S208の処理が継続して実行される。これにより、1枚の基板9に対する露光動作が終了する。
【0073】
以上のように、露光装置2,4に設けられるこの実施形態の像位置調整装置1では、ウェッジプリズム対10によって像位置のX方向へのシフトが実現される。ウェッジプリズム対10により生じる非点隔差については、X方向とY方向とでパワーが異なる補正レンズ15を設けることによってこれを補正している。ウェッジプリズム対10への光の入射角φiは偏角θが最小となるように設定されているため、ウェッジプリズム間の距離が変更されても非点隔差は変動しない。したがって、補正レンズ15による非点隔差の補正効果はウェッジプリズム間の距離によらず有効であり、ウェッジプリズムの直動運動のみでシフト量の変更を行うことができ、非点隔差の増加も生じない。
【0074】
<変形例>
図8は補正光学素子の変形例を示す図である。
図8(a)は、シリンドリカルレンズに代わる補正光学素子として、平行平面平板16(一対の平行平面平板16a,16b)が用いられた変形例を示す。平行平面平板を光路に対し傾けて配置することで非点収差が生じることが知られており、このことを利用して、ウェッジプリズム対10に起因する非点隔差を補正することが可能である。この場合、X方向、Y方向のいずれの合焦位置が遠いかによって、平行平面平板16aをX軸回りに傾けるか、Y軸回りに傾けるかが決まる。一方、平行平面平板16bは、平行平面平板16aと同軸の逆回りに傾けられる。これにより、平行平面平板16a,16bは、平行状態から互いに逆方向に同量だけ傾けられた、いわゆるハの字姿勢となり、平行平面平板16aによって生じた入力光Liの平行シフトを平行平面平板16bが打ち消す。ここで、X軸回りに傾けるとは、平行平面平板16aの主面の法線ベクトルがY方向の成分を有しX方向の成分を有さないように傾けることを意味し、Y軸回りに傾けるとはその逆を指す。また、その傾きの大きさを変更するための駆動機構161を設けることで、非点隔差に対する補正量を調整することが可能となる。
【0075】
また、
図8(b)は、シリンドリカルレンズに代わる補正光学素子として、曲率可変ミラー17が用いられた変形例を示す。また、入力光の光路を折り返すために、折り返しミラー171が適宜設けられてもよい。このような態様であっても、位置を移動させずに曲率(パワー)を変化させることができる曲率可変ミラー17を用いることで、ウェッジプリズム対10に起因する非点隔差の補正を行うことが可能である。
【0076】
この意味においては、
図1の露光装置2におけるミラー246を上記のような曲率可変ミラーとすることで、補正光学素子として機能させることも可能である。この場合、像位置調整装置1内には補正光学素子を設けなくてもよいこととなる。言い換えれば、像位置調整装置1を構成する補正光学素子が、照明光学系24の内部に設けられることになる。
【0077】
図9は
図1の露光装置の変形例を示す図である。この変形例の露光装置2aは、
図1の露光装置2におけるミラー246を平面ミラー247に置き換え、さらに、平面ミラー247と空間光変調デバイス25との間の光路に補正光学素子としての補正レンズ15aが設けられている。このように、補正光学素子はウェッジプリズム対10の直前に設けられる必要はなく光路上の適宜の位置に配置することが可能である。
【0078】
この場合、補正レンズ15aは空間光変調デバイス25に対するフォーカスレンズとしての機能も有することとなるので、
図6の調整処理におけるステップS102の「基準位置」は、補正レンズ15aからの出射光が空間光変調デバイス25に合焦する位置となる。
【0079】
以上説明したように、上記実施形態においては、像位置調整装置1が本発明の「光学装置」として機能しており、補正レンズ15、平行平面平板16、曲率可変ミラー17等が本発明の「補正光学素子」として機能している。また、支持部130,140が一体として、本発明の「シフト量調整機構」として機能している。一方、支持部150、駆動機構161は、本発明の「補正量調整機構」として機能している。
【0080】
また、上記実施形態の露光装置2,4においては可動ステージ20,40が本発明の「ステージ」として機能し、ステージ駆動機構201,401が本発明の「移動機構」として機能している。また、露光ヘッド21,41が、本発明の「露光部」として機能している。
【0081】
また、上記実施形態においては、光のシフト方向であるX方向が本発明の「第1方向」に相当し、これと垂直なY方向が本発明の「第2方向」に相当している。ここで、上記説明においては、最終的な露光ビームの出射方向を鉛直方向であるZ方向とし、像のシフト方向をX方向としているため、動作説明においてはXYZ座標系での議論を行っている。しかしながら、本質的には、鉛直方向と関係付ける必然性はなく、あくまで入力光(または出力光)の進行方向を基準として議論を行うべきである。その場合、入力光の入射方向に垂直な方向のうち、出力光のシフト方向と平行な方向とこれに垂直な方向を、それぞれ本発明の「第1方向」、「第2方向」と考えることができる。
【0082】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、補正光学素子としての補正レンズ15等が、光の進行方向においてウェッジプリズム対10よりも手前側、つまり入力光Liの光路上に配置されている。しかしながら、ウェッジプリズム対10よりも後方、つまり出力光Loの光路上に補正光学素子が配置されてもよい。ただ本実施形態のように、像のシフトが行われる前の光路上に補正光学素子を配置することで、光の入射範囲が限定されるため、光学素子の設計は容易になる。
【0083】
また、上記実施形態では、補正光学素子としての補正レンズ15は単体のシリンドリカルレンズであるが、例えばX方向を軸方向とするシリンドリカルレンズと、これとは焦点距離が異なりY方向を軸方向とするシリンドリカルレンズとを組み合わせて、補正光学素子を構成してもよい。また、補正光学素子が、照明光学系または結像光学系に設けられたレンズ等のうちいずれかの機能を兼備したものであってもよい。また例えば、補正光学素子として、凹レンズ、凸面ミラー等を用いてもよい。
【0084】
また、上記実施形態の調整処理では、補正光学素子による非点隔差の補正は、非点隔差が所定の許容値以下となることが目標とされている。しかしながら、補正後の非点隔差がゼロとなることが目指されてもよく、当然に、非点隔差がゼロで変動がない状態が最も理想的である。
【0085】
また、上記実施形態ではウェッジプリズム対10に対する入力光Liの入射角φiは固定されている。しかしながら、これを可変としてもよい。ただし、本発明では動作中に入射角を変化させる必要性は生じないから、入射角を変更するための駆動機構は必要ではなく、例えば手作業によって調整するような機構でもよい。
【0086】
また、上記実施形態は、本発明に係る光学装置を、基板を露光してパターン描画を行う露光装置に適用したものである。しかしながら、本発明の光学装置の適用対象はこれに限定されない。例えばプロジェクターのような投影装置にも、本発明を適用可能である。
【0087】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る光学装置においては、入力光の入射方向に垂直かつ入力光に対する出力光のシフト方向と平行な方向を第1方向とし、入射方向および第1方向に垂直な方向を第2方向とするとき、補正光学素子は、第1方向と第2方向との間で非点収差を生じさせる光学素子であってもよい。このように直交する2つの方向で特性が非対称な、つまり異方性を有する光学素子を用いることで、ウェッジプリズムに起因して第1方向と第2方向との間で生じる非点隔差をキャンセルするような補正が可能となる。
【0088】
ここで、補正光学素子としては、例えば第1方向と第2方向とで焦点距離が異なるレンズを用いることができる。あるいは、補正光学素子として、第1方向を含む断面と第2方向を含む断面とで曲率を変化させることができる曲率可変ミラーを用いてもよい。これらのいずれによっても、適切な光学特性を有する光学素子を選択し使用することで、非点隔差の補正が可能である。
【0089】
また、補正光学素子としてのレンズを光路に沿った方向に移動させることで非点隔差の補正量を調整する補正量調整機構がさらに設けられてもよい。このようにして補正量を調整可能とすることで、補正光学素子の光学特定に求められる条件は緩和される。
【0090】
また例えば、補正光学素子としては、主面の法線ベクトルが第1方向および第2方向のいずれか一方の成分を有するように、光路に対して傾けられた平行平面平板であってもよい。このような構成によっても、その厚さ、屈折率、傾きの大きさ等を適切に設定することで、非点隔差の補正が可能である。この場合にも、補正光学素子の傾きを変化させることで非点隔差の補正量を調整する補正量調整機構がさらに設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
この発明は、光ビームやそれにより形成される像の位置を所定方向に所定量だけシフトさせる用途に利用可能であり、例えばプリント配線基板やガラス基板等の各種基板にパターンを形成するために基板を露光する技術分野に好適である。
【符号の説明】
【0092】
1 像位置調整装置(光学装置)
2,4 露光装置
9 基板
10 ウェッジプリズム対
13 第1ウェッジプリズム
14 第2ウェッジプリズム
15 補正レンズ(補正光学素子)
16(16a,16b) 平行平面平板(補正光学素子)
17 曲率可変ミラー(補正光学素子)
20,40 可動ステージ(ステージ)
21,41 露光ヘッド(露光部)
130,140 支持部(シフト量調整機構)
150 支持部(補正量調整機構)
161 駆動機構(補正量調整機構)
201,401 ステージ駆動機構(移動機構)
Li 入力光
Lo 出力光
X 第1方向
Y 第2方向