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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142244
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】構造物の検査装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20 20180101AFI20230928BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N23/20
G01N23/20058
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049043
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前口 貴治
(72)【発明者】
【氏名】早川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】松井 功
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA18
2G001BA25
2G001CA01
2G001CA03
2G001KA08
2G001LA02
2G001MA06
(57)【要約】
【課題】構造物の検査装置および方法において、応力腐食割れの発生を高精度に推定することを可能とする。
【解決手段】構造物に作用する巨視的応力負荷方向を推定する応力負荷方向推定部と、構造物の集合組織を測定する集合組織測定部と、巨視的応力負荷方向と集合組織に基づいて構造物の結晶方位を解析する結晶方位解析部と、結晶方位に基づいて微視的応力を推定する微視的応力推定部と、微視的応力の大きさに基づいて構造物における応力腐食割れの発生確率を推定する応力腐食割れ発生確率推定部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に作用する巨視的応力負荷方向を推定する応力負荷方向推定部と、
前記構造物の集合組織を測定する集合組織測定部と、
前記巨視的応力負荷方向と前記集合組織に基づいて前記構造物の結晶方位を解析する結晶方位解析部と、
前記結晶方位に基づいて微視的応力を推定する微視的応力推定部と、
前記微視的応力の大きさに基づいて前記構造物における応力腐食割れの発生確率を推定する応力腐食割れ発生確率推定部と、
を備える構造物の検査装置。
【請求項2】
前記結晶方位解析部は、前記巨視的応力負荷方向に直交する方向に沿う結晶方位のうち結晶構造におけるすべり面の法線方向の結晶方位の割合である集積度を推定し、前記微視的応力推定部は、前記集積度に基づいて前記微視的応力を推定する、
請求項1に記載の構造物の検査装置。
【請求項3】
前記結晶方位解析部は、前記巨視的応力負荷方向に直交する方向を基準として予め設定された所定角度以内に、前記すべり面の法線方向の結晶の体積分率を前記集積度とする、
請求項2に記載の構造物の検査装置。
【請求項4】
前記集積度に対する前記微視的応力を表す微視的応力マップが予め前記構造物の構成材料ごとに設定され、前記微視的応力推定部は、前記集積度と前記微視的応力マップとを用いて前記微視的応力を推定する、
請求項3に記載の構造物の検査装置。
【請求項5】
前記集合組織測定部は、前記構造物のX線回析または前記構造物から採取したサンプルの後方散乱電子回折により前記集合組織を測定する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の構造物の検査装置。
【請求項6】
前記集合組織測定部は、前記構造物から採取したサンプルの後方散乱電子回折により前記集合組織を測定し、前記結晶方位解析部は、前記集合組織の結晶方位を解析し、前記微視的応力推定部は、前記結晶方位を結晶塑性有限要素法により解析して前記微視的応力を推定する、
請求項1に記載の構造物の検査装置。
【請求項7】
前記微視的応力に対する応力腐食割れ発生確率を表す応力腐食割れ発生確率判定マップが予め前記構造物の構成材料ごとに設定され、前記応力腐食割れ発生確率推定部は、前記微視的応力と前記応力腐食割れ発生確率判定マップとを用いて応力腐食割れの発生確率を推定する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の構造物の検査装置。
【請求項8】
構造物に作用する巨視的応力負荷方向を推定する工程と、
前記構造物の集合組織を測定する工程と、
前記巨視的応力負荷方向と前記集合組織に基づいて前記構造物の結晶方位を解析する工程と、
前記結晶方位に基づいて微視的応力を推定する工程と、
前記微視的応力の大きさに基づいて前記構造物における応力腐食割れの発生確率を推定する工程と、
を有する構造物の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物の検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の損傷発生を評価するとき、例えば、構造物の応力腐食割れ(SCC)の発生を評価する。従来の評価方法は、構造物の対象部分の応力を数値解析や実験などによって推定し、既知の応力とSCC発生時間の関係、応力と亀裂進展速度の関係に基づいてSCC発生寿命や進展寿命などを予測するものである。このような従来の構造物の評価方法としては、例えば、下記特許文献に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-175563号公報
【特許文献2】特開2013-130588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の構造物の評価方法は、構造物に作用する巨視的な応力に基づいて応力腐食割れの発生を評価している。しかし、構造物に作用する巨視的な応力だけで応力腐食割れの発生を高精度に評価することは困難である。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、応力腐食割れの発生を高精度に推定することを可能とする構造物の検査装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の構造物の検査装置は、構造物に作用する巨視的応力負荷方向を推定する応力負荷方向推定部と、前記構造物の集合組織を測定する集合組織測定部と、前記巨視的応力負荷方向と前記集合組織に基づいて前記構造物の結晶方位を解析する結晶方位解析部と、前記結晶方位に基づいて微視的応力を推定する微視的応力推定部と、前記微視的応力の大きさに基づいて前記構造物における応力腐食割れの発生確率を推定する応力腐食割れ発生確率推定部と、を備える。
【0007】
また、本開示の構造物の検査方法は、構造物に作用する巨視的応力負荷方向を推定する工程と、前記構造物の集合組織を測定する工程と、前記巨視的応力負荷方向と前記集合組織に基づいて前記構造物の結晶方位を解析する工程と、前記結晶方位に基づいて微視的応力を推定する工程と、前記微視的応力の大きさに基づいて前記構造物における応力腐食割れの発生確率を推定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の構造物の検査装置および方法によれば、応力腐食割れの発生を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、構造物の検査システムを表す概略構成図である。
図2図2は、構造物における集合組織の測定方法を表す概略図である。
図3図3は、すべり面の集積度に対する応力を表すグラフである。
図4図4は、微小部ミーゼス相当応力に対するSCC発生確率を表すグラフである。
図5図5は、第1実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。
図7図7は、第3実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
[第1実施形態]
以下に説明する実施形態では、構造物を、原子炉を構成する圧力容器や配管などに適用したものとして説明する。そのため、構造物は、例えば、ニッケル基合金またはオーステナイト系ステンレス鋼により構成される。但し、構造物は、原子炉の構成部材に限定されるものではなく、また、材料も、ニッケル基合金やオーステナイト系ステンレス鋼に限定されるものではない。
【0012】
<検査システム>
図1は、構造物の検査システムを表す概略構成図である。
【0013】
図1に示すように、構造物の検査システム(以下、単に、検査システムと称する。)10は、検査装置11と、操作部12と、検出装置13と、記憶部14と、出力部15とを備える。
【0014】
検査装置11は、構造部材における応力腐食割れの発生確率を推定する。検査装置11は、制御装置である。検査装置11としての制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部214に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。
【0015】
操作部12は、作業者が操作することで、検査装置11に対して各種の指令や各種のデータなどを入力可能である。操作部12は、例えば、キーボードやタッチ式のディスプレイである。検出装置13は、後述するが、構造物の特定の箇所の金属組織を測定するものである。記憶部14は、検査装置11が実行する各種プログラムが記憶される。各種プログラムは、構造物の応力腐食割れの発生を診断するプログラムも含む。また、記憶部14は、検査装置11が診断に必要な材料ごとの微視的応力マップおよび応力腐食割れ発生確率判定マップを記憶する。出力部15は、検査装置11の処理内容を出力可能である。出力部15は、例えば、モニタやプリンタなどである。
【0016】
<検査装置>
一般的な構造物の検査方法は、構造物に作用する巨視的な応力に基づいて応力腐食割れの発生を推定する。しかし、応力腐食割れの発生は、結晶粒界などで生じる局所的な応力が原因であることが確認された。すなわち、構造物を構成する材料組織を反映して生じる微視的な応力と、応力腐食割れの発生確率との関係が実験的に得られた。例えば、構造物に発生している巨視的応力の20%を超えるような微視的応力が生じる結晶粒界において、応力腐食割れの発生確率が高まる。
【0017】
そして、微視的応力は、材料の集合組織に依存することを見出した。結晶方位を変化させ、ある一定の巨視的応力を負荷したときの微視的応力の発生状況を検討した結果、特定の結晶構造の金属材料では、引張方向(または、圧縮応力)に対して結晶の特定の面の配向が揃う場合に微視的応力が低くなる。たとえば、引張方向(または、圧縮応力)に対してすべり面の法線方向の結晶方位が多く配向された材料の微視的応力が低くなる。
【0018】
本実施形態では、このような知見に基づいて、材料の集合組織を測定した結果から局所応力を推定し、応力腐食割れの発生確率を定量的に推定する。
【0019】
図2は、構造物における集合組織の測定方法を表す概略図、図3は、すべり面の集積度に対する応力を表すグラフ、図4は、微小部ミーゼス相当応力に対するSCC発生確率を表すグラフである。
【0020】
図1に示すように、検査装置11は、応力負荷方向推定部21と、集合組織測定部22と、結晶方位解析部23と、微視的応力推定部24と、応力腐食割れ発生確率推定部25とを備える。
【0021】
図1および図2に示すように、構造物としての配管101は、軸心Oに沿って配置される。なお、構造物は、配管101に限定されるものではない。応力負荷方向推定部21は、配管101に作用する巨視的応力負荷方向を推定する。具体的に、応力負荷方向推定部21は、材料力学計算や有限要素法により配管101に作用する巨視的な応力負荷方向を推定する。例えば、配管101は、内部に圧力流体が流れることから、圧力流体から配管101に対して径方向の圧力が作用する。そのため、配管101は、周方向に延びるような巨視的な応力が作用し、巨視的な応力負荷方向は、周方向となる。
【0022】
集合組織測定部22は、配管101の集合組織を測定する。具体的に、集合組織測定部22は、配管101の外周面に対して、背面反射法によるX線回折により集合組織測定を行う。集合組織測定部22は、X線源31と、スリット板32と、検出器33とを有する。X線源31がX線を照射すると、X線は、一部がスリット板32のスリット孔を通過し、スリットX線として配管101の外周面における測定範囲102に照射される。検出器33は、測定範囲102で反射したX線を検出し、その測定範囲102の集合組織におけるミラー指数(方位指数)を決定する。
【0023】
図1に示すように、結晶方位解析部23は、巨視的応力負荷方向と集合組織に基づいて配管101の結晶方位を解析する。結晶方位解析部23は、巨視的応力負荷方向(周方向)に直交する方向(軸心O方向)に沿う結晶方位のうち結晶構造におけるすべり面の法線方向の結晶方位の割合である集積度を推定する。この場合、結晶方位解析部23は、巨視的応力負荷方向に直交する方向(軸心O方向)を基準として、予め設定された所定角度以内にすべり面の法線方向の結晶の体積分率を集積度とする。
【0024】
配管101は、結晶構造が面心立方格子構造である。面心立方格子構造は、結晶の周期構造の最小単位である単位格子を取り出したときに、その立方体の各頂点と各面の中心に同種の粒子が配列された結晶格子である。面心立方格子構造を有する金属材料は、アルミニウム(Al)、銅Cu)、金(Au)などである。構造材料ではオーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基合金などが該当する。金属材料の塑性変形は、転位の運動により原子の位置が動くことで生じるすべり変形であり、すべり面を有する。例えば、面心立方格子構造は、すべり面がミラー指数{111}で表される面である。面を表すミラー指数{hkl}とは、結晶中の面が座標軸X、Y、Zを切る切片を原子間隔で除した値の逆数をh,k,lと表されるものである。金属材料において、それを構成する結晶粒がそれぞれ持つすべり面にずれて変形すると、隣接する結晶粒との間で局所的な応力(微視的応力)が発生する。
【0025】
すなわち、面心立方格子構造である配管101の金属材料の応力負荷方向(周方向)における亀裂の発生を推定する場合、結晶方位解析部23は、応力負荷方向(周方向)に直交する方向(軸心O方向)と所定角度以内に、すべり面{111}の法線方向が向いている結晶の体積分率を配管101の特徴量とし、すべり面{111}の集積度と定義する。
【0026】
ここで、所定角度は、大傾角粒界である15度とすることが好ましいが、所定角度は、この角度に限定されるものではない。ここで、所定角度は、ランダム粒界の条件である方位差であることから用いたが、例えば、5度~30度の範囲であればよく、金属材料の種類や適用環境などにより適宜設定すればよいものである。
【0027】
なお、配管101の金属材料の応力負荷方向が軸心O方向であり、軸心O方向における亀裂の発生を推定する場合、結晶方位解析部23は、応力負荷方向(軸心O方向)に直交する方向(周方向)と所定角度以内に、すべり面{111}が向いている結晶の体積分率を配管101の特徴量とし、すべり面{111}の集積度と定義する。
【0028】
また、配管101の結晶構造が体心立方格子構造であるとき、体心立方格子構造は、立体の各頂点と立体の中心に同種の粒子が配列された結晶格子である。体心立方格子構造を有する金属材料は、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)などである。体心立方格子構造は、すべり面{111}、{112}、{123}である。結晶方位解析部23は、前述と同様に、すべり面{110}、{112}、{123}を用いて集積度を推定する。
【0029】
微視的応力推定部24は、結晶方位に基づいて微視的応力を推定する。微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した集積度に基づいて微視的応力を推定する。この場合、集積度に対する微視的応力を表す微視的応力マップが、予め配管101の構成材料ごとに設定され、微視的応力推定部24は、集積度と微視的応力マップとを用いて微視的応力を推定する。
【0030】
図3は、集積度に対する微視的応力を表す微視的応力マップである。図3に示すように、横軸は、すべり面{111}の集積度であり、縦軸は、微小部ミーゼス相当応力(微視的応力)であって、分布を持って発生する微視的応力の最低値から累積95%に相当する応力値である。微視的応力マップは、結晶方位を様々に変化させた多結晶体モデルを用いた結晶塑性有限要素法によって数値解析を行って作成する。微視的応力マップでは、微視的応力の値とSCC発生確率の間に、実験データに基づいて後述する関係が得られている。すなわち、微視的応力が巨視的発生応力σbに近いと、SCC発生確率が低く、微視的応力が巨視的発生応力σbの1.2倍(1.2σb)を超えると、SCC発生確率が高いと推定する。
【0031】
微視的応力マップでは、集積度が高くなると、微視的応力が低下して巨視的発生応力に近づく。一方、集積度が低くなると、微視的応力が上昇して巨視的発生応力から離れる。ここで、すべり面{111}に注目すれば良いことが実験と解析によって見出された。面心立方格子構造である配管101は、すべり面{111}が法線方向に等しい。すなわち、すべり面{111}の集積度が高いほど、微視的応力が低くなる。このような結晶学的な解釈は、結晶のすべりが生じにくくなり、ある結晶粒が隣接する結晶粒への嵌入などが起こりにくいことである。一方、すべり面{111}の集積度が低いほど、微視的応力が高くなる。このような結晶学的な解釈は、結晶のすべりが生じやすくなり、ある結晶粒が隣接する結晶粒への嵌入などが起こりやすいことである。
【0032】
微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した集積度を微視的応力マップに当てはめ、集積度に対する微視的応力を求める。
【0033】
応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力の大きさに基づいて配管101における応力腐食割れの発生確率を推定する。この場合、微視的応力に対する応力腐食割れ発生確率を表す応力腐食割れ発生確率判定マップが、予め配管101の構成材料ごとに設定され、応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力と応力腐食割れ発生確率判定マップとを用いて応力腐食割れの発生確率を推定する。
【0034】
図4は、所定の環境下におけるニッケル基合金の応力腐食割れ発生確率判定マップである。図4に示すように、横軸は、微小部ミーゼス相当応力(微視的応力)であり、縦軸はSCC発生確率である。微視的応力が巨視的発生応力σbに近いと、SCC発生確率が低い、一方、微視的応力が巨視的発生応力σbの1.2倍(1.2σb)を超えると、SCC発生確率が急激に高くなる。応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力推定部24が求めた微視的応力を応力腐食割れ発生確率判定マップに当てはめ、微視的応力に対するSCC発生確率を求める。
【0035】
そのため、検査装置11は、図3に示すように、微視的応力マップから、すべり面{111}の集積度が50%未満であるときは、SCC発生確率(リスク)が高いと診断する。すべり面{111}の集積度が50%未満となった場合、SCC発生確率は、図4に示すように、応力腐食割れ発生確率判定マップから定量的に推定することができる。そのため、SCC発生確率の大きさに応じて、検査強化、応力低減工事、配管取替などの対策を取ることができる。
【0036】
なお、応力腐食割れ発生確率判定マップは、特定の環境下における特定の金属材料の実験データであり、特定の環境下ごとまたは特定の金属材料ごとに実験データを取得することが好ましい。この場合、SCC発生確率の判定値を、巨視的発生応力σbの1.2倍(1.2σb)、つまり、すべり面{111}の集積度が50%としたが、この数値に限定されるものではない。環境や材料に応じて、例えば、判定値をすべり面{111}の集積度5%から50%の範囲で適宜設定すればよいものである。
【0037】
<検査方法>
図5は、第1実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。
【0038】
構造物の検査方法は、配管101に作用する巨視的応力負荷方向を推定する工程と、配管101の集合組織を測定する工程と、巨視的応力負荷方向と集合組織に基づいて配管101の結晶方位を解析する工程と、結晶方位に基づいて微視的応力を推定する工程と、微視的応力の大きさに基づいて配管101における応力腐食割れの発生確率を推定する工程とを有する。
【0039】
図1および図5に示すように、ステップS11にて、応力負荷方向推定部21は、材料力学計算や有限要素法により配管101に作用する巨視的な応力負荷方向を推定する。例えば、配管101は、巨視的な応力負荷方向が周方向となる。ステップS12にて、集合組織測定部22は、配管101の外周面に対して、背面反射法によるX線回折により集合組織測定を行い、測定範囲102の集合組織におけるミラー指数を決定する。
【0040】
ステップS13にて、結晶方位解析部23は、巨視的応力負荷方向に直交する方向(軸心O方向)を基準として、所定角度(例えば、15度)以内にすべり面{111}の法線方向の結晶の体積分率を集積度として算出する。ステップS14にて、微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した集積度に基づいて、微視的応力マップを用いて微視的応力を推定する。ステップS15にて、応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力推定部24が求めた微視的応力に基づいて、応力腐食割れ発生確率判定マップを用いてSCC発生確率を推定する。
【0041】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。なお、第2実施形態の基本的な構成は、上述した第1実施形態と同様であり、図1を用いて説明し、第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0042】
図1に示すように、検査装置11は、応力負荷方向推定部21と、集合組織測定部22と、結晶方位解析部23と、微視的応力推定部24と、応力腐食割れ発生確率推定部25とを備える。
【0043】
応力負荷方向推定部21は、第1実施形態と同様である。集合組織測定部22は、配管101の集合組織を測定する。具体的に、集合組織測定部22は、配管101の外周面からサンプルを採取し、採取したサンプルを後方散乱電子回折することで集合組織を測定する。すなわち、集合組織測定部22は、サンプルの後方散乱電子回折により測定範囲102の集合組織における結晶粒の方位分布を測定する。結晶方位解析部23と微視的応力推定部24と応力腐食割れ発生確率推定部25は、第1実施形態と同様である。
【0044】
図1および図6に示すように、ステップS21にて、応力負荷方向推定部21は、材料力学計算や有限要素法により配管101に作用する巨視的な応力負荷方向を推定する。例えば、配管101は、巨視的な応力負荷方向が周方向となる。ステップS22にて、集合組織測定部22は、配管101の外周面から採取したサンプルを後方散乱電子回折することで、測定範囲102の集合組織における結晶粒の方位分布を測定する。
【0045】
ステップS23にて、結晶方位解析部23は、巨視的応力負荷方向に直交する方向(軸心O方向)を基準として、所定角度(例えば、15度)以内にすべり面{111}の法線方向の結晶の体積分率を集積度として算出する。ステップS24にて、微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した集積度に基づいて、微視的応力マップを用いて微視的応力を推定する。ステップS25にて、応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力推定部24が求めた微視的応力に基づいて、応力腐食割れ発生確率判定マップを用いてSCC発生確率を推定する。
【0046】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の構造物の検査方法を表すフローチャートである。なお、第3実施形態の基本的な構成は、上述した第1実施形態と同様であり、図1を用いて説明し、第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0047】
図1に示すように、検査装置11は、応力負荷方向推定部21と、集合組織測定部22と、結晶方位解析部23と、微視的応力推定部24と、応力腐食割れ発生確率推定部25とを備える。
【0048】
応力負荷方向推定部21は、第1実施形態と同様である。集合組織測定部22は、配管101の集合組織を測定する。具体的に、集合組織測定部22は、配管101の外周面からサンプルを採取し、採取したサンプルを後方散乱電子回折することで集合組織を測定する。すなわち、集合組織測定部22は、サンプルの後方散乱電子回折により測定範囲102の集合組織における結晶粒の方位分布を測定する。結晶方位解析部23は、集合組織測定部22が測定した集合組織の結晶方位を解析する。微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した結晶方位を結晶塑性有限要素法により解析して微視的応力を推定する。応力腐食割れ発生確率推定部25は、第1実施形態と同様である。
【0049】
図1および図7に示すように、ステップS31にて、応力負荷方向推定部21は、材料力学計算や有限要素法により配管101に作用する巨視的な応力負荷方向を推定する。例えば、配管101は、巨視的な応力負荷方向が周方向となる。ステップS32にて、集合組織測定部22は、配管101の外周面から採取したサンプルを後方散乱電子回折することで、測定範囲102の集合組織における結晶粒の方位分布を測定する。
【0050】
ステップS33にて、結晶方位解析部23は、集合組織測定部22が測定した集合組織の結晶方位を解析する。ステップS34にて、微視的応力推定部24は、結晶方位解析部23が解析した結晶方位を結晶塑性有限要素法により解析して微視的応力を推定する。ステップS35にて、応力腐食割れ発生確率推定部25は、微視的応力推定部24が求めた微視的応力に基づいて、応力腐食割れ発生確率判定マップを用いてSCC発生確率を推定する。
【0051】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る構造物の検査装置は、配管(構造物)101に作用する巨視的応力負荷方向を推定する応力負荷方向推定部21と、配管101の集合組織を測定する集合組織測定部22と、巨視的応力負荷方向と集合組織に基づいて配管101の結晶方位を解析する結晶方位解析部23と、結晶方位に基づいて微視的応力を推定する微視的応力推定部24と、微視的応力の大きさに基づいて配管101における応力腐食割れの発生確率を推定する応力腐食割れ発生確率推定部25とを備える。
【0052】
第1の態様に係る構造物の検査装置によれば、配管101に作用する微視的応力を推定し、推定した微視的応力の大きさに基づいて配管101における応力腐食割れの発生確率を推定する。そのため、応力腐食割れの発生を高精度に推定することができる。
【0053】
第2の態様に係る構造物の検査装置は、結晶方位解析部23が巨視的応力負荷方向に直交する方向の法線方向の結晶方位のうち結晶構造におけるすべり面の法線方向の結晶方位の割合である集積度を推定し、微視的応力推定部24が集積度に基づいて微視的応力を推定する。これにより、金属材料がすべり面方向にずれて変形すると、局所的な応力として微視的応力が発生することから、結晶構造におけるすべり面の法線方向の結晶方位の割合である集積度が低いほど、微視的応力が高くなる。そのため、すべり面の集積度を用いることで、微視的応力を高精度に推定することができる。
【0054】
第3の態様に係る構造物の検査装置は、結晶方位解析部23が巨視的応力負荷方向に直交する方向を基準として予め設定された所定角度以内に、すべり面の法線方向の結晶の体積分率を集積度とする。これにより、すべり面の集積度を適切に推定することができる。
【0055】
第4の態様に係る構造物の検査装置は、記集積度に対する微視的応力を表す微視的応力マップが予め配管101の構成材料ごとに設定され、微視的応力推定部24が集積度と微視的応力マップとを用いて微視的応力を推定する。これにより、微視的応力を容易で高精度に推定することができる。
【0056】
第5の態様に係る構造物の検査装置は、集合組織測定部22が配管101のX線回析または配管101から採取したサンプルの後方散乱電子回折により集合組織を測定する。これにより、配管101の集合組織を容易に測定することができる。
【0057】
第6の態様に係る構造物の検査装置は、集合組織測定部22が配管101から採取したサンプルの後方散乱電子回折により前記集合組織を測定し、結晶方位解析部23が集合組織の結晶方位を解析し、微視的応力推定部24が結晶方位を結晶塑性有限要素法により解析して微視的応力を推定する。これにより、すべり面の集積度を用いることなく微視的応力を推定することができ、処理の簡素化を図ることができる。
【0058】
第7の態様に係る構造物の検査装置は、微視的応力に対する応力腐食割れ発生確率を表す応力腐食割れ発生確率判定マップが予め配管101の構成材料ごとに設定され、応力腐食割れ発生確率推定部25が微視的応力と応力腐食割れ発生確率判定マップとを用いて応力腐食割れの発生確率を推定する。これにより、応力腐食割れの発生確率を容易で高精度に推定することができる。
【0059】
第8の態様に係る構造物の検査方法は、配管(構造物)101に作用する巨視的応力負荷方向を推定する工程と、配管101の集合組織を測定する工程と、巨視的応力負荷方向と集合組織に基づいて配管101の結晶方位を解析する工程と、結晶方位に基づいて微視的応力を推定する工程と、微視的応力の大きさに基づいて配管101における応力腐食割れの発生確率を推定する工程とを有する。これにより、応力腐食割れの発生を高精度に推定することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 構造物の検査システム
11 検査装置
12 操作部
13 検出装置
14 記憶部
15 出力部
21 応力負荷方向推定部
22 集合組織測定部
23 結晶方位解析部
24 微視的応力推定部
25 応力腐食割れ発生確率推定部
31 X線源
32 スリット板
33 検出器
101 配管(構造物)
102 測定範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7