(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142251
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置のインク置換方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20230928BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B41J2/175 131
B41J2/175 121
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049053
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 俊介
(72)【発明者】
【氏名】北山 佳央里
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA20
2C056EA22
2C056EA25
2C056EB21
2C056EB50
2C056KA10
2C056KB08
2C056KB16
2C056KB37
2C056KC02
(57)【要約】
【課題】異なるインクへ置換する場合に、インク消費量の削減及び所要時間の短縮を実現することが可能なインクジェット記録装置のインク置換方法を提供する。
【解決手段】インクを記録媒体上に吐出する複数のノズルが配置されたインク吐出面522を有する記録ヘッド52と、インクコンテナ81から供給されるインクを一時的に貯留するサブタンク83と、サブタンク83から記録ヘッド52を経てサブタンク83までインクが循環するインク流路と、を備えたインクジェット記録装置1において、インク流路内に存在する第1インクと、インク流路を介して記録ヘッド52に新たに供給する第2インクとの間に気体を挿入し、第1インク及び第2インクと気体との間に気液界面を形成させて第1インクを第2インクに置換する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを記録媒体上に吐出する複数のノズルが配置されたインク吐出面を有する記録ヘッドと、インクコンテナから供給される前記インクを一時的に貯留するサブタンクと、前記サブタンクから前記記録ヘッドを経て前記サブタンクまで前記インクが循環するインク流路と、を備えたインクジェット記録装置のインク置換方法であって、
前記インク流路内に存在する第1インクと、前記インク流路を介して前記記録ヘッドに新たに供給する第2インクとの間に気体を挿入し、前記第1インク及び前記第2インクと前記気体との間に気液界面を形成させて前記第1インクを前記第2インクに置換することを特徴とするインクジェット記録装置のインク置換方法。
【請求項2】
前記第1インク及び前記第2インクは、表面寿命10[ms]時の動的表面張力が50[mN/m]以下であり、前記インク流路は、インク流通方向と直交する断面積が20[mm2]以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置のインク置換方法。
【請求項3】
前記インク流路内の前記第1インクを、前記サブタンクが空になるまで前記記録ヘッドから排出させるインク排出工程と、
前記気体を、空になった前記サブタンクから前記インク流路内に流通させて前記記録ヘッドへ充填する気体充填工程と、
前記第2インクを、前記サブタンクから前記インク流路内に流通させて前記記録ヘッドへ注入するインク注入工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録装置のインク置換方法。
【請求項4】
前記インク流路のインク流通方向に対して前記サブタンクの下流側、且つ前記記録ヘッドの上流側に配置されたシリンジを備え、
前記シリンジは、前記第1インク、前記第2インク、または前記気体を、前記サブタンクから吸引し、前記記録ヘッドに向かって押し出すことを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置のインク置換方法。
【請求項5】
前記シリンジ内の前記気体を、前記インク流路とは異なる経路で排出する導管を備えることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置のインク置換方法。
【請求項6】
前記インク流路の、前記記録ヘッドのインク流通方向上流側と下流側とを連通する連通流路と、前記連通流路を開閉する開閉機構と、を備え、
前記開閉機構は、前記インク排出工程及び前記気体充填工程において開状態にされ、前記インク注入工程において閉状態にされることを特徴とする請求項3から請求項5に記載のインクジェット記録装置のインク置換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置のインク置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、用紙等の記録媒体上にインクを吐出して画像を記録する記録ヘッドを備える。このようなインクジェット記録装置に関して、インク流路内に存在するインクを、新たな異なるインクに効率良く置換するインク置換方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1で開示された従来のインクジェットヘッドへのインク充填方法では、インク供給路の途中からヘッドとは異なる方向に向かい、排出端を有する分岐流路を形成している。そして、先に充填した液剤をインクに置換する場合、液剤及びインクを分岐流路の排出端に向けて一旦移送した後、液剤とインクとの間に液界面を形成し、液剤及びインクをヘッドに供給する。これにより、液剤とインクとの間に介在する気泡を排出端から排出することができ、気泡をヘッドに持ち込むことなく先に充填した液剤をインクに置換することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、インクジェットヘッドにインクを充填する前に、低表面張力液剤からなる導入液と純水とを充填した後、インクを充填する必要があり、廃液量が増加し、所要時間が増加することに課題があった。また、インク流路は、装置内で縦横に湾曲しており、接続部等に凹凸がある場合もあり、液界面を維持することが困難で、さらに廃液量が増加し、所要時間が増加することが懸念された。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、異なるインクへ置換する場合に、インク消費量の削減及び所要時間の短縮を実現することが可能なインクジェット記録装置のインク置換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、インクを記録媒体上に吐出する複数のノズルが配置されたインク吐出面を有する記録ヘッドと、インクコンテナから供給される前記インクを一時的に貯留するサブタンクと、前記サブタンクから前記記録ヘッドを経て前記サブタンクまで前記インクが循環するインク流路と、を備えたインクジェット記録装置のインク置換方法であって、前記インク流路内に存在する第1インクと、前記インク流路を介して前記記録ヘッドに新たに供給する第2インクとの間に気体を挿入し、前記第1インク及び前記第2インクと前記気体との間に気液界面を形成させて前記第1インクを前記第2インクに置換する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の構成によれば、異なるインクへ置換する場合に、気液界面によって、先にインク流路内に存在する第1インクを効率良く排出することができ、インク消費量の削減及び所要時間の短縮を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のインクジェット記録装置の概略断面正面図である。
【
図2】
図1のインクジェット記録装置の記録部周辺の平面図である。
【
図3】
図1のインクジェット記録装置のブロック図である。
【
図4】
図1のインクジェット記録装置のインク供給部周辺の説明図である。
【
図5】
図4のインク供給部のシリンジの断面図である。
【
図6】
図4のインク供給部の開閉弁の説明図である。
【
図7】
図1のインクジェット記録装置における異なるインクへの置換処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図に基づき説明する。なお、本発明は以下の内容に限定されるものではない。
【0011】
図1は、実施形態のインクジェット記録装置1の概略断面正面図である。
図2は、
図1のインクジェット記録装置1の記録部5周辺の平面図である。
図3は、
図1のインクジェット記録装置1のブロック図である。インクジェット記録装置1は、例えばインクジェット記録式のプリンターである。インクジェット記録装置1は、
図1、
図2及び
図3に示すように、装置本体2と、用紙供給部3と、用紙搬送部4と、記録部5と、乾燥部6と、制御部7と、を備える。
【0012】
用紙供給部3は、例えば装置本体2の下部に配置される。用紙供給部3は、複数枚の用紙(記録媒体)Sを収容し、記録時に用紙Sを1枚ずつ分離して送り出す。
【0013】
用紙搬送部4は、用紙供給部3の用紙搬送方向下流側に配置され、用紙供給部3から送り出された用紙Sを搬送する。用紙搬送部4は、用紙Sを記録部5及び乾燥部6へと搬送し、さらに記録、乾燥後の用紙Sを用紙排出部21に排出する。用紙搬送部4は、例えば反転搬送部4rを有する。両面記録が行われる場合、用紙搬送部4は、第1面の記録、乾燥後の用紙Sを反転搬送部4rに振り分け、さらに搬送方向を切り替えて表裏を反転させた用紙Sを再度、記録部5及び乾燥部6へと搬送する。
【0014】
用紙搬送部4は、第1ベルト搬送部41及び第2ベルト搬送部42を含む。第1ベルト搬送部41は、無端状に形成された第1搬送ベルト411を有する。第2ベルト搬送部42は、無端状に形成された第2搬送ベルト421を有する。第1ベルト搬送部41及び第2ベルト搬送部42は、第1搬送ベルト411及び第2搬送ベルト421それぞれの上側の外面(上面)に用紙Sを吸着保持して搬送する。第1ベルト搬送部41は、記録部5の下方に配置されて用紙Sを搬送する。第2ベルト搬送部42は、第1ベルト搬送部41に対して用紙搬送方向の下流側に位置し、乾燥部6に配置されて用紙Sを搬送する。
【0015】
記録部5は、用紙供給部3の用紙搬送方向下流側に位置し、第1ベルト搬送部41と対向配置される。記録部5は、第1搬送ベルト411の上面に吸着保持されて搬送される用紙Sに対向し、所定の間隔を空けて第1搬送ベルト411の上方に配置される。すなわち、記録部5は、用紙搬送部4によって搬送される用紙Sと対向する。
【0016】
記録部5は、
図2に示すように、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色それぞれに対応したヘッドユニット51B、51C、51M、51Yを保持する。ヘッドユニット51B、51C、51M、51Yは、長手方向が用紙搬送方向Dcと直交する用紙幅方向Dwと平行になるように用紙搬送方向Dcに沿って並置される。なお、4つのヘッドユニット51B、51C、51M、51Yは基本的な構成が同じであるので、以下の説明では、特に限定する必要がある場合を除き、各色を表す「B」、「C」、「M」、「Y」の識別記号は省略することがある。
【0017】
各色のヘッドユニット51それぞれは、ライン型インクジェット方式の記録ヘッド52を有する。記録ヘッド52は、各色のヘッドユニット51それぞれにおいて、用紙幅方向Dwに沿って複数(例えば3つ(52a、52b、52c))が千鳥状に配列される。
【0018】
記録ヘッド52は、その底部に複数のインク吐出ノズル521を有する。複数のインク吐出ノズル521は、用紙幅方向Dwに沿って並べて配置され、用紙S上の記録領域の全域にわたってインクを吐出することができる。すなわち、記録ヘッド52は、インクを用紙S上に吐出する複数のインク吐出ノズル521が配置されたインク吐出面を有する。記録部5は、第1搬送ベルト411によって搬送される用紙Sに向かって4色のヘッドユニット51B、51C、51M、51Yそれぞれの記録ヘッド52から順次インクを吐出し、フルカラー画像またはモノクロ画像を用紙Sに記録する。
【0019】
乾燥部6は、記録部5に対して用紙搬送方向の下流側に配置され、第2ベルト搬送部42が設けられる。記録部5でインク画像が記録された用紙Sは、乾燥部6において第2搬送ベルト421に吸着保持されて搬送される間に、インクが乾燥される。
【0020】
制御部7は、CPU、記憶部、その他の電子回路及び電子部品を含む(いずれも不図示)。CPUは、記憶部に記憶された制御用のプログラムやデータに基づき、インクジェット記録装置1に設けられた各構成要素の動作を制御してインクジェット記録装置1の機能に係る処理を行う。用紙供給部3、用紙搬送部4、記録部5及び乾燥部6それぞれは、制御部7から個別に指令を受け、連動して用紙Sへの記録を行う。記憶部は、例えばプログラムROM(Read Only Memory)、データROMなどといった不揮発性の記憶装置と、RAM(Random Access Memory)のような揮発性の記憶装置との組み合わせで構成される。
【0021】
続いて、インクジェット記録装置1のインク供給部8の構成について、
図4から
図6を用いて説明する。
図4は、
図3のインクジェット記録装置1のインク供給部8周辺の説明図である。
図5は、
図4のインク供給部8のシリンジ84の断面図である。
図6は、
図4のインク供給部8の開閉弁の説明図である。
【0022】
インクジェット記録装置1は、インク供給部8を備える。インク供給部8は、4色のヘッドユニット51ごとに個別に設けられる。以下の説明では、各色を表す識別記号の記載を省略する。インク供給部8とヘッドユニット51との間は、着脱可能なカップリング11によって連結される。カップリング11内には、接続状態においてインク流路を開放し、分離状態においてインク流路を閉鎖する弁部材(不図示)が内蔵されている。
【0023】
インク供給部8は、インクコンテナ81と、コンテナポンプ82と、サブタンク83と、シリンジ84と、第1流路85と、第2流路86と、連通流路87と、開閉機構88と、を備える。さらに、インク供給部8は、第3流路89と、第1開閉弁91と、第2開閉弁92と、第3開閉弁93と、を備える。
【0024】
インクコンテナ81は、装置本体2に対して着脱可能に設けられる。インクコンテナ81は、記録ヘッド52に供給されるインクを収容する。
【0025】
コンテナポンプ82は、インクコンテナ81のインク流通方向下流側に配置される。コンテナポンプ82は、インクコンテナ81内のインクを吸引し、サブタンク83に向かって吐出する。コンテナポンプ82の動作は、制御部7によって制御される。
【0026】
サブタンク83は、コンテナポンプ82のインク流通方向下流側に配置される。サブタンク83は、インクコンテナ81から供給されるインクを一時的に貯留する。サブタンク83には、インク量センサー(不図示)が設けられる。インク量センサーは、例えば光学式、静電容量式、電極式、差圧式、フロート式などのセンサーを含み、サブタンク83内のインク量を検出する。
【0027】
制御部7は、サブタンク83のインク量センサーの検出信号を受信する。インク量センサーによって検出されたサブタンク83内のインク量が所定値より低くなると、制御部7は、コンテナポンプ82を制御し、インクコンテナ81からサブタンク83にインクを供給する。インクコンテナ81からサブタンク83へのインクの供給量は、例えばコンテナポンプ82の駆動時間によって制御される。コンテナポンプ82の駆動時間が一定時間経過しても、インク量センサーによって検出されたサブタンク83内のインク量が所定値より高くならない場合、制御部7は、インクコンテナ81内のインク量が空であると判定する。
【0028】
なお、サブタンク83及び記録ヘッド52は、インク吐出ノズル521のインクを吐出するノズル孔にメニスカス面が形成されるように、サブタンク83の液面の高さと、インク吐出面522の高さとの位置関係が規定され、配置される。
【0029】
シリンジ84は、サブタンク83のインク流通方向下流側であって、記録ヘッド52のインク流通方向上流側に配置される。シリンジ84は、インクがサブタンク83から流入し、記録ヘッド52に向かって流出する。
図5に示すように、シリンジ84は、筒部841と、プランジャ842と、を有する。
【0030】
筒部841は、軸線が上下方向に延びるように配置された円筒形状である。筒部841の上端は開口している。筒部841下端は閉塞されており、第1流路85の、サブタンク83側から延びる第1導管851と、記録ヘッド52に向かって延びる第2導管852とが接続される。第1導管851及び第2導管852は、筒部841内と連通している。
【0031】
プランジャ842は、筒部841の上端開口から筒部841の内部に差し込まれている。プランジャ842は、軸部842aと、ガスケット部842bと、を有する。軸部842aは、軸線が上下方向に延びるように形成される。ガスケット部842bは、軸部842aの下端に配置される。ガスケット部842bは、筒部841の内周面に沿って延びる円筒形状であり、外周面が筒部841の内周面に密着する。これにより、筒部841内のインクは、ガスケット部842bよりも上側に漏れ出さない。
【0032】
プランジャ842の径方向中心部には、第3流路89の第4導管891が挿入されている。第4導管891は、筒部841内と連通している。筒部841内、すなわちシリンジ84内のインクよりも上方、且つガスケット部842bよりも下方に滞留する空気は、第4導管891を介して上方に排出される。
【0033】
なお、第3流路89は、シリンジ84からサブタンク83まで延びる。第3流路89は、シリンジ84内の空気をサブタンク83まで排出する空気流路である。言い換えれば、第3流路89の第4導管891は、シリンジ84内の空気を、インク流路とは異なる経路で排出する導管である。
【0034】
第3開閉弁93は、第3流路89の第4導管891上に配置される。第3開閉弁93は、第3流路89を開閉する。第3開閉弁93は、例えば電磁弁で構成され、制御部7によって開閉が制御される。制御部7は、シリンジ84内の空気の排出時に第3開閉弁93を開放する。
【0035】
軸部842aの側面には、ラック842cが形成される。ラック842cは、上下方向に沿って複数の歯が並置され、シリンジ駆動ギヤ843が噛み合う。シリンジ駆動ギヤ843は、シリンジモーター844(
図3参照)に接続され、シリンジモーター844から動力を得て正逆両方向に回転される。シリンジ駆動ギヤ843が正逆両方向に回転することで、プランジャ842は、上下方向に沿って往復移動が可能である。シリンジモーター844の動作は、制御部7によって制御される。
【0036】
用紙Sへの画像記録時には、インクに対して水頭圧の作用によって記録圧力がかかっている。これに対し、例えばメンテナンス時等に、制御部7は、シリンジモーター844によってプランジャ842を下方に高速で移動させ、シリンジ84内からインクを押し出すことで、記録圧力よりも高い保守圧力をインクにかけることができる。すなわち、シリンジ84は、インクに対して用紙Sへの記録時にかかる記録圧力よりも高い保守圧力をかけることが可能である。
【0037】
第1流路85、第2流路86、及び連通流路87は、サブタンク83から記録ヘッド52を経てサブタンク83までインクが循環するインク流路である。
【0038】
第1流路85は、サブタンク83からシリンジ84を経て記録ヘッド52までインクが流通するインク流路である。第1流路85は、サブタンク83からシリンジ84まで延びる第1導管851と、シリンジ84から記録ヘッド52まで延びる第2導管852と、を含む。
【0039】
第1開閉弁91は、第1流路85の第1導管851上の、シリンジ84よりもインク流通方向上流側に配置される。なお、第1導管851は、例えばゴム製等のチューブであって、曲げたり、撓ませたりして、変形させることができる。
図6に示すように、第1開閉弁91は、開閉カム91aと、開閉モーター(不図示)と、を有する。
【0040】
開閉カム91aは、第1導管851に隣接する。開閉カム91aは、第1導管851の軸線方向から見て楔形状に形成される。開閉カム91aは、第1導管851の軸線と平行な回転軸線を中心として回転可能に支持される。開閉カム91aは、開閉モーターによって回転されて揺動し、楔形状の先端側が第1導管851に対して接触、離間する。
【0041】
第1開閉弁91を開放状態にする場合、制御部7は、開閉モーターを制御して開閉カム91aを回転させ、開閉カム91aを第1導管851と接触しない、若しくは第1導管851を変形させない角度にする。これにより、第1開閉弁91の箇所において、第1導管851内をインクが流通する。第1開閉弁91を閉鎖状態にする場合、制御部7は、開閉モーターを制御して開閉カム91aを回転させ、開閉カム91aを第1導管851と接触させ、第1導管851を押し潰す角度にする。これにより、第1開閉弁91の箇所において、第1導管851内のインクの流通が阻止される。第1開閉弁91は、サブタンク83とシリンジ84との間の第1流路85を開閉する。
【0042】
第2開閉弁92は、第1流路85の第2導管852上に配置される。第2開閉弁92の構成及び動作は、上で説明した第1開閉弁91と同様であり、ここでは説明を省略する。第2開閉弁92は、制御部7によって開閉が制御される。第2開閉弁92は、シリンジ84と記録ヘッド52との間の第1流路85を開閉する。
【0043】
第2流路86は、記録ヘッド52からサブタンク83までインクが流通するインク流路である。第2流路86は、記録ヘッド52からサブタンク83まで延びる第3導管861を含む。
【0044】
連通流路87は、第1流路85のインク流通方向に対して記録ヘッド52の上流側と、第2流路86のインク流通方向に対して記録ヘッド52の下流側とを連通する。詳細に言えば、連通流路87は、インク供給部8内の、カップリング11の近傍において、第1流路85の第2導管852と、第2流路86の第3導管861との間に連結される。
【0045】
開閉機構88は、連通流路87上に配置される。開閉機構88は、例えば電磁弁で構成され、制御部7によって開閉が制御される。開閉機構88は、連通流路87を開閉する。
【0046】
続いて、異なるインクへの置換の実施例について、フローに沿って説明する。
図7は、
図1のインクジェット記録装置1における異なるインクへの置換処理の例を示すフローチャートである。なお、この説明において、既にインク流路内に存在するインクを「第1インク」と呼び、第1インクから置換して記録ヘッド52に新たに供給するインクを「第2インク」と呼ぶ。
【0047】
インクジェット記録装置1において異なるインクへの置換処理が開始されると(
図7のスタート)、制御部7は、インク流路内に存在する第1インクを記録ヘッド52から排出させる(ステップ#101)。このとき、制御部7は、シリンジモーター844を制御し、シリンジ84の押し出し動作によって第1インクを記録ヘッド52から排出させる。
【0048】
そして、制御部7は、サブタンク83が空になるまで記録ヘッド52から第1インクを排出させるインク排出工程を実施する(ステップ#102)。このとき、サブタンク83内のインク量は、例えばサブタンク83のインク量センサーによって検出される。
【0049】
サブタンク83が空になると(ステップ#102のYes)、制御部7は、空になったサブタンク83から、空気(気体)をインク流路内に流通させて記録ヘッド52へ送り込む気体充填工程を実施する(ステップ#103)。
【0050】
このとき、制御部7は、開閉モーターを制御して第1開閉弁91を開放、且つ第2開閉弁を閉鎖し、さらにシリンジモーター844を制御してシリンジ84の吸引動作によって空気をサブタンク83からシリンジ84内に吸引する。続いて、制御部7は、開閉モーターを制御して第1開閉弁91を閉鎖、且つ第2開閉弁を開放し、さらにシリンジモーター844を制御してシリンジ84の押し出し動作によって空気をサブタンク83から記録ヘッド52に向かって押し出す。シリンジ84の押し出し動作によって押し出される空気量は、シリンジ84の最大容量まで可能であるが、適宜任意に設定することができる。
【0051】
なお、インク排出工程及び気体充填工程において、開閉機構88は開状態にされる。
【0052】
続いて、制御部7は、インクコンテナ81からサブタンク83へ第2インクを供給する(ステップ#104)。このとき、制御部7は、コンテナポンプ82を駆動させる。
【0053】
続いて、制御部7は、シリンジ84内の空気抜き動作を実施する(ステップ#105)。このとき、制御部7は、開閉モーターを制御して第1開閉弁91及び第2開閉弁を閉鎖、且つ第3開閉弁93を開放し、さらにシリンジモーター844を制御してシリンジ84の押し出し動作によってシリンジ84内の空気を第3流路89の第4導管891を介して排出する。
【0054】
続いて、制御部7は、第2インクを、サブタンク83からインク流路内に流通させて記録ヘッド52へ注入するインク注入工程を実施する(ステップ#106)。このとき、制御部7は、シリンジモーター844を制御し、シリンジ84の押し出し動作によって第2インクを記録ヘッド52へ注入する。そして、制御部7は、この工程を所定回数実施する(ステップ#107)。
【0055】
なお、インク注入工程において、開閉機構88は閉状態にされる。また、インク注入工程の間に、空気を記録ヘッド52側へ押し出す動作を実施しても良い。
【0056】
そして、制御部7は、シリンジ84内の空気抜き動作(ステップ#108)と、記録ヘッド52内の第2インク循環動作(ステップ#109)と、記録ヘッド52からの第2インク排出(パージ)動作(ステップ#110)と、を実施する。このとき、制御部7は、第1開閉弁91及び第2開閉弁92の開閉動作と、シリンジ84の吸引動作及び押し出し動作とを適宜制御する。これにより、記録ヘッド52内の空気は、記録ヘッド52の外部へと排出される。
【0057】
なお、記録ヘッド52内の第2インク循環動作、及び記録ヘッド52からの第2インク排出動作の後は、インク吐出面522のワイピングを実施することが好ましい。
【0058】
上記のように、インクジェット記録装置1のインク置換方法は、インク流路内に存在する第1インクと、インク流路を介して記録ヘッド52に新たに供給する第2インクとの間に気体(空気)を挿入し、第1インク及び第2インクと気体との間に気液界面を形成させて第1インクを第2インクに置換する。この構成によれば、第1インクを第2インクに置換する場合に、気液界面によって、先にインク流路内に存在する第1インクを効率良く排出することができる。したがって、インクジェット記録装置1において異なるインクへ置換する場合に、インク消費量の削減及び所要時間の短縮を実現することが可能になる。
【0059】
そして、第1インク及び第2インクは、表面寿命10[ms]時の動的表面張力が50[mN/m]以下であることが好ましい。表面張力を低く定めることで、インクを記録ヘッド52まで充填させることが容易であり、インク吐出ノズル521の周辺における気泡の発生を防止することが可能である。これにより、インク吐出時の飛翔曲がり、吐出不良を抑制することができる。
【0060】
また、インク流路は、インク流通方向と直交する断面積が20[mm2]以下であることが好ましい。これにより、インク流路内において、気液界面を容易に形成することができる。例えば、断面円形の導管である場合、直径が5mm以下であることが好ましい。また、断面矩形の導管である場合、矩形の長辺が5mm以下であることが好ましい。
【0061】
また、上記のインクジェット記録装置1のインク置換方法は、インク排出工程と、気体充填工程と、インク注入工程と、を含む。この構成によれば、第1インクと、第2インクとの間に、容易に空気(気体)を挿入することができる。そして、第1インク及び第2インクと、空気との間に、効率良く気液界面を形成することが可能である。
【0062】
また、上記のインク置換方法では、シリンジ84を用いて、第1インク、第2インク、または空気を、サブタンク83から吸引し、記録ヘッド52に向かって押し出す。この構成によれば、用紙Sの画像記録時に、ポンプ等を用いてインクを循環させない構成のインクジェット記録装置1において、第1インク、第2インク、及び空気をインク流路内で移動させることができる。
【0063】
また、第3流路89の第4導管891は、シリンジ84内の空気を、インク流路とは異なる経路で排出する。この構成によれば、インク流路内のインクに影響を及ぼすことなく、シリンジ84内の空気を排出し、シリンジ84をインクが吸引可能な状態にすることができる。これにより、インク置換を効率良く実現することが可能である。
【0064】
また、開閉機構88は、インク排出工程及び気体充填工程において開状態にされ、インク注入工程において閉状態にされる。この構成によれば、インク流路及び記録ヘッド52に対し、第1インクの排出、空気の充填、及び第2インクの注入を効率良く実現することが可能である。したがって、インクの置換効率を向上させることができ、置換時のインク消費量の削減及び所要時間の短縮をより一層効果的に実現することが可能になる。
【0065】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0066】
例えば、上記実施形態では、インク流路内に存在する第1インクを、記録ヘッドに新たに供給する第2インクに置換するインク置換方法について説明したが、インクに代えて洗浄液等の液体を適用することも可能である。第1インクと第2インクとの間に洗浄液を注入する場合、第1インクを洗浄液に置換するときと、洗浄液を第2インクに置換するときとのそれぞれにおいて、上記実施形態と同様のインク置換方法を実施する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、インクジェット記録装置において利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 インクジェット記録装置
5 記録部
7 制御部
8 インク供給部
11 カップリング
52 記録ヘッド
81 インクコンテナ
82 コンテナポンプ
83 サブタンク
84 シリンジ
85 第1流路(インク流路)
86 第2流路(インク流路)
87 連通流路(インク流路)
88 開閉機構
89 第3流路
521 インク吐出ノズル
522 インク吐出面
891 第4導管(導管)
S 用紙(記録媒体)