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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142260
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】複合管
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/11 20060101AFI20230928BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20230928BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20230928BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20230928BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230928BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20230928BHJP
   B29C 63/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F16L11/11
F16L11/04
C08L23/26
B32B1/08 Z
B32B27/00 Z
B32B5/18
B29C63/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049067
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小▲浜▼ 奈月
(72)【発明者】
【氏名】三觜 浩平
(72)【発明者】
【氏名】深川 欣将
【テーマコード(参考)】
3H111
4F100
4F211
4J002
【Fターム(参考)】
3H111BA15
3H111CA43
3H111CB04
3H111DA26
3H111EA04
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK03B
4F100AK04
4F100AK06
4F100AK09
4F100AK51
4F100AK70
4F100AK70B
4F100AL06B
4F100BA03
4F100BA07
4F100DA11
4F100DA11A
4F100DA11B
4F100DA11C
4F100DD01
4F100DD01C
4F100DJ00B
4F100DJ01
4F100EH17
4F100EH46
4F100JA06
4F100JA06C
4F100JA13B
4F100JL01
4F100YY00B
4F100YY00C
4F211AA03
4F211AA04
4F211AA12
4F211AD12
4F211AG08
4F211AG10
4F211AG20
4F211SA10
4F211SC01
4F211SD01
4F211SD05
4F211SD11
4F211SG01
4F211SJ01
4F211SW26
4J002BB03X
4J002BB21W
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させ、被覆層を元に戻す際における中間層の巻き込まれの発生の抑制と、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際における中間層の置き去りの発生の抑制と、を両立する複合管の提供。
【解決手段】樹脂材料で構成される管状の管体12と、酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、管状とされて管体12の外周を覆い、径方向外側へ凸となる環状の山部22と、径方向外側が凹となる環状の谷部24とが、管体12の軸方向Sに交互に形成されて蛇腹状とされ、管体12の外周にガイドされつつ軸方向Sに短縮することで管体12に対して相対移動が可能な、被覆層20と、極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、管体12と被覆層20との間に配置され、かつ、被覆層20に接着された中間層14と、を有する複合管10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で構成される管状の管体と、
酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、管状とされて前記管体の外周を覆い、径方向外側へ凸となる環状の山部と、径方向外側が凹となる環状の谷部とが、前記管体の軸方向に交互に形成されて蛇腹状とされ、前記管体の外周にガイドされつつ前記軸方向に短縮することで前記管体に対して相対移動が可能な、被覆層と、
極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、前記管体と前記被覆層との間に配置され、かつ、前記被覆層に接着された中間層と、
を有する複合管。
【請求項2】
前記酸変性樹脂は、無水マレイン酸変性樹脂を含む、請求項1に記載の複合管。
【請求項3】
前記酸変性樹脂は、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方を有するオレフィン系樹脂である、請求項1又は請求項2に記載の複合管。
【請求項4】
前記被覆層のフーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、1710cm-1におけるピーク高さをPa、1460cm-1におけるピーク高さをPeとしたとき、PaとPeの合計に対するPaの割合を示す酸比率は、11%以上である、請求項3に記載の複合管。
【請求項5】
前記酸変性樹脂の含有率は、前記被覆層全体に対して40質量%以上である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の複合管。
【請求項6】
前記被覆層のメルトフローレートは、0.3g/10分~3.0g/10分である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の複合管。
【請求項7】
前記中間層の密度は、20kg/m超えである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の複合管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、配管を保護するために、配管を覆う種々の管が提案されている。例えば、特許文献1には、管体と、管体の軸方向に伸縮可能な被覆層と、管体と被覆層との間に配置され被覆層の伸縮に伴い伸縮可能な中間層と、管体と中間層との間に設けられ管体と中間層との接着を抑制する接着抑制層と、を有する複合管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-180627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
管状の管体と、管体の外周を覆う蛇腹状の被覆層と、管体と前記被覆層との間に配置された中間層と、を有する複合管では、例えば施工時に管体の端部に継手などを接続するときに、被覆層及び中間層を管体の軸方向に短縮することで管体に対して相対移動させる。そして、上記相対移動により管体の端部を露出させ、端部を継手などに接続した後、被覆層を元に戻して再び管体を被覆する。
一方、被覆層を元に戻す際に、中間層が被覆層の移動に追従せずに巻き込まれ、中間層の一部が丸め込まれる現象(以下「巻き込まれ」ともいう)が発生することがある。なお、この巻き込まれが発生すると、中間層が元の位置まで戻らないことがある。
また、中間層の密度が高い場合、巻き込まれは起こりにくいものの、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際に、被覆層のみが軸方向に移動し、中間層が被覆層の移動に追従せずに管体上に置き去りになる現象(以下「置き去り」ともいう)が起こることがある。
【0005】
本発明は、管状の管体と、管状とされて管体の外周を覆う被覆層と、管体と被覆層との間に配置される中間層と、を有する態様において、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させ、被覆層を元に戻す際における中間層の巻き込まれの発生の抑制と、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際における中間層の置き去りの発生の抑制と、を両立する複合管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
<1>
樹脂材料で構成される管状の管体と、酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、管状とされて前記管体の外周を覆い、径方向外側へ凸となる環状の山部と、径方向外側が凹となる環状の谷部とが、前記管体の軸方向に交互に形成されて蛇腹状とされ、前記管体の外周にガイドされつつ前記軸方向に短縮することで前記管体に対して相対移動が可能な、被覆層と、極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、前記管体と前記被覆層との間に配置され、かつ、前記被覆層に接着された中間層と、を有する複合管。
<2>
前記酸変性樹脂は、無水マレイン酸変性樹脂を含む、<1>に記載の複合管。
<3>
前記酸変性樹脂は、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方を有するオレフィン系樹脂である、<1>又は<2>に記載の複合管。
<4>
前記被覆層のフーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、1710cm-1におけるピーク高さをPa、1460cm-1におけるピーク高さをPeとしたとき、PaとPeの合計に対するPaの割合を示す酸比率は、11%以上である、<3>に記載の複合管。
<5>
前記酸変性樹脂の含有率は、前記被覆層全体に対して40質量%以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の複合管。
<6>
前記被覆層のメルトフローレートは、0.3g/10分~3.0g/10分である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の複合管。
<7>
前記中間層の密度は、20kg/m超えである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の複合管。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、管状の管体と、管状とされて管体の外周を覆う被覆層と、管体と被覆層との間に配置される中間層と、を有する態様において、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させ、被覆層を元に戻す際における中間層の巻き込まれの発生の抑制と、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際における中間層の置き去りの発生の抑制と、を両立する複合管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る複合管の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る複合管の一例を示す縦断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る複合管の一例における縦断面一部拡大図である。
図4】本発明の実施形態に係る複合管の製造工程の一例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る複合管の一例における管体の端部が露出された状態を示す縦断面図である。
図6図3の縦断面部分において、被覆層及び中間層が短縮変形される過程を示す図である。
図7図3の縦断面部分において、被覆層及び中間層が短縮変形された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る複合管の一例である実施形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。なお、以下に説明する実施形態において重複する説明及び符号については、省略する場合がある。
なお、本明細書において、「主成分」とは、特に断りがない限り、混合物中における質量基準の含有量が最も多い成分をいう。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよく、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<複合管>
本発明に係る複合管は、管状の管体と、管状とされて管体の外周を覆う被覆層と、管体と被覆層との間に配置される中間層と、を有する。
管体は、樹脂材料で構成される。
被覆層は、酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成される。また、その形状は、径方向外側へ凸となる環状の山部と、径方向外側が凹となる環状の谷部とが、管体の軸方向に交互に形成されて蛇腹状とされ、管体の外周にガイドされつつ前記軸方向に短縮することで前記管体に対して相対移動が可能とされる。以下、管体の軸方向を単に「軸方向」ともいう。
中間層は、極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、被覆層に接着されている。
【0011】
上記複合管は、上記構成であることにより、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させ、被覆層を元に戻す際における中間層の巻き込まれの発生の抑制と、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際における中間層の置き去りの発生の抑制と、を両立する。具体的には以下の通りである。
【0012】
前記の通り、管体、中間層、及び蛇腹状の被覆層を有する複合管では、内部の管体の端部に継手などを接続するときに、被覆層及び中間層の端部を軸方向に短縮させ、管体に対して相対移動させることで管体の端部を露出させる。そして、管体の端部を継手などに接続した後、短縮させた被覆層及び中間層を伸長して元に戻し、被覆層及び中間層により管体を再び被覆する。
【0013】
しかしながら、樹脂材料で構成された管体、中間層、及び被覆層をこの順に積層した複合体では、被覆層と共に中間層を短縮させた後に伸長して元に戻す際に、中間層が被覆層の移動に追従せず、管体と被覆層との間で中間層の一部が丸め込まれる現象(つまり、巻き込まれ)が発生することがある。そして、中間層の巻き込まれが発生すると、被覆層も元に戻りにくく管体の端部の被覆が不十分になること、被覆層の外周面が膨らみ意匠性に影響を及ぼすこと等が起こることがある。
【0014】
上記中間層の巻き込まれが発生する理由は定かではないが、以下のように推測される。
被覆層及び中間層を軸方向に移動させる場合、通常、被覆層の外側から握りながら被覆層及び中間層をずらす。このとき、被覆層の外周面側から被覆層の径方向中心に向かって圧力がかかった状態で中間層が軸方向に移動するため、中間層の内周面に生じる摩擦力が大きくなる。特に、被覆層の外側から握る力が強いほど、中間層の内周面に生じる摩擦力は大きくなる。中間層の内周面に生じた摩擦力が、中間層と被覆層との接着力よりも大きくなると、中間層が被覆層の移動に追従しにくくなる。
【0015】
そして、被覆層を伸長して元に戻す際、中間層の外周面側には被覆層が元に戻る方向の力が与えられ、中間層の内周面側には被覆層の軸方向への移動に対して相対的にその場に留まろうとする方向の力が与えられる。そのため、中間層が被覆層の移動に追従できないと、中間層に対して外周面側及び内周面側からそれぞれ逆方向の摩擦力が与えられることで、中間層の一部(中間層の端部、中間層の軸方向中央部等)がダマ状に丸め込まれることがある。このようにして、上記巻き込まれが発生すると推測される。
【0016】
これに対して、上記複合管では、被覆層が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、中間層が極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層のため、被覆層に接着されている。そのため、中間層に含まれる樹脂の極性基と、被覆層に含まれる酸変性樹脂の酸変性部位と、が化学的に相互作用すると考えられる。そして、上記化学的な相互作用によって中間層と被覆層との接着力が上昇し、中間層の内周面における摩擦力よりも大きくなることで、上記巻き込まれの発生が抑制されると推測される。
【0017】
また、従来の複合管においては、中間層の密度が高いほど巻き込まれが抑制される一方で、中間層の密度が高すぎると(例えば27kg/m以上であると)、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際に、被覆層のみが軸方向に移動し、中間層が被覆層の移動に追従せずに管体上に置き去りになる現象(つまり「置き去り」)が起こることがある。
【0018】
これに対して、上記複合管では、被覆層が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、中間層が極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、かつ、中間層と被覆層とが接着されている。
そのため、中間層の密度が高くても(例えば27kg/m以上であっても)、上記置き去りが起こりにくい。
【0019】
以上の理由により、上記複合管では、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させ、被覆層を元に戻す際における中間層の巻き込まれの発生の抑制と、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際における中間層の置き去りの発生の抑制と、を両立するものと考えられる。
【0020】
ここで、中間層が被覆層に接着された状態は、例えば、溶融状態の被覆層を中間層の外周面に接触させることで得られる。中間層が被覆層に接着された状態であることを確認する方法としては、例えば、被覆層に接着された中間層を一部剥離し、被覆層と中間層の接着界面を光学顕微鏡で観察することにより、多孔質層である中間層の外周面の凹部に被覆層が入り込んでいるかどうかを確認する方法が挙げられる。前記凹部に被覆層が入り込んでいる場合は、中間層が被覆層に接着された状態である。
【0021】
次いで、本発明の複合管を実施するための形態を、一例を挙げ図面に基づき説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係る複合管の一例における斜視図である。また、図2は、図1に示す複合管における軸方向に沿った断面図である。
図1及び図2に示される本実施形態に係る複合管10は、管体12、中間層14、及び被覆層20、を備えている。なお、符号Sは管体12の軸、及びその軸方向を表す。
【0023】
(管体)
管体12は、管状とされ、樹脂材料で構成される樹脂管である。つまり、管体は、樹脂を含む樹脂材料からなる。
樹脂材料における樹脂としては、例えば、ポリブテン、ポリエチレン、架橋ポリエチレン、及びポリプロピレン等のポリオレフィン、並びに塩化ビニル等が挙げられ、樹脂は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。中でも、ポリブテンが好適に用いられ、ポリブテンを主成分として含むことが好ましく、例えば管体を構成する樹脂材料中において85質量%以上含むことがより好ましい。
また、管体を構成する樹脂材料には、樹脂のみからなる材料であってもよく、樹脂を主成分として含むものであれば他の添加剤を含有してもよい。
【0024】
管体12の径(外径)は、特に限定されるものではなく、例えば10mm以上100mm以下の範囲とすることができ、12mm以上35mm以下の範囲が好ましい。
また、管体12の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば1.0mm以上5.0mm以下が挙げられ、1.5mm以上3.0mm以下が好ましい。
【0025】
(被覆層)
被覆層20は、管状とされ、管体12及び中間層14の外周を覆っている。中間層14は、管体12と被覆層20の間に配置されている。
被覆層は、酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成される。つまり、被覆層は、酸変性樹脂を含む樹脂材料からなる。
ここで、「酸変性樹脂」とは、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種が導入された樹脂をいい、例えば、樹脂に、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を有する不飽和化合物を結合させた変性樹脂が挙げられる。
【0026】
酸性基としては、カルボキシ基、カルボン酸無水物基等が挙げられる。
酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を有する不飽和化合物としては、無水マレイン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸などが挙げられる。
これらの中でも、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を有する不飽和化合物は、成形性及び接着性の観点から、不飽和カルボン酸又はその無水物が好ましく、その中でも無水マレイン酸がより好ましい。つまり、酸変性樹脂としては、不飽和カルボン酸変性樹脂、不飽和カルボン酸無水物の変性樹脂が好ましく、無水マレイン酸変性樹脂がより好ましい。
【0027】
酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を導入する樹脂(以下「ベース樹脂」ともいう)としては、オレフィン系樹脂等が挙げられる。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン等が挙げられ、その中でも、成形性・成形品の伸縮性の観点からポリエチレンが好ましく、低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0028】
酸変性樹脂としては、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を有するオレフィン系樹脂が挙げられ、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方を有するオレフィン系樹脂が好ましい。
酸変性樹脂として、具体的には、オレフィン系樹脂に、酸性基及び酸無水物基からなる群より選択される少なくとも一種を有する不飽和化合物における不飽和結合部位を結合(例えばグラフト重合)させた酸変性オレフィン系樹脂が挙げられる。酸変性オレフィン系樹脂の中でも、カルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方を有する不飽和化合物における不飽和結合部位をポリオレフィンに結合させた不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましい。
酸変性オレフィン系樹脂の具体例としては、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
酸変性樹脂としては、中間層との接着性及び成形品の柔軟性の観点から、酸変性オレフィン系樹脂が好ましく、その中でも不飽和カルボン酸変性ポリオレフィンがより好ましく、無水マレイン酸変性ポリオレフィンがさらに好ましく、無水マレイン酸変性ポリエチレンが特に好ましい。
被覆層を構成する樹脂材料は、酸変性樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0029】
被覆層を構成する樹脂材料は、酸変性樹脂以外の樹脂を含んでもよい。被覆層を構成する樹脂材料に含まれる酸変性樹脂以外の樹脂としては、ポリブテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、架橋ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;塩化ビニル;などが挙げられる。酸変性樹脂以外の樹脂は、これらの中でも、成形性及び成形品の柔軟性の観点から、オレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレンがより好ましく、低密度ポリエチレンがさらに好ましい。
被覆層を構成する樹脂材料は、酸変性樹脂以外の樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0030】
被覆層を構成する樹脂材料は、成形性の観点から、酸変性樹脂以外の樹脂として、酸変性樹脂と同種の樹脂を含むことが好ましい。
ここで、「同種」とは、両者の樹脂の主鎖を構成する骨格同士が共通する骨格を備えていることを意味し、例えば酸変性ポリプロピレンに対してはポリプロピレン、酸変性ポリエチレンに対してはポリエチレンが該当する。
【0031】
被覆層を構成する樹脂材料に含まれる酸変性樹脂の含有率は、中間層との接着性向上の観点から、前記樹脂材料に含まれる樹脂全体に対し、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。上記酸変性樹脂の含有率の上限値は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
【0032】
被覆層を構成する樹脂材料は、樹脂以外の成分を含んでもよい。樹脂以外の成分としては、例えば、顔料、充填剤、機能材料(例えば、耐候性を付与する材料)等が挙げられる。
被覆層を構成する樹脂材料全体に対する樹脂の含有率は、中間層との接着性向上の観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上記樹脂の含有率の上限値は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
被覆層を構成する樹脂材料全体に対する酸変性樹脂の含有率は、中間層との接着性向上の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0033】
被覆層に含まれる酸変性樹脂がカルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方を有するオレフィン系樹脂である場合、被覆層のフーリエ変換赤外吸収スペクトルにおいて、1710cm-1におけるピーク高さをPa、1460cm-1におけるピーク高さをPeとしたとき、PaとPeの合計に対するPaの割合(つまり、Pa×100/(Pa+Pe)、単位:%)を示す酸比率(以下、単に「酸比率」ともいう)は、中間層との接着性向上の観点から、10%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。
被覆層における酸比率は、40%以下であってもよく、35%以下であってもよい。
被覆層における酸比率は、10%以上40%以下であってもよく、10%以上35%以下であってもよく、11%以上35%以下であってもよく、30%以上35%以下であってもよい。
【0034】
ここで、上記被覆層における酸比率は、被覆層に含まれる樹脂材料の酸性基割合を意味し、以下のようにして求められる値である。
具体的には、被覆層を切断して得られる測定試料について、フーリエ変換赤外分光光度計(ThermoFisher社製、品名:NICOLET iN10)を用いて、透過法により、測定領域:4000cm-1~675cm-1、分解能:8cm-1、積算回数:16回の条件において測定することで、フーリエ変換赤外吸収スペクトル(以下「FE-IRスペクトル」ともいう)を得る。
得られたFT-IRスペクトルにおいて、1710cm-1におけるピーク高さをPa、1460cm-1におけるピーク高さをPeとし、PaとPeの合計に対するPaの割合(つまり、Pa×100/(Pa+Pe)、単位:%)を算出して「酸比率」とする。
なお、FT-IRスペクトルにおける1710cm-1のピークは、酸性基として酸変性樹脂に含まれるカルボキシ基及びカルボン酸無水物基の少なくとも一方におけるC=O伸縮振動に由来すると考えられる。また、FT-IRスペクトルにおける1460cm-1のピークは、酸変性樹脂のベース樹脂に含まれるC-H結合の変角振動に由来すると考えられる。
【0035】
被覆層のメルトフローレート(以下「MFR」ともいう)は、中間層との接着性向上の観点から、0.3g/10分以上であることが好ましく、0.6g/10分以上であることがより好ましく、0.8g/10分以上であることがさらに好ましい。被覆層のMFRが上記範囲であることにより、上記範囲よりも低い場合に比べて、溶融状態の被覆層が多孔質層である中間層の外周面に接触して固化する際に、中間層の外周面の凹部に被覆層が入り込みやすくなる。中間層の外周面の凹部に被覆層が入り込むと、被覆層と中間層との接触面積が増え、中間層の極性基と被覆層の酸変性部位との化学的な相互作用が生じる領域の面積が増えることで、被覆層と中間層との接着性が向上すると推測される。
また、被覆層のMFRは、被覆層の成形性の観点から、3g/10分以下であることが好ましく、2.0g/10分以下であることがより好ましく、1.6g/10分以下であることがさらに好ましい。
被覆層のMFRは、0.3g/10分~3g/10分であることが好ましく、0.6g/10分~2.0g/10分であることがより好ましく、0.8g/10分~1.6g/10分であることがさらに好ましい。
【0036】
被覆層のMFRは、JIS K7210-1(2014年)に規定する方法に従って、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定した値である。
被覆層のMFRを上記の範囲に制御する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、被覆層に主成分として含まれる樹脂の分子構造、分子量等を調整する方法が挙げられる。なお、樹脂の分子構造を調整する方法としては、例えば、樹脂の原料となるモノマーの分子構造を調整する方法、架橋構造を調整する方法等が挙げられる。
【0037】
図1及び図2に示されるように、被覆層20は、蛇腹状とされており、径方向外側へ凸となる環状の山部22と、径方向外側が凹となる環状の谷部24とが、管体12の軸方向Sに交互に連続して形成されている。山部22は、谷部24よりも径方向Rの外側に配置されている。
図3は、図2に示す断面図の一部を拡大した図である。図3に示されるように、被覆層20の蛇腹状の最も径方向外側の部分を外側壁22A、最も径方向内側の部分を内側壁24Aとすると、径方向における外側壁22Aと内側壁24Aの中間部Mを境界として、径方向外側を山部22とし、径方向内側を谷部24とする。
【0038】
山部22は、軸方向Sに延びる外側壁22Aと、外側壁22Aの両端から径方向Rに沿って延びる側壁22Bを有している。外側壁22Aと側壁22Bの間には、外屈曲部22Cが形成されている。谷部24は、軸方向Sに延びる内側壁24Aと、内側壁24Aの両端から径方向Rに延びる側壁24Bを有している。内側壁24Aと側壁24Bの間には、内屈曲部24Cが形成されている。
【0039】
被覆層20の山部22の径方向内側には、径方向内側に凹の山空間23が形成されている。なお、山空間23には、後述する中間層14の凸部14Bが挿入されていてもよい。
【0040】
また、特に限定されるものではないが、山部22の軸方向Sの長さL1は、谷部24の軸方向Sの長さL2よりも長く設定されていることが好ましい。長さL1は、後述する短縮変形時の外側壁22Aの変形しやすさを確保するため、長さL2の1.2倍以上であることが好ましい。
【0041】
被覆層20の厚さは、被覆層20を短縮させるために、最も薄い部分で0.1mm以上、最も厚い部分で0.4mm以下であることが好ましい。外側壁22Aの厚さH1は、例えば、内側壁24Aの厚さよりも薄くなっている。厚さH1は、後述する短縮変形時の外側壁22Aの変形しやすさを確保するため、厚さH2の0.9倍以下であることが好ましい。
【0042】
山部22と谷部24の外表面での半径差ΔRは、被覆層20の厚さの平均の800%以下であることが好ましい。半径差ΔRが大きければ、山部22の軸方向Sに沿った部分が変形しなくても、短縮のときに谷部24が径方向外側へ膨出したり、隣り合う山部22同士が近づかないで歪んだ変形状態となったりしにくい。半径差ΔRが、被覆層20の厚さの平均の800%以下となる場合に、上記の変形状態となることを抑制するために、山部22の軸方向Sの長さを谷部24の軸方向の長さよりも長くすることが、効果的である。なお、600%以下である場合に、より効果的である。
【0043】
被覆層20の径(最外部の外径)としては、特に限定されるものではないが、例えば12.85mm以上34.25mm以下の範囲とすることができる。
【0044】
(中間層)
中間層14は、極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成され、多孔質構造を有する多孔質層である。
ここで、極性基は、極性を有する基であり、例えば、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を有する基が挙げられる。炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子等が挙げられる。極性基としては、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む基が好ましく、窒素原子及び酸素原子からなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む基がより好ましい。
【0045】
極性基の具体例としては、ヒドロキシ基、イソシアネート基、ウレタン結合、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルボニル基、チオール基、スルホ基、チオニル基、エステル結合、エーテル結合、スルフィド結合、ウレア結合、シロキサン結合等が挙げられる。
極性基は、被覆層に含まれる酸変性樹脂の酸変性部位(すなわち、酸性基又はその無水物)と相互作用する基であることが好ましい。相互作用としては、例えば、水素結合、イオン結合、静電相互作用、分子間力相互作用等が挙げられる。
例えば被覆層が酸変性樹脂として不飽和カルボン酸変性樹脂及び不飽和カルボン酸無水物の変性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を含む場合、極性基は、カルボキシ基及び無水ジカルボキシ基の少なくとも一方と水素結合する基であることが好ましい。カルボキシ基及び無水ジカルボキシ基の少なくとも一方と水素結合する基としては、ヒドロキシ基、イソシアネート基、ウレタン結合等が挙げられる。
極性基としては、被覆層との接着性の観点から、これらの中でも、ヒドロキシ基、イソシアネート基、ウレタン結合が好ましい。
【0046】
極性基を有する樹脂としては、具体的には、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(以下「EVA樹脂」ともいう)等が挙げられる。極性基を有する樹脂は、被覆層との接着性の観点から、これらの中でも、ポリウレタン、EVA樹脂が好ましく、ポリウレタンがより好ましい。
中間層を構成する樹脂材料は、極性基を有する樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0047】
中間層を構成する樹脂材料は、極性基を有する樹脂以外の樹脂を含んでもよい。中間層を構成する樹脂材料に含まれる極性基を有する樹脂以外の樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンジエンゴム等が挙げられる。
中間層を構成する樹脂材料は、極性基を有する樹脂以外の樹脂を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
【0048】
中間層を構成する樹脂材料に含まれる極性基を有する樹脂の含有率は、被覆層との接着性向上の観点から、前記樹脂材料に含まれる樹脂全体に対し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上記極性基を有する樹脂の含有率の上限値は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
【0049】
中間層を構成する樹脂材料は、樹脂以外の成分を含んでもよい。樹脂以外の成分としては、例えば、触媒、発泡剤、整泡剤、フィラー、顔料等が挙げられる。
中間層を構成する樹脂材料全体に対する樹脂の含有率は、被覆層との接着性向上の観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。上記樹脂の含有率の上限値は、特に限定されるものではなく、100質量%であってもよい。
中間層を構成する樹脂材料全体に対する極性基を有する樹脂の含有率は、被覆層との接着性向上の観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0050】
中間層14における孔の存在比率(例えば発泡体の場合であれば発泡率)は、25個/25mm以上であることが好ましく、45個/25mm以下がより好ましい。なお、上記孔の存在比率は、JIS K6400-1(2012年)の付属書1に記載の方法により測定することができる。
また、中間層14は、発泡体であることが好ましい。
【0051】
中間層14の密度としては、例えば12g/m以上の範囲が挙げられ、中間層の巻き込まれ抑制の観点から、20kg/m超えであることが好ましく、22kg/m超えであることがより好ましく、25kg/m以上であることがさらに好ましい。
前記の通り、従来の複合管においては、中間層の密度が高いほど巻き込まれが抑制される一方で、中間層の密度が高すぎると、被覆層の端部を短縮させて管体の端部を露出させる際に、被覆層のみが軸方向に移動し、中間層が被覆層の移動に追従せずに管体上に置き去りになる現象(つまり「置き去り」)が起こることがある。
これに対して、本実施形態に係る複合管では、被覆層が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、中間層が極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、かつ、中間層と被覆層とが接着されている。そのため、中間層の密度が高くても(例えば27kg/m以上であっても)、上記置き去りが起こりにくい。
【0052】
中間層14の密度は、材料そのものの成形性の観点から、45kg/m以下であることが好ましく、35kg/m以下であることがより好ましく、27kg/m以下であることがさらに好ましい。
中間層14の密度としては、12kg/m~45kg/mの範囲が挙げられ、20kg/m超え35kg/m以下であることが好ましく、22kg/m超え35kg/m以下であることがより好ましく、22kg/m超え27kg/m以下であることがさらに好ましい。
【0053】
ここで、中間層14の密度は、JIS-K7222(2005年)に規定の方法により測定することができる。なお、測定環境は温度23℃、相対湿度45%の環境とする。
【0054】
中間層の密度を上記の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば中間層における孔の存在比率(例えば発泡体である場合であれば発泡率)を調整する方法、樹脂の分子構造を調整する(つまり樹脂の原料となるモノマーの分子構造や、それらの架橋構造を調整する)方法等が挙げられる。
【0055】
中間層14は、管体12と被覆層20との間に配置されている。中間層14は、被覆層20の谷部24の内側壁24Aと管体12との間に圧縮されつつ挟持されており、圧縮挟持部14Aが形成されている。
【0056】
中間層14の内周面は平坦状とされていることが好ましく、さらに管体12の外周に全面的に接触しつつ、管体12の外周を覆っていることが好ましい。なお、ここでの「全面的に接触」とは、全ての部分がぴったりと密着している必要はなく、実質的に全面が接触していることを意味する。したがって、例えば中間層14がシート形状の多孔質樹脂シートを巻き付けて形成されている場合、その継ぎ目部分が一部離間していたり、管体12と被覆層20との間でシワになった部分が一部離間していたりする場合を含んでいる。
【0057】
中間層14は、例えばその形状をシート状とすることができる。中間層14は、例えば、管体12の外周長と略等しい長さの幅を有するように帯状に形成されたシート状の多孔質樹脂シートを管体12の周囲に巻き付けながら、被覆層20となる樹脂組成物をその外周に供給して成形することにより構成することができる。
【0058】
中間層14の厚さは、自然状態(圧縮や引っ張りなどの力が作用していない、温度23℃、相対湿度45%の状態)で、管体12の外周と内側壁24Aの径方向内側面との差以上となっており、さらに前記差よりも厚くなっていることが好ましい。
圧縮挟持部14Aでは、圧縮により、中間層14は、自然状態の厚さより薄くなっている。中間層14の隣り合う圧縮挟持部14A同士の間には、凸部14Bが形成されている。凸部14Bは、圧縮挟持部14Aよりも大径とされ、山空間23内へ突出されている。なお、山空間23内において、凸部14Bの頂部(最も径方向外側部分)と外側壁22Aとは離間していることが好ましい。中間層14が内側壁24Aと管体12とで圧縮されている場合、圧縮挟持部14Aと凸部14Bとが軸方向Sに交互に連続して形成され、中間層14の外周面が波状となっている。
【0059】
なお、中間層14の自然状態での厚さは、内側壁24Aと管体12とで圧縮された圧縮挟持部14Aの形成のし易さの観点から、1.5mm以上4.0mm以下の範囲が好ましく、2.0mm以上3.0mm以下がより好ましい。なお、中間層14の自然状態での厚さは、複合管10から中間層14を取り出して、任意の箇所10箇所を測定して得られた値の平均値とする。
【0060】
中間層14を管体12と被覆層20の間から抜き出した自然状態における軸方向Sの長さは、被覆層20の軸方向Sの長さの90%以上100%以下であることが好ましい。これは、中間層14が管体12と被覆層20の間において伸張状態で保持されていると、被覆層20を短縮変形させる際に、中間層14と被覆層20との相対移動が生じやすくなり、中間層14が短縮されずに管体12の外周端部を露出できないことが生じうるからである。中間層14と被覆層20との相対移動を抑制するため、自然状態における中間層14の軸方向Sの長さは、被覆層20の軸方向の長さの90%以上100%以下とすることが好ましい。
【0061】
次に、本実施形態の複合管10の作用について説明する。
【0062】
本実施形態に係る複合管10と継手とを接続する際には、図2に示す状態の被覆層20に対し、被覆層20を軸方向Sに短縮させて管体12を露出させる方向の力を作用させる。これにより、図5に示されるように、一端部の被覆層20は、管体12が露出される方向へ移動する。
【0063】
なお、山部22の外側壁22Aと谷部24の内側壁24Aにおいて、軸方向Sの長さL1はL2よりも長く、厚さH1はH2よりも薄いことが好ましい。これにより、外側壁22Aは内側壁24Aよりも変形しやすく、図6に示されるように、径方向外側へ膨出するように変形する。続いて、図7に示されるように、隣り合う山部22同士が近づくように、山部22の外屈曲部22Cと谷部24の内屈曲部24Cが変形する。このようにして、図5に示されるように、一端部の被覆層20は、管体12が露出される方向へより移動し易くなる。このように、被覆層20を短縮させる際に、外側壁22Aが膨出するように変形するため、被覆層20の屈曲角度や厚さに多少のバラツキがあっても、谷部24が径方向外側へ膨出したり、隣り合う山部22同士が近づかないで歪んだ変形状態となったりすることを抑制できる。これにより、短縮させた被覆層20の外観の低下を抑制することができる。
【0064】
また、中間層14は、内側壁24Aと管体12とで圧縮されていることが好ましく、これにより、圧縮挟持部14Aが被覆層20に密着され、凸部14Bが隣り合う谷部24の側壁24Bの間に係合し、被覆層20と共により短縮し易くなる。
【0065】
ここで、本実施形態では、被覆層20が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、中間層14が極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、被覆層20に接着されている。そのため、被覆層20及び中間層14の端部を軸方向に短縮させて管体12の端部を露出させた後に被覆層20及び中間層14を伸長して元に戻す際に、中間層14が被覆層20の軸方向への伸長の動作に対して良好に追従しやすく、巻き込まれの発生が抑制される。
【0066】
なお、本実施形態では、外側壁22Aの厚さH1を内側壁24Aの厚さH2よりも薄くしたが、厚さH1は厚さH2と同じであってもよい。
【0067】
また、本実施形態では、外側壁22Aを軸方向Sに沿った略直線状としたが、径方向外側へ膨出する弧状としてもよい。さらに、内側壁24Aについて、径方向内側へ膨出する弧状としてもよい。
【0068】
また、本実施形態では、中間層14と管体12との間に、他の層を設けてもよい。他の層としては、例えば中間層14と管体12との間の滑りを良くする低摩擦シート等が挙げられる。中間層14と管体12との間に低摩擦シートを設けることで、被覆層20を軸方向に短縮させて管体12の端部を露出させる際及び被覆層20を伸長して元に戻す際に、中間層14及び低摩擦シートが被覆層20に追従して変形しやすくなる。
一方、本実施形態では、被覆層20が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成され、中間層14が極性基を有する樹脂を含む樹脂材料で構成された多孔質層であり、被覆層20に接着されている。そのため、中間層14と管体12との間に低摩擦シートを設けず、中間層14が管体12に接していても、中間層14の巻き込まれの発生は抑制される。
【0069】
(製造方法)
次に、本実施形態の複合管10の製造方法について説明する。
【0070】
複合管10の製造には、例えば、図4に示す製造装置30を用いることができる。製造装置30は、押出機32、ダイ34、波付け金型36、冷却槽38、及び引取装置39を有している。複合管10の製造工程は、図4の右側が上流側となっており、右側から左側へ向かって管体12が移動しつつ製造される。以下、この移動方向を製造方向Yとする。ダイ34、波付け金型36、冷却槽38、引取装置39は、製造方向Yに対してこの順に配置されており、押出機32は、ダイ34の上方に配置されている。
【0071】
ダイ34の上流には、不図示であるが、コイル状に巻き取られた管体12、及び、中間層14を構成する多孔質樹脂シートがロール状に巻き取られたシート状部材14Sが配置されている。引取装置39により製造方向Yに引っ張られることによって、コイル状の管体12及びロール状のシート状部材14Sは、連続的に引き出される。連続的に引き出された管体12の外周面には、ダイ34の手前で、シート状部材14Sが全周にわたって巻きつけられる。なお、シート状部材14Sは、引張力を作用させないために、ダイ34の手前では、弛みをもった状態とされ、ダイ34へ挿入される。
【0072】
管体12の外周に巻き付けられたシート状部材14Sの外周には、ダイ34から溶融された樹脂材(被覆層20形成用の樹脂組成物の溶融物)が円筒状に押し出されて塗布され、樹脂層20Aが形成される。このとき、例えば、樹脂材が多孔質樹脂シートの孔(気泡)に入り込み、シート状部材14Sと樹脂層20Aとの接着性が向上する。
【0073】
管体12、シート状部材14S、樹脂層20Aで構成される管状押出体21が形成された後、ダイ34の下流側に配置された波付け金型36で波付け工程(蛇腹状に形成する工程)が行われる。波付け金型36は例えば二対の金型であり、いずれの金型も半円弧状の内面を有し、この内周には被覆層20の山部22に対応する部分に環状のキャビティ36Aが形成され、谷部24に対応する部分に環状の内側突起36Bが形成されており、蛇腹の形状を有している。各キャビティ36Aには、一端がキャビティ36Aと連通し波付け金型36を貫通した通気孔36Cが形成されている。キャビティ36A内は、通気孔36Cを介して、波付け金型36の外側から吸気が行われる。
【0074】
ダイ34の下流側で、二対の波付け金型36は樹脂層20Aに対して二方向から接近してその内面を接触させ、内側突起36Bにより樹脂層20Aを押圧しつつ管状押出体21の外周を覆い、管体12と共に製造方向Yへ移動する。このとき、波付け金型36の外側から吸気を行い、キャビティ36A内を負圧にする。これにより、樹脂層20Aが径方向外側へ移動し、波付け金型36に沿った蛇腹状の被覆層20が形成される。
【0075】
このときシート状部材14Sは、被覆層20の山部22に対応する山空間23でキャビティ36A内へ入り込み、凸部14Bが形成される。被覆層20の谷部24の内側壁24Aに対応する部分は、被覆層20との接着が維持されると共に管体12と内側壁24Aとの間で圧縮され、圧縮挟持部14Aが形成される。
【0076】
波付け金型36で波付け工程が行われた後、被覆層20は、冷却槽38で冷却される。このようにして、複合管10が製造される。
【実施例0077】
以下、実施例によって更に本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0078】
[中間層用シートの作製]
(ウレタンフォームシートAの作製)
原料としてのポリイソシアネート及びポリオールを、触媒、発泡剤、及び整泡剤と共に混合し反応させ、裁断機で所望の厚さに裁断して得られる、厚さ(自然状態での平均厚さ)が2~3mmであるウレタンフォームシートAの市販品を用いた。
得られたウレタンフォームシートAは、極性基を有する樹脂としてポリウレタンを含み、孔の存在比率は25個/25mm、密度は14kg/mである。
【0079】
(ウレタンフォームシートBの作製)
原料としてウレタンフォームAとは異なるポリイソシアネート及びポリオールを、下記触媒、下記発泡剤、及び下記整泡剤と共に混合し反応させ、裁断機で所望の厚さに裁断して、厚さ(自然状態での平均厚さ)が2.5mmであるウレタンフォームシートBを作製した。
得られたウレタンフォームシートBは、極性基を有する樹脂としてポリウレタンを含み、孔の存在比率は45個/25mm、密度は27kg/mである。
【0080】
[被覆層用樹脂組成物の作製]
(樹脂組成物Aの作製)
無水マレイン酸変性ポリエチレン(酸変性樹脂)をそのまま樹脂組成物Aとして用いた。
樹脂組成物Aの酸変性度及びMFRを前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0081】
(樹脂組成物Bの作製)
・無水マレイン酸変性ポリエチレン(酸変性樹脂):40質量部
・無変性ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE)):60質量部
上記成分をドライブレンドで混合し、樹脂組成物Bを得た。
樹脂組成物Bの酸変性度及びMFRを前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0082】
(樹脂組成物Cの作製)
・無水マレイン酸変性ポリエチレン(酸変性樹脂):20質量部
・無変性ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE)):80質量部
上記成分をドライブレンドで混合し、樹脂組成物Cを得た。
樹脂組成物Cの酸変性度及びMFRを前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0083】
(樹脂組成物Dの作製)
無変性ポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE))をそのまま樹脂組成物Dとして用いた。
樹脂組成物Dの酸変性度及びMFRを前述の方法により測定した結果を表1に示す。
【0084】
[実施例A1]
(複合管A1の作製)
図4に示す構成の製造装置を準備した。コイル状に巻き取られたポリブテン管(外径:17mm、厚さ:2.10mm)を管体12として装着し、前記より得たウレタンフォームシートAをシート状部材14Sとして装着した。引取装置39を作動させて、コイル状のポリブテン管及びロール状のウレタンフォームシートA(シート状部材14S)を連続的に引き出し、ポリブテン管の外周面にウレタンフォームシートAを全周にわたって巻きつけた。なお、ウレタンフォームシートAは、ダイ34の手前で弛みをもった状態とし、ダイ34へ挿入した。
【0085】
次いで、ウレタンフォームシートAの外周に、溶融された前記樹脂組成物Aをダイ34から円筒状に押し出して塗布し、樹脂層を形成した。
【0086】
次いで、ダイ34の下流側に配置された二対の波付け金型36を、樹脂層に対して二方向から接近させて内面を接触させた。なお、波付け金型36は内面の形状が同形状の二対の金型で、いずれも半円弧状の内面を有し、この内周には形成する被覆層の山部に対応する部分に環状のキャビティ36Aが形成され、谷部に対応する部分に環状の内側突起36Bが形成されており、蛇腹の形状を有している。各キャビティ36Aには、一端がキャビティ36Aと連通し波付け金型36を貫通した通気孔36Cが形成されている。内側突起36Bにより樹脂層20Aを押圧しつつポリブテン管と共に製造方向Yへ移動し、かつ波付け金型36の外側から吸気を行い、キャビティ36A内を負圧にした。こうして、波付け金型36に沿った蛇腹状の被覆層を形成した。
次いで、冷却槽38で冷却して、複合管A1を得た。
【0087】
被覆層の谷部24の内面とポリブテン管(管体)の外面との距離、つまり管体の外周と被覆層の内側壁24Aの径方向内側面との差(圧縮挟持部クリアランス)は、2.0mmであった。
得られた複合管において、被覆層の山部22の軸方向Sの長さL1は2.1mm、谷部24の軸方向Sの長さL2は1.5mmであった。
被覆層の厚さは、最も薄い部分で0.2mm、最も厚い部分で0.5mmであった。
山部22と谷部24の外表面での半径差ΔRは、被覆層の厚さの平均の88.9%であった。
被覆層の径(最外部の外径)は、23.5mmであった。
ウレタンフォームシートAからなる中間層の内周面は、管体の外表面と全面的に接触していた。
【0088】
(複合管A1の評価)
<巻き込まれ>
ポリブテン管(管体)の端部を露出させるため、被覆層の外周面に圧力をかけながら、被覆層の端部を30mm引張って短縮変形させ、その後元の位置に戻すため再び被覆層を伸長させる動作を行った。
その際、中間層であるウレタンフォームシートが被覆層の伸長の動作に対して追従せず巻き込まれが発生して、一部がダマ状に丸め込まれる現象が生じたか、被覆層の伸長動作に追従して巻き込まれが生じず、ウレタンフォームシートも元の位置に戻ったか、を目視で確認した。
具体的には、被覆層の外周面にかける圧力を、0.030MPa~0.070MPaの範囲において0.005MPa刻みで変え、各圧力における巻き込まれの有無について確認した。なお、被覆層の外周面にかかった圧力は、空圧式のグリッパーにより測定した。
巻き込まれが発生した最も低い圧力(表中の「巻き込まれ開始圧)を表1に示す。なお、巻き込まれ開始圧が大きいほど、巻き込まれが抑制されていることを意味する。
【0089】
<置き去り>
ポリブテン管(管体)の端部を露出させるため、被覆層の外周面に0.040MPaの圧力をかけながら、被覆層の端部を50mm引張って短縮変形させる動作を行った。
その際、中間層であるウレタンフォームシートが被覆層の伸長の動作に対して追従せず置き去りが発生したか、被覆層の伸長動作に追従して置き去りが発生しなかったか、を目視で確認した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例A2]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Bを用いた以外は、複合管A1と同様にして、複合管A2の製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例A3]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Cを用いた以外は、複合管A1と同様にして、複合管A3の製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例A1]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Dを用いた以外は、複合管A1と同様にして、複合管A4の製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
上記表1に示す結果から、被覆層が酸変性樹脂を含む樹脂材料で構成された実施例A1~A3では、被覆層を構成する樹脂材料が酸変性樹脂を含まない比較例A1に比べ、巻き込まれ開始圧が高いことから、巻き込まれが抑制されていることがわかる。
特に、実施例A2及び実施例A3においては、被覆層を軸方向にずらす作業をする際の一般的な握り圧である0.040MPaよりも巻き込まれ開始圧が高いことがわかる。
【0095】
[実施例B1]
(複合管B1の作製)
ウレタンフォームシートAの代わりにウレタンフォームシートBを用いた以外は、複合管A1と同様にして、複合管B1を得た。
【0096】
(複合管B1の評価)
<巻き込まれ>
実施例A1と同様にして、巻き込まれの評価を行った。巻き込まれが発生した最も低い圧力(表中の「巻き込まれ開始圧)を表2に示す。
【0097】
<置き去り>
実施例A1と同様にして、置き去りの評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
[比較例B1]
樹脂組成物Aの代わりに樹脂組成物Dを用いた以外は、複合管B1と同様にして、複合管B2の製造及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
上記表2に示す結果から、中間層の密度が高く被覆層が酸変性樹脂を含む実施例B1では、中間層の密度が高く被覆層が酸変性樹脂を含まない比較例B1に比べ、置き去りの発生が抑制されていることがわかる。
【符号の説明】
【0101】
10 複合管、 12 管体、 14 中間層、 14A 圧縮挟持部、14B 凸部、 14S シート状部材、 20 被覆層、 22 山部、22A 外側壁、 23 山空間、 24 谷部、 24A 内側壁、 S 軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7