(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142282
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】繊維化が生じる疾患の治療用医薬用組成物
(51)【国際特許分類】
C07D 263/32 20060101AFI20230928BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230928BHJP
A61K 31/421 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C07D263/32 CSP
A61P43/00
A61K31/421
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049108
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】518063193
【氏名又は名称】サイエンスファーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 美歌子
(72)【発明者】
【氏名】立石 大
(72)【発明者】
【氏名】小林(甲斐) 芹葉
(72)【発明者】
【氏名】井上 陸
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅巳
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC69
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC51
(57)【要約】 (修正有)
【課題】TGF-βシグナルを介したコラーゲン産生を抑制し、細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療薬として有効な化合物、及び該化合物を含む医薬用組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)[式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、一般式(A-1)~(A-4){式中、R
11は、C
1-6アルキル基又はC
1-6アルコキシ基であり;n1は、0~3の整数であり;黒丸は結合手である}のいずれかで表される基であり;X
1は、酸素原子又は-NH-であり;Z
1は、C
1-6アルキレン基、フェニレン基、又はシクロアルキレン基であり;R
1は、C
1-6アルコキシ基又は-N(R
2)(R
3)であり;R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子又はC
1-6アルキル基である]で表される化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
[式(1)中、A
1及びA
2は、それぞれ独立して、下記一般式(A-1)~(A-4)
【化2】
{式(A-1)~(A-4)中、R
11は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり;n11は、0~3の整数であり;黒丸は結合手である}
のいずれかで表される基であり;X
1は、酸素原子又は-NH-であり;Z
1は、炭素数1~6のアルキレン基、フェニレン基、又はシクロアルキレン基であり;R
1は、炭素数1~6のアルコキシ基又は-N(R
2)(R
3)であり;前記R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である]
で表される化合物。
【請求項2】
前記A1及びA2がいずれも前記(A-1)であり、前記X1が酸素原子であり、前記Z1がフェニレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記R1が、メトキシ基又はアミノ基である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物、若しくはその薬理学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、医薬用組成物。
【請求項5】
細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療に用いられる、請求項4に記載の医薬用組成物。
【請求項6】
経口投与される、請求項4又は5に記載の医薬用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療に用いられる医薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮間葉転換(epithelial mesenchymal transition,EMT)は細胞が強く接合した上皮性の表現型から、細胞間接合が弱まり運動性が高まった間葉系の表現型への転換である。上皮細胞と間葉細胞は、機能と同様に、形態も異なっている。上皮細胞では、密着結合、ギャップ結合、接着結合などの細胞接着因子により、隣接する細胞同士が接着している。また、底部では、基底膜により固定されている。一方、間葉系細胞においては、そのような極性はなく、紡錘状の形態をとり、部分的な点のみで細胞同士の相互作用を行う。上皮皮細胞では、E-カドヘリン、サイトケラチンなどの発現量が多く、間葉細胞では、N-カドヘリン、ビメンチンなどの発現量が多いことから、これらの蛋白質の発現量の変化がEMTの指標とされる。
【0003】
EMTは、個体発生の過程、創傷治癒、組織線維化、癌細胞の転移性獲得などの際にみられる。EMTは、さらに、全身性強皮症、特発性肺線維症などの線維化疾患や、癌転移などに関わっている。
【0004】
全身性強皮症は、皮膚や組織にコラーゲンが蓄積して硬化、線維化する自己免疫疾患である。初めは皮膚から症状が出始め、レイノー症状という手指が紫色になる症状や手足末端の拘縮による運動障害、潰瘍化による末梢部の壊死などが生じ、患者のQOLの低下につながる。進行速度は患者それぞれだが、全身へと進行すると、肺や腎臓、消化器官などの様々な組織が線維化し、肺線維症、強皮症腎クリーゼ、逆流性食道炎などの生命の予後に係る重篤な疾患を併発し、死に至る場合もある。全身性強皮症は、難病に指定されており、現在2万人規模の患者が国内に存在している。現在の治療法としては、主に免疫抑制剤、ステロイド、漢方などの炎症を抑制する薬剤が用いられているが、いずれも対症療法である。2021年9月に、抗がん剤や免疫抑制剤として用いられている抗体医薬リツキシマブが、全身性強皮症に対する根治薬として承認されたが、その根治薬としての評価は今後に待たなければならない。全身性強皮症の最大の課題は、未だ発生機序が明らかになっていないことであり、これが、有効な根治薬の開発の枷となっている。
【0005】
全身性強皮症は、繊維芽細胞においてコラーゲンなどの細胞外マトリックスの産生が促進されることが原因として考えられている疾患である。これは、EMTと密接に関連した現象である。いくつかのシグナル伝達経路がEMTを誘導することが分かっている。線維化におけるEMTは、主に、TGF-β等を繊維芽細胞に作用させることで起こるため、TGF-βシグナルの亢進が全身性強皮症につながるとされている。
【0006】
EMTを阻害するような化合物が、線維化疾患の根治の治療法につながると期待される。TGF-β/Smadシグナルによるコラーゲンの蓄積が亢進していることが、線維化疾患に共通している。例えば、TGF-β/Smadシグナルシグナルを介したコラーゲン産生を抑える活性を持つ化合物を、繊維証の予防や治療に有効とされている(特許文献1)。また、オキサプロジン(3-(4,5-ジフェニルオキサゾール-2-イル)プロパン酸)、ジクロフェナクなどのNSAIDsが、抗線維化活性を有しており、EMTを抑えることが報告されている(特許文献2)。さらに、オキサプロジン等の構造類似化合物である化合物SB-431542も、抗線維化活性を有しており、EMTを抑えることができる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2020/158890号
【特許文献2】国際公開第2015/182565号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hasegawa et al, Journal of Dermatological Science, 2005, vol.39, p.33-38.
【非特許文献2】Pickett, Tetrahedron Letters, 2015, vol.56, p.3023-3026, Supplementary Data.
【非特許文献3】Ammirati et al, ACS Medicinal Chemistry Letters, 2015, vol.6, p.1128-1133, Supporting Information.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、TGF-βシグナルを介したコラーゲン産生を抑制し、細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療薬として有効な化合物、及び当該化合物を有効成分とする細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療に用いられる医薬用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、オキサプロジンやSB-431542の構造類似の新規化合物が、TGF-βシグナルを介したコラーゲン産生を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
[1] 本発明の第一の態様に係る化合物は、下記一般式(1)
[式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、下記一般式(A-1)~(A-4)
{式(A-1)~(A-4)中、R11は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり;n11は、0~3の整数であり;黒丸は結合手である}
のいずれかで表される基であり;X1は、酸素原子又は-NH-であり;Z1は、炭素数1~6のアルキレン基、フェニレン基、又はシクロアルキレン基であり;R1は、炭素数1~6のアルコキシ基又は-N(R2)(R3)であり;前記R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である]
で表される化合物。
【0012】
【0013】
【0014】
[2] 前記[1]の化合物は、前記A1及びA2がいずれも前記(A-1)であり、前記X1が酸素原子であり、前記Z1がフェニレン基であることが好ましい。
[3] 前記[2]の化合物は、前記R1が、メトキシ基又はアミノ基であることが好ましい。
[4] 本発明の第二の態様に係る医薬用組成物は、前記[1]~[3]のいずれかの化合物、若しくはその薬理学的に許容可能な塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする。
[5] 前記[4]の医薬用組成物としては、細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療に用いられることが好ましい。
[6] 前記[4]又は[5]の医薬用組成物としては、経口投与されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る化合物は、コラーゲンの産生による細胞の線維化を抑える活性を有する。このため、本発明に係る化合物を有効成分とする医薬用組成物は、コラーゲン産生の亢進による細胞の線維化により特徴付けられる疾患の症状を抑制することができ、細胞又は組織の繊維化が生じる疾患の治療に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1において、オキサプロジン、化合物(AF-1)、化合物(AF-2)、又は化合物(AF-3)で処理したA549細胞をTGF-β刺激した後の細胞形態を顕微鏡画像である。
【
図2】実施例1において、オキサプロジン又は化合物(AF-3)で処理した成人皮膚繊維芽細胞をTGF-β刺激した後のI型コラーゲンの発現量を、ウエスタンブロット法により測定した結果を示した図である。
【
図3】実施例1において、オキサプロジン又は化合物(AF-3)で処理した成人皮膚繊維芽細胞をTGF-β刺激した後のI型コラーゲンの発現量を、ELISAの直接吸着法により測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。当該化合物は、オキサプロジンやSB-431542の構造類似化合物であり、これらの化合物と同様に、コラーゲンの産生を抑制し、細胞の線維化を抑制する作用を有する。
【0018】
【0019】
一般式(1)中、A1及びA2は、それぞれ独立して、下記一般式(A-1)~(A-4)のいずれかで表される基である。A1及びA2は、同種の基であってもよく、異なる種の基であってもよい。
【0020】
【0021】
一般式(A-1)~(A-4)中、R11は、炭素数1~6のアルキル基(C1-6アルキル基)又は炭素数1~6のアルコキシ基(C1-6アルコキシ基)である。また、黒丸は結合手である。
【0022】
R11がC1-6アルキル基である場合、当該C1-6アルキル基としては、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0023】
R11がC1-6アルコキシ基である場合、当該C1-6アルコキシ基のアルキル基部分としては、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
一般式(A-1)~(A-4)中、n11は、0~3の整数である。本発明に係る化合物としては、n11が0である化合物が好ましい。
【0025】
本発明に係る化合物としては、一般式(1)中、A1及びA2の少なくとも一方が、一般式(A-1)で表される基である化合物が好ましく、A1及びA2の両方が、一般式(A-1)で表される基である化合物がより好ましく、A1及びA2の両方が、一般式(A-1)で表される基のうちn11が0である基(フェニル基)がさらに好ましい。
【0026】
一般式(1)中、Z1は、炭素数1~6のアルキレン基(C1-6アルキレン基)、フェニレン基、又はシクロアルキレン基である。Z1がC1-6アルキレン基である場合、当該C1-6アルキレン基としては、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。具体的には、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert-ペンチレン基、n-ヘキシレン基等が挙げられる。本発明に係る化合物としては、一般式(1)中、Z1がC1-6アルキレン基又はフェニレン基である化合物が好ましく、Z1がフェニレン基である化合物がより好ましい。
【0027】
一般式(1)中、R1は、C1-6アルコキシ基又は-N(R2)(R3)である。前記R2及びR3は、それぞれ独立して、水素原子又はC1-6アルキル基である。R1がC1-6アルコキシ基の場合、当該C1-6アルコキシ基としては、R11で挙げられた基と同様のものが挙げられる。前記R2及びR3がC1-6アルキル基の場合、当該C1-6アルキル基としては、R11で挙げられた基と同様のものが挙げられる。
【0028】
一般式(1)中、X1は、酸素原子又は-NH-である。一般式(1)中、X1が酸素原子である化合物としては、下記一般式(2)及び(3)で表される化合物が挙げられ、一般式(1)中、X1が-NH-である化合物としては、下記一般式(4)及び(5)で表される化合物が挙げられる。下記一般式(2)~(5)中、A1、A2、Z1、R2、R3、及びR4は、前記一般式(1)と同じである。本発明に係る化合物としては、下記一般式(2)又は(3)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【0030】
本発明に係る化合物としては、一般式(2)中、A1及びA2の少なくとも一方が一般式(A-1)で表される基であり、Z1がC1-6アルキレン基又はフェニレン基である化合物、又は、一般式(3)中、A1及びA2の少なくとも一方が一般式(A-1)で表される基であり、Z1がC1-6アルキレン基又はフェニレン基である化合物が好ましく;一般式(2)中、A1及びA2の両方が一般式(A-1)で表される基であり、Z1がメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、又はフェニレン基である化合物、又は、一般式(3)中、A1及びA2の両方が一般式(A-1)で表される基であり、Z1がメチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、又はフェニレン基である化合物がより好ましく;一般式(2)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がエチレン基又はフェニレン基であり、R2がメチル基、エチル基、n-ブチル基である化合物、又は、一般式(3)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がエチレン基又はフェニレン基であり、R3及びR4が、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である化合物がさらに好ましく;一般式(2)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がエチレン基又はフェニレン基であり、R2がメチル基である化合物、又は、一般式(3)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がエチレン基又はフェニレン基であり、R3及びR4がいずれも水素原子である化合物がよりさらに好ましく;一般式(2)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がフェニレン基であり、R2がメチル基である化合物、又は、一般式(3)中、A1及びA2の両方がフェニル基であり、Z1がフェニレン基であり、R3及びR4がいずれも水素原子である化合物が特に好ましい。
【0031】
一般式(1)で表される化合物の合成方法は特に限定されない。例えば、オキサプロジンのカルボキシ基をアルキルエステル化することにより、一般式(1)中、R1がC1-6アルコキシ基である化合物を合成することができる。同様に、オキサプロジンのカルボキシ基をアミノ化することにより、一般式(1)中、R1がアミノ基である化合物を合成することができる。
【0032】
例えば、一般式(1)中、R1がC1-6アルコキシ基である化合物は、以下の方法で合成することができる。まず、下記化合物(C1)と化合物(C2)を縮合させる。一般式(C1)及び(C2)中、A1、A2、X1、Z1は、一般式(1)と同じである。R5は、C1-6アルキル基である。その後、得られた縮合物を酢酸アンモニウムの存在下で閉環させることにより、オキサゾール環又はイミダゾール環を有するアルキルエステル(一般式(1)中、R1がC1-6アルコキシ基である化合物)を合成する。得られたアルキルエステルをアミノ化することにより、一般式(1)中、R1がアミノ基である化合物を合成できる。
【0033】
【0034】
一般式(1)で表される化合物は、コラーゲンの産生を抑制する作用を有している。このため、一般式(1)で表される化合物は、コラーゲンの過剰沈着に起因する細胞又は組織の線維化によって特徴付けられる疾患に対する治療用に用いられる医薬用組成物の有効成分として好適である。当該疾患としては、コラーゲンの過剰沈着による細胞又は組織の繊維化が生じる疾患であれば、特に限定されるものではなく、例えば、肺線維症、肝線維化、腎線維化、消化器線維症、皮膚線維化などを含む各種臓器の線維症、クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、並びに、全身性強皮症などが挙げられる。また、繊維化の抑制は、EMTの抑制ももたらす。このため、一般式(1)で表される化合物を有効成分とする医薬用組成物は、EMTの抑制により症状の改善が期待できる疾患、例えば、癌の治療用にも用いることができる。
【0035】
本発明に係る医薬用組成物の有効成分としては、一般式(1)で表される化合物の薬理学的に許容可能な塩であってもよい。一般式(1)で表される化合物の薬理学的に許容可能な塩としては、無機塩であってもよく、有機塩であってもよい。当該無機塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ塩や、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルミニウム塩等が挙げられる。当該有機塩としては、トリス塩、メチルアミン塩、エチルアミン塩、エタノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る医薬用組成物の有効成分としては、一般式(1)で表される化合物の溶媒和物、又は、一般式(1)で表される化合物の薬理学的に許容可能な塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0037】
本願明細書中、「薬理学的に許容可能な」は、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又はその他の問題あるいは合併症がなく、妥当な利点/危険の比と相応しており、人間及び動物の組織と接触して使用するために適切であるという正しい医学的判断の範囲内にあるそのような化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を言い表すために使用される。
【0038】
本発明に係る医薬用組成物は、一般式(1)で表される化合物のみからなるものであってもよく、その他の成分を含むものであってもよい。本発明に係る医薬用組成物としては、一般式(1)で表される化合物を薬理学的に許容可能な担体と組み合わせて、製剤上の常套手段により様々な剤型に製剤化することができる。「薬理学的に許容可能な担体」は、製剤の他の成分と適合し、被験者に有害ではない成分をいう。当該担体としては、当業者に知られている任意の、溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存料(例えば抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存料、薬剤、薬物安定剤、ゲル、結合剤、添加剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香味料、染料、及び/又はそれらの材料及び組合せが含まれる。本願明細書の開示に基づき、一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物を処方することは、本技術分野の範囲内である。例えば、医薬品の分野の標準的技法に従って、一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物を処方することが可能である。例えば、Alphonso Gennaro,ed.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,(1990)Mack Publishing Co.,Easton,Paを参照。
【0039】
本発明に係る医薬用組成物は、所望により、さらに、1又はそれ以上の他の有効成分を含んでもよい。「他の有効成分」は、一般式(1)で表される化合物と同様に、コラーゲン産生の抑制作用や、抗繊維化作用、抗炎症作用等を有する成分が好ましい。本発明に係る医薬用組成物は、これら以外の活性を有する成分であってもよい。
【0040】
本発明に係る医薬用組成物の投与経路は特に限定されない。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、トローチ、ドリンク剤等に処方して経口投与してもよい。あるいは、パッチ剤等の経皮投与、腹腔内投与、静脈内点滴若しくは注射等による静脈内投与などの非経口投与を用いてもよい。その他、筋肉内注射等による筋肉内投与、経腸投与、局所投与等による投与も可能である。一態様において、本発明に係る医薬用組成物は、経口投与、経皮投与、腹腔内投与又は静脈内投与される。本発明に係る医薬用組成物の処方(製剤)の具体例を以下に示す。
【0041】
例えば、経口投与用の錠剤、散剤、顆粒剤、トローチ、カプセル剤等は一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物に、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤又は滑沢剤等の1つ以上の固形不活性成分を添加して圧縮成型し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のためのコーティングを行うことにより製造することができる。
【0042】
注射剤は、例えば、一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物を、例えば分散剤、保存剤、等張化剤等と共に水性注射剤として、あるいはオリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油等の植物油、プロピレングリコール等に溶解、懸濁あるいは乳化して油性注射剤として成型することにより製造することができる。
【0043】
外用剤は、例えば、一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物を固状、半固状又は液状の組成物とすることにより製造される。例えば、上記固状の組成物は、該医薬組成物をそのまま、あるいは賦形剤、増粘剤などを添加、混合して粉状とすることにより製造される。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様で、油性あるいは水性懸濁剤とすることにより製造される。半固状の組成物は、水性又は油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれも緩衝剤、防腐剤などを含んでいてもよい。外用剤は、例えば、局所投与用のクリーム、ローション、ゲル、軟膏等が含まれる。
【0044】
座剤は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物を油性又は水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造される。このような組成物に用いる油性基剤としては、例えば、高級脂肪酸のグリセリド(例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類等)、中級脂肪酸(例えば、ミグリオール類等)、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油等)等が挙げられる。水性ゲル基剤としては、例えば天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体等が挙げられる。
【0045】
本発明に係る医薬用組成物の投与量及び投与期間は、投与対象のサイズ、質量、年齢及び性別、治療される疾患の性質及び段階、疾患の攻撃性、投与経路、並びに放射線の特定の毒性を含む個々の患者の特定の状況によって決定される。投与量及び投与期間は、また、既知の試験プロトコルを用いて実験的に、又は生体内若しくは生体外試験データからの外挿法によって決定されうる。本願明細書に記載する濃度範囲は、例示的な目的のみであり、請求される組成物の範囲又は実施化を制限するものではない。
【0046】
例えば、一般式(1)で表される化合物を含む医薬組成物中の投与量は、有効成分である一般式(1)で表される化合物の量で0.01~2000mg/kg/日、より好ましくは0.05~1000mg/kg/日、さらに好ましくは1.0~500mg/kg/日である。本発明に係る医薬用組成物は、1日1回で投与されてもよく、又は同時に若しくは時間間隔を置いて投与される何回かの低用量に分割されてもよい。
【0047】
本発明に係る医薬用組成物が投与される動物は、特に限定されるものではなく、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物であってもよい。非ヒト動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物等が挙げられる。
【実施例0048】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<クロマトグラフィー>
以降の実験において、薄層クロマトグラフィーは、シリカゲル(「Silica gel 60 F254」、メルク社製)を用いた。カラムクロマトグラフィーには、シリカゲル(「シリカゲル60N(球状,中性)、関東化学社製)を用いた。
【0050】
<NMR>
以降の実験において、NMRは、以下の通りにして行った。
まず、1H-NMR及び13C-NMRスペクトルの測定には、NMR装置(「BRUKER AVANCE 600(600MHz)」、ブルカー・バイオスピン社製)を使用した。ケミカルシフトは、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準としたδ値(ppm)で示し、J値はHzで示した。質量分析(FAB)と高分解能質量分析(HRMS)は、質量分析装置(「JMS―DX303HF MASS spectrometer」、JOEL社製)を使用して測定した。赤外線吸収スペクトル(IR)は、IR装置(「Frontier」、perkin Elmer社製)を用いて測定した。元素分析は、有機元素分析装置(「MICRO CORDER JM10」、ジェイ・サイエンスグループ社製)を用いて測定した。
【0051】
[実施例1]
本発明者らは、オキサプロジンとSB-431542の構造的特徴に着目し、オキサプロジンの4,5-ジフェニルオキサゾール部分と、SB-431542のカルバモイルフェニル部分を合体させた新規化合物(AF-1、AF-2、AF-3)を合成し、その活性を調べた。
【0052】
<化合物の合成>
Pickettらの手法(非特許文献2)に従い、ベンゾイン(化合物(C1-1))とメチル-4-(クロロホルミル)ベンゾエイト(化合物(C2-1))を縮合させた化合物(C3-1)を、収率62%で得た。化合物(C3-1)と酢酸アンモニウムを混合し、無水条件下にて還流することによって、オキサゾール環を持つ目的の化合物(AF-1)を、収率32%で得た。さらに、Ammiratiらの手法(非特許文献3)に従って、化合物(AF-1)のエステル部分を加水分解して目的の化合物(AF-2)を、収率92%で合成した。化合物(AF-2)のカルボキシ基をアミド化し、目的の化合物(AF-3)を、収率24%で得た。以下、詳細を述べる。
【0053】
【0054】
(1)化合物(C3-1)(Methyl (2-oxo-1,2-diphenylethyl) terephthalate)の合成
無水条件でベンゾイン(化合物(C1-1))(1.06g、5mmol)をジエチルエーテル(125mL)に溶解し、メチル-4-(クロロホルミル)ベンゾエイト(化合物(C2-1))(1.09g、5.5mmol)とTEA(0.836mL、6mmol)とを加え、無水条件下にて12時間還流して反応させた。反応終了後、室温に戻した後、吸引濾過した。得られた濾液を、精製水、5% 塩酸、5% 水酸化ナトリウム、精製水、及び飽和食塩水で順次抽出を行った。その後、得られた有機層に、硫酸ナトリウムを加えて乾燥させ、ジエチルエーテルを減圧下で留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2)で精製して、化合物(C3-1)(1.155g、収率62%)を得た。
【0055】
MS (FAB) (M+H)+ m/z 375.3.
1H NMR (600MHz, CDCl3) δ; 3.93(s,3H), 7.10(s,1H), 7.37-7.43(m, 5H) , 7.51-7.54(m, 1H), 7.56-7.58(m, 2H), 7.98-8.00(m, 2H), 8.09-8.11(m, 2H), 8.17-8.19(m, 2H)
13C NMR (150MHz, CDCl3) δ; 52.44, 78.38, 128.73, 128.79, 178.87, 129.25, 129.51, 129.60, 129.97, 130.14, 133.25, 133.52, 133.61, 133.78, 134.31, 134.64, 165.27, 166.25, 193.36.
【0056】
(2)化合物(AF-1:Methyl 4-(4,5-diphenyloxazol-2-yl)benzoate)の合成
フラスコ内で、化合物(C3-1)(1.07g、2.86mmol)を氷酢酸(25mL)に溶解させた後、酢酸アンモニウム(275mL、3.57mmol)を混合し、155℃で無水条件下にて2時間還流させた後、室温で12時間撹拌して反応させた。反応終了後、精製水を加えて溶媒を除去した。当該フラスコに残った粘性のある物質にエタノールを加え、吸引濾過した。再結晶を行い、目的化合物(AF-1)を得た(330mg、収率32%)。
【0057】
MS (FAB)(M+H)+ m/z 356.3.
1H NMR (600MHz, CDCl3)δ: 3.95(s, 3H), 7.35-7.44(m, 6H), 7.68-7.69(m, 2H), 7.71-7.73(m, 2H), 8.14-8.16(m, 2H), 8.21-8.23(m, 2H).
13C NMR (150MHz,CDCl3)δ: 52.30, 52.44, 78.37, 126.28, 126.71, 128.14, 128.43, 128.69, 128.71, 128.73, 128.77, 128.87, 128.89, 129.25, 129.51, 129.59, 129.59, 129.97, 130.08, 131,19, 131.46, 132.30, 133.60, 137.29, 146.38, 159.15, 166.52.
【0058】
(3)化合物(AF-2:4-(4,5-Diphenyloxazol-2-yl) benzoic acid)の合成
化合物(AF-1)(190mg、0.534mmol)にアセトン(10mL)を加え、1M-LiOH(3mL)を加えた。80℃で3時間撹拌し、室温で18時間撹拌した。反応終了後、1M HClを加えてpH2に調整した。吸引濾過し、目的の化合物(AF-2)を得た(170mg、収率92%)。
【0059】
MS (FAB) (M+H)+ m/z 342.3.
1H NMR (600MHz, CDCl3)δ: 7.43-7.51(m, 6H), 7.67-7.69(m,4H), 8.12(d, J = 8.3Hz, 2H), 8.22(d, J=8.3Hz, 2H), 13.26(s,1H).
Anal. Calcd for C22H15NO3 1/2H2O: C, 75.42; H, 4.60; N, 4.00. Found: C, 75.69; H, 4.58; N, 4.04.
IR (ATR) 2851, 1689 cm-1.
【0060】
(4)化合物(AF-3:4-(4,5-Diphenyloxazol-2-yl) benzamide)の合成
化合物(AF-2)(120mg、0.351mmol)と塩化チオニル(2mL)とを混合し、96℃で3時間還流させた。得られた反応物を、室温に戻した後、塩化チオニルで共沸させた。次いで、1,4-ジオキサンに溶かし、0℃まで冷やし、33% 水酸化アンモニウム(0.4mL)を加え、室温で30分間撹拌した。析出した結晶を吸引濾過し、目的の化合物(AF-3)を得た(29mg、収率24%)。
【0061】
MS (FAB) (M+H)+ m/z 341.1.
1H NMR (600MHz, CDCl3)δ: 5.79-6.17(d, 2H), 7.37-7.43(m,6H), 7.68-7.70(m, 2H), 7.7.2-7.74(m, 2H), 7.93(d, J=8.4Hz, 2H), 8.24(d, J=8.4Hz, 2H).
13C NMR (150MHz, CDCl3) δ: 128.05, 128.44, 129.18, 129.40, 129.47, 130.51, 132.28, 133.94, 134.55, 137.22, 146.34, 159.07, 168.47.
Anal. Calcd for C22H16N2O2 3/2H2O: C,71.92; H, 5.21; N, 7.62. Found: C, 71.21; H, 5.21; N, 7.70. IR(ATR) 3356, 3182, 1667 cm-1.
【0062】
<細胞形態に基づくEMT阻害活性の評価>
オキサプロジン、化合物(AF-1)、化合物(AF-2)、及び化合物(AF-3)のEMT阻害活性は、細胞形態の変化を観察することによって評価した。具体的には、6ウェルプレートに、A549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株)の0.5×105cell/mL(培養液1mL)を各ウェル1mLずつ播種し、終夜培養した。その後、A549細胞を播種したウェルに、被験化合物(オキサプロジン、化合物(AF-1)、化合物(AF-2)、又は化合物(AF-3))を1% DMSO溶液に溶解させた溶液を、当該被験化合物の終濃度が10μMとなるように添加し、1時間インキュベートした後、TGF-β(10ng/mL)を添加して3日間培養した。対照として、等量の1% DMSO溶液を同様に、A549細胞を播種したウェルに添加してインキュベートした後、TGF-βを添加して培養した。3日間のインキュベート後の細胞の形態を、蛍光顕微鏡(「BZ―9000」、KEYENCE社製)を用いて観察した。
【0063】
図1に、各細胞の顕微鏡画像を示す。察の結果、A549細胞は、TGF-βの存在下では、間葉系細胞の特徴である先の尖った形の紡錘状の細胞形態に変化していた。この細胞形態の変化を、化合物(AF-1)は部分的に、化合物(AF-3)は全体的に抑制していた。EMT進行の際に見られる細胞形態の変化を抑制したことから、化合物(AF-1)と化合物(AF-3)は、EMT阻害活性を持つことが明らかとなった。
【0064】
<コラーゲン発現量に基づく抗繊維化活性の評価-ウェスタンブロット法>
オキサプロジン又は化合物(AF-3)で処理した後にTGF-βで刺激した成人皮膚繊維芽細胞のI型コラーゲンの発現量によって、化合物(AF-3)の抗繊維化活性を評価した。I型コラーゲンの発現量は、ウェスタンブロットにより調べた。まず、24ウェルプレートに成人皮膚繊維芽細胞の1.0×105cell/mL(培養液1mL)を各ウェル1mLずつ播種し、終夜培養した。その後、成人皮膚繊維芽細胞を播種したウェルに、被験化合物(オキサプロジン又は化合物(AF-3))を1% DMSO溶液に溶解させた溶液を、当該被験化合物の終濃度が10μM又は25μMとなるように添加し、1時間インキュベートした後、TGF-β(10ng/mL)を添加して2日間培養した。対照として、等量の1% DMSO溶液を同様に、成人皮膚繊維芽細胞を播種したウェルに添加してインキュベートした後、TGF-βを添加して培養した。
【0065】
培養後の細胞をRIPAバッファーを添加して破砕し、破砕液を100℃で10分間煮沸することによって、細胞を溶解させた。得られた細胞溶解液を、電気泳動した後に膜(ミリポア社製)に転写し、ヤギ抗I型コラーゲン抗体(SouthernBiotech社製)を一次抗体として反応させて、ウェスタンブロットを行った。検出は、ケミルミイメージャー(「ImmunoStar LD」、富士フィルム和光純薬社製)を用いて行った。I型コラーゲンの発現量は、β-アクチンの発現量を内部標準として補正した。
【0066】
I型コラーゲンの発現量の測定結果を
図2に示す。
図2(A)が、ウェスタンブロットの結果であり、
図2(B)が、前記ウェスタンブロットから求めた、各細胞のI型コラーゲンの相対発現量である。成人皮膚繊維芽細胞をTGF-βで刺激すると、I型コラーゲンが増加し、繊維芽細胞が活性化した。この活性化した細胞に化合物(AF-3)を加えることによって、用量依存的にI型コラーゲンの増加が抑制された。化合物(AF-3)はコラーゲン産生を抑制したため、抗線維化活性を持つことが分かった。なお、本実験では、オキサプロジンのI型コラーゲン抑制効果が見られなかったが、これは、オキサプロジンの添加量が少なかったためであり、より高濃度のオキサプロジンで処理した場合には、抗線維化活性が確認できると推察された。
【0067】
<コラーゲン発現量に基づく抗繊維化活性の評価-ELISA法>
ウエスタンブロット法に代えてELISAの直接吸着法を用いて、細胞外のI型コラーゲン量を測定した。まず、24ウェルプレートに成人皮膚繊維芽細胞の1.0×105cell/mL(培養液1mL)を各ウェル1mLずつ播種し、終夜培養した。その後、成人皮膚繊維芽細胞を播種したウェルに、被験化合物(オキサプロジン又は化合物(AF-3))を1% DMSO溶液に溶解させた溶液を、当該被験化合物の終濃度が10μMとなるように添加し、1時間インキュベートした後、TGF-β(10ng/mL)を添加して1日間培養した。対照(その1)として、等量の1% DMSO溶液を同様に、成人皮膚繊維芽細胞を播種したウェルに添加してインキュベートした後、TGF-βを添加せずに培養した。対照(その2)として、等量の1% DMSO溶液を同様に、成人皮膚繊維芽細胞を播種したウェルに添加してインキュベートした後、TGF-βを添加して培養した。
【0068】
培養後の細胞を、3% パラホルムアルデヒド溶液(東京化成社製)中で20分間インキュベートして固定化を行った。1% グリシン溶液(メルク社製)を添加して固定化反応を停止させた後、5% ヤギ血清(富士フィルム和光純薬社製)のPBS溶液を用いて15分間ブロッキングを行った。ブロッキング後の細胞に、1% BSA(ウシ血清アルブミン)を含むヤギ抗I型コラーゲン抗体(MBL社製)のPBS溶液を加え、一次抗体として1時間反応させた。その後、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgG抗体を30分間反応させた。検出はOPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩)試薬(富士フィルム和光純薬社製)を用いて行った。
【0069】
I型コラーゲンの発現量(対照(その1)の細胞のI型コラーゲン量を1とした相対値)の測定結果を
図3に示す。この結果、ウェスタンブロットの結果と同様に、化合物(AF-3)で処理した細胞ではコラーゲン量が減少していることが確認された。これらの結果から、化合物(AF-3)はコラーゲン産生抑制作用、ひいては抗線維化作用を持つことが示された。