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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142331
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】アニサキス種判別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230928BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20230928BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049187
(22)【出願日】2022-03-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「アニサキス発症リスクを最小化するサバ養殖技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】507157045
【氏名又は名称】公立大学法人福井県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 文雄
(72)【発明者】
【氏名】末武 弘章
(72)【発明者】
【氏名】宮台 俊明
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA07
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来のアニサキス判別方法と比べて、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法を提供する。
【解決手段】試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、前記核酸を鋳型としたPCR工程と、前記PCR工程における結果を基に、前記試料がAnisakis simplex sensu latoに由来するか否かを判別する判別工程を含み、前記PCR工程が、特定の塩基配列の特定の領域を増幅する工程である、アニサキス種判別方法を提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、
前記核酸を鋳型としたPCR工程と、
前記PCR工程における結果を基に、前記試料がAnisakis simplex sensu latoに由来するか否かを判別する判別工程を含み、
前記PCR工程が、以下の(a)(b)のいずれかである、アニサキス種判別方法。
(a) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基及び/若しくは322番目の塩基を含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基及び/若しくは348番目の塩基を含む領域、並びに/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基及び/若しくは320番目の塩基を含む領域を増幅する工程
(b) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から323番目の塩基から598番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から349番目の塩基から624番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から596番目の塩基までを含む領域を増幅する工程
【請求項2】
さらに、前記試料がAnisakis simplex sensu latoに由来すると判別された場合、前記試料が、Anisakis simplex、Anisakis pegreffii、及びAnisakis berlandiからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含む、
請求項1に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項3】
前記PCR工程が前記(a)であって、且つ(a’)である、請求項1又は2に記載のアニサキス種判別方法。
(a’) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基から322番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基から348番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基から320番目の塩基までを含む領域を増幅する工程
【請求項4】
前記PCR工程が前記(a)であって、且つ(c)(d)のいずれかである、請求項1又は2に記載のアニサキス種判別方法。
(c) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から291番目の塩基から325番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から317番目の塩基から351番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から289番目の塩基から323番目の塩基までを含む領域を増幅する工程
(d) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から324番目の塩基までを含む領域、及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から347番目の塩基から350番目の塩基までを含む領域を増幅する工程
【請求項5】
前記PCR工程が前記(c)(d)のいずれかであって、前記判別工程が、PCR工程におけるPCR増幅産物の溶解温度を測定する方法を含む、請求項4に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項6】
前記PCR工程が、二重鎖DNAに特異的に結合する色素の存在化で核酸を増幅するPCR工程であって、
前記判別工程が、高分解能融解曲線解析を含む、請求項5に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項7】
前記PCR工程が、以下の(e)(f)のいずれかのプライマーセットを用いる請求項4~6いずれか一項に記載のアニサキス種判別方法。
(e) フォワードプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号4に記載の塩基配列を含み、リバースプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号5に記載の塩基配列を含む、プライマーセット
(f) フォワードプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号6及び/又は7に記載の塩基配列を含み、リバースプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号8に記載の塩基配列を含む、プライマーセット
【請求項8】
前記プライマーセットが、配列番号4に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるリバースプライマーであるプライマーセット、並びに/若しくは、配列番号6又は7に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に記載の塩基配列からなるリバースプライマーである、
請求項7に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項9】
前記PCR工程が前記(b)であって、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、以下の(g)及び(h)のプライマーを含むプライマーセットを用いる請求項1又は2に記載のアニサキス種判別方法
(g) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマー
(h) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマー
【請求項10】
前記プライマーセットが、
配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、
配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、
前記判別工程が、前記PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、前記試料はAnisakis pegreffiiに由来すると判別する、
請求項1、2又は9に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項11】
前記フォワードプライマーの塩基配列が、配列番号9に記載の塩基配列であり、前記リバースプライマーの塩基配列が、配列番号10に記載の塩基配列である、請求項9又は10に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項12】
前記プライマーセットが、
配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、
配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号2に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、
前記判別工程が、前記PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、前記試料はAnisakis simplexに由来すると判別する、
請求項1、2又は9に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項13】
前記フォワードプライマーの塩基配列が、配列番号11に記載の塩基配列であり、前記リバースプライマーの塩基配列が、配列番号10に記載の塩基配列である、請求項9又は12に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項14】
前記プライマーセットが、
配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、
配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、
前記判別工程が、前記PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、前記試料はAnisakis berlandiに由来すると判別する、
請求項1、2又は9に記載のアニサキス種判別方法。
【請求項15】
前記フォワードプライマーの塩基配列が、配列番号12に記載の塩基配列であり、前記リバースプライマーの塩基配列が、配列番号13に記載の塩基配列である、請求項9又は14に記載のアニサキス種判別方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCR法によりアニサキスの生物種を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アニサキスを原因とする食中毒の症例が増加している。アニサキスは種によって食中毒を発症するリスクが異なるため、食中毒リスクを把握するためには、アニサキスの種判別技術が必要であるが、形態に基づく判別は困難であった。近年、PCR法等の分子生物学的手法により、アニサキスの種を判別する方法が開発された。具体的には、ミトコンドリアcox2遺伝子の塩基配列情報により判別する方法(非特許文献1)、PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法(非特許文献2)、ミスマッチプライマーを用いたPCR法(非特許文献3)等が知られている。
【0003】
また、アニサキス属の分子生物学的分類が進んだことで、Anisakis simplexとAnisakis pegreffiiとが属する「広義のAnisakis simplex(Anisakis simplex sensu lato)」には、同胞種としてAnisakis berlandiも含まれることも明らかになってきた。Anisakis simplex sensu lato内の種は、アニサキス属の18sリボソーマルRNAをコードする領域のPCR増幅産物のシーケンス解析や、PCR-RFLP法により判別可能であることが知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Alice Valentini, Simonetta Mattiucci, Paola Bondanelli Stephen C. Webb, Antonio A. Mignucci-Giannone, Marlene M. Colom-Llavina, Giuseppe Nascetti. Genetic relationships among Anisakis species (Nematoda : Anisakidae) inferred from mitochondrial COX2 sequences, and comparison with allozyme data. Journal of Parasitology, 92(1), 156-66 (2006)
【非特許文献2】Azusa Umehara, Yasushi Kawakami, Toshihiro Matsu, Jun Araki, Akihiko Uchida. Molecular identification of Anisakis simplex sensu stricto and Anisakis pegreffii (Nematoda: Anisakidae) from fish and cetacean in Japanese waters. Parasitology International, 55, 267-271 (2006)
【非特許文献3】Azusa Umehara, Yasushi Kawakami, Jun Araki, Akihiko Uchida. Multiplex PCR for the identification of Anisakis simplex sensu stricto, Anisakis pegreffii and the other anisakid nematodes. Parasitology International, 57, 49-53 (2008)
【非特許文献4】鈴木淳,村田理恵.「わが国におけるアニサキス症とアニサキス属幼線虫」東京都健康安全研究センター研究年報第62号別刷(2011年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載の方法では、PCR工程によりcox2遺伝子領域を増幅し、その増幅産物の塩基配列情報を読み取る必要があること、また、非特許文献2に記載の方法では、PCR増幅産物を制限酵素で切断し、その切断パターンで判別する方法であることから、これらの方法では手順が多く、簡便な方法ではなかった。また、非特許文献3に記載の方法を、発明者が試したところ、必ずしも正確な結果を得られることができなかった。したがって、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法が求められていた。
【0006】
また、非特許文献2及び3に記載の方法では、Anisakis simplexとAnisakis pegreffiiとを区別することができるが、それ以外の種のアニサキスの種判別をすることはできなかった。非特許文献4に記載の方法では、非特許文献1と同様にシーケンス解析やPCR-RFLP法によるため、簡便な方法ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、簡便且つ正確にアニサキスの種判別が可能な方法を提供する。すなわち、本発明は、試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸を鋳型としたPCR工程と、PCR工程における結果を基に、試料がいずれの生物種に由来するかを判別する判別工程を含むアニサキス種判別方法である。判別工程は、Anisakis属に属する種、又は、Pseudoterranova属に属する種のいずれに由来するかを判別する判別工程、Anisakis属の広義のAnisakis simplex(Anisakis simplex sensu lato)に属する場合に、Anisakis simplex及びAnisakis berlandiか、Anisakis pegreffiiのいずれに由来するかを判別する判別工程、及び/若しくは、Anisakis simplex、Anisakis pegreffii、及びAnisakis berlandiからなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程であり得る。
【0008】
本発明におけるPCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基及び/若しくは322番目の塩基を含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基及び/若しくは348番目の塩基を含む領域、並びに/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基及び/若しくは320番目の塩基を含む領域を増幅する工程である。
【0009】
本発明の別のPCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基から322番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基から348番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基から320番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。
【0010】
さらに、本発明の別のPCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から291番目の塩基から325番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から317番目の塩基から351番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から289番目の塩基から323番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。また、別の本発明のPCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から324番目の塩基までを含む領域、及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から347番目の塩基から350番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。
【0011】
別の本発明は、判別工程はPCR増幅産物の融解温度(melting temperature)を測定する工程を含む。好ましくは、判別工程は、高分解能融解曲線(High Resolution Melting; HRM)解析を含み、係る場合のPCR工程は、二重鎖DNAに特異的に結合する色素の存在下で核酸を増幅するPCR工程である。
【0012】
本発明のPCR工程に用いられるプライマーセットは、(d) フォワードプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号4に記載の塩基配列を含み、リバースプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号5に記載の塩基配列を含むプライマーセット、(e) フォワードプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号6及び/又は7に記載の塩基配列を含み、リバースプライマーの3’末端側の塩基配列が、配列番号8に記載の塩基配列を含むプライマーセットであり得る。さらに、プライマーセットは、配列番号4に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号5に記載の塩基配列からなるリバースプライマーであるプライマーセット、並びに/若しくは、配列番号6又は7に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号8に記載の塩基配列からなるリバースプライマーであり得る。
【0013】
また、別の本発明のPCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から323番目の塩基から598番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から349番目の塩基から624番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から596番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。
【0014】
本発明のPCR工程は、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマー、並びに、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーを含むプライマーセットであり得る。
【0015】
また、別の本発明は、プライマーセットが、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis pegreffiiに由来すると判別する、アニサキス種判別方法である。かかる場合、フォワードプライマーの塩基配列は、配列番号9に記載の塩基配列であり、リバースプライマーの塩基配列は、配列番号10に記載の塩基配列であり得る。
【0016】
さらに、別の本発明は、プライマーセットが、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号2に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis simplexに由来すると判別する、アニサキス種判別方法である。かかる場合、フォワードプライマーの塩基配列は、配列番号11に記載の塩基配列であり、リバースプライマーの塩基配列は、配列番号10に記載の塩基配列であり得る。
【0017】
さらに、別の本発明は、プライマーセットが、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなり、判別工程が、PCR工程において増幅する核酸が存在する場合に、試料はAnisakis berlandiに由来すると判別する、アニサキス種判別方法である。かかる場合、フォワードプライマーの塩基配列は、配列番号12に記載の塩基配列であり、リバースプライマーの塩基配列は、配列番号13に記載の塩基配列であり得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便に且つ正確にアニサキスの種判別が可能である。本発明では、試料の由来がA. simplex sensu latoに属するか否かを判定可能なのはもちろん、A. simplex sensu latoの同胞種である、A. simplex sensu stricto、A. pegreffii、及びA. berlandiのいずれに属するかも容易に判別することができる。本発明者らは、18SリボソーマルRNA等をコードする塩基配列のうち、正確な判別が可能な領域の特定に成功し、本発明に到達した。
【0019】
PCR増幅産物の融解温度を測定する工程を含む本発明は、A. simplex sensu latoに属するか、さらにA. simplex sensu latoに属すると判定された場合に、A. simplex sensu stricto、A. pegreffii、及びA. berlandiのいずれに属するかをワンステップで判定することが可能である。また、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼを用いる本発明は、通常のPCR法により実施可能であり、特別な設備や手順等を必要としないというメリットを有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のPCR工程における鋳型の増幅領域を示す図である。図中、左側の数字は、左端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示し、右側の数字は、右端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示す。アスタリスクは、その行の塩基が配列間で全て同一であることを示す。
図2】本発明のPCR工程における鋳型の増幅領域を示す図である。図中、左側の数字は、左端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示し、右側の数字は、右端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示す。アスタリスクは、その行の塩基が配列間で全て同一であることを示す。
図3】本発明のPCR工程における鋳型の増幅領域を示す図である。図中、左側の数字は、左端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示し、右側の数字は、右端の塩基が各配列において5’末端から何番目であるかを示す。アスタリスクは、その行の塩基が配列間で全て同一であることを示す。
図4】実施例のHRM解析による判別工程の判別結果を示す図である。
図5】実施例のHRM解析による判別工程の判別結果を示す図である。
図6】実施例のHRM解析による判別工程の判別結果を示す図である。
図7】実施例のHRM解析による判別工程の判別結果を示す図である。
図8】実施例の電気泳動による判別工程の判別結果を示す図である。図中、「S」はA. simplex由来の鋳型、「P」はA. pegreffii由来の鋳型、「B」はA. berlandi由来の鋳型、「W」は陰性対照として鋳型の替わりに蒸留水を用いたことを示す。
図9】実施例の電気泳動による判別工程の判別結果を示す図である。図中、「1」「2」は鋳型として用いたアニサキスの個体番号であり、「W」は陰性対照として鋳型の替わりに蒸留水を用いたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、試料から核酸を抽出する核酸抽出工程と、核酸を鋳型としたPCR工程と、PCR工程における結果を基に、試料がAnisakis simplex sensu lato(以下、「Anisakis simple s.l.」「A. simplex s.l」と称する場合がある)に由来するか否かを判定する工程を含むアニサキス種判別方法である。さらに、別の本発明は、試料がAnisakis simplex sensu latoに由来すると判別された場合に、Anisakis simplex sensu stricto(以下、「A. simplex s.s.」又は、単に「Anisakis simplex」や、「A. simplex」と称する場合がある)、Anisakis pegreffii(以下、「A. pegreffii」と称する場合もある)、及びAnisakis berlandi(以下、「A. berlandi」と称する場合もある)からなる群に含まれるいずれの種に由来するかを判別する判別工程を含むアニサキス種判別方法である。
【0022】
アニサキスとは、回虫目アニサキス科に属する線虫の総称であり、魚介類に寄生する寄生虫である。アニサキス症の原因となる生物種は、第3期幼虫の形態に基づいて、Anisakis type I、Anisakis type II、及びPseudoterranovaに分類される。
【0023】
アニサキス症のうち、最も多い症例は、Anisakis simplexを原因とするものである。また、アニサキス症の原因となる食材であるマサバ等の魚介類には、Anisakis simplex、及びAnisakis pegreffiiが多く寄生していることが知られているが、これら2種に加えて、Anisakis berlandiも多く寄生していることが分かった。同じA. simplex s.lに属するアニサキスであっても、種によって発症リスクが異なるため、魚介類のアニサキス発症リスクを見極めるためには、魚介類に寄生しているアニサキスの種を正確に判別することが必要である。
【0024】
本発明の核酸抽出工程は、試料から核酸を抽出する工程である。試料には、魚介類やアニサキス症を発症した患者から摘出されたアニサキスが用いられ、試料からアニサキスのリボソーマルRNA遺伝子を含むDNAやその断片を抽出する。抽出には、既知の核酸抽出方法や、市販の核酸抽出キットを使用することができる。
【0025】
本発明のPCR工程は、核酸抽出工程により抽出された核酸を鋳型としてPCRにより増幅する工程である。本発明の一実施態様におけるPCR工程は、A. simplex sensu latoに由来する試料が共通して増幅するプライマーを用いる。PCR工程により、PCR増幅産物が得られた場合には、試料がA. simplex sensu latoに由来すると判定され、PCR増幅産物が得られなかった場合には、試料がA. simplex sensu latoに由来しないと判定される。
【0026】
また、PCR増幅産物が得られた場合には、PCR増幅産物の塩基配列の違いから、Anisakis simplex sensu latoのうち、A. simplex sensu stricto、A. pegreffii、及びA. berlandiのいずれに属するかを判別することが可能である。かかる場合の判別工程は、PCR増幅産物の塩基配列を解読する工程や、PCR増幅産物の融解温度(melting temperatureとも言い、以下「Tm」と称する)を測定する工程であり得る。
【0027】
判別工程においてTmを測定する場合には、好ましくは、判別工程は高分解能融解曲線(High Resolution Meltingとも言い、以下「HRM」と称する)解析を含む。HRM解析は、複数のPCR増幅産物の融解変異を検出する方法であって、具体的には、二本鎖の核酸が一本鎖の核酸に解離する温度(Tm)を測定する方法である。判別工程がHRM解析を含む場合、PCR工程では、二重鎖DNA(以下、「dsDNA」と称する)に特異的に結合する色素の存在化で核酸を増幅するPCR工程であり得る。dsDNA結合色素としては、dsDNA結合色素としては、具体的には、ビスベンズイミド類、エチジウムブロマイド、SYBR(登録商標)グリーン等が挙げられる。
【0028】
HRM解析は、dsDNA結合色素が結合したPCR増幅産物を用いる。PCR増幅産物がアニールした状態で、温度を上昇させ、dsDNAが一本鎖に解離することに起因する蛍光値の低下から、PCR増幅産物のTmを推定することができる。
【0029】
本発明においては、PCR増幅産物のTmからA. simplex sensu stricto、A. pegreffii、及びA. berlandiのいずれに属するかを判別することができるため、HRM解析に限定されず、全てのTm解析方法を用いることが可能である。
【0030】
本発明のPCR工程で用いられるプライマーセットに含まれるプライマーは、配列番号1~3のいずれかに記載の塩基配列又は当該配列と相補的な配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能である。ここで、配列番号1は、A. pegreffiiのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBankアクセション番号:JN005756)であり、配列番号2は、A. simplex s.s.のリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBankアクセション番号:KF923929)であり、配列番号3は、A. berlandiのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBankアクセション番号:AY826722)である。
【0031】
本発明の一実施態様では、PCR工程は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基及び/若しくは322番目の塩基を含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基及び/若しくは348番目の塩基を含む領域、並びに/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基及び/若しくは320番目の塩基を含む領域を増幅する工程であり得る。当該領域の塩基配列を図1に示す。図1には、配列番号1~3に記載の塩基配列をアライメントした結果であり、配列番号1(アクセション番号:JN005756)は5’末端から291番目~325番目の塩基を、配列番号2(アクセション番号:KF923929)は5’末端から317番目~351番目の塩基を、配列番号3(アクセション番号:AY826722)は5’末端から289番目~323番目の塩基が記載されている。以下、塩基配列中の塩基の番号について、特記しない限り、当該塩基配列の5’末端からの塩基数である。
【0032】
配列番号1の306番目及び配列番号3の304番目の塩基はシトシン(C)であるが、配列番号2の332番目の塩基はチミン(T)である。したがって、これらの塩基に相当する塩基がシトシン(C)であれば、Anisakis pegreffii、又はAnisakis berlandiに由来する試料であり、チミン(T)であればAnisakis simplex s.s.であると判定することができる。
【0033】
配列番号1の322番目の塩基はシトシン(C)であるが、配列番号2の348番目の塩基及び配列番号3の320番目はチミン(T)である。したがって、これらの塩基に相当する塩基がシトシン(C)であれば、Anisakis pegreffiiに由来する試料であり、チミン(T)であればAnisakis simplex s.s.、又はAnisakis berlandiに由来する試料であると判定することができる。
【0034】
したがって、試料から得られたPCR増幅産物を、配列番号1とアライメントした場合、配列番号1の306番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、322番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)であり、配列番号2とアライメントした場合、配列番号2の332番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、348番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)であり、配列番号3とアライメントした場合、配列番号3の304番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、320番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)であるなら、当該試料はAnisakis pegreffiiに由来する試料であると判別される。
【0035】
同様に、試料から得られたPCR増幅産物を、配列番号1とアライメントした場合、配列番号1の306番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)で、322番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)であり、配列番号2とアライメントした場合、配列番号2の332番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)で、348番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)であり、配列番号3とアライメントした場合、配列番号3の304番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)で、320番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)であるなら、当該試料はAnisakis simplex s.s.に由来する試料であると判別される。
【0036】
同様に、試料から得られたPCR増幅産物を、配列番号1とアライメントした場合、配列番号1の306番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、322番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)であり、配列番号2とアライメントした場合、配列番号2の332番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、348番目の塩基に対応する塩基がチミン(T)であり、配列番号3とアライメントした場合、配列番号3の304番目の塩基に対応する塩基がシトシン(C)で、320番目の塩基と対応する塩基がチミン(T)であるなら、当該試料はAnisakis berlandiに由来する試料であると判別される。
【0037】
また、各配列上の2箇所の塩基は、15塩基対を挟んで存在し、非常に近い場所にあるため、1回のPCR工程で両塩基を含むPCR増幅産物を容易に得ることができる。特に、後述するPCR産物のTmを測定する工程を含む場合には、短いPCR増幅産物を用いて解析が可能であり、構成塩基数が少ないため、1~2塩基の違いがTmに与える影響が大きく、明確な解析結果が得られる点で有利である。
【0038】
したがって、本発明の一実施態様では、PCR工程は、(a’) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基から322番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基から348番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基から320番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。
【0039】
本発明の別の実施態様では、PCR工程は、(c) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から291番目の塩基から325番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から317番目の塩基から351番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から289番目の塩基から323番目の塩基までを含む領域を増幅する工程、(d) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から324番目の塩基までを含む領域、及び/又は配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から347番目の塩基から350番目の塩基までを含む領域を増幅する工程のいずれかである。当該領域を含むPCR増幅産物を得ることで、容易且つ正確に判別が可能となる。
【0040】
(c)のPCR工程における増幅領域は図1に示される塩基配列であり、(d)のPCR工程における増幅領域は図2に示される塩基配列である。PCR増幅産物は、当該塩基配列の共通のプライマーに由来する配列が5’末端側及び3’末端側に付加されたものである。
【0041】
(c)では、図1に示すように、各配列由来のPCR増幅産物は、配列番号1、配列番号3、配列番号2の順にGC含量が高く、Tmはこの順序で高いため、PCR増幅産物がいずれの配列に由来するかを判定することができる。
【0042】
(d)では、図2に示すように、配列番号1由来のPCR増幅産物が、配列番号2及び3由来のPCR増幅産物よりもGC含量が高く、Tmはこの順序で高いため、PCR増幅産物が配列番号1か、配列番号2及び3のいずれに由来するかを判定することができる。
【0043】
当該実施態様におけるプライマーセットは、図1及び/又は図2に記載の領域の全部又は一部が増幅可能であり、且つ配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基及び/若しくは322番目の塩基を含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基及び/若しくは348番目の塩基を含む領域、並びに/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基及び/若しくは320番目の塩基と、フォワードプライマー及びリバースプライマーがハイブリダイズしなければよい。
【0044】
具体的には、当該実施態様におけるプライマーセットのうち、フォワードプライマーは、鋳型となる二重鎖のうち、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から306番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から332番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から304番目の塩基に対応する相補鎖上の塩基にストリンジェントな条件でハイブリダイズしない。リバースプライマーは、鋳型となる二重鎖のうち、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基に対応する正鎖上の塩基にストリンジェントな条件でハイブリダイズしない。
【0045】
一例を示すと、(a)では、配列番号4に記載の塩基配列を含み、又は当該塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号5に記載の塩基配列を含み、又は当該塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットが用いられる。(b)では、配列番号6及び/又は7に記載の塩基配列を含み、又は当該塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号8に記載の塩基配列を含み、又は当該塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットが用いられる。
【0046】
本発明の別の実施態様におけるPCR工程は、(b) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から323番目の塩基から598番目の塩基までを含む領域、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から349番目の塩基から624番目の塩基までを含む領域、及び/又は、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から321番目の塩基から596番目の塩基までを含む領域を増幅する工程である。好ましくは、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼと、(g)及び(h)のプライマーを含むプライマーセットが用いられる。
【0047】
ここで、(g) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、前記塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーであり、(h)は、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、前記塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーである。
【0048】
プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼとは、プライマーが鋳型とハイブリダイズする際、プライマーの3’末端の塩基が、鋳型の塩基と相補的に結合しない場合に、プライマーの3’方向への伸長反応が生じないDNAポリメラーゼを言う。このようなDNAポリメラーゼを用いたPCRは、プライマーの3’末端の塩基が鋳型と相補的でない場合に、増幅産物がほとんど得られない、又は得られた増幅産物の量が極めて少ないという結果となる。このようなDNAポリメラーゼとしては、例えばTaqのKlenow fragmentを基に遺伝子改変した改変型ポリメラーゼが挙げられる。
【0049】
本発明のPCR工程で用いられるプライマーセットに含まれるプライマーは、配列番号1、配列番号2及び/又は配列番号3に記載の塩基配列又は当該配列と相補的な配列とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能である。ここで、配列番号1は、A. pegreffiiのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBank Accession: JN005756)であり、配列番号2は、A. simplex s.s.のリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBank Accession: KF923929)であり、配列番号3は、A. berlandiのリボソーマルRNAのうち、18S rRNA、ITS1、5.8S rRNA、ITS2及び28S rRNAをコードする塩基配列(GeneBank Accession: AY826722)である。
【0050】
配列番号1、配列番号2、及び配列番号3の塩基配列のアライメントの結果、図1に示すように、配列番号1では5’末端から322番目の塩基がシトシン(C)であるが、配列番号2及び3において当該塩基に相当する塩基はチミン(T)であった。また、図3に示すように、配列番号1では5’末端から599番目の塩基がチミン(T)であり、配列番号2において当該塩基に相当する塩基はチミン(T)であるが、配列番号3において当該塩基に相当する塩基はシトシン(C)であった。したがって、試料中の核酸からこれらのミスマッチを検出できれば、試料の由来がA. simplex s.s.、A. pegreffii、A. berlandiのいずれであるかを判別することが可能である。
【0051】
したがって、本発明に用いられるプライマーセットは、(g) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有するフォワードプライマー、(h) 配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基、及び/又は配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1、2及び/又は3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有するリバースプライマーを含む。
【0052】
プライマーにおいて、鋳型の塩基配列と連続的に相同的/相補的な塩基数は、正常なPCR反応が生じる範囲であれば限定されないが、通常は10塩基~30塩基であり、20塩基~25塩基であることが好ましい。プライマーは、鋳型となる塩基配列と相補的/相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能である。
【0053】
本発明の一態様では、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から322番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、配列番号1に記載の塩基配列の5’末端から599番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなるプライマーセットを用いて、試料がA. pegreffiiに由来するか否かを判定するアニサキス種判別方法である。
【0054】
当該フォワードプライマーは、鋳型が配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その逆鎖とハイブリダイズし、当該リバースプライマーは、鋳型が配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その正鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。その一方で、試料がA. simplex s.s.やA. berlandi由来であった場合には、フォワードプライマー及び/又はリバースプライマーの3’末端の塩基は、逆鎖と相補的に結合できず、PCR工程における増幅効率が顕著に低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がA. pegreffiiに由来するか、A. simplex s.s.やA. berlandiのどちらかに由来するかを判別することができる。
【0055】
かかる場合、配列番号9に記載の塩基配列を含む、又は配列番号9に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び、配列番号10に記載の塩基配列を含む、又は配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットを用いることができる。
【0056】
配列番号9に記載の塩基配列からなるフォワードプライマーは3’末端の塩基がシトシン(C)であり、配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマーは3’末端の塩基はアデニン(A)であり、いずれも配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合、その正鎖及び逆鎖とハイブリダイズし、PCR増幅産物が得られる。一方で、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、フォワードプライマーの3’末端が、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、フォワードプライマー及びリバースプライマーの3’末端が結合できないため、PCRの増幅効率が顕著に低下する。PCRの増幅結果から、アニサキスの種判別が可能となる。
【0057】
本発明の一態様では、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から348番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号2に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、配列番号2に記載の塩基配列の5’末端から625番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号1に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号1に記載の塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなるプライマーセットを用いて、試料がA. simplex s.s.に由来するか否かを判定するアニサキス種判別方法である。
【0058】
当該フォワードプライマーは、鋳型が配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その逆鎖とハイブリダイズし、当該リバースプライマーは、鋳型が配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その正鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。その一方で、試料がA. pegreffiiやA. berlandi由来であった場合には、フォワードプライマー及び/又はリバースプライマーの3’末端の塩基は、逆鎖と相補的に結合できず、PCR工程における増幅効率が顕著に低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がA. simplex s.s.に由来するか、A. pegreffiiやA. berlandiのどちらかに由来するかを判別することができる。
【0059】
かかる場合、配列番号11に記載の塩基配列を含む、又は配列番号11に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び、配列番号10に記載の塩基配列を含む、又は配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットを用いることができる。
【0060】
配列番号11に記載の塩基配列からなるフォワードプライマーは3’末端の塩基がチミン(T)であり、配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマーは3’末端の塩基はアデニン(A)であり、いずれも配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合、その正鎖及び逆鎖とハイブリダイズし、PCR増幅産物が得られる。一方で、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、フォワードプライマーの3’末端が、配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、リバースプライマーの3’末端が結合できないため、PCRの増幅効率が顕著に低下する。PCRの増幅結果から、アニサキスの種判別が可能となる。
【0061】
本発明の一態様では、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から320番目の塩基と相同的な塩基を3’末端とし、当該塩基から5’末端側の塩基配列と連続的に相同的な配列を有し、配列番号2に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるフォワードプライマーと、配列番号3に記載の塩基配列の5’末端から597番目の塩基と相補的な塩基を3’末端とし、配列番号3に記載の塩基配列において当該塩基から3’末端側の塩基配列と連続的に相補的な配列を有し、配列番号3に記載の塩基配列と相同的な塩基配列を有する核酸とストリンジェントな条件で特異的にハイブリダイズ可能であるリバースプライマーと、からなるプライマーセットを用いて、試料がA. berlandiに由来するか否かを判定するアニサキス種判別方法である。
【0062】
当該フォワードプライマーは、鋳型が配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その逆鎖とハイブリダイズし、当該リバースプライマーは、鋳型が配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAであった場合、その正鎖とハイブリダイズするため、PCR工程において増幅産物が得られる。その一方で、試料がA. pegreffiiやA. simplex s.s.由来であった場合には、フォワードプライマー及び/又はリバースプライマーの3’末端の塩基は、逆鎖と相補的に結合できず、PCR工程における増幅効率が顕著に低下する。したがって、本プライマーを用いたPCR工程の結果に基づき、鋳型がA. berlandiに由来するか、A. pegreffiiやA. simplex s.s.のどちらかに由来するかを判別することができる。
【0063】
かかる場合、配列番号12に記載の塩基配列を含む、又は配列番号12に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び、配列番号13に記載の塩基配列を含む、又は配列番号13に記載の塩基配列からなるリバースプライマーからなるプライマーセットを用いることができる。
【0064】
配列番号12に記載の塩基配列からなるフォワードプライマーは3’末端の塩基がチミン(T)であり、配列番号13に記載の塩基配列からなるリバースプライマーは3’末端の塩基はグアニン(G)であり、いずれも配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合、その正鎖及び逆鎖とハイブリダイズし、PCR増幅産物が得られる。一方で、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、フォワードプライマー及びリバースプライマーの3’末端が、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAが鋳型であった場合には、リバースプライマーの3’末端が結合できないため、PCRの増幅効率が顕著に低下する。PCRの増幅結果から、アニサキスの種判別が可能となる。
【0065】
本発明におけるストリンジェントな条件の例として、既知のPCRの反応溶液における54℃~72℃の温度条件や、本実施例に記載の条件が挙げられる。当該ストリンジェントな条件の下で、特異的にハイブリダイゼーション可能であれば、プライマーを構成する塩基配列の置換、欠失、付加、修飾は許容され、CG含量やTm値、プライマー配列内の相補性等を考慮した上で適宜設計し得る。
【0066】
本発明の判別工程では、上述の条件で実施したPCR工程により増幅産物が得られたか否かで、試料がいずれのアニサキスの種に由来するかを判別することができる。増幅産物の有無は、アガロースゲルを用いた電気泳動後の染色や、リアルタイプPCRによる核酸濃度の検出により確認が可能である。
【実施例0067】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【実施例0068】
本実施例は、HRM解析を含むアニサキス種判別方法である。配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマーをフォワードプライマー、配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーをリバースプライマーに用い、配列番号1~3に記載の塩基配列をクローニングしたプラスミドDNAを鋳型に用いた。
【0069】
PCR反応液5.0μLの組成は、Gotaq(登録商標) Hot Start Colorless Master Mixes 5.0 μL、10μMのプライマーを0.5μL、鋳型を0.5 μL、25μMのSYTO(登録商標)9を0.5μ L、水を3.0μLとした。反応サイクルは、95℃・10分のプレインキュベーションの後、95℃・10秒、50℃・15秒、60℃・10秒のサイクルを45サイクル回した。さらに、HRM解析においては、95℃まで25秒で1℃上昇させて、蛍光強度の変化を測定した。
【0070】
HRM解析の結果を図4に示す。図4(A)は、サンプル毎の溶解曲線(Melt curve)であり、相対蛍光ユニット(RFU)の変化で表される。(B)は、差分曲線(Difference curve)であり、(A)の溶解曲線を微分してプラスマイナスを反転させたグラフである。A. simplex、A. pegreffii、及びA. berlandiでそれぞれ異なったカーブを示しており、鋳型がいずれの種由来かを判別可能であることが分かった。
【0071】
さらに、プライマーセットを、配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーをフォワードプライマー、配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマーをリバースプライマーに用いた他は、同じ条件で解析を行った。サンプル毎の溶解曲線を図5(A)に、溶解曲線から算出された差分曲線を図5(B)に示す。当該プライマーセットでは、A. simplexとA. berlandiとを見分けることができないが、この2種とA. pegreffiiは異なったカーブを示しており、鋳型の由来がA. simplex及びA. berlandiのいずれか、又はA. pegreffiiかを判別可能であることが分かった。
【0072】
さらに、三陸沖で漁獲されたマサバ(Scomber japonicus)と、長崎沖で漁獲されたマサバから摘出されたアニサキス、各4隻について、それぞれ種の判別を行った。アルコール固定したアニサキス1個体をバイオマッシャーIIディスポーザブルホモジナイザ(株式会社ニッピ)のチューブに入れ、0.2 mg/mL Proteinase Kを含む0.4 mL PBSを添加し、摩砕した。55℃で1時間インキュベートしたのち、95℃で15分間 Proteinase Kの失活処理を行った。16,000×gで5分間遠心分離して上清を回収することで、アニサキス由来のDNAが抽出された。
【0073】
プライマーセットには、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマーをフォワードプライマー、配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマーをリバースプライマーに用いて、上記と同じ条件で解析を行った。図6(A)はサンプル毎の溶解曲線であり、図6(B)は、溶解曲線から算出された差分曲線である。図4に示したパターンを参照すると、三陸沖のマサバから摘出されたアニサキスは、A. simplex、長崎沖のマサバから摘出されたアニサキスはA. pegreffiiであると推定された。
【0074】
さらに、三陸沖で漁獲されたマサバ(Scomber japonicus)と、長崎沖で漁獲されたマサバから摘出されたアニサキス、各2隻について、上記と同じ方法でDNAを抽出し、種の判別を行った。プライマーセットには、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマーをフォワードプライマー、配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマーをリバースプライマーに用いて、上記と同じ条件で解析を行った。図7(A)はサンプル毎の溶解曲線であり、図7(B)は、溶解曲線から算出された差分曲線である。図5に示したパターンを参照すると、三陸沖のマサバから摘出されたアニサキスは、A. simplex、長崎沖のマサバから摘出されたアニサキスはA. pegreffiiであると推定された。
【実施例0075】
本実施例は、プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼを用いたアニサキス種判別方法である。プライマーセットは4通り、すなわち、A. simplex s.s. に由来する試料を特異的に増殖させるプライマーセットとして配列番号11に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマー、A. pegreffiiに由来する試料を特異的に増殖させるプライマーセットとして配列番号9に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号10に記載の塩基配列からなるリバースプライマー、A. berlandiに由来する試料を特異的に増殖させるプライマーセットとして配列番号12に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号13に記載の塩基配列からなるリバースプライマー、A. simplex s.l.に由来する試料が共通で増殖可能なプライマーセットとして、配列番号4に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、及び配列番号14に記載のリバースプライマー、を用いた。
【0076】
配列番号1~3に記載の塩基配列をクローニングしたプラスミドDNAを鋳型に用いた。陰性対照には鋳型の替わりに蒸留水を使用した。プライマーセット4通り、鋳型4通りの合計16条件でPCRを行った。プライマーの3'末端の塩基が鋳型と相補的ではない場合に増幅効率が低下するDNAポリメラーゼには、HiDi DNAポリメラーゼ(myPOLS Biotec)を用いた。PCR法の反応液(10 μL)の組成は、10×HiDi緩衝液1 μL、各2 mM dNTP 1 μL、10 μMフォワードプライマー 0.2 μL、10 μMリバースプライマー 0.2 μL、HiDiポリメラーゼ 0.1 μL、DNA水溶液 0.5 μL、水7 μLとし、反応サイクルは、95℃ 2分間、30サイクル(95℃ 15秒間、56℃ 10秒間、72℃ 30秒間)、72℃ 7分間とした。反応後、GelRed Nucleic Acid Stain(Biotium)を含むアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、増幅産物の有無を確認した。
【0077】
電気泳動の結果を図8に示す。A. simplex s.s.を特異的に増幅させるプライマーセットでは、A. simplex s.s.由来の配列番号2に記載の塩基配列を鋳型とした場合で、A. pegreffiiを特異的に増幅させるプライマーセットでは、A. pegreffii由来の配列番号1に記載の塩基配列を鋳型とした場合で、A. berlandiを特異的に増幅させるプライマーセットでは、A. berlandi由来の配列番号3に記載の塩基配列を鋳型とした場合で、それぞれ増幅産物の存在が確認された。
【0078】
さらに、日本近海で捕獲されたマサバ(Scomber japonicus)から摘出されたアニサキス2個体について、それぞれ種の同定を行った。アルコール固定したアニサキス1個体をバイオマッシャーIIディスポーザブルホモジナイザ(株式会社ニッピ)のチューブに入れ、0.2 mg/mL Proteinase Kを含む0.4 mL PBSを添加し、摩砕した。55℃で1時間インキュベートしたのち、95℃で15分間 Proteinase Kの失活処理を行った。16,000×gで5分間遠心分離して上清を回収することで、アニサキス由来のDNAが抽出された。
【0079】
アニサキス2個体(No. 1及びNo. 2)から抽出されたDNAを鋳型として用い、陰性対照には鋳型の替わりに蒸留水を使用した。プライマーセット4通り、鋳型3通りの合計12条件で、上記と同じ条件でPCRを行った。電気泳動の結果を図9に示す。アニサキスNo.1は、A. simplex s.s.特異的なプライマーセットでのみ増幅産物が確認されたことから、A. simplex s.s.であり、アニサキスNo.2は、A. pegreffii特異的なプライマーセットでのみ増幅産物が確認されたことから、A. pegreffiiであると判別された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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