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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142341
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】歯科用研磨材
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/22 20060101AFI20230928BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20230928BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20230928BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B24D3/22
B24D11/00 Z
C08L21/00
C08K3/01
C08L63/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049205
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】弓山 直輝
(72)【発明者】
【氏名】鳥田 泰弘
【テーマコード(参考)】
3C063
4J002
【Fターム(参考)】
3C063AA10
3C063AB01
3C063BB01
3C063BB02
3C063BB03
3C063BB04
3C063BC03
3C063BD01
3C063BD20
3C063EE01
3C063EE40
3C063FF23
3C063FF30
4J002AC001
4J002AC031
4J002AC091
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB271
4J002BG021
4J002BG041
4J002CD082
4J002CD162
4J002CH022
4J002CK021
4J002CP031
4J002DA016
4J002DE096
4J002DE146
4J002DJ006
4J002DM006
4J002EH097
4J002EH137
4J002EH147
4J002FD010
4J002FD022
4J002FD027
4J002FD090
4J002FD206
4J002GB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、歯科用修復物を研磨するための歯科用ゴム研磨材において、高圧蒸気滅菌前後において、可塑剤のブリードが少なく、硬さの変化が少ない歯科用研磨材を提供することにある。
【解決手段】研磨砥粒、エラストマー結合材、可塑剤から構成され、可塑剤は2種類以上の複数の可塑剤を複合化させており、そのうちの少なくとも1種の可塑剤がエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油である歯科用研磨材とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨砥粒(A)、エラストマー結合剤(B)、可塑剤(C)を含み、
前記可塑剤(C)がエポキシ系可塑剤を含む少なくとも2種類以上から成ることを特徴とする歯科用研磨材。
【請求項2】
前記可塑剤(C)がエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油を含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科用研磨材。
【請求項3】
前記エラストマー結合剤(B)100重量部に対して、前記可塑剤(C)が5~30重量部であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用研磨材。
【請求項4】
前記可塑剤(C)におけるエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油の配合量が、前記可塑剤(C)全体に対して40~80重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の歯科用研磨材。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス、金属、コンポジットレジン及び樹脂等の歯科用修復物を研磨するための歯科用ゴム研磨材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の際、一般に歯にう蝕などの疾患がある場合は、う蝕部位の歯質を取り除き、セラミックスや金属及びコンポジットレジンなど、様々な材料で製作された歯科用修復物(歯科用補綴装置、歯科用充填物等)を用いて修復治療が行われている。
【0003】
歯科用修復物は、製作の過程もしくは口腔内にセットした際に生体機能に調和した形状を整えるために形態修正及び咬合調整を行う必要があるが、これらの処置の後は表面粗さが粗くなる。
【0004】
歯科用修復物の表面粗さが粗い場合は、口腔内装着後に着色や歯垢付着の原因となってしまう。よって、歯科用修復物を形態修正及び咬合調整した後には、表面を滑沢に研磨を行う必要がある。特に、セラミックス製の歯科用修復物の場合、表面の研磨が不十分であるとやすりのような作用があり、対合歯を磨耗させてしまうリスクも近年明らかとなってきている。また、歯科用修復物の表面が滑沢でない場合、天然歯と同様な自然感が得られず高い審美性を得ることができない。更に、歯科用修復物の表面状態に違和感があると患者の舌感が悪く、不快に感じられ、口腔粘膜や舌の正常な運動が妨げられることもある。以上のことから、歯科用修復物を滑沢に研磨することは非常に重要である。
【0005】
歯科用修復物を研磨する研磨材としては結合材にエラストマーを使用し研磨砥粒を含有した歯科用研磨材が良く使用されている。エラストマーはゴム弾性を有しているため、研磨部位にフィットしやすく、効率よく研磨できることが特徴である。
【0006】
対象となる歯科用修復物は金属、セラミックス、コンポジットレジン及び樹脂等、多様な材質が存在しており、これらの機械的性質は大きく異なる。従って、歯科用研磨材の機械的性質も被研磨材料に合わせて変化させ、各種材料に適した研磨材が提供されている。機械的性質のうち、特に研磨材の硬さは研磨時の歯科用修復物へのフィット感や研磨効果にも影響する。
【0007】
結合材としてエラストマーを用いている歯科用研磨材の硬さを調整する一つの手法として可塑剤の配合が挙げられる。可塑剤は、エラストマー中の分子間に入り込むことにより柔軟性を付与することが可能である。
【0008】
可塑剤としては、用途や目的に応じて様々な化合物が使用されているが、最もよく使用されているものとしては、エステル化合物が知られている。エステル化合物としては、特にフタル酸エステル化合物が使用されており、その代表的なものはフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)であり、食品パッケージ、おもちゃ、医療用品等広く一般的に使用されている。しかし、近年フタル酸エステル化合物は人体や環境への配慮から添加剤としての配合を見直されている傾向にあり、代替可塑剤として非フタル酸エステル化合物への要求が高まっている。
【0009】
一方、歯科用研磨材は口腔内で使用されることもあり、口腔内で使用後、違う患者に再使用するためには洗浄・消毒・滅菌を行うことで感染源を取り除き、不活性化させ死滅させる必要がある。感染源を完全に死滅させるためには滅菌工程が必要で、過酸化水素やガス、熱等を使用した様々な滅菌装置が応用されている。その中でも小型化が可能で、危険な物質を扱わず確実に滅菌可能なことから、歯科においては高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)が広く普及している。
【0010】
高圧蒸気滅菌は、滅菌対象物に付着した感染源に高圧下で蒸気がふれることで感染源である細菌やウィルスを死滅させる滅菌方法であり、浸透性が高く滅菌対象物の隅々まで滅菌できること、かつ滅菌後に残留毒性がないことがメリットである。しかし、滅菌対象物が多湿・高温・高圧と、過酷な環境下にさらされるため、滅菌対象物を変質・劣化させ、初期の特性を維持できない可能性がある。可塑剤を含んだ歯科用研磨材も例外でなく、高圧蒸気滅菌することで可塑剤がブリードし可塑化効果が大きく失われ、場合によっては本来の特性が得られない可能性がある。
【0011】
したがって、歯科用研磨材に用いられる可塑剤は、人体や環境に対する影響が低く、かつ高圧蒸気滅菌により処理された後もブリードしにくく、極力研磨材の初期の特性を維持できるものが求められている。
【0012】
特許文献1では、可塑剤として非フタル酸エステル化合物として、4-シクロヘキセン1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)を応用した歯科用研磨材が開示されている。
【0013】
特許文献1は、主に塩化ビニルをはじめとした樹脂に非フタル酸エステル化合物を可塑剤として適用することで、良好な可塑化効果が得られる点が示されているものの、実際どの程度の効果があるのか示されていない。また、高圧蒸気滅菌に対する影響に関しても不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2019-81769号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、口腔内で使用後、高圧蒸気滅菌後に再利用することを想定し、エラストマー結合材から可塑剤がブリードするリスクを低減させ、高圧蒸気滅菌前後においても大きく特性が劣化しない歯科用研磨材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を克服するために鋭意検討を重ねた結果、研磨砥粒(A)、エラストマー結合剤(B)、可塑剤(C)を含み、可塑剤(C)がエポキシ系可塑剤を含む少なくとも2種類以上から成ることを特徴とする歯科用研磨材において良好な機械的性質を有し、かつ高圧蒸気滅菌前後においても大きく特性が劣化しない歯科用研磨材を提供できることを見出した。
【0017】
可塑剤(C)がエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油を含む少なくとも2種類以上から成ることが好ましい。
また、エラストマー結合剤(B)100重量部に対して、前記可塑剤(C)が5~30重量部であることが好ましい。
加えて、可塑剤(C)におけるエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油の配合量が、前記可塑剤(C)全体に対して40~80重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フタル酸エステル系化合物を使用することなく可塑化効果が得られ、良好な機械的性質を有し、高圧蒸気滅菌前後においてもこの機械的性質が著しく低下しない歯科用研磨材である。また、高圧蒸気滅菌前後においてエラストマー結合剤から可塑剤の溶出リスクを低減できる歯科用研磨材である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の歯科用研磨材は、研磨砥粒(A)、エラストマー結合材(B)、可塑剤(C)から構成されている。
【0020】
研磨砥粒(A)は、研磨対象である歯科用補綴装置の金属、コンポジットレジン、ジルコニア、樹脂など機械的性質の異なる様々な材質から作製されるため、適時最適な研磨砥粒の種類及び粒子径を選択する必要がある。
【0021】
研磨砥粒(A)の種類は研磨対象の材質によってその都度最適なものが選択され、特に限定はされないが、ダイヤモンド、酸化アルミニウム、炭化珪素、酸化セリウム及び窒化ホウ素の中から1つ以上選ぶことが好ましい。
例えば、研磨対象がジルコニア等の硬いセラミックス材料であれば、ダイヤモンドを選択することが望ましい。一方、金属やコンポジットレジン等の比較的軟らかい材料であれば、炭化ケイ素や酸化アルミニウムを使用することで十分な研磨効果が得られる。歯科用研磨材全体における研磨砥粒(A)の配合量は、好ましくは50~90重量%、より好ましくは60~80重量%である。研磨砥粒(A)の配合量が50重量%を下回る場合は、十分な研磨効果が得られない。また、90重量%を超える場合は、エラストマー結合材が砥粒を十分に保持できず、耐久性が低下する。
【0022】
本発明に使用される研磨砥粒(A)の粒子径及び形状は求められる表面粗さによって最適なものを選定するため、特に限定はされない。研磨砥粒の粒子径の選定においては、例えば、ダイヤモンドは窒化ホウ素砥粒であればJIS B4130、酸化アルミニウムや炭化ケイ素であればR6001に粒度について規定されている。
【0023】
本発明に使用されるエラストマー結合材(B)は、ゴム弾性を有するアクリルゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム等の合成ゴムが使用できる。特に、高圧蒸気滅菌前後においてもゴムの物性劣化を引き起こしにくい様、耐熱性・耐水性を有するゴムが良いことからブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン及びクロロプレンゴム等が好適に用いられる。歯科用研磨材全体におけるエラストマー結合材(B)の配合量は、好ましくは10~50重量%、より好ましくは20~40重量%である。エラストマー結合材(B)の配合量が10重量%を下回る場合は、エラストマー結合材が砥粒を十分に保持できず、耐久性が低下する。また、50重量%を超える場合は、研磨砥粒(A)の比率が低下し、十分な研磨効果が得られない。
【0024】
本発明に使用される可塑剤(C)は、人体や環境に配慮しフタル酸エステル化合物以外のものを使用する。例えば、アジピン酸系エステル、シクロヘキセンジカルボン酸系エステル、トリメリット酸系エステル、ポリエーテル系エステル等が挙げられる。その中でもフタル酸エステル化合物の代表となるDOPと近い可塑化効果を示すものとして、シクロヘキセンジカルボン酸系エステル、トリメリット酸系エステルが好まれる。
【0025】
本発明において、可塑剤(C)は2種類以上をブレンドして使用する。可塑剤(C)は非フタル酸エステル系化合物単体では、例えばトリメリット酸系エステルはフタル酸エステル化合物に比べて耐寒性が低く生産時に冷却した混練物は再混練時に硬くなり練りにくく作業性が悪い。また、シクロヘキセンジカルボン酸系エステルの場合は耐熱性が低く、可塑剤がブリードしやすく経時的に可塑化効果が著しく低下する等の欠点があり、単体での使用は難しい。
【0026】
これらの欠点を補うため、本発明の歯科用研磨材は、可塑剤(C)には必ず1種類以上の極性部にエポキシの骨格を有するエポキシ系エステル化合物やエポキシ系大豆油等を配合する。エポキシ系エステル化合物はエラストマー結合材と相溶する極性部とエラストマー結合材の分子間距離を広げ、分子間力を弱め、可塑化効果を示す非極性部から構成されており、例えば、4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ2-エチルヘキシルや4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジ(9,10-エポキシステアリル)等が挙げられる。また、エポキシ化大豆油は大豆油を過酢酸や過ギ酸と反応させることによりエポキシ基をその構造中に生成したものである。
これらの化合物は耐熱性が高く、高圧蒸気滅菌による多湿・高温下にさらされた場合においてもエラストマー結合材(B)から可塑剤(C)がブリードするのを抑制する働きを示す。
エポキシ系エステル化合物やエポキシ系大豆油等の可塑剤と組み合わせることで、トリメリット酸系エステルやシクロヘキセンジカルボン酸系エステルの前記欠点を補い、歯科用研磨材としての特性を向上させることが可能である。
【0027】
本発明の可塑剤として、エポキシ系エステル化合物やエポキシ系大豆油等と組み合わせる他の可塑剤は任意であるが、各種エラストマー結合材との相溶性の点から、シクロヘキセンジカルボン酸系エステル、トリメリット酸系エステルが好ましい。
【0028】
本発明の歯科用研磨材に配合する可塑剤(C)の配合量はエラストマー結合材(B)100重量部に対して5~30重量部の範囲で配合することが望ましい。5重量部未満の場合は十分な可塑化効果が得られず、歯科用研磨材に求められる柔軟性を示さない。また、歯科用研磨材作製時、研磨砥粒(A)及びエラストマー結合材(B)と混練する際に硬くて練りにくく、作業性が悪い。また、30重量部を超える場合は軟らかすぎて研磨材としての使用感が悪く、かつ耐久性の低いものとなる。
【0029】
本発明の歯科用研磨材に配合する可塑剤(C)のうち、エポキシ系エステル化合物及びエポキシ系大豆油の配合量は可塑剤(C)全体の配合量の40~80重量%であることが好ましく、より好ましくは50~60重量%である。40重量%未満の場合は、十分な耐熱性効果が得られず、可塑剤(C)のブリードが促進される。また、80重量%を超える場合は、エポキシ系エステル化合物及びエポキシ系大豆油の可塑化効果が高すぎるため、軟らかすぎて研磨材としての使用感が悪く、かつ耐久性が低いものとなる。
【0030】
本発明の歯科用研磨材には、本発明の効果を妨げない範囲で、着色剤、充填剤等、弾性ゴムによく使用される各種配合剤を適宜配合することができる。また、弾性ゴムの架橋のため、各種加硫剤、加硫促進剤を適宜配合する。また、これらの成分は複数を組み合わせて配合することができる。
【0031】
例えば、着色剤は歯科用研磨材の残留状況の視認性向上や製品識別の為に配合される。着色剤としては、天然鉱物顔料や合成無機顔料等の無機系顔料を使用することが望ましい。それらの着色剤を具体的に例示すると、酸化チタン、酸化鉄、アルミ酸コバルト、ウルトラマリン等が挙げられる。
【0032】
充填剤は、歯科用研磨材の硬さの調整及び補強効果を目的として配合することができ、充填剤を具体的に例示すると、例えばカーボンブラック、増粘性シリカ微粒子、二酸化チタン、珪藻土、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどが挙げられる。これらの充填剤は単独又は複数で使用することが出来る。
【0033】
本発明の歯科用研磨材の作製方法は任意であるが、一例を以下に示す。エラストマー結合材(B)に研磨砥粒(A)及び可塑剤(C)、その他の配合剤を加え、ニーダーや混練用ロール等の混合機で練り込み、混練物を作製する。混練中、発熱によるゴムのスコーチを抑制するため、混練と混練の間に冷却工程を挟むこともある。その後、混練物をホットプレスにて所定の形状に加圧成型する。その際、ハンドピース等の回転工具に装着するための軸と一緒に成型することで軸が一体となった歯科用研磨材を作製することができる。成型条件は、使用するエラストマー結合材(B)に依存する。なお、エラストマー結合材(B)に可塑剤(C)とその他の配合剤をあらかじめ混練したマスターバッチを作製することもできる。
【実施例0034】
以下に本発明の実施例及び比較例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例示する歯科用研磨材としては、歯科用金属を研磨対象とした組成とする。表1に示す割合にて各成分を配合・混練することにより、成型用の混練物を得た。その後、加圧プレス成型にて歯科用研磨材を得た。
【0035】
本実施例に使用した可塑剤(C)は以下のとおりである。
可塑剤1:TOTM(トリメリット酸系エステル化合物)
可塑剤2:DOTH(シクロヘキセンジカルボン酸系エステル化合物)
可塑剤3:E-145(エポキシ系エステル化合物)
可塑剤4:E-PS(エポキシ系エステル化合物)
可塑剤5:E-2000H(エポキシ系化合物)
可塑剤6:DOP(フタル酸エステル化合物)
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
<歯科用研磨材の作製>
エラストマー結合材(B)に研磨砥粒(A)及び可塑剤(C)、その他の配合剤を加え、混練用ロール等の混合機で均一になるまで練り込み、混練物を作製した。混練中、ゴムの発熱が認められた場合ゴムのスコーチを抑制するため、一旦次の混練に移るまで冷却工程を挟んだ。冷却工程は5℃の冷蔵庫に10分保管し、十分に冷却を行った。
得られた混練物はホットプレスにて所定の形状に加圧成型した。その際、軸と一緒に成型し、軸が一体となった歯科用研磨材とした。成型条件は、使用するエラストマー結合材(B)に依存する。本実施例に使用したエラストマー結合材(B)としては、クロロプレンゴム及びクロロスルホン化ポリエチレンを使用したため、成型条件はクロロプレンゴムの場合、160℃、15分、クロロスルホン化ポリエチレンの場合は170℃で7分とした。
【0039】
作製した歯科用研磨材を評価する方法は次のとおりである。また、歯科用研磨材の製造時の作業性についても併せて評価した。その評価結果を表2に示す。
【0040】
<滅菌前後の歯科用研磨材の硬さの増加率>
φ12×1mmのディスク状に加圧成型した試料を使用した。試料を高圧蒸気滅菌器(リサ)で134℃、4分の条件で滅菌する工程を1サイクルとし、合計30回サイクル実施した。滅菌前の試料及び滅菌30回サイクル後の試料について万能試験機に試料厚み1mmの面を下になるよう縦にセットし、クロスヘッドスピード1mm/分で圧縮荷重を加え、1mm変位時の圧縮荷重値を硬さの指標とした。圧縮荷重の増加率は以下の計算式で算出した。
圧縮荷重の増加率[%]=(30回サイクル後の圧縮荷重値-滅菌前の圧縮荷重値)/滅菌前の圧縮荷重値×100
算出した増加率は以下の評価基準にて判断した。
〇の場合は、滅菌前と研磨材の硬さに変化なし、△は許容できるものの滅菌前に比べてやや研磨材の硬さが硬い、×は明らかに研磨材の硬さが硬く許容できない。
〇:増加率が60%未満
△:増加率が60%~100%
×:増加率が100%を超える
【0041】
<滅菌前後の可塑剤の溶出率の測定>
φ25×3mmのディスク状に加圧成型した試料を使用した。試料を高圧蒸気滅菌器(リサ)で134℃、4分の条件で滅菌する工程を1サイクルとし、合計30回サイクル実施した。可塑剤の溶出率は以下の計算式で算出した。
溶出率[%]=(滅菌前の試料重量―30回サイクル後の試料重量)/滅菌前の試料重量×100
算出した溶出率は以下の評価基準にて判断した。なお、可塑剤を無配合の研磨材では、滅菌前後において重量変化はほとんど発生していないことから、本試験での重量変化のほとんどは可塑剤の溶出によるものと考えられるため、上記式を可塑剤の溶出率として定義した。
◎の場合は、可塑剤の溶出量がDOPよりも少なく、エラストマー結合材に安定して可塑剤が存在し続けている、〇は可塑剤の溶出量がDOP程度のものである、△は許容できるものの可塑剤の溶出量がDOPよりやや多く、×は更に多く安定性に欠けると判断した。
◎:溶出率が2.0%以下
〇:溶出率が2.0%を上回り~2.5%以下
△:溶出率が2.5%を上回り~3.0%以下
×:溶出率が3.0%を上回る
【0042】
<歯科用研磨材の摩耗量の測定>
軸と共にφ3×7mmの円錐状の作業部と一体型の試料を作製した。作製した試料を20,000min-1、20秒、2~2.5Nの条件でコバルトクロム合金を研削した。摩耗量は以下の計算式で算出した。
摩耗量[mg]=試験前の試料重量-試験後の試料重量
算出した摩耗量は以下の評価基準にて判断した。
〇の場合は、使用に耐えられる耐久性を有するが、×の場合は摩耗量が多く、使用に耐えられる十分な耐久性を確保できない。
〇:摩耗量が10mg以下
×:摩耗量が10mgを上回る
【0043】
<歯科用研磨材の使用感の評価>
各種評価用試料の実際に使用した場合の使用感を確認した。
使用感の評価は、φ12×厚み1.5mmのディスク状の軸付き歯科用研磨材を試料として作製し滅菌前後の試料をそれぞれ、15×30×1mmのコバルトクロム合金の板の表面を20,000min-1にて約1Nの荷重で30sec研磨し、研磨中の研磨材とコバルトクロム板が接触中の振動具合い、硬さ、フィット感を総合し、滅菌前後でこれらの指標の違いを確認した。なお、コバルトクロム合金の表面はあらかじめ#120の耐水研磨紙で整えた状態のものを使用した。比較対象はフタル酸エステル化合物(DOP)を用いた歯科用研磨材とし、以下の評価基準にて判断した。
◎の場合はDOPと比べて滅菌前後の試料における使用感の変化が少なく、コバルトクロム合金と接触している間の振動、硬さ、フィット感を滅菌前後でも維持していた。また、〇はDOPと同程度の使用感であり、滅菌前後で若干の使用感に違いがみられたが、使用上は問題ないレベルであった。△はDOPよりも滅菌後の研磨材の使用感がやや悪く、×はDOPに比べて使用感が明らかに悪くなっていた。
◎:使用感はDOPより良い
〇:使用感はDOPと同程度
△;使用感はDOPよりやや悪い
×:使用感はDOPより悪い
【0044】
<歯科用研磨材の製造時における作業性>
各種評価用試料の製造時における作業性を確認した。比較対象はフタル酸エステル化合物(DOP)を使用して製造した際の作業性をベースとて、以下の評価基準にて判断した。
ここで、作業性とは歯科用研磨材の作製における全作業工程(混練、成型、その他研磨材作製に必要な加工)における作業のし易さを指し、特にエラストマー結合材と砥粒、可塑剤、その他を混練する工程における練りやすいさや所定の形状に成形する工程において顕著な差として現れる。◎の場合はDOPよりも研磨材が作りやすいことを示す。また、〇はDOPと同じ作り易さであり、△はDOPよりもやや加工性が悪く作りづらく、×はDOPに比べて加工性が明らかに低く、作りづらいことを示す。
◎:作業性はDOPより良い
〇:作業性はDOPと同程度
△;作業性はDOPよりやや悪い
×:作業性はDOPより悪い
【0045】
実施例1~12の歯科用研磨材はエラストマー結合材(B)に対する可塑剤(C)の配合量及び可塑剤(C)中のエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油の配合量が最適であり、いずれの評価結果も良好であった。
【0046】
比較例1~10はエラストマー結合材(B)に対する可塑剤(C)の配合量及び可塑剤(C)中のエポキシ系エステル化合物もしくはエポキシ大豆油の配合量が最適でないため、実施例と比較して劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明はセラミックス、金属及びコンポジットレジン等の歯科用補綴装置を研磨する為の歯科用研磨材に利用することができる。