(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142371
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体の医薬用途
(51)【国際特許分類】
A61K 39/385 20060101AFI20230928BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K39/385
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049255
(22)【出願日】2022-03-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】513265884
【氏名又は名称】株式会社M.R.D.
(71)【出願人】
【識別番号】520292305
【氏名又は名称】有限会社愛和
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亨
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA21
4C085AA27
4C085BB11
4C085BB15
4C085BB50
4C085CC31
4C085DD51
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
【課題】寿命延長が希求されている。
【解決手段】抗ホモシステイン酸ワクチン組成物、詳細には、ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物。
【請求項2】
担体が、キーホールリンペットヘモシニアン、ウシ血清アルブミン、または破傷風トキソイドである、請求項1記載のワクチン組成物。
【請求項3】
生存期間を延長するための、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項4】
がん増殖を抑制するための、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【請求項5】
抗老化作用を有する、請求項1または2記載のワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ワクチン組成物の分野に属する。具体的には、本発明は、抗ホモシステイン酸ワクチン組成物、詳細には、ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内には、身体の酸化を防ぐための酵素SOD(スーパーオキシド・ジスムターゼ)が存在し、これが年齢とともに不足することで、ホモシステインの酸化が促進され、ホモシステイン酸が生成しやすくなる。このホモシステイン酸は神経毒であり、脳にダメージを与え認知症が発病されると言われている。認知症は診断されてからでは健常な脳には戻せず、そして現在のところ、有効な治療薬は存在しない。
【0003】
しかし、認知症であっても、軽度認知症(MCI)の状態で早期に介入できれば、健常な脳に半数以上の症例で戻ると言われている。本発明者は、アルツハイマー病の真因は、ホモシステイン酸というアミノ酸であることを見出し、発表した(非特許文献1、2および3)。このホモシステイン酸を体内から減らすことが、アルツハイマー病の予防や根本治療につながると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】2005年 Hasegawa T, Ukai W, Jo DG, Xu X, Mattson MP, Nakagawa M, et al., Homocysteic Acid Induces Intraneuronal Accumulation of Neurotoxic Ab42:Implication for the Pathogenesis of Alzheimer's disease. J Neurosci Res 80:869-876.
【非特許文献2】2010年 Hasegawa T, Mikoda N, Kitazawa M, LaFerla FM, Treatment of Alzheimer’s Disease with Anti-Homocysteic Acid Antibody in 3xTg-AD Male Mice., PLoS ONE 5(1): e8593. doi:10.1371/journal.pone.0008593
【非特許文献3】2020年 Tohru Hasegawa, Yoshinori Kosoku, Yuka Sano, Hiroshi Yoshida, Chiaki Kudoh and Takeshi Tabira, Homocysteic Acid in Blood Can Detect Mild Cognitive Impairment: A Preliminary Study., Journal of Alzheimer’s Disease 77 (2020) 773-780. DOI 10.3233/JAD-
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方、人類史において、洋の東西を問わず、昔から不老長寿の薬は夢であった。死がヒトにとっては不合理の現象であり、いつまでも若く、元気な生活を送る事が当然に望まれる。ヒトが老化し死を迎える事は、受け入れ難い現象である一方、自然の摂理でもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
今回、本発明者は、抗ホモシステイン酸ワクチン組成物がアルツハイマー病の認知症を改善すると同時に、同ワクチン組成物を投与されたマウスが著しい寿命の延長を示すことを偶然にも発見し、この寿命延長作用を活用することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
したがって、本発明は、以下の態様を含む。
[1]
ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物。
[2]
担体が、キーホールリンペットヘモシニアン、ウシ血清アルブミン、または破傷風トキソイドである、[1]記載のワクチン組成物。
[3]
生存期間を延長するための、[1]または[2]記載のワクチン組成物。
[4]
がん増殖を抑制するための、[1]または[2]記載のワクチン組成物。
[5]
抗老化作用を有する、[1]または[2]記載のワクチン組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗ホモシステイン酸ワクチン組成物は、生存期間、すなわち寿命を延長させ、またはがん増殖を抑制し、および/または抗老化作用を得るために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は一つの態様として、ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物に関する。ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体とは、ワクチン製剤の有効成分であり、アジュバントまたは添加剤と一緒に投与されて、ホモシステイン酸を認識し特異的に結合する、いわゆるハプテンに対する抗体を惹起するための被検者の免疫化に使用される。
【0010】
ハプテンとは、抗体と結合するが、分子量が小さいために単独では抗体産生を惹起する活性を示さない物質のことであり、不完全抗原とも呼ばれる。適当な高分子タンパク質と結合することにより免疫原性を持つ完全抗原となる。このような働きを持つ高分子タンパク質を、担体(キャリア)と呼ばれる。この担体は一般には、免疫化のための高分子担体であり、例えば、キーホールリンペットヘモシニアン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、または破傷風トキソイドなどが挙げられる。
【0011】
本発明の抗ホモシステイン酸ワクチン組成物、すなわちホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含有するワクチン組成物は、生存期間、すなわち寿命を延長させ、またはがん増殖を抑制し、および/または抗老化作用を得るために使用される。本発明のワクチン組成物の生存期間、すなわち寿命を延長は、以下の実施例にて証明されている。
【0012】
本発明の抗ホモシステイン酸ワクチン組成物のがん増殖抑制作用に関連し、多くの論文(Aditi Mehrotra1 and Raj Kumar Koiri. N-Methyl-D-Aspartate (NMDA) Receptors: Therapeutic Target against Cancer. International Journal of Immunotherapy and Cancer Research 1. 013-017, 2015)は、がん細胞増殖を刺激するものとしてNMDA型グルタミン酸受容体の活性化を示している。このNMDA型グルタミン酸受容体はグルタメートにより活性化するが、グルタメート以上に作用の強いホモシステイン酸が血液中に存在し、その濃度の上昇により活性化を引き起こす事が知られている。よって、本発明の抗ホモシステイン酸ワクチン組成物は、がん細胞の増殖を抑制することができる。この事実は、本発明のワクチン組成物は、我が国の死因別死亡率のトップであるがん死を予防できることを示している。
【0013】
本発明のワクチン組成物の抗老化作用に関連し、グルタミノリシス阻害による老化細胞除去は、さまざまな加齢に伴う障害を改善することが報告されている(Yoshikazu Johmura et al. Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age associated disorders., Science 2021 Jan 15;371(6526):265-270.)。グルタミノリシスは、グルタミンがグルタミン酸、アスパラギン酸、ピルビン酸等に分解される一連の生化学的反応である。よって、グルタミノリシス阻害とはグルタミン酸等の生成が阻害されることを意味する。グルタミン酸は、ホモシステイン酸の同族体であるため、ホモシステイン酸を阻害できる本発明の抗ホモシステイン酸ワクチン組成物も、さまざまな加齢に伴う障害を改善すると考えられる。
【0014】
いくつかの実施形態では、ホモシステイン酸を担体と連結、すなわちハプテン化させ得る。ハプテン化は、より大きな分子構造とペプチドとのコンジュゲート化である。ハプテン化はよく知られており、容易に実施できる。ハプテン化ホモシステイン酸の調製に使用する方法としては、例えば米国特許第5,037,645号;米国特許第5,112,606号等がある。
【0015】
ホモシステイン酸および担体からなるコンジュゲート体を含むワクチン組成物は、当業者によってルーチンで製剤化され得る。適切な医薬製剤および成分については、この分野の標準的参考書、Remington’s Pharmaceutical Sciences,A.Osolに記載されている。いくつかの実施形態では、例えば、ワクチンを薬学的に許容される溶媒とともに溶液、懸濁液、乳濁液または凍結乾燥粉末として製剤化することができる。このような溶媒の例には、水、生理食塩水、リンガー溶液、ブドウ糖溶液および5%ヒト血清アルブミンがある。このほか、リポソームおよび不揮発性油などの非水性溶媒を使用し得る。溶媒または凍結乾燥粉末は、等張性(例えば、塩化ナトリウム、マンニトール)および安定性(例えば、緩衝剤および保存剤)を維持する添加剤を含有し得る。注射用組成物は希釈剤、例えば滅菌水、電解質/ブドウ糖、植物由来の脂肪油、脂肪酸エステルまたはプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなどのポリオールなどにペプチドまたはコンジュゲートペプチドを含み得る。
【0016】
本発明のワクチン組成物は他にも、アジュバントを含み得る。ワクチン組成物に有用なアジュバントは当業者に周知であり、有用なアジュバントの例としては、特に限定されないが、フロイント完全アジュバントおよびフロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウムなどの無機ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチドおよび油乳剤が挙げられる。
【0017】
いくつかの実施形態では、ワクチン組成物は無菌であり、発熱物質を含まず、等張になるよう製剤化され、粒子状物質を含まない、注射用組成物である。注射用組成物に必要な純度の基準はよく知られており、注射用組成物の調製に用いる作製および精製方法も同様によく知られている。
【0018】
本発明のワクチン組成物は、概して、初回免疫および追加免疫用量の両方のために投与されることになる。初期シリーズは、数週間の間隔が空けられる数用量を含み、さらなる追加免疫用量は数か月もしく数年の間隔が、または断煙率向上と相関することが臨床的に示された所望のレベルを循環抗体のレベルが下回るような時間が空けられるであろうことが予測される。好ましくは、本発明のワクチン組成物は、6から24週間かけて投与される3から6用量の初期シリーズとして投与され、その後、追加免疫用量が3から12か月毎に投与される。
【0019】
ワクチン組成物は、体の免疫系に免疫原性物質を提示し認識および免疫原性応答の誘導を可能にする任意の手段によって投与することができる。注射用医薬組成物は非経口的に、すなわち静脈内、皮下、筋肉内に注射することができる。いくつかの実施形態では、医薬ワクチン組成物を鼻腔内に投与するか、舌下投与によって口腔内の組織に投与できる。
【0020】
用量は既知の因子、例えばホモシステイン酸の薬力学的特徴およびその投与方式と経路;被投与者の年齢、健康状態および体重;症状の性質および程度、現在受けている治療の種類、治療の頻度ならびに望まれる効果などによって異なる。防御的または治療的に有効な免疫応答を誘導する量の免疫原を送達する。当業者であれば、範囲および至適用量をルーチンの方法によって容易に決定することができる。
【0021】
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示であることに留意すべきである。
【実施例0022】
参考例1
HCA-G-KLMコンジュゲート体の製造
既報(同仁化学)の通り、以下の合成ルートに従い、以下の式で示されるHCA-G-KLMコンジュゲート体を製造した。
【化1】
【0023】
詳細には、グルタルアルデヒド2.7mmolにL-ホモシステイン酸0.27mmolを反応させ、HCA-GAを得た。
次いで、得られたHCA-GA19μmolにKLMを反応させ、得られたイミン体を還元し、HCA-G-GAコンジュゲート体を得た。
【0024】
実施例1
HCA-G-GAコンジュゲート体による寿命延長作用
生後1年の3xTg-AD マウス(雄)(PLoS ONEの論文共著者Laferla教授より贈与を受け)5匹に、参考例1にて製造したHCA-G-GAコンジュゲート体を生理食塩水に懸濁しそれを腹腔内投与し、実験群とした。対照群は、同じマウス(雄)5匹に生理食塩水を投与した。実験群および対照群ともに、死亡するまでの日数を15日未満は切り捨て、15日以上を繰り上げて1月に換算して計算し、それぞれの月数を比較検討した。その結果を下に示す。
【0025】
【0026】
結果、実験群は対照群と比較し、明らかに寿命の延長が認められた。