IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大阪瓦斯株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃料電池システム 図1
  • 特開-燃料電池システム 図2
  • 特開-燃料電池システム 図3
  • 特開-燃料電池システム 図4
  • 特開-燃料電池システム 図5
  • 特開-燃料電池システム 図6
  • 特開-燃料電池システム 図7
  • 特開-燃料電池システム 図8
  • 特開-燃料電池システム 図9
  • 特開-燃料電池システム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142372
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04701 20160101AFI20230928BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230928BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20230928BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230928BHJP
   H01M 8/2483 20160101ALI20230928BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230928BHJP
【FI】
H01M8/04701
H01M8/04 J
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/2483
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049256
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 和宏
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA23
5H126BB06
5H126EE11
5H127AA07
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA37
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127DB47
5H127DC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】発電効率を下げることなく、アノードガスの供給不足を解消することができる燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】複数の電池セルが積層されたセルスタック2と、セルスタックにアノードガスを供給する第1及び第2アノードガス供給流路8,10と、セルスタックにカソードガスを供給するカソードガス供給流路6とを備えた燃料電池システム。第1アノードガス供給流路8は、セルスタック2の積層方向の中央側部位にアノードガスを供給し、第2アノードガス供給流路10は、セルスタック2の積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する。セルスタックの中央側部位の温度が上昇すると、アノードガスの合計供給流量を変えることなく、第1アノードガス供給流路8からのアノードガスの供給流量を増やす一方、第2アノードガス供給流路10からのアノードガスの供給流量を減らし、これにより、燃料枯れを回避する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、前記アノードガス供給手段を制御するコントローラとを備えた燃料電池システムであって、
前記アノードガス供給流路は、前記セルスタックの積層方向の中央側部位にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路と、前記セルスタックの前記積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路を含んでおり、
前記セルスタックの前記中央側部位の温度が上昇すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記アノードガス供給手段は、前記第1アノードガス供給流路に配設された第1アノードガス供給手段と、前記第2アノードガス供給流路に配設された第2アノードガス供給手段とを含み、前記セルスタックの前記中央側部位の温度が上昇すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給手段の回転数を大きくする一方、前記第2アノードガス供給手段の回転数を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記セルスタックの前記中央側部位又はその近傍、或いは前記中央側部位の前記電池セルの前記アノード室流入側に温度検知手段が設けられ、前記温度検知手段の検知温度が所定温度閾値を超えると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記セルスタックに関連して、設置後の運転開始からの積算運転時間を計時する積算計時手段が設けられ、前記積算計時手段が所定積算時間を計時すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、前記アノードガス供給手段を制御するコントローラとを備えた燃料電池システムであって、
前記アノードガス供給流路は、前記セルスタックの積層方向の中央側部位にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路と、前記セルスタックの前記積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路を含んでおり、
前記セルスタックに関連して、前記セルスタックの前記中央側部位の前記電池セルの発電電圧を計測する電圧計測手段が設けられ、電池セルの燃料枯れ状態を検知する燃料枯れ検知モードにおいて、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量が一時的に増大され、このときの前記電圧計測手段の計測電圧の計測上昇電圧値と基準上昇電圧値との比較電圧差が所定電圧閾値を超えると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする燃料電池システム。


















【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セルが積層されたセルスタックを備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムとして、平板状の電池セルが積層されたセルスタックと、セルスタックのアノード室にアノードガス(燃料ガス)を供給するアノードガス供給流路と、セルスタックのカソードガス室にカソードガス(酸化剤ガス)を供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、カソードガスを供給するためのカソードガス供給手段とを備えたものが知られている。このような燃料電池システムにおいては、セルスタックでの燃料利用率を一定の範囲内に維持する必要があり、この燃料利用率が過剰に高い状態(所謂、アノードガスの不足状態)で運転を継続すると、電池セルが破損し、発電運転の継続が困難となる。
【0003】
平板状の電池セルを複数積層したセルスタックでは、積層方向(即ち、厚み方向)に温度分布を持つようになり、積層方向の中央側部位(所謂、中央段の部位)ほど熱がこもりやすく、この中央側部位の温度がその両端側部位(所謂、端部段の部位)よりも高くなる傾向にある。
【0004】
また、一般的に、燃料電池システムは、経時的に劣化して電池セルの抵抗が増え、この抵抗が大きくなった部位では発熱量が増える傾向にある。特に、温度が高いセルスタックの中央側部位は、劣化進行が速いため、その両端側部位に比べ、さらに温度が高くなる。
【0005】
この平板状の電池セルを積層したセルスタックでは、アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスは、初期状態(設置当初の状態)において複数の電池セルに均等に分配されて供給されるように設定される。ところが、アノードガスは、温度が高いほど粘性が大きくなって圧損が大きくなるために、セルスタックの経年劣化によりその温度分布が変わると、この温度分布に起因して、各電池セルのアノード室の流入部の圧損も変わり、この圧損の変動によって各電池セルへのアノードガスの分配量が変化する。
【0006】
例えば、セルスタックの温度の高い部位(中央側部位)ではアノード室の流入部の圧損が大きくなり、これによって、このアノード室へのアノードガスの分配流量が少なくなってアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)が生じ、このアノードガスの供給不足の状態が継続すると、電池セルが破損することになる。
【0007】
このようなことから、セルスタックでのアノードガスの供給不足を解消するようにした燃料電池システムが提案されている。例えば、電池セルごとの抵抗値を計測して各電池セルにおける燃料利用率を把握し、把握した燃料利用率に基づいてアノードガスの供給不足を防ぐようにしたもの(例えば、特許文献1参照)、セルスタックの出力電流-燃料利用率データを用い、アノードガスの供給流量を調整して燃料利用率が所定値以下となるようにしたもの(例えば、特許文献2参照)、またセルスタックの電圧変化率、抵抗変化率を指標としてアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を検知し、アノードガスの供給流量又はセルスタックの発電出力を調整してセルスタックの破損を防止するようにしたもの(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-110666号公報
【特許文献2】特開2006-59550号公報
【特許文献3】特開2008-103198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のこれらの燃料電池システムでは、次の通りの問題がある。例えば、特許文献1の燃料電池システムでは、アノードガスの供給不足を検知したときに、セルスタックの電池セルの全てに対してアノードガスの供給流量を増やすことになるが、このようなアノードガスの供給制御では、アノードガスの供給不足が発生していない電池セルに対してもアノードガスの供給流量を増やすことになり、その結果、発電効率が低下するという問題がある。
【0010】
また、特許文献2の燃料電池システムでは、セルスタック全体としての燃料利用率を把握することができるが、セルスタックの一部の電池セルについての燃料利用率を把握することができず、セルスタックの部分的なアノードガスの供給不足を解消することができない。
【0011】
更に、特許文献3の燃料電池システムでは、セルスタックでのアノードガスの供給不足を検知すると、セルスタックの電池セルの全てに対してアノードガスの供給流量を増やすことになるが、このようなアノードガスの供給制御では、上述したように、アノードガスの供給不足が発生していない電池セルに対してもアノードガスの供給流量を増やすことになって発電効率が低下する。
【0012】
本発明の目的は、発電効率を下げることなく、アノードガスの供給不足を解消することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムは、イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、前記アノードガス供給手段を制御するコントローラとを備えた燃料電池システムであって、
前記アノードガス供給流路は、前記セルスタックの積層方向の中央側部位にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路と、前記セルスタックの前記積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路を含んでおり、
前記セルスタックの前記中央側部位の温度が上昇すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増大させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムでは、前記アノードガス供給手段は、前記第1アノードガス供給流路に配設された第1アノードガス供給手段と、前記第2アノードガス供給流路に配設された第2アノードガス供給手段とを含み、前記セルスタックの前記中央側部位の温度が上昇すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給手段の回転数を大きくする一方、前記第2アノードガス供給手段の回転数を小さくすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムでは、前記セルスタックの前記中央側部位又はその近傍、或いは前記中央側部位の前記電池セルのアノード室流入側に温度検知手段が設けられ、前記温度検知手段の検知温度が所定温度閾値を超えると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムは、前記セルスタックに関連して、設置後の運転開始からの積算運転時間を計時する積算計時手段が設けられ、前記積算計時手段が所定積算時間を計時すると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の請求項5に記載の燃料電池システムは、イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、前記アノードガス供給手段を制御するコントローラとを備えた燃料電池システムであって、
前記アノードガス供給流路は、前記セルスタックの積層方向の中央側部位にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路と、前記セルスタックの前記積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路を含んでおり、
前記セルスタックに関連して、前記セルスタックの前記中央側部位の前記電池セルの発電電圧を計測する電圧計測手段が設けられ、電池セルの燃料枯れ状態を検知する燃料枯れ検知モードにおいて、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量が一時的に増大され、このときの前記電圧計測手段の計測電圧の計測上昇電圧値と基準上昇電圧値との比較電圧差が所定電圧閾値を超えると、前記コントローラは、前記セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、前記第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、前記第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムによれば、アノードガス供給流路は、セルスタックの積層方向の中央側部位にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路と、このセルスタックの積層方向の両端側部位にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路とを含み、セルスタックの中央側部位の温度が上昇すると、セルスタック全体に供給されるアノードガスの合計供給流量を変えることなく、第1アノードガス供給流路のアノードガスの供給流量を増加させる一方、第2アノードガス供給流路のアノードガスの供給流量を減少させるので、セルスタックの発電効率を下げることなく、セルスタックの中央側部位に供給されるアノードガスの供給流量を増やすことができ、これによって、セルスタックの中央側部位におけるアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を回避することができる。
【0019】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムによれば、アノードガス供給手段は、第1アノードガス供給流路に配設された第1アノードガス供給手段と、第2アノードガス供給流路に配設された第2アノードガス供給手段とを含んでいるので、第1アノードガス供給手段の回転数を制御することにより、アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を調整することができ、また第2アノードガス供給手段の回転数を制御することにより、第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を調整することができる。
【0020】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムによれば、セルスタックの中央側部位又はその近傍(或いは中央側部位の電池セルのアノード室流入側)に温度検知手段が設けられ、この温度検知手段によりセルスタックにおいて高温になりやすい中央側部位の温度を監視している。そして、この温度検知手段の検知温度が所定温度閾値を超えると、この中央側部位の劣化が進んで温度が上昇しているとして、コントローラは、セルスタックでの発電効率を下げることなく、第1及び第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を制御し、これによって、セルスタックの中央側部位の温度を監視してアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を回避することができる。
【0021】
また、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムによれば、設置後の運転開始からの積算運転時間を計時する積算計時手段が設けられ、この積算計時手段による積算時間によってセルスタックの劣化状態を推測している。そして、積算計時手段が所定積算時間を計時すると、セルスタックの中央側部位の劣化が進んで温度が上昇していると推測して、コントローラは、セルスタックでの発電効率を下げることなく、第1及び第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を制御し、これによって、セルスタックの中央側部位の劣化状態を推測してアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を回避することができる。
【0022】
更に、本発明の請求項5に記載の燃料電池システムによれば、セルスタックの中央側部位の電池セルの発電電圧を計測する電圧計測手段が設けられ、燃料枯れ検知モードにおいて電圧計測手段よりセルスタックの中央側部位の発電電圧(出力電圧)が計測される。燃料枯れ検知モードにおいてアノードガスの供給流量を一時的に増やすと燃料利用率が低下するため、セルスタック(中央側部位)の発電電圧は上昇し、この発電電圧の上昇は、燃料枯れの度合いが大きい電池セルほど大きくなる。このようなことから、燃料枯れ検知モードにおける電圧計測手段の計測電圧の計測上昇電圧値と基準上昇電圧値との比較電圧差が所定電圧閾値を超えると、セルスタックの中央側部位の電池セルの燃料枯れが進んでいると推測して、コントローラは、セルスタックでの発電効率を下げることなく、第1及び第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を制御し、これによって、セルスタックの中央側部位でのアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に従う燃料電池システムの第1の実施形態を簡略的に示す全体図。
図2図1の燃料電池システムのセルスタックを簡略的に示す簡略斜視図。
図3図2のセルスタックを簡略的に示す断面図。
図4図1の燃料電池システムの制御系を簡略的に示すブロック図。
図5図4の制御系による制御の流れを示すフローチャート。
図6】本発明に従う燃料電池システムの第2の実施形態における制御系を簡略的に示すブロック図。
図7図6の制御系による制御の流れを示すフローチャート。
図8】本発明に従う燃料電池システムの第3の実施形態における制御系を簡略的に示すブロック図。
図9】電池セルの燃料利用率と電池セル出力電圧との関係を示す図。
図10図8の制御系による制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う燃料電池システムの各種実施形態について説明する。
【0025】
〔燃料電池システムの第1の実施形態〕
まず、図1図5を参照して、本発明に従う燃料電池システムの第1の実施形態について説明する。図1において、第1の実施形態の燃料電池システムは、アノードガス(例えば、燃料ガスとしての水素など)及びカソードガス(例えば、酸化剤ガスとしての空気など)による電気化学反応により発電するセルスタック2を備え、このセルスタック2の流入側に、アノードガス(燃料ガス)を供給するアノードガス供給流路4及びカソードガス(酸化剤ガス)を供給するカソードガス供給流路6が設けられている。この実施形態では、アノードガス供給流路4は、セルスタック2の中央側部位(中央段の部位)にアノードガスを供給する第1アノードガス供給流路8と、セルスタック2の端部側部位(端部段の部位)にアノードガスを供給する第2アノードガス供給流路10とから構成されている。また、このセルスタック2の排出側にアノードオフガスを排出するアノードオフガス排出流路11及びカソードオフガスを排出するカソードオフガス排出流路13が設けられている。
【0026】
アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段12は、第1アノードガス供給手段としての例えば第1燃料ポンプ14と、第2アノードガス供給手段としての例えば第2燃料ポンプ16とを含み、第1燃料ポンプ14が第1アノードガス供給流路8に配設され、第2燃料ポンプ16が第2アノードガス供給流路10に配設される。第1及び第2アノードガス供給流路8,10の上流側は、アノードガス供給源としての例えばアノードガスボンベ18に接続され、アノードガスボンベ18からのアノードガスが第1及び第2アノードガス供給流路8,10を通して供給される。また、カソードガス供給流路6には、カソードガス供給手段としての例えば空気ブロア20が配設されている。
【0027】
このように構成されているので、アノードガスボンベ18(アノードガス供給源)からのアノードガスは、第1燃料ポンプ14によって第1アノードガス供給流路8を通してセルスタック2の中央側部位の電池セル20(20a)のアノード室22(22a)(図2参照)に供給されるとともに、第2燃料ポンプ16によって第2アノードガス供給流路10を通してセルスタック2の両端側部位の電池セル20(20b)のアノード室(22b)に供給される。また、酸化剤ガスとしての空気は、空気ブロア20によってカソードガス供給流路6を通してセルスタック2の電池セル20(20a,20b)のカソード室24(24a,24b)に供給される。
【0028】
主として図2及び図3を参照してセルスタック2について説明すると、図示セルスタック2は、図2及び図3において上下方向に積層された複数の電池セル20(20a,20b)を備えており、各電池セル20は、実質上同じ形状の平板状セルから構成されている。各電池セル20(20a,20b)は、具体的に図示していないが、例えばイオンを伝導する固体酸化物電解質層と、この電解質層の片側(図3において下側)に配設されたアノード(燃料極)と、この電解質層の他側(図3において上側)に配設されたカソード(空気極)とを備え、各電池セル20間にインターコネクタ26が配設され、かかるインターコネクタ26を介して電池セル20(20a,20b)が電気的に接続され、更にセルスタック2の両端部に集電板28が設けられている。
【0029】
この実施形態では、セルスタック2には、複数の電池セル20(20a,20b)の積層方向に延びる第1流入側マニホールド32及び第2流入側マニホールド34が設けられている。第1流入側マニホールド32は第1アノードガス供給流路8に連通され、第1アノードガス供給流路8を通して供給されるアノードガスは、図3に一点鎖線の矢印で示すように、この第1流入側マニホールド32により分配されてセルスタック2の中央側部位の電池セル20aのアノード室22aに送給される。また、第2流入側マニホールド34は第2アノードガス供給流路10に連通され、第2アノードガス供給流路10を通して供給されるアノードガスは、図3に二点鎖線の矢印で示すように、この第2流入側マニホールド34により分配されてセルスタック2の両端側部位の電池セル20bのアノード室22bに送給される。
【0030】
また、このセルスタック2には、更に、複数の電池セル20(20a,20b)の積層方向に延びる第3流入側マニホールド36が設けられている。第3流入側マニホールド36はカソードガス供給流路6に連通され、カソードガス供給流路6を通して供給されるカソードガスは、図3に実線の矢印で示すように、この第3流入側マニホールド36により分配されてセルスタック2の全電池セル20(20a,20b)のカソード室24(24a,24b)に送給される。
【0031】
このセルスタック2には、更に、複数の電池セル20(20a,20b)の積層方向に延びる第1流出側マニホールド38及び第2流出側マニホールド40が設けられている。第1流出側マニホールド38は、アノードオフガス排出流路11に連通され、セルスタック2の複数の電池セル20(20a,20b)のアノード室22(22a,22b)からのアノードオフガスは、第1流出側マニホールド38に集まり、この第1流出側マニホールド38を通して燃焼器42(図1参照)に送給される。また、第2流出側マニホールド40は、カソードオフガス排出流路13に連通され、セルスタック2の複数の電池セル20(20a,20b)のカソード室24(24a,24b)からのカソードオフガスは、第2流出側マニホールド40に集まり、この第2流出側マニホールド40を通して燃焼器42(図1参照)に送給される。
【0032】
図1に戻って、この燃料電池システムでは、セルスタック2及び燃焼器42は、内面が断熱材で覆われた高温モジュール44により規定された高温空間46に収容されている。電池セル20(20a,20b)のアノード室22(22a,22b)(図2参照)からのアノードオフガス及びカソード室24(24a,24b)(図2参照)からのカソードオフガスは燃焼部42に送給され、この燃焼器42にてアノードオフガスが燃焼され、この燃焼熱により高温モジュール44内が高温状態に保持され、燃焼後の燃焼排気ガスは、燃焼排気ガス排出流路48を通して外部に排出される。
【0033】
この燃料電池システムでは、図2及び図3から理解されるように、第1アノードガス供給流路8からのアノードガスは、セルスタック2の中央側部位の電池セル20aのアノード室22aに送給され、第2アノードガス供給流路10からのアノードガスは、セルスタック2の両端側部位の電池セル20bのアノード室22bに送給され、またカソード供給流路6からのカソードガスは、セルスタック2の全電池セル20(20a,20b)のカソード室24a,24b(24a,24b)に供給され、アノード室22(22a,22b)のアノードガスとカソード室24(24a,24b)のカソードガスとの電気化学反応により発電が行われる。
【0034】
各電池セル26での発電電力は集電板30に集電され、集電された発電電力は、発電出力ライン50を通して出力され、インバータ52により直流電流から交流電流に変換された後に、例えば照明装置、家電機器などの電力負荷(図示せず)に送給される。
【0035】
このような燃料電池システムでは、稼働時間が長くなるとセルスタックに経時劣化が生じてセルスタック2の温度、特にその中央側部位の電池セル20aの温度が上昇する傾向にあり、この電池セル20aの温度が上昇すると、アノード室22aに流入するアノードガスの粘性が大きくなり、このアノード室22aに流入するアノードガスの流入流量が少なくなってアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)が生じるおそれがある。
【0036】
そこで、この実施形態では、温度が上昇する傾向にあるセルスタック2の中央側部位の電池セル20aの温度を検知して第1及び第2アノードガス供給流路8,10を通して供給されるアノードガスの供給流量を制御している。
【0037】
図1とともに図4を参照して更に説明すると、この実施形態では、セルスタック2の中央側部位又はその近傍に温度検知手段62が設けられている。この温度検知手段62は、例えば熱電対から構成することができ、セルスタック2の中央側部位の電池セル20aの温度を検知する。尚、この温度検知手段62は、セルスタック2の中央側部位の電池セル20aのアノード室流入側、例えば第1流入側マニホールド32(図2図3参照)内に設けるようにしてもよい。
【0038】
この温度検知手段62からの検知信号は、燃料電池システムを制御するコントローラ64に送給され、コントローラ64は、この検知信号に基づいて第1及び第2燃料ポンプ14,16を後述する如く制御する。
【0039】
コントローラ64は、例えばマイクロプロセッサなどから構成され、この例では燃料利用率設定手段66、燃料供給流量演算手段68、空気供給流量演算手段70、温度判定手段72、燃料増減信号生成手段74、制御手段76及びメモリ手段78を含んでいる。燃料利用率設定手段66は、セルスタック2での発電において消費されるアノードガスの燃料利用率を設定し、燃料供給流量設定手段68は設定された燃料利用率となるように燃料供給流量(アノードガスの供給流量)を演算し、空気供給流量演算手段70は、このときの空気供給流量(カソードガス供給流量)を演算する。
【0040】
この実施形態では、燃料供給流量演算手段68により演算されたアノードガスの供給流量は、第1及び第2アノードガス供給流路8及び10を通してセルスタック2に供給される合計供給流量であり、この燃料供給流量演算手段68は、この合計供給流量に加えて、第1アノードガス供給流路8を通して供給される供給流量(即ち、セルスタック2の中央側部位の電池セル20aに送給される供給流量)及び第2アノードガス供給流路10を通して供給される供給流量(即ち、セルスタック2の両端側部位の電池セル20bに送給される供給流量)を演算する。
【0041】
例えば、この中央側部位の電池セル20aとこの両端側部位の電池セル20bとが同数であるときには、第1アノードガス供給流路8を通しての供給流量と第2アノードガス供給流路10を通しての供給流量とが同量となるように演算される。また、例えば、この中央側部位の電池セル20aの個数とこの両端側部位の電池セル20bの個数との比率が1:2であるときには、第1アノードガス供給流路8を通しての供給流量と第2アノードガス供給流路10を通しての供給流量との比率は1:2となるように演算される。尚、この実施例では、理解を容易するために、中央側部位の電池セル20aとこの両端側部位の電池セル20bとが同数である場合について説明する。
【0042】
また、温度判定手段72は、温度検知手段62の検知温度t0が初期検知温度T0から第1温度上昇閾値T1(例えば、10℃)を超えて上昇したか、また初期検知温度T0から第2温度上昇閾値T2(例えば、20℃)を超えて上昇したかの判定を行い、燃料増減信号生成手段74は、この検知温度t0が初期検知温度T0から第1温度上昇閾値T1を超えて上昇したとき(t0>(T0+T1))に第1増減信号を生成し、検知温度t0が初期検知温度T0から第2温度上昇閾値T2を超えて上昇したとき(t0>(T0+T2))に第2増減信号を生成する。制御手段76は、第1及び第2燃料ポンプ14,16を後述する如く制御し、メモリ手段78には、第1温度上昇閾値T1(10℃)、第2温度上昇閾値T2(20℃)、初期検知温度T0等が登録される。
【0043】
次に、主として図1図4及び図5を参照して、上述した燃料電池システムの制御の流れについて説明する。燃料電池システムの運転を開始する(ステップS1)と、コントローラ64の燃料利用率設定手段66は、セルスタック2による発電の燃料利用率(例えば、80~85%程度の値)を設定する(ステップS2)。このように燃料利用率を設定すると、燃料供給流量演算手段68はセルスタック2に供給するアノードガスの合計供給流量を演算する(ステップS3)とともに、第1アノードガス供給流路8を通して供給される供給流量及び第2アノードガス供給流路10を通して供給される供給流量を演算する(ステップS4)。また、空気供給流量演算手段70は、セルスタック2に供給するカソードガスの供給流量を演算する(ステップS5)。
【0044】
このように演算されると、制御手段76は、セルスタック2の中央側部位の電池セル20aに供給されるアノードガスの供給流量が演算された供給流量となるように第1燃料ポンプ14の回転数を制御するとともに、セルスタック2の両端側部位の電池セル20bに供給されるアノードガスの供給流量が演算された供給流量となるように第2燃料ポンプ16の回転数を制御し、またセルスタックに供給されるカソードガスの供給流量が演算された供給流量となるようになるように空気ブロア20の回転数を制御し(ステップS6)、このようにしてセルスタック2に供給されるアノードガス及びカソードガスの供給流量が制御される。
【0045】
この発電運転中においては、温度検知手段62は、セルスタック2の中央側部位の温度を検知し(ステップS7)、その検知信号がコントローラ64に送給される。かくすると、コントローラ64の温度判定手段72は、温度検知手段62の検知温度t0が初期検知温度から第1温度上昇閾値T1(10℃)を超えて上昇したか、また初期検知温度から第2温度上昇閾値T2(20℃)を超えて上昇したかを判定する。
【0046】
この検知温度t0の上昇が例えば第1温度上昇閾値T1以下(10℃)である(t0≦T0+T1)のときには、ステップS8からステップS7に戻り、上述した発電運転が継続して行われ、温度検知手段62による温度検知が繰り返し行われる。
【0047】
そして、この検知温度t0が初期検知温度T0から第1温度上昇閾値T1を超えて上昇する(t0>(T0+T1))と、ステップS8からステップS9に進み、この検知温度t0の温度上昇が初期検知温度T0から第2温度上昇閾値T2以下である((T0+T1)<t0≦(T0+T2))ときにはステップS10に進む。ステップ10に進むと、温度判定手段72のこの判定結果に基づき、燃料増減信号生成手段74は第1燃料増減信号を生成し、制御手段76は、この第1燃料増減信号に基づきアノードガスの供給流量を1段階制御する(ステップS11)。
【0048】
この第1段階制御のときには、セルスタック2での燃料利用率をそのまま維持した運転状態(即ち、アノードガスの合計供給流量を維持した供給状態)において、制御手段76は、第1燃料ポンプ14の回転数を例えば2%アップさせて第1アノードガス供給流路8を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、この増加させた供給流量分を減少させるために、第2燃料ポンプ16の回転数を例えば2%ダウンさせて第2アノードガス供給流路10を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させ(ステップS12)、このように制御することによって、セルスタック2に供給されるアノードガスの合計供給流量を増減させることなく、第1アノードガス供給流路8を通してセルスタック2(中央側部位の電池セル20a)に供給されるアノードガスを増加させることができる。従って、アノードガスの合計供給流量の増減がないために発電効率が下がることがなく、セルスタック2、特に温度が高くなりやすい中央側部位の電池セル20aへのアノードガスの供給流量を増やすことができ、この中央側部位の電池セル20aでのアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)を回避することができる。
【0049】
また、この検知温度t0が初期検知温度T0から第2温度上昇閾値T2を超えて上昇する(t0>(T0+T2))と、ステップS8からステップS9を経てステップS13に移る。かくすると、温度判定手段72のこの判定結果に基づき、燃料増減信号生成手段74は第2燃料増減信号を生成し、制御手段76は、この第2燃料増減信号に基づきアノードガスの供給流量を2段階制御する(ステップS14)。
【0050】
この第2段階制御のときには、セルスタック2での燃料利用率をそのまま維持した運転状態において、制御手段76は、第2燃料ポンプ14の回転数を例えば4%アップさせて第1アノードガス供給流路8を通して供給されるアノードガスの供給流量を更に増加させる一方、この増加させた供給流量分を減少させるために、第2燃料ポンプ16の回転数を例えば4%ダウンさせて第2アノードガス供給流路10を通して供給されるアノードガスの供給流量を更に減少させ(ステップS15)、このように制御してセルスタック2に供給されるアノードガスの合計供給流量を増減させることなく、第1アノードガス供給流路8を通してセルスタック2(中央側部位の電池セル20a)に供給されるアノードガスの供給流量を更に増加させている。従って、アノードガスの合計供給流量の増減がないために発電効率を下げることなく、セルスタック2、特に中央側部位の電池セル20aへのアノードガスの供給流量を更に増やすことができ、この中央側部位の電池セル20aでのアノードガスの供給不足を回避することができる。
【0051】
この実施形態では、温度検知手段62の検知温度に基づいて、セルスタック2に供給されるアノードガスの供給流量を2段階に制御しているが、このような制御に限定されず、この検知温度に基づきアノードガスの供給流量の制御を1段階又は3段階以上に制御することもできる。
【0052】
〔燃料電池システムの第2の実施形態〕
次に、図6及び図7を参照して、本発明に従う燃料電池システムの第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態の燃料電池システムの基本的構成は、上述した第1の実施形態と実質上同一であり、その基本的構成については図1を参照されたい。尚、以下の実施形態において、第1の実施形態と実質上同一のものについては、同一の番号を付し、その説明を省略する。
【0053】
図6において、この第2の実施形態では、セルスタックの中央側部位の電池セルの温度を直接計測するのではなく、燃料電池システムの設置後の稼働運転開始からの積算運転時間とセルスタックの中央側部位の電池セルの温度との関係の運転データを取得し、この運転データを利用して第1温度上昇閾値T1(例えば、10℃)に対応する第1積算運転時間U1(例えば、2万時間)、第2温度上昇閾値T2(例えば、15℃)に対応する第2積算運転時間U2(例えば、4万時間)及び第3温度上昇閾値T3(例えば、20℃)に対応する第3積算運転時間U3(例えば、6万時間)が設定され、これら第1~第3積算運転時間U1~U3がメモリ手段78Aに登録される。
【0054】
この第2の実施形態の燃料電池システムの制御系においては、温度検知手段に代えて、積算計時手段82が設けられ、例えば、コントローラ64Aはこの積算計時手段82を含み、システムの起動ボタン83からの起動信号が送られると、この起動信号に基づき積算計時手段82が作動して燃料電池システムの設置後の稼働運転開始からの積算運転時間が計時され、この積算計時時間u0は、メモリ手段78Aに記憶される。
【0055】
この実施形態のコントローラ64Aは、温度判定手段に代えて、積算運転時間判定手段84を備えており、積算計時手段82及び積算運転時間判定手段84を含んでいる点において第1の実施形態と相違するが、その他の構成については上述の第1の実施形態と同様である。
【0056】
この第2の実施形態における制御は、例えば次のように行われる。起動ボタン83を起動操作する(ステップS21)と、その起動信号がコントローラ64Aに送られて燃料電池システムの運転が開始し(ステップS22)、積算計時手段82が作動して設置後の稼働開始からの積算運転時間を計時する(ステップS23)。
【0057】
このようにして運転が開始されると、燃料利用率設定手段66は、燃料利用率を設定し(ステップS24)、燃料供給流量演算手段68は、セルスタック2に供給するアノードガスの合計供給流量を演算し(ステップS25)、更に第1アノードガス供給流路8を通して供給される供給流量及び第2アノードガス供給流路10を通して供給される供給流量を演算する(ステップS26)。また、空気供給流量演算手段70は、セルスタック2に供給するカソードガスの供給流量を演算する(ステップS26)。このようにしてアノードガスの供給流量及びカソードガスの供給流量が演算されると、制御手段76Aは、セルスタックへのアノードガス及びカソードガスの供給が演算された流量となるように第1及び第2燃料ポンプ14,16並びに空気ブロア20の回転数を制御する(ステップS28)。これらステップS24からステップS28までの制御は、第1の実施形態のステップS2からステップS6までの制御と同様に行われる。
【0058】
この発電運転中においては、積算計時手段82は、設置後の運転開始からの積算運転時間を計時し(ステップS29)、コントローラ64Aの積算運転時間判定手段84は、積算計時手段82の積算運転時間u0が第1積算運転時間U1(例えば、2万時間)を超えたか、また第2積算運転時間U2(例えば、4万時間)を超えたか、更に第3積算運転時間U3(例えば、6万時間)を超えたかを判定する。
【0059】
この積算運転時間u0が第1積算運転時間U1以下である(u0≦U1)ときには、ステップS30からステップS29に戻り、上述した発電運転が継続して行われる。
【0060】
そして、この積算運転時間u0が第1積算運転時間U1(例えば、2万時間)を超える(u0>U1)と、ステップS30からステップS31に進み、この積算運転時間u0が第2積算運転時間U2(例えば、4万時間)以下である(U1<u0≦U2)ときにはステップS32に進む。かくすると、積算運転時間判定手段84のこの判定結果に基づき、セルスタックが第1積算運転時間U1を超えて運転されてその中央側部位の電池セルの温度が第1温度上昇閾値T1を超えて上昇したと推測して、燃料増減信号生成手段74Aは第1燃料増減信号を生成する(ステップS32)。
【0061】
また、この積算運転時間u0が第2積算運転時間U2(例えば、4万時間)を超える(u0>U2)と、ステップS31からステップS33に進み、この積算運転時間u0が第3積算運転時間U3(例えば、6万時間)以下である(U2<u0≦U3)ときにはステップS34に進む。かくすると、積算運転時間判定手段84のこの判定結果に基づき、セルスタックが第2積算運転時間U2を超えて運転されてその中央側部位の電池セルの温度が第2温度上昇閾値T2を超えて上昇したと推測して、燃料増減信号生成手段74Aは第2燃料増減信号を生成する(ステップS36)。
【0062】
更に、この積算運転時間u0が第3積算運転時間U3(例えば、6万時間)を超える(u0>U3)と、ステップS33からステップS35に進む。かくすると、積算運転時間判定手段84はこの判定結果に基づき、セルスタックが第3積算運転時間U3を超えて運転されてその中央側部位の電池セルの温度が第3温度上昇閾値T34を超えて温度上昇したと推測して、燃料増減信号生成手段74Aは第3燃料増減信号を生成する。
【0063】
このようにして燃料増減信号生成手段74Aが第1燃料増減信号(又は第2燃料増減信号、第3燃料増減信号)を生成すると、ステップS36(又はステップS37、ステップS38)に進み、制御手段76Aは、セルスタックに供給する燃料供給流量を1段階制御(又は2段階制御、3段階制御)する。
【0064】
例えば、燃料供給流量の第1段階制御(又は2段階制御、3段階制御)のときには、ステップS39(又はステップS40、ステップS41)において、セルスタックでの燃料利用率をそのまま維持した運転状態で、制御手段76Aは、第1燃料ポンプ14の回転数を例えば2%(又は4%,6%)アップさせて第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、この増加させた供給流量分を減少させるために、第2燃料ポンプ16の回転数を例えば2%(又は4%,6%)ダウンさせて第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させ、このように制御してセルスタックに供給されるアノードガスの合計供給流量を増減させることなく、第1アノードガス供給流路を通してセルスタック2の中央側部位の電池セルに供給されるアノードガスを増加させている。従って、このように制御した場合においても、上述したと同様に、アノードガスの合計供給流量の増減がないために発電効率を下げることなく、セルスタック2、特に温度が高くなりやすい中央側部位の電池セルでのアノードガスの供給流量を増やしてこの中央側部位の電池セルでの供給不足(所謂、燃料枯れ)を回避することができる。
【0065】
この第2の実施形態では、積算運転時間に基づいて、セルスタックに供給されるアノードガスの供給流量を3段階に制御しているが、このような制御に限定されず、積算運転時間に基づいて、アノードガスの供給流量の制御を1又は2段階、或いは4段階以上に制御するようにしてもよい。
【0066】
〔燃料電池システムの第3の実施形態〕
次に、図8図10を参照して、本発明に従う燃料電池システムの第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態の燃料電池システムの基本的構成は、上述した第2の実施形態と実質上同一である。
【0067】
図8において、この第3の実施形態では、セルスタックの中央側部位の電池セルの温度を直接計測するのではなく、セルスタックの発電中にアノードガスの供給流量を一時的に増加させて燃料利用率を変化させたときに電池セル出力電圧が変化し、この出力電圧の変化は燃料枯れの度合いの大きい電池セルほど大きくなることを利用して、第1電圧差閾値V1及び第2電圧差閾値V2が設定され、これら第1及び第2電圧差閾値V1,V2がメモリ手段78Bに登録される。
【0068】
この第3の実施形態の燃料電池システムの制御系においては、温度検知手段に代えて、電圧計測手段90が設けられ、この電圧計測手段90からの計測信号はコントローラ64Bに送られる。
【0069】
また、コントローラ64Bは、温度判定手段に代えて、比較電圧差判定手段98を備え、この比較電圧差判定手段98に関連して、更に燃料枯れ検知モード設定手段91、燃料増信号生成手段92、上昇電圧演算手段94及び上昇電圧比較演算手段96を含んでおり、この点において第2の実施形態と相違するが、その他の構成については上述の第2の実施形態と同様である。
【0070】
この実施形態では、電圧計測手段90は、セルスタックの中央側部位の電池セルの出力電圧を計測し、中央側部位の複数の電池セル全体の出力電圧を計測するようにしてもよく、或いはこの中央側部位の各電池セルの出力電圧を計測するようにしてもよい。
【0071】
また、コントローラ64Bの燃料枯れ検知モード設定手段91は、セルスタックの発電中に燃料枯れ検知運転モードを設定し、燃料増信号生成手段92は、セルスタックの中央側部位の電池セルに供給されるアノードガス(即ち、第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガス)の供給流量を一時的に増加する燃料増信号を生成する。また、上昇電圧演算手段94は、アノードガスの供給流量を一時的に増加させたときの電池セルの上昇電圧値(この形態では、基準上昇電圧値、計測上昇電圧値)を演算する。
【0072】
また、上昇電圧比較演算手段96は、運転初期の燃料枯れ検知運転モードにおける基準上昇電圧値V0とその後の燃料枯れ検知運転モードにおける計測上昇電圧値との電圧差を比較演算し、比較電圧差判定手段98は、上昇電圧比較演算手段96による比較電圧差が第1電圧差閾値V1を超えたか、また第2電圧差閾値V2を超えたかを判定する。
【0073】
ここで、図9を参照して、燃料利用率と電池セルの出力電圧(発電電圧)との関係を説明すると、この燃料利用率と電池セルの出力電圧との関係は、図9に示すように変化し、アノードガスを一時的に増大させて燃料利用率が下がると、電池セルの出力電圧(発電電圧)は、図9に示すように変化して上昇する。
【0074】
図9から理解されるように、燃料利用率が例えば85%を超えるようなアノードガスの供給状態の電池セルにおいては、アノードガスを一時的に増大させたときの電池セルの出力電圧の変化量(即ち、上昇電圧値)は大きく、燃料枯れが進行した電池セルほどこの出力電圧の変化量は更に大きくなる。
【0075】
このようなことから、セルスタックの初期状態における出力電圧の変化量を基準上昇電圧値とし、その後に計測して演算した出力電圧の変化量を計測上昇電圧値とし、この基準上昇電圧値とその後の計測上昇電圧値とを比較して両者の電圧差を演算した比較電圧差が大きくなるということは、電池セルの燃料枯れが進行していることを示していることになる。
【0076】
この実施形態では、この比較電圧差値と電池セルの燃料枯れとは関連性があることから、セルスタックの燃料枯れの度合いに基づいて第1電圧差閾値V1及び第2電圧差閾値V2が設定される。
【0077】
この第3の実施形態における制御は、例えば次のように行われる。図8及び図10を参照して、起動ボタン83を起動操作する(ステップS51)と、その起動信号がコントローラ64Bに送られて燃料電池システムの運転が開始し(ステップS52)、積算計時手段82が作動して設置後の稼働開始からの積算運転時間を計時する(ステップS53)。
【0078】
このようにして運転が開始されると、ステップS54からステップS57が遂行されるが、これらステップS54からステップS58までの制御は、第2の実施形態のステップS24からステップS28までの制御と同様に行われる。
【0079】
この発電運転中に初期時間(例えば、5千時間)経過すると、ステップS59からステップS60に進み、燃料枯れ検知モード設定手段91が燃料枯れ検知モードを設定し、燃料枯れ検知モードの運転が行われる。この燃料枯れ検知モードにおいては、燃料増信号生成手段92が燃料増信号を生成し(ステップS61)、この燃料増信号に基づいて制御手段76Bは第1燃料ポンプ14の回転数を上昇させ、これによって、第1燃料ポンプ14により供給されるアノードガスの供給流量が一時的に増大する(ステップS62)。
【0080】
このとき、電圧計測手段90は、アノードガスの供給流量を一時的に増大させる前後のセルスタックの中央側部位の電池セルの出力電圧を計測し(ステップS63)、上昇電圧演算手段74は、アノードガスの供給流量のアップ前の出力電圧とアップ後の出力電圧の電圧差、即ちアノードガスの供給流量を増大させたときの上昇電圧値を演算し(ステップS64)、この上昇電圧値が基準上昇電圧値としてメモリ手段78Bに登録される。
【0081】
そして、積算計時手段82が所定時間(例えば、5千時間毎)を計時すると、ステップS65からステップS66に進み、燃料枯れ検知モード設定手段91が再び燃料枯れ検知モードを設定し、燃料枯れ検知モードの運転が行われる。この燃料枯れ検知モードにおいては、上述したように、燃料増信号生成手段92が燃料増信号を生成し(ステップS67)、この燃料増信号に基づいて制御手段76Bは第1燃料ポンプ14の回転数を上昇させ、これによって、第1燃料ポンプ14により供給されるアノードガスの供給流量が一時的に増大する(ステップS68)。
【0082】
このときも、電圧計測手段90は、アノードガスの供給流量を一時的に増大させる前後のセルスタックの中央側部位の電池セルの出力電圧を計測し(ステップS69)、上昇電圧演算手段94は、アノードガスの供給流量のアップ前の出力電圧とアップ後の出力電圧の電圧差、即ち計測上昇電圧値を演算する。
【0083】
そして、上昇電圧比較演算手段96は、メモリ手段78Bに登録された基準上昇電圧値とこの計上昇電圧演算手段94により演算された計測上昇電圧値とを比較して比較電圧差値(基準上昇電圧値とこの計測上昇電圧値との電圧差値)を演算し(ステップS70)、演算したこの比較電圧差値V0についての判定が行われ(ステップS71)、比較電圧差判定手段98は、上昇電圧比較演算手段96による比較電圧差値V0が第1電圧差閾値V1を超えたか、また第2電圧差閾値V2を超えたかを判定する。
【0084】
この比較電圧差値V0が第1電圧差閾値V1以下である(V0≦V1)ときには、ステップS72からステップS65に戻るが、この比較電圧差値V0が第1電圧差閾値V1を超える(V0>V1)と、ステップS72からステップS73に進み、この比較電圧差値V0が第2電圧差閾値V2以下である(V1<V0≦V2)ときにはステップS74に進む。かくすると、比較電圧差判定手段98のこの判定結果に基づき、セルスタックに燃料枯れが少し生じているとして、燃料増減信号生成手段74Bは第1燃料増減信号を生成し、制御手段76Bは、セルスタックに供給する燃料供給流量を1段階制御し(ステップS75)、セルスタックでの燃料利用率をそのまま維持した運転状態で、制御手段76Bは、第1燃料ポンプ14の回転数を例えば2%アップさせて第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を増加させる一方、この増加させた供給流量分を減少させるために、第2燃料ポンプ16の回転数を例えば2%ダウンさせて第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を減少させる(ステップS76)。
【0085】
また、この比較電圧差値V0が第2電圧差閾値V2を超える(V0>V2)と、ステップS73からステップS77に進み、比較電圧差判定手段98のこの判定結果に基づき、セルスタックに燃料枯れが生じているとして、燃料増減信号生成手段74Bは第2燃料増減信号を生成し、制御手段76Bは、セルスタックに供給する燃料供給流量を2段階制御し(ステップS78)、セルスタックでの燃料利用率をそのまま維持した運転状態で、制御手段76Bは、第1燃料ポンプ14の回転数を例えば4%アップさせて第1アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を更に増加させる一方、この増加させた供給流量分を減少させるために、第2燃料ポンプ16の回転数を例えば4%ダウンさせて第2アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスの供給流量を更に減少させる(ステップS79)。
【0086】
このように、この第3の実施形態においても、セルスタックに供給されるアノードガスの合計供給流量を増減させることなく、セルスタックの中央側部位の電池セルへのアノードガスの供給流量を増やしているので、セルスタックでの発電効率を低下させることなくアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)を回避することができる。
【0087】
この第3の実施形態では、比較電圧差値に基づいて、セルスタックに供給されるアノードガスの供給流量を2段階に制御しているが、このような制御に限定されず、アノードガスの供給流量の制御を1段階又は3段階以上に制御するようにしてもよい。
【0088】
以上、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの種々の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0089】
例えば、上述した実施形態では、本発明をセルスタックとして固体酸化物形のもの(SOFC)に適用して説明したが、この形態のものに限定されず、溶融炭酸塩形のもの(MCFC)、リン酸形のもの(PAFC)などにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
2 セルスタック
4 アノードガス供給流路
6 カソードガス供給流路
8 第1アノードガス供給流路
10 第2アノードガス供給流路
12 燃料ブロア(アノードガス供給手段)
14 第1燃料ブロア
16 第2燃料ブロア
20,20a,20b 電池セル
22,22a,22b アノード室
24,24a,24b カソード室
62 温度検知手段
64,64A,64B コントローラ
72 温度判定手段
74,74A、74B 燃料増減信号生成手段
82 積算計時手段
84 積算運転時間判定手段
90 電圧計測手段
91 燃料枯れ検知モード設定手段
92 燃料増信号生成手段
96 上昇電圧比較演算手段
98 比較電圧差判定手段

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10