(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142379
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】バルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 1/32 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
F16K1/32 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049267
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄祐
【テーマコード(参考)】
3H052
【Fターム(参考)】
3H052AA01
3H052BA35
3H052CC14
(57)【要約】
【課題】開閉切替の応答性を向上したバルブを提供する。
【解決手段】貫通孔4a、4bを有する弁座2と、この弁座2に対して貫通孔4a、4bの軸方向zに移動可能に構成されるとともに弁座2に密着して貫通孔4a、4bを閉止する閉止部6を有する弁体3とを備えるバルブ1において、貫通孔4a、4bが、軸方向zにおいて弁体3に近い側に形成される拡径部4aと、弁体3から遠い側に形成される縦穴部4bとを有していて、拡径部4aの流路断面積が縦穴部4bの流路断面積よりも大きく構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する弁座と、この弁座に対して貫通孔の軸方向に移動可能に構成されるとともに弁座に密着して貫通孔を閉止する閉止部を有する弁体とを備えるバルブにおいて、
貫通孔が、軸方向において弁体に近い側に形成される拡径部と、弁体から遠い側に形成される縦穴部とを有していて、
拡径部の流路断面積が縦穴部の流路断面積よりも大きいことを特徴とするバルブ。
【請求項2】
複数の貫通孔を弁座が有する請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
複数の貫通孔が弁座の周方向に互いに間隔をあけて配置されていて、周方向に隣り合う拡径部どうしが連通して一つの環状溝を形成する請求項2に記載のバルブ。
【請求項4】
閉止部が、環状溝よりも内側となる領域に形成されていて閉止部を貫通する開口部を有する請求項3に記載のバルブ。
【請求項5】
閉止部の着座面に窪みが形成されていて、
閉止部が弁座に密着したときに窪みと縦穴部とが連通する請求項1に記載のバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧回路等に配置されるバルブに関するものであり、詳しくはバルブの開閉切替の応答性を向上できるバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油圧回路で使用されるバルブが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のバルブは、弁座に形成される貫通孔に対して弁体を接近離間させることでバルブの開閉切替を行っていた。このバルブの構成では、バルブの開閉切替の応答性を向上することが困難であった。
【0005】
バルブの開閉切替の応答性を向上するために、バルブの開度を小さくすることが考えられる。バルブの開放時における弁座に対する弁体の位置を接近させることで、その後バルブを閉止するまでの時間を短縮できる。この場合、バルブの開度が小さくなるため弁座と弁体との間で流体の流速が上昇して圧力が低下する。弁体が弁座に接近する方向の力をうけるため、意図せずバルブが閉止してしまう不具合があった。
【0006】
弁座に対して弁体を離間させるためのバネ力等の力を大きくすることで、意図せずバルブが閉止してしまう不具合を回避することが考えられる。しかしバルブを開放方向に付勢するバネのバネ力を増加させると、バルブを閉止する際に必要となる力が増加してしまう。バルブを短時間で閉止することが困難であった。
【0007】
本開示の目的は開閉切替の応答性を向上したバルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明の一態様のバルブは、貫通孔を有する弁座と、この弁座に対して貫通孔の軸方向に移動可能に構成されるとともに弁座に密着して貫通孔を閉止する閉止部を有する弁体とを備えるバルブにおいて、貫通孔が、軸方向において弁体に近い側に形成される拡径部と、弁体から遠い側に形成される縦穴部とを有していて、拡径部の流路断面積が縦穴部の流路断面積よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、流体の流速が上昇する位置を拡径部により弁体から離れた位置にできる。流体の流速が上昇して圧力が低下する位置が弁体から離れるため、弁体が弁座に接近する方向の力を抑制できる。弁体に付勢するバネ力等を増加させることなくバルブの開度を小さくできる。バルブの開閉切替の応答性を向上するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】
図2のバルブの閉止状態を例示する説明図である。
【
図10】
図9のD-D断面を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、バルブを図に示した実施形態に基づいて説明する。図中では弁座に形成される貫通孔の軸方向を矢印z、軸方向zに直交する幅方向を矢印x、幅方向xを直角に横断する縦方向を矢印yで示している。
【0012】
図1に例示するようにバルブ1は例えば電磁バルブで構成される。バルブ1は、油圧回路等の流路の途中に固定される弁座2と、弁座2に対して接近離間可能に構成される弁体3とを備えている。この実施形態では弁座2および弁体3は、軸方向zに見通したとき(以下、平面視ということがある)円形となる状態に形成されている。弁座2および弁体3の平面視における形状は円形に限らず、楕円形や多角形で構成されてもよい。
【0013】
バルブ1の開閉方向が軸方向zに沿った方向であり、
図1では軸方向zが上下方向と平行となる状態で示している。以下、流体が上方から下方に向かって流れることを前提にバルブ1の構成について説明する。バルブ1の構成はこれに限定されない。バルブ1が設置される油圧回路に応じてバルブ1の開閉方向および流体の流れる方向は適宜読み替えて、以下の説明を適用できる。
【0014】
図1および
図2に例示するように弁座2は、作動油等の流体が通過可能で上下方向を軸方向zとする貫通孔4を有している。貫通孔4は、軸方向zにおいて上方側に形成される拡径部4aと、下方側に形成される縦穴部4bとを有している。貫通孔4は弁体3に近い側となる拡径部4aと弁体3から遠い側に形成される縦穴部4bとから成るとも言える。拡径部4aは、縦穴部4bの穴経よりも大きい穴経を有している。
【0015】
この実施形態では複数の貫通孔4が弁座2の周方向に互いに間隔をあけて配置されていて、周方向に隣り合う拡径部4aどうしが連通して一つの環状溝を形成している。この環状溝の底面から下方に向かって複数の縦穴部4bが延設されている。縦穴部4bは弁座2の下面に貫通する状態で形成されている。四つの縦穴部4bが円周上に沿って均等に並べて配置されている。縦穴部4bは平面視で円形に形成されている。一つの拡径部4aに対して複数の縦穴部4bが連通する状態となっている。この実施形態では軸方向zにおいて拡径部4aの長さと縦穴部4bの長さは同一となっている。
【0016】
弁体3は、平面視で弁座2よりも直径の小さい円形となる状態に形成されている。弁体3は軸方向zに延設される軸部5を有している。弁体3は、軸部5を介して図示しないバネおよび電磁石により軸方向zに移動可能に構成されている。つまり弁体3は弁座2に対して接近離間可能に構成されている。
【0017】
弁体3は、貫通孔4を上方から覆う閉止部6を有している。この実施形態では閉止部6は円環状に形成されている。円環状に形成される閉止部6の内側となる領域に形成されていて、弁体3を軸方向zに貫通する開口部7を弁体3が有していてもよい。この実施形態では四つの開口部7が弁体3に形成されている。半径方向において開口部7の外側となる領域が閉止部6を構成している。閉止部6は弁座2に密着して貫通孔4を閉止する構成を有していればよい。閉止部6は少なくとも拡径部4aを上方から閉止して、流体が拡径部4aに流れ込むことを防止できる形状を有していればよい。閉止部6は開口部7を有さない円盤状に形成されていてもよい。
【0018】
図2に例示するようにバルブ1の弁体3は、例えば図示しないバネにより上向きに付勢されて弁座2と軸方向zに離間する開放状態を維持する構成を有している。
図3に例示するようにバルブ1は、電磁石に通電することでバネのバネ力に逆らって弁体3を下向きに移動させて弁座2と接触させる閉止状態を維持する構成を有している。
【0019】
バルブ1の構成は上記に限定されない。弁体3がバネにより下向きに付勢されて閉止状態を維持して、電磁石に通電することで弁体3が上向きに移動して開放状態となる構成を有していてもよい。
【0020】
図2に例示するようにバルブ1が開放状態のとき、作動油等の流体は閉止部6の半径方向の外側から拡径部4aに流れる。また流体は閉止部6の半径方向の内側の開口部7を通過して拡径部4aに流れる。
図2では説明のため流体の流れる方向を白抜き矢印で示している。
図4に例示するように弁体3の近傍において流体は、バルブ1が配置される管路8と弁体3との間の領域、および開口部7により形成される領域とを通過する。
【0021】
図2に例示するように貫通孔4の拡径部4aに流れ込んだ流体は、縦穴部4bを経由して弁座2の下面側に流れる。弁座2の近傍において流体は、
図5に例示するように拡径部4aにより形成される領域を通過して、
図6に例示するように縦穴部4bにより形成される領域を通過する。
【0022】
流体が移動する流路断面積は、拡径部4aから縦穴部4bに到達するとき小さくなる。本明細書において流路断面積とは軸方向zに直交する断面において流体が移動可能な領域の面積を言う。
図5に例示するように拡径部4aにより構成される環状溝における流路断面積に対して、
図6に例示するように複数の縦穴部4bにおける流路面積の合計は大幅に小さくなる。流路断面積の減少にともない流体の流速が上昇して圧力が低下する。
【0023】
図2に例示するように拡径部4aと縦穴部4bの境界となる位置Pにおいて、流体の圧力が低下する。
図2では説明のため位置Pを一点鎖線で示している。弁座2が拡径部4aを有しているため、流体の圧力が低下する位置Pが弁体3から離れた位置となる。そのため弁体3が弁座2に接近する方向(下向き)の力の発生を抑制できる。弁体3に付勢するバネのバネ力等を増加させることなくバルブ1の開度を小さく設定できる。バルブ1の開度とは、バルブ1の開放状態における弁座2と弁体3との間に形成される隙間の大きさをいう。バルブ1の開放状態における弁座2に対する弁体3の位置を接近させることができる。バルブ1の開閉切替の応答性を向上するには有利である。
【0024】
軸方向zにおける拡径部4aの長さと縦穴部4bの長さとは同一に設定できる。これに限定されず軸方向zにおける拡径部4aと縦穴部4bの長さは適宜設定できる。拡径部4aの長さを長くするほど流体の圧力が低下する位置Pを弁体3から軸方向zにおいて離れた位置にできるため、弁体3が弁座2に接近する方向の力を受け難くなる。一方で拡径部4aの長さを短くするほど、弁座2の強度を向上できる。弁体3に発生する下向きの力と弁座2の強度とについて要求される性能のバランスで拡径部4aの長さと縦穴部4bの長さとは設定される。
【0025】
バルブ1を開放状態から閉止状態に切り替える際には、
図3に例示するように弁体3を弁座2に密着させる。弁体3の閉止部6により貫通孔4が閉止されるため、流体の流れが停止する。
【0026】
縦穴部4bは、周方向に沿って均等に並べて配置される構成に限定されない。また縦穴部4bは平面視で円形となる形状に限定されない。
図7に例示するように縦穴部4bが平面視で楕円形に形成されてもよい。縦穴部4bが円周上に沿って配置されなくてもよい。また弁座2における所定の位置に偏って縦穴部4bが配置される構成であってもよい。縦穴部4bの平面視における形状および配置位置は任意に設定することができる。
【0027】
図5に例示されるように縦穴部4bが周方向に沿って均等に配置される方が、弁座2の強度を維持しやすくなる。また縦穴部4bを通過することで流体の流れる方向が乱れることを抑制できる。つまりバルブ1の下流側となるの管路8の内部において、流体の流れが乱れることを抑制しやすくなる。
【0028】
拡径部4aの形状は、平面視で円環状となる形状に限定されない。
図8に例示するように周方向に隣り合う拡径部4aどうしが連通しない構成であってもよい。この場合、それぞれの貫通孔4が独立して形成されている状態であり、一つの縦穴部4bに対して一つの拡径部4aが連通する状態となる。弁座2は四つの縦穴部4bと四つの拡径部4aとを有している。縦穴部4bとこの縦穴部4bに連通する拡径部4aとの間で、流路断面積が縦穴部4bより拡径部4aの方が大きく設定されていればよい。このとき弁体3の閉止部6は、少なくとも各貫通孔4を閉止できる形状を有していればよい。
図8に例示する実施形態では、平面視における閉止部6の範囲を小さくできるので、弁体3を小型化するには有利である。
【0029】
図5に例示されるように複数の拡径部4aどうしを連通して一つの環状溝を形成する構成の方が、縦穴部4bより拡径部4aの流路断面積を大幅に大きくできる。また
図4に例示する弁体3を通過する際の流路断面積に対して、
図5に例示する拡径部4aの流路断面積の変化量を抑制できる。弁体3から拡径部4aに流体が流れる際の流速の上昇を抑制するには有利である。バルブ1の開閉切替の応答性を向上するには有利である。
【0030】
弁体3に形成される開口部7は必須の構成要件ではない。
図2に例示する弁体3の半径方向の外側からのみ流体が弁体3を通過する構成としてもよい。弁体3が開口部7を有する方が、弁体3と弁座2との間で例えば幅方向xや縦方向yに流体が流れて圧力が低下することを抑制できる。開口部7により、弁体3と弁座2との間に狭い隙間が形成されることを回避できる。
【0031】
開口部7を有する方が弁体3を軽く構成できる。弁体3をより小さな力で軸方向zに移動させることが可能となるため、バルブ1の開閉切替の応答性を向上するには有利である。
【0032】
下向きに流れる流体が弁体3を下向きに押す代わりに開口部7を通過するため、流体により弁体3が下向きに押される力を抑制できる。バルブ1が意図せず閉止してしまう不具合を回避するには有利である。またバルブ1を開放状態から閉止状態に切り替える際に、弁座2と弁体3との間に挟まれた流体が開口部7から弁体3の上方側に移動できる。弁座2と弁体3との間に流体が挟まれて圧力が増加することを抑制できる。比較的小さな力で弁体3を下向きに移動させて弁座2に接触させることができる。
【0033】
図2に例示するように弁体3の下面となる着座面3aに形成される窪み9を閉止部6が有していてもよい。閉止部6が弁座2に密着したときに、窪み9は縦穴部4bと連通する構成を有している。縦穴部4bと窪み9とが軸方向zに沿って並ぶ状態となる。窪み9は例えば円環状に形成されて、拡径部4aにより形成される環状溝に対応する位置に形成される。この実施形態では半径方向(幅方向x)における窪み9と拡径部4aとの幅は同一に形成されている。窪み9と拡径部4aとの幅は異なる大きさであってもよい。
【0034】
拡径部4aと縦穴部4bとの境界となる位置Pで流体の圧力が低下した場合、この位置Pの上方に位置する弁体3を吸引する方向の力が発生する。軸方向zにおいて圧力が低下する位置Pと弁体3との間に拡径部4aに加えて窪み9が配置される状態となる。流体の圧力が低下する位置Pは、窪み9により弁体3から更に離れた位置となる。弁体3が弁座2に接近する方向の力の発生を抑制するには有利である。
【0035】
窪み9を形成することで弁体3を軽量化できる。弁体3は軽い方がバルブ1の開閉切替の応答性を向上するには有利である。
【0036】
窪み9の形状は円環状に限定されない。拡径部4aと縦穴部4bとの境界となる位置Pの上方に形成されていればよい。つまり少なくとも複数の縦穴部4bの上方となる位置に、上方に凸となる窪み9が形成されていればよい。窪み9および拡径部4aが円環状に形成されている場合は、弁座2に対して弁体3が軸方向zを中心に回転しても、バルブ1の開閉切替の応答性を維持することができる。
【0037】
図9および
図10に例示するように、一つの貫通孔4を弁座2が有する構成であってもよい。この実施形態では弁座2の中央部に貫通孔4が一つ形成されている。軸方向zにおける拡径部4aの長さは縦穴部4bよりも小さく構成されている。窪み9は縦穴部4bと同一の直径を有する円柱形状に形成されている。
【符号の説明】
【0038】
1 バルブ
2 弁座
3 弁体
3a 着座面
4 貫通孔
4a 拡径部
4b 縦穴部
5 軸部
6 閉止部
7 開口部
8 管路
9 窪み
x 幅方向
y 縦方向
z 軸方向
P (流体の圧力が低下する)位置