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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142439
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】液状ポリオレフィン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20230928BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20230928BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20230928BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20230928BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K5/10
C08K5/01
C08F8/00
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049356
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 明
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA21
4F071AA77
4F071AC08A
4F071AC10A
4F071AC19A
4F071AE02A
4F071AE06A
4F071AF19Y
4F071AF40Y
4F071AG05
4F071AG28
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002BB171
4J002BB201
4J002EC006
4J002EF006
4J002EF126
4J002EH076
4J002EK017
4J002EK037
4J002EN006
4J002EU196
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD146
4J002FD170
4J002FD207
4J002FD320
4J002GQ00
4J100CA31
4J100HA61
4J100HC29
4J100HC30
4J100HC36
4J100HC39
4J100HE17
4J100HG09
4J100JA01
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与える液状ポリオレフィン組成物と、当該液状ポリオレフィン組成物の硬化物と、当該硬化物からなるフィルムとを提供すること。
【解決手段】変性ポリオレフィン(A)と、硬化剤(B)と、開始剤(C)と、有機溶媒(S)とを含む液状ポリオレフィン組成物において、変性ポリオレフィン(A)として、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンを用い、硬化剤(B)の含有量を、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2.5~30質量部とし、開始剤(C)の含有量を、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~2.7質量部とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリオレフィン(A)と、硬化剤(B)と、開始剤(C)と、有機溶媒(S)とを含み、
前記変性ポリオレフィン(A)が、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンであり、
前記硬化剤(B)の含有量が、前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2.5~30質量部であり、
前記開始剤(C)の含有量が、前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~2.7質量部である、液状ポリオレフィン組成物。
【請求項2】
前記硬化剤(B)の質量が、前記開始剤(C)の質量の5~30倍である、請求項1に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒(S)が、炭化水素系溶媒、及び/又はエーテル系溶媒を含む、請求項1又は2に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項4】
前記液状ポリオレフィン組成物の質量に対する、前記液状ポリオレフィン組成物に含まれる前記有機溶媒(S)以外の成分の質量の比率が、3~40質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項5】
前記硬化剤(B)が、ビニル基、アリル基、及び(メタ)アクリロイル基からなる群より選択される基を2つ以上有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項6】
前記開始剤(C)の10時間半減期温度が100℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項7】
前記開始剤(C)の10時間半減期温度が、前記有機溶媒(S)の大気圧下で沸点よりも高い、請求項1~6のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項8】
前記変性ポリオレフィン(A)の、極性基を有する単量体による変性量が、0.05~1.50質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項9】
前記変性ポリオレフィン(A)が、極性基を有する単量体により変性されたポリメチルペンテンを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項10】
前記液状ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、前記変性ポリオレフィン(A)の質量の比率が、50質量%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
【請求項11】
下記の1)~5)の工程からなる方法で測定されるピール強度として、3.0N/cm以上の値を示す硬化フィルムを与える、請求項1~10のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物。
1)前記液状ポリオレフィン組成物を、ガラス基板上にキャストする工程。
2)キャストされた前記液状ポリオレフィン組成物を、50℃10分間の加熱に続けて80℃30分間加熱して乾燥させる工程。
3)乾燥後に形成されたフィルムを、前記ガラス基板から剥がし、未硬化フィルムを得る工程。
4)前記未硬化フィルムを、2枚の電解銅箔間に挟み込み、プレス温度180℃、プレス圧力2.0MPa、プレス時間10分にて、プレスを行い、積層フィルムを得る工程。
5)得られた前記積層フィルムを用いて、JISC6471の「6.5引きはがし強さ」に従って、ピール強度を測定する工程。
【請求項12】
請求項1~11に記載の液状ポリオレフィン組成物の硬化物。
【請求項13】
10GHzにおける比誘電率Dkが2.30以下であり、10GHzにおける誘電正接Dfが0.0020以下である、請求項12に記載の硬化物。
【請求項14】
請求項12、又は13に記載の硬化物からなるフィルム。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の液状ポリオレフィン組成物を基材上に塗布して塗布膜を形成することと、
前記塗布膜から前記有機溶媒(S)を除去して、未硬化フィルムを得ることと、
前記未硬化フィルムを硬化させることと、を含む請求項14に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状ポリオレフィン組成物と、当該液状ポリオレフィン組成物の硬化物と、当該硬化物からなるフィルムと、当該フィルムの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の通信機器や、次世代テレビ等の電子機器において、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波数化が進んでいる。具体的には、無線通信分野では、2020年頃に、第5世代移動通信システム(5G)の導入が見込まれる。第5世代移動通信システムの導入に際して、10GHz以上の高周波数帯域の使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。
【0004】
このため、伝送損失を低減するために、誘電損失に係る因子である比誘電率と、誘電正接とが低い低誘電材料が求められている。このような事情から、高周波数帯域で使用され得る低誘電材料として、例えば、低誘電損失及び低誘電正接等の電気特性に優れたポリオレフィンを含む組成物の使用が検討されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-245305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低誘電特性に優れる材料の好ましい用途としては、フレキシブルプリント配線板が挙げられる。フレキシブルプリント配線板において、低誘電特性を有する材料は、通常、フィルムとして使用される。
【0007】
フレキシブルプリント配線板は、表面実装を適用するためにリフロー炉において高温にさらされることが多い。このため、フレキシブルプリント配線板について、リフロー炉での加熱によっても、高い耐熱性が求められる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与える液状ポリオレフィン組成物と、当該液状ポリオレフィン組成物の硬化物と、当該硬化物からなるフィルムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(14)を提供する。
(1)変性ポリオレフィン(A)と、硬化剤(B)と、開始剤(C)と、有機溶媒(S)とを含み、
変性ポリオレフィン(A)が、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンであり、
硬化剤(B)の含有量が、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2.5~30質量部であり、
開始剤(C)の含有量が、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~2.7質量部である、液状ポリオレフィン組成物。
(2)硬化剤(B)の質量が、開始剤(C)の質量の5~30倍である、(1)に記載の液状ポリオレフィン組成物。
(3)有機溶媒(S)が、炭化水素系溶媒、及び/又はエーテル系溶媒を含む、(1)、又は(2)に記載の液状ポリオレフィン組成物。
(4)液状ポリオレフィン組成物の質量に対する、液状ポリオレフィン組成物に含まれる有機溶媒(S)以外の成分の質量の比率が、3~40質量%である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(5)硬化剤(B)が、ビニル基、アリル基、及び(メタ)アクリロイル基からなる群より選択される基を2つ以上有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(6)開始剤(C)の10時間半減期温度が100℃以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(7)開始剤(C)の10時間半減期温度が、有機溶媒(S)の大気圧下での沸点よりも高い、(1)~(6)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(8)変性ポリオレフィン(A)の、極性基を有する単量体による変性量が、0.05~1.50質量%である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(9)変性ポリオレフィン(A)が、極性基を有する単量体により変性されたポリメチルペンテンを含む、(1)~(8)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(10)液状ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、変性ポリオレフィン(A)の質量の比率が、50質量%以上である、(1)~(9)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
(11)下記の1)~5)の工程からなる方法で測定されるピール強度として、3.0N/cm以上の値を示す硬化フィルムを与える、(1)~(10)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物。
1)液状ポリオレフィン組成物を、ガラス基板上にキャストする工程。
2)キャストされた液状ポリオレフィン組成物を、50℃10分間の加熱に続けて80℃30分間加熱して乾燥させる工程。
3)乾燥後に形成されたフィルムを、ガラス基板から剥がし、未硬化フィルムを得る工程。
4)未硬化フィルムを、2枚の電解銅箔間に挟み込み、プレス温度180℃、プレス圧力2.0MPa、プレス時間10分にて、プレスを行い、積層フィルムを得る工程。
5)得られた積層フィルムを用いて、JISC6471の「6.5引きはがし強さ」に従って、ピール強度を測定する工程。
(12)(1)~(11)に記載の液状ポリオレフィン組成物の硬化物。
(13)10GHzにおける比誘電率Dkが2.30以下であり、10GHzにおける誘電正接Dfが0.0020以下である、(12)に記載の硬化物。
(14)(12)、又は(13)に記載の硬化物からなるフィルム。
(15)(1)~(11)のいずれか1つに記載の液状ポリオレフィン組成物を基材上に塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜から有機溶媒(S)を除去して、未硬化フィルムを得ることと、
未硬化フィルムを硬化させることと、を含む(13)に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与える液状ポリオレフィン組成物と、当該液状ポリオレフィン組成物の硬化物と、当該硬化物からなるフィルムとを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪液状ポリオレフィン組成物≫
液状ポリオレフィン組成物は、変性ポリオレフィン(A)と、硬化剤(B)と、開始剤(C)と、有機溶媒(S)とを含む液状の組成物である。
変性ポリオレフィン(A)は、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンである。
鎖状ポリオレフィンは、主鎖に環式構造を有さないポリオレフィンである。
硬化剤(B)は、硬化剤(B)同士、又は硬化剤(B)と変性ポリオレフィン(A)との間で架橋することで、液状ポリオレフィン組成物を架橋させる。
開始剤(C)は、硬化剤(B)を硬化させる成分である。
液状ポリオレフィン組成物における硬化剤の含有量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2.5~30質量部である。
液状ポリオレフィン組成物における含有量が、前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~2.7質量部である。
【0013】
以下、液状ポリオレフィン組成物が含む、必須、又は任意の成分について説明する。
【0014】
<変性ポリオレフィン(A)>
変性ポリオレフィン(A)は、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンである。
【0015】
ここで極性基とは、極性のある原子団のことで,この基が有機化合物中に存在すると,その化合物が極性をもつ基のことである。極性基を有する単量体による変性によって鎖状ポリオレフィンに導入され得る極性基の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等の前述の不飽和カルボン酸の誘導体に由来する酸無水物基、ハロカルボニル基、カルボン酸アミド基、イミド基、及びカルボン酸エステル基;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体に由来するエポキシ基等が挙げられる。これらの極性基の中では、グラフト変性ポリオレフィン組成物、又はその架橋物と、液状ポリオレフィン組成物を用いてポリイミド樹脂や銅箔との密着性が良好な硬化物を形成しやすいことや、変性ポリオレフィン(A)と、硬化剤(B)との架橋反応性が良好であること等からエポキシ基が好ましい。
【0016】
典型的には、変性ポリオレフィン(A)は、鎖状ポリオレフィンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂であるか、又は鎖状ポリオレフィンを与える単量体を、極性基を有するビニル単量体とともに、ラジカル重合開始剤の存在下で共重合することにより得られる共重合変性された樹脂である。
極性基を有する単量体による変性を良好に行いやすい点で、変性ポリオレフィン(A)としては、鎖状ポリオレフィンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂であるのが好ましい。
【0017】
グラフト変性ポリオレフィンである変性ポリオレフィン(A)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性された鎖状ポリオレフィンであるのが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性された鎖状ポリオレフィンであるのがより好ましい。
【0018】
鎖状ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、及びエチレン/オクテン共重合体等が挙げられる。
【0019】
これらの鎖状ポリオレフィンの中でも、変性反応が容易であることから、ポリメチルペンテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレン-エチレン共重合体が好ましく、耐熱性及び低誘電特性の点から、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0020】
変性ポリオレフィン(A)を製造する際に使用し得るラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、及びメチルアセトアセテートパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、及びジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシオクテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、及びジ-tert-ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル等が挙げられる。上記のラジカル重合開始剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
ラジカル重合開始剤の使用量は、変性反応が良好に進行する限り特に限定されない。
共重合変性を行う場合、ラジカル重合開始剤の使用量は、変性ポリオレフィン(A)を与えるモノマー100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
グラフト変性を行う場合、ラジカル重合開始剤の使用量は、鎖状ポリオレフィン100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0022】
変性に使用され得る極性基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等のこれらの不飽和カルボン酸の誘導体;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、エポキシ基含有ビニル単量体が好ましく、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが特に好ましい。
【0024】
上記の極性基を有するビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
共重合変性を行う場合、変性に使用される極性基を有するビニル単量体の量は、極性基を有するビニル単量体以外のモノマー100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
グラフト変性を行う場合、変性に使用される極性基を有するビニル単量体の添加量は、鎖状ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0026】
かかる範囲内の量の極性基を有するビニル単量体を用いて変性された変性ポリオレフィン(A)を用いることで、低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与え、硬化性に優れる液状ポリオレフィン組成物を得やすい。
【0027】
前述の通り変性ポリオレフィン(A)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましい。
【0028】
極性基を有するビニル単量体と、芳香族ビニル単量体とを併用することにより、変性反応、特にグラフト反応が安定化することによって、極性基を有するビニル単量体を所望する量変性ポリオレフィン(A)に導入しやすいためである。
【0029】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジメチルスチレン、及びトリメチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のクロロスチレン類;o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びトリブロモスチレン等のブロモスチレン類;o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、及びトリフルオロスチレン等のフルオロスチレン類;o-ニトロスチレン、m-ニトロスチレン、p-ニトロスチレン、ジニトロスチレン、及びトリニトロスチレン等のニトロスチレン類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、及びトリヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、o-ジイソプロペニルベンゼン、m-ジイソプロペニルベンゼン、及びp-ジイソプロペニルベンゼン等のジアルケニルベンゼン類等が挙げられる。
【0030】
これら芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、又はジビニルベンゼン異性体混合物が、安価な点で好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0031】
芳香族ビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
共重合変性を行う場合、変性に使用される芳香族ビニル単量体の量は、芳香族ビニル単量体のモノマー100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
グラフト変性を行う場合、変性に使用される芳香族ビニル単量体の量は、鎖状ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0033】
以上説明した変性ポリオレフィン(A)における極性基を有する単量体による変性量は、0.05~1.50質量%が好ましく、0.10~1.00質量%がより好ましく、0.15~0.50質量%が特に好ましい。
極性基を有する単量体による変性量が上記の範囲内であることにより、低誘電特性に優れる硬化物を形成しやすい。
極性基を有する単量体による変性量は、極性基の種類に応じて、公知の方法により測定することができる。例えば、極性基がエポキシ基である場合、実施例において後述するように、JIS K7236に準拠した滴定法により、極性基を有する単量体による変性量を測定することができる。
【0034】
変性ポリオレフィン(A)の融点は、特に限定されない。変性ポリオレフィン(A)の融点は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上240℃以下がさらに好ましい。
成形品の耐熱性の点から、変性ポリオレフィン(A)の融点は、200℃以上であるのもの好ましい。
変性ポリオレフィン(A)の融点が、上記の温度であることにより、グラフト変性ポリオレフィン組成物を用いて形成される架橋ポリオレフィン層に良好な耐熱性を付与できる。
また、変性ポリオレフィン(A)の融点が240℃以下であると、液状ポリオレフィン組成物を調製したり使用したりする際の、硬化剤(B)の分解や昇華を抑制しやすい。
【0035】
後述するように、液状ポリオレフィン組成物は、変性ポリオレフィン(A)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。液状ポリオレフィン組成物を用いることによる所望する効果を得やすい点で、液状ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、変性ポリオレフィン(A)の質量の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0036】
<硬化剤(B)>
液状ポリオレフィン組成物は、硬化剤(B)を含む。硬化剤(B)は、硬化剤(B)同士、又は硬化剤(B)と変性ポリオレフィン(A)とを架橋させることにより、液状ポリオレフィン組成物を硬化させる。
【0037】
硬化剤(B)が有する後述の反応性官能基の種類や、後述する開始剤(C)の種類に応じて選択される、加熱や電子線照射等の架橋処理によって、液状ポリオレフィン組成物が硬化する。硬化(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
硬化剤(B)は、同一分子内に反応性官能基を2個以上有する化合物である。硬化剤(B)が有する反応性官能基としては炭素-炭素二重結合含有基、ハロゲン原子、ジカルボン酸無水物基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、及び水酸基が挙げられる。硬化剤(B)が同一分子内に有する複数の反応性官能基は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
上記の反応性官能基の中では、架橋反応性と、架橋後の架橋構造の安定性とが優れることから、炭素-炭素二重結合含有基が好ましい。
炭素-炭素二重結合含有基としては、ビニル基、アリル基、及びメタリル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロイル基等の不飽和アシル基、マレイミド基等が挙げられる。好ましい炭素-炭素二重結合含有基は炭素数2~4のアルケニル基であり、特にアリル基が特に好ましい。
本出願の明細書、及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基と、メタクリロイル基との双方を意味する。
硬化剤(B)としては、ビニル基、アリル基、及び(メタ)アクリロイル基からなる群より選択される基を2つ以上有するのが好ましい。
【0039】
硬化剤(B)の好適な具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメタリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールトリ(メタ)アクリレート)、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタルアミド、並びにポリメチルビニルシロキサン、及びポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有ポリシロキサン等が挙げられる。
また、シアヌル酸アリル誘導体(四国化成社製、L-DAIC)も硬化剤(B)として好ましい。
なお、本出願の明細書、及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートと、メタクリレートとの双方を意味する。
【0040】
これらの中では、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びシアヌル酸アリル誘導体(四国化成社製、L-DAIC)からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。特に架橋反応性の点で、硬化剤(B)がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、及び/又はトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTMA)を含むのが好ましく、硬化剤(B)がTAICであるのが特に好ましい。
【0041】
硬化剤(B)の使用量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2.5~30質量部であり、5~20質量部がより好ましい。
上記の範囲内の量の硬化剤(B)を用いることにより、低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与える液状ポリオレフィン組成物が得られる。
【0042】
<開始剤(C)>
液状ポリオレフィン組成物は、開始剤(C)を含む。開始剤(C)は、硬化剤(B)同士、又は硬化剤(B)と変性ポリオレフィン(A)との架橋反応を進行させる成分である。典型的には、開始剤(C)としては、ラジカル重合開始剤を特に限定なく用いることができる。開始剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
開始剤(C)の好ましい例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。開始剤(C)は、これらの過酸化物には限定されない。
これらの中では、ジクミルパーオキサイド、及びα,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンがより好ましい。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が高い。このため、開始剤(C)として、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンを含む液状ポリオレフィン組成物は取り扱いが容易である。
【0044】
開始剤(C)の10時間半減期温度は100℃以上が好ましい。開始剤(C)の10時間半減期温度が100℃以上であることにより、液状ポリオレフィン組成物を用いてフィルムを形成する際に、フィルムの乾燥中のゲル状異物の発生が抑制される。
開始剤(C)の10時間半減期温度は、以下の方法により求めることができる。
まず、ベンゼンを溶媒として用い、0.1mol/L又は0.05mol/Lの濃度の開始剤(C)の溶液を調製する。次いで、開始剤(C)の溶液を、窒素置換されたガラス管中に封入する。このガラス管を、所定の温度に設定された恒温槽に浸漬することで、特定の時間における、開始剤(C)の分解量を測定できる。
一般的に、希薄溶液中の開始剤の分解は、近似的に一次反応として取り扱うことができる。分解した開始剤(C)の量をx、分解速度定数k、時間t、開始剤(C)の初期濃度をaとすると、下記式(1)、及び(2)が成立する。
dx/dt=k(a-x)・・・(1)
ln a/(a-x)=kt・・・(2)
半減期は、分解により開始剤(C)の濃度がa/2となる時間である。半減期をt1/2とし、式(2)のxに、a/2を代入すると、下記式(3)が得られる。
kt1/2=ln 2・・・(3)
ここで、式(2)より、特定の温度で、開始剤(C)の熱分解を行い、時間tと、ln a/(a-x)の値との関係を、座標平面上にプロットし、プロットされたデータから近似直線を得ることで、近似直線の傾きとしてkの値を得ることができる。
一方、分解速度定数kに関して、下記式(4)、及び(5)が成り立つ。
k=Aexp〔-ΔE/RT〕・・・(4)
ln k=ln A-ΔE/RT・・・(5)
ここで、A、ΔE、R、Tは以下の通りである。
A:頻度因子(1/h)
ΔE:活性化エネルギー(J/mol)
R:気体定数(8.341J/mol・K)
T:絶対温度(K)
数点の温度についてkを測定し、ln kと、1/Tとの関係を座標平面上にプロットし、プロットされたデータから近似直線を得ることで、近似直線の傾きから活性化エネルギーの値を得ることができる。
上記式(3)に基づき、式(5)からkを消去すると、下記式(6)が得られる。
ln t1/2=ΔE/RT-ln (A/2)・・・(6)
そうすると、数点の温度について、t1/2を測定し、ln t1/2の値と、1/Tの値との関係を座標平面上にプロットして近似直線を得ることにより、当該近似直線から任意の温度における開始剤(C)の半減期を知ることができる。
この近似直線より求められる、t1/2=10(h)における温度Tの値が、10時間半減期温度である。
【0045】
開始剤(C)の10時間半減期温度は、後述する有機溶媒(S)の大気圧下での沸点より高いのが好ましい。有機溶媒(S)が、複数種の有機溶媒を含む場合、開始剤(C)の10時間半減期温度が、複数種の有機溶媒の沸点のうちで最も低い沸点よりも低いのが好ましい。開始剤(C)の10時間半減期温度が有機溶媒(S)の大気圧下での沸点より高いことにより、液状ポリオレフィン組成物を用いてフィルムを形成する際に、フィルムの乾燥中のゲル状異物の発生が抑制される。
【0046】
開始剤(C)の使用量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~2.7質量部であり、0.7~1.5質量部がより好ましい。
上記の範囲内の量の硬化剤(B)を用いることにより、低誘電特性、及び耐熱性に優れる硬化物を与える液状ポリオレフィン組成物が得られる。
【0047】
また、開始剤(C)は、硬化剤(B)の質量が、開始剤(C)の質量の5~30倍でああるように用いられるのが好ましく、7~20倍であるように用いられるのがより好ましい。
上記の範囲内の比率で、硬化剤(B)と開始剤(C)とを用いることにより、硬化物の物性を損なうことなく、硬化剤(B)による架橋を良好に進行させやすい。
【0048】
<有機溶媒(S)>
液状ポリオレフィン組成物は、有機溶媒(S)を含む。有機溶媒(S)の種類は、変性ポリオレフィン(A)、硬化剤(B)、及び開始剤(C)が可溶である限り特に限定されない。
【0049】
有機溶媒(S)の好ましい例としては、炭化水素系溶媒、及び/又はエーテル系溶媒が挙げられる。
炭化水素系溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、及びテトラデカン等の炭素原子数5以上16以下の鎖状脂肪族炭化水素;メチルシクロブタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及びシクロヘプタン等の炭素原子数5以上16以下の環式脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
エーテル系溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、及びジヘキシルエーテル等の炭素原子数4以上16以下の鎖状脂肪族エーテル;ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、及びメトキシトルエン等の炭素原子数7以上16以下の芳香族エーテル;フラン、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジオキソール、ジオキソラン、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジオキシン、ジオキセン、ジオキサン、トリオキサン等の炭素原子数3以上16以下の環状エーテルが挙げられる。
【0050】
有機溶媒(S)は、液状ポリオレフィン組成物の質量に対する、液状ポリオレフィン組成物に含まれる有機溶媒(S)以外の成分の質量の比率が、好ましくは、3~40質量%、より好ましくは8~25質量%であるように用いられる。
【0051】
液状ポリオレフィン組成物の質量に対する、液状ポリオレフィン組成物に含まれる有機溶媒(S)以外の成分の質量の比率が上記の範囲内であると、液状ポリオレフィン組成物が適度な粘度を有することにより、液状ポリオレフィン組成物を硬化させる際に、注型や塗布等の方法により液状ポリオレフィン組成物を所望する形状に成形しやすい。
特に、液状ポリオレフィン組成物における変性ポリオレフィン(A)の含有量が上記の範囲内であると、液状ポリオレフィン組成物を用いてフィルムを製造する場合に、膜厚が均一なフィルムを得やすい。
【0052】
<その他の樹脂>
液状ポリオレフィン組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、変性ポリオレフィン(A)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。液状ポリオレフィン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、変性ポリオレフィン(A)の質量の割合は、典型的には、70質量%が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0053】
その他の樹脂の例としては、変性されていないポリオレフィン、変性ポリオレフィン(A)以外の変性されたポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の非液晶性のポリエステル、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。
【0054】
<無機充填剤>
液状ポリオレフィン組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0055】
これらの無機充填剤の使用量は、液状ポリオレフィン組成物を用いて形成される硬化物の低誘電特性を損なわない範囲で、硬化物の用途に応じて適宜決定される。例えば、液状ポリオレフィン組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0056】
<添加剤>
液状ポリオレフィン組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
【0057】
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0058】
以上説明した液状ポリオレフィン組成物は、下記の1)~5)の工程からなる方法で測定されるピール強度として、好ましくは3.0N/cm以上、より好ましくは5.0N/cm以上、さらに好ましくは7.0N/cm以上の値を示す硬化フィルムを与える。
このようなピール強度を示す硬化フィルムを与える硬化性組成物は、銅箔等の金属箔と積層して用いられるフィルムの製造に好適に用いられる。
1)液状ポリオレフィン組成物を、ガラス基板上にキャストする工程。
2)キャストされた液状ポリオレフィン組成物を、50℃10分間の加熱に続けて80℃30分間加熱して乾燥させる工程。
3)乾燥後に形成されたフィルムを、ガラス基板から剥がし、未硬化フィルムを得る工程。
4)未硬化フィルムを、2枚の電解銅箔間に挟み込み、プレス温度180℃、プレス圧力2.0MPa、プレス時間10分にて、プレスを行い、積層フィルムを得る工程。
5)得られた積層フィルムを用いて、JISC6471の「6.5引きはがし強さ」に従って、ピール強度を測定する工程。
【0059】
≪硬化物の製造方法≫
以上説明した液状ポリオレフィン組成物を、所望する形状に成形した後に、有機溶媒(S)の除去と、硬化とを行うことにより、硬化物が得られる。
液状ポリオレフィン組成物の成形方法としては、例えば、注型や、塗布が挙げられる。
【0060】
上記の硬化物は、高周波数帯域において優れた低誘電特性を示す。具体的には、硬化物に関して、10GHzにおける比誘電率Dkが2.30以下であり、10GHzにおける誘電正接Dfが0.0020以下である。10GHzにおける比誘電率Dkが2.20以下であるのが好ましく、10GHzにおける誘電正接Dfが0.0017以下であるが好ましい。
【0061】
以下、硬化物の製造方法の代表例として、硬化物からなるフィルムの製造方法について説明する。
具体的には、前述の液状ポリオレフィン組成物を基材上に塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜から有機溶媒(S)を除去して、未硬化フィルムを得ることと、
未硬化フィルムを硬化させることと、によって、硬化物からなるフィルムが得られる。
【0062】
基材としては、有機溶媒(S)に不溶であり、有機溶媒(S)に接触することにより変質したり変形したりしない材質であれば特に限定されない。基材の材質は、形成されたフィルムを基材から容易に剥離できる材質であるのが好ましい。
基材としては、紙、塗工紙、不織布、プラスチックフィルム、ガラス基材、セラミック基材、及び金属基材等が挙げられる。
【0063】
液状ポリオレフィン組成物を基材上に塗布する方法は、特に限定されない。好ましい塗布方法としては、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、シルクスクリーンコーター、カーテンフローコーター、スプレーコーター、ディップコーター、及びスピンコーター等の塗布装置を用いる方法が挙げられる。
塗布により形成される塗布膜の厚さは特に限定されず、フィルムの厚さに応じて適宜選択される。
【0064】
塗布膜から有機溶媒(S)を除去する方法は特に限定されない。典型的には、塗布膜を加熱して有機溶媒(S)を除去してもよく、自然乾燥により有機溶媒(S)を除去してもよい。塗布膜を減圧雰囲気下において、有機溶媒(S)の除去を促進させてもよい。
加熱により有機溶媒(S)の除去を行う場合、加熱温度は、有機溶媒(S)の沸点に応じて適宜選択される。
【0065】
以上のようにして得られる未硬化フィルムを硬化することにより、前述の液状ポリオレフィン組成物の硬化物からなるフィルムが得られる。
フィルムの厚さは、特に限定されず、フィルムの用途に応じて適宜選択される。典型的には、フィルムの厚さは、5~500μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。
未硬化フィルムを硬化させる方法は特に限定されず、開始剤(C)の種類に応じて適宜選択される。具体的には、硬化方法としては、露光、及び/又は加熱が挙げられる。良好に硬化したフィルムを得やすい点では、硬化方法としては加熱が好ましい。
加熱により未硬化フィルムを硬化させる場合、加熱温度は、硬化が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、加熱温度は、100℃以上300℃以下が好ましく、120℃以上250℃以下がより好ましく、140℃以上220℃以下がさらに好ましい。
未硬化フィルムを硬化させる際には、未硬化フィルムに圧力を加えてもよい。未硬化フィルムに加えられる圧力としては、例えば、0.5~5.0MPaが好ましく、1.0~3.0MPaがより好ましい。
未硬化フィルムを加熱する際の加熱時間は、硬化が良好に進行する限り特に限定されない。典型的には、加熱時間は、1分以上1時間以下が好ましく、5分以上30分以下がより好ましい。
【実施例0066】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔製造例1〕
(変性α-オレフィンコポリマー(グラフト変性ポリオレフィン)の製造)
ポリメチルペンテン系の構造を有するα-オレフィンコポリマー(三井化学製アブソートマーEP1013)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.15質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中よりスチレン1質量部、グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することによりグラフト変性ポリオレフィンA1のペレットを得た。
【0068】
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。グラフト変性ポリオレフィンA1のグリシジルメタクリレート変性量は0.23質量%だった。
【0069】
〔製造例2〕
ポリメチルペンテン(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.25質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中よりスチレン1質量部、グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することによりグラフト変性ポリオレフィンA2のペレットを得た。得られた樹脂ペレットについて、製造例1と同様にして、グリシジルメタクリレート変性量を測定した。グラフト変性ポリオレフィンA2のグリシジルメタクリレート変性量は0.34質量%だった。
【0070】
〔実施例1~10、及び比較例1~6〕
実施例、及び比較例において、ポリオレフィンとして、以下のA1~A4を用いた。
A1:製造例1で得たグラフト変性ポリオレフィン
A2:製造例2で得たグラフト変性ポリオレフィン
A3:α-オレフィンコポリマー(三井化学製アブソートマーEP1013)
A4:ポリメチルペンテン(三井化学製TPXグレードMX002)1
【0071】
実施例、及び比較例において、硬化剤として、以下のB1~B3を用いた。
B1:トリアリルイソシアヌレート
B2:シアヌル酸アリル誘導体(四国化成社製、L-DAIC、N-アルキルジアリルイソシアヌレート)
B3:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールトリ(メタ)アクリレート)
【0072】
実施例、及び比較例において、開始剤として、以下のC1、及びC2を用いた。
C1:α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン(日本油脂株式会社製、パーブチル(登録商標)P)
C2:ジクミルパーオキサイド(日本油脂株式会社製、パークミル(登録商標)D)
【0073】
表1~表3に記載の種類、及び量(質量部)のポリオレフィンを、シクロペンタン50質量%、及びテトラヒドロフラン50質量%からなる混合溶媒中に、ポリオレフィンの濃度が12質量%となるように溶解させて、ポリオレフィン溶液を得た。
得られたポリオレフィン溶液に、表1~表3に記載の種類、及び量の、硬化剤、及び開始剤を溶解させて、液状ポリオレフィン組成物を用いた。
【0074】
得られた、各実施例、及び各比較例の液状ポリオレフィン組成物を用いて、以下の方法に従い、フィルムを作製した。
また、液状ポリオレフィン組成物の硬化性について、以下の方法に従って評価した。
得られたフィルムについて、以下の方法に従って、誘電特性と、ピール強度と、リフロー後の外観とを評価した。これらの評価結果を、表1~表3に記す。
なお、比較例4の液状ポリオレフィン組成物を用いる場合、非常にもろいフィルムしか得られなかったため、誘電特性と、ピール強度と、リフロー後の外観との評価を行わなかった。
【0075】
[硬化性評価]
各実施例、及び比較例の液状ポリオレフィン組成物を、ガラス基板上にキャストした。次いで、キャストされた液状ポリオレフィン組成物を、50℃10分間の加熱に続けて80℃30分加熱して乾燥させた。乾燥後に得られたフィルムを、ガラス基板から剥がし、未硬化フィルムを得た。
未硬化フィルムを、プレス温度180℃、プレス圧力2.0MPa、プレス時間10分の条件で熱処理して硬化させ、厚さ50μmの硬化フィルムを得た。
得られた硬化フィルムから、5mm×10mmのサイズの長方形の試験片を切り出した。試験片を、シクロペンタン50質量%、及びテトラヒドロフラン50質量%からなる混合溶媒に室温で24時間浸漬した。浸漬後に、形状を保持したままフィルムが残っている場合を硬化性○と判定した。浸漬後に、浸漬前のフィルムの形状が保持されていなかった場合を硬化性×と判定した。
【0076】
[誘電特性(比誘電率・誘電正接)]
測定装置として、空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用い、下記周波数で得られたフィルムの比誘電率及び誘電正接を測定した。
得られた硬化フィルムの比誘電率、及び誘電正接を、HEWLETTPACKARD社製のネットワークアナライザ8719Cと株式会社関東電子応用開発製の空洞共振器振動法誘電率測定装置CP511とを用いて測定した。比誘電率及び誘電正接の測定には、硬化性評価と同様の方法で得られた硬化フィルムから切り出された、2mm×100mmのサイズの帯状の試験片を用いた。測定条件は以下の通りである。
測定周波数:10GHz
測定条件:温度23℃、湿度50%R.H.
測定試料:前記測定条件下で、24時間放置した試料を使用した。
【0077】
[ピール強度]
硬化性評価について前述した方法で得た未硬化フィルムを、2枚の電解銅箔(CF-T49A-DS-HD2-12(福田金属箔粉工業(株)社製))で挟み、プレス温度180℃、プレス圧力2.0MPa、プレス時間10分にて、プレスを行い、積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムを用いて、JISC6471の「6.5引きはがし強さ」に従って、ピール強度を測定した。具体的には、1mm幅の金属箔部分を、90度の剥離角度、100mm/分の条件で剥離し、その荷重を測定し、荷重の測定値をピール強度とした。
【0078】
[リフロー後外観]
ピール強度の測定方法と同様の方法で得た積層フィルムを、高温リフロー炉(アントム社、UNI6116S)を通過させ、高温リフロー炉通過後の積層フィルムを観察した。
高温リフロー炉を通過させる条件は、ピーク温度288±3℃、通過時間60秒、通過サイクル数3である。
高温リフロー炉通過後に、積層フィルムの外観に変化がなかった場合を○と判定した。高温リフロー炉通過後に、積層フィルムの外観に変化があった場合を×と判定した。外観の変化は、例えば、シワや、シワ以外の凹凸が発生や、銅箔の剥離である。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表1、及び表2によれば、極性基を有する単量体により変性された鎖状ポリオレフィンである変性ポリオレフィン(A)と、前述の所定の範囲内の量の硬化剤(B)と、前述の所定の範囲内の量の開始剤(C)と、有機溶媒(S)とを含む実施例の液状ポリオレフィン組成物が、良好に硬化し、誘電特性、及び耐熱性に優れるフィルムを与えることが分かる。
他方、表3によれば、未変性の鎖状ポリオレフィンのみを含んでいたり、前述の所定の範囲内の量の硬化剤(B)、又は前述の所定の範囲内の量の開始剤(C)を含まなかったりする比較例の液状ポリオレフィン組成物を用いると、硬化が良好に進まなかったり、比誘電率の高いフィルムが形成されたり、耐熱性に劣るフィルムが形成されたりすることが分かる。