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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142442
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】光波距離計
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/36 20060101AFI20230928BHJP
   G01C 3/06 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01S17/36
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049360
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 由希
(72)【発明者】
【氏名】青木 康俊
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA01
2F112BA03
2F112CA12
2F112DA19
2F112DA21
2F112DA26
2F112DA28
2F112EA03
2F112EA09
2F112FA07
2F112FA33
5J084AA05
5J084AD02
5J084AD08
5J084BA02
5J084BA05
5J084BA12
5J084BA20
5J084BA36
5J084BA51
5J084BB20
5J084CA07
5J084CA11
5J084CA27
5J084CA42
5J084CA49
5J084CA69
5J084CA70
5J084EA06
5J084EA07
5J084EA29
(57)【要約】
【課題】 測距光の光量範囲を有効に利用できる光波距離計を提供する。
【解決手段】 光波距離計100は、複数の主変調周波数で変調された光を測距光として、目標反射物までを往復する測距光路21,23に送出する第1の発光素子20と、各主変調周波数に近接する傍変調周波数で変調された光を参照光として、測距光と同期して、参照光路31に送出する第2の発光素子30と、第1のおよび第2の発光素子20,30から出射された光を受光して測距信号と参照信号を出力する受光素子40と、測距信号および参照信号の位相差に基づいて目標反射物までの距離を算出する演算処理部60と、第1の発光素子20の発光光量を調整する光量調整回路80と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の主変調周波数で変調された光を測距光として、目標反射物までを往復する測距光路に送出する第1の発光素子と、
前記各主変調周波数に近接する傍変調周波数で変調された光を参照光として、前記測距光と同期して、参照光路に送出する第2の発光素子と、
前記第1のおよび前記第2の発光素子から出射された光を受光して測距信号と参照信号を出力する受光素子と、
前記測距信号および前記参照信号の位相差に基づいて前記目標反射物までの距離を算出する演算処理部と、
前記第1の発光素子の発光光量を調整する光量調整回路と、
を備えることを特徴とする光波距離計。
【請求項2】
前記測距信号をA/D変換するA/D変換器を備え、
前記演算処理部は、A/D変換器に入力される前記測距信号の振幅を前記受光素子の受光光量として検出し、
前記演算処理部は、前記光量調整回路を制御して、前記受光光量が、A/D変換器の入力範囲内となるように、前記第1の発光素子の発光光量を調整することを特徴とする請求項1に記載の光波距離計。
【請求項3】
前記光量調整回路は、前記第1の発光素子に接続され、直流電圧の供給を受ける、可変抵抗手段であるデジタルポテンショメータを備え、
前記演算処理部は、前記デジタルポテンショメータの抵抗値を変更させることにより、前記第1の発光素子の発光光量を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。
【請求項4】
前記光量調整回路は、前記第1の発光素子に、一定の抵抗を負荷する負荷抵抗と、前記負荷抵抗に可変の直流電圧を供給する可変直流電源とを備え、
前記演算処理部は、前記可変直流電源が供給する電圧を変動させることにより前記第1の発光素子の発光光量を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の光波距離計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波距離計に係り、より詳細には位相差式の光波距離計に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差式の光波距離計では、強度変調された信号が発光素子から測距光として測距光路に送出され、目標反射物で反射されて受光素子で受光され、電気信号である測距信号に変換される。また、同じ発光素子から送出された光が、光路を参照光路に切り替えられて、参照光として受光素子で受光され、電気信号である参照信号に変換される。測距信号および参照信号は、増幅器、周波数変換器等を経たのち、A/D変換器に入力され、アナログ信号からデジタル信号へと変換される。そして、A/D変換器の入力範囲内である測定可能域の信号が、演算処理部にて信号振幅、位相情報を解析されて、測距信号と参照信号の位相が算出されることで、目標反射物までの直線距離(測距値)が得られる。また、信号振幅が受光光量レベルの判定に用いられている。
【0003】
ここで、光波距離計から目標反射物までの距離が近いと、受光される測距光の光量が大きくなり、遠いと測距光の光量が小さくなる。このため、光波距離計から目標反射物までの距離に応じて測距信号の出力レベルにばらつきが発生する。測距光の受光光量が大きく、測距信号がA/D変換器の最大入力値を上回る場合(測距信号がA/D変換器の飽和領域となった場合)には、測定可能域の信号とならず測距値が算出されない。
【0004】
反対に、測距光の受光光量が小さい場合には、A/D変換器で受光信号の振幅が適切に分解されず信号変換の際に誤りが生じ、測距値に誤差が生じる場合がある。このため、測距信号がA/D変換器の入力範囲となるよう、受光光量を調整する必要がある。そこで、特許文献1では、目標反射物と受光素子との間にモータ等で駆動する可変濃度フィルタを設けて絞り調整を行うことにより、反射光(測距光)の受光光量を調整している。
【0005】
しかし、可変濃度フィルタで受光光量を調整する場合、フィルタを機械的に動作させるため光量調整に時間がかかる。このため、特許文献2では、可変濃度フィルタという機械的手段で受光光量を調整する代わりに、デジタルポテンショメータの抵抗値を調整するという電気的手段により、発光素子の出力を変化させて発光光量を調整することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭51-8340号公報
【特許文献2】特開2011-013108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の光波距離計では、測距光と参照光とを同じ発光素子より送出し、測距光路と、参照光路とをシャッタで切り替えて同じ受光素子で受光するため、測距光の発光光量を変化させると、それに伴って参照光の光量が変化する。このため、測距光の光量を適正光量に調整しようとすると、参照光の光量が、A/D変換器の入力範囲から逸脱して、その結果、測距ができなくなる場合がある。このように、特許文献2の光波距離計では、利用可能な測距光の光量範囲が狭くなる場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は、係る事情を鑑みてなされたものであり、測距光の光量範囲を有効に利用できる光波距離計を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の実施の形態に係る光波距離計は、複数の主変調周波数で変調された光を測距光として、目標反射物までを往復する測距光路に送出する第1の発光素子と、前記各主変調周波数に近接する傍変調周波数で変調された光を参照光として、前記測距光と同期して、参照光路に送出する第2の発光素子と、前記第1のおよび前記第2の発光素子から出射された光を受光して測距信号と参照信号を出力する受光素子と、前記測距信号および前記参照信号の位相差に基づいて前記目標反射物までの距離を算出する演算処理部と、前記第1の発光素子の発光光量を調整する光量調整回路と、を備える。
【0010】
上記態様において、前記測距信号をA/D変換するA/D変換器を備え、前記演算処理部は、A/D変換器に入力される前記測距信号の振幅を前記受光素子の受光光量として検出し、前記演算処理部は、前記光量調整回路を制御して、前記受光光量が、A/D変換器の入力範囲内となるように、前記第1の発光素子の発光光量を調整することも好ましい。
【0011】
また、上記態様において、前記光量調整回路は、前記第1の発光素子に接続され、直流電圧の供給を受ける、可変抵抗手段であるデジタルポテンショメータを備え、前記演算処理部は、前記デジタルポテンショメータの抵抗値を変更させることにより、前記第1の発光素子の発光光量を調整することも好ましい。
【0012】
また、上記態様において、前記光量調整回路は、前記第1の発光素子に、一定の抵抗を負荷する負荷抵抗と、前記負荷抵抗に可変の直流電圧を供給する可変直流電源とを備え、前記演算処理部は、前記可変直流電源が供給する電圧を変動させることにより前記第1の発光素子の発光光量を調整することも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記の態様に係る光波距離計によれば、測距光の光量範囲を有効に利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る光波距離計のブロック図である。
図2】同光波距離計による光量調整の動作のフローチャートである。
図3】(A)は同光波距離計による光量調整を説明する図であり、(B)は従来の光波距離計による光量調整を説明する図である。
図4】(A)は同光波距離計による光量調整を説明する図であり、(B)は従来の光波距離計による光量調整を説明する図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る光波距離計のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施の形態において、同一の機械構成を有する要素には、同一の名称および符号を付して重複する説明は適宜省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施の形態に係る光波距離計100のブロック図である。光波距離計100は、測距光と参照光との位相差から目標反射物22までの距離を算出する位相差方式の光波距離計である。光波距離計100は、主として、2つの発光素子(すなわち第1の発光素子20および第2の発光素子30)と、1つの受光素子40と、演算処理部60と、記憶部70と、光量調整回路80とを備える。
【0017】
第1の発光素子20および第2の発光素子30は、例えば、LED(Light・Emitting・Diode)であり、可視光または赤外光を送出する。第1の発光素子20は、複数の主変調周波数F1,F2で変調された光を送出する。第2の発光素子30は、各主変調周波数にそれぞれ近接した傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2で変調された光を送出する。主変調周波数の数は、2に限らず、必要に応じて3以上としてもよい。
【0018】
ここで、主変調周波数F1,F2は周波数が高い順である。F1の周波数は10MHz~1MHzであり、F2の周波数は1MHz以下であることが好ましい。理由については後述する。また、主変調周波数F1,F2と、傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2とのずれ|b|・F1,|b|・F2は数十kHz~数kHzである。すなわち、bは1に対して十分に小さい値である。
【0019】
受光素子40は、例えば、アバランシェフォトダイオードであり、受光した測距光および参照光を、それぞれ電気信号(測距信号および参照信号)として出力する。
【0020】
演算処理部60は、例えば、少なくとも1つプロセッサ(例えばCPU)とメモリ(DRAM(Dinamic・Random・Access・Memory)等)とを備える、制御演算ユニットである。演算処理部60は、プロセッサが、機能を実行するためのプログラムを、メモリに読み出して実行することによりその機能を実現する。
【0021】
あるいは、演算処理部60の機能の少なくとも一部を、CPLD(Complex・Programmable・Logic・Device)、FPGA(Field・Programmable・Gate・Array)等でハードウェア的に構成してもよい。また、CPLDやFPGAを用いた場合、これらの素子上に構成された回路などがその機能を実現する。
【0022】
演算処理部60は、第1の発光素子20および第2の発光素子30の発光を制御し、受光素子40の受光信号を解析して得られる信号振幅および初期位相を用いて、目標反射物までの距離を算出する。また、演算処理部60は、機能部として、後述する光量判定部61と、光量調整指示部62とを備える。
【0023】
記憶部70は、フラッシュメモリやハードディスクドライブ等のコンピュータ読取可能な記憶媒体である。記憶部70は、以下に説明する、演算処理部60の発光光量を調整する光量判定部61および光量調整指示部62の機能を実行するためのプログラムや、適正光量の設定値を格納している。
【0024】
光量調整回路80は、第1の発光素子20に接続されている。光量調整回路80は、第1の発光素子20に負荷される抵抗を変化させる可変抵抗手段であるデジタルポテンショメータ81と、一定値の抵抗を第1の発光素子20に負荷する負荷抵抗82と、導通と非導通を切り替え可能なデジタルスイッチ83と、デジタルポテンショメータ81および負荷抵抗82にデジタルスイッチ83を介して直流電圧を供給する直流電源84とを備える。
【0025】
デジタルポテンショメータ81は、演算処理部60の制御により、第1の発光素子20に負荷される抵抗を変化させることにより第1の発光素子20の発光光量を調整するようになっている。第1の発光素子20に負荷される抵抗値は、負荷抵抗82とデジタルポテンショメータ81の合成抵抗値によって定められる。第1の発光素子20は、直流電圧を受けた状態で演算処理部60によってデジタルポテンショメータ81の抵抗値を上げると発光光量が減少し、前記抵抗値を下げると発光光量が増加する。
【0026】
以下、光波距離計100の構成および距離の測定に係る動作の詳細を説明する。
まず、演算処理部60からの指示により、発振器1で主変調周波数F1の信号を発生させる。この主変調周波数F1の信号は、分周部2に入力されるとともに、PLL(Phase・Locked・Loop)9,10を介して、発振器5およびローカル信号発振器11に入力される。PLL9、10は、発振器5およびローカル信号発振器11を、主変調周波数F1と正確に同期して発振させるために使用する。
【0027】
分周部2は、主変調周波数F1の信号を分周して、主変調周波数F2の信号を発生する。この主変調周波数F2の信号と主変調周波数F1の信号は、周波数重畳回路3を経て駆動回路4へ入力される。第1の発光素子20は、駆動回路4によって駆動され、主変調周波数F1,F2で変調された光を出射する。
【0028】
発振器5は、傍変調周波数F1+b・F1の信号を発生する。この傍変調周波数F1+b・F1の信号は、さらに分周部6で周波数を分周されて、傍変調周波数F2+b・F2の信号となる。これらの傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2の信号は、周波数重畳回路7を経て駆動回路8へ入力される。第2の発光素子30は、駆動回路8によって駆動され、第1の発光素子20の主変調周波数F1,F2で変調された光の送出と同期して、傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2で変調された光を送出する。
【0029】
ローカル信号発振器11は、ローカル周波数F1+a・F1のローカル信号を発生する。このローカル周波数F1+a・F1のローカル信号は、周波数生成回路12で分周されて、ローカル周波数F2+a・F2のローカル信号が生成される。これらのローカル周波数F1+a・F1のローカル信号およびローカル周波数F2+a・F2のローカル信号は、後述するように、第1の周波数変換器44および第2の周波数変換器49へ入力される。ここで、ローカル周波数F1+a・F1,F2+a・F2の、対応する主変調周波数F1,F2とのずれ|a|・F1,|a|・F2は、例えば、数百kHz~数十kHzである。
【0030】
したがって、ローカル周波数F1+a・F1,F2+a・F2は、それぞれ対応する主変調周波数F1,F2および傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2の両方と近接する周波数である。
【0031】
第1の発光素子20から送出された光は、測距光路21を経て目標反射物22で反射され、測距光路23を経て受光素子40に到達する。測距光路23には、測距光を集光するための測距光学系25が設けられている。
【0032】
一方、第2の発光素子30から送出された光は、参照光路31を経て、受光素子40に到達する。参照光路31には、受光素子40の前に光量調整用の濃度フィルタ32が配置されている。濃度フィルタ32は、例えば、円周方向に光量減衰率が0~100%となるように、連続的にフィルタ濃度が濃くなるように構成された円盤状の中性濃度フィルタである。濃度フィルタ32は、第2の発光素子30から出射される参照光に基づく受光光量(参照中間周波信号の振幅)がA/D変換器48,53の適正光量となる状態で固定され、参照光路に設けられている。
【0033】
濃度フィルタ32は、上記の如く構成された円盤状の中性濃度フィルタに限らず、参照光の受光光量がA/D変換器の適正光量となるような減衰率を有する中性濃度フィルタであってもよい。
【0034】
受光素子40は、増幅器41に接続され、増幅器41は、周波数変換器群43に接続されている。周波数変換器群43は、第1の周波数変換器44および第2の周波数変換器49の2つの周波数変換器で構成されている。
【0035】
受光素子40で受光された光は、4つの周波数F1,F1+b・F1,F2,F2+b・F2をもつ信号に変換される。これらの信号は、増幅器41で信号振幅を増幅される。増幅された信号は、第1の周波数変換器44と、第2の周波数変換器49にそれぞれ入力される。
【0036】
第1の周波数変換器44では、ローカル周波数F1+a・F1のローカル信号が入力されて、周波数乗算が行われる。乗算後の信号は、帯域フィルタ45および帯域フィルタ47に出力される。帯域フィルタ45により高周波領域が除去され、周波数a・F1の中間周波信号がA/D変換器46に入力される。帯域フィルタ47により高周波領域が除去され、周波数(a-b)・F1の中間周波信号がA/D変換器48に入力される。
【0037】
第2の周波数変換器49では、ローカル周波数F2+a・F2のローカル信号が入力されて、周波数乗算が行われる。乗算後の信号は、帯域フィルタ50および帯域フィルタ52に出力される。帯域フィルタ50により高周波領域が除去され、周波数a・F2の中間周波信号がA/D変換器51に入力される。帯域フィルタ52により高周波領域が除去され、周波数(a-b)・F2の中間周波信号がA/D変換器53に入力される。
【0038】
このように、周波数変換器群43は、距離値の計算に使用される測距光の主変調周波数の数と同数の周波数変換器を備える。
【0039】
A/D変換器46,48,51,53では、アナログ信号を多値デジタル信号に変換し、信号の波形を正弦波とすることで、演算処理部60にて信号振幅情報、位相情報を取得できるようにする。信号振幅情報はおよび位相情報は距離値の算出に用いられる。また、信号振幅情報は、発光光量調整のために使用される。
【0040】
A/D変換器46,48,51,53はそれぞれ演算処理部60に接続されており、演算処理部60は、周波数a・F1,a・F2の中間周波信号の信号振幅および位相情報を解析して、周波数F1,F2の測距光による測距光路測定値を算出する。また、演算処理部60は、周波数(a-b)・F1,(a-b)・F2の中間周波信号の信号振幅および位相情報を解析して、周波数F1,F2の参照光による参照光路測定値を算出する。そして、演算処理部60は、各主変調周波数について測距光路測定値から参照光路測定値を減算することにより、周波数F1、F2の測距光それぞれによる、目標反射物までの距離値を算出する。周波数F1,F2の信号の分解能に応じて、距離値の各桁が決定される。
【0041】
次に、光量調整回路80による発光光量の調整について説明する。
光量調整回路80は、演算処理部60の指示に従って第1の発光素子20の発光光量を調整する。光量判定部61は、A/D変換器46または51に入力された測距中間周波信号の信号振幅に基づいて、受光光量レベルを判定する。受光光量レベルの判定は、複数の周波数変換器群のいずれか1つの周波数変換器に接続された、測距光に基づく信号をA/D変換するA/D変換器を用いて行うことができる。したがって、本形態では、A/D変換器46,51のいずれか一方を用いればよい。A/D変換器46,48,51,53には、入力範囲が設けられている。測距光の受光光量が大きく、測距信号がA/D変換器の入力上限値(上限光量)を上回る場合には、飽和領域となり、測定可能域の信号とならず測距値が算出されない。
【0042】
一方、測距光の受光光量が小さく、入力下限値(下限光量)よりも小さい場合には、A/D変換器46,48,51,53は振幅の分解を適切に行えず、信号変換の際に1カウント以下となり、0にデジタル化され信号の検出ができなくなる。光量判定部61は、測距中間周波信号の信号振幅がA/D変換器46,51の入力範囲に入っているか、下限値よりも小さいか、あるいは上限値よりも大きいかを判定する。また、入力範囲に入っている場合には、適正光量よりも大きいか、小さいかを判定する。
【0043】
光量調整指示部62は、光量判定部61の判定結果に応じて、デジタルポテンショメータ81の抵抗値を変化させることにより、駆動回路4の駆動を制御し、受光素子40の受光光量レベルが適正光量となるように、第1の発光素子20の発光光量を調整する。適正光量は、例えばA/D変換器46,51の入力範囲の上限値、或いは上限値より若干小さい所定の値として設定されており、記憶部70に記憶されている。
【0044】
具体的には、測距光の受光光量(測距中間周波信号の振幅)がA/D変換器46,51の入力範囲の下限値を下回る場合、または入力範囲内であっても適正光量を下回る場合は、受光光量レベルを確認しながら、デジタルポテンショメータ81の抵抗値を低減し、発光光量が大きくなるように制御する。また、入力範囲の上限値を上回る場合、または入力範囲内であっても適正光量を上回る場合は、受光光量レベルを確認しながらデジタルポテンショメータ81の抵抗値を増大し、発光光量が小さくなるように制御する。
【0045】
図2は、光波距離計100の測距の際の光量調整に係る演算処理部60の処理のフローチャートである。測距の処理を開始すると、ステップS01で、演算処理部60の指示により、第1の発光素子20および第2の発光素子30を発光させる。
【0046】
次にステップS02で、光量判定部61が、受光光量レベルを検出する。具体的には、光量判定部61は、測距中間周波信号の信号振幅がA/D変換器46,51の入力範囲に入っているか、下限値よりも小さいか、あるいは上限値よりも大きいかを検出する。また、入力範囲に入っている場合には、適正光量よりも大きいか、小さいかを判定する。
【0047】
次に、ステップS03で、光量調整指示部62は、受光光量レベルが適正光量となるように発光光量を調整する。
【0048】
具体的には、ステップS02において、受光光量レベルがA/D変換器の入力範囲の上限値(上限光量)を上回る場合、あるいは、受光光量レベルがA/D変換器の入力範囲内であるが、適正光量よりも大きい場合には、デジタルポテンショメータ81の抵抗値を増大させるように指示する。一方、受光光量レベルが、入力範囲の下限値(下限光量)を下回る場合、あるいは、受光光量レベルがA/D変換器の入力範囲内であるが、適正光量よりも小さい場合には、デジタルポテンショメータ81の抵抗値を低減させるように指示する。
【0049】
次にステップS04で、受光光量レベルが適正光量になったかどうかを判定する。ステップS04で、適正光量となった場合(Yes)、ステップS06に移行して、適正光量に調整された状態で、測距を実行し、第1の発光素子20および第2の発光素子30を発光させ、受光信号から測距光および参照光に基づく測距中間周波信号および参照中間周波信号の初期位相を解析して、目標反射物22までの距離を算出して処理を終了する。
【0050】
一方、ステップS04で、受光光量レベルが適正光量とならない場合(No)、ステップS05で、ステップS04の判定がN回目であるかを判定する。N回目ではない場合(No)ステップS03に戻りさらに光量の調整を行う。N回繰り返しても受光光量レベルが適正光量とならない場合(ステップS05でYesの場合)、ステップS07に移行して、調整エラーを出力して処理を終了する。ステップS07では、演算処理部60は図示しない表示部に警告表示を表示したり、図示しないスピーカから警告音を発したりして、作業者に報知するようになっていてもよい。
【0051】
図3および図4は、本実施の形態に係る光波距離計100における光量調整と、従来の光波距離計(特許文献2の光波距離計)における光量調整との違いを説明する図である。図3(A),図4(A)は、光波距離計100における光量調整を説明する図であり、図3(B),図4(B)は、従来の光波距離計における光量調整を説明する図である。各図はそれぞれ、光量調整前後の参照光と測距光の受光光量スペクトラムを模式的に示す図である。
【0052】
特許文献2の光波距離計では、1つの発光素子と、1つの受光素子を備え、発光素子から送出された光は、切替シャッタにより、測距光路と参照光路を切り替えられ、測距光路が選択された場合に、測距光して目標反射物に照射され、反射された光を受光素子で受光して、測距信号を生成する。一方、参照光路が選択された場合に、参照光として、参照光路を経て受光素子に入射して、受光素子で受光されて参照光の受光信号が生成される。
【0053】
すなわち、測距光と参照光を、同じ発光素子で送出するように構成されている。このため、図3(B)の左図に示すように、参照光が適正光量で、測距光が、上限光量を上回った場合に、測距光の光量が適正光量となるように発光光量を調整すると、図3(B)の右図に示すように、参照光の光量も同時に低減し、右図に示すように、参照光の受光光量レベルが下限光量を下回る場合がある。この場合、所望の精度を担保することができず、測距できない。
【0054】
一方、本実施の形態に係る光波距離計100では、第1の発光素子20は、測距光を送出し、第2の発光素子30は、参照光を送出する。また、光量調整回路80は、第1の発光素子20、すなわち測距光の発光光量のみを調整するように構成されている。また、参照光は常に適正光量となるように設定されている。このため、図3(A)の左図に示すように、測距光の受光光量レベルがA/D変換器の入力範囲を上回る場合に、測距光が適正光量となるように発光光量を調整した場合でも、図3(A)の右図に示すように、参照光の光量に影響を及ぼすことなく測距光の光量のみを調整することが可能である。これは、測距光の光量が下限光量を下回る図4の場合でも同様である。
【0055】
このように、本実施の形態に係る光波距離計100では、参照光の光量を変動させることなく、測距光の光量の調整をすることができるので、参照光の光量が変動することにより、参照光の光量が入力範囲を逸脱して、測距できなくなるという事態を防止することができる。この結果、測距光の光量範囲を有効に利用することが可能となる。
【0056】
また、従来の光波距離計では、上記の通り測距光の光量調整に伴って参照光の光量が変動するため、測距光と参照光がともに入力範囲内であっても、測距光と参照光の受光光量レベルに差が生じてしまう。一般に信号レベルが小さいとシグナルとノイズの比(S/N比)が低下し、振幅および位相の検出精度が低下する(値がばらつく)。したがって、測距光の光量レベルと、参照光の光量レベルに差があると、低い光量レベルに対応する測定精度となる。光波距離計100では、測距光を参照光の変動を伴わず調整することができ、測距光と参照光をともに適正光量として測距することができるので、適正光量に見合う精度で距離値を求めることが可能となる。
【0057】
光波距離計100によれば、主変調周波数で変調した測距光を送出する第1の発光素子20と、主変調周波数と近接する傍変調周波数で変調した参照光を送出する第2の発光素子30とを備え、2つの発光素子から、同期してそれぞれ測距光路21,23と参照光路31に光を送出し、1つの受光素子40で受光する。この結果、測距光と参照光とを切換えるためのシャッタを使う必要がなく、測距光路21,23と参照光路31に係る各中間周波信号の初期位相を同時に求めることができるため、シャッタ式光波距離計よりも高速に距離測定を行うことができる。また、シャッタを用いないことによるコストダウンが可能になる。
【0058】
さらに、従来の光波距離計では、測距光による測距と、参照光による測距を、光路を切り替えて実施するため。測定の時間差による温度位相ドリフト差が生じる場合がある。このため、連続測距中の発光素子を電源ONに保っていた。しかし、光波距離計100によれば、測距光路と参照光路の同時測距が可能になるため、時間差による温度位相ドリフトの影響を受けず、測距毎に発光素子の電源をON/OFFでき、節電を図ることができるという効果も奏する。
【0059】
なお、搬送波信号の変調周波数は、高いほど測距値のばらつきが小さく精度が高くなることが知られている。一方、発光素子や受光素子等の素子では、印加される信号の周波数が高ければ高いほど、素子に固有の温度位相ドリフトが大きくなることが知られている。光波距離計100では、測距光と参照光を送出するために、第1の発光素子20と第2の発光素子30の2つの発光素子を用いている。第1の発光素子20と第2の発光素子30との間には、印加する搬送波信号により個体差による温度位相ドリフト差が生じる場合がある。このため、一般に好ましいとされる100MHz程度の変調周波数は用いず、10MHz以下の変調周波数を用いることが好ましい。10MHz以下の変調周波数の場合、素子に生じる温度位相ドリフトは無視できる程度に小さいからである、
【0060】
さらに、ローカル周波数F1+a・F1,F2+a・F2の、対応する主変調周波数F1,F2とのずれ|a|・F1,|a|・F2は、傍変調周波数F1+b・F1,F2+b・F2の対応する主変調周波数F1,F2とのずれ|b|・F1,|b|・F2よりも10倍以上大きい(|a|≧10|b|)ことが好ましい。この場合には、測距光に由来する中間周波信号の周波数a・F1,a・F2と、参照光に由来する中間周波信号の周波数(a-b)・F1,(a-b)・F2は、近い値となる。帯域フィルタ45,47,50,52等の受光側の電子部品に生じる温度位相ドリフトは、周波数が近い場合には近似できるため、測距光の測定値から参照光の測定値を減算する際に、それぞれに含まれる受光側の電子部品に生じる温度位相ドリフトの影響を打ち消すことができるためである。
【0061】
(第2の実施の形態)
図5は、第2の実施の形態に係る光波距離計200のブロック図である。光波距離計200は概略として、光波距離計100と同様の構成を備えるが、光量調整回路80に代えて光量調整回路280を備え、演算処理部60に代えて演算処理部260を備える点で異なる。
【0062】
光量調整回路280は、デジタルスイッチ282を介して負荷抵抗283に可変の直流電圧を供給する可変直流電源281を備える。また、演算処理部260の光量調整指示部262は、可変直流電源281の電圧を変更することにより、第1の発光素子20の発光光量を調整する。
【0063】
すなわち、光量調整指示部262の制御により、可変直流電源281の電圧を増大させることにより第1の発光素子20の発光光量が増大し、前記電圧を低減することにより、発光光量が減少する。
【0064】
このように、デジタルポテンショメータ81に代えて、可変直流電源281を備え、抵抗を変更させるのではなく、電圧を変動させて、発光光量を調整するように構成しても、第1の実施の形態に係る光波距離計100と同等の効果を奏することが可能である。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施の形態について述べたが、上記の実施の形態は本発明の一例であり、これに限定されない。例えば、第1の実施の形態の光量調整回路において、可変抵抗手段であるデジタルポテンショメータに代えて、抵抗値大から小にかけてそれぞれが所定の固定抵抗値を有する抵抗器群を用い、演算処理部が、各抵抗器と一対一に対応する選択信号により、抵抗器を選択することにより、発光光量を調整するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
20 :第1の発光素子
21 :測距光路
22 :目標反射物
23 :測距光路
30 :第2の発光素子
31 :参照光路
40 :受光素子
46 :A/D変換器
51 :A/D変換器
60 :演算処理部
61 :光量判定部
62 :光量調整指示部
80 :光量調整回路
81 :デジタルポテンショメータ
82 :負荷抵抗
84 :直流電源
100 :光波距離計
200 :光波距離計
260 :演算処理部
262 :光量調整指示部
280 :光量調整回路
281 :可変直流電源
283 :負荷抵抗
図1
図2
図3
図4
図5