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特開2023-142450精子の検査方法、検査制御プログラム、記録媒体、検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142450
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】精子の検査方法、検査制御プログラム、記録媒体、検査装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20230928BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20230928BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N5/076
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049371
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】593028562
【氏名又は名称】一般社団法人家畜改良事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100191400
【弁理士】
【氏名又は名称】絹川 将史
(72)【発明者】
【氏名】難波 陽介
(72)【発明者】
【氏名】絹川 将史
(72)【発明者】
【氏名】亀井 未佳
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA09
4B029GB06
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR66
4B063QX01
4B065AA90X
4B065BB02
4B065BB05
4B065BB11
4B065BB12
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】受胎性を推定できる精子の検査方法、情報処理装置に精子の受胎性を推定させる検査制御プログラム、当該検査制御プログラムをコードするコンピュータ読み取り可能な記録媒体、受胎性を推定できる精子の検査装置を提供する。
【解決手段】精子の受精能獲得の指標となる超活性化運動と先体反応に着目し、超活性化運動精子率や先体反応精子率の経時的な測定から検査指標値を算出し、この検査指標値及び人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの受胎性を推定する。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超活性化運動精子率を取得する工程であって、
精子を洗浄すること、
超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、超活性化運動を誘起すること、
前記精子の超活性化運動精子率について経時的に測定をすること、
を備え、
受胎性を推定する工程であって、
経時的に測定した超活性化運動精子率を用いて、検査指標値である超活性化運動精子率の曲線下面積を算出すること、
超活性化運動の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの超活性化運動の検査指標値から受胎性を推定すること、
を備えることを特徴とする精子の検査方法。
【請求項2】
先体反応精子率を取得する工程であって、
精子を洗浄すること、
先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、先体反応を誘起すること、
前記精子の先体反応精子率について経時的に測定をすること、
を備え、
受胎性を推定する工程であって、
経時的に測定した先体反応精子率を用いて、検査指標値である先体反応精子率の曲線下面積を算出すること、
先体反応の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの先体反応の検査指標値から受胎性を推定すること、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の精子の検査方法。
【請求項3】
前記超活性化運動精子率は、運動精子中の超活性化運動精子率であることを特徴とする請求項1又は2に記載の精子の検査方法。
【請求項4】
前記先体反応精子率は、生存精子中の先体反応精子率であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項5】
前記予測式は、夏期又は冬期に採取した精子に分けて作成することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項6】
前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項7】
前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項8】
前記超活性化運動誘起用培地は、カルシウム、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、及びカリクリンAを含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項9】
前記検査指標値は、超活性化運動精子率の曲線下面積であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.257~0.588の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.062~0.429の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項10】
前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.054~0.233の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.119~0.300の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする請求項5~9のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項11】
前記検査指標値は、先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-62.5~50.9の範囲で、bは39.0~50.4の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは16.3~173の範囲で、bは28.5~44.2の範囲であることを特徴とする請求項5~10のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項12】
前記検査指標値は、生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-121~466の範囲で、bは39.2~51.0の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-167~617の範囲で、bは29.7~45.4の範囲であることを特徴とする請求項5~11のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項13】
前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは4.36~7.23の範囲で、bは38.4~47.0の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.907~4.05の範囲で、bは29.1~44.0の範囲であることを特徴とする請求項5~12のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項14】
前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、
前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは0.810~12.6の範囲で、bは38.2~46.5の範囲である、又は
前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは8.49~20.2の範囲で、bは26.3~34.7の範囲であることを特徴とする請求項5~13のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項15】
前記超活性化運動誘起用培地又は前記先体反応誘起用培地は、ユビキチン化阻害剤を含むことを特徴とする請求項1~14のいずれか一項に記載の精子の検査方法。
【請求項16】
出力部と、記憶部とを含む情報処理装置に精子の受胎性を推定させる制御プログラムであって、
請求項1~15のいずれかに記載の精子の検査方法を、前記情報処理装置に実行させるための精子の検査制御プログラム。
【請求項17】
請求項16に記載の精子の検査制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項18】
超活性化運動精子率取得部であって、
精子を洗浄すること、
超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、超活性化運動を誘起すること、
前記精子の超活性化運動精子率について経時的に測定をすること、
を備え、
受胎性推定部であって、
経時的に測定した超活性化運動精子率を用いて、検査指標値である超活性化運動精子率の曲線下面積を算出すること、
超活性化運動の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの超活性化運動の検査指標値から受胎性を推定すること、
を備え、
出力部及び記憶部を備えることを特徴とする精子の検査装置。
【請求項19】
先体反応精子率取得部であって、
精子を洗浄すること、
先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、先体反応を誘起すること、
前記精子の先体反応精子率について経時的に測定をすること、
を備え、
受胎性推定部であって、
経時的に測定した先体反応精子率を用いて、検査指標値である先体反応精子率の曲線下面積を算出すること、
先体反応の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの先体反応の検査指標値から受胎性を推定すること、
を備えることを特徴とする請求項18に記載の精子の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受胎性を推定できる精子の検査方法、情報処理装置に精子の受胎性を推定させる検査制御プログラム、当該検査制御プログラムをコードするコンピュータ読み取り可能な記録媒体、受胎性を推定できる精子の検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の精子において、簡易な方法で受胎性を予測できることは、労力やコストの面から極めて有用である。特に、家畜では、効率的に受胎させて産子を得ることが必要であり、受胎性が保証された精液を供給することは重要なことである。そのような観点から、受胎性を正確に判定できる精子の検査方法の開発が望まれている。
【0003】
例えば、牛の繁殖においては、我が国では人工授精の普及率がほぼ100%になっているが、その受胎率は年々低下している。乳用種では、1989年の初回授精の受胎率が62.4%、1~3回授精の受胎率が62.0%であったところ、2018年では初回授精の受胎率が45.9%、1~3回授精の受胎率が43.6%にまで低下している(非特許文献1)。このように受胎率が低下傾向にある現状においては、受胎性が保証された精液を供給することは生産効率の観点から極めて有用なことである。
【0004】
これまで精子の一般的な品質検査として、精子生存率、運動精子率、精子運動性維持率、ミトコンドリア正常率、アクロソーム正常率、精子形態正常率、体外受精による発生率等(特許文献1、非特許文献2)が行われている。また、精子高速運動率を用いて、顕著な低受胎の精液の検査も行われている(特許文献2)。実際に精子を卵子と体外受精させて、精子の受精能を検査することもできる。これらの検査を通じて、一定の品質が担保された精液が市場に供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5092149号公報
【特許文献2】特許6747760号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一般社団法人家畜改良事業団,平成30年受胎調査成績(2021年)
【非特許文献2】Rodriguez-Martinez H.,Reprod Domest Anim.41,Suppl2,2-10(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、精子の一般的な品質検査は、受胎性との相関関係が強くない。精子高速運動率の検査は、極めて受胎性が低い精液を判別できても、受胎性の平均値近辺であって正常の範囲内の精液の受胎性を細かく推定できない。体外受精の検査は、大きな労力やコストが発生するため、簡易な検査とはいえない。
【0008】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する精子の検査方法、検査制御プログラム、記録媒体、検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、精子の検査値と人工授精による受胎性が関連する検査法の開発を行ってきた。その中で、精子の受精能獲得の指標となる超活性化運動と先体反応に着目して検討し、牛の人工授精受胎率と相関が高い精子の検査方法、検査制御プログラム、記録媒体、検査装置を開発した。
【0010】
したがって、本発明は、以下に掲げる構成とした。
本発明の精子の検査方法は、超活性化運動精子率を取得する工程であって、精子を洗浄すること、超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、超活性化運動を誘起すること、前記精子の超活性化運動精子率について経時的に測定をすること、を備え、受胎性を推定する工程であって、経時的に測定した超活性化運動精子率を用いて、検査指標値である超活性化運動精子率の曲線下面積を算出すること、超活性化運動の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの超活性化運動の検査指標値から受胎性を推定すること、を備えることを特徴とする。
また、先体反応精子率を取得する工程であって、精子を洗浄すること、先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、先体反応を誘起すること、前記精子の先体反応精子率について経時的に測定をすること、を備え、受胎性を推定する工程であって、経時的に測定した先体反応精子率を用いて、検査指標値である先体反応精子率の曲線下面積を算出すること、先体反応の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの先体反応の検査指標値から受胎性を推定すること、を備えることを特徴とする。
また、前記超活性化運動精子率は、運動精子中の超活性化運動精子率であることを特徴とする。
また、前記先体反応精子率は、生存精子中の先体反応精子率であることを特徴とする。
また、前記予測式は、夏期又は冬期に採取した精子に分けて作成することを特徴とする。
また、前記予測式は、7~9月又は12~2月に採取した精子に分けて作成することを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地は、カルシウム、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、及びカリクリンAを含むことを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地は、2~8mMのカルシウム、25~100μMのSp-5,6-Dichloro-cBIMPS、及び1~200nMのカリクリンAを含むことを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地は、カルシウム及び炭酸水素ナトリウムを含むことを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地は、0~3mMのHEPES、1~4mMのカルシウム、及び5~20mMの炭酸水素ナトリウムを含むことを特徴とする。
また、前記経時的な測定は、1時間おきに行うことを特徴とする。
また、前記経時的な測定は、30分おきに行うことを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0~5時間であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0.5~3時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0~9時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、1~5時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、1~3時間であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率の曲線下面積であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.257~0.588の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.062~0.429の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.054~0.233の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.119~0.300の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-62.5~50.9の範囲で、bは39.0~50.4の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは16.3~173の範囲で、bは28.5~44.2の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-121~466の範囲で、bは39.2~51.0の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-167~617の範囲で、bは29.7~45.4の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは4.36~7.23の範囲で、bは38.4~47.0の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.907~4.05の範囲で、bは29.1~44.0の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは0.810~12.6の範囲で、bは38.2~46.5の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは8.49~20.2の範囲で、bは26.3~34.7の範囲であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地又は前記先体反応誘起用培地は、ユビキチン化阻害剤を含むことを特徴とする。
また、前記ユビキチン化阻害剤は、ユビキチン活性化酵素阻害剤であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン活性化酵素阻害剤はMLN4924、MLN7243、又はPYR-41であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン化阻害剤は、ユビキチン結合酵素阻害剤であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン結合酵素阻害剤は、Bay11-7821、NSC697923、又はWS383であることを特徴とする。
【0011】
本発明の精子の検査制御プログラムは、出力部と、記憶部とを含む情報処理装置に精子の受胎性を推定させる制御プログラムであって、前記のいずれかに記載の精子の検査方法を、前記情報処理装置に実行させるための制御プログラムである。
本発明の記録媒体は、前記に記載の精子の検査制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0012】
本発明の精子の検査装置は、超活性化運動精子率取得部であって、精子を洗浄すること、超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、超活性化運動を誘起すること、前記精子の超活性化運動精子率について経時的に測定をすること、を備え、受胎性推定部であって、経時的に測定した超活性化運動精子率を用いて、検査指標値である超活性化運動精子率の曲線下面積を算出すること、超活性化運動や検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの超活性化運動の検査指標値から受胎性を推定すること、を備え、出力部及び記憶部を備えることを特徴とする。
また、先体反応精子率取得部であって、精子を洗浄すること、先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行い、先体反応を誘起すること、前記精子の先体反応精子率について経時的に測定をすること、を備え、受胎性推定部であって、経時的に測定した先体反応精子率を用いて、検査指標値である先体反応精子率の曲線下面積を算出すること、先体反応の検査指標値と人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、個別サンプルの先体反応の検査指標値から受胎性を推定すること、を備えることを特徴とする。
また、前記超活性化運動精子率は、運動精子中の超活性化運動精子率であることを特徴とする。
また、前記先体反応精子率は、生存精子中の先体反応精子率であることを特徴とする。
また、前記予測式は、夏期又は冬期に採取した精子に分けて作成することを特徴とする。
また、前記予測式は、7~9月又は12~2月に採取した精子に分けて作成することを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地は、カルシウム、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、及びカリクリンAを含むことを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地は、2~8mMのカルシウム、25~100μMのSp-5,6-Dichloro-cBIMPS、及び1~200nMのカリクリンAを含むことを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地は、カルシウム及び炭酸水素ナトリウムを含むことを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地は、0~3mMのHEPES、1~4mMのカルシウム、及び5~20mMの炭酸水素ナトリウムを含むことを特徴とする。
また、前記経時的な測定は、1時間おきに行うことを特徴とする。
また、前記経時的な測定は、30分おきに行うことを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0~5時間であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0.5~3時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、0~9時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、1~5時間であることを特徴とする。
また、前記先体反応誘起用培地を用いて、洗浄した精子のインキュベーションを行う時間は、1~3時間であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率の曲線下面積であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.257~0.588の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.062~0.429の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.054~0.233の範囲で、bは36.9~45.8の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは0.119~0.300の範囲で、bは25.6~34.6の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-62.5~50.9の範囲で、bは39.0~50.4の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは16.3~173の範囲で、bは28.5~44.2の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-121~466の範囲で、bは39.2~51.0の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数+bで示され、aは-167~617の範囲で、bは29.7~45.4の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは4.36~7.23の範囲で、bは38.4~47.0の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×超活性化運動精子率の曲線下面積+bで示され、aは-0.907~4.05の範囲で、bは29.1~44.0の範囲であることを特徴とする。
また、前記検査指標値は、運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値であって、前記予測式は、夏期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは0.810~12.6の範囲で、bは38.2~46.5の範囲である、又は前記予測式は、冬期に採取した精子の予測受胎率=a×運動精子中の超活性化運動精子率を用いて算出した曲線下面積に、生存精子中の先体反応精子率を用いて算出した曲線下面積の逆数を乗じた値+bで示され、aは8.49~20.2の範囲で、bは26.3~34.7の範囲であることを特徴とする。
また、前記超活性化運動誘起用培地又は前記先体反応誘起用培地は、ユビキチン化阻害剤を含むことを特徴とする。
また、前記ユビキチン化阻害剤は、ユビキチン活性化酵素阻害剤であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン活性化酵素阻害剤はMLN4924、MLN7243、又はPYR-41であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン化阻害剤は、ユビキチン結合酵素阻害剤であることを特徴とする。
また、前記ユビキチン結合酵素阻害剤は、Bay11-7821、NSC697923、又はWS383であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、精子の超活性化運動や先体反応の起こりやすさを検査することにより、それらの検査指標値から受胎性が平均程度の精液であっても受胎性を細やかに推定できる。簡易に受胎性を予測できるため、使用する精液を事前に調べることにより、受胎性の高い精子を効率的に供給できるようになる。また、冷蔵又は凍結保存用の希釈液の開発における正確な精子の受胎性評価ができるため、より効率的に開発を進めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る受胎性を推定するための処理の例を示すフローチャートである。
図2】実施の形態に係る精子の検査装置の概略構成図である。
図3】超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA運動精子率、B超活性化運動精子率、C運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。
図4】超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA超活性化運動精子率及びB運動精子中の超活性化運動精子率の個体別の推移を示す。
図5】塩化カルシウムを含む超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA超活性化運動精子率及びB運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。
図6】カリクリンAを含む超活性化運動誘起用培地で1.5時間インキュベーションした後のA超活性化運動精子率及びB運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差を示す。
図7】Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS(cBiMPS)を含む超活性化運動誘起用培地で1.5時間インキュベーションした後のA超活性化運動精子率及びB運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差を示す。
図8】先体反応誘起用培地でインキュベーション中のA生存精子率、B先体反応精子率、C生存精子中の先体反応精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。
図9】先体反応誘起用培地でインキュベーション中のA先体反応精子率及びB生存精子中の先体反応精子率の個体別の推移を示す。
図10】曲線下面積の模式図を示す。
図11】各季節におけるAインキュベーション1.5時間目の超活性化運動精子率、B超活性化運動精子率の推移の曲線下面積、C運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積と人工授精受胎率との関係を示す。
図12】各季節におけるAインキュベーション2.0時間目の先体反応精子率、B先体反応精子率の推移の曲線下面積、C生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積、D先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数、E生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数と人工授精受胎率との関係を示す。
図13】各季節におけるA超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値、B運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値と人工授精受胎率との関係を示す。
図14】各季節におけるAインキュベーション1.5時間目の超活性化運動精子率、B超活性化運動精子率の推移の曲線下面積、C運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積、D先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数、E生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数、F超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に、先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値、G運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値について、推定される人工授精受胎率が取り得る範囲を示す。
図15】MLN4924を添加した超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA運動精子率、B超活性化運動精子率、C運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。*はp<0.05(Dunnettの方法)を示す。
図16】MLN7243を添加した超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA運動精子率、B超活性化運動精子率、C運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。
図17】PYR-41を添加した超活性化運動誘起用培地でインキュベーション中のA運動精子率、B超活性化運動精子率、C運動精子中の超活性化運動精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。
図18】MLN4924を添加した先体反応誘起用培地でインキュベーション中のA精子生存率、B先体反応精子率、C生存精子中の先体反応精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。*はp<0.05(Dunnettの方法)を示す。
図19】MLN7243を添加した先体反応誘起用培地でインキュベーション中のA精子生存率、B先体反応精子率、C生存精子中の先体反応精子率、D先体反応精子率、E生存精子中の先体反応精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。*はp<0.05(Dunnettの方法)を示す。
図20】PYR-41を添加した先体反応誘起用培地でインキュベーション中のA精子生存率、B先体反応精子率、C生存精子中の先体反応精子率の平均値±標準誤差の推移を示す。*はp<0.05(Dunnettの方法)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、超活性化運動精子率や先体反応精子率を用いた受胎性を推定できる精子の検査方法、情報処理装置に精子の受胎性を推定させる検査制御プログラム、当該検査制御プログラムをコードするコンピュータ読み取り可能な記録媒体、受胎性を推定できる精子の検査装置の実施の形態について説明する。本発明は、下記実施の形態に限るものでなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいてその構成を適宜変更できる。
【0016】
実施の形態1.精子の検査方法
本発明の検査方法は、以下の(1)~(3)のいずれかの工程を含む。下記の工程は、例えばある工程を単独で行う場合もあるし、組合せて行う場合もあるし、一部工程を除いて行う場合もある。記載順は便宜的なものであり、実際に行う工程の順序は前後する場合もある。図1に本実施の形態に係る受胎性を推定するための処理の流れの例を示す。
【0017】
(1)超活性化運動精子率を取得する工程(S1)
精子の超活性化運動を誘起させて、超活性化運動精子率を経時的に測定する工程である。さらにS1の工程は、以下を含んでもよい。
(1-1)精子を洗浄すること(S11)
超活性化運動測定前洗浄液を用いて、精子を遠心洗浄する。
(1-2)精子の超活性化運動を誘起すること(S12)
超活性化運動誘起用培地を用いて、精子を体外でインキュベーションを行い、精子の超活性化運動を誘起する。
(1-3)超活性化運動精子率を算出すること(S13)
経時的に精子を測定し、超活性化運動精子率を算出する。超活性化運動精子率は、全精子中又は運動精子中の超活性化運動精子率でもよい。
【0018】
(2)先体反応精子率を取得する工程(S2)
精子の先体反応を誘起させて、先体反応精子率を経時的に測定する工程である。さらにS2の工程は、以下を含んでもよい。
(2-1)精子を洗浄すること(S21)
先体反応測定前洗浄液を用いて、精子を遠心洗浄する。
(2-2)精子の先体反応を誘起すること(S22)
先体反応誘起用培地を用いて、精子を体外でインキュベーションを行い、精子の先体反応を誘起する。
(2-3)先体反応精子率を算出すること(S13)
経時的に精子を測定し、先体反応精子率を算出する。先体反応精子率は、全精子中又は生存精子中の先体反応精子率でもよい。
【0019】
(3)受胎性を推定する工程(S3)
測定された超活性化運動精子率や先体反応精子率から、受胎性を推定する工程である。超活性化運動精子率と先体反応精子率と組み合わせることによって、より高い精度で推定が可能となる。さらにS3の工程は、以下を含んでもよい。
(3-1)検査指標値を算出すること(S31)
超活性化運動精子率や先体反応精子率を用いて、検査指標値を算出する。
(3-2)季節毎に測定されたサンプルを分けること(S32)
検査指標値の解析において、夏期や冬期といった季節毎にサンプルを分けて解析する。
(3-3)人工授精受胎率から予測式を作成すること(S33)
予め測定された複数のサンプルの検査指標値及び人工授精受胎率から、予測受胎率や予測受胎性指標値を作成するための予測式を作成する。季節毎にサンプルを分けた場合は、季節別に予測式を作成する。
(3-4)個別サンプルの検査指標値から受胎性を推定すること(S34)
個別サンプルの超活性化運動精子率や先体反応精子率から算出された検査指標値から、受胎性を反映する予測受胎率や予測受胎性指標値を推定する。
(3-5)推定した個別サンプルの受胎性を出力すること(S35)
受胎性を推定することの後に、任意に予測受胎率や予測受胎性指標値を出力することを含んでもよい。
【0020】
本発明の検査方法は、精子の検査技師や研究員等により手動で行われてもよいし、検査装置や本発明の検査制御プログラムがインストールされた情報処理装置により自動的に行われてもよいし、半自動で行われてもよい。
【0021】
本発明の検査方法で精子は、任意の動物由来の精子を用いることができる。例えば、ヒトを含む哺乳動物、家畜動物、愛玩動物、動物園・水族館動物、実験動物、魚類等が挙げられる。家畜動物は、ウシ、ブタ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等が挙げられる。愛玩動物は、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。動物園・水族館動物は、パンダ、イルカ、ウツボ等が挙げられる。実験動物は、マウス、ハムスター、ラット、ウニ、ヒトデ等が挙げられる。受胎性を推定する動物は、より好ましくは家畜動物であり、さらに好ましくはウシである。
【0022】
ウシは、Bos属の動物であり、例えば、Bos taurus種の家畜牛、Bos javanicus種のバンテン、Bos indicus種のコブウシ、Bos sauveli種のコープレイ、Bos grunniens種のヤクなどが含まれる。Bos taurus種は、例えば黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種、アバディーン・アンガス種、ショートホーン種、ヘレフォード種、シャロレー種、シンメンタール種、リムーザン種、ホルスタイン種、ジャージー種、ガンジー種、ブラウン・スイス種、エアシャー種、デンマーク赤牛、黄牛、草原紅牛、朝鮮牛、ブラーマン種、ヒンドゥー種、カンペンセン種、マリーグレー種等があげられる。また、日本の在来種である口之島牛、見島牛等も含む。
【0023】
精子は、精巣、精巣上体、射出精液、幹細胞、精巣幹細胞、iPS細胞、培養細胞等由来の任意の精子を用いることができる。また、精子は、冷蔵保存や凍結保存したものでもよい。好ましくは新鮮精子及び凍結精子であり、人工授精、体外受精、顕微授精等に供される直前の品質が反映される精子である。
【0024】
精子を取得する方法は、例えば、精巣由来の精子であれば精巣を採取し精子を吸い出す方法等、精巣上体由来の精子であれば精巣上体を採取し精子を吸い出す若しくは掻き出す方法等、射出精液由来の新鮮精子であれば雌体内への射精後に回収する方法や電気刺激や人工腟を用いて採取する方法等、幹細胞、精巣幹細胞、iPS細胞、培養細胞であれば細胞培養を行って回収する方法等が挙げられる。取得した精子は、取得直後の精漿に浮遊した状態でも、水溶液等でさらに希釈又は洗浄されていてもよい。
【0025】
本発明の検査方法で精子は、超活性化運動精子率や先体反応精子率といった精子集団全体に対する割合を測定するため、通常は複数である。上記の精子を取得する方法で取得した場合は、通常は精子集団として回収される。精子は、精子集団の一部を選択又は分取した後のサブ精子集団も含む。サブ精子集団の選択は、例えば精子品質の測定結果から、精子運動解析装置等で測定した精子運動性が一定の値以上や一定の範囲の精子集団、フローサイトメーターや細胞係数装置等で測定した生存している精子集団、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡等で測定した精子構成蛋白質の品質が一定の値以上や一定の範囲の精子集団等を選択することが挙げられる。サブ精子集団は、好ましくは運動精子中の超活性化運動精子や、生存精子中の先体反応精子である。サブ精子集団の分取は、例えばセルソーターでX精子若しくはY精子を分取した後の精子集団、スイムアップ法やガラスビーズを用いた方法等で運動精子を分取した後の精子集団等を分取することが挙げられる。精子集団に含まれる精子は生存精子を含むことが好ましい。
【0026】
本発明の検査方法で洗浄液は、精子の超活性化運動測定前に用いる超活性化運動測定前洗浄液や精子の先体反応測定前に用いる先体反応測定前洗浄液をいう。精子が懸濁されている外部環境の精漿成分や希釈液成分等を除いて、一定の条件で精子の検査を行う目的が達成できれば、任意の溶液を用いることができる。超活性化運動測定前洗浄液は精子の超活性化運動を促進せず、先体反応測定前洗浄液は精子の先体反応を促進しないことが好ましい。それぞれ超活性化運動測定前洗浄液と先体反応測定前洗浄液は、それぞれの目的に即した組成であることが好ましいが、共通の組成の洗浄液を用いることもできる。
【0027】
本発明の検査方法で培地は、精子の超活性化運動を誘起する超活性化運動誘起用培地や精子の先体反応を誘起する先体反応誘起用培地をいう。精子の超活性化運動や先体反応を誘起する目的が達成できれば、任意の溶液を用いることができる。それぞれ超活性化運動誘起用培地と先体反応誘起用培地は、それぞれの用途に即した組成であることが好ましいが、共通の組成の培地を用いることもできる。
【0028】
洗浄液や培地は、通常は水溶液である。水溶液に用いることのできる具体的な成分を下記に示す。なお、成分の説明で用いる緩衝剤、塩、生物活性物質のようなカテゴリは、あくまで説明の便宜上用いる区分であり、各成分が例えば塩及び生物活性物質といった複数のカテゴリに属する場合もある。
【0029】
洗浄液や培地のpHは、精子の品質評価ができるpHであれば任意のpHであってもよく、通常は6.0~9.0である。好ましくは6.6~7.4であり、さらに好ましくは6.8~7.2である。本発明の洗浄液や培地における成分濃度は、水溶液のpHが上記範囲となるように決定される。
【0030】
洗浄液や培地は、所望のpHを達成するものであれば、任意の緩衝剤を含めることができる。緩衝剤として、中性付近に緩衝作用を持つ緩衝剤であれば任意のものを選択でき、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、MES、HEPES、TES、トリシン等のグッド緩衝剤、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。また、所望のpHを達成するため酸又は塩基を用いることができる。好ましくは、HEPESを用いる。
【0031】
洗浄液や培地の浸透圧は、精子の品質評価ができる浸透圧であれば任意の浸透圧であってもよいが、通常は230~400mmol/kg(mOsm/kg)である(Guthrieら、Biology of Reproduction 67,1811-1816(2002年))。水溶液の浸透圧は、好ましくは250~350mmol/kg(mOsm/kg)、さらに好ましくは260~320mmol/kg(mOsm/kg)である。浸透圧は、溶質の濃度、解離度等から理論値を計算することもできるが、溶液を構成する物質の相互作用等を考慮して、浸透圧計(オズモメーター)を用いて決定される。本発明の検査液における成分濃度は、水溶液の浸透圧が上記範囲となるように決定される。
【0032】
洗浄液や培地は、浸透圧を調節する目的で用いるのであれば、任意の塩を含めることができる。塩として、例えば、塩化物塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硫酸水素塩、硝酸塩、亜硝酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、アミノ酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩等を用いることができる。好ましくは、塩化物塩を用いる。より好ましくは、塩化ナトリウムや塩化カリウムを用いることができる。
【0033】
洗浄液や培地は、精子のエネルギー源となる物質であれば、任意の糖やエネルギー源を含めることができる。糖やエネルギー源として、例えば、グルコース、キシロース、ラムロース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、メリビオース、ラフィノース、メレチロース、スタキオース、デキストリン、N-アセチル-D-グルコサミン、D-グルクロン酸、ATP、ADP等が挙げられる。好ましくは、グルコースを用いる。グルコース濃度は5mM~100mMであり、好ましくは10mM~50mMである。
【0034】
洗浄液や培地は、細菌の繁殖を防ぐ目的で任意の抗生物質を含めることができる。抗生物質として、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ジベカシン等が挙げられる。さらに、検査液の調製には、細菌の繁殖を防ぐため滅菌操作を含めることができる。滅菌操作として、例えば、孔径0.2μmや0.45μmフィルターでの処理、オートクレーブ等が挙げられる。
【0035】
洗浄液や培地は、精子の超活性化運動や先体反応の誘起、精子生存性の維持等に関連する任意の生物活性物質を含めることができる。このような生物活性物質として、例えば、カルシウム、マグネシウム、セレン、亜鉛、カテキン、カフェイン、テオフィリン、ペントキシフィリン、プロカイン、リドカイン、ブピバカイン、イミダゾール、ピルビン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ハイポタウリン、ポリフェノール、L-グルタミン、SOD、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE、αケトグルタル酸、フラボノイド、スペルミン、βカロテン、グルタチオン、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、カタラーゼ、カルニチン、アルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、グルコースホスフェートDデヒドロゲナーゼ、コレステロール、脂肪酸、ホスファチジルコリン、ATP、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、8-Bromo-cAMP、8-CPT-cAMP、カリクリンA、オカダ酸、蛋白質のリン酸化活性化剤、リン酸化阻害剤、脱リン酸化活性化剤、脱リン酸化阻害剤、ユビキチン化阻害剤(ユビキチン化経路関連阻害物質)であるユビキチン活性化酵素阻害剤(ML792、MLN4924、MLN7243、COH000、PYR-41、NEDD8 inhibitor M22、TAS4464、DKM 2-93等)、ユビキチン結合酵素阻害剤(BAY11-7082、NSC697923等)、若しくはユビキチン連結酵素阻害剤等、プロテアソーム阻害剤等が挙げられる。活性化剤等を検査液に含めることで、精子の超活性化運動や先体反応をより誘起し、精子の品質の優劣について、より検査指標値の検出精度を上げて評価できる。
【0036】
本発明の検査方法で超活性化運動測定前洗浄液は、上記の緩衝剤、塩、糖やエネルギー源、生物活性物質、抗生物質等を用いることができる。
例えば、超活性化運動測定前洗浄液は、HEPES、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、ウシ血清アルブミン、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシンの組合せがある。
緩衝剤としてHEPESを用いる場合、濃度は0~100mMが好ましい。緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウムを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましい。塩として塩化ナトリウムを用いる場合、濃度は0~200mMが好ましく、50~150mMがより好ましい。塩として塩化カリウムを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましく、3~5mMがより好ましい。生物活性物質として塩化マグネシウムを用いる場合、濃度は0~2mMが好ましく、0.1~1mMがより好ましい。生物活性物質としてウシ血清アルブミンを用いる場合、0~3%(w/v)が好ましく、0.1~0.5%(w/v)がより好ましい。
【0037】
本発明の検査方法で先体反応測定前洗浄液は、上記の緩衝剤、塩、糖やエネルギー源、生物活性物質、抗生物質等を用いることができる。
例えば、先体反応測定前洗浄液は、HEPES、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシンを組合せて用いる。
緩衝剤としてHEPESを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましく、0~3mMがより好ましい。HEPESは、濃度が高いと先体反応を阻害する。塩として塩化ナトリウムを用いる場合、濃度は0~200mMが好ましく、0~150mMがより好ましい。生物活性物質として塩化カルシウムを用いる場合、濃度は0~16mMが好ましく、1~4mMがより好ましい。生物活性物質として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、濃度は0~50mMが好ましく、5~20mMがより好ましい。グルコースやフルクトースは先体反応を阻害するため、入れない方が好ましい。ユビキチン活性化酵素阻害剤又はユビキチン結合酵素阻害剤のようなユビキチン化阻害剤を含む場合は、グルコースやフルクトースを入れても問題ないが、入れない方がより好ましい。
【0038】
本発明の検査方法で超活性化運動誘起用培地は、上記の緩衝剤、塩、糖やエネルギー源、生物活性物質、抗生物質等を用いることができる。好ましくは、超活性化運動を誘起する物質を用いる。このような物質として、カルシウム、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、カリクリンA等がある。
例えば、超活性化運動誘起用培地は、HEPES、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グルコース、ピルビン酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ウシ血清アルブミン、Sp-5,6-Dichloro-cBIMPS、カリクリンA、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシンを組合せて用いる。
緩衝剤としてHEPESを用いる場合、濃度は0~100mMが好ましい。緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウムを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましい。塩として塩化ナトリウムを用いる場合、濃度は0~200mMが好ましく、50~150mMがより好ましい。塩として塩化カリウムを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましく、3~5mMがより好ましい。生物活性物質として塩化マグネシウムを用いる場合、濃度は0~2mMが好ましく、0.1~1mMがより好ましい。生物活性物質として塩化カルシウムを用いる場合、濃度は1~16mMが好ましく、2~8mMがより好ましい。生物活性物質としてウシ血清アルブミンを用いる場合、0~3%(w/v)が好ましく、0.1~0.5%(w/v)がより好ましい。生物活性物質としてSp-5,6-Dichloro-cBIMPSを用いる場合、10~200μMが好ましく、25~100μMがより好ましい。生物活性物質としてカリクリンAを用いる場合、0.1~1000nMが好ましく、1~200nMがより好ましい。
超活性化運動誘起用培地は、より正確な検査を行うために、インキュベーション直前に希釈するのが好ましい。
【0039】
本発明の検査方法で先体反応誘起用培地は、上記の緩衝剤、塩、糖やエネルギー源、生物活性物質、抗生物質等を用いることができる。好ましくは、超活性化運動を誘起する物質を用いる。このような物質として、塩化カルシウムや炭酸水素ナトリウムがある。
例えば、先体反応誘起用培地は、HEPES、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、ペニシリンGカリウム、硫酸ストレプトマイシンを組合せて用いる。
緩衝剤としてHEPESを用いる場合、濃度は0~10mMが好ましく、0~3mMがより好ましい。塩として塩化ナトリウムを用いる場合、濃度は0~200mMが好ましく、0~150mMがより好ましい。生物活性物質として塩化カルシウムを用いる場合、濃度は0~16mMが好ましく、1~4mMがより好ましい。生物活性物質として炭酸水素ナトリウムを用いる場合、濃度は0~50mMが好ましく、5~20mMがより好ましい。
【0040】
精子に対して本発明の検査液に懸濁を行うには、検査液を移すことができれば任意の方法を用いることができる。例えば、手動ピペット、自動ピペット、ディスペンサー等を用いて行うことができる。
【0041】
本発明の検査方法で精子をインキュベーションする時間は、精子の超活性化運動や先体反応を測定できる時間であれば任意の時間であってもよい。超活性化運動精子率を測定する場合は、通常は0~5時間であり、好ましくは0.5~3時間である。先体反応精子率を測定する場合は、通常は0~9時間であり、好ましくは1~5時間、より好ましくは1~3時間である。
【0042】
本発明の検査方法で洗浄液や培地を処理する際の温度は、精子の超活性化運動や先体反応を測定できる温度であれば任意の温度であってもよい。通常は、インキュベータ装置等を用いて、0~50℃の範囲で測定をすることができる。好ましくは、精子の生存性を維持できる18~40℃である。
洗浄液を処理する際の温度は、超活性化運動や先体反応を促進しない温度である18~30℃が好ましく、22~25℃がより好ましい。
培地を処理する際の温度は、超活性化運動や先体反応を促進する温度である35~39℃が好ましい。
【0043】
本発明の検査方法で測定する超活性化運動精子率や先体反応精子率は、精子運動解析装置、高速カメラ、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡、フローサイトメーター、セルソーター、ヌクレオカウンター、ルミノメーター、吸光リーダー、蛍光リーダー、蛍光偏向リーダー、化学発光リーダー等を用いて測定する。好ましくは、超活性化運動精子率は、精子運動解析装置、高速カメラ、位相差顕微鏡を用いて測定する。好ましくは、先体反応精子率は、フローサイトメーターや蛍光顕微鏡を用いて測定する。
【0044】
本発明の検査方法の検査指標値は、超活性化運動精子率、先体反応精子率、又は超活性化運動精子率と先体反応精子率の組合せのいずれかより算出する。また、測定値に対して、逆数、反数、累乗、平方根といった形で用いることもできる。
検査指標値は、各インキュベーション経過時間での測定値、ピーク値、インキュベーション時間推移の曲線下面積などがある。
曲線下面積は、インキュベーション時間推移において、どの程度の超活性化運動精子や先体反応精子が存在するかを示す検査指標値である。曲線下面積は、各タイムポイントを結んだ直線とx軸との間にできる面積を積算することで算出できる。また、各タイムポイントの値から近似線を作成して、全測定時間の範囲で積分して算出することもできる。近似線は、曲線下面積の概形を把握するために用いることができ、例えば線形近似、多項式近似、指数近似、対数近似、累乗近似、移動平均、漸近線、接線等が挙げられる。近似線は、最小二乗法等の統計学的手法を用いて回帰分析を行って回帰式を算出し、直線、関数、対数、指数、シグモイド曲線等で表す。検査指標値は、好ましくは超活性化運動精子率の曲線下面積や先体反応精子率の曲線下面積であり、より好ましくは運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積や生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積である。さらに好ましくは、超活性化運動精子率の曲線下面積×1/先体反応精子率の曲線下面積であり、最も好ましくは運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積×1/生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積である。
【0045】
本発明の検査方法の予測式は、複数のサンプルの検査指標値及び人工授精受胎率から作成する。例えば、複数のサンプルの検査指標値及び人工授精受胎率の散布図から、最小二乗法等の統計学的手法を用いて回帰分析を行って回帰式を算出し、直線、関数、対数、指数、シグモイド曲線等で表す。好ましくは、すべての受胎率の範囲に適用可能な予測式ができる回帰であり、より好ましくは直線回帰や一次関数回帰である。この回帰式に対して、測定した個別サンプルの検査指標値を代入して、予測受胎率を推定する。予測受胎率は、人工授精頭数に対する受胎頭数の推定値であり、%で示す。
【0046】
線形近似で予測式を表す場合は、予測受胎率=a×検査指標値+bで示される。
この場合、検査指標値が超活性化運動精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが0.257~0.588、bが36.9~45.8の範囲が好ましく、冬期はaが-0.062~0.429、bが25.6~34.6の範囲が好ましい。
検査指標値が運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが0.054~0.233、bが36.9~45.8の範囲が好ましく、冬期はaが0.119~0.300、bが25.6~34.6の範囲が好ましい。
検査指標値が1/先体反応精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが-62.5~50.9、bが39.0~50.4の範囲が好ましく、冬期はaが16.3~173、bが28.5~44.2の範囲が好ましい。
検査指標値が1/生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが-121~466、bが39.2~51.0の範囲が好ましく、冬期はaが-167~617、bが29.7~45.4の範囲が好ましい。
検査指標値が超活性化運動精子率の曲線下面積×1/先体反応精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが4.36~7.23、bが38.4~47.0の範囲が好ましく、冬期はaが-0.907~4.05、bが29.1~44.0の範囲が好ましい。
検査指標値が運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積×1/生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積であれば、夏期はaが0.810~12.6、bが38.2~46.5の範囲が好ましく、冬期はaが8.49~20.2、bが26.3~34.7の範囲が好ましい。
【0047】
本発明の検査方法の検査指標値は、精液生産時の季節を考慮して予測式を算出することもできる。これは温度や日長等の外的要因によって、動物体内で生産される精子の状態が異なる可能性があることに起因する。季節は、春夏秋冬といった四季に分けることもできるし、12~2月、5~10月、6~9月といった月で分けることもできるし、平均気温が20℃以上の月、平均気温が10℃以下の月といった温度で分けることもできる。検査指標値は、好ましくは、精液生産時を夏期又は冬期に分けて予測式を算出する。この場合、精液生産時を7~9月又は12~2月といった分け方もできる。
【0048】
本発明の検査方法の予測受胎率や予測受胎性指標値は、予測式を用いて、個別サンプルの検査指標値から推定する。予測受胎率は、個別サンプルを用いて人工授精を行う場合に推定される受胎率(%)を示し、例えば43%、58%、67%といった率や40~50%、55~63%といった率の範囲で表すことができる。予測受胎率から予測受胎性指標値を算出できる。予測受胎性指標値は、個別サンプルを用いて人工授精を行う場合の受胎性の推定尺度を示し、例えば、標準偏差(σ)を用いて-0.4σ、+2σ、+1.2~+1.5σといった形で示すこともできる。また、ABCDEといった受胎性の評価、合格不合格といった二択形式で表すことができる。
【0049】
実施の形態2.精子の検査制御プログラム、記録媒体、検査装置
本発明の精子の検査装置の構成を図2に示す。精子の検査装置10は、超活性化運動精子率取得部11、先体反応精子率取得部12、入力部13、記憶部14、受胎性推定部15、出力部16を主に備えている。
【0050】
超活性化運動精子率取得部11は、実施の形態1で説明した超活性化運動精子率を取得する工程(S1)を行う。超活性化運動精子率取得部11は、培地に懸濁された精子集団の超活性化運動精子率を測定するための構成部位である。
【0051】
先体反応精子率取得部12は、実施の形態1で説明した先体反応精子率を測定する工程(S2)を行う。先体反応精子率取得部12は、培地に懸濁された精子集団の先体反応精子率を測定するための構成部位である。
【0052】
超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12は、精子運動解析装置、高速カメラ、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡、フローサイトメーター、セルソーター、細胞係数装置、ルミノメーター、吸光リーダー、蛍光リーダー、蛍光偏向リーダー、化学発光リーダー等の機能を有し、精子集団に対して個々の精子の超活性化運動精子率や先体反応精子率を測定する測定手段である。このような測定手段は、精子の検査装置10とは別に構成されていてもよく、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を用いて入力部13を介して入力してもよい。
【0053】
入力部13は、超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12におけるデータ測定の指示や、受胎性推定部15で行う演算処理の指示等を入力することができる。入力部13は、インターフェイス等であり、キーボード、マウス等の操作部も含む。これにより、入力部13は、超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12で測定したデータ、受胎性推定部15で行う演算処理の指示等を入力することができる。また、入力部13は、例えば超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12が外部にある場合は、操作部とは別に、測定したデータ等をネットワークや記憶媒体を介して入力することができるインターフェイス部を含んでもよい。
【0054】
記憶部14は、超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12で測定したデータ、入力部13から入力された指示、受胎性推定部15で行った演算処理結果等の他、情報処理装置の各種処理に用いられる制御プログラム、データベースなどを記憶する。記憶部14はRAM、ROM、フラッシュメモリ等のメモリ装置、ハードディスクドライブ等の固定ディスク装置、又はフレキシブルディスク、光ディスク等の可搬用の記憶装置などを有する。制御プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM、USBメモリ、外付けハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体や、インターネットを介してインストールされてもよい。制御プログラムは、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部14にインストールされる。
【0055】
受胎性推定部15は、実施の形態1で説明した受胎性を推定する工程(S3)を行う。受胎性推定部15は、超活性化運動精子率取得部11で測定された超活性化運動精子率や先体反応精子率取得部12で測定された先体反応精子率から、受胎性を推定するための構成部位である。このために、記憶部14に記憶している制御プログラムに従って、超活性化運動精子率取得部11や先体反応精子率取得部12で測定され記憶部14に記憶されたデータに対して、各種の演算処理を実行する。演算処理は、受胎性推定部15に含まれるCPUによりおこなわれる。このCPUは、超活性化運動精子率取得部11、先体反応精子率取得部12、入力部13、記憶部14、及び出力部16を制御する機能モジュールを含み、各種の制御を行うことができる。これらの各部は、それぞれ独立した集積回路、マイクロプロセッサ、ファームウェアなどで構成されてもよい。
【0056】
出力部16は、受胎性推定部15で演算処理を行った結果である検査評価値、予測受胎率、予測受胎性指標値等を出力する。出力部16は、液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の出力手段も含む。
【0057】
以下に実施例を挙げて、本発明の精子の検査方法及び装置を具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術分野において通常の変更をすることができる。
【0058】
実施例1.超活性化運動精子率の検査
一般社団法人家畜改良事業団で繋養のホルスタイン種種雄牛の射出精液を用いて作製した凍結精液を常法に従って融解し、樹脂製の試験管に精液を入れ、超活性化運動測定前洗浄液である表1の組成の水溶液を用いて、2000rpm、5分間、25℃で2回遠心洗浄を行った。洗浄した500万精子に、表1の液を加えて125μlになるように希釈した。希釈した精子に、超活性化運動誘起用培地である表1の組成に8mMの塩化カルシウム二水和物、200nMのカリクリンA、50μMのSp-5,6-Dichloro-cBIMPSを加えた水溶液を加え、250μlになるように2倍希釈した。そして、38℃のウォーターバスでインキュベーションを行った。インキュベーション0、30、60、90、120、150、180分後に精子を20μm厚のスライドチャンバー(Leja)にマウントし、1/60秒の撮像速度で動画を撮影した(Ceros II、Hamilton Thorne)。ツインスティングまたは8の字様運動を超活性化運動精子と定義した(原山ら、日本胚移植学雑誌,2017年9月,第39巻,第3号,p.159-167)。取得した動画から不動精子、非超活性化運動精子、超活性化運動精子を各サンプル各時間ポイントで合計300カウント測定した。超活性化運動精子率は、超活性化運動精子数/300×100で算出した。運動精子中の超活性化運動精子率は、超活性化運動精子数/(非超活性化運動精子数+超活性化運動精子数)×100で算出した。
【表1】
【0059】
超活性化運動誘起用培地でインキュベーションした凍結精子の運動精子率は、インキュベーション中減少し続けた(図3A)。一方、超活性化運動精子率は、インキュベーション1~1.5時間目をピークに高まり、その後減少した(図3B)。運動精子中の超活性化運動精子率も同様に、インキュベーション1.5時間目をピークに高まり、その後減少した(図3C)。個体別の超活性化運動性精子率(図4A)及び運動精子中の超活性化運動精子率(図4B)は、個体差として多少ピークになる時間帯が異なるものの、概ね平均値と同様の傾向を示した。
【0060】
実施例2.超活性化運動誘起用培地における塩化カルシウムの効果
実施例1に記載した方法において、超活性化運動誘起用培地を2、4、8mMの塩化カルシウムの濃度別にして、超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率の測定を行った。超活性化運動精子率(図5A)及び運動精子中の超活性化運動精子率(図5B)は、すべての濃度の塩化カルシウムで、インキュベーション1.5時間目でピークに達した。また、塩化カルシウムの濃度が高くなるにつれて、超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率が上昇した。
【0061】
実施例3.超活性化運動誘起用培地におけるカリクリンAの効果
実施例1に記載した方法において、超活性化運動誘起用培地を0、1、10、100、1000nMのカリクリンAの濃度別にして、インキュベーション1.5時間目の超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率の測定を行った。カリクリンAの濃度が10nMで、超活性化運動精子率(図6A)及び運動精子中の超活性化運動精子率(図6B)は最も高い値となった。
【0062】
実施例4.超活性化運動誘起用培地におけるcBiMPSの効果
実施例1に記載した方法において、超活性化運動誘起用培地を0、3.125、6.25、12.5、25、50、100、200μMのSp-5,6-Dichloro-cBIMPS(cBiMPS)の濃度別にして、インキュベーション1.5時間目の超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率の測定を行った。cBiMPSの濃度が50μMで、超活性化運動精子率(図7A)及び運動精子中の超活性化運動精子率(図7B)は最も高い値となった。
【0063】
実施例5.先体反応精子率の検査
一般社団法人家畜改良事業団で繋養の種雄牛の射出精液を用いて作製した凍結精液を常法に従って融解し、樹脂製の試験管に精液を入れ、先体反応測定前洗浄液である表2の組成の水溶液を用いて、2000rpm、5分間、25℃で2回遠心洗浄を行った。洗浄した500万精子に先体反応誘起用培地である表2の液を加えて250μlになるように希釈した。38℃のウォーターバスでインキュベーションを行った。インキュベーション0、60、90、120、150、180、240、300分後に精子を1000万/mlに調整し、2μg/mlのPI(Sigma)及び2μg/mlのPNA-FITC(Sigma)を加えて25℃で10分間インキュベーションした。フローサイトメーター(NovoCyte、Agilent)を用いて、1サンプルあたり2万個の精子について生存精子率及び先体正常率を測定した。PIで染色されない精子は生存精子と判定し、PNA-FITCで染色されない精子は先体正常精子と判定した。先体反応精子率は、生存かつ先体正常精子数/2万個×100で算出した。生存精子中の先体反応精子率は、(生存精子数-生存かつ先体正常精子数)/生存精子数×100で算出した。
【表2】
【0064】
先体反応誘起用培地でインキュベーションした凍結精子の生存精子率は、概ねインキュベーション中減少し続けた(図8A)。一方、先体反応精子率は、インキュベーション2時間目がピークとなり、その後多少減少しつつも高止まりした(図8B)。生存精子中の先体反応精子率は、インキュベーション開始2時間目に急激に上昇し、その後インキュベーション時間中は上昇傾向であった(図8C)。個体別の先体反応精子率(図9A)及び生存精子中の先体反応精子率(図9B)は、個体差があり、多少ピークになる時間帯が異なったが、概ね平均値と同様の傾向を示した。
【0065】
実施例6.検査指標値を用いた受胎性の推定
実施例1に記載した方法において、凍結精液の運動精子中の超活性化運動精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成する概要を示す。人工授精受胎率は、雄個体の精子を人工授精した雌の(総受胎頭数/総人工授精頭数)×100で算出した。図10に、ある個別サンプルについて、インキュベーション30分毎に測定した運動精子中の超活性化運動精子率を示した。ピーク値は、インキュベーション1.5時間目の35.6である。インキュベーション時間推移の曲線下面積は、インキュベーション30分毎の超活性化運動精子率を結んでできる直線とx軸との間にできる面積を積算した46.7であった。この場合、(インキュベーション0時間目の超活性化運動精子率+0.5時間目の超活性化運動精子率)×0.5時間/2+(インキュベーション0.5時間目の超活性化運動精子率+1.0時間目の超活性化運動精子率)×0.5時間/2+(中略)+(インキュベーション2.5時間目の超活性化運動精子率+3.0時間目の超活性化運動精子率)×0.5時間/2で算出した。
複数サンプルのピーク値から最小二乗法を用いて作成した直線近似の予測式は、予測受胎率=-0.0536×超活性化運動精子率(1.5h)+43.5(相関係数r=0.060)であった。
複数サンプルの超活性化運動精子率の曲線下面積から作成した予測式は、予測受胎率=0.0213×超活性化運動精子率の曲線下面積+43.0(相関係数r=0.0557)であった。例えば、超活性化運動精子率の曲線下面積が4.2のサンプルの場合、この予測式から43.1%が予測受胎率であった。
また、複数サンプルの運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積から作成した予測式は、予測受胎率=0.0253×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積+42.3(相関係数r=0.111)であった。例えば、運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積が20.8のサンプルの場合、この予測式から42.8%が予測受胎率であった。
【0066】
一方、夏期(7~9月)と冬期(12~2月)の季節毎に凍結精液の超活性化運動精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成した。
複数サンプルのピーク値から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=0.422×超活性化運動精子率(1.5h)+42.8(相関係数r=0.550)、冬期は予測受胎率=0.593×超活性化運動精子率(1.5h)+32.6(相関係数r=0.418)であった(図11A)。
また、複数サンプルの超活性化運動精子率の曲線下面積から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=0.362×超活性化運動精子率の曲線下面積(HA)+42.8(相関係数r=0.556)、冬期は予測受胎率=0.256×超活性化運動精子率の曲線下面積(HA)+29.5(相関係数r=0.617)であった(図11B)。
また、複数サンプルの運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=0.144×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積(HA/M)+41.3(相関係数r=0.652)、冬期は予測受胎率=0.210×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積(HA/M)+29.0(相関係数r=0.798)であった(図11C)。
夏期と冬期に分けて予測式を作成すると、より正確性の高い推定ができた。超活性化運動精子率のピーク値(図11A)、超活性化運動精子率の曲線下面積(図11B)、運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積(図11C)から作成した予測式から求めた相関係数は、夏期と冬期の両方で、より後者の方が高かった。
【0067】
実施例7.先体反応の検査指標値を用いた受胎性の推定
実施例5に記載した方法において、凍結精液の先体反応精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成した。検査指標値は、測定期間中の先体反応精子率のピーク値(インキュベーション2時間)及び曲線下面積を用いた。ピーク値及び曲線下面積の算出は、実施例6に記載の方法と同様である。
複数サンプルのピーク値から最小二乗法を用いて作成した直線近似の予測式は、予測受胎率=-0.380×先体反応精子率(2.0h)+45.0(相関係数r=-0.185)であった。
複数サンプルの生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積から作成した予測式は、予測受胎率=-0.0396×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積(AR)+46.1(相関係数r=-0.194)であり、相関があった。
【0068】
夏期と冬期の季節毎に凍結精液の先体反応精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成した。この場合、複数サンプルのピーク値から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=0.170×先体反応精子率(2.0h)+44.1(相関係数r=0.110)、冬期は予測受胎率=-0.627×先体反応精子率(2.0h)+42.9(相関係数r=-0.308)であった(図12A)。
また、複数サンプルの先体反応精子率の曲線下面積から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=-0.00250×先体反応精子率の曲線下面積(AR)+44.8(相関係数r=0.005)、冬期は予測受胎率=-0.579×先体反応精子率の曲線下面積(AR)+47.1(相関係数r=-0.433)であった(図12B)。
複数サンプルの生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=-0.0132×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積(AR/L)+45.8(相関係数r=0.097)、冬期は予測受胎率=-0.0345×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積(AR/L)+42.3(相関係数r=-0.134)であった(図12C)。
さらに、複数サンプルの先体反応精子率の曲線下面積の逆数から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=-5.84×先体反応精子率の曲線下面積の逆数(1/AR)+45.3(相関係数r=0.076)、冬期は予測受胎率=94.8×先体反応精子率の曲線下面積の逆数(1/AR)+31.7(相関係数r=0.440)であった(図12D)。
複数サンプルの生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数から作成した予測式は、夏期は予測受胎率=172×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数(1/[AR/L])+42.2(相関係数r=0.294)、冬期は予測受胎率=224×生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積の逆数(1/[AR/L])+36.6(相関係数r=0.142)であった(図12E)。
曲線下面積の逆数から作成した予測式は、元の曲線下面積から作成した予測式よりも大きな相関が検出され、正確性が高く受胎率を推定できた。
【0069】
実施例8.超活性化運動精子率及び先体反応精子率を用いた受胎性の推定
実施例1、5、6、7に記載した方法において、凍結精液の超活性化運動精子率及び先体反応精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成した。検査指標値は、測定期間中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値(HA/AR)及び測定期間中の運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、生存精子中の先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値([HA/M]/[AR/L])とした。
複数サンプルから最小二乗法を用いて作成した直線近似の予測式は、予測受胎率=0.384×超活性化運動精子率の曲線下面積に、先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値(HA/AR)+42.8(相関係数r=0.109)及び予測受胎率=4.64×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、生存精子中の先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値([HA/M]/[AR/L])+41.0(相関係数r=0.342)であり、正の相関があった。
【0070】
一方、夏期と冬期の季節毎に凍結精液の超活性化運動精子率及び先体反応精子率を用いて、人工授精受胎率との関連から予測式を作成した。この場合、夏期は予測受胎率=5.79×超活性化運動精子率の曲線下面積に、先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値(HA/AR)+42.5(相関係数r=0.709)、冬期は予測受胎率=1.57×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値(HA/AR)+36.7(相関係数r=0.627)であり、正の相関があった(図13A)。
また、夏期は予測受胎率=6.73×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、生存精子中の先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値([HA/M]/[AR/L])+42.2(相関係数r=0.704)、冬期は予測受胎率=14.3×運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積に、生存精子中の先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じた値([HA/M]/[AR/L])+30.3(相関係数r=0.806)であった(図13B)。例えば、夏期において運動精子中の超活性化運動精子率の曲線下面積が20.8で生存精子中の先体反応精子率の曲線下面積が72.5のサンプルの場合、この予測式から44.1%が予測受胎率であった。
これらの予測式に対して、受胎性を推定したいサンプルの検査指標値を代入すると、精度の高い予測受胎率が算出できる。また、夏期と冬期に分けて予測式を作成すると、極めて正確性の高い推定ができる。
【0071】
実施例6~8で示した検査指標値と人工授精受胎率との相関関係を表3にまとめて示す。概ね検査指標値として、先体反応が誘起されにくく、超活性化運動が誘起されやすい精子が多いと、予測受胎率が高い傾向にあった。通年(夏+冬)では、超活性化運動精子率も先体反応精子率も、ピーク値を用いるより、測定期間中の曲線下面積を用いることで、高い相関係数が得られた。さらに、超活性化運動検査値は、夏期と冬期に分けて予測式を立てることで、相関関係は高く検出され、正確に予測受胎率を算出できた。特に、運動精子中の超活性化運動検査値の曲線下面積に、生存精子中の先体反応検査値の曲線下面積の逆数を乗じることで、より高い相関係数が得られた。このように本発明の検査方法は、精子の受精能獲得を正確に反映できる検査と考えられた。
また、直線回帰で高い相関が確認できたことから、すべての受胎性の牛に対して受胎率の推定が可能であった。特に、受胎性が平均程度の正常の範囲の受胎率の牛についても細かく推定することが可能であった。
【表3】
【0072】
実施例9.予測式が取り得る係数の範囲
実施例6~8で示した検査指標値と人工授精受胎率について、夏期及び冬期に採取した精子の複数のサンプルを用いて、直線近似の予測式として取り得る範囲を検討した(図14A~G)。図14Bの超活性化運動精子率の推移の曲線下面積は、図11Bで示した値から算出した。図14Cの運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積は、図11Cで示した値から算出した。図14Dの先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数は、図12Dで示した値から算出した。図14Eの生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数は、図12Eで示した値から算出した。図14Fの超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に、先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値は、図13Aで示した値から算出した。図14Gの運動精子中の超活性化運動精子率の推移の曲線下面積に生存精子中の先体反応精子率の推移の曲線下面積の逆数を乗じた値は、図13Bで示した値から算出した。直線で囲まれた範囲は夏期を示し、点線で囲まれた範囲が冬期を示す。直線近似の予測式は、予測受胎率=a×検査指標値+bで示し、傾きa及び切片bの係数の範囲を表4に示す。このような係数の範囲であることにより、精度の高い受胎性の推定ができる。
【表4】
【0073】
実施例10.超活性化運動誘起用培地におけるユビキチン化阻害剤の効果
実施例1に記載した方法において、超活性化運動誘起用培地にユビキチン化阻害剤であるユビキチン活性化酵素阻害剤MLN4924、MLN7243、PYR-41をそれぞれ添加して3時間インキュベーションを行った。30分おきにインキュベーション中の運動精子率、超活性化運動精子率、運動精子中の超活性化運動精子率を測定した。
MLN4924は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の運動精子率は、すべての濃度で同様にインキュベーション中減少し続けた(図15A)。超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率は、すべての濃度でインキュベーション1.5時間目をピークに高まり、その後減少した。超活性化運動精子率は、1、10、100μMでは0μMより1.5時間目以降で値が高く、10μMでは2~2.5時間目で有意に値が高かった(図15B)。運動精子中の超活性化運動精子率も、1、10、100μMでは0μMより1.5時間目以降で値が高く、10μMでは1.5~3時間目で有意に値が高かった(図15C)。
MLN7243は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の運動精子率は、すべての濃度で同様にインキュベーション中減少し続けた(図16A)。超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率は、すべての濃度でインキュベーション1.5時間目をピークに高まり、その後減少した。超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率は、1μM及び10μMの濃度で、0μMより1.5~2.5時間で値が高かった(図16B及びC)。
PYR-41は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の運動精子率は、すべての濃度で同様にインキュベーション中減少し続けた(図17A)。超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率は、すべての濃度でインキュベーション1.5時間目をピークに高まり、その後減少した。超活性化運動精子率及び運動精子中の超活性化運動精子率は、1μM及び10μMの濃度で、0μMより1.5~2.5時間で値が高かった(図17B及びC)。
このように、ユビキチン化阻害剤を用いることにより、その種類や濃度によっては、超活性化運動精子率や運動精子中の超活性化運動精子率をより誘起できるため、差を顕在化して明確な受胎性の推定に用いることができると考えられた。
【0074】
実施例11.先体反応誘起用培地におけるユビキチン化阻害剤の効果
実施例5に記載した方法において、先体反応誘起用培地にユビキチン化阻害剤であるユビキチン活性化酵素阻害剤MLN4924、MLN7243、PYR-41をそれぞれ添加して2時間インキュベーションを行った。30分おきにインキュベーション中の生存精子率、先体反応精子率、生存精子中の先体反応精子率を測定した。
MLN4924は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の生存精子率は、すべての濃度で概ね横ばいであった(図18A)。先体反応精子率及び生存精子中の先体反応精子率は、すべての濃度でインキュベーション1.5~2時間で上昇した(図18B及びC)。
MLN7243は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の生存精子率は、すべての濃度で概ね横ばいであったが、100μMで有意に低い値であった(図19A)。先体反応精子率及び生存精子中の先体反応精子率は、0、1、10μMの濃度でインキュベーション1.5~2時間で上昇した。一方で、100μMでは、先体反応精子率は0.5~1時間で有意に上昇し(図19B)、生存精子中の先体反応精子率は0.5~2時間で有意に上昇した(図19C)。さらに、0、25、50、75、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。先体反応精子率は、インキュベーション1~2時間では25、50、75μMが、インキュベーション0.5~1.5時間では100μMが、0μMよりも上昇した(図19D)。生存精子中の先体反応精子率は、インキュベーション0.5~2時間で25、50、75、100μMが0μMよりも上昇した。特に、インキュベーション0.5~1.5時間の100μM及びインキュベーション1.5時間の50及び75μMは、有意に上昇した(図19E)。
PYR-41は、0、1、10、100μMの濃度別にインキュベーションを行った。凍結精子の生存精子率は、0及び1μMの濃度では概ね横ばいであったが、10及び100μMの濃度では2時間目にかけて低下した(図20A)。先体反応精子率は、0、1、10μMの濃度でインキュベーション1.5~2時間で上昇した(図20B)。生存精子中の先体反応精子率は、すべての濃度でインキュベーション1.5~2時間で上昇した(図20C)。
このように、ユビキチン化阻害剤を用いることにより、その種類や濃度によっては、先体反応精子率や生存精子中の先体反応精子率をより誘起できるため、差を顕在化して明確な受胎性の推定に用いることができると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の精子の検査方法は、精子の受精能獲得の指標となる超活性化運動精子率や先体反応精子率の経時的な測定から検査指標値を算出し、この検査指標値及び人工授精受胎率から作成した予測式を用いて、受胎率との相関が高い精子の評価を得ることができる。これにより、受胎性の高い精子の供給を行うことができる。また、フィールドでの人工授精による受胎率の向上も期待できる。
図1
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