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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142488
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20230928BHJP
【FI】
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049435
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100121027
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】米澤 稔浩
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501DD01
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501LL22
5H501LL38
5H501MM17
(57)【要約】
【課題】広い電流領域で実際にモータに流れている電流の電流値の検出精度を高くできる車両用制御装置を提供する。
【解決手段】第1の電流ポイント、第2の電流ポイント、および、第3の電流ポイントの各々での、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に乗算する補正ゲイン(第1の補正量、第2の補正量、第3の補正量の各々に対応する補正ゲイン)を利用して、電流検出回路6によりモータ電流から変換されたAD電圧を補正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたモータによるアシスト機能を有する車両用制御装置であって、
実際に前記モータに流れる電流値を電圧値に変換して検出する電流検出手段と、
前記電流検出手段により検出される電圧値を補正する補正処理を行う補正手段と
を備え、
前記補正手段は、
所定の電流値を含む複数の電流値の各々における、当該電流値に対応する前記電流検出手段により検出される第1の電圧値と当該電流値に対応する理想の第2の電圧値とを基に得られる当該電流値に対応する補正係数に基づいて、前記補正処理を行う
ことを特徴とする車両用制御装置。
【請求項2】
前記補正手段は、前記車両用制御装置の複数の温度の各々における、前記複数の電流値の各々での前記補正係数に基づいて、前記補正処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記複数の温度の各々において、前記複数の電流値の各々での前記補正係数に基づいて作成されるマップを用いて、前記補正処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたモータによるアシスト機能を有する車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モータの目標トルク(電流指令値)と実トルク(実電流)との乖離を低減する車両用制御装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-27627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図6に示す搭載されたEPS(電動パワーステアリング)システム1Cでは、EPS-ECS(Electric Power Steering - Electronic Control Unit:電動パワーステアリング 電子制御ユニット)2CのCPU4Cは、操舵力、総舵角、車速情報などに基づいて、さらに、電流指令値と電流検出回路6の検出結果に基づいて算出する実際にモータ3に流れている電流の電流値との差分に基づくフィードバック制御を行って、電流指令値を算出してモータ3に流れる電流を制御する。
【0005】
電流検出回路6は、図7に示す一般的な電流検出回路の構成であり、詳細な説明を記載せず、簡単な記載に留める。電流検出回路6は、抵抗R1~R7、オペアンプAMPを備える。モータ3に流れる電流(ここでは、「モータ電流」と記載する。)をシャント抵抗である抵抗R1に通電することにより電圧に変換する。抵抗R2~R7、オペアンプAMPは、抵抗R5,R6で負帰還をかけ、抵抗R2~R3でオペアンプAMPの非反転入力端子と反転入力端子との間に発生するオフセット電圧を補償する、オフセット補償された負帰還の非反転増幅回路を構成している。オペアンプAMPの非反転端子および反転端子の各々には抵抗R4および抵抗R5が接続され、オペアンプAMPの出力端子には抵抗R7が接続されている。シャント抵抗R1にモータ電流を通電することにより変換された電圧はオペアンプAMP、抵抗R5,R6により増幅され、増幅された電圧はターミナルTから出力される。電流検出回路6で増幅されたアナログの電圧値は、CPU4Cによりデジタルの電圧値に変換されて補正される。
【0006】
ここで、まず、CPU4Cによりアナログからデジタルに変換された電圧(以下、「AD電圧」と記載する。)ADの補正のための事前準備について図8を参照しつつ説明する。図8(a)および図8(b)では、横軸をモータ電流[A]とし、縦軸をAD電圧[V]としており、図8(a)および図8(b)に、モータ電流[A]とAD電圧[V]との関係を示す特性(以下、「モータ電流-AD電圧特性」と記載する。)を示している。
【0007】
図8(a)には、モータ電流[A]とAD電圧[V]とが比例する理想のモータ電流-AD電圧特性(以下、「理想モータ電流-AD電圧特性」と記載する。:図8(a)および図8(b)の各図では「理想特性」と簡略化して記載している。)を実線で、実物のモータ3に流した電流(モータ電流)[A]と実物の電流検出回路6による検出結果に基づくAD電圧[V]との関係を示すモータ電流-AD電圧特性(以下、「実物モータ電流-AD電圧特性」と記載する。:図8(a)および図8(b)の各図では「実物特性」と簡略化して記載している。)を点線で示している。
【0008】
モータ電流が0[A]である電流ポイントで、実物モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正(非通電時のオフセット量の補正)を行う。オフセット量は、モータ電流が0[A]である電流ポイントでの実物モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値から、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を減算した値であり、EEPROMなどで構築されるメモリ5Cに記憶する。また、EPS-ECU2Cの温度(サーミスタ温度)毎に、電流検出回路6のドリフトに関わるオフセット量の変動量(以下、「温度ドリフト量」と記載する。)をメモリ5Cに記憶する。オフセット量や温度ドリフト量は、例えば、EPS-ECU2Cの出荷検査時にメモリ5Cに記憶される。
【0009】
図8(b)には、実物モータ電流-AD電圧特性の各電流値からオフセット量を減算したモータ電流-AD電圧特性(以下、「第1補正後モータ電流-AD電圧特性」と記載する。:図8(b)では「第1補正後特性」と簡略化して記載している。)を一点鎖線で示している。
【0010】
モータ電流が定格電流値である電流ポイントで、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正を行う。当該補正は、電流ポイントでの第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に補正ゲインの値を乗算して理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正であり、補正ゲインの値をメモリ5Cに記憶する。ここで、電流ポイントにおいて、補正ゲインの値で補正される補正量は、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値から理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を減算して得られる補正量である。補正ゲインの値は、例えば、EPS-ECU2Cの出荷検査時にメモリ5Cに記憶される。
【0011】
続いて、AD電圧ADの補正の処理内容について図9を参照しつつ説明する。
【0012】
CPU4Cは、第1の補正処理を行う。第1の補正処理では、CPU4Cは、加算部11において、メモリ5Cに記憶されているオフセット量Offsetと、サーミスタ温度に対応する温度ドリフト量Driftとを加算してドリフト補正オフセット量Offset_Driftを算出する(Offset_Drift=Offset+Drift)。CPU4Cは、減算部12において、AD電圧ADからドリフト補正オフセット量Offset_Driftを減算してオフセット補正AD電圧AD_Subを算出する(AD_Sub=AD-Offset_Drift=AD-(Offset+Drift))。
【0013】
CPU4Cは、第2の補正処理を行う。第2の補正処理では、CPU4Cは、乗算部13において、メモリ5Cに記憶されている補正ゲインGをオフセット補正AD電圧AD_Subに乗算して補正後AD電圧AD_COR_Cを算出する(AD_COR_C=G×AD_Sub=G×(AD-(Offset+Drift))。そして、CPU4Cは、補正後AD電圧AD_COR_Cの電圧値を基にモータ3に実際に流れているモータ電流の電流値を算出する。
【0014】
EPSシステム1でモータアシストを決定するモータ電流の電流値は走行時のユーザハンドルの操舵力に影響するため電流の検出精度が求められる。従来は図6から図9を参照して説明した第1補正および第2補正を行うことによりモータ電流の電流値の誤差をなくすようにしている。
【0015】
しかしながら、上記の第2補正では、モータ電流が定格電流値である電流ポイントにおける、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値が理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正ゲインを用いるため、他の電流値の領域での誤差が発生しやすく、ユーザ操舵力の連続性の悪化につながってしまう。例えば、IPA(Intelligent Parking Asist)仕様では、定格電流値50[A]に対して通常時の電流の最大値として例えば45[A]が設定されるため、定格電流値50[A]の電流ポイントで取得した補正ゲインを用いた第2補正では通常時に使用される電流値の電流領域では誤差が発生しやすい。
【0016】
本発明の目的は、広い電流領域で実際にモータに流れている電流の電流値の検出精度を高くできる車両用制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用制御装置は、車両に搭載されたモータによるアシスト機能を有する車両用制御装置であって、実際に前記モータに流れる電流値を電圧値に変換して検出する電流検出手段と、前記電流検出手段により検出される電圧値を補正する補正処理を行う補正手段とを備え、前記補正手段は、所定の電流値を含む複数の電流値の各々における、当該電流値に対応する前記電流検出手段により検出される第1の電圧値と当該電流値に対応する理想の第2の電圧値とを基に得られる当該電流値に対応する補正係数に基づいて、前記補正処理を行うことを特徴としている。
【0018】
この構成によれば、所定の電流値を含む複数の電流値の各々における補正係数に基づく補正処理を行うことで、広い電流領域で実際にモータに流れている電流の電流値の検出精度を高くできる。
【0019】
また、前記補正手段は、前記車両用制御装置の複数の温度の各々における、前記複数の電流値の各々での前記補正係数に基づいて、前記補正処理を行うとしてもよい。
【0020】
この構成によれば、車両用制御装置の温度に応じた適切な補正処理が可能になって、車両用制御装置の温度が変化しても実際にモータに流れている電流の電流値の検出精度を高くできる。
【0021】
また、前記補正手段は、前記複数の温度の各々において、前記複数の電流値の各々での前記補正係数に基づいて作成されるマップを用いて、前記補正処理を行うとしてもよい。
【0022】
この構成によれば、補正手段による補正処理で適した補正係数を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所定の電流値を含む複数の電流値の各々における補正係数に基づく補正処理を行うことで、広い電流領域で実際にモータに流れている電流の電流値の検出精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るEPS(電動パワーステアリング)システムの構成を示すシステム構成図である。
図2図1のCPUによるAD電圧の補正を説明するための説明図である。
図3図1のCPUによるAD電圧の補正を説明するための説明図である。
図4図1のCPUによるAD電圧の補正処理を説明するための説明図である。
図5図1のCPUの演算部により行われる演算後補正ゲインの算出処理を説明するための説明図である。
図6】従来のEPS(電動パワーステアリング)システムの構成を示すシステム構成図である。
図7図6の電流検出回路の構成を示す回路構成図である。
図8図6のCPUによるAD電圧の補正を説明するための説明図である。
図9図6のCPUによるAD電圧の補正処理を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態に係るEPS(電動パワーステアリング)システム1の構成について図1を参照して説明する。
【0027】
本実施形態のEPSシステム1は、図6から図9を参照して説明した従来のEPSシステム1Cとは、EPS-ECU2のCPU4がメモリ5の記憶内容を利用してAD電圧ADを補正する仕組みが、EPS-ECU2CのCPU4Cがメモリ5Cの記憶内容を利用してAD電圧ADを補正する仕組みと異なっているものであり、それ以外の点については従来のEPSシステム1Cと同様であり、同じ構成には同じ符号を付してその説明を省略する。なお、EPS-ECU2が本発明の「車両用制御装置」に相当する。また、図7の回路構成を有する図1の電流検出回路6が本発明の「電流検出手段」に相当する。
【0028】
まず、CPU4が電流検出回路6の検出結果であるアナログの電圧値を変換したデジタルの電圧値(AD電圧ADの電圧値)の補正のための事前準備について図2および図3を参照しつつ説明する。図2(a),(b)および図3では、横軸をモータ電流[A]とし、縦軸をAD電圧[V]としており、図2(a),(b)および図3に、モータ電流[A]とAD電圧[V]との関係を示す特性(モータ電流-AD電圧特性)を示している。
【0029】
図2(a)には、モータ電流[A]とAD電圧[V]とが比例する理想のモータ電流-AD電圧特性(理想モータ電流-AD電圧特性:図2(a),(b)および図3の各図では「理想特性」と簡略化して記載している。)を実線で、実物のモータ3に流した電流(モータ電流)[A]と実物の電流検出回路6による検出結果に基づくAD電圧[V]との関係を示すモータ電流-AD電圧特性(実物モータ電流-AD電圧特性:図2(a),(b)および図3の各図では「実物特性」と簡略化して記載している。)を点線で示している。
【0030】
EPS-ECU2の所定の温度(以下、「サーミスタ基準温度」と記載する。)において、モータ電流が0[A]である電流ポイントで、実物モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正(非通電時のオフセット量の補正)を行う。オフセット量は、モータ電流が0[A]である電流ポイントでの実物モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値から、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を減算した値であり、EEPROMなどで構築されるメモリ5に記憶する。また、EPS-ECU2の複数の温度(サーミスタ温度)毎の当該サーミスタ温度と当該サーミスタ温度での電流検出回路6のドリフトに関わるオフセット量の変動量(温度ドリフト量)とから、両者の対応関係を示す温度ドリフト量マップを作成してメモリ5に記憶する。ただし、各サーミスタ温度での温度ドリフト量は、当該サーミスタ温度でのオフセット量から、サーミスタ基準温度でのオフセット量を減算した値である。オフセット量や温度ドリフト量マップは、例えば、EPS-ECU2の出荷検査時にメモリ5に記憶される。
【0031】
図2(b)および図3には、実物モータ電流-AD電圧特性の各電流値からオフセット量を減算したモータ電流-AD電圧特性(第1補正後モータ電流-AD電圧特性:図2(b)および図3の各図では「第1補正後特性」と簡略化して記載している。)を一点鎖線で示している。
【0032】
図3において、モータ電流が定格電流値である第1の電流ポイント、定格電流値より小さく0[A]より大きい電流値である第2の電流ポイント、および、第2の電流ポイントの電流値より小さく0[A]より大きい電流値である第3の電流ポイントのそれぞれで、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を、理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正を行う。第1の電流ポイント、第2の電流ポイント、および、第3の電流ポイントの夫々の当該補正は、電流ポイントでの第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に補正ゲインの値を乗算して理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値に一致させる補正である。ここで、電流ポイント(第1の電流ポイント、第2の電流ポイント、第3の電流ポイント)において、補正ゲインの値で補正される補正量は、第1補正後モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値から理想モータ電流-AD電圧特性のAD電圧の電圧値を減算して得られる補正量(第1の補正量、第2の補正量、第3の補正量)である。第1の電流ポイント、第2の電流ポイント、および、第3の電流ポイント毎の電流指令値(電流ポイントの電流値)[A]と補正ゲイン[-(単位なし)]とに基づいて、両者の対応関係を示す補正ゲインマップを作成してメモリ5に記憶する。なお、補正ゲインは、本発明の「補正係数」に相当する。
【0033】
本実施形態では、メモリ5には、補正ゲインマップとして、サーミスタ温度が-30度での理想モータ電流-AD電圧特性および第1補正後モータ電流-AD電圧特性を用いて作成する補正ゲインマップ(以下、「-30度補正ゲインマップ」と記載する。)、サーミスタ温度が25度での理想モータ電流-AD電圧特性および第1補正後モータ電流-AD電圧特性を用いて作成する補正ゲインマップ(以下、「25度補正ゲインマップ」と記載する。)、および、サーミスタ温度が65度での理想モータ電流-AD電圧特性および第1補正後モータ電流-AD電圧特性を用いて作成する補正ゲインマップ(以下、「65度補正ゲインマップ」と記載する。)の3つの補正ゲインマップが記憶されている。-30度補正ゲインマップ、25度補正ゲインマップ、および、65度補正ゲインマップは、例えば、EPS-ECU2の出荷検査時にメモリ5に記憶される。
【0034】
続いて、AD電圧ADの補正の処理内容について図4を参照しつつ説明する。なお、図4および図5を参照して説明する補正内容の処理を行うCPU4の部分が本発明の「補正手段」に相当する。
【0035】
CPU4は、第1の補正処理を行う。第1の補正処理では、CPU4は、メモリ5に記憶されている温度ドリフトマップを参照してサーミスタ温度に対応する温度ドリフト量Driftを取得する。なお、図4の温度ドリフトマップでは、サーミスタ温度を「温度」と簡略化し、温度ドリフト量を「ドリフト」と簡略化して図示している。
【0036】
CPU4は、加算部11において、メモリ5に記憶されているオフセット量Offsetと、サーミスタ温度に対応する温度ドリフト量Driftとを加算してドリフト補正オフセット量Offset_Driftを算出する(Offset_Drift=Offset+Drift)。
【0037】
CPU4は、減算部12において、AD電圧(CPU4により、電流検出回路6で得られたアナログの電圧をデジタルの電圧に変換したもの)ADからドリフト補正オフセット量Offset_Driftを減算してオフセット補正AD電圧AD_Subを算出する(AD_Sub=AD-Offset_Drift=AD-(Offset+Drift))。
【0038】
CPU4は、第2の補正処理を行う。第2の補正処理では、CPU4は、例えば、操舵力、総舵角、車速情報などに基づいて、さらに、電流指令値と電流検出回路6の検出結果に基づいて算出する実際にモータ3に流れている電流の電流値との差分に基づくフィードバック制御を行って、電流指令値を算出する。CPU4は、メモリ5に記憶されている-30度補正ゲインマップを参照して、算出した電流指令値[A]に対応する補正ゲイン(以下、「-30度補正ゲイン」と記載する。)GAIN_m30を取得し、25度補正ゲインマップを参照して、算出した電流指令値[A]に対応する補正ゲイン(以下、「25度補正ゲイン」と記載する。)GAIN_25を取得し、65度補正ゲインマップを参照して、算出した電流指令値(A)に対応する補正ゲイン(以下、「65度補正ゲイン」と記載する。)GAIN_65を取得する。補正ゲインマップ(-30度補正ゲインマップ、25度補正ゲインマップ、65度補正ゲインマップ)を用いて補正ゲイン(-30度補正ゲイン、25度補正ゲイン、65度補正ゲイン)を取得するために、例えば、補間または外挿を行う。
【0039】
続いて、CPU4は、演算部20において、演算後補正ゲインGAIN_CALを算出する。CPU4の演算部20において行われる演算後補正ゲインGAIN_CALの算出処理について図5を参照しつつ説明する。
【0040】
演算後補正ゲインGAIN_CALの算出は、サーミスタで計測されるEPS-ECUの温度(サーミスタ温度)Tempに応じた内容の処理が行われる。本実施形態では、(A)サーミスタ温度が-30度未満の場合、(B)サーミスタ温度が-30度以上25度未満の場合、(C)サーミスタ温度が25度以上65度未満の場合、(D)サーミスタ温度が65度以上の場合に分けた処理となっている。
【0041】
(A)サーミスタ温度が-30度未満の場合
サーミスタ温度Tempが-30度未満の場合、-30度補正ゲインGAIN_m30を演算後補正ゲインGAIN_CALとする(GAIN_CAL=GAIN_m30)。
【0042】
(B)サーミスタ温度が-30度以上25度未満の場合
サーミスタ温度Tempが-30度以上25度未満の場合、まず、計算パラメータ(第1補正ゲインGAIN_MAP1、第2補正ゲインGAIN_MAP2、温度差Temp_DIF、基準温度Temp_REF)の設定を行う。本実施形態では、第1補正ゲインGAIN_MAP1に対して-30補正ゲインGAIN_m30を設定し(GAIN_MAP1=GAIN_m30)、第2補正ゲインGAIN_MAP2に対して25補正ゲインGAIN_25を設定する(GAIN_MAP2=GAIN_25)。また、温度差Temp_DIFに対して55度を設定し(Temp_DIF=55)、基準温度Temp_REFに対して25度を設定する(Temp_REF=25)。
【0043】
続いて、設定した計算パラメータを用いて演算後補正ゲインGAIN_CALの算出を行う。なお、当該算出は、線形補間と呼ばれる手法を利用しているが、これに限定されるものではない。
【0044】
具体的には、演算部20は、減算部21において、第2補正ゲインGAIN_MAP2から第1補正ゲインGAIN_MAP1を減算して補正ゲイン差GAIN_DIFを算出する(GAIN_DIF=GAIN_MAP2-GAIN_MAP1=GAIN_25-GAIN_m30)。演算部20は、除算部22において、補正ゲイン差GAIN_DIFを温度差Temp_DIFで除算して補正ゲイン傾きGAIN_TILTを算出する(GAIN_TILT=GAIN_DIF/Temp_DIF=(GAIN_MAP2-GAIN_MAP1)/Temp_DIF=(GAIN_25-GAIN_m30)/55)。
【0045】
演算部20は、減算部23において、サーミスタ温度Tempから基準温度Temp_REFを減算して温度幅Temp_WIDを算出する(Temp_WID=Temp-Temp_REF=Temp-25)。
【0046】
演算部20は、乗算部24において、補正ゲイン傾きGAIN_TILTを温度幅Temp_WIDに乗算して補正ゲイン幅GAIN_WIDを算出する(GAIN_WID=GAIN_TILT×Temp_WID=((GAIN_25-GAIN_m30)/55)×(Temp-25))。
【0047】
演算部20は、加算部25において、第2補正ゲインGAIN_MAP2と補正ゲイン幅GAIN_WIDとを加算して演算後補正ゲインGAIN_CALを算出する(GAIN_CAL=GAIN_MAP2+GAIN_WID=GAIN_25+((GAIN_25-GAIN_m30)/55)×(Temp-25))。
【0048】
(C)サーミスタ温度が25度以上65度未満の場合
サーミスタ温度Tempが25度以上65度度未満の場合、まず、計算パラメータ(第1補正ゲインGAIN_MAP1、第2補正ゲインGAIN_MAP2、温度差Temp_DIF、基準温度Temp_REF)の設定を行う。本実施形態では、第1補正ゲインGAIN_MAP1に対して25補正ゲインGAIN_25を設定し(GAIN_MAP1=GAIN_25)、第2補正ゲインGAIN_MAP2に対して65補正ゲインGAIN_65を設定する(GAIN_MAP2=GAIN_65)。また、温度差Temp_DIFに対して40度を設定し(Temp_DIF=40)、基準温度Temp_REFに対して65度を設定する(Temp_REF=65)。
【0049】
続いて、設定した計算パラメータを用いて演算後補正ゲインGAIN_CALの算出を行う。なお、当該算出は、線形補間と呼ばれる手法を利用しているが、これに限定されるものではない。
【0050】
具体的には、演算部20は、減算部21において、第2補正ゲインGAIN_MAP2から第1補正ゲインGAIN_MAP1を減算して補正ゲイン差GAIN_DIFを算出する(GAIN_DIF=GAIN_MAP2-GAIN_MAP1=GAIN_65-GAIN_25)。演算部20は、除算部22において、補正ゲイン差GAIN_DIFを温度差Temp_DIFで除算して補正ゲイン傾きGAIN_TILTを算出する(GAIN_TILT=GAIN_DIF/Temp_DIF=(GAIN_MAP2-GAIN_MAP1)/Temp_DIF=(GAIN_65-GAIN_25)/40)。
【0051】
演算部20は、減算部23において、サーミスタ温度Tempから基準温度Temp_REFを減算して温度幅Temp_WIDを算出する(Temp_WID=Temp-Temp_REF=Temp-65)。
【0052】
演算部20は、乗算部24において、補正ゲイン傾きGAIN_TILTを温度幅Temp_WIDに乗算して補正ゲイン幅GAIN_WIDを算出する(GAIN_WID=GAIN_TILT×Temp_WID=((GAIN_65-GAIN_25)/40)×(Temp-65))。
【0053】
演算部20は、加算部25において、第2補正ゲインGAIN_MAP2と補正ゲイン幅GAIN_WIDとを加算して演算後補正ゲインGAIN_CALを算出する(GAIN_CAL=GAIN_MAP2+GAIN_WID=GAIN_65+((GAIN_65-GAIN_25)/40)×(Temp-65))。
【0054】
(D)サーミスタ温度が65度以上の場合
サーミスタ温度Tempが65度未満の場合、65度補正ゲインGAIN_65を演算後補正ゲインGAIN_CALとする(GAIN_CAL=GAIN_65)。
【0055】
サーミスタ温度Tempに応じて、上記の(A)~(D)の何れかの処理が行われた後、図4に示すように、CPU4は、乗算部30において、演算後補正ゲインGAIN_CALをオフセット補正AD電圧AD_Subに乗算して補正後AD電圧AD_CORを算出する(AD_COR=GAIN_CAL×AD_Sub)。そして、CPU4は、例えば、予め補正後AD電圧AD_CORの電圧値とモータ3に実際に流れているモータ電流との対応関係を予めメモリ5に記憶しておいて、補正後AD電圧AD_CORの電圧値を基にモータ3に実際に流れているモータ電流の電流値を算出する。
【0056】
上記した実施形態によれば、第1の電流ポイント(定格電流値の電流ポイント)、第2の電流ポイント、第3の電流ポイントの各々における補正ゲインに基づいて作成される補正ゲインマップ(-30度補正ゲインマップ、25度補正ゲインマップ、65度補正ゲインマップ)に基づく補正処理を行うことで、広い電流領域で実際にモータ3に流れている電流の電流値の検出精度を高くできる。
【0057】
また、補正ゲインマップとして、サーミスタ温度が-30度である場合における-30度補正ゲインマップ、サーミスタ温度が25度である場合における25度補正ゲインマップ、および、サーミスタ温度が65度である場合における65度補正ゲインマップを用いることにより、EPS-ECU2の温度(サーミスタ温度)に応じた適切な補正処理が可能になって、EPS-ECU2の温度(サーミスタ温度)が変化しても実際にモータ3に流れている電流の電流値の検出精度を高くできる。
【0058】
また、補正ゲインマップ(-30度補正ゲインマップ、25度補正ゲインマップ、65度補正ゲインマップ)を用いることにより、補正処理で適した補正ゲインを用いて補正処理を行うことができる。
【0059】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態では、第1の電流ポイント、第2の電流ポイント、および、第3の電流ポイントの3つの電流ポイントでの補正ゲインを予め設定して用いるようにしているが、これに限定されず、2つの電流ポイント(例えば、定格電流値の電流ポイントを含む2つの電流ポイント)での補正ゲインを用いるようにしてもよいし、4つ以上の電流ポイント(例えば、定格電流値の電流ポイントを含む4つ以上の電流ポイント)での補正ゲインを用いるようにしてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、サーミスタ温度が-25度、30度、および、65度それぞれに対応する補正ゲインマップを予め設定して用いるようにしているが、これに限らず、2つの温度それぞれに対応する補正ゲインマップを用いるようにしてもよいし、4つ以上の温度それぞれに対応する補正ゲインマップを用いるようにしてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態で説明した内容や上記の変形例で説明した内容を適宜組み合わせるようにしてもよい。
【0063】
本発明は、車両に搭載されたモータによるアシスト機能を有する車両用制御装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1:EPS(電動パワーステアリング)システム
2:EPS-ECU
3:EPS-ECU
4:CPU
5:メモリ
6:電流検出回路
11:加算部
12:減算部
20:演算部
21:減算部
22:除算部
23:減算部
24:乗算部
25:加算部
30:乗算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9