(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142491
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】無線通信装置及びキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20230928BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H04B7/06 982
H04B7/08 982
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049438
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】松本 敦
(57)【要約】
【課題】 作業者の負荷を軽減し、容易且つ正確にアンテナ経路のキャリブレーションを行うことができる無線通信装置及びキャリブレーション方法を提供する。
【解決手段】 複数のアンテナを用いて通信を行う無線通信装置及び無線通信方法であって、アンテナ経路でのキャリブレーションを行う演算機24が、1つの送信アンテナ経路について基準信号の位相が最適となるよう調整して特定し、その特定された基準信号を用いて他の送信アンテナ経路のキャリブレーションを行う無線通信装置及びキャリブレーション方法としている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナを用いて通信を行う無線通信装置であって、
特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、
当該特定した位相の基準信号を用いて前記複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記特定のアンテナによる送信用の入力信号と基準信号を入力し、前記入力信号と前記基準信号の位相を90°と180°遅らせ、90°遅らせた前記基準信号と180°遅らせた前記入力信号を合成して出力する第1のポートと、90°遅らせた前記入力信号と180°遅らせた前記基準信号を合成して出力する第2のポートとを有する第1の位相制御回路と、
前記第1のポートからの信号と前記第2のポートからの信号を入力して、各々90°位相を遅らせて合成出力する第3のポートと、前記第1のポートからの信号を270°位相を遅らせ、前記第2のポートからの信号を90°位相を遅らせて合成出力する第4のポートとを有する第2の位相制御回路と、
前記第3のポートからの出力信号と前記第4のポートからの出力信号を合成する合成回路と、
前記基準信号の位相を変化させ、前記合成回路で合成された信号の電力が最小となる前記基準信号の位相を特定して、当該特定した位相の基準信号を用いて前記複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行う制御部とを備えることを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記特定のアンテナ以外の他のアンテナ経路について、前記特定された位相の基準信号に対して、前記他のアンテナ経路の送信用の入力信号の位相を調整して複数のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴とする請求項1又は2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記特定された位相の基準信号を前記複数のアンテナで受信する信号の代わりに入力し、当該基準信号が受信アンテナ経路で出力される出力信号の位相と、当該アンテナによる送信用の入力信号の位相とを比較して受信アンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の無線通信装置。
【請求項5】
複数のアンテナを用いて通信を行う場合のキャリブレーション方法であって、
特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、
当該特定した位相の基準信号を用いて前記複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴とするキャリブレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数アンテナを用いて通信を行う無線通信装置に係り、特に各アンテナ経路の位相及びレベルを調整するキャリブレーションを容易且つ正確に行うことができる無線通信装置及びキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
近年、移動体通信システムは、スマートフォンなどの普及もあり、トラフィックを急増させている。今後、移動体通信システムは、利便性の追求かつ人口減少も相まって次世代システムの導入が期待されており、第4世代(4G)から第5、第6世代(5G、6G)へと移行し、高速大容量、低遅延、多数同時接続等を目標に各国が開発を進めている。
【0003】
特に、高速大容量、多数同時接続においては、Massive MIMO(Multiple Input Multiple Output)や分散アンテナ、ビームフォーミング等の技術を用いて効率よく通信を行うことが求められており、低消費電力かつ安価での高精度のアンテナビームフォーミングを行う必要がある。
近年においてはビームフォーミングの実現のため、複数のアンテナを配列したアクティブフェーズドアレイアンテナが採用されている。
【0004】
アクティブフェーズドアレイアンテナでは、アンテナ素子ごと(又は数個単位)で、送信パス・受信パスそれぞれの位相を任意に調整できる移相器を含む送受信モジュール(T/Rモジュール)を配列する。これによってビームの指向制御を行うとともに、空間的に電力合成して大きな送信出力を得ることができる。
【0005】
但し、アクティブフェーズドアレイアンテナは、アンテナ間のレベル及び位相のバラつきが無いことが前提となり、アンテナ間の位相、レベル差をなくす調整(キャリブレーション)が必要となる。
【0006】
従来、信号処理部から各アンテナまでの伝送線路(アンテナ経路)におけるレベル及び位相のバラつき調整には、相対比較信号と180°位相反転させた信号を合成し、作業員が波形等を測定器等で確認しながら、レベル及び位相の調整を行うなどの方法があった。
しかし、このような調整方法では、作業が煩雑で時間がかかり、また、調整の判断が難しく、人的要因によるバラつきがあった。
【0007】
[関連技術]
尚、複数のアンテナを用いた通信装置のキャリブレーションに関する従来技術としては、特開2001-185933号公報「適応アレーアンテナ送受信装置」(特許文献1)がある。
特許文献1には、アレーアンテナに接続される送信機と受信機を個別に校正可能とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の複数アンテナを備えた無線通信装置では、作業員の操作によってアンテナ経路間のレベル及び位相の調整を行っているため、作業が煩雑で人的要因によるバラつきが生じてしまうという問題点があった。
【0010】
尚、特許文献1には、複数のアンテナの内、特定のアンテナ経路に応じて最適な位相となる基準信号を特定し、その後、特定のアンテナ経路と最適な位相の基準信号とを用いて他のアンテナ経路の位相及びレベルの調整を行うことは記載されていない。
【0011】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、作業者の負荷を軽減し、容易且つ正確にアンテナ経路のキャリブレーションを行うことができる無線通信装置及びキャリブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、複数のアンテナを用いて通信を行う無線通信装置であって、特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、当該特定した位相の基準信号を用いて複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記無線通信装置において、特定のアンテナによる送信用の入力信号と基準信号を入力し、入力信号と基準信号の位相を90°と180°遅らせ、90°遅らせた基準信号と180°遅らせた入力信号を合成して出力する第1のポートと、90°遅らせた入力信号と180°遅らせた基準信号を合成して出力する第2のポートとを有する第1の位相制御回路と、第1のポートからの信号と第2のポートからの信号を入力して、各々90°位相を遅らせて合成出力する第3のポートと、第1のポートからの信号を270°位相を遅らせ、第2のポートからの信号を90°位相を遅らせて合成出力する第4のポートとを有する第2の位相制御回路と、第3のポートからの出力信号と第4のポートからの出力信号を合成する合成回路と、基準信号の位相を変化させ、合成回路で合成された信号の電力が最小となる基準信号の位相を特定して、当該特定した位相の基準信号を用いて複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行う制御部とを備えることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記無線通信装置において、特定のアンテナ以外の他のアンテナ経路について、特定された位相の基準信号に対して、他のアンテナ経路の送信用の入力信号の位相を調整して複数のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴としている。
【0015】
また、本発明は、上記無線通信装置において、特定された位相の基準信号を複数のアンテナで受信する信号の代わりに入力し、当該基準信号が受信アンテナ経路で出力される出力信号の位相と、当該アンテナによる送信用の入力信号の位相とを比較して受信アンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴としている。
【0016】
また、本発明は、複数のアンテナを用いて通信を行う場合のキャリブレーション方法であって、特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、当該特定した位相の基準信号を用いて複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数のアンテナを用いて通信を行う無線通信装置であって、特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、当該特定した位相の基準信号を用いて複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行う無線通信装置としているので、装置が単独でキャリブレーションを行うことができ、作業者の負荷を軽減すると共に、より正確に送信経路のキャリブレーションを行うことができる効果がある。
【0018】
また、本発明によれば、特定のアンテナ以外の他のアンテナ経路について、特定された位相の基準信号に対して、他のアンテナ経路の送信用の入力信号の位相を調整して複数のアンテナ経路でのキャリブレーションを行う上記無線通信装置としているので、複数のアンテナについて送信アンテナ経路のキャリブレーションを容易且つ正確に行うことができる効果がある。
【0019】
また、本発明によれば、特定された位相の基準信号を複数のアンテナで受信する信号の代わりに入力し、当該基準信号が受信アンテナ経路で出力される出力信号の位相と、当該アンテナによる送信用の入力信号の位相とを比較して受信アンテナ経路でのキャリブレーションを行う上記無線通信装置としているので、複数アンテナのそれぞれについて、容易に受信アンテナ経路のキャリブレーションを行うことができる効果がある。
【0020】
また、本発明によれば、複数のアンテナを用いて通信を行う場合のキャリブレーション方法であって、特定のアンテナによる送信用のアンテナ経路について、最適な位相及びレベルとなる基準信号を調整して特定し、当該特定した位相の基準信号を用いて複数のアンテナの送信用のアンテナ経路でのキャリブレーションを行うキャリブレーション方法としているので、装置が単独でキャリブレーションを行うことができ、作業者の負荷を軽減すると共に、より正確に送信経路のキャリブレーションを行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】運用時の90°ハイブリッド回路(1)(2)の入出力信号を示す説明図である。
【
図3】送信アンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
【
図4】ラットレース回路21の入出力信号(Aパターン)を示す説明図である。
【
図5】ラットレース回路21の入出力信号(Bパターン)を示す説明図である。
【
図6】ラットレース回路21の入出力信号(Cパターン)を示す説明図である。
【
図7】ラットレース回路21の入出力信号(Dパターン)を示す説明図である。
【
図8】他のアンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
【
図9】受信アンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線通信装置(本無線通信装置)は、複数のアンテナを用いて通信を行う無線通信装置であって、アンテナ経路でのキャリブレーションを行うキャリブレーション部を備えており、装置単独でのキャリブレーションを行って、1つの送信アンテナ経路について基準信号の位相が最適となるよう調整して特定し、その特定された基準信号を用いて他の送信アンテナ経路のキャリブレーションを行うものであり、作業者の負荷を軽減すると共により正確に送信アンテナ経路の位相及びレベルを調整することができるものである。
キャリブレーション部の構成については後述する。
また、本発明の実施の形態に係るキャリブレーション方法は、本無線通信装置におけるキャリブレーション方法である。
【0023】
具体的には、本無線通信装置は、キャリブレーション部において、90°ハイブリッド回路が、送信用の入力信号と基準信号を入力し、入力信号と基準信号の位相を90°及び180°遅らせ、第1のポートから90°遅らせた基準信号と180°遅らせた入力信号を合成して出力すると共に、第2のポートから90°遅らせた入力信号と180°遅らせた基準信号を合成して出力し、ラットレース回路が、第1のポートからの信号と第2のポートからの信号を入力して、各々90°位相を遅らせて第3のポートから合成出力すると共に、第1のポートからの信号を270°位相を遅らせ、第2のポートからの信号を90°位相を遅らせて第4のポートから合成出力し、合成回路が、ラットレース回路の第3のポートからの出力信号と第4のポートからの出力信号を合成し、演算機が、基準信号の位相を変化させ、合成回路で合成された信号の電力が最小となる基準信号の位相を特定して特定基準信号とし、当該特定基準信号を用いてアンテナ経路でのキャリブレーションを行う無線通信装置としている。
【0024】
[本無線通信装置の構成(通常運用時の状態):
図1]
本無線通信装置の構成について
図1を用いて説明する。
図1は、本無線通信装置の構成を示す説明図である。尚、
図1では、説明を簡単にするためにアンテナは1個のみを示しているが、実際には複数のアンテナを備えている。また、
図1の矢印は、通常運用における送信時の信号の流れを示している。
【0025】
図1に示すように、本無線通信装置は、送受信切替スイッチ11と、出力切替スイッチ12,13と、終端器14と、アンテナ15と、90°ハイブリッド回路(1)16と、90°ハイブリッド回路(2)17と、ラットレース回路21と、合成回路22と、基準信号切替スイッチ23と、演算機24と、記憶装置25と、n波長線路26とを備えている。
【0026】
送受信切替スイッチ11は、送信/受信を時分割で切り替えるスイッチである。
出力切替スイッチ12は、90°ハイブリッド回路(2)17のP4ポートからの出力先を切り替える。
出力切替スイッチ13は、90°ハイブリッド回路(2)17のP3ポートからの出力先を切り替える。
終端器14は、入力された信号を終端する。
【0027】
90°ハイブリッド回路(1)16,90°ハイブリッド回路(2)17は、2つの入力ポート(P1,P2)から入力された信号の位相をそれぞれ90°及び180°遅らせて合成し、2つの出力ポート(P3,P4)から出力する。
尚、90°ハイブリッド回路(1)16は、請求項に記載した第1の位相制御回路に相当している。また、90°ハイブリッド回路(1)16のP3ポートは、請求項に記載した第1のポートに相当し、90°ハイブリッド回路(1)16のP4ポートは、請求項に記載した第2のポートに相当している。
【0028】
また、90°ハイブリッド回路(1)16と、90°ハイブリッド回路(2)17と、ラットレース回路21と、合成回路22と、基準信号切替スイッチ23と、演算機24と、記憶装置25と、n波長線路26は、本無線通信装置の特徴部分であるキャリブレーション部を構成している。キャリブレーション部については後述する。
【0029】
そして、通常運用における送信時には、信号処理部からのTX信号(送信信号)が90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートに入力され、90°遅れた信号がP4ポートから出力され、180°遅れた信号がP3ポートから出力される。
90°ハイブリッド回路(1)16のP2ポートには、後述するようにキャリブレーション時に基準信号が入力されるが、運用時には入力されない。
【0030】
そして、90°ハイブリッド回路(1)16のP4からの出力は、90°ハイブリッド回路(2)17のP1ポートに入力され、90°ハイブリッド回路(1)16のP3からの出力は、90°ハイブリッド回路(2)17のP2ポートに入力され、それぞれ位相変換されて合成され、P4ポート及びP3ポートから出力される。
通常運用時には、アンテナ未接続のP4ポートでは逆相の合成となるため、TX信号は出力されず、P3ポートのみから出力されて、出力切替スイッチ13を介してアンテナ15から送信される。
【0031】
[通常運用時の90°ハイブリッド回路の入出力:
図2]
キャリブレーション部について説明する前に、通常運用時の90°ハイブリッド回路(1)16,90°ハイブリッド回路(2)17の入出力について、
図2を用いて説明する。
図2は、運用時の90°ハイブリッド回路(1)(2)の入出力信号を示す説明図である。
図2に示すように、90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートからTX信号(位相0°とする)が入力されると、P4ポートから90°遅れた信号が出力され、P3ポートから180°遅れた信号が出力される。尚、本明細書においては、各信号の位相をわかりやすく説明するため、円と矢印で示している。
そして、それぞれ90°ハイブリッド回路(2)17のP1ポート、P2ポートに入力される。
【0032】
90°ハイブリッド回路(2)17のP4ポートでは、P1ポートから入力された信号を更に90°遅らせて180°遅れとなった信号と、P2ポートから入力された信号を更に180°遅らせて0°となった信号とを合成するため、出力なしとなる。
【0033】
また、90°ハイブリッド回路(2)17のP3ポートでは、P2ポートから入力された信号を更に90°遅らせて270°遅れとなった信号と、P1ポートから入力された信号を更に180°遅らせて270°遅れとなった信号とを合成するため、大きなレベルの出力が得られる。
これにより、通常運用時には、アンテナ15が接続されたポートにTX信号が出力され、アンテナ15が接続されていないポートからの出力はない。
【0034】
[キャリブレーション部の構成:
図1]
次に、本無線通信装置の特徴部分となっているキャリブレーション部の構成について
図1を用いて説明する。
上述したように、キャリブレーション部は、上述した90°ハイブリッド回路(1)16,90°ハイブリッド回路(2)17に加え、ラットレース回路21と、合成回路22と、基準信号切替スイッチ23と、演算機24と、記憶装置25と、n波長線路26とを備えている。
【0035】
ラットレース回路(180°ハイブリッド回路)21は、90°ハイブリッド回路(1)16のP3ポートからの出力をP1ポートに入力し、90°ハイブリッド回路(1)16のP4ポートからの出力をP3ポートに入力して、それぞれ位相を所定量遅らせて合成し、P2ポート及びP4ポートから出力する。
ラットレース回路21は、請求項に記載した第2の位相制御回路に相当している。また、ラットレース回路21のP2ポートは、請求項に記載した第3のポートに相当し、ラットレース回路21のP4ポートは、請求項に記載した第4のポートに相当している。
【0036】
合成回路22は、ラットレース回路21のP2ポート及びP4ポートからの出力信号を入力して合成し、演算機24に出力する。
記憶装置25は、演算機24で起動される処理プログラムや各種データを記憶している。
n波長線路26は、所望信号周波数に応じたn×波長分の線路である。
【0037】
演算機24は、キャリブレーションの処理を行う制御部であり、キャリブレーションにおいて用いられる基準信号を生成し、まず任意のアンテナを選択して、当該アンテナからの送信信号(TX信号)に合わせて最適な基準信号の位相を特定する。位相が特定された基準信号を特定基準信号と称する。
そして、本無線通信装置では、特定基準信号が決まると、他のアンテナについて送信経路のキャリブレーションを行い、その後、送信経路の位相に合わせるよう、受信経路のキャリブレーションを行う。
【0038】
具体的な動作は後述するが、演算機24は、合成回路22から入力される合成信号のレベルをモニタし、当該合成信号のレベルが最小となるよう、基準信号の位相を調整し、特定基準信号とする。尚、後述するように、演算機24には、合成前のラットレース回路21のP2ポート及びP4ポートの出力も入力される。
【0039】
また、演算機24は、特定基準信号及び特定基準信号を求める際に用いたアンテナ経路のTX信号を用いて、他のアンテナ経路のTX信号の位相を調整する。演算機24は、合成回路22から入力される合成信号のレベルをモニタし、当該合成信号のレベルが最大となるよう、他のアンテナ経路のTX信号の位相を調整する。
演算機24は、請求項に記載した制御部に相当する。
【0040】
基準信号切替スイッチ23は、基準信号の出力先を90°ハイブリッド回路(1)16のP2ポート又はn波長線路26に切り替える。
基準信号切替スイッチ23は、基準信号の最適な位相を特定する際、及びアンテナ15のTX信号の位相を調整する際には、90°ハイブリッド回路(1)16のP2ポート側に切り替えられ、アンテナ15の受信経路の位相の調整を行う際には、n波長線路26側に切り替えられる。
【0041】
[送信アンテナ経路のキャリブレーション:
図3]
次に、送信時のアンテナ経路のキャリブレーションについて
図3を用いて説明する。
図3は、送信アンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
図3に示すように、基準信号切替スイッチ23を90°ハイブリッド回路(1)16のP2ポート側に切り替え、出力切替スイッチ13を終端器14側に切り替えた状態でキャリブレーションを行う。
【0042】
上述したように、本無線通信装置では、まず任意の単一のアンテナに合わせて基準信号の最適な位相を特定し、特定基準信号とする。そして、当該特定基準信号を用いて、他のアンテナ経路のキャリブレーションを行う。
【0043】
特定基準信号を求める際の動作について説明する。
任意のアンテナ15から送信されるTX信号は、送受信切替信号11を介して90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートに入力される。アンテナ15は、請求項に記載した特定のアンテナに相当する。
また、演算機24からの基準信号は、基準信号切替スイッチ23を介して90°ハイブリッド回路(1)16のP2ポートに入力される。
【0044】
そして、90°ハイブリッド回路(1)16において、TX信号及び基準信号が位相制御されて合成され、P3ポート及びP4ポートから出力される。
具体的には、位相が180°遅れたTX信号と90°遅れた基準信号とが合成されてP3ポートから出力され、90°遅れたTX信号と180°遅れた基準信号とが合成されてP4ポートから出力される。
【0045】
そして、90°ハイブリッド回路(1)16のP3ポートからの出力信号は、ラットレース回路21のP1ポートに入力され、90°ハイブリッド回路(1)16のP4ポートからの出力信号は、ラットレース回路21のP3ポートに入力される。
【0046】
そして、ラットレース回路21において、入力信号がそれぞれ位相制御されて合成され、P2ポート及びP4から出力される。ラットレース回路21における入出力信号については後述する。
【0047】
ラットレース回路21のP2ポート及びP4ポートからの出力信号は、合成回路22に入力されて合成され、演算機24に入力される。
演算機24では、合成回路22からの合成信号のレベルが最小となるように、基準信号の位相を調整する。
その際、演算機24は、合成前のラットレース回路21の出力信号(P2ポート、P4ポート)を入力し、これらも参照しつつ基準信号の位相を調整する。これにより、位相の調整方向(回転方向)を判断でき、迅速に基準信号の位相を最適化することができるものである。
【0048】
位相が最適化された基準信号が、特定基準信号となる。
また、特定基準信号を求める際に用いたアンテナ経路(ここではアンテナ15)のTX信号のレベル及び位相は、特定基準信号に同期するよう調整されていることになる。特定基準信号を求める際に用いたアンテナ経路を、「調整されたアンテナ経路」と称するものとする。
【0049】
このように、本無線通信装置では、装置が単独でキャリブレーションを行うことができ、作業者による操作を不要として、作業者の負荷を軽減すると共に、人的要因によるバラつきを防ぎ、より正確且つ高精度の調整を行うことができるものである。
【0050】
また、本無線通信装置では、演算機24が合成回路22からの合成信号のレベルを監視して、当該レベルに基づいて基準信号の位相を調整しているので、複雑な演算処理を不要とし、簡易な処理で迅速に調整可能としている。
【0051】
そして、この後、本無線通信装置では、特定基準信号及び調整されたアンテナ経路からのTX信号を用いて、他のアンテナ経路のキャリブレーションを行う。他のアンテナ経路の調整においても、同一の特定基準信号を用いることで、複数のアンテナ経路が全て同じレベル及び位相となるものである。
【0052】
[ラットレース回路21の入出力:
図4~
図7]
ここで、特定基準信号を求める際のラットレース回路21の入出力信号について
図4を用いて説明する。
図4は、特定基準信号を求める際のラットレース回路21の入出力信号(Aパターン)を示す説明図であり、
図5は、特定基準信号を求める際のラットレース回路21の入出力(Bパターン)信号を示す説明図であり、
図6は、特定基準信号を求める際のラットレース回路21の入出力信号(Cパターン)を示す説明図であり、
図7は、特定基準信号を求める際のラットレース回路21の入出力信号(Dパターン)を示す説明図である。
【0053】
図4~
図7では、任意のアンテナ経路のTX信号を固定として90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートに入力し、基準信号の位相を変化させてP2ポートに入力した場合の代表例を示している。
図4に示すAパターンでは、TX信号(位相0°)に対して、基準信号の位相は90°遅れ(以下、単に90°とする)であり、P3ポートでは180°遅れたTX信号と90°遅れた基準信号が同相となって合成される。P4ポートでは、90°遅れたTX信号と180°遅れた基準信号が逆相となって合成され、出力なしとなる。そのため、ラットレース回路21のP3ポートへの入力もない。
【0054】
そして、90°ハイブリッド回路(1)16のP3ポートからの出力信号は、ラットレース回路21のP1ポートに入力され、90°遅れてP2ポートから出力され、270°遅れてP4ポートから出力され、それぞれ合成回路22に入力されて合成される。
図4に示すように、ラットレース回路21のP2ポートからの出力は270°で-6dB、P4ポートからの出力は90°で-6dBとなって、合成回路22から出力される合成信号のレベルは最小となる。
【0055】
図5に示すBパターンでは、TX信号の位相0°に対して、基準信号の位相を180°としている。この場合、90°ハイブリッド回路(1)16で合成されて、ラットレース回路21のP1ポートには225°の信号が入力され、P3ポートには45°の信号が入力される。
そして、ラットレース回路21のP2ポートからの出力はなし、P4ポートからの出力は135°で-6dBとなり、合成回路22からの合成信号のレベルは-6dBとなる。
【0056】
図6に示すCパターンでは、基準信号の位相を270°としており、ラットレース回路21のP2ポートからの出力は、180°で-6dB、P4ポートからの出力も180°で-6dBとなり、合成回路22からの合成信号のレベルは-3dBとなる。
【0057】
また、
図7に示すDパターンでは、基準信号の位相をTX信号と同じ0°としており、ラットレース回路21のP2ポートからの出力は、225°で-6dB、P4ポートからの出力なしとなり、合成回路22からの合成信号のレベルは-6dBとなる。
つまり、
図4~
図7に示したように、基準信号の位相がTX信号に対して90°遅れの場合(
図4、Aパターン)に、合成回路22からの合成信号のレベルが最小となり、演算機24は、当該基準信号を特定基準信号とする。
【0058】
[他のアンテナ経路のキャリブレーション:
図8]
次に、特定基準信号を求める際に使用されたアンテナ経路(調整されたアンテナ経路)以外のアンテナ経路について、キャリブレーションを行う場合の動作について
図8を用いて説明する。
図8は、他のアンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
図8に示すように、他のアンテナ40の送信信号のアンテナ経路のキャリブレーションを行う場合、合成用アンテナ切替スイッチ41と、他のアンテナに対応する90°ハイブリッド回路(1)42及び90°ハイブリッド回路(2)43とを備えたものとなる。
【0059】
合成用アンテナ切替スイッチ41は、キャリブレーションを行うアンテナのTX信号を切り替えてラットレース回路21のP3ポートに入力させるスイッチである。
ここでは、他のアンテナとしてアンテナ40のみを示しており、アンテナ40の経路をラットレース回路21に接続するが、より多くのアンテナを備えている場合には、それらを順次切り替えて接続するスイッチとする。
【0060】
そして、特定基準信号と調整されたアンテナ経路のTX信号とを用いて、他のアンテナ40のキャリブレーションを行う。
図8に示すように、90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートから調整されたアンテナ経路のTX信号(位相0°)が入力され、P2ポートから特定基準信号(位相90°)が入力されると、P3ポートは無信号、P4ポートからは位相180°の合成信号が出力される。
P4ポートからの出力は、ラットレース回路21のP1ポートに入力される。
【0061】
一方、アンテナ40の経路では、90°ハイブリッド回路(1)42のP1ポートに位相0°のTX信号が入力されて、P3ポートから位相180°のTX信号が出力され、合成用アンテナ切替スイッチ41を介してラットレース回路21のP3ポートに入力される。
【0062】
そして、理想的には、ラットレース回路21のP2ポートからは、P1ポート及びP4ポートの入力がいずれも位相270°で合成されて最大となり、P4ポートでは90°と270°で合成されて無信号となって、合成回路22に入力される。
ここで、アンテナ40のTX信号の位相が調整されたアンテナ15のTX信号の位相とずれていると、P2ポートの出力は、理想的なレベルよりも低下したレベルとなる。
【0063】
合成回路22は、ラットレース回路21のP2ポート及びP4ポートの出力を合成して、合成信号を演算機24に出力する。
そして、演算機24は、合成信号のレベルが最大となるように、アンテナ40のTX信号の位相及びレベルを調整する。
これにより、アンテナ40の経路は、調整されたアンテナ15の経路と位相及びレベルが一致したものとなる。
【0064】
更に、より多くのアンテナ経路がある場合にも同様にして調整を行うことで、簡易的に複数アンテナのキャリブレーションを行うことができるものである。
これにより、本無線通信装置では、作業者による位相調整で発生していた人為的なバラつきを防ぎ、迅速かつ正確にキャリブレーションを行うことができるものである。
【0065】
[受信アンテナ経路のキャリブレーション:
図9]
次に、受信アンテナ経路のキャリブレーションについて、
図9を用いて説明する。
図9は、受信アンテナ経路のキャリブレーションを示す説明図である。
図9に示すように、受信アンテナ経路のキャリブレーションでは、基準信号切替スイッチ23をn波長線路26側に切り替えて、演算機24からの特定基準信号をn波長線路26に入力して、アンテナ15側からの疑似的な受信信号として用いる。
【0066】
n波長線路26から出力された特定基準信号は、出力切替スイッチ13を介して90°ハイブリッド回路(2)17のP3ポートに入力され、位相制御されて、P1ポート及びP3ポートから出力されて90°ハイブリッド回路(1)16のP3ポート及びP4ポートに入力される。
【0067】
演算機24は、90°ハイブリッド回路(1)16のP1ポートから出力される信号(RX信号/疑似的受信信号)の位相及びレベルを、TX信号の位相及びレベルと比較し、一致しているかどうかを確認する。
正常であれば、受信アンテナ経路は送信アンテナ経路と一致する。
一致しない場合には、アンテナの位置や角度がずれる等によって特定基準信号が最適でなくなったことが考えられるため、再度特定基準信号を求めなおして、送信アンテナ経路のキャリブレーションからやり直す。
【0068】
更に、本無線通信装置では、他のアンテナ40の受信アンテナ経路についても同様にキャリブレーションを行う。
具体的には、n波長線路26から出力された特定基準信号を、他のアンテナ40の出力切替スイッチに接続し、出力切替スイッチを90°ハイブリッド回路(2)43側に切り替える。
そして、演算機24は、90°ハイブリッド回路(1)から出力されるアンテナ40の受信経路による疑似的受信信号と、アンテナ40のTX信号の位相及びレベルと一致しているかどうかを確認する。
このようにして、複数アンテナについて受信経路のキャリブレーションを行うことができるものである。
【0069】
[実施の形態の効果]
本無線通信装置によれば、90°ハイブリッド回路(1)16が、送信用の入力信号と基準信号を入力し、入力信号と基準信号の位相を90°及び180°遅らせ、第1のポート(P3ポート)から90°遅らせた基準信号と180°遅らせた入力信号を合成して出力すると共に、第2のポート(P4ポート)から90°遅らせた入力信号と180°遅らせた基準信号を合成して出力し、ラットレース回路21が、90°ハイブリッド回路(1)16の第1のポートからの信号と第2のポートからの信号を入力して、各々90°位相を遅らせて第3のポート(P2ポート)から合成出力すると共に、第1のポートからの信号を270°位相を遅らせ、第2のポートからの信号を90°位相を遅らせて第4のポート(P4ポート)から合成出力し、合成回路22が、ラットレース回路21の第3のポートからの出力信号と第4のポートからの出力信号を合成し、演算機24が、基準信号の位相を変化させ、合成回路22で合成された信号の電力が最小となる基準信号の位相を特定して特定基準信号とし、当該特定基準信号を用いてアンテナ経路でのキャリブレーションを行う無線通信装置としているので、装置単独でのキャリブレーションを可能とし、作業者の負荷を軽減すると共に、人的要因によるバラつきをなくして、より正確に調整できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、作業者の負荷を軽減し、容易且つ正確にアンテナ経路のキャリブレーションを行うことができる無線通信装置に適している。
【符号の説明】
【0071】
11…送受信切替スイッチ、 12,13…出力切替スイッチ、 14…終端器、 15,40…アンテナ、 16,42…90°ハイブリッド回路(1)、 17,43…90°ハイブリッド回路(2)、 21…ラットレース回路、 22…合成回路、 23…基準信号切替スイッチ、 24…演算機、 25…記憶装置、 26…n波長線路、 41…合成用アンテナ切替スイッチ