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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142557
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】光源装置および光測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/10 20060101AFI20230928BHJP
   G01J 3/18 20060101ALI20230928BHJP
   G01J 3/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01J3/10
G01J3/18
G01J3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049510
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】赤井 伸伍
(72)【発明者】
【氏名】世良 英之
(72)【発明者】
【氏名】植月 一雅
【テーマコード(参考)】
2G020
【Fターム(参考)】
2G020AA03
2G020CC01
2G020CC02
2G020CC13
2G020CD03
(57)【要約】
【課題】カプラとしてAWGを用いた光源装置で生ずる問題の少なくともひとつを解決する。
【解決手段】光源装置200Aは、波長掃引光L1を発生する。パルス光源210は、広帯域パルス光L1aを生成する。分割器220は、広帯域パルス光L1aを、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割光L1cを出射する。ファイバ230_1~230_nは、複数の分割光L1cに異なる遅延を与える。カプラ250Aは、分散素子252を含み、複数のファイバ230_1~230_nから出力される光を合波して出射する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長掃引光を発生する光源装置であって、
パルス光を生成するパルス光源と、
前記パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割光を出射する分割器と、
前記複数の分割光に異なる遅延を与える複数のファイバと、
分散素子を含み、前記複数のファイバから出力される光を合波して出射するカプラと、
を備えることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記カプラは、
前記分散素子に加えて、前記複数のファイバから出射される複数の光をコリメートし、前記分散素子に、波長に応じた異なる入射角で入射させる光学系をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記分散素子は、回折格子であることを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記分散素子は、プリズムであることを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項5】
前記光学系は、ケーラーレンズ系であることを特徴とする請求項2に記載の光源装置。
【請求項6】
前記カプラは、前記分散素子の出射光を受け、前記分散素子の波長分散方向にパワーを有するシリンドリカルレンズをさらに含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光源装置。
【請求項7】
波長掃引光を発生する請求項1から6のいずれかに記載の光源装置と、
前記波長掃引光を対象物に照射して得られる物体光を測定する受光装置と、
を備えることを特徴とする光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光源装置および光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の成分分析や検査に分光解析が広く用いられる。分光解析では、照射光を対象物に照射し、照射の結果得られる物体光のスペクトルが測定される。そして、物体光のスペクトルと照射光のスペクトルの関係にもとづいて、反射特性(波長依存性)あるいは透過特性などの光学的特性を得ることができる。
【0003】
光学特性の測定手法のひとつとして、波長掃引型の分光法が知られている。波長掃引型の分光器は、波長が経時的に変化する波長掃引光を生成し、検査対象に照射する。波長掃引光は、時間と波長が1対1の関係にあるパルスあるいはパルス列である。そして波長掃引光を検査対象に照射して得られる光の時間波形を受光器によって検出する。受光器の出力波形は、時間軸が波長に対応するスペクトルを表す。
【0004】
特許文献1には、波長掃引型の分光法の分光測定装置用の光源装置が開示される。図1は、従来の光源装置200Rを説明する図である。この光源装置200Rは、パルス光源210、分割器220、複数n個(n≧2)のファイバ230_1~230_n、カプラ240を備える。分割器220は、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)222を含み、パルス光源210からのパルス光を、波長に応じて複数n個に分割する。複数n個のファイバ230_1~230_nは、分割器220により分割されたn個の光に、異なる遅延を与える。カプラ240は、複数n本のファイバ230_1~230_nから出射する光を、同一の照射領域に照射されるように空間的に重ね合わる。特許文献1において、分割器220はAWG222を含んで構成される。また、カプラ240の構成例のひとつとして、分割器220と同様に、AWG242を含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-159973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、図1の光源装置200Rについて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
【0007】
図2は、AWG222,242の透過率ηを示す図である。図2には、AWG222,242上に形成される複数の導波路のうち、中心波長が1092nmである分割波長帯域に対応するひとつの導波路の透過率ηが示される。一導波路に対応するAWGの透過率ηは、中心波長において最大となり(ここでは規格化して1としている)、中心波長から離れるにしたがって低下する。ここでは透過率ηはガウシアン分布にしたがうものとする。
【0008】
図1の光源装置200Rでは、ある分割波長帯域の光は、分割器220側のAWG222と、カプラ240側のAWG242を通過する。ここで、分割器220側のAWG222のピーク波長と、カプラ240側のAWG242のピーク波長にずれがあると、トータルの透過率が著しく低下する。そのため、分割器220側のAWG222のピーク波長と、カプラ240側のAWG242のピーク波長は、高い精度で一致させる必要がある。これは高コスト化の要因となる。
【0009】
また、2つのAWGのピークをうまく一致させた場合においても、2つのAWGのトータルの通過率はηで表される。そのためカプラによる合波後の光(η)のエネルギー、すなわち面積は、合波前の光(η)のエネルギー(面積)に比べて72%に低下する。
【0010】
また、ある分割波長帯域の光が2度、AWGを通過することにより、波長幅が狭くなる。パルス光源210の出射光は、広帯域な連続スペクトルを有するが、AWGの分割波長帯域ごとの波長幅が狭くなると、光源装置200Rの出射光が離散スペクトルをもつこととなる。光源装置200Rの出射光が離散スペクトルとなると、対象物に照射されない波長が存在すること、言い換えると測定できない波長が存在することとなり、分光器としての性能が低下する。
【0011】
さらに、ファイバからカプラ側のAWGの接続損失や、AWG上の折れ曲がった導波路の導波損失によって、ひとつの分割波長帯域の最大透過率ηは実際には1よりも小さくなる。これにより、光源装置200Rの効率を低下させる要因となる。
【0012】
なお、この問題を当業者の一般的な認識として捉えてはならず、本発明者らが独自に認識したものである。
【0013】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、カプラとしてAWGを用いた光源装置で生ずる問題の少なくともひとつを解決可能な光源装置およびそれを用いた光測定装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のある態様は、波長掃引光を発生する光源装置に関する。光源装置は、パルス光を生成するパルス光源と、パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割光を出射する分割器と、複数の分割光に異なる遅延を与える複数のファイバと、分散素子を含み、複数のファイバから出力される光を合波して出射するカプラと、を備える。
【0015】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本開示のある態様によれば、カプラとしてAWGを用いた光源装置で生ずる問題の少なくともひとつを解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来の光源装置を説明する図である。
図2】AWGの透過率ηを示す図である。
図3】実施形態に係る光測定装置の基本構成を示すブロック図である。
図4】波長掃引光を示す図である。
図5図3の光測定装置による分光を説明する図である。
図6】実施形態1に係る光源装置を示す図である。
図7】回折格子(分散素子)を利用したカプラの効率を示す図である。
図8】AWGを利用した従来のカプラの効率を示す図である。
図9】カプラの具体的な構成例を示す図である。
図10図10(a)、(b)は、シリンドリカルレンズがない場合とある場合の波長掃引光のビームプロファイルを示す図である。
図11】光ファイバアレイの平面図である。
図12】光ファイバアレイの分解斜視図である。
図13】実施形態2に係る光源装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0019】
一実施形態に係る光源装置は、波長掃引光を発生する。光源装置は、パルス光を生成するパルス光源と、パルス光を、波長に応じて空間的に分割し、複数の分割光を出射する分割器と、複数の分割光に異なる遅延を与える複数のファイバと、分散素子を含み、複数のファイバから出力される光を合波して出射するカプラと、を備える。
【0020】
上記構成によれば以下の効果の少なくともひとつの利点を享受できる。
・カプラにAWGを使用しないため、分割器のAWGとカプラのAWGで必要であった入念な部品選定が不要となる。
・カプラにAWGを使用しないため、波長幅の狭小化を防止できる。波長掃引光を分光に利用する場合、測定できない波長域を減らすことができるため、測定精度を改善できる。
・カプラにAWGを用いる場合、ファイバとAWGの結合損失や、AWGにおける導波損失が無視できないが、分散素子ではこのような損失が原理的に生じないため、効率を改善できる。
【0021】
本明細書において、分散素子とは、空間的に波長分散を起こす光学素子である。分散素子には、光の干渉性により色分散を起こす回折格子や、屈折率の波長依存性による色分散を利用したプリズムが含まれるが、AWGは含まれない。
【0022】
一実施形態において、カプラは、分散素子に加えて、複数のファイバから出射される複数の光をコリメートし、分散素子に、波長に応じた異なる入射角で入射させる光学系をさらに含んでもよい。
【0023】
一実施形態において、複数のファイバの出射端から放射される複数の光束の主光線は平行であってもよい。
【0024】
一実施形態において、分散素子は、回折格子であってもよい。回折格子は透過型であってもよいし、反射型であってもよい。一実施形態において分散素子は、プリズムであってもよい。
【0025】
一実施形態において、光学系は、ケーラーレンズ系であってもよい。
【0026】
一実施形態において、カプラは、分散素子の出射光を受け、分散素子の波長分散方向にパワーを有するシリンドリカルレンズをさらに含んでもよい。これにより、カプラから出射される波長掃引光のビームの広がりを抑制できる。
【0027】
一実施形態に係る光測定装置は、対象物に波長掃引光を発生する光源装置と、波長掃引光を対象物に照射して得られる物体光を測定する受光装置と、を備えてもよい。
【0028】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0030】
図3は、実施形態に係る光測定装置100の基本構成を示すブロック図である。光測定装置100は、対象物OBJのスペクトルを測定する波長掃引型の分光器であり、主として光源装置200、受光装置300、演算処理装置400を備える。いくつかの図において、光源装置200や受光装置300などを簡略化して箱で示す場合があるが、これは、それぞれを構成する部材が、単一の筐体に収容されることを意図したものではない。
【0031】
光源装置200は、対象物OBJに対して、波長が経時的に変化する波長掃引光L1を照射する。波長掃引光L1は、時間と波長が一対一の関係で対応付けられる。これを波長掃引光L1は「波長の一意性を有する」という。
【0032】
図4は、波長掃引光L1を示す図である。図4の上段は、波長掃引光L1の強度(時間波形)IWS(t)を、下段は波長掃引光L1の波長λの時間変化を示す。この例において、波長掃引光L1は1個のパルス光であり、その前縁部において主波長がλ、後縁部において主波長がλであり、1パルス内で波長がλからλの間で経時的に変化する。この例では、波長掃引光L1は、時間とともに振動数が増加する、言い換えると時間とともに波長が短くなる正のチャープパルス(λ>λ)である。なお、波長掃引光L1は、時間とともに波長が長くなる負のチャープパルスであってもよい(λ<λ)。後述するように、波長掃引光L1は、パルス列であってもよい。
【0033】
図3に戻る。受光装置300は、波長掃引光L1を物体OBJに照射した結果得られる光(物体光)L2を受光する。物体光L2は、反射光であってもよいし、透過光であってもよい。受光装置300は、フォトダイオードなどの光センサ302,304と、A/Dコンバータ310、光学系(不図示)などを含む。物体光L2は、光センサ302によって検出される。光源装置200が生成する波長掃引光L1の一部分は、ビームスプリッタなどの光学素子を利用して別経路に参照光L3として取り出され、光センサ304によって検出される。
【0034】
A/Dコンバータ310は、光センサ302,304それぞれの出力信号S2,S3をデジタル信号D2,D3に変換する。デジタル信号D2が示す物体光L2の時間波形IOBJ(t)およびデジタル信号D3が示す参照光L3の時間波形IREF(t)は、演算処理装置400に取り込まれる。
【0035】
波長掃引型の分光法では、波長掃引光L1における時刻と波長は1対1の対応関係を有する。この対応関係は、当然ながら参照光L3も有しており、また物体光L2にも引き継がれる。この時間と波長の対応関係を利用して、演算処理装置400は、物体光L2の時間波形IOBJ(t)を、周波数ドメインのスペクトルIOBJ(λ)に変換する。また演算処理装置400は、参照光L3の時間波形IREF(t)を、スペクトルに変換し、適切にスケーリングすることで、参照スペクトルIREF(λ)を計算する。
【0036】
演算処理装置400の処理は特に限定されないが、一例として演算処理装置400は、参照スペクトルIREF(λ)と物体光L2のスペクトルIOBJ(λ)にもとづいて、対象物OBJの透過率T(λ)を計算することができる。反射率R(λ)についても同様である。
T(λ)=IOBJ(λ)/IREF(λ)
R(λ)=IOBJ(λ)/IREF(λ)
【0037】
なお、波長掃引光L1の安定性が高い場合には、予め波長掃引光L1のスペクトルを測定しておき、参照スペクトルIREF(λ)として用いてもよい。
【0038】
図5は、図3の光測定装置100による分光を説明する図である。上述のように、波長掃引光L1は、時間tと波長λが1対1で対応しているから、その時間波形IREF(t)は、周波数ドメインのスペクトルIREF(λ)に変換することができる。
【0039】
物体光L2の時間波形IOBJ(t)も、時間tと波長λが1対1で対応したものとなる。したがって演算処理装置400は、受光装置300の出力が示す物体光L2の波形IOBJ(t)を、物体光L2のスペクトルIOBJ(λ)に変換することができる。
【0040】
演算処理装置400は、2つのスペクトルIOBJ(λ)とIREF(λ)の比IOBJ(λ)/IREF(λ)にもとづいて、対象物OBJの透過スペクトルT(λ)を計算することができる。
【0041】
波長掃引光L1における時間tの波長λの関係が、λ=f(t)なる関数で表されるとする。最も簡易には、波長λは、時間tに対して、一次関数にしたがってリニアに変化する。物体光L2の時間波形IOBJ(t)が、ある時刻tにおいて低下するとき、透過スペクトルT(λ)は、波長λ=f(t)に吸収スペクトルを有することを意味する。
【0042】
なお、演算処理装置400における処理はこれに限定されない。時間の2つの時間波形IOBJ(t)とIREF(t)の比T(t)=IOBJ(t)/IREF(t)を演算した後に、この時間波形T(t)の変数tをλに変換することで、透過スペクトルT(λ)を算出してもよい。
【0043】
以上が光測定装置100の基本構成および動作である。続いて、光源装置200の構成を説明する。
【0044】
(実施形態1)
図6は、実施形態1に係る光源装置200Aを示す図である。光源装置200Aは、パルス光源210、分割器220、複数n本(n≧2)のファイバ230_1~230_n(ファイバ群230と総称する)、カプラ250Aを備える。
【0045】
パルス光源210は、広帯域な連続スペクトルを有する広帯域パルス光L1aを出射する。広帯域パルス光L1aのスペクトルは、たとえば900nm~1300nmの範囲において、少なくとも10nm、好ましくは50nm、より好ましくは100nmの波長域にわたって連続している。広帯域パルス光L1aの波長域の幅は、分光に必要な波長域をカバーしていればよい。
【0046】
たとえばパルス光源210は、超短パルスレーザと、非線形素子を含みうる。超短パルスレーザとしては、ゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等が例示される。
【0047】
非線形素子は、非線形現象によって、超短パルスレーザが生成する超短パルスのスペクトル幅をさらに広げる。非線形素子としてはファイバが好適であり、たとえば、フォトニッククリスタルファイバやその他の非線形ファイバを用いることができる。ファイバのモードとしてはシングルモードの場合が好適であるが、マルチモードであっても十分な非線形性を示すものであれば、使用することができる。
【0048】
パルス光源210として、SLD(Superluminescent Diode)光源のような他の広帯域パルス光源を使用してもよい。
【0049】
非線形素子から出力される広帯域パルス光L1aは、フェムト秒~ナノ秒オーダーのパルス幅を有する。分割器220、ファイバ群230およびカプラ250Aは、広帯域パルス光L1aを受け、波長掃引光L1に変換する。
【0050】
分割器220は、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)222およびレンズ224を含む。レンズ224は、パルス光源210が出射する広帯域パルス光L1aを、AWG222の入射端に集光する。
【0051】
AWG222は、広帯域パルス光L1aを、波長に応じて、空間的に複数n個の光(分割光と称する)L1b~L1bに分割して出力する。分割数(チャンネル数)nは、ファイバ230の本数と等しい。チャンネル数nは、たとえば4,8,16,32,64,128などでありうる。i番目(1≦i≦n)の光の分割光の波長λと表記する。なお、分割光L1b~L1bはそれぞれ、単一スペクトルではなく、ある波長幅を有しているから、λは、単一波長ではなく、L1bが有する波長帯域を便宜的に表すものとして使用し、場合によっては、波長帯域の中心波長を表すものとして使用する。
【0052】
AWG222から出力される分割光L1b~L1bは、ファイバ群230_1~230_nに導く。具体的には、i番目の分割光L1bは、対応するファイバ230_iの入射端に結合している。
【0053】
分割前の広帯域パルス光L1aが、時間とともに周波数が上昇する(波長が短くなる)正のチャープパルス(アップチャープパルス)であるとする。つまりパルスの前縁部に最長波長λの成分が含まれ、パルスの後縁部に最短波長λの成分が含まれている。
【0054】
複数のファイバ230_1~230_nは、異なる長さl~lを有している。λが最長波長、λが最短波長であるとすると、波長掃引光L1を、広帯域パルス光L1aと同じ正のチャープパルスとするためには、1<l<…<lの関係を満たしていればよい。一例として、n=20の場合、ファイバ230の長さl~lは、1m~20mまで、1m刻みで増加してもよい。
【0055】
ファイバ230_1~230_nは、波長毎に異なる群遅延特性を有する必要はなく、同一のファイバ(同一のコア/クラッド材料のファイバ)を使用することができる。この意味で、ファイバ230は、マルチモードファイバを使用することが可能であり、この場合、意図しない非線形光学効果を防止することができる点において有利である。
【0056】
カプラ250Aは、ファイバ群230によって異なる遅延が付与された複数の分割光L1c~L1cを空間的に重ね合わせて出射する。図1の光源装置200Rでは、カプラ240にAWGを用いていたが、本実施形態では、AWGに代えて、分散素子252を利用する。
【0057】
カプラ250Aは、分散素子252である回折格子254と、光学系256Aを備える。本実施形態では、透過型の回折格子254として示すが、反射型の回折格子を用いてもよい。
【0058】
回折格子254に入射する光の波長をλ、入射角をα、回折角をβ、回折次数をm、回折格子の周期をdとするとき、以下の式が成り立つ。
d(sinα-sinβ)=mλ …(1)
【0059】
i番目の分割光L1cについては、以下の式が成り立つ。
d(sinα-sinβ)=mλ …(2)
【0060】
すべての分割光L1c~L1cの回折角β~βが等しいとき、空間的に重なって出力される。そのときの回折角をβとする。波長λの分割光L1cの入射角αは、以下の式を満たしていればよい。
α=arcsin(sinβ+mλ/d) …(3)
【0061】
回折次数は、最も回折効率が最も高いものを選べばよく、たとえばm=1である。
【0062】
ファイバ230_1~230_nそれぞれの出射端は、点光源とみなすことができ、各出射端から放射される分割光L1c~L1cは、拡散光(球面波)である。光学系256Aは、分割光L1c~L1cそれぞれをコリメートして、式(3)を満たす入射角α~αで分散素子252である回折格子254に導く。
【0063】
これにより、回折格子254は、複数の分割光L1c~L1cを同じ方向に出射する。回折格子254から出射される複数の分割光L1c~L1cは空間的にオーバーラップしており、波長掃引光L1として物体に照射される。
【0064】
以上が光源装置200Aの構成である。続いてその利点を説明する。
【0065】
図7は、回折格子254(分散素子252)を利用したカプラ250Aの効率を示す図である。図7の下段は、上段の波長1090nm~1110nmの一部を拡大したものであり、20nmにわたり効率がフラットである。
【0066】
図8は、AWGを利用した従来のカプラ240の効率を示す図である。上述したように、AWGの透過率は図2に示すようにガウシアン分布を有するため、カプラ240全体の透過率は、櫛型(離散的)となる。これに対して、回折格子254を利用したカプラ250Aは、図7に示すように、広い波長帯域にわたり連続している。
【0067】
従来のカプラ240を利用する場合、分割器220とカプラ240との間で、各波長帯のピーク波長を一致させる必要がある。つまり、分割器220のAWGとカプラ240のAWGが、同じ特性を持つものとなるように、入念に選定しなければならず、設計が難しくなり、またコストアップの要因となる。これに対して、本実施形態に係るカプラ250Aは、フラットな効率を有するため、分割器220で使用するAWG222の制約がなくなる。したがって部品選定の選択肢が広がり、コストを下げることが可能となる。
【0068】
従来のカプラ240では、AWGを2回透過する。図2に示したように、分割器220のAWGを透過した合波前のスペクトルηはガウシアン分布を有する。後段のカプラ240のAWGによって、さらにガウシアン分布の効率ηが乗算され、合波後のスペクトルηは、合波前のガウシアン分布ηに比べて狭くなる。
【0069】
分光測定において、波長幅が狭くなると、波長のピークとピークの間に深い谷間ができる。この深い谷間は、即ち、その波長の光の強度が著しく低いことを示す。そのため、測定対象物には、900nm~1300nmの測定波長範囲の中から、離散的な波長の光しか入射しない(谷間の波長の光は入射しない)ことになる。つまり、谷間の波長の情報を得ることができないので、測定結果として得られる情報が少なくなり、測定精度が低下する。
【0070】
これに対して、本実施形態に係るカプラ250Aは、波長依存性をもたないフラットな効率を有している。つまりカプラ250Aを通過することによるスペクトルの狭小化は発生せず、ガウシアン分布ηが維持される。したがって、ピークとピークの中間の強度が比較技術に比べて大きくなり、分光に必要な光強度を維持できる。これにより、従来技術に比べて測定精度を改善できる。
【0071】
さらに従来技術では、カプラ240において、合波後の光のエネルギーは合波前の光のエネルギーに比べて、約72%に低下する。これは、上述したAWGの効率の要因のほか、ファイバからAWGへの接続損失、導波路内の伝搬損失と曲げ損失などが要因となっている。これに対して、本実施形態では、図7に示すように、カプラ250Aは、波長1100nmの近傍では、90%を超える効率を有しているため、カプラ240に比べて高効率な合波が可能となる。
【0072】
続いて、光源装置200Aの構成要素の具体的な構成について説明する。
【0073】
図9は、カプラ250Aの具体的な構成例を示す図である。上述のように、ファイバ群230から出射する分割光L1c~L1cはそれぞれ、拡散光である。ファイバ230_1~230_nは、出射端において平行であり、したがって分割光L1c~L1cの光束の主光線は平行であるとする。この場合、光学系256Aは、ケーラーレンズ系(ケーラー照明系)で構成することができる。たとえば光学系256Aは、4枚のレンズを含む。各ファイバ230_1~230_nの出射端の光学系256Aに対する相対的な位置は、回折格子254に対する入射角α~αが式(3)を満たすように設計される。なお光学系256Aの構成は、図9のそれに限定されない。
【0074】
分割光L1c~L1cのスペクトルの波長幅は典型的には約3~5nmであり、あるいはそれより広い場合もあり得る。このように波長幅が広い光が回折格子254に入射すると、回折した光は格子線の方向に対して垂直な方向(波長分散方向)に伸びる。すなわち回折格子254よって合波された波長掃引光L1は、格子線の方向に対して垂直な方向に光の径が広がる。このビームの広がりは、用途によっては好ましくない場合がある。
【0075】
そこで図9のカプラ250Aは、回折格子254の出射光を受けるシリンドリカルレンズ258を備える。シリンドリカルレンズ258は、回折格子254と物体の間に挿入される。シリンドリカルレンズ258は、回折格子254の波長分散方向にパワーを有する。
【0076】
図10(a)、(b)は、シリンドリカルレンズがない場合とある場合の波長掃引光L1のビームプロファイルを示す図である。シリンドリカルレンズ258を挿入することにより、波長掃引光L1の波長分散方向(図10におけるY座標方向)の広がりを抑制できる。
【0077】
図9に戻る。複数のファイバ230_1~230_nの出射端は高精度に位置決めする必要がある。この位置決めのために、光ファイバアレイ232を用いることができる。図11は、光ファイバアレイ232の平面図である。図12は、光ファイバアレイ232の分解斜視図である。
【0078】
光ファイバアレイ232は、基板234に、ファイバ230をはめ込む複数のV溝236を、精密加工技術により形成したものである。V溝236にファイバ230を1本ずつはめ込むことで、複数のファイバ230が横一列に配列固定される。V溝236どうしの間隔はμm単位で形成することができ、各V溝236の位置は、対応するファイバ230_iを伝搬する分割光L1cの波長λに応じて設計される。V溝236にファイバ230をはめ込んだあとに、上からカバー238が装着され、ファイバ230が固定される。
【0079】
(実施形態2)
図13は、実施形態2に係る光源装置200Bを示す図である。光源装置200Bにおいて、カプラ250Bの構成が、図6のカプラ250Aと異なっている。カプラ250Bは、分散素子252として、プリズム260を備える。
【0080】
光学系256Bは、ファイバ230_1~230_nから出射される分割光L1c~L1cそれぞれをコリメートして、プリズム260に対して適切な角度および適切な位置に導く。これにより、プリズム260からは、複数の分割光L1c~L1cが空間的に合波された波長掃引光L1が出力される。
【0081】
(変形例)
実施形態では、ファイバ230_1~230_nの出射端が平行である場合を説明したがその限りでない。ファイバ230_1~230_nの出射端を、α~αに適合する角度で非平行に配置してもよい。この場合、光学系256は、コリメートする機能だけを有する。
【0082】
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものであり、したがって、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100 光測定装置
300 受光装置
400 演算処理装置
200 光源装置
210 パルス光源
220 分割器
222 AWG
224 レンズ
230 ファイバ
232 光ファイバアレイ
240 カプラ
242 AWG
250 カプラ
252 分散素子
254 回折格子
256 光学系
258 シリンドリカルレンズ
260 プリズム
L1 波長掃引光
L2 物体光
L3 参照光
L1a 広帯域パルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13