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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142592
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/30 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B62D55/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049549
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白▲鶴▼ 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】関口 良明
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 浩之
(72)【発明者】
【氏名】大濱 裕史
(72)【発明者】
【氏名】仲田 涼我
(72)【発明者】
【氏名】林 真一
(72)【発明者】
【氏名】野原 拓郎
(57)【要約】
【課題】 少ない作業時間、狭い作業スペースでも履帯の張量を計測できるようにすると共に、土砂や岩石によって距離センサが損傷するのを防止できるようにする。
【解決手段】 下部走行体2上には、上部旋回体4が旋回可能に設けられている。上部旋回体4の底部としての旋回フレーム17には、履帯11との距離を履帯11の張量(弛み量)として計測する距離センサ18が設けられている。これにより、距離センサ18は、下部走行体2の履帯11よりも高い位置の旋回フレーム17に設けられている。この上で、距離センサ18は、履帯11を地面につけたまま履帯11の上面側までの距離を計測することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走可能な下部走行体と、前記下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体と、を備え、
前記下部走行体は、
左右両側にトラックサイドフレームが前後方向に延びて設けられたトラックフレームと、
前記トラックサイドフレームの長さ方向の一端に設けられた駆動輪と、
前記トラックサイドフレームの長さ方向の他端に設けられた遊動輪と、
前記駆動輪と前記遊動輪とに亘って巻回された履帯と、
前記トラックサイドフレームの上部に設けられ、前記履帯を下側から支持する上ローラと、
を備えてなる建設機械において、
前記上部旋回体の底部には、前記履帯までの距離を計測する距離センサが設けられていることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記距離センサは、前記上部旋回体が旋回動作したときに、前記駆動輪と前記上ローラとの中間付近、または前記遊動輪と前記上ローラとの中間付近の少なくともいずれか一方を通る位置に配置されていることを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1に記載の建設機械において、
前記距離センサは、前記駆動輪の上方、前記上ローラの上方および前記駆動輪と前記上ローラとの中間付近の上方の3箇所、または前記遊動輪の上方、前記上ローラの上方および前記遊動輪と前記上ローラとの中間付近の上方の3箇所、の一方または両方で前記履帯までの距離を計測できる位置に配置されていることを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
前記距離センサは、前記上部旋回体に対して前後方向に移動可能に取付けられていることを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項4に記載の建設機械において、
前記距離センサは、前記駆動輪から前記上ローラまでの範囲または前記遊動輪から前記上ローラまでの範囲に対応する距離を移動可能に設けられていることを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、履帯を周回動作させることによって走行する下部走行体を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械の代表例としての油圧ショベルは、自走可能な装軌式の下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体と、上部旋回体の前部に回動可能に設けられた作業装置と、を備えている。
【0003】
下部走行体は、左右両側にトラックサイドフレームが前後方向に延びて設けられたトラックフレームと、トラックサイドフレームの長さ方向の一端となる後端に設けられた駆動輪と、トラックサイドフレームの長さ方向の他端となる前端に設けられた遊動輪と、駆動輪と遊動輪とに亘って巻回された履帯と、を備えている。また、下部走行体は、トラックサイドフレームの上部に、履帯を下側から支持する上ローラを備えている。
【0004】
装軌式の下部走行体では、遊動輪がトラックサイドフレームに対して前後方向に移動可能に設けられている。この上で、遊動輪とトラックサイドフレームとの間には、アジャスタシリンダに注入するグリースの量で履帯の張量を調整する履帯張り装置が設けられている。これにより、下部走行体は、履帯の張量(弛み量)を計測し、その計測結果に基づいて履帯張り装置のアジャスタシリンダへのグリースの注入量を調整することにより、駆動輪、遊動輪、上ローラ、履帯等に対して適正な負荷が作用するように、履帯の張量を調整することができる。
【0005】
ここで、履帯の張量を計測する場合には、下部走行体に対して上部旋回体を90度旋回させ、作業装置を地面に押付けることで、片方の履帯を持ち上げる。この状態でトラックサイドフレームから履帯までの距離を、履帯の張量(弛み量)として計測する。
【0006】
そこで、油圧ショベルには、トラックサイドフレームの下部に距離センサを設けることにより、この距離センサによってトラックサイドフレームから履帯までの距離を計測する構成としたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-108961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の油圧ショベルは、トラックサイドフレームの下部に距離センサを設けているから、履帯の張量を計測する場合には、作業装置を地面に押付けて履帯を持ち上げなくてはならない。従って、履帯の張量を計測するには、作業装置等を操作するための多くの作業時間と作業装置を伸ばした状態で旋回できる広い作業スペースが必要になる。しかも、距離センサが設けられたトラックサイドフレームの下部は、走行時や作業時に土砂や岩石が接触し易い位置であるから、土砂や岩石によって距離センサが損傷する虞がある。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、少ない作業時間、狭い作業スペースでも履帯の張量を計測できるようにすると共に、土砂や岩石によって距離センサが損傷するのを防止できるようにした建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自走可能な下部走行体と、前記下部走行体上に旋回可能に設けられた上部旋回体と、を備え、前記下部走行体は、左右両側にトラックサイドフレームが前後方向に延びて設けられたトラックフレームと、前記トラックサイドフレームの長さ方向の一端に設けられた駆動輪と、前記トラックサイドフレームの長さ方向の他端に設けられた遊動輪と、前記駆動輪と前記遊動輪とに亘って巻回された履帯と、前記トラックサイドフレームの上部に設けられ、前記履帯を下側から支持する上ローラと、を備えてなる建設機械において、前記上部旋回体の底部には、前記履帯までの距離を計測する距離センサが設けられている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、少ない作業時間、狭い作業スペースでも履帯の張量を計測することができると共に、土砂や岩石による距離センサの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態に適用される油圧ショベルを示す左側面図である。
図2】油圧ショベルの後側部分を示す左側面図である。
図3】履帯を省略した下部走行体を示す平面図である。
図4】旋回フレームと距離センサを示す平面図である。
図5】下部走行体と上部旋回体の距離センサとの位置関係を示す平面図である。
図6】距離センサが履帯の張量の計測位置に配置されるように上部旋回体を旋回させた状態を示す図5と同様の平面図である。
図7】本発明の第2の実施形態による距離センサ(移動式センサ装置)を、油圧ショベルの後側部分と一緒に示す左側面図である。
図8】旋回フレームと距離センサ(移動式センサ装置)を示す平面図である。
図9】距離センサが駆動輪の上部、上ローラの上部および履帯の張量の計測位置に配置されるように上部旋回体を旋回させた状態を示す平面図である。
図10】本発明の変形例による3個の距離センサを、油圧ショベルの後側部分と一緒に示す左側面図である。
図11】下部走行体と上部旋回体の3個の距離センサとの位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る建設機械の代表例として、装軌式の下部走行体を備えた油圧ショベルを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。なお、本実施形態では、上部旋回体については作業装置が設けられている側を前側、カウンタウエイトが設けられる側を後側とし、下部走行体については遊動輪が設けられる側を前側、駆動輪が設けられる側を後側として説明する。
【0014】
図1ないし図6は、本発明の第1の実施形態を示している。図1において、装軌式の油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、上部旋回体4の前部に回動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置5と、を備えている。旋回装置3は、下部走行体2上で上部旋回体4を旋回させる機構である。旋回装置3は、下部走行体2のトラックフレーム6と上部旋回体4の旋回フレーム17との間に設けられた円環状の軸受からなる旋回輪3Aと、旋回輪3Aの内輪に噛合して上部旋回体4を旋回させる旋回モータ(図示せず)と、を備えている。図1に示すような、上部旋回体4の前後と下部走行体2の前後が揃った状態を基本ポジションという。
【0015】
装軌式の下部走行体2は、不整地、泥濘地等を走行するためのものである。図1ないし図3に示すように、下部走行体2は、後述のトラックフレーム6、駆動輪9、遊動輪10、履帯11、上ローラ12、下ローラ13を含んで構成されている。
【0016】
トラックフレーム6は、左右方向(下部走行体2の幅方向)の中央に位置するトラックセンタフレーム7と、トラックセンタフレーム7の左右両側に設けられたトラックサイドフレーム8と、を備えている。
【0017】
トラックセンタフレーム7は、複数枚の鋼板を溶接することにより全体がX形状ないしH形状の製缶構造体として形成されている。トラックセンタフレーム7は、中央に位置して上側に突出した円筒部7Aを有し、この円筒部7A上には、旋回装置3の旋回輪3Aが取付けられている。円筒部7A、旋回輪3Aの中心が上部旋回体4の旋回中心O(図3図4等参照)となる。
【0018】
トラックサイドフレーム8は、トラックセンタフレーム7の左右両側に前後方向に延びて設けられている。トラックサイドフレーム8は、トラックセンタフレーム7の左右両側に対称形状をなすように配置されている。トラックサイドフレーム8は、前後方向に延びた角筒体として形成されている。トラックサイドフレーム8の長さ方向の一端となる後端には、駆動輪ブラケット8Aが設けられている。一方、トラックサイドフレーム8の長さ方向の他端となる前端には、遊動輪ブラケット8Bが設けられている。また、トラックサイドフレーム8の上部には、前後方向に間隔をもって2個の上ローラ12が設けられている。
【0019】
駆動輪9は、トラックサイドフレーム8の長さ方向の一端となる後端に位置する駆動輪ブラケット8Aに設けられている。駆動輪9は、駆動輪ブラケット8Aに取付けられた減速装置9Aと、減速装置9Aの入力側に接続された走行モータ(図示せず)と、減速装置9Aの出力側に設けられたスプロケット9Bと、を備えている。スプロケット9Bの外周側は、履帯11に噛合している。
【0020】
遊動輪10は、トラックサイドフレーム8の長さ方向の他端となる前端に位置する遊動輪ブラケット8Bに設けられている。遊動輪10は、遊動輪ブラケット8Bに対して前後方向に移動可能に取付けられている。また、遊動輪10とトラックサイドフレーム8との間には、コイルスプリング、アジャスタシリンダ等からなる履帯張り装置(いずれも図示せず)が設けられている。この履帯張り装置は、アジャスタシリンダへのグリースの注入量を調整することにより、履帯の張量を調整することができる。
【0021】
履帯11は、駆動輪9と遊動輪10とに亘って巻回されている。例えば、履帯11は、周回方向に連結された多数個のトラックリンクと各トラックリンクに取付けられた多数枚のトラックシューとによって構成されている。ここで、履帯11は、例えば、トラックリンク間の連結部分に僅かに摩耗が生じても、多数個のトラックリンク分の摩耗が合算することで伸びて弛みを生じる。また、履帯11と駆動輪9のスプロケット9B、遊動輪10、上ローラ12、下ローラ13との間に生じる摩耗によっても履帯11が弛んでしまう。このように履帯11が弛むと、前進、後退の切換が円滑に行えなかったり、走行音が大きくなったり、振動が生じたりする虞があるため、履帯11の張量(弛み量)を定期的に調整することが望ましい。
【0022】
上ローラ12は、トラックサイドフレーム8の上部に設けられている。上ローラ12は、履帯11を下側から支持するものである。上ローラ12は、例えば、前後方向に間隔をもって2個設けられている。
【0023】
図1図2に示すように、下ローラ13は、トラックサイドフレーム8の下部に設けられている。下ローラ13は、履帯11を上側から地面に押付けるものである。下ローラ13は、例えば、前後方向に間隔をもって複数個、例えば7個設けられている。
【0024】
次に、上部旋回体4の構成について説明する。図1に示すように、上部旋回体4は、後述の旋回フレーム17と、旋回フレーム17の左前側に搭載され、内部に運転室を形成するキャブ14と、旋回フレーム17の後部に取付けられ、作業装置5との重量バランスを取るカウンタウエイト15と、キャブ14とカウンタウエイト15との間に位置して旋回フレーム17に搭載されたエンジン、油圧ポンプ(いずれも図示せず)等を収容する建屋16と、を備えている。キャブ14の内部には、オペレータが座る運転席と、運転席の前方、左側、右側に位置して油圧ショベル1を操作する走行用、作業用の操作レバー(いずれも図示せず)と、が設けられている。
【0025】
旋回フレーム17は、上部旋回体4の底部を形成している。図4に示すように、旋回フレーム17は、前後方向に延びる厚肉な鋼板等からなる平板状の底板17Aと、底板17A上に立設され、左右方向に所定の間隔をもって前後方向に延びた左縦板17B、右縦板17Cと、前後方向に間隔をもって底板17A、左縦板17Bから左側に延びた複数本の左張出しビーム17Dと、前後方向に間隔をもって底板17A、右縦板17Cから右側に延びた複数本の右張出しビーム17Eと、左張出しビーム17Dの先端部に前後方向に延びた状態で取付けられた左サイドフレーム17Fと、右張出しビーム17Eの先端部に前後方向に延びた状態で取付けられた右サイドフレーム17Gと、を含んで構成されている。
【0026】
また、旋回フレーム17は、底板17Aと左縦板17Bと右縦板17Cとの間を覆うように、複数枚のアンダカバー17Hを備えている(底板17Aの後側で左縦板17Bと右縦板17Cとの間のみ図示)。さらに、底板17Aは、センタジョイント(図示せず)が挿通されるジョイント挿通孔17Jを有している。ジョイント挿通孔17Jの中心が上部旋回体4の旋回中心Oとなっている。
【0027】
例えば、左サイドフレーム17F、右サイドフレーム17Gは、パイプ部材によって形成されている。左サイドフレーム17Fは、作業装置5を下部走行体2の前側に配置させた状態で、左側の履帯11の上方に位置している。同様に、右サイドフレーム17Gは、作業装置5を下部走行体2の前側に配置させた状態で、右側の履帯11の上方に位置している。
【0028】
距離センサ18は、上部旋回体4の底部を形成する旋回フレーム17に設けられている。距離センサ18は、当該距離センサ18から履帯11までの距離S1を計測する。図4に示すように、距離センサ18は、旋回フレーム17の左サイドフレーム17Fの後側寄りに設けられている。距離センサ18には、例えば、赤外線、レーザ、超音波等を利用した非接触型のセンサを用いる。塵埃や土砂が飛散する現場では、塵埃や土砂に影響され難い超音波を利用した距離センサが適している。また、距離センサ18は、例えば、円柱状の外観を有し、左サイドフレーム17Fの下部に形成された挿通孔に上下方向に挿通された状態でねじ止めされる。
【0029】
上部旋回体4に対する距離センサ18の取付位置について説明する。距離センサ18は、下部走行体2上で上部旋回体4が旋回動作したときに、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近の少なくともいずれか一方の中間付近を通る位置に配置されている。
【0030】
ここで、図2に示すように、左側のトラックサイドフレーム8Cに設けられた駆動輪9のスプロケット9Bの中心を通って上下方向に延びた直線を線A(図3の平面視では中心点Aとして図示)とし、左後側の上ローラ12の中心を通って上下方向に延びた直線を線B(図3の平面視では中心点Bとして図示)とする場合、駆動輪9と後側の上ローラ12との間で左側の履帯11が大きく弛む位置は、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近、具体的には、駆動輪9と後側の上ローラ12との間の中間点C(図2の左側面図では中間点Cを通って上下方向に延びた線Cとして図示)となる。詳しくは、線Aと線Bとの間の距離を寸法Lとすると、線Aと中間点C(線C)との間の距離は、寸法L/2となる。同様に、線Bと中間点C(線C)との間の距離は、寸法L/2となる。
【0031】
図3に示すように、中間点C(線C)は、旋回中心Oから半径R1をもって描かれた円弧Q1上に位置している。この上で、図4に示すように、左サイドフレーム17Fの円弧Q1を通る位置に距離センサ18が配置されている。これにより、図5に示すように、駆動輪9と後側の上ローラ12との間で履帯11が大きく弛む中間点C(線C)と距離センサ18とは、円弧Q1上に配置されている。
【0032】
即ち、図6にP1(二点鎖線)で示すように、上部旋回体4を図5の基本ポジションP0から平面視で反時計回りに5度程度旋回させたポジションで、距離センサ18を中間点Cの真上に配置することができる。この状態で、距離センサ18によって当該距離センサ18と左側の履帯11との距離S1を計測する。これにより、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む位置で、距離S1を基にして履帯11の張量(弛み量)を計測することができる。
【0033】
また、図3に示すように、左側のトラックサイドフレーム8Cに設けられた遊動輪10の中心を通って上下方向に延びた直線を線D(中心点Dとして図示)とし、左前側の上ローラ12の中心を通って上下方向に延びた直線を線E(中心点Eとして図示)とする場合、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む位置は、遊動輪10と前側の上ローラ12との間の中間点Fとなる。遊動輪10と前側の上ローラ12との間の中間点Fは、円弧Q1上または円弧Q1に近い位置となっている。これにより、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む中間点Fは、距離センサ18と同じ円弧Q1上に配置されている。
【0034】
即ち、図6にP2(二点鎖線)で示すように、上部旋回体4を平面視で時計回りに80度程度旋回させたポジションでは、距離センサ18を中間点Fの真上に配置することができる。この状態で、距離センサ18によって当該距離センサ18と左側の履帯11との距離を計測する。これにより、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む位置で、履帯11の張量(弛み量)を計測することができる。
【0035】
一方、右側のトラックサイドフレーム8Dに設けられた駆動輪9の中心を通って上下方向に延びた直線を線G(中心点Gとして図示)とし、右後側の上ローラ12の中心を通って上下方向に延びた直線を線H(中心点Hとして図示)とする。この場合、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む位置は、駆動輪9と後側の上ローラ12との間の中間点Jとなる。駆動輪9と後側の上ローラ12との間の中間点Jは、円弧Q1上または円弧Q1に近い位置となっている。これにより、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む中間点Jは、距離センサ18と同じ円弧Q1上に配置されている。
【0036】
即ち、上部旋回体4を旋回させることにより、距離センサ18を中間点Jの真上に配置することができる。この状態で、距離センサ18によって当該距離センサ18と右側の履帯11との距離を計測する。これにより、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む位置で、履帯11の張量(弛み量)を計測することができる。
【0037】
さらに、右側のトラックサイドフレーム8Dに設けられた遊動輪10の中心を通って上下方向に延びた直線を線K(中心点Kとして図示)とし、右前側の上ローラ12の中心を通って上下方向に延びた直線を線M(中心点Mとして図示)とする。この場合、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む位置は、遊動輪10と前側の上ローラ12との間の中間点Nとなる。遊動輪10と前側の上ローラ12との間の中間点Nは、円弧Q1上または円弧Q1に近い位置となっている。これにより、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む中間点Nは、距離センサ18と同じ円弧Q1上に配置されている。
【0038】
即ち、上部旋回体4を旋回させることにより、距離センサ18を中間点Nの真上に配置することができる。この状態で、距離センサ18によって当該距離センサ18と右側の履帯11との距離を計測する。これにより、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で右側の履帯11が大きく弛む位置で、履帯11の張量(弛み量)を計測することができる。
【0039】
このように第1の実施形態では、左側のトラックサイドフレーム8Cに巻回された履帯11に対し、距離センサ18によって中間点Cと中間点Fの2箇所で距離を計測し、右側のトラックサイドフレーム8Dに巻回された履帯11に対して中間点Jと中間点Nの2箇所で距離を計測し、合計4箇所で履帯11の弛み量を計測している。なお、左側のトラックサイドフレーム8Cの履帯11に対して1箇所の中間点の距離を計測し、右側のトラックサイドフレーム8Dの履帯11に対して1箇所の中間点の距離を計測する構成としてもよい。
【0040】
次に、上部旋回体4の旋回フレーム17の左サイドフレーム17Fに設けた距離センサ18を用いて、左右の履帯11の張量(弛み量)を計測する場合の作業手順の一例について説明する。
【0041】
履帯11の張量(弛み量)を計測する場合には、計測環境を一定にすることにより、正しい計測値を得ることができる。まず、油圧ショベル1を履帯11の張量の計測に適した平らな場所に配置する。この場合に必要になるスペースは、作業装置5を立ち上げ、作業装置5の全体を折り畳んだ状態で、上部旋回体4を旋回できるスペースとなる。換言すると、上部旋回体4が旋回できるスペースを確保することで、履帯11の張量を計測することができる。また、履帯11の張量を計測する前の準備動作として、履帯11の状態を一定にするために、油圧ショベル1(下部走行体2)をゆっくり前進させて停車させる。
【0042】
油圧ショベル1を停車させたら、作業装置5を立ち上げ、作業装置5の全体を折り畳む。次に、履帯11の張量計測スイッチをONにした状態で、上部旋回体4を1周旋回させる。このときに、油圧ショベル1に搭載されたコントローラ(図示せず)では、下部走行体2に対する上部旋回体4の旋回角度から、距離センサ18が中間点C上に配置されたときの距離センサ18から履帯11までの距離S1を取出す。同様に、中間点F,J,N上に配置されたときの距離センサ18から履帯11までの距離を取出す。
【0043】
これにより、距離センサ18から左側の履帯11までの距離S1を含む履帯11の張量を、閾値として設定した寸法と比較することができる。そして、計測した履帯11の張量が、閾値を越えた場合、履帯11の張量の調整を行う。
【0044】
本実施形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0045】
オペレータは、キャブ14に搭乗し、運転席に座ってエンジンを始動し、走行用の操作レバー等を操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。一方、オペレータは、作業用の操作レバーを操作することにより、上部旋回体4の旋回動作、作業装置5による土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0046】
油圧ショベル1の履帯11は、例えば、トラックリンク間の連結部分、履帯11と駆動輪9のスプロケット9B、遊動輪10、上ローラ12、下ローラ13との間等に摩耗が発生すると弛み(相対的な伸び)を生じる。従って、油圧ショベル1は、定期的な履帯11の張量の計測と、履帯11の張量の調整作業が行われる。履帯11の張量の調整作業は、遊動輪10とトラックサイドフレーム8との間に設けられた履帯張り装置のアジャスタシリンダにグリースを注入することにより、履帯11の張量を大きくし、履帯11の弛みを小さくすることができる。
【0047】
かくして、本実施の形態によれば、下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体4の底部としての旋回フレーム17には、履帯11との距離を履帯11の張量(弛み量)として計測する距離センサ18が設けられている。従って、距離センサ18は、下部走行体2の履帯11よりも高い位置の旋回フレーム17に設けられている。この上で、距離センサ18は、履帯11の上面側までの距離を計測している。
【0048】
これにより、本実施形態では、履帯11を持ち上げることなく履帯11の張量(弛み量)を計測することができる。この結果、少ない作業時間、狭い作業スペースでも履帯11の張量を簡単に計測することができる。
【0049】
しかも、距離センサ18は、下部走行体2よりも高い位置の旋回フレーム17に設けられているから、走行時や作業時に土砂や岩石を跳ね上げたとしても、土砂や岩石が距離センサ18に衝突し難くなっている。これにより、土砂や岩石によって距離センサ18が損傷するのを防止でき、耐久性や信頼性を向上することができる。
【0050】
距離センサ18は、下部走行体2上で上部旋回体4が旋回動作したときに、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近の両方を通る位置に配置されている。従って、下部走行体2上で上部旋回体4を1周旋回させるだけで、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間点C、中間点Jで左側の履帯11の張量を計測でき、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間点F、中間点Nで右側の履帯11の張量を計測できる。これにより、1本の履帯11に対して2箇所ずつ張量を計測できるから、計測値に対する信頼性を向上させることができる。
【0051】
また、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近の中間点C、中間点J、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近の中間点F、中間点Nは、履帯11の弛みが最も大きくなる部位であるから、履帯11の弛み量を明確に計測することができる。
【0052】
次に、図7ないし図9は本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、距離センサは、駆動輪の上方、上ローラの上方および駆動輪と上ローラとの中間付近の上方の3箇所と、遊動輪の上方、上ローラの上方および遊動輪と上ローラとの中間付近の上方の3箇所と、の両方で履帯までの距離を計測できる位置に配置されていることにある。また、距離センサは、上部旋回体に対して移動可能に取付けられていることにある。具体的には、距離センサは、駆動輪から上ローラまでの範囲または遊動輪から上ローラまでの範囲に対応する距離を移動可能に設けられていることにある。なお、第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0053】
図7において、距離センサとしての移動式距離センサ21は、上部旋回体4の旋回フレーム17に設けられている。図8に示すように、移動式距離センサ21は、旋回フレーム17の後側に位置して左縦板17Bと右縦板17Cとの間のアンダカバー17Hに取付けられている。移動式距離センサ21は、上部旋回体4に対して前後方向に移動可能に取付けられている。具体的には、移動式距離センサ21は、駆動輪9から後側の上ローラ12までの範囲または遊動輪10から前側の上ローラ12までの範囲に対応する距離を移動可能なセンサ本体21Bを備えている。
【0054】
例えば、移動式距離センサ21は、前後方向に延びてアンダカバー17Hに取付けられた長箱状のケーシング21Aと、ケーシング21Aに沿って前後方向に移動可能に設けられたセンサ本体21Bと、センサ本体21Bを所定の位置に移動させる移動機構21Cと、を備えている。センサ本体21Bには、第1の実施形態の距離センサ18と同様に、赤外線、レーザ、超音波等を利用した非接触型のセンサが用いられている。また、移動機構21Cは、ケーシング21Aの全長に亘って延びた歯付きベルトにセンサ本体21Bを取付け、歯付きベルトを回転数制御が可能なモータで周回させる構成となっている。なお、移動機構21Cは、ボールねじを用いたり、ラックとピニオンを用いたりしてセンサ本体21Bを移動させる構成としてもよい。
【0055】
図9に示すように、移動式距離センサ21によるセンサ本体21Bの移動範囲は、駆動輪9の上方、後側の上ローラ12の上方および駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近の上方の3箇所と、遊動輪10の上方、前側の上ローラ12の上方および遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近の上方の3箇所と、の両方で履帯11までの距離を計測できる範囲となっている。
【0056】
具体的には、センサ本体21Bの移動範囲は、旋回中心Oを中心にして上ローラ12の中心点B,E,H,Mを通る半径R2の円弧Q2よりも前側で、旋回中心Oを中心にして駆動輪9のスプロケット9Bの中心点A,Gと遊動輪10の中心点D,Kとを通る半径R3の円弧Q3よりも後側に設定されている。
【0057】
図9にP3(二点鎖線)で示すように、上部旋回体4が平面視で時計回りに30度程度旋回し、移動式距離センサ21が中心点Aの上方に位置したポジションでは、移動式距離センサ21は、センサ本体21Bを円弧Q3の位置に移動させる。これにより、センサ本体21Bは、上部旋回体4のP3では、駆動輪9のスプロケット9Bの中心点A上に位置し、当該センサ本体21Bと左側の履帯11との距離S2を計測することができる。
【0058】
次に、図9にP4(二点鎖線)で示すように、上部旋回体4が平面視で時計回りに45度程度旋回し、移動式距離センサ21が中間点Cの上方に位置したポジションでは、移動式距離センサ21は、センサ本体21Bを円弧Q1の位置に移動させる。これにより、センサ本体21Bは、上部旋回体4のP4では、駆動輪9と後側の上ローラ12との間の中間点C上に位置し、当該センサ本体21Bと左側の履帯11との距離S3を計測することができる。
【0059】
さらに、図9にP5(二点鎖線)で示すように、上部旋回体4が平面視で時計回りに65度程度旋回し、移動式距離センサ21が中心点Bの上方に位置したポジションでは、移動式距離センサ21は、センサ本体21Bを円弧Q2の位置に移動させる。これにより、センサ本体21Bは、上部旋回体4のP5では、後側の上ローラ12の中心点B上に位置し、当該センサ本体21Bと左側の履帯11との距離S4を計測することができる。
【0060】
この場合、距離S2,S4の変化から履帯11、駆動輪9(スプロケット9B)、上ローラ12の摩耗を認識することができる。これにより、履帯11、駆動輪9(スプロケット9B)、上ローラ12の摩耗を考慮した(摩耗分を差し引いた)上で、距離S3を基にして履帯11の正確な弛み量を算出することができる。
【0061】
なお、中心点D、中心点E、中間点F、中心点G、中心点H、中間点J、中心点K、中心点M、中間点Nにおける計測手順も、中心点A、中心点B、中間点Cにおける計測手順と同様であるので、説明を省略する。
【0062】
かくして、このように構成された第2の実施形態においても、前述した第1の実施形態とほぼ同様の作用、効果を得ることができる。特に、第2の実施形態は、移動式距離センサ21のセンサ本体21Bは、駆動輪9の上方、後側の上ローラ12の上方および駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近の上方の3箇所と、遊動輪10の上方、前側の上ローラ12の上方および遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近の上方の3箇所と、の両方で履帯11までの距離を計測できる位置に配置されている。これにより、移動式距離センサ21は、履帯11、駆動輪9(スプロケット9B)、上ローラ12の摩耗分を差し引いた上で、距離S3を基にして履帯11の正確な弛み量を算出することができる。
【0063】
また、移動式距離センサ21のセンサ本体21Bは、上部旋回体4に対して移動可能に取付けられている。具体的には、移動式距離センサ21のセンサ本体21Bは、駆動輪9から後側の上ローラ12までの範囲または遊動輪10から前側の上ローラ12までの範囲に対応する距離を移動可能なセンサ本体21Bを備えている。これにより、旋回中心Oからの距離が異なる計測位置でも、1個のセンサ本体21Bを移動させて計測することができる。
【0064】
なお、第1の実施形態では、上部旋回体4の旋回フレーム17に、駆動輪9と後側の上ローラ12との間の中間点C(旋回中心Oから半径R1をもって描かれた円弧Q1上)に位置して距離センサ18を1個設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、図10および図11に示す変形例のように構成してもよい。具体的には、図11に示すように、円弧Q1上に設けた距離センサ18以外に、第2の実施形態の円弧Q2上に1個の距離センサ31を設け、円弧Q3上に1個の距離センサ32を設ける構成としてもよい。これにより、第2の実施形態のように、履帯11、駆動輪9(スプロケット9B)、遊動輪10、上ローラ12の摩耗分を差し引いた上で、履帯11の正確な弛み量を算出することができる。
【0065】
第1の実施形態では、左側の履帯11に対し、駆動輪9と後側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む位置(中間点C)と、遊動輪10と前側の上ローラ12との中間付近で左側の履帯11が大きく弛む位置(中間点F)と、の2箇所で張量(弛み量)を計測し、右側の履帯11に対しても中間点J,Nの2箇所で張量(弛み量)を計測した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、左側の履帯11に対して1箇所、右側の履帯11に対して1箇所で張量(弛み量)を計測する構成としてもよい。
【0066】
第1の実施形態では、距離センサ18を旋回フレーム17の左サイドフレーム17Fに設け、第2の実施形態では、距離センサとしての移動式距離センサ21を旋回フレーム17のアンダカバー17Hに設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、距離センサ18、移動式距離センサ21を旋回フレーム17の他の場所に設ける構成としてもよい。
【0067】
さらに、実施形態では、建設機械として油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば油圧クレーン等の旋回装置を備えた他の建設機械にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 下部走行体
3 旋回装置
4 上部旋回体
6 トラックフレーム
8(8C,8D) トラックサイドフレーム
9 駆動輪
9B スプロケット
10 遊動輪
11 履帯
12 上ローラ
18,31,32 距離センサ
O 旋回中心
21 移動式距離センサ(距離センサ)
21B センサ本体
A,B,D,E,G,H,K,M 線(中心点)
C,F,J,N 中間点(線)
S1,S2,S3,S4 距離センサから履帯までの距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11