(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142608
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】被膜剥離装置および被膜剥離方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20230928BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230928BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20230928BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
B32B27/00 B
B32B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049586
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聖
(72)【発明者】
【氏名】東田 佳久
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一敬
【テーマコード(参考)】
4F100
4F401
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK52
4F100AK52B
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EH61
4F100EJ42
4F100EJ85
4F100EJ94
4F100JB09
4F100JB09B
4F100JB12
4F100JB12B
4F401AA28
4F401AD01
4F401AD07
4F401BA13
4F401CA02
4F401CA35
4F401CA46
4F401CA49
4F401EA46
4F401EA90
(57)【要約】
【課題】
使用後の被膜付きフィルムから再溶融しても安定して再生フィルムが製膜できる基材フィルムを得るために、被膜付きフィルムの表面から効率的に被膜を剥離することができて、剥離した被膜がフィルムに再付着することがない被膜の剥離装置を提供する。
【解決手段】
本発明の被膜剥離装置は、基材フィルムの少なくとも片面に被膜が形成された被膜付きフィルムから当該被膜を剥離する装置であって、上記被膜付きフィルムに接触して上記被膜を剥離する剥離機構と、上記剥離機構と接触している上記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて空気または液体を吹き付ける吐出ノズルと、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に被膜が形成された被膜付きフィルムから当該被膜を剥離する装置であって、
前記被膜付きフィルムを巻き出す巻出装置と、
前記巻出装置から巻き出された前記被膜付きフィルムの前記被膜が形成されている面に接触して、前記被膜を剥離する剥離機構と、
前記剥離機構と接触している前記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて空気または液体を吹き付ける吐出ノズルと、
前記剥離機構により前記被膜が剥離された前記基材フィルムを巻き取る巻取装置と、
を備えた、被膜剥離装置。
【請求項2】
前記吐出ノズルが、前記被膜付きフィルムの前記剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向けて前記空気または前記液体を吹き付ける、請求項1の被膜剥離装置。
【請求項3】
前記巻出装置と前記剥離機構との間に、前記被膜付きフィルムの前記被膜の表面に洗浄液を付与する洗浄液供給装置を備えた、請求項1または2の被膜剥離装置。
【請求項4】
基材フィルムの少なくとも片面に被膜が形成された被膜付きフィルムを搬送させながら、
前記被膜付きフィルムから前記被膜を剥離する方法であって、
搬送されている前記被膜付きフィルムの前記被膜が形成されている面に剥離機構を接触させて、前記剥離機構と接触している前記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて空気または液体を吹き付けながら、前記剥離機構で前記被膜を剥離する、
被膜剥離方法。
【請求項5】
前記被膜付きフィルムの前記剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向けて前記空気または前記液体を吹き付ける、請求項4の被膜剥離方法。
【請求項6】
搬送されている前記被膜付きフィルムの前記被膜の表面に洗浄液を付与し、当該洗浄液が付与された被膜を前記剥離機構で剥離する、請求項4または5の被膜剥離方法。
【請求項7】
前記被膜が水溶性樹脂を含む、請求項4~6のいずれかの被膜剥離方法。
【請求項8】
前記被膜が硬化型シリコーン樹脂を含む、請求項4~7のいずれかの被膜剥離方法。
【請求項9】
前記洗浄液が水である、請求項4~8のいずれかの被膜剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの表面の被膜を効率よく除去することが可能な被膜剥離装置および被膜剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは様々な分野に利用されている一方、マイクロプラスチックなど海洋汚染の原因物とされ、プラスチックによる環境負荷低減が急務となっている。
【0003】
また近年、IoT(Internet of Things)の進化により、コンピュータやスマートフォンに搭載されるCPUなどの電子デバイスが増加し、それに伴い、電子デバイスを駆動するために必要な積層セラミックコンデンサー(MLCC)の数も急激に増加している。このMLCCの一般的な製造方法は、プラスチックの基材フィルム上に離型層を形成した離型フィルムをキャリアシートとして使用し、該離型フィルム上にセラミックグリーンシート層を形成する工程と、該セラミックグリーンシート層を剥離してセラミックグリーンシートとする工程がある。この工程において、セラミックシートが剥離された離型フィルムは不要物として廃棄されることとなる。
【0004】
すなわち、近年のMLCC製造数量の急激な増加に伴う離型フィルムの廃棄物としての増大が環境問題になっており、基材フィルムの再利用に向けた取り組みが活発化してきている。離型フィルムに含まれる離型層の成分は、離型性の観点から、一般的には基材フィルムを構成する成分とは異なる組成であるため、離型層が付いた離型フィルムをそのまま再溶融して再生フィルムを製膜した場合、離型層の成分が異物として存在するため、安定製膜をすることができない。
【0005】
また、製膜できたとしても、得られたフィルムは、離型層が異物として存在していることから、フィルムの着色や、表面組成の変化により、品質劣化が避けられず、元の基材フィルムと同等レベルの品質のフィルムへ再生することができない。
【0006】
したがって、離型フィルムを再生フィルムとしてリサイクルするためには、離型フィルムに含まれる離型層の成分を再生フィルムの品質として問題ないレベルの極微量の残渣にまで除去することが必要である。
【0007】
特許文献1では、被膜付きフィルムから被膜を剥離する方法として、被膜付きフィルムを温水槽に浸漬して一定時間接触させた後に、ブラシロールを用いて被膜付きフィルムを擦過することで、被膜を剥離する装置および方法が開示されている。また特許文献2では、被膜付きフィルムから被膜を剥離する装置として、被膜付きフィルムの被膜を有する面に回転する剥離刃を接触させることで、被膜を剥離する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-363140号公報
【特許文献2】特開2017-56675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている被膜を剥離する装置および方法では、処理速度を上げると、ブラシの毛をいくら緻密に配置して高回転で擦過したとしても、表面をミクロな視点で捉えた場合には、被膜付きフィルムにブラシの毛が接触しない点が必ず生じるため、被膜の一部が微量な残渣として剥離後の回収フィルムに残存してしまう。そのため、回収フィルムを再溶融して製膜した場合、再生フィルムの品質が低下する、という問題がある。
【0010】
特許文献2に開示されている被膜を剥離する装置では、ブレード状の剥離刃で被膜付きフィルムから被膜を掻き取っている。剥離した被膜(以下、剥離物)が剥離刃から容易に離脱するような粘着性の無い、乾燥状態であればよいが、剥離物が粘着性を有していたり、水分を含んでいたりして粘性が高い状態である場合には、剥離刃に剥離物が付着することがある。剥離刃に付着した剥離物は、剥離刃に堆積していき、次第に剥離刃の幅方向へと溢れ出るように流動して、搬送されてくる被膜付きフィルムの端部に付着して後工程に流出してしまう、という問題がある。すなわち、剥離物が異物として再生フィルムに混入することになり、再生フィルムを製膜する際に、歩留まり低下や品質低下の原因となる。
【0011】
そこで本発明は、使用後の被膜付きフィルムから再溶融しても安定して再生フィルムが製膜できる基材フィルムを得るために、被膜付きフィルムの表面から効率的に被膜を除去できる被膜剥離方法、および被膜剥離装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の被膜剥離装置は、基材フィルムの少なくとも片面に被膜が形成された被膜付きフィルムから当該被膜を剥離する装置であって、
上記被膜付きフィルムを巻き出す巻出装置と、
上記巻出装置から巻き出された上記被膜付きフィルムの上記被膜が形成されている面に接触して、上記被膜を剥離する剥離機構と、
上記剥離機構と接触している上記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて空気または液体を吹き付ける吐出ノズルと、
上記剥離機構により上記被膜が剥離された上記基材フィルムを巻き取る巻取装置と、を備えている。
【0013】
また本発明の被膜剥離装置は下記のいずれか、または複数の特徴を有することが好ましい。
・上記吐出ノズルが、上記被膜付きフィルムの上記剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向けて上記空気または上記液体を吹き付ける。
・上記巻出装置と上記剥離機構との間に、上記被膜付きフィルムの上記被膜の表面に洗浄液を供給する洗浄液供給装置を有している。
【0014】
上記課題を解決する本発明の被膜剥離方法は、基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムを搬送させながら、上記被膜付きフィルムから上記被膜を剥離する方法であって、
搬送されている上記被膜付きフィルムの上記被膜が形成されている面に剥離機構を接触させて、上記剥離機構と接触している上記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて空気または液体を吹き付けながら、上記剥離機構で上記被膜を剥離する、被膜剥離方法。
【0015】
また、本発明の被膜付きフィルムからの被膜剥離方法は、下記のいずれか、または複数の特徴を有することが好ましい。
・上記被膜付きフィルムの上記剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向けて上記空気または上記液体を吹き付ける。
・搬送されている上記被膜付きフィルムの上記被膜が形成されている面に上記剥離機構を接触させるより前に、上記被膜の表面に洗浄液を付与する。
・上記被膜が水溶性樹脂を含む。
・上記被膜が硬化型シリコーン樹脂を含む。
・上記洗浄液が水である。
【0016】
本願発明において、「被膜付きフィルムの剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向けて空気または液体を吹き付ける」とは、吹き付けられた空気や液体が全て上記反対側の面に当たるような吹き付け方だけではなく、吹き付けられた空気や液体の一部が上記反対側の面に当たるような吹き付け方も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の被膜の剥離装置および被膜剥離方法によれば、被膜付きフィルムから被膜を効率的に剥離することができ、再生フィルムに剥離物を混入させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態の被膜剥離装置の概略図である。
【
図2】
図1の剥離機構および吐出ノズルの斜視図である。
【
図3】
図1の剥離機構および吐出ノズルの上面図である。
【
図4】
図1の剥離機構および吐出ノズルの側面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態の被膜剥離装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、基材フィルムの少なくとも片面に被膜が形成された被膜付きフィルムの表面から、効率的に、かつ再生フィルムに剥離物を混入させない被膜の剥離方法を鋭意検討した結果、次のような被膜剥離装置と被膜剥離方法を見出すに至った。
【0020】
[被膜剥離装置]
本発明の被膜剥離装置の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は本発明に係る実施形態の1つを例示するものであり、これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態の被膜剥離装置101の概略図である。被膜剥離装置101は、被膜付きフィルム2を巻き出す巻出装置4と被膜を剥離した後の基材フィルム3を巻き取るための巻取装置5が備えられている。巻出装置4と巻取装置5との間には、被膜付きフィルム2を搬送するための駆動装置9、被膜付きフィルム2から被膜を剥離するための剥離機構6、被膜を剥離した後の基材フィルム3を搬送するための駆動装置10が備えられている。さらに剥離機構6に近接して配置された被膜付きフィルム2に向けて空気あるいは洗浄液などの流体11を吹き付けるための吐出ノズル7と、剥離機構6に溜まる剥離物あるいは吐出ノズル7から流体11として吹き付けた洗浄液が周囲に飛散するのを防ぐための飛散防止トレイ8とを備えている。
【0022】
なお本発明における駆動装置9,10は、被膜付きフィルム2、および被膜を剥離した基材フィルム3を安定して搬送させるために、張力をカットできる構成であることが好ましいが、サクションロールでテンションカットした場合には、被膜付きフィルム2の被膜の一部が吸引されたりして、トラブルの原因となることがあるため、金属製の駆動ロールとゴムロールでニップされた構成がより好適に用いられる。また吐出ノズル7から吐出する流体11として洗浄液を使用する場合には、駆動装置9、10には洗浄液が付着する可能性があるため、防錆対策として、ステンレス鋼や表面処理を施したものが好適に用いられる。
【0023】
図1では、被膜剥離装置101の剥離機構6は、搬送されている被膜付きフィルム2に対して下方から接触するように設置されている。この場合、巻出装置4にセットされたロール状に巻かれた被膜付きフィルム2はロールの内側に被膜を有しており、被膜に対して剥離機構6が直接接触する。剥離機構6は、被膜付きフィルム2の被膜に直接接触するように設置してあればよく、下方でなくとも、横方向あるいは斜めや上方から接触するように設置されていてもよい。また被膜剥離装置101では、剥離機構6として、搬送される被膜付きフィルム2に直接接触する先端が鋭利な金属プレートを設けたが、これに限定されず、先端が鋭利な樹脂製のプレートを設けてもよいし、ブレードのように被膜付きフィルム2に押し当ててしなるような薄い金属製のプレートを設けてもよい。あるいは、ウエスや布帛を用いて被膜付きフィルム2に押し当てて被膜を拭き取るように剥離してもよい。さらにより強力に剥離をする場合には、剥離機構6を搬送方向に複数並べてもよい。被膜付きフィルム2が表裏両面に被膜を有している場合には、表裏両面に接触する剥離機構6をそれぞれ設置すればよく、その場合の剥離機構6は被膜付きフィルム2を介して搬送方向にズラした位置に設置することが好ましい。
【0024】
剥離機構6の周囲には剥離物が飛散するのを防止するための飛散防止トレイ8が設置されている。剥離物が周囲に飛散しないようにできればよく、剥離機構6だけでなく、吐出ノズル7も囲うように配置されていてもよい。その場合には、飛散防止トレイ8には、被膜付きフィルム2および基材フィルム3が出入りするための開口を有する。飛散防止トレイ8の材質は、特に限定される物では無いが、吐出ノズル7から吐出する流体11に有機溶媒などを使用する場合には、耐薬品性を持つ樹脂材やステンレス材とすることが好ましい。
【0025】
巻出装置4は、ロール状に巻かれた被膜付きフィルム2の被膜がロールの内側、外側のいずれの面であっても剥離機構6に被膜が接触するように、巻出方向を切り替えられるよう、巻出装置4が上出しと下出しのいずれにも対応できる機構であることが好ましい。
【0026】
吐出ノズル7は流体11を吹き付けるためのノズルであって、剥離機構6に近接して設置され、被膜付きフィルム2の剥離機構6と接触している側とは反対側の面に向けて流体11を吐出するように設置されている。また図示しないが、吐出ノズル7に流体11を供給するための供給装置も備える。
【0027】
また、被膜を剥離した後の基材フィルムの品質を確認するために、剥離物の混入や被膜の残渣、あるいは工程で付着した環境異物を検出する検査機(図示しない)を巻取装置5の前に設けてもよい。検査機は、基材フィルムの性状に合わせて選定すればよく、透過光や反射光を用いた検査機が好適に用いられる。また、上記検査機で検出した被膜の残渣や工程で付着した環境異物の位置を記録するためのマーキング装置(図示しない)を、検査機と巻取装置5との間に設けてもよい。マーキング装置によるマーキングの方式は、ペンやシール、あるいはレーザーなど、検出対象の位置がマーキングできれば、いかなる方式でもよい。被膜の残渣や工程で付着した環境異物をマーキングしておくことで、再溶融をする前にその箇所を除去することが可能となるため、より安定して再生フィルムを製膜することができ、再生フィルムの品質低下を防ぐこともできる。
【0028】
図2は、被膜剥離装置101の剥離機構6と吐出ノズル7の斜視図である。吐出ノズル7は、剥離機構6を通過する被膜付きフィルム2および基材フィルム3の幅方向の両端部の近傍に向かって、かつ被膜付きフィルム2の剥離機構6と接触している側の面とは反対側の面に向かって流体11を吐出するように2箇所設置されている。吐出ノズル7から流体11を吐出することで、剥離機構6で発生する剥離物が剥離機構6の搬送方向上流側に堆積して、フィルムの幅方向両端に向けて溢れ出るように流動したとしても、被膜付きフィルム2の幅方向端面や剥離機構6と接触している側の面とは反対側の面に回り込むことがない。被膜剥離装置101の吐出ノズル7は、幅方向2箇所に設置しているが、これに限定されるものではなく、幅方向に延在する1つの吐出ノズルであってもよいし、幅方向に3つ以上の吐出ノズルを備えていてもよい。あるいは、搬送方向に複数個設置していてもよい。
【0029】
吐出ノズル7から吐出する流体11は空気や被膜を溶解しうる洗浄液が用いられるが、被膜を剥離した後の基材フィルム3に洗浄液が混入しないことから、特に空気が好適に用いられる。
【0030】
図3は、被膜剥離装置101を上から見た時の剥離機構6と吐出ノズル7の位置を示している。剥離機構6はフィルム搬送方向に対して略直交するように設置され、フィルム幅方向に延在している。ここで吐出ノズル7の位置を説明するために、吐出ノズル7の吐出方向の軸と被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3の端面とがなす角度をα[°]とし、フィルム搬送方向を基準として、両者が水平の時にα=0°と、
図3の紙面向かって上側の吐出ノズル7が反時計回りに角度α[°]の位置に設置された時に+α[°]と、
図3の紙面向かって下側の吐出ノズル7が時計回りに角度α[°]の位置に設置された時に+α[°]と定義する。なお、ここでいう角度α[°]は、
図3の紙面上での角度であって、被膜剥離装置101を上から見た時の角度に相当する。
【0031】
上記の定義を用いた場合、吐出ノズル7の吐出方向の軸は、0°≦α≦+90°であることが好ましい。角度α[°]が+90°を超える場合には、吐出ノズル7から吐出される流体11の流速が搬送方向上流側から下流側に向かう速度成分を有することになる。すなわち、後工程に向かって吐出をすることになって、吐出した流体11によって剥離物が飛散した場合には、搬送方向下流側に位置する基材フィルム3に付着してしまうことがある。一方でα°が0°未満の場合には、剥離機構6の搬送方向上流側に堆積して、被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3の端面に付着しても、流体11を直接吹き付けることができずに、後工程に流出してしまうことがある。
【0032】
吐出ノズル7の吐出方向の軸と被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3の端面とが交差する交点と、剥離機構6の被膜が接触する稜線と被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3の端面とが交差する交点は、略一致しているのが好ましいが、2つの交点の被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3上における距離Lは20mm以下であればよい。20mmを超える場合には、剥離して堆積する被膜に対して効率的に流体11を吹き付けることができず、後工程に流出させてしまうことがある。
【0033】
吐出ノズル7の吐出口から剥離機構6の被膜が接触する稜線と被膜付きフィルム2あるいは基材フィルム3の端面とが交差する交点までの距離rは、近ければ近いほど好ましく、0mm<r≦150mmとすることが好ましい。距離rが0mmとなって吐出ノズル7が剥離機構6の稜線に接触した場合には、吐出ノズル7あるいは剥離機構6が損傷することがある。従って、接触しない程度に近接していることが好ましい。距離rが150mmを超えて設置された場合には、吐出ノズル7から吐出した流体11が周囲に拡散したりして勢いを失って、堆積する剥離物に対して効率的に流体11を吹き付けることができず、後工程に流出させてしまうことがある。なお、ここでの距離rは
図3の紙面上での距離ではなく、紙面鉛直方向の距離も含んだ、実際の距離に相当する。
【0034】
図4は、被膜剥離装置101を側面から見た時の剥離機構6と吐出ノズル7の位置を示している。吐出ノズル7の位置を説明するために、吐出ノズル7の吐出方向の軸と基材フィルム3とがなす角度をβ[°]とし、剥離機構6と基材フィルム3とが接触する位置を中心として、両者が同軸上に位置した時にβ°=0°、吐出ノズル7が基材フィルム3に対して、
図4に図示しているように反時計回りにβ[°]の位置に設置された時に+β[°]と定義する。なお、ここでいう角度β[°]は、
図4の紙面上での角度であって、被膜剥離装置101を側面から見た時の角度に相当する。
【0035】
上記の定義を用いた場合、吐出ノズル7の吐出方向の軸は、0°≦β≦+90°であることが好ましい。β°が0°未満の場合には、吐出ノズル7から吐出される流体11が持つ速度成分のうち、上方に向かう成分が大きくなるため、剥離物が周囲に著しく飛散することがある。またβ°が+90°を超える場合には、吐出ノズル7から吐出される流体11が持つ速度成分のうち、搬送方向上流側から下流側に向かう成分が大きくなる。すなわち、後工程に向かって吐出をすることになって、剥離物が飛散した場合には、搬送方向下流側に位置する基材フィルム3に付着してしまうことがある。
【0036】
また吐出ノズル7の吐出口の開口形状は、流体11を吐出できればよく、剥離物の性状に合わせて、流体の種類や必要な流速を選定し、それに適した形状とすればよい。円形や矩形の開口であっても、スリット状であっても、いかなる形状であってもよく、1つのノズルに複数の開口を設けてあってもよい。
【0037】
図5は、本発明の第2の実施形態の被膜剥離装置201の概略図である。被膜剥離装置201は、被膜付きフィルム2を巻き出す巻出装置4と被膜を剥離した後の基材フィルム3を巻き取る巻取装置5が備えられている。巻出装置4と巻取装置5との間には、被膜付きフィルム2を搬送するための駆動装置9、被膜付きフィルム2に洗浄液211を供給するための洗浄液211を溜めた水槽12(供給装置)と、被膜付きフィルム2から被膜を剥離するための剥離機構6、被膜を剥離した後の基材フィルム3を搬送するための駆動装置10が備えられている。さらに剥離機構6に近接して配置された被膜付きフィルム2に向けて流体11を吹き付けるための吐出ノズル7を備えている。水槽12には洗浄液211を供給するための供給ポンプ13が接続されており、水槽12の液面がオーバーフローして排水されるように隣接した排水槽14を備えている。排水には、水槽12の内部で発生した剥離物が含まれるため、剥離物を分離するための濾過フィルタ15が設置されている。被膜剥離装置201における剥離機構6および吐出ノズル7は、被膜剥離装置101と同じ態様で設置されることが好ましい。吐出ノズル7から吐出する流体11には空気あるいは洗浄液211が用いられる。吹き付けられた流体11によって移動した剥離物を回収するための飛散防止トレイ8を備えておくのがよく、その飛散防止トレイ8にはフィルムが通過する開口を有する。また飛散防止トレイ8は、例えば
図5のように傾斜をつけて設置し、フィルムが通過する開口部が飛散防止トレイ8の最下部に位置しないようにすることで、剥離物や洗浄液が飛散防止トレイ8に溜まっても、水槽12に剥離物や洗浄液が落ちるのを防げる構成にしておくことが好ましい。より好ましくは、開口部よりも下部に排出口(図示しない)を設けて、常時あるいは定期的に、溜まった剥離物を飛散防止トレイ8から排出する。
【0038】
洗浄液211を被膜付きフィルム2に供給する供給装置は、
図5に示した水槽12に限定されず、例えば高圧ノズルを用いたり、スプレーノズルを用いたり、被膜付きフィルム2の被膜全面に均一に洗浄液211が供給できれば、いかなる手段を用いてもよい。
【0039】
洗浄液211を被膜付きフィルム2に供給する場合には、剥離機構6を通過後にも洗浄液が付着している可能性があるため、剥離機構6と巻取装置5との間に乾燥装置(図示しない)を設けてもよい。乾燥装置は巻取前に設けておけばよく、駆動装置10の前後いずれでもよい。乾燥装置を設けることで、巻取装置5で巻き取った被膜を剥離した後の基材フィルム3には、水分が含まれないため、再溶融した後に安定して再生フィルムとして製膜することができる。
【0040】
なお、
図5の被膜剥離装置201において、巻出装置4にセットした被膜付きフィルム2のロールは、被膜が外側になるように巻かれており、剥離機構6が被膜付きフィルム2の被膜表面に直接接触する装置構成となっている。
【0041】
[対象となる被膜付きフィルム]
本発明の被膜付きフィルムの被膜剥離装置、剥離方法、および被膜剥離フィルムの製造方法は、基材フィルムの表面に被膜を有する被膜付きフィルムを対象として、被膜を基材フィルムから剥離して取り除くものであり、被膜は基材フィルムの片面にあっても両面にあってもよく、特に限定されない。
【0042】
被膜を構成する材料は、被膜付きフィルムの使用目的や用途に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0043】
離型フィルムのように、離型性を付与する場合には、被膜の一部に離型成分を含むことが好ましい。ここでいう離型成分とは、被膜表面の水に対する接触角を大きく、すなわち、被膜の表面エネルギーを小さくする成分であることから、例えば、ジメチルシロキサンを主骨格とする硬化型シリコーン樹脂化合物、長鎖アルキル基を有する化合物、フッ素を有する化合物が好ましい。
【0044】
被膜は、要求される機能に応じて、離型成分とその他の異なる成分とが混合していてもよいし、それぞれの層が積層されていてもよい。例えば、被膜付きフィルムの被膜が蒸着によって設けられた金属などの無機物や、コーティングによって設けられたアクリルなどの有機物からなる粘着剤、チタン酸バリウムを主成分とするセラミックグリーンシートなどが例示できる。
【0045】
さらに、環境への負荷等を考慮した水溶性樹脂を含む被膜を有して、被膜を剥離しやすくした被膜付きフィルムも対象となり得る。中でも水溶性樹脂として、水溶性のポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレンアイオノマー系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、エチレン-ビニルアルコール系樹脂、でんぷんのうちの少なくとも1種を主たる成分とするものがより好ましい。
【0046】
水溶性樹脂を含む被膜は、水溶性樹脂を含む単層体であっても、水溶性樹脂を含む2つ以上の層の積層体であっても、水溶性樹脂を含む層と水溶性樹脂を含まない層の積層体であってもよい。
【0047】
[洗浄液]
蒸着によって設けられた金属などの無機物や、コーティングによって設けられたアクリルなどの有機物からなる粘着剤など、一般的に剥離しにくい被膜付きフィルムについては、剥離の前工程として被膜付きフィルムの被膜表面に洗浄液を供給しておくのがよい。その場合、洗浄液にはアルカリ性の洗浄液が好適に用いられ、例えば水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。これらは1種類でもよいし、混合して洗浄液としてもよく、界面活性剤などの添加剤を混合していてもよい。すなわち、剥離する被膜の性状に合わせて、被膜を溶解、膨潤させて、基材フィルムと被膜との結合を弱める作用を有したものを選定するのがよい。
【0048】
特に水溶性樹脂を含む被膜を有する被膜付きフィルムから被膜を剥離する場合には、洗浄液には水を用いるのが好ましい。水を使用することで、有機溶媒等の洗浄液を用いるよりも、環境負荷を軽減することができる。水が主成分の場合には、水の表面エネルギーが高いために、被膜への濡れ性が悪い場合がある。その場合には、被膜との濡れ性を改善して、被膜の溶解、膨潤を促進させるために、界面活性剤やアルコールなどの添加剤を混合して、表面エネルギーを調整してもよい。
【0049】
[洗浄液の供給方法]
洗浄液の供給方法は、一般的に洗浄液を溜めた水槽を用いて、被膜付きフィルムを浸漬させる方法を適用することが多い。その場合、水槽内部の洗浄液に対して溶解する被膜成分の濃度が経時で上昇して、徐々に被膜の剥離性が低下したり、水槽内で剥離した被膜が浮遊したりする。そのため、水槽内部には真新しい洗浄液を供給して、被膜成分が溶解した洗浄液と浮遊する被膜を定期的に排出するのがよい。排出した洗浄液は被膜成分あるいは被膜を濾過などによって除去することで、再び洗浄液として利用してもよい。
【0050】
別の洗浄液の供給方法として、高圧洗浄機を用いて洗浄液を被膜付きフィルムの被膜表面に吹き付けたり、スプレーノズルを用いて被膜付きフィルムの被膜表面に洗浄液をコーティングするように供給したり、水槽を用いなくとも一般に知られるコーティング手法を用いて洗浄液を供給してもよい。そうすることで、水槽を用いた場合に比べて使用する洗浄液が少量でよく、環境負荷が著しく軽減することもある。
【0051】
さらに別の洗浄液の供給方法として、洗浄液に水を用いる場合には、スチーム洗浄機を用いて、スチームの状態の水を被膜付きフィルムの被膜表面に吹き付けてもよい。これにより洗浄液を高温にすることができて、被膜の溶解、膨潤を促進することができる。
【0052】
[被膜剥離方法]
次に本発明の被膜剥離方法について説明する。本発明の被膜剥離方法は、搬送する上記被膜付きフィルムの被膜表面に金属製のプレートあるいは先端が鋭利なブレードなどの剥離機構を直接接触させることで、基材フィルムから被膜を剥離する剥離方法である。剥離機構で被膜を剥離するとともに、剥離機構と接触している上記被膜付きフィルムの両端部の近傍に向けて流体を吹き付けることで、剥離物が剥離機構の搬送方向上流側に堆積して、被膜付きフィルムの両端に溢れ出るように流動してきても、吹き付けた流体によって剥離物を被膜付きフィルムから遠ざけることができて、被膜付きフィルムの端面に付着させることがない。流体の吹き付け方は、被膜付きフィルムの剥離機構と接触している側の面とは反対側の面に向かって吹き付けることがより好ましい。従って、この剥離方法を施した後に巻き取った基材フィルムを再溶融して再生フィルムとして製膜した場合には、剥離物が異物として混入することが無いので、歩留まりを低下させることなく、より安定して再生フィルムを製膜することができ、再生フィルムの品質低下を防ぐこともできる。
【0053】
被膜付きフィルムの両端部に向けて吹き付ける流体は、剥離したい被膜の性状によって選定すればよく、例えばチタン酸バリウムを主成分とするセラミックグリーンシートから被膜を剥離する場合には、剥離機構を接触させることで比較的容易に被膜を剥離することができるため、流体には洗浄液を用いずに、空気を選定するのが好ましく、吹き付ける空気の風速は、剥離した被膜が周囲に舞い上がらないように調整するのがよい。これにより、余計な有機溶媒等の洗浄液を使用することなく、被膜の剥離をすることができる。被膜の性状によっては、剥離した際に細かく粉砕して、被膜が顕著に舞い上がる場合には、空気に加えて水を吹き付けることで舞い上がりを抑制することもできる。この場合、水を使用することで、有機溶媒等の液体を用いるよりも、環境負荷を軽減することができる。
【0054】
一方で剥離しにくい被膜を被膜付きフィルムから被膜を剥離する場合には、上記の通り、剥離の前工程として、アルカリ性の洗浄液を被膜付きフィルムの被膜表面に供給するのがよい。この場合、剥離した被膜には洗浄液が混入して、高い粘性を持っていることがあるため、空気を用いるよりもアルカリ性の洗浄液や水を物理的に吹き付ける方がよい場合がある。特に水溶性樹脂を含む被膜を有する被膜付きフィルムから被膜を剥離する場合には、上記の通り、洗浄液には水を用いるのが好ましい。この場合でも、剥離した被膜には洗浄液が混入して、高い粘性を持っていることがあるため、空気を用いるよりも水を物理的に吹き付ける方がよい場合がある。吹き付ける流体は、剥離した被膜の状態に合わせて、空気あるいは洗浄液から適宜選定すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の被膜付きフィルムの剥離装置および剥離方法に適用できる被膜付きフィルムは、基材フィルムの片面に被膜を有する再生可能な樹脂フィルムや、紙フィルム、金属フィルムなどに適用できるが、これに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0056】
2 被膜付きフィルム
3 基材フィルム
4 巻出装置
5 巻取装置
6 剥離機構
7 吐出ノズル
8 飛散防止トレイ
9,10 駆動装置
11 流体
12 水槽
13 供給ポンプ
14 排水槽
15 濾過フィルタ
101、201 被膜剥離装置