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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142630
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2483 20160101AFI20230928BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230928BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230928BHJP
【FI】
H01M8/2483
H01M8/04 J
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049617
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅也
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA23
5H126BB04
5H126BB05
5H126BB06
5H126EE11
5H127AA07
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA57
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経年後のアノードガスの供給不足を抑制することができる燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】複数の電池セル20が積層されたセルスタック2と、セルスタック2のアノード室22にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、セルスタック2のカソード室24にカソードガスを供給するカソードガス供給流路とを備えた燃料電池システム。スタック本体30には積層方向に延びるアノードガス分配流路44が設けられ、アノードガス供給流路からのアノードガスは、アノードガス分配流路44における複数の電池セル20の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に送給され、アノードガス分配流路44内を軸方向両端側に流れて分配された後に対応する電池セル20のアノード室22に送給される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、カソードガスを供給するためのカソードガス供給手段とを備えた燃料電池システムであって、
前記セルスタックは、前記複数の電池セルを支持するためのスタック本体を備え、前記スタック本体には前記複数の電池セルの積層方向に延びるアノードガス分配流路が設けられ、前記アノードガス分配流路には、前記複数の電池セルのアノード室に連通するアノードガス導入流路が前記積層方向に間隔をおいて設けられており、
前記アノードガス供給流路からのアノードガスは、前記アノードガス分配流路における前記複数の電池セルの前記積層方向における中央側部位に対応する部位から前記アノードガス分配流路に送給され、前記アノードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に対応する前記アノードガス導入流路を通して前記複数の電池セルの前記アノード室に送給されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記スタック本体には、前記アノードガス分配流路と並行に前記積層方向に延びるアノードガス流入流路が設けられ、前記アノードガス流入流路と前記アノードガス分配流路とがアノードガス接続流路を介して連通され、前記アノードガス接続流路は、前記スタック本体における前記複数の電池セルの前記中央側部位に対応する部位に設けられており、前記アノードガス供給流路からのアノードガスは、前記アノードガス流入流路及び前記アノードガス接続流路を通して前記アノードガス分配流路に送給されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記スタック本体には、前記複数の電池セルの積層方向に前記アノードガス分配流路と並行に延びるカソードガス分配流路が設けられ、前記カソードガス分配流路には、前記複数の電池セルのカソード室に連通するカソードガス導入流路が前記積層方向に間隔をおいて設けられ、前記複数の電池セルの前記カソードガス導入流路と前記アノードガス導入流路とは近接して配置されており、
前記カソードガス供給流路からのカソードガスは、前記カソードガス分配流路における前記複数の電池セルの前記積層方向における中央側部位に対応する部位から前記カソードガス分配流路に送給され、前記カソードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に対応する前記カソードガス導入流路を通して前記複数の電池セルの前記アノード室に送給されることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記スタック本体には、前記カソードガス分配流路と並行に前記積層方向に延びるカソードガス流入流路が設けられ、前記カソードガス流入流路と前記カソードガス分配流路とがカソードガス接続流路を介して連通され、前記カソードガス接続流路は、前記スタック本体における前記複数の電池セルの前記中央側部位に対応する部位に設けられており、前記カソードガス供給流路からのカソードガスは、前記カソードガス流入流路及び前記カソードガス接続流路を通して前記カソードガス分配流路に送給されることを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セルが積層されたセルスタックを備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムとして、平板状の電池セルが積層されたセルスタックと、セルスタックのアノード室にアノードガス(燃料ガス)を供給するアノードガス供給流路と、セルスタックのカソードガス室にカソードガス(酸化剤ガス)を供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、カソードガスを供給するためのカソードガス供給手段とを備えたものが知られている。このような燃料電池システムにおいては、セルスタックでの燃料利用率を一定の範囲内に維持する必要があり、この燃料利用率が過剰に高い状態(所謂、アノードガスの不足状態)で運転を継続すると、電池セルが破損し、発電運転の継続が困難となる。
【0003】
平板状の電池セルを複数積層したセルスタックでは、積層方向(即ち、厚み方向)に温度分布を持つようになり、積層方向の中央側部位(所謂、中央段の部位)ほど熱がこもりやすく、この中央側部位の温度がその両端側部位(所謂、端部段の部位)よりも高くなる傾向にある。
【0004】
また、一般的に、燃料電池システムは、経時的に劣化してセルスタックの抵抗が増え、この抵抗が大きくなった部位では発熱量が増える傾向にある。特に、温度が高いセルスタックの中央側部位は、劣化進行が速いため、両端側部位に比べ、更に温度が高くなる。
【0005】
この平板状の電池セルを積層したセルスタックでは、アノードガス供給流路を通して供給されるアノードガスは、初期状態(設置当初の状態)において複数の電池セルに均等に分配されて供給されるように設定される。ところが、アノードガスは、温度が高いほど粘性が大きくなって圧損が大きくなるために、セルスタックの経年劣化によりその温度分布が変わると、この温度分布に起因して、各電池セルのアノード室の流入部の圧損も変わり、この圧損の変動によって各電池セルへのアノードガスの分配量が変化する。
【0006】
例えば、セルスタックの温度の高い部位(中央側部位)ではアノード室の流入部の圧損が大きくなり、これによって、このアノード室へのアノードガスの分配流量が少なくなってアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)が生じ、このアノードガスの供給不足の状態が継続すると、電池セルが破損することになる。
【0007】
このようなことから、セルスタックでのアノードガスの供給不足を解消するようにした燃料電池システムが提案されている。例えば、電池セルごとの抵抗値を計測して各電池セルにおける燃料利用率を把握し、把握した燃料利用率に基づいてアノードガスの供給不足を防ぐようにしたもの(例えば、特許文献1参照)、セルスタックの出力電流ー燃料利用率データを用い、アノードガスの供給流量を調整して燃料利用率が所定値以下となるようにしたもの(例えば、特許文献2参照)、またセルスタックの電圧変化率、抵抗変化率を指標としてアノードガスの供給不足(燃料枯れ)を検知し、アノードガスの供給流量又はセルスタックの発電出力を調整してセルスタックの破損を防止するようにしたもの(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-110666号公報
【特許文献2】特開2006-59550号公報
【特許文献3】特開2008-103198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のこれらの燃料電池システムでは、次の通りの問題がある。例えば、特許文献1の燃料電池システムでは、アノードガスの供給不足を検知したときに、セルスタックの電池セルの全てに対してアノードガスの供給流量を増やすことになるが、このようなアノードガスの供給制御では、アノードガスの供給不足が発生していない電池セルに対してもアノードガスの供給流量を増やすことになり、その結果、発電効率が低下するという問題がある。
【0010】
また、特許文献2の燃料電池システムでは、セルスタック全体としての燃料利用率を把握することができるが、セルスタックの一部の電池セルについての燃料利用率を把握することができず、セルスタックの部分的なアノードガスの供給不足を解消することができない。
【0011】
更に、特許文献3の燃料電池システムでは、セルスタックでのアノードガスの供給不足を検知すると、セルスタックの電池セルの全てに対してアノードガスの供給流量を増やすことになるが、このようなアノードガスの供給制御では、上述したように、アノードガスの供給不足が発生していない電池セルに対してもアノードガスの供給流量を増やすことになって発電効率が低下する。
【0012】
本発明の目的は、経年後のアノードガスの供給不足を抑制することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムは、イオンを伝導する電解質層、前記電解質層の片面側に配設されたアノード及び前記電解質層の他面側に配設されたカソードを有する複数の電池セルが積層されたセルスタックと、前記セルスタックのアノード室にアノードガスを供給するアノードガス供給流路と、前記セルスタックのカソード室にカソードガスを供給するカソードガス供給流路と、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段と、カソードガスを供給するためのカソードガス供給手段とを備えた燃料電池システムであって、
前記セルスタックは、前記複数の電池セルを支持するためのスタック本体を備え、前記スタック本体には前記複数の電池セルの積層方向に延びるアノードガス分配流路が設けられ、前記アノードガス分配流路には、前記複数の電池セルのアノード室に連通するアノードガス導入流路が前記積層方向に間隔をおいて設けられており、
前記アノードガス供給流路からのアノードガスは、前記アノードガス分配流路における前記複数の電池セルの前記積層方向における中央側部位に対応する部位から前記アノードガス分配流路に送給され、前記アノードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に対応する前記アノードガス導入流路を通して前記複数の電池セルの前記アノード室に送給されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムでは、前記スタック本体には、前記アノードガス分配流路と並行に前記積層方向に延びるアノードガス流入流路が設けられ、前記アノードガス流入流路と前記アノードガス分配流路とがアノードガス接続流路を介して連通され、前記アノードガス接続流路は、前記スタック本体における前記複数の電池セルの前記中央側部位に対応する部位に設けられており、前記アノードガス供給流路からのアノードガスは、前記アノードガス流入流路及び前記アノードガス接続流路を通して前記アノードガス分配流路に送給されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムでは、前記スタック本体には前記複数の電池セルの積層方向に前記アノードガス分配流路と並行に延びるカソードガス分配流路が設けられ、前記カソードガス分配流路には、前記複数の電池セルのカソード室に連通するカソードガス導入流路が前記積層方向に間隔をおいて設けられ、前記複数の電池セルの前記カソードガス導入流路と前記アノードガス導入流路とは近接して配置されており、
前記カソードガス供給流路からのカソードガスは、前記カソードガス分配流路における前記複数の電池セルの前記積層方向における中央側部位に対応する部位から前記カソードガス分配流路に送給され、前記カソードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に対応する前記カソードガス導入流路を通して前記複数の電池セルの前記カソード室に送給されることを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムでは、前記スタック本体には、前記カソードガス分配流路と並行に前記積層方向に延びるカソードガス流入流路が設けられ、前記カソードガス流入流路と前記カソードガス分配流路とがカソードガス接続流路を介して連通され、前記カソードガス接続流路は、前記スタック本体における前記複数の電池セルの前記中央側部位に対応する部位に設けられており、前記カソードガス供給流路からのカソードガスは、前記カソードガス流入流路及び前記カソードガス接続流路を通して前記カソードガス分配流路に送給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の燃料電池システムによれば、複数の電池セルを支持するためのスタック本体には、複数の電池セルのアノード室にそれぞれ連通するアノードガス分配流路が設けられ、アノードガス供給流路からのアノードガスは、複数の電池セルの積層方向における中央側部位に対応する部位からアノードガス分配流路に送給され、このアノードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に複数の電池セルのアノード室に送給されるので、複数の電池セルの積層方向における中央側部位に対応する部位には温度の低い状態のアノードガスが送給され、またアノードガス分配流路に流入したアノードガスは温められながらその両端側に流れ、セルスタックにおけるアノードガスの流れをこのようにすることによって、セルスタックの中央側部位と両端側部位のアノードガス導入流路の温度が均一化され、その結果、アノードガスの供給不足(燃料枯れ)を回避することができる。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載の燃料電池システムによれば、スタック本体には、アノードガス分配流路と並行にアノードガス流入流路が設けられ、このアノードガス流入流路とアノードガス分配流路とが、複数の電池セルの中央側部位に対応する部位にてアノードガス接続流路を介して連通されているので、アノードガス流入流路を通して供給されたアノードガスはアノード接続流路を通してアノード分配流路に送給され、このアノードガス分配流路に流入したアノードガスは温められながらその両端側に流れ、アノードガスをこのように流すことによって、セルスタックの中央側部位と両端側部位のアノードガス導入流路の温度を均一化することができる。
【0019】
また、本発明の請求項3に記載の燃料電池システムによれば、スタック本体には、アノードガス分配流路と並行に延びるカソード分配流路が設けられ、このカソード分配流路には複数の電池セルのカソード室に連通するカソードガス導入流路が設けられ、カソードガス供給流路からのカソードガスは、複数の電池セルの積層方向における中央側部位に対応する部位からカソードガス分配流路に送給され、このカソードガス分配流路内を両端側に流れて分配された後に複数の電池セルのカソード室に送給されるので、複数の電池セルの積層方向における中央側部位に対応する部位には温度の低い状態のカソードガスが送給され、またカソードガス分配流路に流入したカソードガスは温められながらその両端側に流れ、セルスタックにおけるカソードガスの流れをこのようにすることによって、セルスタックの中央側部位と両端側部位のカソードガス導入流路の温度の均一化を図ることができる。また、複数の電池セルのカソード導入流路とアノードガス導入流路とが近接して配置されているので、カソードガスの温度の均一化がアノードガス導入流路に寄与し、これによって、アノードガス導入流路の温度のより均一化を図ることができる。
【0020】
更に、本発明の請求項4に記載の燃料電池システムによれば、スタック本体には、カソードガス分配流路と並行にカソードガス流入流路が設けられ、このカソードガス流入流路とカソードガス分配流路とが、複数の電池セルの中央側部位に対応する部位にてカソードガス接続流路を介して連通されているので、カソードガス流入流路を通して供給されたカソードガスはカソード接続流路を通してカソードガス分配流路に送給され、このカソードガス分配流路に流入したカソードガスは温められながらその両端側に流れ、カソードガスをこのように流すことによって、セルスタックの中央側部位と両端側部位のカソードガス導入流路の温度が均一化されるとともに、これがアノードガス導入流路にも寄与し、アノードガス導入流路の温度のより一層の均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に従う燃料電池システムの第1の実施形態を簡略的に示す全体図。
図2図1の燃料電池システムのセルスタックを簡略的に示す簡略斜視図。
図3図2のセルスタックを簡略的に示す平面図。
図4図2のセルスタックを簡略的に示す断面図。
図5】本発明に従う燃料電池システムの第2の実施形態におけるセルスタックを簡略的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う燃料電池システムの各種実施形態について説明する。まず、図1図4を参照して、本発明に従う燃料電池システムの第1の実施形態について説明する。
【0023】
図1において、第1の実施形態の燃料電池システムは、アノードガス(例えば、燃料ガスとしての水素など)及びカソードガス(例えば、酸化剤ガスとしての空気など)による電気化学反応により発電するセルスタック2を備え、このセルスタック2の流入側に、アノードガス(燃料ガス)を供給するアノードガス供給流路4及びカソードガス(酸化剤ガス)を供給するカソードガス供給流路6が設けられている。また、このセルスタック2の排出側に、アノードオフガスを排出するアノードオフガス排出流路8及びカソードオフガスを排出するカソードオフガス排出流路10が設けられている。
【0024】
アノードガス供給流路4には、アノードガスを供給するためのアノードガス供給手段12が設けられ、このアノードガス供給手段12は、例えば燃料ポンプ、燃料ブロアなどから構成される。このアノードガス供給流路4の上流側は、アノードガス供給源としての例えばアノードガスボンベ18に接続され、アノードガスボンベ18からのアノードガスは、がアノードガス供給流路4を通して供給される。また、カソードガス供給流路6には、カソードガス供給手段としての例えば空気ブロア16が配設され、カソードガスはカソードガス供給流路4を通して供給される。
【0025】
主として図2及び図4を参照してセルスタック2について説明すると、図示セルスタック2は、図2及び図4において上下方向に積層された複数の電池セル20を備えており、各電池セル20は、実質上同じ形状の平板状セルから構成されている。各電池セル20は、具体的に図示していないが、例えばイオンを伝導する固体酸化物電解質層と、この電解質層の片側(図4において下側)に配設されたアノード(燃料極)と、この電解質層の他側(図4において上側)に配設されたカソード(空気極)とを備え、各電池セル20間にインターコネクタ26が配設され、各電池セル20のアノード側にアノード室22が規定され、そのカソード側にカソード室24が規定されている。複数の電池セル20は、インターコネクタ26を介して電気的に接続され、これら電池セル20の発電電力はセルスタック2の両端部に配設された集電板28に集電されて取り出される。
【0026】
この実施形態では、セルスタック2は、複数の電池セル20を支持するためのスタック本体30を備え、このスタック本体30にアノードガス供給流路4に連通するアノードガス流入流路32と、アノードオフガス排出流路8に連通するアノードオフガス流出流路34が設けられている。この実施形態では、アノードガス流入流路32は、アノードガス流入マニホールド36から構成され、このアノードガス流入マニホールド36は、複数の電池セル20の積層方向に延びている。また、アノードオフガス流出流路34は、アノードオフガス流出マニホールド38から構成され、このアノードオフガス流出マニホールド38は、複数の電池セル20の積層方向に延びている。このアノードオフガス流出マニホールド38には、セルスタック2の複数の電池セル20のアノード室22の各々に対応して、この積層方向に間隔をおいてアノードガス導出流路40(図4参照)が設けられている。
【0027】
この実施形態では、アノードガス流入マニホールド36に並行に延びるアノードガス分配マニホールド42が設けられ、このアノードガス分配マニホールド42は、アノードガスを各電池セル20のアノード室22に分配するアノードガス分配流路44を規定する。このアノードガス分配マニホールド42は、複数の電池セル20の積層方向に延び、各電池セル20のアノード室22に対応して、その積層方向に間隔をおいてアノードガス導入流路46が設けられている。
【0028】
アノードガス流入マニホールド36(アノードガス流入流路32)とアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)とは、例えばアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50を規定する)を介して接続されている。このアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50)は、図2に示すように、セルスタック2(複数の電池セル20)の積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応して設けられ、このアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50)が、アノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)における、複数の電池セル20の積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に接続される。
【0029】
このスタック本体30には、更に、カソードガス供給流路6に連通するカソードガス流入流路54と、アノードオフガス排出流路10に連通するアノードオフガス流出流路56が設けられている。この実施形態では、カソードガス流入流路54は、カソードガス流入分配マニホールド58から構成され、このカソードガス流入分配マニホールド58は、複数の電池セル20の積層方向に延びている。また、カソードオフガス流出流路56は、カソードオフガス流出マニホールド60から構成され、このカソードオフガス流出マニホールド60は、複数の電池セル20の積層方向に延びている。
【0030】
このカソードガス流入分配マニホールド58には、セルスタック2の複数の電池セル20のカソード室24の各々に対応して、複数の電池セル20の積層方向に間隔をおいてカソードガス導入流路62(図4参照)が設けられ、またカソードオフガス流出マニホールド56には、セルスタック2の複数の電池セル20のカソード室22の各々に対応して、この積層方向に間隔をおいてカソードガス導出流路64(図4参照)が設けられている。
【0031】
このセルスタック2においては、アノードガス供給流路4を通して供給されるアノードガスは、図4に実線の矢印で示すように、アノードガス流入マニホールド36(アノードガス流入流路32)及びアノードガス接続マニホールド42(アノードガス接続流路44)を通してアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)に送給され、このアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)から対応するアノードガス導入流路46を通して各電池セル20のアノード室22に送給される。
【0032】
このとき、温度の低いアノードガスが、アノードガス流入マニホールド34(アノードガス流入流路32)及びアノードガス接続マニホールド42(アノードガス接続流路44)を通してアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)に送給されるので、セルスタック2の積層方向中央側部位(即ち、複数の電池セル20の中央段部位)では温度の低いアノードガスが流れ、これによって、温度が上昇しやすいセルスタック2の中央側部位(複数の電池セル20の中央段部位)の温度上昇を抑えられ、またアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)に流入したアノードガスは、図2及び図4から理解されるように、アノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)における、セルスタック2の積層方向中央側部位(中央段部位)に対応する部位(アノードガス接続マニホールド48が接続された部位)から両端側に流れ、この流れの際に温められたアノードガスがアノードガス導入流路46を通して対応する電池セル20のアノード24室に送給され、このようにアノードガスを流すことによって、アノードガス導入流路46の温度の均一化を図ることができ、その結果、経年でセルスタックの中央側部位が高温となり、温度分布が変化することによって発生するアノードガス供給不足(所謂、燃料枯れ)を回避することができる。
【0033】
また、カソードガス供給流路6を通して供給されるカソードガスは、図4に破線の矢印で示すように、カソードガス流入分配マニホールド58(カソードガス流入流路54)に送給され、このカソードガス流入分配マニホールド58(カソードガス流入流路54)にて分配された後に対応するカソードガス導入流路62を通して各電池セル20のカソード室24に送給される。
【0034】
セルスタック2の各電池セル20では、アノードガス供給流路4、アノードガス流入流路32及びアノードガス分配流路44を通してアノード室22に送給されたアノードガスと、カソードガス供給流路6を通してカソード室24に送給されたカソードガスとが電気化学反応を行い、この電気化学反応により発電が行われる。
【0035】
図1に戻って、この燃料電池システムでは、セルスタック2及び燃焼器72は、外面が断熱材で覆われた高温モジュール74により規定された高温空間76に収容されている。電池セル20のアノード室22(図4参照)からのアノードオフガス及びカソード室24(図4参照)からのカソードオフガスは燃焼器72に送給され、この燃焼器72にてアノードオフガスが燃焼され、この燃焼熱により高温モジュール74内が高温状態に保持され、燃焼後の燃焼排気ガスは、燃焼排気ガス排出流路78を通して外部に排出される。
【0036】
従来の燃料電池システムでは、稼働時間が長くなるとセルスタックに経時劣化が生じてセルスタック2の温度、特にその中央側部位(中央段部位)の電池セル20の温度が上昇する傾向にあり、この電池セル20の温度が上昇すると、アノード室22に流入するアノードガスの粘性が大きくなり、このアノード室22に流入するアノードガスの流入流量が少なくなってアノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)が生じるおそれがある。
【0037】
これに対して、この実施形態の燃料電池システムでは、アノードガス供給流路4からのアノードガスは、上述したように、アノードガス流入流路32及びアノードガス接続流路44を通してアノードガス分配流路44における、セルスタック2の積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に送給されるので、この低い温度のアノードガスがセルスタック2の積層方向中央側部位(中央段部位)に送給され、これによって、温度が上昇しやすいセルスタック2の中央側部位(中央段部位)の温度上昇を抑えることができ、またアノードガス分配流路44に流入したアノードガスはその両端に向かって流れ、この流れの際に温められたアノードガスがアノードガス導入流路46を通して対応する電池セル20のアノード24室に送給され、このようにアノードガスを流すことによって、アノードガス導入流路46の温度の均一化を図ることができ、アノードガスの供給不足(所謂、燃料枯れ)を回避することができる。
【0038】
上述した実施形態では、アノードガス流入マニホールド36(アノードガス流入流路32)とアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)とをアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50)を介して接続しているが、このアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50)を省略し、アノードガス流入マニホールド36(アノードガス流入流路32)をアノードガス分配マニホールド42(アノードガス分配流路44)に直接的に接続するようにしてもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、セルスタックのアノード室に供給されるアノードガスを利用してアノードガス導入流路の温度の均一化を図っているが、このアノードガスに加えてセルスタックのカソード室に供給されるカソードガスを利用してアノードガス導入流路の一層の均一化を図るようにしてもよい。
【0040】
本発明の燃料電池システムの第2の実施形態におけるセルスタックを示す図5において、この形態では、セルスタック2Aは、複数の電池セル20を支持するためのスタック本体30Aを備え、このスタック本体30Aには、アノードガス供給流路に連通するアノードガス流入流路32と、アノードオフガス排出流路に連通するアノードオフガス流出流路34が設けられている。アノードガス流入流路32は、アノードガス流入マニホールド36から構成され、このアノードガス流入マニホールド36は、複数の電池セル20の積層方向に延び、この積層方向に間隔を置いて各電池セルのアノード室に対応してアノードガス導入流路(図示せず)が設けられる。
【0041】
また、アノードガス流入流路32に並行にアノードガス分配流路44が設けられ、このアノードガス分配流路44はアノードガス分配マニホールド42から構成され、アノードガス分配流路44(アノードガス分配マニホールド42)とアノードガス流入流路32(アノードガス流入マニホールド36)とがアノードガス接続流路50(アノードガス接続マニホールド)を介して接続されている。アノードガスの流入側の構成は、上述した第1の実施形態と同様でよい。
【0042】
また、アノードオフガス流出流路34は、上述した実施形態と同様に、アノードオフガス流出マニホールド38から構成され、このアノードガス流出マニホールド38には、この積層方向に間隔をおいて各電池セルのアノード室に対応してアノードガス導出流路が設けられる。
【0043】
このスタック本体30Aには、更に、カソードガス供給流路に連通するカソードガス流入流路54Aと、このカソードガスを複数の電池セルに分配するカソードガス分配流路80と、カソードオフガス排出流路に連通するカソードオフガス流出流路56とが設けられている。
【0044】
この第2の実施形態では、カソードガス流入流路54Aは、カソードガス流入マニホールド58Aから構成され、このカソードガス流入マニホールド58Aは、複数の電池セルの積層方向に延びている。また、カソードガス分配流路80は、複数の電池セルの積層方向に延びるカソードガス分配マニホールド82から構成され、このカソードガス分配マニホールド82には、複数の電池セルのカソード室に対応して、それらの積層方向に間隔をおいてカソード導入流路が設けられる。更に、カソードオフガス流出流路56は、上述した実施形態と同様に、カソードオフガス流出マニホールド60から構成され、このカソードガス流出マニホールド60には、この積層方向に間隔をおいて各電池セルのカソード室に対応してカソードガス導出流路が設けられる。
【0045】
この第2の実施形態では、カソードガス流入マニホールド58A(カソードガス流入流路54A)とカソードガス分配マニホールド82(カソードガス分配流路80)とは、例えばカソードガス接続マニホールド(カソードガス接続流路84)を介して接続される。このカソードガス接続マニホールド(カソードガス接続流路84)は、上述した実施形態のアノードガス接続マニホールド48(アノードガス接続流路50)と同様に、セルスタック2(複数の電池セル)の積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応して設けられ、このカソードガス接続マニホールド(カソードガス接続流路84)が、カソードガス分配マニホールド82(カソードガス分配流路80)における、セルスタック(複数の電池セル)の積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に接続される。
【0046】
この第2の実施形態では、図5に示すように、アノードガス分配流路44(アノードガス分配マニホールド42)とカソードガス分配流路80(カソードガス分配マニホールド82)とが、複数の電池セルの積層方向に並行して延びている。このカソードガス分配流路80(カソードガス分配マニホールド82)には、セルスタック2Aのカソード室に連通するカソードガス導入流路(図示せず)が設けられ、各電池セルのカソードガス導入流路はそのアノードガス導入流路に近接して設けられる。
【0047】
この第2の実施形態では、アノードガス供給流路からのアノードガスは、アノードガス流入流路32及びアノードガス接続流路50を通してアノードガス分配流路44における、セルスタックの積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に送給されるので、この低い温度のアノードガスがセルスタックの積層方向中央側部位(中央段部位)に送給され、その後このアノードガス分配流路44内をその中央側部位から両端側部位に流れるようになり、このようにアノードガスを流すことによって、複数の電池セルのアノードガス導入流路(即ち、アノード室の入口部)の温度の均一化を図ることができる。
【0048】
加えて、この第2の実施形態では、カソードガス供給流路からのカソードガスは、カソードガス流入流路54A及びカソードガス接続流路84を通してカソードガス分配流路80における、セルスタックの積層方向の中央側部位(中央段部位)に対応する部位に送給されるので、この低い温度のカソードガスがセルスタックの積層方向中央側部位(中央段部位)に送給され、その後このカソードガス分配流路80内をその中央側部位から両端側部位に流れるようになり、このようにカソードガスを流すことによって、複数の電池セルのカソードガス導入流路(即ち、カソード室の入口部)の温度の均一化が図られる。この場合、各電池セルのアノードガス導入流路とカソードガス導入流路とが近接して配置されているので、カソードガス導入流路の温度の均一化の影響がアノードガス導入流路の温度にも及び、その結果、複数の電池セルのアノードガス導入流路(アノード室の入口部)の温度のより一層の均一化を図ることができる。
【0049】
この実施形態でも、カソードガス流入マニホールド58A(カソードガス流入流路54A)とカソードガス分配マニホールド82(カソードガス分配流路80)とをカソードガス接続マニホールド(カソードガス接続流路84)を介して接続しているが、このカソードガス接続マニホールド(アノードガス接続流路84)を省略し、カソードガス流入マニホールド58A(カソードガス流入流路54A)をカソードガス分配マニホールド82(カソードガス分配流路80)に直接的に接続するようにしてもよい。
【0050】
以上、本発明に従う固体酸化物形燃料電池システムの種々の実施形態について説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変更乃至修正が可能である。
【0051】
例えば、上述した実施形態では、本発明をセルスタックとして固体酸化物形のもの(SOFC)に適用して説明したが、この形態のものに限定されず、溶融炭酸塩形のもの(MCFC)、リン酸形のもの(PAFC)などにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
2 セルスタック
4 アノードガス供給流路
6 カソードガス供給流路
12 燃料ブロア(アノードガス供給手段)
16 空気ブロア
20 電池セル
22 アノード室
24 カソード室
32 アノードガス流入流路
34 アノードガス流出流路
44 アノードガス分配流路
46 アノードガス導入流路
54,54A カソードガス流入流路
56 カソードガス流出流路
62 カソードガス導入流路
80 カソードガス分配流路






図1
図2
図3
図4
図5