(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142635
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 21/02 20060101AFI20230928BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20230928BHJP
F02M 61/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F02M21/02 G
F02M61/16 K
F02M61/16 M
F02M61/18 350Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049629
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】小野 元昭
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066AB05
3G066BA46
3G066CA21
(57)【要約】
【課題】耐久性を向上可能な燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射装置1は、エンジン100の燃焼室106に向けて水素ガスを含む燃料Fを噴射する燃料噴射装置1であって、燃料Fの噴射孔21pが開口する第1表面21sを有する弁座部(本体2、先端部21)と、第1表面21sに対向する第2表面31sを有し、第1表面21sと第2表面31sとの距離が変化するように駆動されることにより噴射孔21pの開閉を行うための弁体(ニードル3、バルブ部31)と、第1表面21sと第2表面31sとの間に介在し、噴射孔21pの閉状態において第1表面21s及び第2表面31sに接触することにより噴射孔21pをシールするシール部材50と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室に向けて水素ガスを含む燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
前記燃料の噴射孔が開口する第1表面を有する弁座部と、
前記第1表面に対向する第2表面を有し、前記第1表面と前記第2表面との距離が変化するように駆動されることにより前記噴射孔の開閉を行うための弁体と、
前記第1表面と前記第2表面との間に介在し、前記噴射孔の閉状態において前記第1表面及び前記第2表面に接触することにより前記噴射孔をシールするシール部材と、
を備える燃料噴射装置。
【請求項2】
前記シール部材は、カーボンナノチューブを含む、
請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記第1表面に設けられている、
請求項1又は2に記載の燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ディーゼルエンジンの燃料噴射装置が記載されている。この燃料噴射装置では、ノズルボディの内部にノズルニードルが軸方向に移動可能に収容されている。ノズルボディには、ノズルニードルの先端部が着座する弁座が形成されている。ノズルボディの先端部には、複数の燃料噴射孔が形成されている。この燃料噴射装置では、コモンレールから供給された高圧の補助燃料が、ノズルボディの内部に貯留され、ノズルニードルの移動により、燃料噴射孔を通じてエンジンの燃焼室に噴射される。また、ノズルニードルが弁座に着座するとき、ノズルニードルが弁孔を閉じ、燃料供給部と燃料噴射孔とが遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の燃料噴射装置では、ノズルニードルの先端である弁体が、ノズルボディの弁座に開口する燃料噴射孔の開閉を行う。このため、弁体及び弁座に摩耗が生じる。特に、エンジンでは、例えば数十MPaといった高圧下での燃料噴射が求められるため、弁体の弁座への押し付け力が強くなる。さらに、燃料が水素ガスである場合には、燃料が軽油やガソリンである場合と比較して、弁体と弁座との間に潤滑剤(軽油やガソリン)が介在しない。この結果、弁体及び弁座の摩耗が顕著となり、運転時間の制限となる。換言すれば、高圧下における燃料噴射装置の耐久性の向上が望まれている。
【0005】
本開示は、耐久性を向上可能な燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る燃料噴射装置は、エンジンの燃焼室に向けて水素ガスを含む燃料を噴射する燃料噴射装置であって、燃料の噴射孔が開口する第1表面を有する弁座部と、第1表面に対向する第2表面を有し、第1表面と第2表面との距離が変化するように駆動されることにより噴射孔の開閉を行うための弁体と、第1表面と第2表面との間に介在し、噴射孔の閉状態において第1表面及び第2表面に接触することにより噴射孔をシールするシール部材と、を備える。
【0007】
この燃料噴射装置では、弁座部における噴射孔が開口する第1表面と、弁体における当該第1表面に対向する第2表面との間に、シール部材が介在されている。このため、弁体が噴射孔を閉状態とした場合には、弁座部の第1表面と弁体の第2表面に該シール部材が接触し、噴射孔がシールされる。したがって、噴射孔が確実に封じられると共に、弁体及び弁座部の摩耗が抑制される。このように、この燃料噴射装置によれば、高圧下(エンジンの燃焼室に燃料を噴射する場合)において、耐久性が向上される。
【0008】
本開示に係る燃料噴射装置では、シール部材は、カーボンナノチューブを含んでもよい。この場合、弁体及び弁座部の摩耗をより確実に抑制して耐久性を向上可能である。
【0009】
本開示に係る燃料噴射装置では、シール部材は、第1表面に設けられていてもよい。この場合、耐久性の向上に際して、駆動部分である弁体の重量増加が避けられる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、耐久性を向上可能な燃料噴射装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るエンジンの一部を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたインジェクタを示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されたインジェクタを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して一実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。なお、各図において、同一の要素又は相当する要素には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、一実施形態に係るエンジンの一部を示す模式的な断面図である。
図1に示されるように、エンジン100は、例えば車両に搭載されている。エンジン100は、シリンダブロック102と、シリンダブロック102の上側に配置されたシリンダヘッド103と、シリンダブロック102に圧入された複数(
図1では1つのみ図示)のシリンダライナ104と、シリンダライナ104内に往復昇降可能に配置されたピストン105と、を備えている。シリンダヘッド103とシリンダライナ104とピストン105とで囲まれる空間は、燃焼室106を画成している。
【0014】
シリンダヘッド103には、燃焼室106と連通された吸気ポート107及び排気ポート108が設けられている。吸気ポート107は、吸気バルブ109により開閉される。排気ポート108は、排気バルブ110により開閉される。また、シリンダヘッド103には、燃焼室106に燃料を噴射する燃料噴射装置1が取り付けられている。
【0015】
図2及び
図3は、
図1に示された燃料噴射装置を示す概略断面図である。
図4は、
図2の要部拡大図である。
図2~4に示される燃料噴射装置1は、エンジン100の燃焼室106に燃料Fを噴射する装置である。燃料Fは、水素ガスを含む。一例として燃料Fは水素ガスである。この場合、エンジン100は水素エンジンである。なお、
図2では、燃料Fを噴射していない状態の燃料噴射装置1が示され、
図3では、燃料Fを噴射している状態の燃料噴射装置1が示されている。
【0016】
燃料噴射装置1は、ニードル3を備えている。ニードル3は、本体2の内部に収容されている。ニードル3は、燃料Fを噴射孔21pから噴射させるための弁体として機能する。ニードル3は、例えば、円柱状に形成される。本体2は、円筒状に形成され、ニードル3を軸方向に対し摺動可能に収容している。ニードル3は、先端側からバルブ部31、拡径部32及びピストン部33を形成している。
【0017】
バルブ部31は先端を先細りとした形状に形成され、その先端が弁体として機能する。バルブ部31は、バルブ部31より大きく形成される第一室22に収容されている。拡径部32は、バルブ部31の基端側に形成され、バルブ部31より拡径した形状となっている。拡径部32は、第一室22に収容されている。拡径部32の外径は、第一室22の内径と同じ又はほぼ同じ径とされている。拡径部32の外周面と第一室22の内周面の間に隙間ができないように、拡径部32が形成されている。
【0018】
拡径部32にはスプリング23が掛止されている。スプリング23は、本体2に反力をとってニードル3を先端側へ付勢する付勢部材である。拡径部32の基端側には、ピストン部33が形成されている。ピストン部33は、円柱状に形成され、第二室24に収容されている。ピストン部33の外径は、第二室24の内径と同じ又はほぼ同じ径とされている。ピストン部33の外周面と第二室24の内周面の間に隙間ができないように、ピストン部33が形成されている。第二室24には、制御室24aが形成されている。制御室24aは、第二室24のうちピストン部33の端面33aで区画される領域である。
【0019】
本体2には、燃料Fの供給路26が形成されている。供給路26は、本体2の外部から注入された燃料Fを本体2の先端側へ供給するための燃料供給路である。例えば、燃料Fは、図示しない燃料タンクからフィルタ、ポンプ及びコモンレールを介して燃料噴射装置1に供給され、高圧状態となっている。供給路26は、途中で分岐しており、第一室22及び制御室24aに連通している。
【0020】
本体2の先端部21には、噴射孔21p及びサック部21aが形成されている。噴射孔21pは、燃料噴射装置1から燃料Fを噴射させるための孔である。噴射孔21pは、例えば複数形成される。サック部21aは、噴射孔21pに連通する領域である。サック部21a及び噴射孔21pは、バルブ部31の閉弁動作により第一室22から遮断され、且つ、バルブ部31の開弁動作により第一室22と連通される。このように、本体2の先端部21は、弁体としてのバルブ部31と対を成す弁座部として機能する。
【0021】
本体2には、コントロールバルブ4が設けられている。コントロールバルブ4は、制御室24aの燃料Fの圧力を調整してニードル3を移動させる弁体である。コントロールバルブ4は、弁室27に収容されている。弁室27は、制御室24aと流出路27aを通じて連通している。コントロールバルブ4は、スプリング41により付勢され、流出路27aの入り口に押し付けられている。弁室27には、ソレノイド5が設けられている。
【0022】
ソレノイド5は、コントロールバルブ4を移動させる駆動部として機能する。ソレノイド5は、図示しない電子制御ユニットからの制御信号に従って作動する。ソレノイド5がオフ状態の場合、コントロールバルブ4は、閉弁状態である。つまり、コントロールバルブ4は、流出路27aの入り口を閉じている。一方、ソレノイド5がオン状態となった場合、コントロールバルブ4は、開弁状態となる。つまり、コントロールバルブ4は、スプリング41の付勢に抗して流出路27aの入り口から離間し、流出路27aと弁室27を連通させる。本体2には、リターン路28が形成されている。リターン路28は、弁室27と連通している。リターン路28は、供給路26に流入した燃料Fのうちの一部を燃料タンクへ戻すための流路である。つまり、リターン路28は、供給路26に流入し、噴射孔21pから噴射されなかった燃料Fを燃料タンクへ戻す。
【0023】
燃料Fの噴射前において、コントロールバルブ4により流出路27aが閉じられている。このため、制御室24aから弁室27への燃料Fの流入はない。従って、制御室24aと第一室22は、同じ圧力となっており、ニードル3は、スプリング23の付勢により先端側へ移動し閉弁した状態となっている。
【0024】
このとき、ソレノイド5に制御信号が入力され、ソレノイド5が所定の時間だけオン状態となる。これにより、ソレノイド5が作動して、コントロールバルブ4がソレノイド5側へ移動する。つまり、コントロールバルブ4が流出路27aの入り口から離間し、流出路27aと弁室27が連通する。このため、流出路27aを通じて制御室24aの燃料Fが弁室27へ流れ込み、制御室24aの圧力が低減する。これにより、ニードル3が制御室24a側へ移動し、バルブ部31が第一室22の壁面(後述する第1表面21s)から離間する。そして、燃料Fが第一室22からサック部21aへ流入し、噴射孔21pから噴射される。
【0025】
このように、燃料噴射装置1では、本体2及び本体2の先端部21は、燃料Fの噴射孔21pが開口する第1表面21sを有する弁座部であり、ニードル3及びニードル3のバルブ部31は、第1表面21sに対向する第2表面31sを有し、第1表面21sと第2表面31sとの距離が変化するように駆動されることにより、噴射孔21pの開閉を行うための弁体である(
図4参照)。
【0026】
第1表面21sは、第一室22の内壁面であり、第一室22の先端に向かうにつれて縮小するテーパ状をなしている。ここでは、第1表面21sは、その先端部が噴射孔21pの形成により欠落された円錐状を呈している。換言すれば、ニードル3の軸方向(駆動方向)からみたとき、第1表面21sの内縁によって噴射孔21pの開口が画定される。
【0027】
第2表面31sは、第一室22内において第1表面21sに略平行な部分を有するように形成されている。ここでは、第2表面31sは、バルブ部31の先端部31aの外表面であり、第一室22の先端に向かうにつれて縮小するテーパ状をなしており、具体的には円錐状である。
【0028】
そして、第1表面21sと第2表面31sとの間には、シール部材50が介在されている。ここでは、シール部材50は、第1表面21sに設けられている。シール部材50は、ニードル3の軸方向からみて噴射孔21pに通じるサック部21aの開口部を囲うように設けられている。シール部材50は、カーボンナノチューブを含む。一例として、シール部材50は、高温域まで粘弾性をもつ耐熱粘弾性カーボンナノチューブから構成されており、カーボンナノチューブ複合材料のシート又は塗膜である。
【0029】
このようなシール部材50は、噴射孔21pの閉状態(第2表面31sが第1表面21sに最近接した状態)において、第1表面21s及び第2表面31sに接触することにより、サック部21aの開口部を囲ってシールすることにより、噴射孔21pをシールする。したがって、燃料噴射装置1では、噴射孔21pの閉状態においても、シール部材50によって第1表面21sと第2表面31sとが直接接触することが避けられる。なお、第1表面21sと第2表面31sとの距離が拡大するようにニードル3が駆動され、噴射孔21pが開状態とされるときには、シール部材50は第1表面21s側に残存する(
図3参照)。
【0030】
以上説明したように、燃料噴射装置1では、本体2の先端部21(弁座部)における噴射孔21pが開口する第1表面21sと、ニードル3のバルブ部31(弁体)における当該第1表面21sに対向する第2表面31sとの間に、シール部材50が介在されている。このため、弁体が噴射孔21pを閉状態とした場合には、弁座部の第1表面21sと弁体の第2表面31sに該シール部材50が接触し、噴射孔21pがシールされる。
【0031】
したがって、噴射孔21pが確実に封じられると共に、弁体及び弁座部の摩耗が抑制される。したがって、燃料噴射装置1によれば、高圧雰囲気に燃料Fを噴射すべく噴射圧力の高圧化が可能となると共に、寿命が向上され耐久性が向上される。この結果、水素エンジンの高出力化、圧縮着火化、或いは水素噴流火花点火エンジン化等の実現が可能となり、冷却損失の低減、熱効率の向上が期待され、ひいては、幅広い分野への水素エンジンの普及が見込まれる。
【0032】
また、燃料噴射装置1では、シール部材50は、カーボンナノチューブを含む。このため、弁体及び弁座部の摩耗をより確実に抑制して耐久性を向上可能である。
【0033】
さらに、燃料噴射装置1では、シール部材50は、弁座部の第1表面21sに設けられている。このため、上記のような効果を奏するに際して、駆動部分である弁体の重量増加が避けられる。
【0034】
以上の実施形態は、本開示の一側面を説明したものである。したがって、本開示は、上述した燃料噴射装置1に限定されることなく、任意に変形されえる。
【0035】
例えば、上記実施形態においては、シール部材50が弁座部の第1表面21sに設けられる場合について例示した。しかし、シール部材50は、弁体の第2表面31sに設けられていてもよいし、第1表面21s及び第2表面31sの両方に設けられていてもよい。すなわち、シール部材50は、噴射孔21pの閉状態において、噴射孔21pをシールするように第1表面21s及び第2表面31sの少なくとも一方に設けられていればよい。
【0036】
また、シール部材50の材料としては、カーボンナノチューブを含むものに限定されず、任意の材料を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…燃料噴射装置、2…本体(弁座部)、3…ニードル(弁体)、21…先端部(弁座部)、21s…第1表面、21p…噴射孔、31…バルブ部(弁体)、31s…第2表面、50…シール部材、100…エンジン、106…燃焼室、F…燃料。