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特開2023-1426483次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142648
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キット
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20230928BHJP
   B22C 1/00 20060101ALI20230928BHJP
   B22C 1/22 20060101ALI20230928BHJP
   B22C 1/20 20060101ALI20230928BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230928BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230928BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20230928BHJP
【FI】
B22C9/02 101Z
B22C1/00 B
B22C1/22 N
B22C1/20 Z
B33Y10/00
B33Y70/00
B29C64/165
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049647
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 幸佑
【テーマコード(参考)】
4E092
4F213
【Fターム(参考)】
4E092AA02
4E092AA03
4E092AA04
4E092AA27
4E092AA42
4E092BA12
4F213AA01
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL15
4F213WL23
4F213WL55
4F213WW06
(57)【要約】
【課題】作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットの提供。
【解決手段】耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に糖バインダを射出する工程(b)とを含み、前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを各々独立して有する、3次元積層造形用キット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に糖バインダを射出する工程(b)とを含み、
前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも最後の前記工程(b)の後に、加熱により前記糖バインダを硬化させる工程(c)をさらに含む、請求項1に記載の3次元積層造形物の製造方法。
【請求項3】
耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを各々独立して有する、3次元積層造形用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造用鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)の一つとして自硬性鋳型が知られている。自硬性鋳型とは、珪砂等の耐火性粒状材料に、フラン樹脂等を主成分とした粘結剤(酸硬化性粘結剤)と、硫酸やキシレンスルホン酸等の酸触媒(硬化剤)とを添加、混練した後、得られた混練砂を木型や樹脂型(以下、これらを総称して「模型」という。)に充填し、粘結剤を硬化させる方法で製造されているものである。
【0003】
鋳型には、鉄、銅、アルミニウム等の金属を高温で溶かした液体が注湯され、鋳物が得られるが、注湯時に酸硬化性粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生することがある。
また、硬化速度を速くする目的で酸触媒を多量に使用すると、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しやすくなる。
このように、注湯時にガスが発生すると、作業環境が悪化する。
【0004】
そこで、粘結剤として酸硬化性粘結剤の代わりに糖バインダを用いて鋳型を製造する方法が提案されている。
例えば特許文献1、2には、耐火骨材の表面に、粘結剤として糖類を含有する固形のコーティング層が被覆された粘結剤コーテッド耐火物を模型に充填し、加熱することで糖類を溶融した後に、糖類を固化ないし硬化させて鋳型を製造する方法が開示されている。糖類は炭水化物であるため、熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、作業環境は悪化しにくい。また、溶融した糖類の固化ないし硬化により粘結性を発現させているので、酸触媒を用いる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/030795号
【特許文献2】特開2016-221540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、複雑な形状の鋳型を製造するには、必然的に模型の数を増やす必要があるが、工程の煩雑化の原因となる。また、模型の数を増やすことができても、鋳型を模型から外すことができなければ、鋳型を製造することはできない。
こうした問題を解決するために、近年、模型を用いなくても直接鋳型を製造することが可能な、3次元積層造形による鋳型の製造方法が提案されている。
【0007】
特許文献1、2に記載の粘結剤コーテッド耐火物を用いて3次元積層造形により鋳型の製造する場合、所望の形状の鋳型を得るためには、粘結剤コーテッド耐火物を層状に積層する工程と、層状に敷き詰められた粘結剤コーテッド耐火物の所望の領域に水を射出して糖類を糊状化させる工程とを、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返した後に、加熱処理する必要がある。
しかし、糊状化した糖類が乾燥し固化しただけでは、耐火骨材同士は十分に結合しておらず強度が不十分であり、加熱処理するに際して、水が射出されていない領域から目的の3次元積層造形物を取り出すことは困難である。そのため、目的の3次元積層造形物を取り出さずに、そのままの状態で全体を加熱処理することとなり、水が射出されていない領域の糖類も溶融した後に硬化してしまい、目的の形状の3次元積層造形物が得られない。
このように、耐火骨材に糖類が被覆された粘結剤コーテッド耐火物は、3次元積層造形による鋳型の製造には不向きある。
【0008】
本発明は、作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料を層状に敷き詰める工程(a)と、前記層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に糖バインダを射出する工程(b)とを含み、
前記工程(a)と前記工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す、3次元積層造形物の製造方法。
[2] 少なくとも最後の前記工程(b)の後に、加熱により前記糖バインダを硬化させる工程(c)をさらに含む、前記[1]の3次元積層造形物の製造方法。
[3] 耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを各々独立して有する、3次元積層造形用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる3次元積層造形物の製造方法、及び3次元積層造形用キットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】例1-1で作製した検量線を示すグラフである。
図2】例1-2で作製した検量線を示すグラフである。
図3】例1-3で作製した検量線を示すグラフである。
図4】例1-4で作製した検量線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[3次元積層造形物の製造方法]
以下、本発明の3次元積層造形物の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法は、以下に示す工程(a)と工程(b)とを含み、工程(a)と工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返すことで、3次元積層造形物を製造する方法である。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法は、少なくとも最後の工程(b)の後に、以下に示す工程(c)をさらに含むことが好ましい。
【0013】
<被覆材料>
本発明で用いる被覆材料は、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆したものである。
耐火性粒状材料としては、砂、セラミック粉末、金属粉末などが挙げられる。
これらの耐火性粒状材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
砂としては、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、非晶質シリカ、アルミナ砂、ムライト砂等の天然砂;人工砂などが挙げられる。また、使用済みの人工砂や天然砂を回収したもの(回収砂)や、これらを再生処理したもの(再生砂)なども使用できる。これらの砂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
人工砂は、一般的にボーキサイトを原料とし、溶融法(アトマイズ法)、焼結法、火炎溶融法のいずれかの方法で得られる。溶融法、焼結法、火炎溶融法の具体的な条件等は特に限定されず、例えば特開平5-169184号公報、特開2003-251434号公報、特開2004-202577号公報等に記載された公知の条件等を用いて人工砂を製造すればよい。
金属としては、ニッケル、コバルト、モリブデン、鉄、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅などが挙げられる。これらの金属は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
耐火性粒状材料の平均粒子径は10~300μmが好ましく、50~150μmがより好ましい。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記下限値以上であれば、強度の高い3次元積層造形物が得られる。耐火性粒状材料の平均粒子径が上記上限値以下であれば、面相度に優れた3次元積層造形物が得られる。
耐火性粒状材料の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した耐火性粒状材料の体積分布基準での累積頻度50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
また、「面粗度」とは、3次元積層造形物の積層方向の表面粗さのことである。
【0016】
耐火性粒状材料は、得られる3次元積層造形物の使用目的に応じて選択される。例えば、3次元積層造形物を鋳型として使用する場合、耐火性粒状材料としては砂が適している。天然砂は人工砂に比べて安価であるため、製造コストを抑える観点では、天然砂を単独又は人工砂と混合して用いるのが好ましく、鋳型の耐火度も考慮するのであれば、天然砂と人工砂とを混合して用いるのが好ましい。本明細書において、耐火性粒状材料が砂である場合、被覆材料を「被覆砂」ともいう。
なお、鋳型は鋳物を鋳造するための型であり、鋳造後は鋳物を取り出すために解体される。すなわち、鋳物を最終目的物(最終製品)とすると、鋳型は最終的に壊される前提のものである。
一方、3次元積層造形物が最終目的物(最終的に壊されることを前提としていないもの)である場合、耐火性粒状材料としては金属が適している。本明細書において、金属を用いて得られた3次元積層造形物を「金属成形体」ともいう。
【0017】
多価カルボン酸類は、酸触媒(硬化剤)の役割を果たす。加えて、後述する糖バインダと反応することで粘結性を発現することから、粘結剤としての役割も果たす。
本発明において、「多価カルボン酸類」との用語は、多価カルボン酸に加え、多価カルボン酸塩、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸ハロゲン化物、多価カルボン酸誘導体等も含むものである。
【0018】
多価カルボン酸類としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、イソフタル酸、イタコン酸、ブタンテトラジカルボン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マロン酸、グルタル酸、フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、3,6-ジヒドロキシフタル酸、4-ヒドロキシフタル酸、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体等の多価カルボン酸;これら多価カルボン酸の塩(多価カルボン酸塩);これら多価カルボン酸の無水物(多価カルボン酸無水物);これら多価カルボン酸のハロゲン化物(多価カルボン酸ハロゲン化物);及びこれら多価カルボン酸の誘導体(多価カルボン酸誘導体)などが挙げられる。
多価カルボン酸の塩としては、例えば多価カルボン酸とアルカリ金属(カリウム、ナトリウム等)との塩、多価カルボン酸とアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)との塩、多価カルボン酸とアンモニウムとの塩、多価カルボン酸とアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩などが挙げられる。
多価カルボン酸の無水物としては、例えば多価カルボン酸の分子内又は分子間より脱水縮合され、カルボン酸無水物基(-CO-O-CO-)を含むものなどが挙げられる。
多価カルボン酸のハロゲン化物としては、例えば多価カルボン酸の酸塩化物、多価カルボン酸の酸臭化物などが挙げられる。
多価カルボン酸の誘導体としては、例えば多価カルボン酸の炭素数1~5の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール等)とのエステル化合物、多価カルボン酸と低分子量グリコール(エチレングリコール等)とのエステル化合物などが挙げられる。
これの中でも、植物由来であり、かつ入手のし易さの観点から、多価カルボン酸が好ましく、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
これらの多価カルボン酸類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
多価カルボン酸類の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.3~3質量部がより好ましく、0.5~2質量部がさらに好ましい。多価カルボン酸類の含有量が上記下限値以上であれば、実用的な強度の3次元積層造形物が得られやすくなる。多価カルボン酸類の含有量が上記上限値以下であれば、注湯時のガスの発生をより軽減できる。
【0020】
耐火性粒状材料は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、多価カルボン酸類に加えて、必要に応じて他の成分が被覆されていてもよい。
他の成分としては、例えば安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸)、2,4,6-トリヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、アントラニル酸等の一価のカルボン酸;パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;硫酸;リン酸などが挙げられる。これらの他の成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ただし、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸は、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物を発生しやすい。そのため、スルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸の含有量は、耐火性粒状材料100質量部に対して、0.5質量部未満が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下がさらに好ましく、耐火性粒状材料は、硫黄を含む酸で被覆されていないことが特に好ましい。
【0021】
また、他の成分としては、上述した以外にも、例えば無機粒子、ゼオライト、滑剤等のブロッキング防止剤などが挙げられる。
無機粒子としては、例えばシリカ、チタニア、アルミナ、ゼオライト、カオリン、タルク、マイカ等の珪酸塩鉱物;珪藻土などが挙げられる。シリカは非晶質でもよいし、結晶質でもよい。また、天然シリカでもよいし、合成シリカでもよい。合成シリカとしては沈降法シリカ、シリカゲル等の湿式シリカ;ヒュームドシリカ(火炎加水分解法シリカ)、アーク法シリカ、プラズマ法シリカ、石英ガラス(火炎溶融シリカ)等の乾式シリカなどが挙げられる。
ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩の総称である。ゼオライトの骨格構造としては、例えばA型、X型、LSX型、ベータ型、ZSM-5型、フェリエライト型、モルデナイト型、L型、Y型などが挙げられる。
滑剤としては、例えばパラフィンワックス、カルナバワックス等の脂肪族炭化水素系滑剤;高級脂肪族系アルコール、エチレンビスステアリン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の金属石けん系滑剤;脂肪酸エステル系滑剤;複合滑剤などが挙げられる。
これらのブロッキング防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
被覆材料は、例えば加熱した耐火性粒状材料に、多価カルボン酸類と、必要に応じて他の成分とを含む溶液(以下、「溶液(α)」ともいう。)を添加することで得られる。
溶液(α)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。
溶液(α)の総質量に対する多価カルボン酸類の含有量は10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0023】
耐火性粒状材料の加熱温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。耐火性粒状材料の温度が上記上限値以下であれば、多価カルボン酸類が熱分解するのを抑制できる。
特に、乾態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)に含まれる溶媒の沸点以上であることが好ましく、具体的には100~250℃がより好ましく、100~200℃がさらに好ましく、100~150℃が特に好ましい。ただし、溶液(α)に含まれる溶媒がアルコールの場合は水に比べて低沸点であり、アルコールの沸点以下でも蒸発しやすい。そのため、耐火性粒状材料の加熱温度は上記範囲内には限らず、溶液(α)に含まれる溶媒がアルコールのときは、耐火性粒状材料の加熱温度が60℃超、100℃未満でも乾態の被覆材料が得られる場合がある。一方、湿態の被覆材料を得る場合、耐火性粒状材料の加熱温度は、溶液(α)に含まれる溶媒の沸点未満が好ましく、具体的には60℃以下がより好ましく、10~50℃がさらに好ましく、20~30℃が特に好ましい。
被覆材料は、乾態でもよいし、3次元積層造形において積層できれば湿態でもよいが、乾態であることが好ましい。
【0024】
<糖バインダ>
本発明で用いる糖バインダは、粘結剤の役割を果たす。
糖バインダとしては、単糖、オリゴ糖、多糖等の糖質;糖アルコールなどが挙げられる。
なお、本明細書において、「オリゴ糖」は2~10の単糖が結合したものとし、「多糖」は11以上の単糖が結合したものとする。
【0025】
単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロースなどが挙げられる。
オリゴ糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、ラクトース、トレハロース、イソマルトース、セロビオース等の二糖;マルトトリオース、ラフィノース等の三糖;マルトオリゴ糖;イソマルトオリゴ糖;フラクトオリゴ糖;マンノオリゴ糖;ガラクトオリゴ糖などが挙げられる。
多糖としては、例えばデンプン、デキストリン、ザンサンガム、カードラン、プルラン、シクロアミロース、キチン、セルロース、ポリデキストロースなどが挙げられる。
デンプンとしては、末加工デンプン及び加工デンプンを挙げることができる。具体的には馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ハイアミロース、甘藷デンプン、タピオカデンプン、サゴデンプン、米デンプン、アマランサスデンプンなどの未加工デンプン、及びこれらの加工デンプン(焙焼デキストリン、酵素変性デキストリン、酸処理デンプン、酸化デンプン、ジアルデヒド化デンプン、エーテル化デンプン(カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、カチオンデンプン、メチロール化デンプン等)、エステル化デンプン(酢酸デンプン、リン酸デンプン、コハク酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、マレイン酸デンプン、高級脂肪酸エステル化デンプン等)、架橋デンプン、クラフト化デンプン、及び湿熱処理デンプンなどが挙げられる。
糖アルコールとしては、例えばマルチトール、ソルビトール、リビトール、マンニトール、アラビトール、ガラクチトール、ラクチトール、キシリトール、スクロース、エリトリトール、イノシトールなどが挙げられる。
なお、砂糖はスクロース(ショ糖)を主成分とするものであり、原料や製法などによって上白糖、グラニュー糖、白双糖、三温糖、黒糖などがあり、これらはいずれも本発明において糖バインダとして使用することができる。
これらの糖バインダは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
<工程(a)、工程(b)>
工程(a)は、被覆材料を層状に敷き詰める工程である。
工程(b)は、層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に糖バインダを射出する工程である。
本実施形態の3次元積層造形物の製造方法では、工程(a)と工程(b)とを目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。
【0027】
工程(a)及び工程(b)は、例えば印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、以下のようにして行われる。
3次元積層装置としては、ブレード機構と、印刷ノズルヘッド機構と、造形テーブル機構とを備えるものが好ましい。さらに、各機構の動作を造形対象物の3次元データを用いて制御する制御部を備えていることが好ましい。
ブレード機構は、リコータを含み、金属ケースの面又は糖バインダで結合済みの造形部の上層に、被覆材料を所定の厚みで積層するものである。
印刷ノズルヘッド機構は、積層された被覆材料に対して糖バインダによる印刷を行い、被覆材料を結合することによって1層毎の造形を行うものである。
造形テーブル機構は、1層の造形が終了すると1層分の距離だけ下降して、所定の厚みでの積層造形を実現するものである。
【0028】
まず、印刷造形法を用いた3次元積層装置を用い、リコータを有するブレード機構により被覆材料を3次元積層装置に設置された金属ケースの底面に積層する(工程(a))。ついで、積層した被覆材料の所望の領域に、目的の3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッド機構により印刷ノズルヘッドを走査させて、糖バインダを印刷(射出)する(工程(b))。金属ケースの底面は造形テーブルとなっており、上下に可動することができる。糖バインダを印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を1層分降下させ、先と同様にして被覆材料を積層し(工程(a))、その上に糖バインダを印刷する(工程(b))。これら積層と印刷の操作を、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。1層の厚さは、100~500μmが好ましく、100~300μmがより好ましい。
なお、耐火性粒状材料が金属である被覆材料を用いて金属成形体を製造する場合は、メタル3Dプリンタを用いることが好ましい。
【0029】
糖バインダは、印刷ノズルヘッド機構から射出しやすい濃度となるように、予め溶媒に溶解又は希釈して、溶液の状態で用いることが好ましい。すなわち、工程(b)では糖バインダを含む溶液(以下、「溶液(β)」ともいう。)を射出することが好ましい。
溶液(β)に用いる溶媒としては、水、アルコール、これらの混合物などが挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2プロパノールなどが挙げられる。
【0030】
糖バインダを印刷する際の塗布量は純分換算で、糖バインダとその印刷領域における1層分の被覆材料中の多価カルボン酸類との質量比が、糖バインダ:多価カルボン酸類=90:10~10:90となる量が好ましく、より好ましくは80:20~20:80であり、さらに好ましくは70:30~30:70であり、特に好ましくは60:40~40:60であり、最も好ましくは50:50である。糖バインダと多価カルボン酸類との質量比が上記範囲内となるように糖バインダを塗布することで、糖バインダと多価カルボン酸類との反応により十分な硬化が可能となる。特に、糖バインダと多価カルボン酸類との質量比が50:50~20:80の範囲内であれば、耐水性に優れた3次元積層造形物が得られやすくなる傾向にある。よって、3次元積層造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。
【0031】
また、糖バインダを印刷する際の塗布量は純分換算で、その印刷領域における1層分の被覆材料中の耐火性粒状材料の質量を100質量部としたときに、0.5~10質量部となる量が好ましく、より好ましくは0.5~5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2質量部である。耐火性粒状材料に対する糖バインダの割合が、上記下限値以上であれば十分な粘結性が得られる。粘結性の効果は、糖バインダの割合が増えるほど得られやすくなる傾向にあるが、増えすぎても効果は頭打ちになるだけである。よって、糖バインダの割合は10質量部以下が好ましい。
【0032】
なお、工程(a)において、被覆材料はブロッキング防止剤と混合された状態で用いられてもよい。すなわち、被覆材料とブロッキング防止剤とを含む混合物(M)を層状に敷き詰めてもよい。
混合物(M)は、例えば、加熱した耐火性粒状材料に溶液(α)を添加して被覆材料を製造した後に、得られた被覆材料とブロッキング防止剤とを混合することで得られる。溶液(α)には、他の成分としてブロッキング防止剤が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
工程(a)において混合物(M)を層状に敷き詰める場合、工程(b)では、層状に敷き詰められた混合物(M)の所望の領域に糖バインダを射出する。
【0033】
このようにして得られる3次元積層造形物は、被覆材料の粉末の中で埋もれながら造形される。射出された糖バインダの乾燥固化により、耐火性粒状材料同士がある程度結合するので、被覆材料の粉末から3次元積層造形物を取り出すことができる。取り出した3次元積層造形物の周囲に、糖バインダが印刷されていない領域(非印刷領域)の被覆材料が付着している場合は、ブラシや掃除機等で除去する。
【0034】
被覆材料の粉末から3次元積層造形物を取り出した後、3次元積層造形物の強度を高める目的で、以下の工程(c)を行うことが好ましい。
また、取り出した3次元積層造形物の周囲に付着した被覆材料が除去しにくい場合は、以下の工程(c)を行うことが好ましい。
なお、被覆材料の粉末から3次元積層造形物を取り出さずに、3次元積層造形物が被覆材料の粉末の中で埋もれた状態で、以下の工程(c)を行ってもよい。
【0035】
<工程(c)>
工程(c)は、少なくとも最後の工程(b)の後に、加熱により糖バインダを硬化させる工程である。
工程(c)の回数は、1回でもよいし、2回以上でもよい。
工程(c)の回数が1回の場合は、最後の工程(b)の後でのみ工程(c)を行う。
工程(c)の回数が2回以上の場合は、最後の工程(b)以外の工程(b)の後にも工程(c)を1回以上行う。例えば、工程(a)と工程(b)と工程(c)とをこの順で目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返す。
最後の工程(b)の後、被覆材料の粉末から3次元積層造形物を取り出せる場合は、取り出した3次元積層造形物のみを加熱してもよい。その際、取り出した3次元積層造形物の周囲に非印刷領域の被覆材料が付着した状態で加熱してもよい。また、3次元積層造形物が被覆材料の粉末に埋もれた状態で加熱してもよい。
【0036】
工程(c)における加熱温度は、100~300℃が好ましく、130~290℃がより好ましく、150~280℃がさらに好ましく、160~270℃がよりさらに好ましく、170~260℃が特に好ましく、180~250℃が最も好ましい。加熱温度が上記下限値以上であれば、糖バインダが硬化しやすい。特に加熱温度が150℃以上であれば、実用的な強度の3次元積層造形物が得られやすい。さらに、加熱温度が150℃超であれば、耐水性に優れた3次元積層造形物が得られやすい。よって、3次元積層造形物が鋳型の場合、湿度の高い環境下で鋳造する場合であっても鋳型の強度を良好に維持できる。加熱温度が上記上限値以下であれば、多価カルボン酸類及び糖バインダが熱分解するのを抑制できる。
加熱処理は、乾燥機を用いて行ってもよいし、3次元積層装置が加熱処理機構を備えている場合は3次元積層装置の金属ケース内にて加熱処理を行ってもよい。
【0037】
加熱により糖バインダが溶融し、その後に固化又は硬化することで耐火性粒状材料同士が強固に結合する。また、糖バインダが溶融したときに多価カルボン酸類との反応(エステル化等)が進行してポリマー化しやすくなるので、糖バインダが単独で固化又は硬化する場合よりも硬化性が高まり、耐火性粒状材料同士がより強固に結合する。
糖バインダと多価カルボン酸類との反応を十分に進行させる観点からも、工程(c)を行うことが好ましい。
【0038】
被覆材料の粉末の中で3次元積層造形物が埋もれた状態で工程(c)を行う場合、最後の工程(b)の後に工程(c)を行った後、糖バインダが印刷されていない領域(非印刷領域)の被覆材料をブラシや掃除機等で除去して、3次元積層造形物を取り出す。加熱により糖バインダと多価カルボン酸類がポリマー化することで耐火性粒状材料同士がより強固に結合するので、3次元積層造形物の強度が高まり、3次元積層造形物はその形状を良好に維持できる。よって、被覆材料の粉末の中から3次元積層造形物を容易に取り出すことができる。
非印刷領域においては糖バインダと多価カルボン酸類との反応は起こらないため、耐火性粒状材料同士は結合しておらず、非印刷領域の被覆材料を容易に除去できる。
【0039】
なお、金属成形体を製造する場合は、最後の工程(b)の後に工程(c)を行った後、必要に応じて脱脂工程及び焼結工程を行ってもよい。
【0040】
<作用効果>
以上説明した本発明の3次元積層造形物の製造方法によれば、粘結剤として糖バインダを用いているので、本発明により得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
また、本発明であれば、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料を用いているので、酸触媒としてスルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸を用いる必要がない。よって、本発明により得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しにくい観点からも、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
【0041】
なお、金属成形体を製造する場合は、通常、粘結剤を硬化させた後に脱脂工程及び焼結工程を行う。これら脱脂工程及び焼結工程の際に、粘結剤が熱分解してガス(熱分解ガス)が発生したり、硫酸やキシレンスルホン酸等の酸触媒に起因して亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生したりして、作業環境が悪化する。
しかし、本発明であれば、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを用いているので、工程(c)の後に脱脂工程及び焼結工程を行っても、熱分解ガスや硫黄酸化物が発生しにくく、金属成形体の製造過程において作業環境が悪化しにくい。
【0042】
このように、本発明では、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを用いているので、注湯時や製造過程における作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる。また、3次元積層造形を採用していることから、複雑な形状の3次元積層造形物であっても容易に製造できる。
しかも、糖バインダは植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明によればカーボンニュートラルな3次元積層造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
【0043】
[3次元積層造形用キット]
本発明の3次元積層造形用キットは、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダとを各々独立して有する。3次元積層造形用キットは、さらにブロッキング防止剤を独立して有していてもよい。
ここで、「独立して有する」とは、各々の成分が互いに混合、接触しない状態で存在していることを意味する。
3次元積層造形用キットは、例えば被覆材料が収容された第一の容器と、糖バインダが収容された第二の容器とを備える、容器の集合体であってもよい。第一の容器には、必要に応じてブロッキング防止剤がさらに収容されていてもよい。すなわち、被覆材料はブロッキング防止剤との混合物の状態で第一の容器に収容されていてもよい。
また、3次元積層造形用キットは、被覆材料が収容された第一の容器と、糖バインダが収容された第二の容器と、ブロッキング防止剤が収容された第三の容器とを備える、容器の集合体であってもよい。
【0044】
3次元積層造形用キットを構成する被覆材料としては、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示した被覆材料が挙げられる。
3次元積層造形用キットを構成する糖バインダとしては、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示した糖バインダが挙げられる。
3次元積層造形用キットを構成するブロッキング防止剤としては、上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法の説明において先に例示したブロッキング防止剤が挙げられる。
【0045】
上述した本発明の3次元積層造形物の製造方法においては、本発明の3次元積層造形用キットを用いて、3次元積層造形物を製造してもよい。
具体的には、第一の容器から取り出した被覆材料を層状に敷き詰める工程と、層状に敷き詰められた被覆材料の所望の領域に、第二の容器から取り出した糖バインダを射出する工程とを、目的の3次元積層造形物が造形されるまで繰り返して、3次元積層造形物を製造する。その際、上述した工程(c)を行うことが好ましい。
なお、第一の容器にブロッキング防止剤がさらに収容されている場合、被覆材料はブロッキング防止剤と混合された状態で用いられることとなる。3次元積層造形用キットが被覆材料とブロッキング防止剤とを独立して有する場合、第一の容器から取り出した被覆材料と、第三の容器から取り出したブロッキング防止剤とを混合して混合物(M)を調製した後に、得られた混合物(M)を層状に敷き詰めてもよい。
【0046】
以上説明した本発明の3次元積層造形用キットによれば、粘結剤として糖バインダを有しているので、本発明の3次元積層造形用キットを用いて得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に熱分解しても炭酸ガス及び水等が発生する程度であり、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
また、3次元積層造形用キットは、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料を有しているので、酸触媒としてスルホン酸や硫酸などの硫黄を含む酸を用いる必要がない。よって、本発明の3次元積層造形用キットを用いて得られる3次元積層造形物が鋳型の場合、注湯時に亜硫酸ガス等の硫黄酸化物が発生しにくい観点からも、注湯時における作業環境は悪化しにくい。
さらに、本発明の3次元積層造形用キットを用いて金属成形体を製造する場合において、工程(c)の後に脱脂工程及び焼結工程を行っても、熱分解ガスや硫黄酸化物が発生しにくく、金属成形体の製造過程において作業環境が悪化しにくい。
【0047】
このように、本発明の3次元積層造形用キットを用いれば、注湯時や製造過程における作業環境が良好で、実用的な強度の3次元積層造形物を製造できる。
しかも、糖バインダは植物を原料とする植物由来のバインダであることから、本発明の3次元積層造形用キットを用いればカーボンニュートラルな3次元積層造形物を製造でき、石油・石炭などの化石燃料使用量を削減でき、カーボンニュートラルによる地球温暖化防止(二酸化炭素削減)や循環型社会の構築に貢献できる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各例で用いた材料を以下に示す。また、各種測定方法は以下の通りである。
なお、以下に示す例1-1~1-4は実施例であり、例1-5、1-6は比較例であり、例2-1~2-15、3-1~3-3、4-1、4-2は参考例である。
【0049】
[測定・評価方法]
<曲げ強さの測定>
各実施例および比較例で得られたテストピースの曲げ強さをJACT試験法SM-1に記載の測定方法を用いて測定した。
【0050】
<耐水性の評価>
純水10gが入った試験管に、曲げ強さを測定した後のテストピースを入れ、試験管ミキサーを用いて10秒間撹拌した。撹拌後に静置し、テストピースの状態及び純水の色を目視にて確認し、以下の評価基準にて耐水性を評価した。
<<状態>>
〇:テストピースが崩壊していない。
△:テストピースがやや崩壊している。
×:テストピースが崩壊している。
<<色>>
〇:純水の色が変化せず、無色透明である。
△:純水が僅かに着色している。
×:純水が着色している。
【0051】
[試験1]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
多価カルボン酸類として、クエン酸又はリンゴ酸を用いた。
糖バインダとして、マルチトール、マルトース又はピュアトースL(群栄化学工業株式会社製)を用いた。なお、ピュアトースLは、固形分全量に対してマルトトリオースを55質量%以上含む。
クエン酸の濃度が50質量%になるようにクエン酸を水に溶解して溶液(α1)を調製した。
リンゴ酸の濃度が50質量%になるようにリンゴ酸を水に溶解して溶液(α2)を調製した。
マルチトールの濃度が30質量%になるようにマルチトールを水に溶解した後に、目開き50μmの金網で濾過し、溶液(β1)を調製した。
マルトースの濃度が30質量%になるようにマルトースを水に溶解した後に、目開き50μmの金網で濾過し、溶液(β2)を調製した。
ピュアトースLの濃度が40質量%になるようにピュアトースLを水に溶解した後に、目開き50μmの金網で濾過し、溶液(β3)を調製した。
溶液(β1)~(β3)について、25℃における粘度、及び25℃における比重を測定した。結果を表1に示す。なお、粘度は、B型粘度計を用い、ローターの回転数60rpm、測定温度25℃の条件で測定した。ローターとしては、1号ローターを用いた。比重は、JIS Z 8804:2012における「液体の密度及び比重の測定方法」に準じて測定した。
【0052】
【表1】
【0053】
<例1-1>
(被覆材料の作製)
130℃に加熱した耐火性粒状材料100質量部に対して、溶液(α1)を2質量部(クエン酸の純分換算で1質量部)添加し、3分間撹拌した後に排砂し、室温(25℃)まで冷却後、目開き212μmの篩を通過させ、篩を通過したものを被覆材料(被覆砂)として回収した。
【0054】
(テストピースの作製)
印刷造形法を用いた3次元積層造形装置(3D Systems社製、製品名「ZPrinter 310 Plus」)を用い、リコータを有するブレード機構により被覆材料を厚さが200μmとなるように、3次元積層造形装置に設置された金属ケース(縦210mm、横260mm、高さ150mm)の底面(造形テーブル)に積層した(工程(a))。
次いで、積層した被覆材料の上に、3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッドを走査させて、溶液(β1)を印刷した(工程(b))。溶液(β1)を印刷した後、金属ケースの造形テーブルを一層分(200μm)降下させ、先と同様にして被覆材料を積層し(工程(a))、その上に溶液(β1)を印刷した(工程(b))。これら工程(a)と工程(b)を複数回、繰り返し行った。
最後の工程(b)の後、3時間経過した後に、3次元積層造形物を被覆材料の粉末の中で埋もれた状態で金属ケースより取り出し、乾燥機内にて200℃で1時間加熱処理した(工程(c))。室温(25℃)まで放冷後、溶液(β1)の非印刷部分の被覆材料をブラシで除去し、縦10mm、横60mm、高さ10mmの直方体状の3次元積層造形物を取り出し、これをテストピースとした。テストピースは同時に9個作製した。
放冷後の9個のテストピースの曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
また、曲げ強さを測定した後のテストピースを用いて、以下のようにして耐火性粒状材料100質量部に対する糖バインダの添加量を求めた。結果を表2に示す。
【0055】
(糖バインダの添加量の算出)
テストピースをヤスリで粉砕し、粉砕物20gをるつぼに採取した。粉砕物をるつぼに入れた状態で、105℃で1時間乾燥し、粉砕物中の水分を除去し、粉砕物の重量を測定した。次いで、水分を除去した後の粉砕物を800℃で3時間、加熱処理した。放冷後、粉砕物の重量を測定し、下記式(1)よりテストピースの強熱減量を求めた。結果を表2に示す。
強熱減量[%]=(800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]-800℃で加熱処理した後の粉砕物の重量[g])/800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]×100 ・・・・(1)
【0056】
別途、被覆材料100質量部に対して、テストピースの作製に用いた溶液(β)と同じ種類の溶液(β)を2.00質量部、3.00質量部又は4.00質量部添加して混練砂を作製した。
得られた混練砂を200℃で1時間、加熱処理し、硬化させた。放冷後、硬化した混練砂をヤスリで粉砕し、粉砕物20gをるつぼに採取した。粉砕物をるつぼに入れた状態で、105℃で1時間乾燥し、粉砕物中の水分を除去し、粉砕物の重量を測定した。次いで、水分を除去した後の粉砕物を800℃で3時間、加熱処理した。放冷後、粉砕物の重量を測定し、下記式(2)より強熱減量を求め、強熱減量を縦軸(y)、溶液(β)の添加量を横軸(x)にとって、検量線を作製した。結果を図1に示す。
強熱減量[%]=(800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]-800℃で加熱処理した後の粉砕物の重量[g])/800℃で加熱処理する前の粉砕物の重量[g]×100 ・・・・(2)
【0057】
作製した検量線を用い、先に求めたテストピースの強熱減量の結果から、テストピースにおける被覆材料100質量部に対する溶液(β)の添加量を求め、これを被覆材料中の耐火性粒状材料100質量部に対する溶液(β)の添加量に換算した。結果を表2に示す。
また、算出した溶液(β)の添加量と溶液(β)中の糖バインダの濃度から、耐火性粒状材料100質量部に対する糖バインダの純分換算での添加量を求め、糖バインダと多価カルボン酸類との質量比を求めた。結果を表2に示す。
【0058】
<例1-2~1-4>
表2に示す種類の溶液(α)を用いた以外は、例1-1と同様にして被覆材料を作製した。
得られた被覆材料を用い、表2に示す種類の溶液(β)を用いた以外は、例1-1と同様にしてテストピースを作製した。
得られたテストピースについて、例1-1と同様にして曲げ強さを測定した。また例1-1と同様にして糖バインダの添加量を求めた。結果を表2に示す。また、例1-2で作成した検量線の結果を図2に示し、例1-3で作成した検量線の結果を図3に示し、例1-4で作成した検量線の結果を図4に示す。
【0059】
<例1-5>
(砂組成物の調製)
120℃に加熱した耐火性粒状材料100質量部に対して、酸触媒の溶液を0.3質量部添加し、3分間撹拌して溶媒としての水を揮発させた後、ゼオライトを0.3質量部添加し、1分間撹拌して砂組成物を得た。砂組成物において、耐火性粒状材料100質量部に対する酸触媒の含有量は0.18質量部であり、ゼオライトの含有量は0.3質量部である。
なお、例1-5では、耐火性粒状材料として、火炎溶融法により得られた非晶質シリカ(SiOを98質量%含むもの、CHINA MINERAL PROCESSING LIMITED社製の商品名「SPHERESAND SL SLH#110」)を用いた。
酸触媒の溶液として、キシレンスルホン酸60質量部と、水40質量部との混合物(濃度60質量%の酸触媒の溶液)を用いた。
ゼオライトとして、Y型ゼオライト(東ソー株式会社製の商品名「HSZ-385HUA」、SiO/Alモル比=100、平均粒子径=3μm)を用いた。
【0060】
(テストピースの作製)
印刷造形法を用いた3次元積層造形装置(シーメット株式会社製、製品名「砂型積層造形装置 SCM-800」)を用い、リコータを有するブレード機構により砂組成物を3次元積層造形装置に設置された金属ケースの底面に積層した。このとき、リコータのシャッター開口度を49.5°に設定した。
次いで、積層した砂組成物の上に、3次元積層造形物の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づいて印刷ノズルヘッドを走査させて、一層分の砂組成物100質量部に対して1.8質量部となる吐出量で酸硬化性粘結剤を印刷した。酸硬化性粘結剤を印刷した後、金属ケースの底面(造形テーブル)を一層分(280μm)降下させ、先と同様にして砂組成物を積層し、その上に一層分の砂組成物100質量部に対して1.8質量部となる吐出量で酸硬化性粘結剤を印刷した。これら積層と印刷からなる工程を繰り返し行った後、酸硬化性粘結剤の非印刷部分の砂組成物をブラシで除去し、縦10mm、横10mm、高さ60mmの直方体状のテストピースを得た。
得られたテストピースの曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
なお、酸硬化性粘結剤として、フルフリルアルコール89.9質量部と、レゾルシノール10質量部と、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン0.2質量部との混合物を用いた。
【0061】
<例1-6>
耐火性粒状材料として、焼結法により得られた結晶質の人工砂(Al-SiOを95質量%含むもの、伊藤忠セラテック株式会社製の商品名「CB-X#1450」)を用いた以外は、例1-5と同様にして砂組成物を作製した。
得られた砂組成物を用い、一層分の砂組成物100質量部に対する酸硬化性粘結剤の吐出量を1.6質量部に変更した以外は、例1-5と同様にしてテストピースを製造し、曲げ強さを測定した。結果を表3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表2、3の結果から明らかなように、例1-1~1-4で得られたテストピース(3次元積層造形物)は、例1-5、1-6で得られたテストピース(3次元積層造形物)に比べて曲げ強さが高かった。
また、例1-1~1-4で得られたテストピース(3次元積層造形物)は、耐火性粒状材料に多価カルボン酸類が被覆された被覆材料と、糖バインダを用いていることから、注湯時の温度まで加熱しても亜硫酸ガス等は発生せず、作業環境が悪化しにくい。
【0065】
[試験2]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
多価カルボン酸類として、クエン酸を用いた。
糖バインダとして、マルトース又はマルチトールを用いた。
マルトースとクエン酸との質量比が、マルトース:クエン酸=100:0、80:20、60:40、40:60、20:80、0:100となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解して合計6種類のバインダ溶液(i)を調製した。
マルチトールとクエン酸との質量比が、マルチトール:クエン酸=100:0、80:20、60:40、40:60、20:80、0:100となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解して合計6種類のバインダ溶液(ii)を調製した。
マルトースとクエン酸との質量比が、マルトース:クエン酸=80:20、50:50、20:80となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解して合計3種類のバインダ溶液(iii)を調製した。
【0066】
<例2-1~例2-6>
(テストピースの作製)
耐火性粒状材料100質量部にバインダ溶液(i)を4.00質量部添加し、1分間撹拌して混練砂を得た。
得られた混練砂を、直ちに温度10℃、湿度20%の条件下、縦10mm、横60mm、深さ10mmの直方体の型が6個形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から24時間経過後に6個のテストピースを取り出した(抜型時間24時間)。
取り出した6個のテストピースを乾燥機内にて150℃又は200℃で1時間加熱処理し、室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の6個のテストピースの曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。
また、曲げ強さを測定した後のテストピースを用いて、耐水性を評価した。結果を表4に示す。
【0067】
<例2-7~例2-12>
バインダ溶液(i)に代えてバインダ溶液(ii)を用いた以外は、例2-1~例2-6と同様にしてテストピースを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表5に示す。
【0068】
<例2-13~例2-15>
バインダ溶液(i)に代えてバインダ溶液(iii)を用い、乾燥機内での加熱処理温度を160℃、170℃、180℃又は190℃に変更した以外は、例2-1~例2-6と同様にしてテストピースを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表6に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
表4~6の結果から明らかなように、クエン酸とマルトース又はマルチトールとを熱硬化させることで、クエン酸のみを使用した場合や、マルトース又はマルチトールのみを使用した場合に比べて、高い強度を発現できることが確認できた。また、加熱処理温度が高いほど、テストピースの強度及び耐水性が向上する傾向にあった。
なお、試験2ではテストピースを木型に充填して作製したが、3次元積層造形でテストピースを作製しても、試験2の結果と同様の傾向がみられる。
【0073】
[試験3]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)を用いた。
多価カルボン酸類として、クエン酸を用いた。
糖バインダとして、マルチトール、ソルビトール又はグルコースを用いた。
マルチトールとクエン酸との質量比が、マルチトール:クエン酸=50:50となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解してバインダ溶液(iv)を調製した。
ソルビトールとクエン酸との質量比が、ソルビトール:クエン酸=50:50となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解してバインダ溶液(v)を調製した。
グルコースとクエン酸との質量比が、グルコース:クエン酸=50:50となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解してバインダ溶液(vi)を調製した。
【0074】
<例3-1>
(テストピースの作製)
耐火性粒状材料100質量部にバインダ溶液(iv)を4.00質量部添加し、1分間撹拌して混練砂を得た。
得られた混練砂を、直ちに温度10℃、湿度20%の条件下、縦10mm、横60mm、深さ10mmの直方体の型が6個形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から24時間経過後に6個のテストピースを取り出した(抜型時間24時間)。
取り出した6個のテストピースを乾燥機内にて150℃又は200℃で1時間加熱処理し、室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の6個のテストピースの曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表7に示す。
また、曲げ強さを測定した後のテストピースを用いて、耐水性を評価した。結果を表7に示す。
【0075】
<例3-2>
バインダ溶液(iv)に代えてバインダ溶液(v)を用いた以外は、例3-1と同様にしてテストピースを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表7に示す。
【0076】
<例3-3>
バインダ溶液(iv)に代えてバインダ溶液(vi)を用いた以外は、例3-1と同様にしてテストピースを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
表7の結果から明らかなように、糖バインダとしてソルビトール又はグルコースを用いた場合も、マルチトールを用いた場合と同様の結果が得られた。すなわち、クエン酸と糖バインダとを熱硬化させることで、実用的な強度を発現できることが確認できた。また、加熱処理温度が高いほど、テストピースの強度及び耐水性が向上する傾向にあった。
なお、試験3ではテストピースを木型に充填して作製したが、3次元積層造形でテストピースを作製しても、試験3の結果と同様の傾向がみられる。
【0079】
[試験4]
耐火性粒状材料として、溶融法により得られた人工砂(伊藤機工株式会社製、「アルサンド#1000」、平均粒子径120μm)、又は、珪砂(三菱商事建材株式会社製、「フラタリーMS-60」、平均粒子径150μm)を用いた。
多価カルボン酸類として、クエン酸を用いた。
糖バインダとして、マルチトールを用いた。
マルチトールとクエン酸との質量比が、マルチトール:クエン酸=50:50となるように混合し、得られた混合物の濃度が50質量%となるように混合物を水に溶解してバインダ溶液(vii)を調製した。
【0080】
<例4-1>
(テストピースの作製)
耐火性粒状材料として人工砂100質量部にバインダ溶液(vii)を4.00質量部添加し、1分間撹拌して混練砂を得た。
得られた混練砂を、直ちに温度10℃、湿度20%の条件下、縦10mm、横60mm、深さ10mmの直方体の型が6個形成されたテストピース作製用木型に充填して硬化させ、硬化開始から24時間経過後に6個のテストピースを取り出した(抜型時間24時間)。
取り出した6個のテストピースを乾燥機内にて150℃又は200℃で1時間加熱処理し、室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の6個のテストピースの曲げ強さを測定し、その平均値を求めた。結果を表8に示す。
また、曲げ強さを測定した後のテストピースを用いて、耐水性を評価した。結果を表8に示す。
【0081】
<例4-2>
耐火性粒状材料として人工砂に代えて珪砂を用いた以外は、例4-1と同様にしてテストピースを作製し、各種測定及び評価を行った。結果を表8に示す。
【0082】
【表8】
【0083】
表8の結果から明らかなように、耐火性粒状材料として珪砂を用いた場合も、人工砂を用いた場合と同様の結果が得られた。すなわち、クエン酸と糖バインダとを熱硬化させることで、実用的な強度を発現できることが確認できた。また、加熱処理温度が高いほど、テストピースの強度及び耐水性が向上する傾向にあった。
なお、試験4ではテストピースを木型に充填して作製したが、3次元積層造形でテストピースを作製しても、試験4の結果と同様の傾向がみられる。
図1
図2
図3
図4