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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142660
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】スライド変位計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20230928BHJP
   E04G 21/18 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01B11/00 A
E04G21/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049668
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 恒則
(72)【発明者】
【氏名】矢島 雄一
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 充
【テーマコード(参考)】
2E174
2F065
【Fターム(参考)】
2E174AA01
2E174BA05
2E174CA06
2E174DA18
2F065AA02
2F065AA03
2F065AA06
2F065AA07
2F065AA09
2F065AA20
2F065AA21
2F065AA22
2F065AA65
2F065CC14
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF11
2F065FF41
2F065GG04
2F065PP11
2F065QQ08
2F065QQ13
2F065SS09
2F065SS13
(57)【要約】
【課題】レール上を移動する移動体の変位をリアルタイムで把握することである。
【解決手段】レールに沿って移動する移動体の前記レールに対する変位を検出するスライド変位計測装置であって、前記移動体の少なくとも進行方向前方側及び後方側に設けられ、前記レールとの進行直交方向の離間距離を計測する側方距離計測器で取得した実測値を受信する入力部と、該入力部で受信した情報に基づいて演算処理を行う演算処理部と、演算処理部で処理した情報を出力する出力部を備え、前記演算処理部は、前記入力部で受信した前記実測値に基づいて、水平変位を算出する水平変位検知部を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに沿って移動する移動体の前記レールに対する変位を検出するスライド変位計測装置であって、
前記移動体の少なくとも進行方向前方側及び後方側に設けられ、前記レールとの進行直交方向の離間距離を計測する側方距離計測器で取得した実測値を受信する入力部と、
該入力部で受信した情報に基づいて演算処理を行う演算処理部と、
演算処理部で処理した情報を出力する出力部を備え、
前記演算処理部は、
前記入力部で受信した前記実測値に基づいて、水平変位を算出する水平変位検知部を備えることを特徴とするスライド変位計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスライド変位計測装置において、
前記入力部が、前記移動体の進行方向前方側及び後方側にそれぞれ設けた一対の前記側方距離計測器で取得した実測値を受信するとともに、
前記演算処理部は、前記入力部で受信した前記実測値に基づいて、前記移動体における前方側及び後方側ごとの、進行直交方向の伸縮量を算出する伸縮量検知部を備えることを特徴とするスライド変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レールに沿って移動する移動体の前記レールに対する変位を検出するスライド変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、体育館や工場といった大空間構造物の屋根を構築する方法に、特許文献1で開示されているような、スライド工法を採用する場合がある。
【0003】
特許文献1では、あらかじめ構築した躯体の一側の妻壁部近傍に足場を組立て、この足場を利用して、屋根を構成する鉄骨トラスを1ユニット組み立てる。次に、組立てた鉄骨トラスを1ユニット幅だけ、躯体に設けた桁方向に延在する一対のレールに沿って、他側の妻壁部に向けてスライド移動させる。こののち、同じ足場を利用して後行の鉄骨トラスを1ユニット組立てる。これを先行の鉄骨ユニットに継ぎ足し、同じく1ユニット幅だけ、一対のレールに沿って他側の妻壁部に向けてスライド移動させる。このような作業を繰り返し、躯体に鉄骨造の屋根を構築する。
【0004】
上記の工法によれば、複数の鉄骨トラスをいずれも、躯体における一側の妻壁部近傍に設けた足場で組み立てることができる。このため、省スペースで鉄骨ユニットの組立て作業を行うことが可能になるとともに、鉄骨造屋根の構築方法と並行して、躯体内の空間を利用して屋根下部の作業を同時施工することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53-130813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようなスライド工法では一般に、鉄骨トラスをスライド移動させつつ、その移動量(移動速度)を連続的に計測し、一対のレール上で移動量が揃うようスライド装置を自動制御する。しかし、鉄骨トラスのレールに対する進行直交方向の「位置ズレ」は、監視員の目視により検出する場合が多い。
【0007】
このため、スライド工法を採用する屋根施工では、監視員を配備する都合上、現場作業員を増員せざるを得ない。そして、スライド装置を制御する集中制御室では、監視員からの連絡を受けるまで、鉄骨トラスに発生した上記の「位置ズレ」を把握できないなど、作業性や品質、安全性などに、様々な課題を有していた。また、一対のレールに支持される鉄骨ユニットは、温度変化に起因して進行直交方向に膨張及び収縮を繰り返すが、このような現象により生じる伸縮量を、把握する手段も確立されていない。
【0008】
かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、レール上を移動する移動体の変位をリアルタイムで把握することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明のスライド変位計測装置は、レールに沿って移動する移動体の前記レールに対する変位を検出するスライド変位計測装置であって、前記移動体の少なくとも進行方向前方側及び後方側に設けられ、前記レールとの進行直交方向の離間距離を計測する側方距離計測器で取得した実測値を受信する入力部と、該入力部で受信した情報に基づいて演算処理を行う演算処理部と、演算処理部で処理した情報を出力する出力部を備え、前記演算処理部は、前記入力部で受信した前記実測値に基づいて、水平変位を算出する水平変位検知部を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のスライド変位計測装置は、前記入力部が、前記移動体の進行方向前方側及び後方側にそれぞれ設けた一対の前記側方距離計測器で取得した実測値を受信するとともに、前記演算処理部は、前記入力部で受信した前記実測値に基づいて、前記移動体における前方側及び後方側ごとの、進行直交方向の伸縮量を算出する伸縮量検知部を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のスライド変位計測装置によれば、レール上を移動する移動体の進行方向前方側及び後方側に、レールとの進行直交方向の離間距離を計測する側方距離計測器から取得した実測値に基づいて、移動中の移動体における進行直交方向の水平変位をリアルタイムで管理することが可能となる。
【0012】
また、移動体の少なくとも進行方向前方側及び後方側に設ける側方距離計測器を、進行直交に間隔を設けて対をなして配置すると、これらの実測値に基づいて、レール上を移動する移動体の進行直交方向の伸縮量を、少なくとも前方側及び後方側の二カ所で計測できる。これにより、温度変化に起因して移動体が進行直交方向に膨張もしくは伸縮する状態を、リアルタイムで把握することが可能となる。
【0013】
上記のスライド変位計測装置を、スライド工法による屋根施工に採用すれば、下部構造物に設けたレール上をスライド移動する屋根躯体を構成するブロックを、常時モニタリングできる。これにより、監視員を配備してブロックの挙動を監視する作業を省略でき、省人化・省力化を図ることが可能となる。
【0014】
また、スライド移動するブロックに生じた進行直交方向の水平変位を、ブロックを移動させるスライド装置を制御する集中制御室で常時把握し、異常を確認した場合にはこれに対して迅速に対応することも可能となる。
【0015】
さらに温度変化に起因して進行直交方向に膨張もしくは収縮するブロックの伸縮量をリアルタイムで把握することもでき、この情報を施工に反映させることも可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レール上を移動する移動体の進行方向前方側及び後方側に設けた、レールとの進行直交方向の離間距離を計測する側方距離計測器から取得した実測値により、レール上を移動する移動体に生じる変位を、高い精度でかつ効率よく把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における大空間構造物の屋根を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるスライド工法による屋根施工の概略を示す図である(その1)。
図3】本発明の実施の形態におけるスライド工法による屋根施工の概略を示す図である(その2)。
図4】本発明の実施の形態におけるスライド工法による屋根施工の概略を示す図である(その3)。
図5】本発明の実施の形態におけるスライド変位計測装置を用いた移動体監視システムを示す図である。
図6】本発明の実施の形態におけるスライド装置を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における屋根躯体が進行直交方向(スパン方向)に変位する様子を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるスライド変位計測装置を示す図である。
図9】本発明の実施の形態におけるブロックの組立てを示す図である。
図10】本発明の実施の形態におけるスライド工法による屋根施工に、スライド変位計測装置を用いた移動体監視システムを採用した場合の出力情報を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のスライド変位計測装置は、レール上を移動する移動体における進行直交方向の水平変位(位置ズレ量)を把握する装置であり、いずれの移動体にも適用が可能である。本実施の形態では、スライド工法による大空間構造物の屋根施工に、スライド変位計測装置を採用する場合を事例に挙げ、図1図10を参照しつつ、その詳細を説明する。
【0019】
≪≪大空間構造物及びスライド工法の概要≫≫
スライド変位計測装置を説明するに先立ち、大空間構造物の概略、及び大空間構造物の屋根施工で採用するスライド工法の概略を説明する。
【0020】
≪大空間構造物の概要≫
大空間構造物1は、図1(a)及び(b)で示すように、下部構造物を構成する平行な一対の壁体2に、上部構造物である屋根5を支持させた建物であり、屋根5は、鉄骨トラス構造よりなる屋根躯体3と屋根仕上げ材4とを備えている。
【0021】
屋根仕上げ材4は、屋根躯体3に設けられており、雨水や雪等に対応可能な部材であれば、いずれのものであってもよい。また、本実施の形態では、屋根躯体3の上弦材側に設ける屋根仕上げ材4を事例に挙げたが、例えば、屋根躯体3の下弦材側に設ける軒天パネルなどであってもよい。
【0022】
屋根躯体3は、一対の壁体2を架け渡すように設けられ、壁体2の延在方向に並列配置した複数のブロックを接続してなる。図1(b)の平面視では、前方ブロック3a、中間ブロック3b及び後方ブロック3cの3つのブロックを、つなぎ鉄骨10で接続する場合を事例に挙げている。
【0023】
一対の壁体2は、図1(a)で示すように、建物空間Sを挟んで構築され、その天端には、壁体2の外側に沿って立ち上がり壁22が設けられている。また、この立ち上がり壁22と平行に、レール21が壁体2の延在方向に沿って設置されている。レール21は、前方ブロック3a、中間ブロック3b及び後方ブロック3cを支持するとともに、これらが壁体2の延在方向にスライド移動する際の案内部材として機能する。なお、壁体2の天端には、必ずしも立ち上がり壁22を設けなくてもよい。
【0024】
≪≪スライド工法を採用した屋根施工の概略≫≫
上記の屋根5は、スライド工法を採用して組み立てることができる。その手順は、大まかに次に示す通りである。
【0025】
まず、図2(a)に示すように、一対の壁体2の一端側の建物空間Sを利用して、作業ステージ7を設ける。作業ステージ7は、建物空間Sに立設された複数の仮受構台8によって支持されている。そして、図2(b)で示すように、作業ステージ7上で前方ブロック3aを組立て、組立てた前方ブロック3aを壁体2の延在方向に沿って、スライド移動させる。
【0026】
次に、図3(a)で示すように、前方ブロック3aが移動したのちの作業ステージ7上で中間ブロック3bを組立てる。組立てた中間ブロック3bを、図3(b)で示すように、前方ブロック3aの後端につなぎ鉄骨10を介して接続し、ユニットブロック3dを構築する。このユニットブロック3dを、壁体2の延在方向に沿ってスライド移動させる。
【0027】
同様の手順で、図4(a)で示すように、ユニットブロック3dが移動したのちの作業ステージ7上で、後方ブロック3cを組立て、図4(b)で示すように、ユニットブロック3dを構成する中間ブロック3bの後端に、つなぎ鉄骨10を介して接続し、屋根躯体3を構築する。こうして屋根躯体3を構築したのち、もしくは構築しながら屋根仕上げ材4を取付け、屋根5の施工を終了する。
【0028】
上記のスライド工法を採用した屋根施工では、屋根躯体3を構成するブロック(前方ブロック3a、中間ブロック3b、後方ブロック3c)をいずれも、壁体2の一端側に設けた作業ステージ7上で組み立てる。作業ステージ7は、図2(a)で示すように、建物空間S内の一部分を利用して設ければよく経済的であるとともに、建物空間Sの残された空間を他の作業に効率よく利用できる。また、これら建物空間Sで実施する作業と屋根躯体3の組み立て作業とで作業領域が干渉しないため、両作業を並行して同時施工できる。
【0029】
上記の手順において、前方ブロック3a及びユニットブロック3dをスライド移動させる作業は、図5及び図6で示すような、スライド支承6と、前述したレール21と、スライド装置15とを用いる。以降、前方ブロック3aを事例に挙げ、その詳細を説明するが、中間ブロック3b及び後方ブロック3cにも同様の構成を有している。
【0030】
≪スライド支承6及びレール21≫
スライド支承6は、図5で示すように、支承本体61と、支承本体61の下面に設けられている滑り材62とを備える。
【0031】
支承本体61は、前方ブロック3aにおける壁体2の上方に位置する柱脚32にそれぞれ設けられており、下面に滑り材62が取り付けられている。滑り材62は、樹脂板などにより構成され、その下面がレール上面材21dと接している。
【0032】
レール上面材21dは、レール21の上面を平滑加工し潤滑剤を塗布したり、ステンレス板を貼るなどして形成されている。このようなレール上面材21dを有するレール21は、前述したように、対をなす壁体2各々の天端に設けられた長尺部材よりなり、図5では、H型鋼を採用する場合を事例に挙げている。
【0033】
≪スライド装置15及び集中制御室≫
スライド装置15は、前方ブロック3aをレール21に沿って壁体2の延在方向にスライド移動させることの可能な機構であればいずれを採用してもよい。例えば、図6(a)では、前方ブロック3aを同期した複数の油圧ジャッキ151で牽引する機構を事例に挙げている。
【0034】
複数の油圧ジャッキ151は、前方ブロック3aに設けたスライド支承6の支承本体61ごとに、伸縮方向をレール21の延在方向に向けて設置している。これらは伸長した状態で、一端が支承本体61の前方側に接続されるとともに、他端がレール21に対して着脱自在に設置されている。
【0035】
これにより、図6(b)で示すように、油圧ジャッキ151を収縮させることで、前方ブロック3aは、スライド支承6を利用して一対のレール21に沿って、壁体2の延在方向にスライド移動できる。このような構成のスライド装置15は、前方ブロック3aの移動量(移動速度)が一対のレール上で揃うよう、集中制御室で自動制御されている。
【0036】
ところで、上記のスライド支承6を利用すると、前方ブロック3aは、図7(a)で示すように、外気温や直射日光の影響を受けて進行直交方向(スパン方向)に膨張・伸縮する。また、図7(b)で示すように、スライド移動中の前方ブロック3aに、進行直交方向の水平変位が生じて、スライド移動に不具合を生じる場合がある。このような挙動は、図3(b)で示すような、ユニットブロック3dを移動させる場合も同様である。
【0037】
そこで、屋根施工にスライド工法を採用するにあたり、スライド変位計測装置130を備えた移動体監視システム100を利用し、前方ブロック3a及びユニットブロック3dを常時モニタリングしつつスライド移動を行い、進行直交方向の伸縮量や水平変位を、進行方向の移動量とともにリアルタイムで管理する。
【0038】
≪≪移動体監視システム100≫≫
移動体監視システム100は、図5に示すように、側方距離計測器110と、前方距離計測器120と、スライド変位計測装置130と、側方距離計測器110を支持する片持ちフレーム140とを備える。
【0039】
≪側方距離計測器110と片持ちフレーム140≫
側方距離計測器110は、前方ブロック3aに設置され、レール21との進行直交方向の離間距離を計測する。本実施の形態では、レーザー距離センサを採用しているが、超音波やミリ波を利用した非接触型の距離計測器、もしくは接触型の距離計測器など、レール21との離間距離を連続的に計測できる計測機器であれば、いずれを採用してもよい。このような側方距離計測器110は、いずれの治具を利用して前方ブロック3aに取り付けてもよいが、図5では、片持ちフレーム140を採用する場合を事例に挙げている。
【0040】
片持ちフレーム140は、スライド支承6の支承本体61に、建物空間S側に張り出すように取り付けられ、側方距離計測器110の載置部141を、レール21の高さ範囲に設けている。図5では、レール21における上フランジ21bの側面に対向する高さに側方距離計測器110が配置されるよう載置部141を設定しているが、側方距離計測器110がウェブ21cと対向する高さとなるように載置部141を設定してもよい。
【0041】
また、片持ちフレーム140は、必要に応じて斜材142により補剛され、載置部141が側方距離計測器110の重量などにより変形することを防止している。これにより、側方距離計測器110は常時、レール21との離間距離を、高精度で計測することができる。
【0042】
このような片持ちフレーム140及び側方距離計測器110は、図2(b)で示すように、前方ブロック3aの進行方向前端及び後端に一対ずつ、合計4体設けられている。これにより、前方ブロック3aの四隅近傍各々でレール21との離間距離を計測することができる。
【0043】
なお、ユニットブロック3dをスライド移動させる際には、図3(b)で示すように、側方距離計測器110を進行方向前端及び後端に一対ずつ、合計4体設けてもよいし、別途、側方距離計測器110を一対準備し、これをユニットブロック3dの進行方向中間部に設けてもよい。こうすると、ユニットブロック3dの四隅近傍を含む合計6か所で、レール21との離間距離を計測することができる。
【0044】
≪前方距離計測器120≫
前方距離計測器120は、前方ブロック3aの、移動目標地点までの離間距離を計測する。前方距離計測器120も、側方距離計測器110と同様で、接触型もしくは非接触型のいずれの距離計測器を採用してもよい。
【0045】
本実施の形態では、図6(a)で示すように、移動目的地点近傍に設置したターゲットTに向けて、レーザーを発射するレーザー距離センサを採用している。この前方距離計測器120とターゲットTの組合わせは、前方ブロック3aの進行方向前端の両隅側にそれぞれ配置されている。これにより、前方ブロック3aの進行方向前端の両隅で、移動目的地点までの離間距離を計測することができる。
【0046】
≪スライド変位計測装置130≫
スライド変位計測装置130は、図8で示すように、入力部131、演算処理部132、及び出力部133を備える装置であればいずれでもよく、パソコンやノートPC、タブレット端末などを採用することができる。
【0047】
入力部131は、側方距離計測器110及び前方距離計測器120と無線または有線で接続されており、側方距離計測器110で取得したレール21との離間距離実測値や、前方距離計測器120で取得したターゲットTまでの前方距離実測値などの情報を受信する。図示を省略するが、キーボードやマウス、スキャナなどの入力装置と接続し、これらに入力された情報を受信する構成としてもよい。
【0048】
出力部133は、データ出力部1331と警報出力部1332とを備える。データ出力部1331は、入力部131を介して取得した情報や、演算処理部132で処理した処理データなどを、表示装置134に出力する。
【0049】
また、警報出力部1332は、後述する演算処理部132の水平変位検知部1321で、前方ブロック3aもしくはユニットブロック3dの水平変位に異常を確認した場合に、警報情報を表示装置134に出力する。
【0050】
表示装置134は、出力部133と無線または有線で接続されたスライド装置15の集中制御室に設置したモニターや、その他ディスプレイ、プリンタなど、いずれであってもよい。また、警報出力部1332から出力する警報情報は、表示装置134に出力するだけでなく、スピーカーなど音声で報知可能な出力装置に出力する構成としてもよい。
【0051】
さらに、作業員が携帯する携帯端末や工事事務所に設置されている管理用パソコンなどの端末装置135とスライド変位計測装置130とを、通信ネットワークを介して相互にデータ送信可能としてもよい。こうすると、この端末装置135から入力部131を介してスライド変位計測装置130に情報を入力する、もしくはスライド変位計測装置130から出力部133を介して情報を端末装置135に出力できる。なお。通信ネットワークとしては、インターネット、専用通信回線等いずれにより構築されるものであってもよい。
【0052】
演算処理部132は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶部を備え、スライド変位計測装置130の動作を制御する。このような演算処理部132は、少なくとも水平変位検知部1321、伸縮量検知部1322、及び移動量検知部1323を備える。詳細は、移動体監視システム100を利用した屋根の構築方法で説明するが、概略は前方ブロック3aを事例に挙げて説明すると、次のとおりである。
【0053】
水平変位検知部1321は、側方距離計測器110で取得したレール21との離間距離実測値に基づいて、スライド移動により生じた前方ブロック3aのレール21に対する進行直交方向の水平変位を算定する。また、算定した水平変位と、あらかじめ設定した水平変位の判定閾値とに基づいて、前方ブロック3aの水平変位に異常が生じているか否かを判定する。
【0054】
伸縮量検知部1322は、前方ブロック3aの前端及び後端それぞれ設けた一対の側方距離計測器110で取得したレール21との離間距離実測値に基づいて、前方ブロック3aの前端及び後端ごとに、進行直交方向の伸縮量を算定する。そして、移動量検知部1323は、前方距離計測器120で取得したターゲットTまでの前方距離実測値に基づいて、前方ブロック3aの進行方向の移動量を、前端の両隅各々で算定する。
【0055】
≪≪移動体監視システム100を利用した屋根の構築方法≫≫
上記の構成を有する移動体監視システム100を用いて、スライド工法により屋根を構築する手順を、以下に説明する。
【0056】
≪前方ブロック3aの組み立て≫
まず、図2(b)に示すように、建物空間Sにおける一対の壁体2の一端側に設けた作業ステージ7上で、前方ブロック3aを組立てる。
【0057】
前方ブロック3aは、例えば図9(a)で示すように、作業ステージ7上の所定位置に設置された伸縮装置9に支持させた状態で組み立てる。伸縮装置9は、前方ブロック3aを支持するだけでなく、むくらせるよう各々の伸長量が制御されている。これらの作業と併せて、レール21の上方に位置する柱脚32には、スライド支承6の支承本体61及び滑り材62を設置しておくとよい。
【0058】
≪スライド移動に向けた事前準備≫
こののち、伸縮装置9をジャッキダウンして、図9(a)で示すように、組立てた前方ブロック3aを対をなすレール21に支持させる。
【0059】
この作業と前後して、図5で示すように、前方ブロック3aに前方距離計測器120を設置する。また、片持ちフレーム140を介して側方距離計測器110を設置する。さらに、図6(a)で示すように、前方ブロック3aを、レール21に沿って壁体2の延在方向にスライド移動させる際に用いるスライド装置15を設置する。
【0060】
≪初期値及び判定閾値の設定≫
スライド装置15を利用したスライド移動を開始する前に、移動体監視システム100にて、前方距離初期値と、離間距離初期値と、水平変位の判定閾値とを設定する。
【0061】
前方距離初期値は、前方ブロック3aがスライド移動を開始する時点の、前方距離計測器120各々が計測したターゲットTまでの前方距離実測値を採用する。離間距離初期値は、前方ブロック3aがスライド移動を開始する時点の、側方距離計測器110各々が計測したレール21までの実測値を採用する。
【0062】
判定閾値は、上記の離間距離初期値と、レール21の幅、前方ブロック3aと立ち上がり壁2aとの間隔、及び屋根躯体3の設計情報などに基づいて、進行直交方向の水平変位の上限値を設定する。上記のとおり設定した、前方距離初期値、離間距離初期値、及び水平変位の判定閾値は、スライド変位計測装置130の入力部131を介して、演算処理部132に備えた記憶部に格納しておく。
【0063】
≪前方ブロック3aのスライド移動≫
上記の事前準備を実施したのちスライド装置15を稼働させ、図2(b)で示すように、前方ブロック3aのスライド移動を開始する。こうして前方ブロック3aが、一対のレール21上をスライド移動する期間中、移動体監視システム100は、側方距離計測器110でレール21との距離を連続的に計測し、離間距離実測値を取得する。また、前方距離計測器120でターゲットTまでの距離を連続的に計測し、前方距離実測値を取得する。これら実測値は、スライド変位計測装置130に送信される。
【0064】
≪前方ブロック3aのモニタリング:移動距離≫
スライド変位計測装置130は、入力部131を介して前方距離実測値を受信すると、演算処理部132が移動量検知部1323の指令を受けて、前方ブロック3aの進行方向前端の移動距離(移動量)と、左右の移動距離差を算出する。移動距離は、前方距離実測値と前方距離初期値との差を算出することにより取得できる。
【0065】
前方ブロック3aの移動距離(移動量)と、進行方向前端左右の移動距離差が算出されると、演算処理部132は出力部133を介して、表示装置134に算出結果を出力する。図10をみると、前方ブロック3aの進行方向前端左側(L側)は40.788m移動し、進行方向前端右側(R側)は40.795m移動している様子がわかる。これにより、移動距離差が7mm程度に収まっている様子もわかる。このような移動距離及び移動距離差は、前方距離実測値が算出されるごとに算定され、これに伴って表示装置134の出力値も更新される。
【0066】
≪前方ブロック3aのモニタリング:水平変位(位置ズレ量)≫
スライド変位計測装置130は、入力部131を介して離間距離実測値を受信すると、演算処理部132が水平変位検知部1321の指令を受けて、前方ブロック3aにおける進行直交方向の水平変位を算出する。水平変位は、離間距離実測値と離間距離初期値との差を算出することにより取得できる。
【0067】
前方ブロック3aの平面視四隅近傍で水平変位が算出されると、演算処理部132は出力部133を介して、表示装置134に算出結果を出力する。図10をみると、前方ブロック3aは、後端左側(BL側)で18mm、後端右側(BR側)で34mm、左側(L側)に水平変位を生じている様子がわかる。また、前端左側(FL側)で19mm、前端右側(FR側)で20mm、左側(L側)に水平変位を生じている様子がわかる。
【0068】
つまり、前方ブロック3aは、スライド移動に伴って左側(L側)に偏芯する傾向にあるものと判定できる。このような水平変位は、離間距離実測値が算出されるごとに算定され、これに伴って表示装置134の出力値も更新される。
【0069】
また、演算処理部132は水平変位検知部1321の指令を受けて、水平変位が算定されるごとに、前方ブロック3aの平面視四隅近傍各々の水平変位とあらかじめ設定した判定閾値とを比較する。これらのうち、少なくともいずれか1カ所で水平変位が判定閾値より大きい場合に、前方ブロック3aの水平変位に「異常あり」と判定する。
【0070】
水平変位に「異常あり」と判定した場合、演算処理部132は警報出力部1332を介して、スライド装置15の集中制御室に設置したモニターなどの表示装置134に警告メッセージを発報する。作業員は、表示装置134で警告メッセージを受信すると、スライド装置15の運転を一時中断し、前方ブロック3aのレール21に対する水平変位を目視で確認をする、もしくはスライド装置15を適宜調整して前方ブロック3aの位置を調整するなど、適宜対応すればよい。
【0071】
≪前方ブロック3aのモニタリング:伸縮量≫
スライド変位計測装置130は、前方ブロック3aの平面視四隅近傍の水平変位を取得すると、演算処理部132が伸縮量検知部1322の指令を受けて、前方ブロック3aにおける進行直交方向の伸縮量を算出する。進行方向後端側の伸縮量は、後端左側(BL側)と後端右側(BR側)の水平変位の差から算出できる。進行方向前端側の伸縮量は、前端左側(FL側)と前端右側(FR側)の水平変位の差から算出できる。
【0072】
前方ブロック3aの伸縮量が算出されると、演算処理部132は出力部133を介して、表示装置134に算出結果を出力する。図10をみると、前方ブロック3aの進行方向前端は1mm収縮し、進行方向後端は16mm収縮している様子がわかる。このような進行直交方向の伸縮量は、前方ブロック3aの水平変位が算出されるごとに算定され、これに伴って表示装置134の出力値も更新される。
【0073】
上記のとおり、スライド変位計測装置130を備えた移動体監視システム100を採用することで、レール21に対する前方ブロック3aの進行方向前端側及び後端側の水平変位を、スライド装置15の集中制御室に設置したモニターなどの表示装置134で常時モニタリングし、高い精度で効率よく管理できる。したがって、作業員が前方ブロック3aの挙動を監視する作業を省略でき、大幅な省力化を図ることが可能となる。
【0074】
前方ブロック3aが、予定位置に到達したところで、前方ブロック3aのスライド移動作業を終了する。次に、前方ブロック3aの組立て工程と同様の手順で、図3(a)及び(b)で示すように、中間ブロック3bを作業ステージ7上で構築したのち、つなぎ鉄骨10を介して前方ブロック3aと連結し、ユニットブロック3dを構築する。
【0075】
こののち、前方ブロック3aを移動させる工程と同様の手順により、移動体監視システム100で、ユニットブロック3dを常時モニタリングしつつスライド移動を行い、進行直交方向の伸縮量や水平変位をリアルタイムで管理する。同様の手順で、図4(a)及び(b)で示すように、後方ブロック3cを構築するとともに、つなぎ鉄骨10を介してユニットブロック3dに連結し、屋根躯体3を構築する。こうして、壁体2に支持される屋根躯体3が、スライド工法により構築されることとなる。
【0076】
本発明のスライド変位計測装置130は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、本実施の形態では、前方ブロック3a及びユニットブロック3dともに側方距離計測器110を、図2(b)及び図3(b)で示すように、進行方向前端及び後端の各々に対をなして設けたが、必ずしもこれに限定するものではない。平面視の四隅近傍に配置されれば、側方距離計測器110を、進行方向前方側及び後方側のいずれの位置に設けてもよい。さらには、対をなす側方距離計測器110は、進行方向中間部に複数組追加して設置してもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、図1(b)で示すように、大空間構造物1の屋根躯体3を3つのブロックに分割したが、屋根躯体3が長大な場合には、3つ以上のブロックに分割してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 大空間構造物
2 壁体
21 レール
21a 下フランジ
21b 上フランジ
21c ウェブ
21d レール上面材
22 立ち上がり壁
3 屋根躯体
31 鉄骨柱
32 柱脚
3a 前方ブロック
3b 中間ブロック
3c 後方ブロック
3d ユニットブロック
4 屋根仕上げ材
5 屋根
6 スライド支承
61 支承本体
62 滑り材
7 作業ステージ
8 仮受構台
9 伸縮装置
10 つなぎ鉄骨
100 移動体監視システム
110 側方距離計測器
120 前方距離計測器
130 スライド変位計測装置
131 入力部
132 演算処理部
1321水平変位検知部
1322伸縮量検知部
1323移動量検知部
133 出力部
1331データ出力部
1332警報出力部
134 表示装置
135 端末装置
140 片持ちフレーム
141 載置部
142 斜材
15 スライド装置
151 油圧ジャッキ
T ターゲット
J 油圧ジャッキ
S 建物空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10