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  • 特開-直動案内装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142663
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】直動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
F16C29/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049674
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】川田 直樹
【テーマコード(参考)】
3J104
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA34
3J104BA23
3J104BA33
3J104CA01
3J104CA11
3J104DA06
3J104DA20
3J104EA10
(57)【要約】
【課題】転動体充填率の変動を抑制し良好な作動性を得ることができる直動案内装置を提供する。
【解決手段】転動体Bと、転動体が転動する転動溝1aが形成された案内レール1と、その転動溝1aに対向して転動体の転走路Rをなす転動溝3aと、転走路Rを転動した転動体5を循環させるための戻し路3bが形成されたスライダ本体3と、転走路Rと戻し路3bとを連通する方向転換路5が形成されてスライダ本体3の両端に配置される一対のエンドキャップ4(41,42)とを有し、エンドキャップは、方向転換路5の外周側に方向転換路5に沿った肉抜き部6を有することを特徴とする直動案内装置とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体と、
前記転動体が転動する転動溝が形成された案内レールと、
前記案内レールの転動溝に対向して前記転動体の転走路をなす転動溝と、前記転走路を転動した前記転動体を循環させるための戻し路が形成されたスライダ本体と、
前記転走路と前記戻し路とを連通する方向転換路が形成されて前記スライダ本体の両端に配置される一対のエンドキャップとを有し、
前記エンドキャップは、方向転換路の外周側に方向転換路に沿った肉抜き部を有する
ことを特徴とする直動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械等に用いられる直動案内軸受装置の改良に関する
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の直動案内装置としては、例えば、軸方向に直線状に延びる案内レールとその案内レール上を移動可能に跨架されたスライダとを備えたものが知られている。
前記案内レールの両側面にはそれぞれ軸方向に延びる直線状の転動溝が形成されており、スライダは、前記案内レールの転動溝に対向して転動体の転走路をなす転動溝と、前記転走路を転動した前記転動体を循環させるための戻し路が形成されたスライダ本体と、前記転走路と前記戻し路とを連通する方向転換路が形成されて前記スライダ本体の両端に配置される一対のエンドキャップとを有している。
【0003】
そして、前記転動溝と前記戻し路と前記方向転換路によって形成された循環路に転動自在に装填された多数の転動体(鋼球)の転動を介してスライダが案内レール上を軸方向に沿って移動できるようになっている。
転動体は、前記案内レールの転動溝と対向するスライダ本体の転動溝とで形成される前記転送路においてスライダと案内レールとの間に介在し、スライダの移動につれて転動することでスライダ本体の一方の端部に移動する。
さらに、転動体は、前記スライダ本体の一方の端部おいて、その一方の端部に配されたエンドキャップの方向転換路を経てスライダ本体の前記転動溝から前記戻し路へと移動する。また、スライダ本体の他方の端部において、その他方の端部に配されたエンドキャップの方向転換路を経てスライダ本体の前記戻し路から転送路へと移動する。
これにより、スライダ本体の戻し路とエンドキャップの方向転換路とは、転動体を転走路へ循環させるための循環路を構成し、転動体が前記転送路および循環路を無限に循環することができるため、スライダが継続して軸方向に移動することができる。
【0004】
このような構成の直動案内装置においては、転動溝(負荷領域)から方向転換路(無負荷領域)へ微少移動する転動体の微少移動量と、方向転換路(無負荷領域)から転動溝(負荷領域)へ微少移動する転動体の微少移動量との間に差が発生する。
このときの転動体の挙動を具体的に説明すると、負荷領域である直線状の転動溝では一定の移動速度となるが、無負荷領域である方向転換路は曲線部で構成されるため、方向転換路においてはそれぞれの転動体が一定の移動速度とはならず転動体充填率が変動する。そして、転動体充填率の変動によって所定の収容量を超えて過密状態となった場合には、転動体の千鳥現象や動摩擦力の大きな変動を起こす原因となり、転動溝(負荷領域)の転動体が押されてすべりが発生し、動摩擦力が瞬間的に上がることで転動体の円滑な公転運動(循環路に沿った運動)を阻害することとなり作動性の向上を図ることが難しいという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、特許文献1では、スライダの転動溝および戻し路の長さとタング形状の関係を最適な寸法に設計することや、最適な寸法の保持ピースを設けるなどして方向転換路内の転動体充填率の変動を緩和し、転動体が方向転換路(無負荷領域)から転動溝(負荷領域)に侵入する際の転動体のすべりによる作動性の変動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-21848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、各部品の寸法や取付位置を最適値に設計する必要があるため、高い部品精度および各部品の高い位置合わせ精度が必要となり、また、転動溝の両端にクラウニングを設けた場合、転動体充填率の変動を抑制するために、予圧仕様毎に最適なクラウニング形状を定めることが必要となるため、生産性やコスト面での課題があった。
そこで、本発明においては、生産性やコスト面の課題を解決しつつ良好な作動性を得ることができる直動案内装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために本発明は、転動体と、前記転動体が転動する転動溝が形成された案内レールと、前記案内レールの転動溝に対向して前記転動体の転走路をなす転動溝と、前記転走路を転動した前記転動体を循環させるための戻し路が形成されたスライダ本体と、前記転走路と前記戻し路とを連通する方向転換路が形成されて前記スライダ本体の両端に配置される一対のエンドキャップとを有し、前記エンドキャップは、方向転換路の外周側に方向転換路に沿った肉抜き部を有することを特徴とする直動案内装置としたことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産性やコスト面の課題を解決しつつ良好な作動性を得ることができる直動案内装置を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明直動案内装置の一実施形態を一部切欠いて示す概略側面図、(b)は、(a)の一点鎖線で囲むエンドキャップの一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明直動案内装置の一実施形態について説明する。なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず何等限定解釈されるものではなく本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0012】
本発明の実施形態に係る転がり軸受案内装置を添付図面に基づいて説明する。
図1に示す本発明の実施形態に係る直動案内装置10は、工作機械、搬送装置、その他の生産設備に用いられるものであり、直線状の案内レール1と、案内レール1に沿って移動可能なスライダ2とからなる。なお、図1の(a)は直動案内装置10の一部を拡大するとともにスライダ2の一部を切り欠いて示し、(b)は(a)の一点鎖線で囲む部分の拡大図である。
【0013】
案内レール1は略四角柱状の金属製部材からなり、その直線状の両側面には長手方向へ延びる転動溝1aがそれぞれ形成されている。図1はその片側面を拡大して示している。
【0014】
スライダ2は、スライダ本体3と、スライダ本体3の長手方向の両端部31,32に取り付けられた一対のエンドキャップ4(41,42)とからなる。
スライダ本体3は、断面が略コ字状をした金属製部材からなり、前記案内レール1の長手方向へ延在するとともに、前記案内レール1に跨嵌されている。
前記スライダ本体3において、前記案内レール1の両側面の転動溝1aに対向する部分、即ち断面略コ字状の両脚部の内側面には、案内レール1の転動溝1aに対向して長手方向へ延びる転動溝3aが形成されている。
そして、スライダ本体3の転動溝3aと案内レール1の転動溝1aとで、転動体Bが転動する転走路Rを構成している
なお、前記案内レール1の転動溝1aは案内レール1の片側面あたり2本形成され、それに対向するようにスライダ本体の転動溝3aもまた片脚部の内側面あたり2本形成され、2本の転送路Rを構成している。
さらに、スライダ本体3の両脚部には、前記転動溝3aと平行して、スライダ本体3を長手方向へ貫通した直線状の戻し路3bが2本ずつ形成されている。
【0015】
エンドキャップ4は、略コ字状の樹脂製部材からなり、左右対称形状の一対の一端側エンドキャップ41と他端側エンドキャップ42とからなる。
一端側エンドキャップ41は、スライダ本体3の長手方向の一端31に隙間なく配され、他端側エンドキャップ42は、スライダ本体3の長手方向の他端32に隙間なく配される。
【0016】
一端側エンドキャップ41および他端側エンドキャップ42の両脚部には、それぞれ、そのスライダ本体3に接する面に方向転換路5が形成されている。
方向転換路5は、半円弧状の内径面5aと、同心の半円弧状の外径面5bにより転動体Bの玉径よりも僅かに幅広に形成される半円弧状の通路であって、案内レール1の転動溝1aとスライダ本体3の転動溝3aとで形成される前記転走路Rと、スライダ本体3の戻し路3bとを連通する。
また、前述のように前記転走路Rと前記戻し路3bは2本ずつ形成されているため、それらを連通する方向転換路5も2本ずつ形成されている。
なお、エンドキャップ4の材質は、本実施形態では樹脂部材とするが、これに限定されるものではなく、本発明の目的が達成可能である限り、直動案内装置の使用環境や用途により要求される耐久性耐候性に鑑み適宜選択されればよい。
【0017】
スライダ本体3の戻し路3bとエンドキャップ4(一端側エンドキャップ41および他端側エンドキャップ42)の方向転換路5とは、転動体Bを転走路Rへ循環させるための循環路Cを構成している。
循環路C及び転走路Rには転動体Bとして多数の負荷ボールが装填され無限に循環する。即ち、スライダ2の移動につれて転走路R内を転動した転動体Bは、循環路Cを経て再度転走路Rへ導かれ、転走路Rと循環路Cを循環することができる。
また、循環した転動体Bが負荷領域である転走路Rを転動することによって、スライダ2は案内レール1上を直線運動することができる。
なお、負荷ボール(転動体B)は球形の金属製部材からなり、直動案内装置10にかかる外部荷重や予圧による負荷を転走路Rで受ける。負荷ボールの材料は、金属に限られずセラミックス等でもよい。
【0018】
ここで、エンドキャップ4の両側の脚部の内側には、方向転換路5の案内レール1側の端部をなしており、方向転換路5の外径面5bが案内レール1の転動溝1aへ向かって突出したタング部7が一体的に形成されている。
このタング部7は、転動体Bが直線状の転走路R(負荷領域)から半円弧状の方向転換路5(無負荷領域)へ進入する際には、転動体Bをすくい上げて導く作用があり、転動体Bが半円弧状の方向転換路5(無負荷領域)から直線状の転走路R(負荷領域)へ進入する際には、転動体Bを送り出す作用がある。
【0019】
さらに、本実施形態を示す図1(a)および(b)において、転動体Bの移動方向(矢印Ba)の上流側に配されるエンドキャップ41の方向転換路5の外周側には肉抜き部6が配されている。
【0020】
肉抜き部6は、戻し路3b側に形成される突起部8から、転送路R側に形成される前記タング部7にかけて、方向転換路5の外周側に沿って形成された連続した半円弧状の空間であり、前記方向転換路5の外径部5bと所定の厚みを有して同心かつ大径に形成された内径面6aと、内径面6aと同心かつ大径に形成された外径面6bとによって形成される。
【0021】
肉抜き部6の内径面6aが前記方向転換路5の外径部5bと所定の厚みを有して形成されることによって、エンドキャップ4全体の剛性を保ったまま方向転換路5の剛性を可及的に小さくすることができる。
方向転換路5の剛性が小さくなることによって、転動体Bの転動体充填率の変動が生じた際には、方向転換路5にともなってタング部7が弾性変形することで、その変動を吸収する。これにより、玉すべりが抑制され、動摩擦力の瞬間的な上昇にともなう作動性の悪化を抑制することができる。
【0022】
なお、本実施形態では一例として転動体Bの移動方向(矢印Ba)の上流側に配されるエンドキャップ41に肉抜き部6を有する場合を説明したが、転動体Bの移動方向(矢印Ba)の下流側のエンドキャップ42も同様の構成にて肉抜き部6を有していても良い。
また、肉抜き部6の内径面6aと前記方向転換路5の外径部5bとの厚みについては、エンドキャップ4の樹脂部材の剛性および転動体Bの転動体充填率の変動量を考慮して設定されれば良いため、ここでは特に限定しない。
【0023】
さらに、本実施形態においては、肉抜き部6の内径面6aと外径面6bを同心の半円弧状に形成した場合を説明したが、少なくとも肉抜き部6の内径面6aが前記方向転換路5に沿って形成されていれば良く、外径面6bは、エンドキャップ4の剛性が保たれ、方向転換路5の剛性を所望の剛性に設定できる限りにおいて他の形状をしていても本発明の範囲内である。例えば、外径面6bが直線上に形成されていても良い。
【0024】
また、本実施形態においては、肉抜き部6が戻し路3b側に形成される突起部8から、転送路R側に形成される前記タング部7にかけて半円弧状の所定の空隙として形成される場合を説明したが、肉抜き部6の円弧長はこれに限定されるものではなく、エンドキャップ4の剛性が保たれ、方向転換路5の剛性を所望の剛性に設定できる限りにおいて、短く形成されていても良い。例えば、半円弧状の方向転換路5のタング部7側の半分の円弧長に形成されていても良いし、タング部7の直近のみに形成されていても良い。
【0025】
また、本実施形態において、肉抜き部6を連続した半円弧状の空間として形成した場合を説明したが、肉抜き部6が断続した半円弧状の空間として形成されている場合であっても、それら断続した空間によって方向転換路5の剛性を所望の剛性に設定される限りにおいて本発明の範囲内である。また、その場合には断続した直線状の空間が前記方向転換路5に沿って半円弧状に並ぶ配置であっても良い。あるいは、断続した直線状の空間同士が連続することによって多角形状を成している場合も本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、エンドキャップを有する直動案内装置全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 案内レール
1a 転動溝
2 スライダ
3 スライダ本体
3a 転動溝
3b 戻し路
31 スライダ本体の一端
32 スライダ本体の他端
4 エンドキャップ(一対)
5 方向転換路
5a 方向転換路の内径面
5b 方向転換路の外径面
6 肉抜き部
6a 肉抜き部の内径面
6b 肉抜き部の外径面
7 タング部
8 突起部
B 転動体
Ba 転動体の移動方向
C 循環路
R 転送路
図1