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  • 特開-石分含有率の測定方法 図1
  • 特開-石分含有率の測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142715
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】石分含有率の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/02 20060101AFI20230928BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
G01N15/02 B
G01N33/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049739
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】中島 亮
(72)【発明者】
【氏名】二俣 尊貞
(57)【要約】
【課題】現地での試料採取を行うことなく、石や土などを含む土質材料の石分含有率を精度よく測定する方法を提供する。
【解決手段】観測領域内にある石分が露出している法面に散水するステップ(ステップS11)と、散水された法面を撮影するステップ(ステップS12)と、前記撮影された法面の映像を画像処理して法面における石分含有率を求めるステップ(ステップS14~ステップS17)とを有し、観測領域内の石分含有率を測定する。また、画像処理する画像を、散水後から予め設定された所定時間だけ経過した後に撮影した画像とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域内の石分含有率を測定する方法であって、
観測領域内にある石分が露出している法面に散水するステップと、
前記散水された法面を撮影するステップと、
前記撮影された法面の映像を画像処理して前記法面における石分含有率を求めるステップとを備え、
前記画像処理する画像が、散水後から予め設定された所定時間だけ経過した後に撮影した画像であることを特徴とする石分含有率の測定方法。
【請求項2】
前記画像処理する画像が、前記所定時間経過した後に撮影した、最大輝度が予め設定した閾値以上の画像であることを特徴とする請求項1に記載の石分含有率の測定方法。
【請求項3】
前記法面の撮影をドローンに搭載された撮影手段により行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の石分含有率の測定方法。
【請求項4】
前記法面がフィルダムの建造現場に形成された法面であるでことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の石分含有率の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山を構成する土質材料に含まれる石分の含有率の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロックフィルダムやアースダムなどのフィルダムを建造する場合には、現地で地盤を掘削して採取した石や土などの土質材料を用る場合が多い。フィルダムの建造においては、これら土質材料に対する要求性能として、透水性(透水係数)や粒度(粒径の分布状態)などがある。
掘削で発生する土石流堆積物(以下、Df材という)は、粒径が数十cm以上の石分(粗石、巨石)を多く含んでいるが、堤体盛立材として用いられる。遮水材の最大粒径は100mm~200mm、半透水材の最大粒径は200mm~300mm程度とするのが一般的で、最大粒径を超えるオーバーサイズの石分は廃棄される。したがって、盛立材としての要求品質を満足し、かつ、Df材の流用量を確保するためには、石分の含有率を把握する必要がある。
しかしながら、75mm以上の石分を含む粒度試験(JGS0132;石分を含む地盤材料の粒度試験方法など)は、一つの試験あたり5m3程度のサンプリングが必要であるだけでなく、バックホウや人力で石分を各粒径別に選別するための篩い分け試験や乾燥質量の計測にも多大な労力と時間を要するといった問題点があった。
【0003】
そこで、CCDカメラなどを用いて現地で採取した土質材料の試料を撮影し、その撮影画像を用いて試料の粒度を推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
具体的には、ベルトコンベアで搬送される試料を撮影し、この撮影された画像に二値化処理を行い、二値化画像から粒径に対応した面積や粒子数を算定することで試料の粒度分布を求める。
これら方法によれば、石分の選別作業を行うことなく、短時間で、高精度の性能の粒度分布を求めることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-106923号公報
【特許文献2】特開2003-83868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現地で採取した試料の撮影画像から粒度を推定する方法では、搬送される試料が分離された状態(粒子の重なりがない状態)でないと十分な精度が得られないため、粒子を分離するための設備が必要であった。
また、試料に用いる土質材料は、上記のように、5m3程度のサンプリングが必要であるだけでなく、ある程度の深さの層のものまで採取しないと深度方向の不均一性をカバーできないので、試料の採取作業にも多大な時間が必要であった。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、現地での試料採取を行うことなく、石分含有率を精度よく測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、D材が露出する法面の写真を撮影して解析することで、試料に用いる土質材料を採取することなく、石分含有率を測定できること、及び、法面の写真撮影を、石が乾いておりマトリックスである土がまだ濡れている状態で行うことで、石と土とのコントラストが明瞭な画像を得ることができることを見出し本発明に至ったものである。
すなわち、本発明は、観測領域内の石分含有率を測定する方法であって、観測領域内にある石分が露出している法面に散水するステップと、前記散水された法面を撮影するステップと、前記撮影された法面の映像を画像処理して前記法面における石分含有率を求めるステップとを備え、前記画像処理する画像が、散水後から予め設定された所定時間だけ経過した後に撮影した画像であることを特徴とする。
これにより、土質材料を採取することなく、観測領域内の石分含有率を精度よく測定することができる。なお、前記所定時間は、例えば、晴天時でかつ気温が20℃以上ならば2時間とするなど、天気や気温の変化などの気象条件(天気予報の情報)に基づいて、予め何段階かに設定しておくことが好ましい。
また、前記画像処理する画像を、前記所定時間経過した後に撮影した、最大輝度が予め設定した閾値以上の画像(土がまだ湿っていて黒く見え、石の表面が乾いて白く見える画像)としたので、石と土とのコントラストが明瞭な画像を確実に得ることができる。
また、前記法面の撮影をドローン(無人航空機)に搭載された撮影手段により行ったので、法面に垂直な方向からみた法面の画像を容易にかつ短時間で撮影することができる。
また、前記法面を、例えば、既設流入河川の転流工事により構築した水路の斜面などのようなフィルダムの建造現場に形成された法面としたので、深度方向の不均一性についてもカバーできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る石分含有率の測定システムを示す図である。
図2】石分含有率の測定方法を示すフローチャートである。
図3】散水後における撮影画像、二値化画像、解析用画像の一例を示す図である。
図4】晴天時における撮影画像、二値化画像、解析用画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施の形態に係る石分含有率の測定装置(以下、測定装置10という)を示す図で、測定装置10は、撮影手段としてのCCDカメラ11、ドローン12と、画像入力手段13と、画像判定手段14と、二値化画像作成手段15と、解析用画像作成手段16と、石分含有率算出手段17と、表示手段18とを備え、観測領域1内に構築された人工水路2の法面3を撮影した画像から、観測領域1における石分含有率を推定する。
画像入力手段13~石分含有率算出手段17までの各手段は、画像処理部19を構成する。また、本例では、法面3をフィルダムを建造する際に、同図の左上の図の破線で示す既設流入河川の転流工事により構築した人工水路2の法面としたが、フィルダムの工事範囲にある法面であればどこでもよい。
上記の画像処理部19を構成する各手段は、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROM,RAM、及びユーザーインターフェース等のハードウェアを備えたコンピュータのCPUを、ROMに格納されたプログラムに従って動作させることにより機能する。
【0010】
CCDカメラ11は、ドローン12に搭載されて、法面3の上空から、土4をマトリックスとした石5が露出した法面3の映像を撮影する。本例では、撮影画像をカラー画像としたがモノクロ画像であってもよい。
ドローン12は、プロペラを備えた飛行体本体12aと、CCDカメラ11を取付けるためのカメラ取付部12bと、飛行体本体12aに取付けられたCCDカメラの11の撮影方向を調整するカメラ制御部12cとを備えた小型無人飛行体で、CCDカメラ11を撮影現場である法面3の上空へ移動させる。
画像入力手段13は、CCDカメラ11で撮影した法面3の画像を取り込んで画像判定手段14に送る。
画像判定手段14は、画像入力手段13から送られてきた画像が、石分含有率の測定に使用可能な画像であるか否かを判定する。以下、石分含有率の測定に使用可能な画像を入力画像という。
二値化画像作成手段15は、入力画像に二値化処理して二値化画像を作成する。
解析用画像作成手段16は、二値化画像の輪郭出しを行って解析用画像を作成する。
石分含有率算出手段17では、解析用画像を用いて面積比率Rを算出する。面積比率Rの算出については後述する。面積比率Rが本発明の石分含有率に相当する。
表示手段18はディスプレイ18Gを備え、算出された石分含有率をディスプレイ18G上に表示する。
【0011】
次に、本発明による石分含有率の測定方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。
始めに、天気予報の情報等から撮影日を決定するとともに、撮影する人工水路2と法面3とを決定する(ステップS10)。法面3としては深度方向に露出した法面であればよい。また、撮影日としては晴天の日が望ましく、気温が高ければより好ましい。
撮影日には、まず、法面3に散水する(ステップS11)。
散水は、作業者がホースなどを用いて行ってもよいし、法面3の上から水を人工水路2の底に向かって流してもよい。
そして、散水から所定時間経過後にCCDカメラ11を搭載したドローン12をステップS10で決定した人工水路2の上空まで飛ばし、法面3の表面を、法面正面(法面3に垂直な方向)から撮影する(ステップS12)。
次に、画像判定手段14にて、撮影された画像が使用可能な画像であるか否かを判定する(ステップS13)。散水後にある程度時間が経過すると土4は湿ったままで黒っぽいが石5の表面は乾いて白っぽくなる(明るくなる)。そこで、予め輝度の閾値を設定し、撮影された画像の最大輝度が予め設定した閾値以上であれば、土4と石5との色のコントラストが明瞭な画像であると判定し、この画像を入力画像として二値化画像作成手段15に送り、ステップS14に進む。
一方、画像の最大輝度が予め設定した閾値未満であれば、石5の表面の乾燥が不十分であると判定してステップS12に戻る。なお、ステップS12に戻ってから再撮影するまでの時間は20分~30分とすることが好ましい。
ステップS14では、入力画像に二値化処理して二値化画像を作成する。具体的には、予め設定された閾値未満の輝度の画素の色を白とし、閾値以上の輝度の画素の色を黒としたモノクロ画像を作成する。
図3(a)は観測領域1の東側に設けた法面3を撮影した入力画像で、図3(b)はその二値化画像である。
【0012】
次に、解析用画像作成手段16にて、得られた二値化画像のエッジ検出を行い、図3(c)に示すような解析用画像を作成し、この解析用画像を用いて土4と石5とを区別する(ステップS15)。なお、解析用画像では、黒色の輪郭で囲まれた白い部分が石5である。
次に、石分含有率算出手段17にて石5の数量と石5の面積Sを測定して面積比率Rを算出し、この面積比率Rを石分含有率とする(ステップS16)。
本例では、遮水材の最大粒径を150mm、半透水材の最大粒径を300mm~500mmと設定し、長径が150mm以上の石分と、長径が300mm以上の石分と、長径が500mm以上の石分の面積比率Rを算出した。面積比率Rは以下の式(1)を用いて算出した。
面積比率R(%)=(石分の面積の総和)/(解析範囲面積)×100……(1)
最後に、算出された石分含有率を、表や円グラフなどにして表示手段18のディスプレイ18G上に表示する(ステップS17)。
【0013】
上記のように、図3(a)は、観測領域1の東側に設けた法面(東側法面)を撮影した画像(散水後)、図3(b)はその二値化画像、図3(c)解析用画像である。また、参考のため、晴天時において散水しない状態の法面を撮影した画像(晴天時)、二値化画像、及び、解析用画像を図4(a)~(c)に示す。
また、以下の[表1]は散水後の画像から面積比率Rを求めた結果を示す表で、比較のため、晴天時の画像から求めた面積比率Rを右側に記載した。
【表1】
上記の図3(a)に示した散水後の画像は、図4(a)に示した晴天時の画像に比較してマトリックスとなる土4と解析対象となる石5との境界が明確なので、解析の結果でも識別された石5の個数も多く、合計面積も大きい。したがって、散水後の画像を用いれば、石分含有率の推定精度を高めることができることがわかる。
このように、本願発明の石分含有率の測定方法を用いれば、資料採取の掘削作業や篩い分けを行うことなく石分含有率を求めることができる。
したがって、半透水材料として用いることができない大きな石の含有率を基に、撮影した法面3を含む観測領域1内の土質材料が、フィルダムを建造に用いる盛立材料に適しているか否かを判断することができる。また、廃棄分の量を把握できるので、必要な土捨て場の容量を予め把握することができる。
【0014】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0015】
例えば、前記実施の形態では、面積比率Rを用いて石分含有率を算出したが、従来の篩での分類と同様に、長径を当該石5の粒径として石分含有率を算出してもよい。
また、前記実施の形態では、法面3に人工的に散水した後撮影したが、雨天後に撮影してもよい。なお、石の表面が乾くまでの時間は雨天時からの天気予報等で予測する。
また、前記実施の形態では、法面3を、フィルダムの建造現場に形成された法面としたが、法面は既成のものでなく、フィルダムの建造現場の斜面を切土して新たに形成したものでもよい。要は、深度方向に露出した法面であればよい。なお、切土作業は、試料採取の作業に比較して少ない時間及び労力でできるので、従来に比べて所要時間と労力を大幅に低減できる。
【符号の説明】
【0016】
1 観測領域、2 人工水路、3 法面、4 土、5 石、
10 石分含有率の測定装置、11 CCDカメラ、12 ドローン、
13 画像入力手段、14 画像判定手段、15 二値化画像作成手段、
16 解析用画像作成手段、17 石分含有率算出手段、18 表示手段。
図1
図2
図3
図4