(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142716
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ピペット
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B01L3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049741
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】塚田 亮平
(72)【発明者】
【氏名】大久保 春男
(72)【発明者】
【氏名】林 大輔
【テーマコード(参考)】
4G057
【Fターム(参考)】
4G057AB11
(57)【要約】
【課題】液だれを抑制可能なピペットを提供する。
【解決手段】筒状のピペット本体と、ピペット本体の先端側に設けられた排出部と、ピペット本体と排出部との間に設けられた整流板と、ピペット本体の後端に設けられた接続部と、を有し、整流板は、ピペット本体の延びる方向に貫通し、ピペット本体の内部空間と連通する複数の貫通孔を有するピペット。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のピペット本体と、
前記ピペット本体の先端側に設けられた排出部と、
前記ピペット本体と前記排出部との間に設けられた整流板と、
前記ピペット本体の後端に設けられた接続部と、を有し、
前記整流板は、前記ピペット本体の延びる方向に貫通し、前記ピペット本体の内部空間と連通する複数の貫通孔を有するピペット。
【請求項2】
前記排出部は、前記ピペット本体側から遠ざかる方向に漸次断面積が縮小する錐台部と、
前記錐台部の先端において延びる筒状部とを有し、
前記筒状部の内部は複数に分割されている請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
前記排出部の先端は、前記内部空間と連通する開口部であり、
前記開口部は複数に分割されている請求項1又は2に記載のピペット。
【請求項4】
前記開口部は、2~4の穴に分割されている請求項3に記載のピペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットに関する。
【背景技術】
【0002】
生化学試験においては、生体分子や細胞を溶解・分散した溶液を分注する器具として、ピペットが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピペットで液体を吸引し移し替えを行う際、ピペットに加わる揺れのため、ピペット先端から液体のしずくが落ちることがある。以下の説明においては、液体を吸引したピペットを移動させる際に、意図せずピペット先端から液体のしずく(液滴)が落ちることを「液だれ」と称することがある。
【0005】
移し替える液体が、例えば高タンパク質の培地である場合、液滴として落ちた培地が雑菌の温床となり、実験環境が汚染され無菌環境が維持できないおそれがある。また、このように培地で実験環境が汚れた場合、無菌環境を担保するために清掃や除染が必要となり、作業効率が低下する。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、液だれを抑制可能なピペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体を吸い上げたピペット先端を重力方向に向けた場合、ピペットが液体を吸い上げる力(内部空間向きの力)と、ピペットの外部向きに液体に加わる力と、がつり合っていると液だれは生じない。ピペットが液体を吸い上げる力とは、ピペットの内部空間の気圧が周囲と比べ減圧になっていることで大気から受ける力、及び液体の表面張力により生じる力が挙げられる。ピペットの外部向きに液体に加わる力とは、代表的には重力が挙げられる。
【0008】
一方、ピペットを動かす際に液体に加わる加速度により、一時的にピペットの外部向きに液体に加わる力が増加すると、上記つり合いが崩れ、液だれを生じると考えられる。
【0009】
発明者らが検討した結果、ピペット先端において液体の表面張力により生じる「吸い上げる力」を増大させる構成とすることにより、液だれを効果的に抑制できると考え、発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0011】
[1]筒状のピペット本体と、前記ピペット本体の先端側に設けられた排出部と、前記ピペット本体と前記排出部との間に設けられた整流板と、前記ピペット本体の後端に設けられた接続部と、を有し、前記整流板は、前記ピペット本体の延びる方向に貫通し、前記ピペット本体の内部空間と連通する複数の貫通孔を有するピペット。
【0012】
[2]前記排出部は、前記ピペット本体側から遠ざかる方向に漸次断面積が縮小する錐台部と、前記錐台部の先端において延びる筒状部とを有し、前記筒状部の内部は複数に分割されている[1]に記載のピペット。
【0013】
[3]前記排出部の先端は、前記内部空間と連通する開口部であり、前記開口部は複数に分割されている[1]又は[2]に記載のピペット。
【0014】
[4]前記開口部は、2~4の穴に分割されている[3]に記載のピペット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液だれを抑制可能なピペットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図2は、
図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
【
図3】
図3は、整流板40を軸Cに沿った視野で見たときの模式図である。
【
図4】
図4は、ピペット1の先端の開口部20xを示す模式図である。
【
図5】
図5は、整流板40の機能を説明する説明図である。
【
図6】
図6は、従来の構成のピペット1Xの先端部分の断面図である。
【
図7】
図7は、ピペット1の先端部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1~
図7を参照しながら、本実施形態に係るピペットについて説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
図1は、ピペット1の概略斜視図である。
図2は、
図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
図1,2に示すように、ピペット1はピペット本体10と、排出部20と、接続部30と、整流板40とを有する。以下の説明においては、ピペット本体10を単に「本体10」と略称することがある。ピペット1は、先端の開口部20xから吸い上げた液体を、内部空間Sに貯留する。
【0019】
ピペット1の容量は、例えば、1~200mLであってもよく、2~150mLであってもよく、2~100mLであってもよい。ピペット1の容量が上記範囲内であることにより、大容量を一度に処理することができる。
【0020】
(ピペット本体)
本体10は、軸Cを中心とする筒状を呈し、内部に貫通孔10aを有する。図では、本体10を外直径及び内径が一定の円筒状の部材として記載しているがこれに限らない。
【0021】
本体10の長さは、本体10の軸Cの方向の長さをいう。本体10の長さは100~500mmであり、120~400mmであることが好ましく、140~300mmであることがより好ましい。
【0022】
本体10の材料としては、ピペットの材料として通常用いられるものであれば特に制限されず使用することができる。本体10の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン等が挙げられる。ピペット1をオートクレーブやガンマ線により滅菌する場合、これらの滅菌処理において劣化や変形をしない材料を選択するとよい。
【0023】
(排出部)
排出部20は、本体10の先端10x側に設けられ、本体10と連通する貫通孔20aを有する。
【0024】
排出部20は、本体10から遠ざかる方向において、漸次断面積が縮小する錐台部21を有する。さらに排出部20は、錐台部21の先端において本体10の軸Cの方向に延びる筒状部22を有すると好ましい。筒状部22は、一定の内径を有する筒状部材である。筒状部22の内径は、本体10の内径よりも小さい。
【0025】
錐台部21の外形は、軸Cを中心とする円錐台であり、内側に貫通孔10aと連通する空間を有する。筒状部22は、軸Cを中心とする筒状を呈し、錐台部21と連通する。筒状部22の先端は、内部空間と連通する開口部20xである。
【0026】
排出部20の材料としては、上述の本体10の材料と同様とすることができる。
【0027】
(接続部)
接続部30は、本体10の後端10y側に設けられ、本体10と連通する貫通孔30aを有する。接続部30は、本体10と接合する第1部材31と、第1部材31に接合した筒状の第2部材32と、を有する。第2部材32は、不図示の吸引具に取り付けられる。
【0028】
接続部30の材料としては、上述の本体10の材料と同様とすることができる。
【0029】
(整流板)
図3は、整流板40を軸Cに沿った視野で見たときの模式図である。整流板40は、本体10と排出部20との間に設けられる円板状の部材である。整流板40は、本体10と排出部20とにより厚さ方向に挟まれ固定されている。
【0030】
整流板40は、本体10の延びる方向に複数の貫通孔40xを有する。貫通孔40xは、内部空間Sと連通する。これにより、内部空間Sの液体Lは、整流板40により動きが規制されると共に、貫通孔40xを介して外部に排出される。
【0031】
本体10は、先端10xにおいて整流板40と液密に接合している。また、本体10は、後端10yにおいて接続部30と液密に接合している。さらに、整流板40は、排出部20と液密に接合している。本体10、排出部20、接続部30及び整流板40の接合方法としては、熱溶着、レーザー溶着、超音波溶着、接着剤・粘着剤を使用した接着などが挙げられる。
【0032】
また、排出部20と本体10との接続方法は、界面が液密であるならば上記方法に限らない。例えば、本体10の先端10xの外周面に雄ねじ、排出部20の内周面に雌ねじを設け、螺号することで接続してもよい。
【0033】
ピペット1では、本体10の貫通孔10a、排出部20の貫通孔20a、接続部30の貫通孔30a、整流板40の貫通孔40xが連通し、全体として筒状を呈している。接続部30に接続された吸引具は、接続部30の貫通孔30aを介して、ピペット1の内部空間Sを減圧し、先端の開口部20xから液体を吸い上げる。
【0034】
図4は、ピペット1の先端の開口部20xを示す模式図である。詳しくは、
図4は、ピペット1の先端を、軸Cに沿った視野で見たときの開口部20xの内部を示す模式図である。
【0035】
図4に示すように、ピペット1の開口部20xの内部、すなわち筒状部22の内部は、開口部20xを分割する分割部25が設けられ、複数に分割されている。
図4では、開口部20xには、十字の分割部25が設けられ、4つの小孔20yに分割されている。開口部20xを分割する数は、
図3に示す数に限らず、2つであってもよく、3つであってもよい。ピペット1を用いた液体の吸引と排出とを阻害しない範囲であれば、開口部20xは5以上に分割されていてもよい。
【0036】
図5~7は、ピペット1の効果を説明する説明図である。
図5は、整流板40の機能を説明する説明図であり、
図6、7は、分割部25の機能を説明する説明図である。
図5~7では、重力方向をz軸方向として設定し、ピペットの中心軸がz軸と平行となる姿勢とする。ピペット内部への方向を+z方向、ピペット外部への方向を-z方向とする。
【0037】
図5に示すように、整流板40は、内部空間Sの液体L1がピペット1の先端側に移動する際、本体10から排出部20に移る液体L1の一部の流れを遮り、単位時間あたりに貫通孔40xを通過する量の液体L2を規制する。言い換えると、整流板40は、内部空間Sからピペット1の先端側に移動する液体L1の勢いを低減する。
【0038】
ここで、ピペット1を用い液体Lを吸引し移し替えを行う際には、ピペット1が-z方向に移動することがある。その際、内部空間Sに貯留される液体Lは、ピペット1の移動方向に生じる加速度により、液体Lを先端方向に動かそうとする力FAが働く。この力FAは、ピペットの先端の液体Lを-z方向に押し下げ、「液だれ」を生じさせる。
【0039】
一方、ピペット1においては、整流板40が液体Lの移動を規制し、液体Lの勢いを低減させる。そのため、内部空間Sに貯留される液体Lが-z方向に移動したとしても、液体Lに働く力は、整流板40を介することで、力FAから力FBに低減する。これにより、ピペットの先端の液体Lを-z方向に押し下げる力が弱まり、「液だれ」を抑制することができる。
【0040】
図6は従来の構成のピペット1X、
図7は本実施形態のピペット1の先端部分の断面図である。
図6,7では、ピペットの構成のみ異なり、その他の操作における条件は同じとする。
【0041】
まず、
図6に示すピペット1Xで液体Lを吸い上げた場合、液体Lには、ピペット1Xの接続部に接続した吸引具から加えられる吸引力Fが加わる。また、ピペット1Xの先端では毛管現象が生じ、先端の液体Lには、筒状部22の内壁22xとの間に生じる表面張力が働く。表面張力は、先端の液体Lを+z方向に吸い上げる力F1として作用する。
【0042】
一方、液体Lには、-z方向に重力Gが加わる。ピペット1Xで液体Lを吸い上げた場合、吸引力Fと力F1との合力と、重力Gとがつり合うことで、液体Lがピペット1Xの内部に保持されると考えることができる。
【0043】
また、筒状部22は本体10よりも内径が小さいことから、ピペット1Xの内部に貯留された液体Lが筒状部22を通過する場合、圧力損失が生じる。そのため、筒状部22の存在は、液体Lが-Z方向に移動する際の抵抗力として働き、液体Lをピペット1Xの内部の保持しやすくする。
【0044】
ここで、ピペット1Xの先端の液体Lには、開口部20xから-z方向に押し出されて突出し、メニスカスLM1が形成されることがある。ピペット1Xで液体Lを吸引し移し替えを行う際には、例えばピペット1Xを符号Aで示す矢印方向に動かすと、メニスカスLM1に加わる加速度により、メニスカスLM1には、符号Aと逆方向に慣性力F2が働く。
【0045】
メニスカスLM1に加わる重力Gと慣性力F2との合力が、メニスカスLM1に加わる吸引力Fと力F1と液体Lの粘性による粘性力との合力よりも大きくなると、メニスカスLM1は開口部20xで形状を維持できなくなり、液滴が形成される。これにより、「液だれ」が生じると思われる。
【0046】
対して、
図7に示すピペット1で液体Lを吸い上げた場合、液体Lには、分割部25との間に生じる表面張力が働く。この表面張力は、先端の液体Lを+z方向に吸い上げる力F3として作用する。すなわち、ピペット1においては、吸引力F、力F1に加えて、力F3も液体Lに作用する。
【0047】
さらに、ピペット1の先端に形成されるメニスカスLM2は、
図6に示すメニスカスLM1よりも+z方向に引き上げられ、相対的に小さくなる。このため、ピペット1を動かす際にメニスカスLM2に加速度が加わったとしても、メニスカスLM2に加わる慣性力F4は慣性力F2よりも小さくなる。
【0048】
これらにより、
図6の状態と比べ、ピペット1では、液体L(メニスカスLM2)を+z方向に吸い上げる力は強く、メニスカスLM2を開口部20xから離そうとする力は弱くなる。そのため、ピペット1では、メニスカスLM2は開口部20xで形状を維持しやすくなり、「液だれ」が抑制できる。
【0049】
以上のような構成のピペット1によれば、液だれを抑制可能であり、操作性が向上したものとなる。
【0050】
なお、本実施形態においては、ピペット1を構成する各部を、軸Cを中心とした円筒状、円錐台状としたが、これに限らない。本発明の効果を損なわず、ピペットとしての機能を有する範囲であれば、形状の変更は可能である。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…ピペット、10…本体(ピペット本体)、10x…ピペット本体の先端、10y…ピペット本体の後端、20…排出部、20x…開口部、21…錐台部、22…筒状部、30…接続部、40…整流板、40x…貫通孔、S…内部空間