(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142727
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】焼成体用組成物及びこれを用いた焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20230928BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20230928BHJP
C04B 20/04 20060101ALI20230928BHJP
B28B 3/02 20060101ALI20230928BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20230928BHJP
B09B 3/35 20220101ALN20230928BHJP
B09B 101/30 20220101ALN20230928BHJP
B09B 101/55 20220101ALN20230928BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
C04B20/00 B
C04B20/04
B28B3/02 U
B28B3/02 Z
C04B14/02 Z
B09B3/35
B09B101:30
B09B101:55
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049771
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】513129391
【氏名又は名称】幅口 裕光
(74)【代理人】
【識別番号】100137970
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 康央
(72)【発明者】
【氏名】幅口 裕光
【テーマコード(参考)】
4D004
4G054
【Fターム(参考)】
4D004AA36
4D004AA43
4D004AC05
4D004BA02
4D004CA04
4D004CA08
4D004CA14
4D004CA15
4D004CA30
4D004CA45
4D004CB05
4D004CB13
4D004CB15
4D004CB31
4D004CC11
4D004CC15
4D004DA02
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA17
4G054AA20
4G054BA02
4G054DA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、煩雑な工程を経ることなく、簡単な製造方法で産業廃棄物の資源化ができ、物性の優れた焼成体の製造方法を実現することを課題とした。例えば、大気下の比較的低温度の焼成条件で、比重2.5以上の焼成体で、吸水率3%以下、好ましくは1%以下、12mm径の粒体で、圧壊強度は、2500N以上で、好ましくは3000N以上の人工骨材等、の実現が課題である。
【解決手段】高炉スラグ微粉末(a)100重量部を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)を5重量部~20重量部、含有することを特徴とする焼成用組成物、を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ微粉末(a)100重量部を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)を5~20重量部、含有することを特徴とする焼成用組成物。
【請求項2】
高炉スラグ微粉末(a)100重量部を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)を5~20重量部と、酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、黒浜(磁鉄鉱)、ベンガラの内、選ばれた1種以上(c)と、を含むことを特徴とする焼成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の焼成用組成物に、結合剤を加えて、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法。
【請求項4】
前記媒融物中の酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中3重量部~20重量部であることを特徴とする請求項3に記載の焼成体の製造法。
【請求項5】
前記媒融物中の下水汚泥焼却灰(b)が、焼成用組成物中、5重量部~10重量部であり、酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量部~10重量部であることを特徴とする請求矩2に記載の焼成体の製造法。
【請求項6】
造粒成形した粒形が、6mm~24mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して人工骨材として用いることを特徴とする請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の焼成体の製造法。
【請求項7】
大気中の焼成温度が1180℃~1220℃であり、焼成後の比重が2.5以上、吸水率が3.0重量部以下、圧壊強度が3000N以上であることを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれかに記載の焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成体用組成物及びこれを用いた焼成体の製造方法に関する。特に、産業廃棄物である高炉スラグ、下水汚泥焼却灰、電気炉酸化スラグを使用した焼成体用組成物及びこれを用いた焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグは、潜在水硬性を有し水と反応して固まり、時間とともに強度が向上するため、支持力が期待でき、アルカリ骨材反応を生じる恐れがなく、さらには粘土・有機不純物を含まないため天然骨材と同様にコンクリート用粗骨材としても利用され、コンリート細骨材としての利用が進んでいる。更に路盤材等にも用いられている。
【0003】
一方、下水処理場で発生する下水汚泥は、汚泥処理施設における処理工程で脱水汚泥となり、最終的にその脱水汚泥を減容化する目的で焼却炉により焼却して灰(以下、「下水汚泥焼却灰」という。)として排出されている。この下水汚泥焼却灰については、その多くが埋立て条件を満たすために事前に一定の処理を行って、埋立て処分をしている。
【0004】
また、電気炉酸化スラグ及び銅、亜鉛の非金属精錬過程で発生する非鉄金属スラグは、酸化鉄の化学成分を多く含有するものであるが、道路舗装の路盤材及びアスファルトコンクリート舗装用骨材、土工用材、地盤改良用材等として資源化利用されている。
【0005】
なお、高炉スラグをはじめ、製鋼スラグ並びに非鉄金属スラグの資源化需要は、景気状況や公共投資予算の施行事業内容の影響を受ける要素が高いことから、産業廃棄物の更なる有効利用の研究及び技術開発が喫緊の課題である。これらの有効利活用の生産環境の実現は、社会課題の一つである産業廃棄物の資源化による循環型社会の形成に寄与し得る。更に、埋立て処分場の延命化に繋がることが期待される。
【0006】
非特許文献1によれば、現在生産されている高炉スラグ粗骨材の物理的性質は、比重2.4以上、吸水率4.0%以下である。また、焼結体でないため、現状の高炉スラグ粗骨材を使用したコンクリートの圧縮強度は40N/mm2(91日圧縮強度)程度である(鐵鋼スラグ協会)。本発明の焼結した人工骨材の使用用途は、主に高強度コンクリート粗骨材に使用することを目的としているため、現在生産されている高炉スラグ粗骨材と使用用途において競合しない。すると、循環資源の活用の妨げとならない。
【0007】
以前より、高炉スラグを利用した焼結体や人工骨材の製造方法が考案されている。例えば、特許文献1には、高炉スラグ焼結体を、補強繊維を用いて軽量化した建設資材の発明が記載される。また、特許文献2には、高炉スラグ及びフライアッシュを主原料とし、これにベントナイト等の粘土類及び所望により炭化珪素を添加した混合原料を造粒・成形し、焼成してなる人工軽量骨材が記載される。しかし、強度や低吸水率特性は不十分であった。
【0008】
産業廃棄物を主原料とした焼成用組成物を焼成して人工骨材とするとき、例えば、焼成温度1200℃程度の低温焼成によって、平均粒径約12mm程度の焼成体を得て、吸水率3.0%以下で、圧壊強度が3000Nを超えるものが望まれる。しかし、この条件の高炉スラグを主材とする利用はなかった。さらに、循環型社会形成を目的に環境負荷低減に寄与する改善材料としても土木・建築資材に広く利用したい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】國府勝郎 技術フォーラム 資源の有効利用とコンクリート スラグ骨材を用いたコンクリート コンクリート工学 vol.34 N0.3 1996/3 88-93
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平04-042872号公報
【特許文献2】特開平09-077543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、煩雑な工程を経ることなく、簡単な製造方法で産業廃棄物の資源化ができ、物性の優れた焼成体の製造方法を実現することを課題とした。例えば、大気下の比較的低温度の焼成条件で、比重2.5以上の焼成体で、吸水率3%以下、好ましくは1%以下、12mm径の粒体で、圧壊強度は、2500N以上で、好ましくは3000N以上の人工骨材、及び土木・建築資材、並びに大気下の焼成条件で、比重2.1乃至2.5の焼成体で、吸水率10%以下で、実用強度の土木・建築資材の実現が課題である。
【0012】
人工骨材は、丸みを持った形状で、適度の凹凸を有し、高強度、低吸水率で、緻密な骨材であって、高強度コンクリートの細骨材及び粗骨材が望まれる。
【0013】
また、人工骨材の表面は、微細な凹凸として、骨材界面とセメントペーストとの付着を高め、最大寸法を20mmや、25mmとした粗骨材の製造にも対応でき、水セメント比を低減できるものが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、鋭意検討の結果、次発明を提供するものである。
[1] 高炉スラグ微粉末(a)100重量部を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)を5重量部~20重量部、含有することを特徴とする焼成用組成物、を提供する。
[2] 高炉スラグ微粉末(a)100重量部を主材に、焼成による緻密化を促進する媒融物として、下水汚泥焼却灰(b)を5重量部~20重量部と、酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、黒浜(磁鉄鉱)、ベンガラの内、選ばれた1種以上(c)と、を含むことを特徴とする焼成用組成物、を提供する。
[3] [1]又は[2]に記載の焼成用組成物に、結合剤を加えて、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法、を提供する。
[4] 前記媒融物中の酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中3重量部~20重量部であることを特徴とする[3]に記載の焼成体の製造法、を提供する。
[5] 前記媒融物中の下水汚泥焼却灰(b)が、焼成用組成物中、5重量部~10重量部であり、酸化鉄成分(c)が、焼成用組成物中5重量部~10重量部であることを特徴とする[2]に記載の焼成体の製造法、を提供する。
[6] 造粒成形した粒形が、6mm~24mmの造粒成形物であり、大気中で焼成して人工骨材として用いることを特徴とする[3]乃至[5]のいずれかに記載の焼成体の製造法、を提供する。
[7] 大気中の焼成温度が1180℃~1220℃であり、焼成後の比重が2.5以上、吸水率が3.0%以下、圧壊強度が3000N以上であることを特徴とする[3] 乃至[6]記載の焼成体の製造方法、を提供する。
【0015】
本発明は、各種産業廃棄物のうち、下水汚泥焼却灰、酸化鉄成分等が、主材の高炉スラグの焼成に際し、緻密化を促進させる媒融物として機能し、特に下水汚泥焼却灰が高炉スラグの平均粒径を上回る平均粒径を有するものであっても、焼成による緻密化が可能であり、好適であり、産業廃棄物利用をさらに促進することを見出したものである。
【0016】
高炉スラグ
化学組成の一般値を表1にしめす。粒径の範囲が1μm~100μmで、粒径100μm以下の粒径の重量累計が90%以上であることが好ましい。平均粒径は、9~12μmであることが望ましい。
【0017】
【0018】
下水汚泥焼却灰
脱水汚泥を減容化する目的で高温焼却炉により焼却して灰にし、発生した灰を集塵機で捕集したものである。K2O量の影響が大である。その含有範囲は、1.9~3.6重量%が好ましい。下水汚泥焼却灰の粒径は、粒径の範囲が1μm~300μmで、粒径100μm以下の粒径の重量累計が90%以上であることが好ましい。下水汚泥焼却灰の主要成分の代表値を表1に示した。
【0019】
下水汚泥焼却灰は、単独でも、酸化鉄成分と用いるときも、高炉スラグ100重量部に対して、5重量%以上、20重量部以下の添加が好ましい。
【0020】
酸化鉄含有成分
酸化鉄含有成分として、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末が好ましい。鉄酸化物系の結晶質の鉱物、あるいはガラス組成で良いが、化学成分表示で、FeOと表示される部位を有する酸化鉄、FeOを含む複合酸化物、又は水酸化鉄やその脱水和物である酸化鉄含有成分が好ましい。Fe2O3・FeO(磁鉄鉱:Fe3O4)で表されるものを含む。しかし、酸化が進んだヘマタイトは含まない。本願では、還元雰囲気になりにくい条件下での焼成であっても発泡の原因となるガス発生が比較的抑制できて、焼成温度等の焼成条件が制御しやすく、目指す比重で比較的高強度の焼成体が得られる。酸化鉄含有成分は、媒融剤として、下水汚泥焼却灰ともに、高炉スラグ100重量部に対して、5重量部以上、20重量部以下用いることが好ましい。
【0021】
電気炉酸化スラグ
鉄スクラップを溶解、精錬する際に発生するスラグのうち、酸化精錬工程から排出される酸化スラグである。徐冷スラグも急冷スラグも含む。還元スラグように遊離石灰を多量に含まず、比較的安定な組成であり、FeO成分を有することが条件である。
【0022】
磁鉄鉱粉末
天然磁鉄鉱の化学成分Fe3O4を有する。これを含有する黒浜土等の顔料を用いることも可能である。実験例では、黒浜土顔料(以下、黒浜土。)、ベンガラを用いた。
【0023】
電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末は、高炉スラグの平均粒径より小さい平均粒径を有することが好ましい。媒融剤としての効果を発揮しやすいからである。粒度分布としては、特に、200メッシュ以下(74μm目開き篩全通)であることが好ましい。
【0024】
造粒成形し、又は型枠内で加圧成形した後、大気中で焼成して得られることを特徴とする焼成体の製造法であるが、造粒成形は、噴霧ドライ方式、パンペレタイジング方式等であり、加圧成形する型枠の形状は、平板、矩形体、直方体等で、土木建築材料としての形状に対応するものである。
【0025】
結合剤
結合剤は、各種の配合材料を混練成形した後に、乾燥して焼成の炙りに入るまでの一連の製造工程間で、成形品のハンドリング中における破損を防止する目的で配合の材料に添加するものであり、例えば澱粉糊、廃糖蜜、メチルセルローズ、カルボキシルメチルセルローズ、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、デキストリン、パルプ廃液等の有機質材料のほかに、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カリ、燐酸アルミニウム等の無機質材料等も使用できる。
【0026】
造粒成形、型枠内加圧成形には、水や有機溶媒を用いることができる。加圧成形には、自重による放置成形が含まれる。また、本願発明での焼成は大気中で行い、還元性雰囲気を必要としない。また、炉形式で、一部還元雰囲気となることを妨げるものではない。
【0027】
電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末、ベンガラから選ばれた1種以上(c)が、焼成用組成物中の高炉スラグ100重量部に対して、3重量部~20重量部であって、3重量部~10重量部がより好ましい。
【0028】
造粒成形した粒径が、6mm~24mm程度の造粒成形物であり、大気中で焼成して圧壊強度が大であり、比重、吸水率が適切であれば、人工骨材等に適している。人工骨材に特化すれば、造粒する粒径が6mm未満及び24mmを超えるとコンクリート用骨材の粗骨材の粒径範囲である13mmから20mmの範囲を焼成造粒物がその粒径を逸脱するからである。24mmより大きいと焼成に時間がかかり、6mmより小さいと実用性に欠けるからである。なお、この人工骨材は製造に使用する材料が、高炉スラグの水砕微粉末を主材としていることから、コンクリート骨材に使用してもアルカリシリカ反応(ASR)は、起きにくい。
【0029】
高炉スラグと、下水汚泥焼却灰等の媒融物を有する焼成用組成物を、造粒成形し、又は型枠内で加圧成形して焼成した。大気中の焼成温度は、1180℃~1220℃であり、焼成後の比重が2.1~2.4であることが好ましく、また、2.5以上であることが更に好ましい。この範囲で安定的な焼成が可能であるからである。
【0030】
人工骨材としての吸水率
本願発明を人工骨材として用いるとき、1190℃~1210℃の焼成温度で、吸水率が3.0%以下であることが好ましい。粒状の人工骨材では、水/セメント比を低く設定することが可能となり、固化体の調製やその制御が容易となり、セメント固化体の物性にも良い影響があるからである。
【0031】
他の用途での吸水率
人工骨材用途以外の土木建築用途での焼成体の利用及び活用は、比重2.1程度で吸水率を12%超と高めに設定して緑化の際の土壌保水材料に使用することができるが、吸水率を3%以下にすることによって、人工骨材以外にも防犯砂利として、敷地内に撒きだして使用した場合には、人が歩き難く、高い音がするので防犯効果が期待できる。また、下水処理過程の施設で第二沈殿池の処理水をさらに綺麗にする、ろ過施設におけるろ過材として、自然石に換えて使用することができる。このとき、材料には、高い強度(3000N以上)が求められる。
【0032】
圧壊強度が、2000N以上であれば、種々の土木建築資材として実用可能であるが、人工骨材としては、3000N以上が好ましく、3400N以上が特に、好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、煩雑な工程を経ることなく、簡単な製造方法で高炉スラグ(a)、下水汚泥焼却灰(b)と、電気炉酸化スラグ、磁鉄鉱粉末等の廃棄物を原料として焼成用組成物を構成でき、例えば、大気下の焼成条件で、比重2.5以上の焼成体で、吸水率3%以下、好ましくは1%以下、12mm程度径の球体で、圧壊強度は、2500N以上で、好ましくは3000N以上の人工骨材や、大気下の焼成条件で、比重2.5程度の焼成体で、吸水率10%以下の、実用強度の土木建築資材が得られる。
【0034】
本発明は、高炉スラグ微粉末を主材にして、これに下水汚泥焼却灰及び(又は)酸化鉄並びに配合水、粘結材を調整配合して、これを混合、成形、乾燥後に焼成してコンクリート用の人工骨材、及びその他の建築・土木用資材を実現するものである。
【0035】
本人工骨材の特徴は、丸みを持った形状で、適度の凹凸を有し、高強度、低吸水率で、緻密な骨材である。このような特徴を持った人工骨材を高強度コンクリートの細骨材及び粗骨材に使用できる。
【0036】
また、本発明である当該人工骨材の表面は、微細な凹凸があるため骨材界面とセメントペーストとの付着を高める効果がある。さらに、河川砂利であれば、形状が丸く、充填性が良いことから、骨材最大寸法で20や25mmの骨材を使用することができるが、近年では、このような自然な砂利の採取は困難である。しかし、本発明の人工骨材は球状に製造するため、砂利骨材と同様に充填性が良好で、最大寸法を20や25mmとした骨材の製造にも対応できる。骨材最大寸法を大きくすると、水セメント比を低減できる効果も得られる。
【0037】
高炉セメントコンクリートは、普通セメントコンクリートと比較して、初期強度が低く、水和速度が遅いため、低温の影響を受けやすく、中性化速度が速いため、構造物の被りを大きくする必要がある。また、建築の構造物は、柱、梁、床版、壁面は、寸法が小さく、薄いことが特徴である。これらのことに対応して、高炉セメントコンクリートを使用する場合は、建築躯体を構成する部分の寸法を大きく、厚くして、コンクリート打設後の養生期間を長くとって、品質を確保することが必然となる。しかし、このような建築の躯体部分では当初から高炉セメントコンクリートを使用しないことを前提として建築工事が行なわれている。そこで、普通セメントコンクリートであっても、本発明の人工骨材を使用することが新たな循環資源の用途となる。
【0038】
本焼成用組成物を焼成して人工骨材とするとき、例えば、焼成温度1200℃程度の焼成によって、平均粒径約13.6mm程度の焼成体を得ると、その物性は吸水率1.0%以下で、圧壊強度が3900Nである。また、本人工骨材は、産業廃棄物のみを原料とした焼成用組成物を使用することができ、産業廃棄物のリサイクル、有効活用に好適である。また、磯焼け抑制資材(鉄イオン発生材料)及び平板状にした場合などの壁面タイル兼電磁波抑制材等の環境改善材料及び土木・建築資材に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明を、さらに詳細な実験例に基づき説明する。まず、高炉水砕スラグと下水汚泥の2成分を必須とする焼成体を実施した。ついで、これに、酸化鉄含有成分を追加した焼成体の実施をおこなった。
【0040】
高炉スラグ
高炉スラグ(a)はエスメント関東株式会社製エスメントを使用した。蛍光エックス線分析による化学組成の算出値を表2に示した。粒子径は、95%頻度累計が37μm、76%頻度累計が19μm、50%頻度累計が、9.2μmである。
【0041】
【0042】
用いた下水汚泥焼却灰は、焼却炉内フリーボード部での焼却温度が850℃の焼却炉から得た焼却灰である。焼却温度850℃で焼却するのは、温室効果ガスであるN2O(一酸化二窒素)の排出を削減できるからである。粒度分布は、最大粒径266μm程度で、粒径89μm以下の粒径の重量累計が90%以上であるものを使用した。下水汚泥を流動層焼却炉で焼却して排ガスに含まれる飛灰を廃熱ボイラー及び微細飛灰をサイクロン、乾式電気集塵機で捕集して各灰を移送等コンベアで灰ホッパに収容したものである。下水汚泥焼却灰の主要物質の化学成分分析値(蛍光エックス線分析)は、表3の通りである。
【0043】
【0044】
電気炉酸化スラグは、製品名:CKハイパー7号(株式会社星野産商製造)を使用した。
【0045】
なお、電気炉酸化スラグは、当該製品の粒径範囲が300μm以下であるものを粉砕専用機器(ディスク型振動ミル)で10分間、粉砕して焼成体用組成物材料とし200メッシュ以下(74μm目開き篩全通)としたものである。電気炉酸化スラグの成分について、主要な化学成分組成を表4に示した。酸化鉄成分材料は、下水汚泥焼却灰の平均粒径より小さい平均粒径を有するものを用いることが好ましい。
【0046】
【0047】
上記の各材料を用いて、表5に示したそれぞれ結合剤と水を所定量(単位:g)加えて造粒物(造粒径13mm、各実験例で各試料10個)を作製した。
【0048】
これを、焼成温度上限を1170℃から1220℃間で設定し、前記焼成パターンにより焼成した。表6に、得られた焼成体の比重及び吸水率の物性試験結果を示した
【0049】
【0050】
焼成温度パターンは、常温から1000℃までを120分で昇温し、各焼成最高温度である、1170℃から1220℃までは、各温度に応じて、75分から110分間で昇温し、その後、各焼成最高温度の保持時間を15分間とし、自然徐冷により焼成物を得た。以下、焼成最高温度を焼成温度と略して表現することがある。電気炉は、モトヤマ製:SH-2035Dである。
【0051】
本願発明で、比重及び吸水率は、JIS A 1110(粗骨材の密度及び吸水率試験方法)に準拠して行い、その測定は、島津分析天びんAUX120及び比重測定キットSMK‐401(株式会社島津製作所製)を使用した。比重はSMK-401を使用して測定した値であり、密度(g/cm3)で表現される値と同値である。また、圧壊強度の測定は、インストロンジャパン製 5566型(10kN)の試験機を使用して、JSCE-C505(高強度フライアッシュ人工骨材の圧かい荷重試験方法)に準拠して行った。表6に、焼成体の比重及び吸水率を示した。測定値の平均値を表示し、有効数字は考慮していない。
【0052】
表7に圧壊強度(N)の物性試験結果を示す。圧壊強度は各造粒焼成物5個の測定結果の平均値で、最大圧壊強度でリミッター設定の4500Nを超えるものはなかった。
【0053】
【0054】
【0055】
下水汚泥単独添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化
焼成体の全体の緻密化尺度として、比重を、表面の防水緻密化尺度として、吸水率を用いた。実験例1は、各焼成最高温度の1170℃から1220℃の6回の焼成による比重は1.942から2.118の範囲内での変化であった。同様に吸水率の変化は、10.244%から15.576%の範囲内の変化であった。また、圧壊強度は、776Nから1051Nの強度範囲であった。実験例2は、6回の焼成による比重は焼成最高温度の昇温過程で、2.066から2.660と大きくなり、同様に吸水率は、12.522%から0.855%と低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1210℃における、3065Nが最も高い強度であった。実験例3は、6回の焼成による比重は焼成最高温度が1190℃において、もっとも大きい2.369となり、その後の焼成最高温度の昇温過程で比重は、徐々に小さくなった。同様に吸水率は2.757%ともっとも低くなり、その後は高くなる傾向となった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1180℃における2864Nが最も高い強度であった。
【0056】
実験例2及び3の高炉スラグに下水汚泥焼却灰を配合した造粒物の焼成結果は、実験例1のそれより、緻密化は顕著に発現した結果となった。なお、実験例3では実験例2より下水汚泥焼却灰を増量したが、その緻密化は焼成最高温度1190℃まで実験例3が優位(低い焼成溶融温度の効果)であったが、最高焼成温度1220℃までの各焼成では実験例2が優位な結果となった。
【0057】
即ち、高炉スラグと下水汚泥焼却灰を配合した造粒物について、高炉スラグのみ焼成体に比べて、造粒物の焼成溶融温度が低くなり、実験例2では、緻密化の顕著な向上が認められた。しかし、下水汚泥焼却灰を増量しても、比重の増加は比較的小さく、吸水率を小さくする効果は、実験例2付近がピークであった。なお、エスメント以外の粒径の大きな高炉スラグを使用した結果でも、実験例3を超えた下水汚泥焼却灰の増量とともに、特に1180℃以上の高温度焼成では、この傾向が顕著であった。
【0058】
電気炉酸化スラグ単独添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化
実験例4は、6回の焼成による、比重は2.047から2.641と大きくなり、吸水率は13.385%から2.455%と低くなった。また、圧壊強度は焼成最高温度1200℃における2872Nがもっとも高い強度であった。
実験例5は、6回の焼成による、比重は2.094から2.657と大きくなり、吸水率は12.349%から2.058%と低くなった。また、圧壊強度は焼成最高温度1210℃における3045Nが最も高い強度であった。
実験例6は、6回の焼成による、比重は2.188から焼成最高温度が1210℃で2.793と最も大きくなり、同様に吸水率は10.444%から焼成最高温度1210℃で0.339%と最も低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1200℃から1220℃間において、2800N前後の強度であった。
実験例4、5、6の高炉スラグに電気炉酸化スラグを配合した造粒物の焼成結果は、実験例1のそれより、緻密化は顕著に発現(低い焼成溶融温度の効果)した結果となった。
【0059】
即ち、高炉スラグと電気炉酸化スラグを配合した造粒物は、高炉スラグのみした添加の焼成体実験例1に比べて、造粒物の焼成溶融温度が低くなるが、実験例4,5,6で、電気炉酸化スラグを増量しても、比重の増加は小さく、吸水率も、実験例4,5で、実験例2より劣っている。実験例6では圧壊強度が3000Nに達するものがなかった。特に、エスメント以外の粒径の大きな高炉スラグを使用した結果では、この傾向が顕著であり、単独での下水汚泥焼却灰の効果が、総合的に単独での電気炉酸化スラグ添加効果を上回ることとなった。
【0060】
下水汚泥焼却灰と電気炉酸化スラグ添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化
実験例7は、6回の焼成による、比重は2.071から焼成最高温度が1210℃で2.653と最も大きくなり、同様に吸水率は12.423%から焼成最高温度1210℃で0.808%と最も低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1200℃で最も高い3370Nであった。
実験例8は、6回の焼成による、比重は2.178から焼成最高温度が1200℃で2.629と最も大きくなり、同様に吸水率は8.106%から焼成最高温度1210℃で0.719%と最も低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1190℃で最も高い3479Nであった。
実験例9は、6回の焼成による、比重は2.284から焼成最高温度が1190℃で2.643と最も大きくなり、同様に吸水率は8.106%から焼成最高温度1210℃で0.540%と最も低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1190℃で最も高い3599Nであった。
実験例10は、6回の焼成による、比重は2.334から焼成最高温度が1190℃で2.659と最も大きくなり、同様に吸水率は6.952%から焼成最高温度1210℃で0.226%と最も低くなった。また、圧壊強度は、焼成最高温度1190℃で最も高い3599Nであった。
【0061】
即ち、高炉スラグと下水汚泥焼却灰の添加量5重量部の配合に更に、電気炉酸化スラグを配合した造粒物は、高炉スラグのみ添加の焼成体実験例1、下水汚泥焼却灰を添加量5重量部の焼成体実験例2に比べて、実験例7、8、9、10は、いずれも低い焼成最高温度で比重の増加と吸水率の減少効果が認められ、電気炉酸化スラグの添加量の増加とともに吸水率は小さくなった。そして、比重は、電気炉酸化スラグの添加量が増加しても、安定していて、全体としての緻密化の変動は小さい。また、圧壊強度も低い焼成最高温度から3000Nを超える強度が得られた。これらの結果は、人工骨材製造時の焼成温度範囲を広く設定することを可能にするため、人工骨材としても好適であった。
【0062】
下水汚泥焼却灰と磁鉄鉱又はベンガラの添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化 使用した磁鉄鉱又はベンガラの組成を表8、表9に示した。この添加材に対して、表10に示したそれぞれ結合剤と水を所定量(単位:g)加えて造粒物(各試料18個)を作製した。
【0063】
表10に示した組成に、結合剤である澱粉ノリと水の所定量で成形した造粒物を作成した。これを、焼成温度上限を1170℃から1220℃間で設定し、前記焼成パターンにより焼成した。表11、表12に、焼成体の比重及び吸水率の物性試験結果を示した
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
黒浜(磁鉄鉱)又はベンガラ(酸化鉄)添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化
実験例11(黒浜配合)は、6回の焼成による。比重は2.142から焼成最高温度が1210℃で2.654と最も大きくなり、同様に吸水率は11.315%から焼成最高温度1220℃で2.131%と最も低くなった。また、実験例13(ベンガラ配合)は、6回の焼成による。比重は2.167から焼成最高温度が1210℃で2.672と最も大きくなり、同様に吸水率は10.887%から焼成最高温度1220℃で1.615%と最も低くなった。
【0070】
両者は、焼成最高温度の昇温ごとに比重は大きくなり、吸水率は低くなった。また、その比重が2,5以上、吸水率3%以下が安定して得られる焼成温度範囲が広いが、1%以下を達成できなかった。
【0071】
下水汚泥焼却灰と黒浜(磁鉄鉱)又はベンガラ(酸化鉄)添加効果 焼成体の比重・吸水率の変化
実験例12(黒浜配合)は、6回の焼成による。比重は2.137から焼成最高温度が1190℃で2.684と最も大きくなり、同様に吸水率は11.009%から焼成最高温度1200℃で0.170%と最も低くなった。また、実験例14(ベンガラ配合)は、6回の焼成による。比重は2.172から焼成最高温度が1190℃で2.638と最も大きくなり、同様に吸水率は11.094%から焼成最高温度1210℃で0.341%と最も低くなった。
【0072】
両者は、比較的に低い焼成最高温度で溶融化して、その比重が2.6超で吸水率は、1.0%未満という、骨材としても好適な結果が得られた。
【0073】
造粒物の粒径依存性
表13に示す組成物の球状造粒物(各試料10個分、単位:g)を、焼成最高温度1200℃で焼成して、平均粒径8.8mm~16.7mmの人工骨材用焼成体を作製した。表14に、これらの粒径収縮率、比重、吸水率、圧壊強度の測定結果を示す。
【0074】
【0075】
【0076】
高炉スラグ(エスメント)100重量部に対して、下水汚泥焼却灰を5重量部添加し、これに電気炉酸化スラグの5重量部(実験例15,16,17)と7.25重量部(実験例18,19,20)を加えた組成である。収縮率は粒径にかかわらず、0.87前後で安定している。また、粒径を変化させても2.5~2.6の比重を保ち、吸水率は、3.0%未満と低い。そして、全実験例を通して圧壊強度は粒径が大きくなるととともに強度は高くなった。
【0077】
これにより、産業廃棄物である高炉スラグ、下水汚泥焼却灰、電気炉酸化スラグ等を破砕又は粉砕した材料を使用して造粒物や平板状等に成形し、焼成体を製造することで、更に産業廃棄物の資源化利用が高まった。