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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142746
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/26 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C01B17/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049801
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】角木 祥太朗
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(57)【要約】
【課題】簡易な工程で、高純度な硫化リチウムを低コストに製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供する。
【解決手段】硫化リチウムを除くリチウム化合物を含むリチウム源を硫黄ガスを含有する雰囲気にした反応容器中で熱処理して、硫化リチウムを製造することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化リチウムを除くリチウム化合物を含むリチウム源を硫黄ガスを含有する雰囲気にした反応容器で熱処理して、硫化リチウムを製造することを特徴とする硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記リチウム化合物は、硫黄を含む化合物であることを特徴とする請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物は、硫酸リチウムであることを特徴とする請求項2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記リチウム源は、前記リチウム化合物と炭素材料とを含む混合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記反応容器内の硫黄ガス分圧を10-5atm以上、10-1atm以下の範囲にすることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記反応容器内の反応温度を700℃以上、950℃以下の範囲にすることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば全固体電池の硫化物固体電解質材料の構成材料として好適な硫化リチウムを製造する硫化リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド電気自動車)等の車両から、携帯電話、ノートパソコン等の電子機器に至るまで、電源としてリチウムイオン電池が広く用いられている。従来のリチウムイオン電池は、電解質として有機溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)などのリチウム塩を溶解した有機電解液が用いられている。
【0003】
こうした有機電解液は可燃性であり、過度な昇温、衝撃によって破損する可能性がある。また、負極に金属リチウムを用いたリチウムイオン電池は、充電時に負極表面にデンドライト状の金属リチウムが成長して、これが電極間の内部短絡の原因となり不具合を引き起こす可能性がある。
【0004】
このような有機電解液を使用した従来のリチウムイオン電池の安全性、耐久性を向上させるために、硫化物系固体電解質を使用した全固体型のリチウムイオン電池が提案されている。現在提案されている硫化物系固体電解質としては、例えばLiS-P系、LiS-P系、LiS-SiS系、LiS-Ga系、LiS-GeS系などが挙げられる。
【0005】
これらいずれの硫化物系固体電解質においても、構成材料として高純度な硫化リチウム(LiS)が用いられる。
高純度な硫化リチウムの製造方法として、例えば、特許文献1には、水酸化リチウムを非プロトン性有機溶媒の中で硫化水素と反応させて水硫化リチウムを生成し、この水硫化リチウムから硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、金属リチウムと硫黄ガスまたは硫化水素とを反応させて、金属リチウムの表面に硫化リチウムを生成させ、次いで未反応の金属リチウムを溶融し、既に生成している硫化リチウムに拡散、浸透させた後、再び未反応の金属リチウムと硫黄ガスや硫化水素とを反応させるといった反応サイクルを繰り返して硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、炭酸リチウムを硫化水素などの硫黄含有ガスと反応させて硫化リチウムを製造する方法が開示されている。
更に、特許文献4には、硫酸リチウムと炭素粉末とを微粒子状にして混合し、表面積(反応面積)を増加させた原料から硫化リチウムを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-151725号公報
【特許文献2】特開平9-110404号公報
【特許文献3】特許第4948659号公報
【特許文献4】特開2013-227180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、非プロトン性有機溶媒を用いる必要があり、また、使用した有機溶媒の処理が別途必要であるために、製造工程が複雑で製造コストが高いという課題があった。
【0010】
特許文献2に開示された発明では、金属リチウムと硫黄ガスまたは硫化水素とを繰り返し複数回反応させる必要があり、製造時間が長くなり、製造効率が低いという課題があった。また、金属リチウムは反応性が高く、表面に酸化膜が発生しやすいため、不活性ガス雰囲気で取り扱う必要があるなど、原材料の取り扱いが難しい。
【0011】
特許文献3に開示された発明では、有毒な硫化水素ガスを使用する必要があり、反応装置の気密性の管理、未反応の硫化水素ガスの処理など、設備コストが高くなるという課題があった。
【0012】
特許文献4に開示された発明では、反応性向上のために硫酸リチウムと炭素粉末とを微粒子状にする必要があり、処理工程が多くなるとともに、微粒子状にする過程で不純物が混合する懸念がある。また、反応によっては炭酸リチウムや酸化リチウムなどの副生成物が生じて、硫化リチウムの純度が低下する懸念がある。
【0013】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、簡易な工程で、高純度な硫化リチウムを低コストに製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
即ち、本発明に係る硫化リチウムの製造方法は、硫化リチウムを除くリチウム化合物を含むリチウム源を硫黄ガスを含有する雰囲気にした反応容器で熱処理して、硫化リチウムを製造することを特徴とする。ここで、硫黄ガスを含有する雰囲気とは、硫黄ガスの分圧が1.0×10―6atm以上の雰囲気を指す。
【0015】
本発明によれば、硫黄ガスを含有する雰囲気下でリチウム化合物を含むリチウム源を熱処理するといった簡易な工程で高純度な硫化リチウムが生成される。よって、副生成物を生じさせずに、低コストで容易に高純度な硫化リチウムを製造することができる。
【0016】
また、本発明では、前記リチウム化合物は、硫黄を含む化合物であってもよい。
【0017】
また、本発明では、前記リチウム化合物は、硫酸リチウムであってもよい。
【0018】
また、本発明では、前記リチウム源は、前記リチウム化合物と炭素材料とを含む混合物であってもよい。
【0019】
また、本発明では、前記反応容器内の硫黄ガス分圧(Ps)を10-5atm以上、10-1atm以下の範囲にしてもよい。
【0020】
また、本発明では、前記反応容器内の反応温度を700℃以上、950℃以下の範囲にしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡易な工程で、高純度な硫化リチウムを低コストに製造することが可能な硫化リチウムの製造方法を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態の硫化リチウムの製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法は、例えば、全固体電池を構成する固体電解質として用いられる硫化物固体電解質の構成材料である硫化リチウム(LiS)を製造するものである。硫化物固体電解質材料は、イオン伝導度が高く、且つ、不燃性であって安全性が高いことから、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の車載バッテリーの材料として好適である。
【0024】
本実施形態に係る硫化リチウムの製造方法によって硫化リチウムを製造する際には、気密の反応容器内に硫黄、およびリチウム源を導入し、所定の反応温度まで昇温させる。
硫黄は、例えば、β硫黄(単斜硫黄)の粉末を用いることができる。この硫黄粉末を反応容器内で加熱することによって気化させ、反応容器内を硫黄ガスを含有する雰囲気にすることができる。なお、反応容器の外部で硫黄粉末を気化させた硫黄ガスを反応容器内に導入する構成にすることもできる。
【0025】
リチウム源は、少なくとも、硫化リチウムを除くリチウム化合物を含んでいる。リチウム化合物としては、硫酸リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウムなどが挙げられる。本実施形態では、これら化合物のうち、特に硫化リチウムを生成させる際の硫黄源となる硫黄を含む硫酸リチウムを用いている。
【0026】
また、リチウム源には、リチウム化合物に加えて、更に炭素材料、溶媒、バインダー材料などを含むことができる。
炭素材料としては、例えば、活性炭、カーボンブラックなどを用いることができる。本実施形態では、炭素材料として、活性炭粉末を用いている。
【0027】
溶媒としては、例えば、純水、有機溶媒を用いることができる。本実施形態では、溶媒として、純水を用いている。
バインダーとしては、合成樹脂を用いることができる。本実施形態では、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を用いている。
【0028】
本実施形態のリチウム源は、硫酸リチウムと活性炭粉末との混合粉末を、純水(溶媒)およびポリビニルアルコール(バインダー)を用いて混錬し、粒状にしたもの(造粒粉)を用いた。より具体的には、硫酸リチウムと活性炭とをモル比1.0:2.0の割合で混合し、ポリビニルアルコールを一定量溶解させた純水を用いて混練機で混練した後、造粒機で押出造粒を行い、粒径が0.5~3mm程度の造粒粉をリチウム源とした。
【0029】
反応容器(反応装置)としては、例えば、密閉式のロータリーキルン(回転炉)を用いることができる。
【0030】
本実施形態によって硫化リチウムを生成する際には、上述したリチウム源(造粒粉)と、硫黄粉末と混合した原料をロータリーキルン上部のホッパーに格納する。ホッパーおよびロータリーキルン内を不活性ガスで置換した後、ホッパー内の原料を所定の温度に加熱したロータリーキルンへ、スクリューフィーダーを用いて一定速度で供給し、連続的に反応させる。
【0031】
反応温度は700℃以上、950℃以下の範囲、好ましくは750℃以上、850℃以下の範囲に設定すればよい。反応温度を700℃以上にすることによって、反応速度を実用的な範囲に保って、生産性を高めることができる。また、反応温度を950℃以下にすることによって、硫化リチウムの融解を防止できる。特に、反応温度を850℃以下にすれば、リチウム化合物として硫酸リチウムを用いた場合に、この硫酸リチウムも融解することがなく、粒子形状を保ったまま硫化リチウムを生成することができる。
【0032】
また、反応容器内では、気化した硫黄ガスの分圧が、10-5atm以上、10-1atm以下の範囲になるように、リチウム源(造粒粉)に混合する硫黄粉末の量を設定すればよい。硫黄ガスの分圧を10-5atm以上にすることによって、副生成物、例えば、酸化リチウムや炭酸リチウムの生成を防止できる。また、硫黄ガスの分圧を10-5atm以下にすることによって、反応容器内の低温部分に生じやすい、硫黄ガスが固化した硫黄析出物の析出量を抑制することができる。
【0033】
なお、リチウム源(造粒粉)に硫黄粉末を混合せずに、外部から反応容器内に硫黄ガスを導入する構成であっても、上述した分圧の範囲内になるように硫黄ガスの流量を調節すればよい。
【0034】
また、反応温度での保持時間は、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上とすることがさらに好ましい。また、加熱温度での保持時間は10時間以下であることが好ましく、5時間以下とすることがさらに好ましい。
反応容器としてロータリーキルンを用いる場合、キルンの回転数は0.1rpm以上、20rpm以下に設定すればよい。
【0035】
本実施形態の硫化リチウムの製造方法では、以下の式1に示す反応によって、硫化リチウムが生成される。
LiSO+2C→LiS+2CO・・・(1)
式1に示すように、本実施形態では硫黄ガスは化学反応に含まれていないが、反応雰囲気を硫黄ガスを含有する雰囲気にすることで、平衡論的に硫酸リチウムからの硫黄の脱離が抑制され、硫黄の脱離に伴う酸化リチウムや炭酸リチウムのような副生成物の生成が抑制される。
【0036】
なお、リチウム源に含まれるリチウム化合物が、その組成中に硫黄を含まない場合、反応容器内の硫黄ガスが化学反応に含まれ、化合物中のリチウムを硫化させて硫化リチウムを生じさせる。
【0037】
以上のような工程によって、硫化リチウムを生成することができる。
本実施形態によれば、硫黄ガスを含有する雰囲気下でリチウム化合物を含むリチウム源を熱処理するといった簡易な工程で高純度な硫化リチウムが生成される。よって、副生成物を生じさせずに、低コストで容易に高純度な硫化リチウムを製造することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0039】
以下、本実施形態の硫化リチウムの製造方法を検証した。
検証にあたっては、硫酸リチウムと活性炭とをモル比1.0:2.0の割合で混合し、水(溶媒)およびPVA(バインダー)を加えて、混練機(SPG-25:株式会社ダルトン製)を用いて混練し、混練物を得た。そして、この混練物を造粒機(ディスクペレッターF5型:株式会社ダルトン製)を用いて押出し造粒を行い、粒径が0.5mm~3mm程度の造粒粉を作製した。そして、この造粒粉を十分に乾燥して溶媒および結晶水を取り除き、実施例1~7においては所定の割合の硫黄粉末を混合し、実施例1~7、および比較例1の試料粉末を得た。
【0040】
そして、それぞれの試料粉末をアルミナ製の炉芯管(反応容器)を有するロータリーキルンを用いて、炉芯管の内部にアルゴンガスをフローしながら所定温度で3時間、熱処理を行い、熱処理後の生成物を回収した。それぞれの生成物は、メノウ製の乳鉢で粉砕した後、粉末X線回折測定(D8 ADVANCE:ブルカー株式会社製)によって相同定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0041】
実施例1:反応温度を780℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-2(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例2:反応温度を780℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-3(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例3:反応温度を780℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-4(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例4:反応温度を780℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-1(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例5:反応温度を780℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が2.0×10-1(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例6:反応温度を800℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-2(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
実施例7:反応温度を830℃に設定し、この温度で硫黄ガス分圧が1.0×10-2(atm)となるように硫黄粉末を添加した。
比較例1:反応温度を780℃に設定し、硫黄粉末を添加しなかった。
なお、硫黄ガス分圧(Ps/atm)は、アルゴンガスの流量と硫黄粉末の投入量から算出した(硫黄ガス分圧の設定値とアルゴンガスの流量から、硫黄粉末の投入量を算出できる)。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示す結果によれば、硫黄粉末を添加して、硫黄ガスを含有する雰囲気で反応を行った実施例1~7の試料は、いずれも副生成物が生じておらず、高純度な硫化リチウムを生成可能であることが確認された。
【0044】
一方、硫黄粉末を添加せず、アルゴンガス雰囲気で反応を行った比較例1は、硫化リチウムに加えて、更に炭酸リチウム、および酸化リチウムが副生成物として生成されていた。実施例1~4と比較して比較例1の生成物重量の増加分は、こうした副生成物によるものと推察され、比較例1の硫化リチウムは、こうした副生成物が混合した、低純度のものに留まった。
よって、本発明によれば、高純度の硫化リチウムを簡易な工程で低コストに製造可能であることが確認できた。