(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142773
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】捕集ディスク
(51)【国際特許分類】
B01D 45/08 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B01D45/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049849
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181928
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100075948
【弁理士】
【氏名又は名称】日比谷 征彦
(72)【発明者】
【氏名】深田 草平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智之
【テーマコード(参考)】
4D031
【Fターム(参考)】
4D031AB01
4D031AB23
4D031BA03
4D031BA07
4D031BA10
4D031BB10
4D031CA02
4D031EA01
(57)【要約】
【課題】メッシュ体を回転中心軸と同軸の円筒状の側面に形成することにより、オイル集合体を高速回転による遠心力により吹き飛ばし、目詰まりの発生を減少する捕集ディスクを得る。
【解決手段】捕集ディスク18では、前面が閉塞された前方円板部19と、外径が同径で背面が開放された後方円環部20とが回転中心軸14に沿って所定間隔を隔てて配置されている。前方円板部19と後方円環部20の外縁部同士の間には、メッシュ体24が円筒状に張設されている。
捕集ディスク18を高速回転することにより、送風機により送り込まれた空気流は、側方のメッシュ体24の方向に回り込み、メッシュ体24の外側から強制的に衝突して含有されたオイル集合体が捕集され、メッシュ体24に堆積する。堆積したオイル集合体が或る程度の質量を有する塊にまで成長すると、遠心力によりメッシュ体24から離脱して外方に飛散する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機により発生する空気流の上流側に配置し、前記送風機の回転中心軸に固定した捕集ディスクであって、
前記空気流中に含まれるオイル集合体を捕集するメッシュ体から成り、前記回転中心軸と中心軸が同軸となる略円筒状の捕集部を有することを特徴とする捕集ディスク。
【請求項2】
前記メッシュ体で捕集した前記オイル集合体を、遠心力により前記メッシュ体から外方に飛散させることを特徴とする請求項1に記載の捕集ディスク。
【請求項3】
前記空気流が通過することのない前方円板部と、該前方円板部と同径で前記回転中心軸に沿って前記前方円板部の後方に位置する後方円環部とを有し、
前記前方円板部と前記後方円環部との外縁部同士の間に前記メッシュ体を配置し、
前記前方円板部と前記後方円環部の少なくとも何れか一方を、前記回転中心軸に固定したことを特徴とする請求項1は2に記載の捕集ディスク。
【請求項4】
前記後方円環部の外縁部同士間を半径方向に掛け渡す複数の支持枠を設け、これらの支持枠の交叉部に、前記回転中心軸に固定する軸取付孔を設けたことを特徴とする請求項3に記載の捕集ディスク。
【請求項5】
前記前方円板部と前記後方円環部との外縁部同士の間であって、隣接する前記メッシュ体間に連結片を設けたことを特徴とする請求項3又は4に記載の捕集ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性衝突型のオイルミスト捕集装置に用いる捕集ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
部品製造工場などの金属加工業においては、加工部品の例えば切削、研削時に、加工部品の温度上昇を防止し、かつ切削性等を良好にするために、加工部品に切削油を供給しているが、一方で加工時に霧状のオイルミストの発生が免れない。
【0003】
これらのオイルミストは多くは、加工部分に供給される切削油が高速で回転する工具や加工部分に当接し、剪断を受け微細化されて空気中に放出されることにより発生する。このオイルミストを放置すると、工場内の全ゆる個所が油まみれとなる。例えば、オイルミストが電灯に付着すると照明が暗くなったり、床面に付着すると作業者が滑って怪我をする等の原因となり、作業環境が悪化することになる。
【0004】
このようなオイルミストの放散を防止する対策として、工作機械等にオイルミスト捕集装置を付設することが行われている。例えば、特許文献1に開示されているような平面状の捕集ディスクを使用した慣性衝突式の捕集装置が使用されることがある。
【0005】
オイルのみの捕集であれば、この平面状の捕集ディスクは長期間の連続運転も可能である。しかし、オイルミスト中に加工部品の切削粉や加工砥石の粉末に由来する固形粉塵が含むオイル集合体が多く混在していると、捕集ディスクのメッシュ体は短時間の使用で目詰まりを起こし易く、頻繁な保守作業を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7は特許文献1に開示されている慣性衝突式のオイルミスト捕集装置で使用される平面状の捕集ディスク1の斜視図である。この捕集ディスク1は円板2の周囲に複数個の枠部3を設けて、この枠部3内に合成樹脂製又は金属製のメッシュ体4が平面状に張り巡らされており、円板2の中心部は送風機の回転中心軸に軸支されている。
【0008】
作動時には、捕集ディスク1は電動機により送風機と共に高速で回転され、オイルミストは送風機の吸引力により、空気流となって捕集ディスク1のメッシュ体4に正面から衝突する。この衝突により、空気のみがメッシュ体4に形成される多数の孔から通過することになるが、オイルミストに含まれるオイルと固形粉塵は、メッシュ体4上に流動体状のオイル集合体として捕捉され、堆積されてゆく。
【0009】
そして、メッシュ体4上に堆積するオイルと固形粉塵とから成るオイル集合体が或る程度の質量を有する塊になると、捕集ディスク1の高速回転によって生成される遠心力により、メッシュ体4から離脱し捕集ディスク1の外方に吹き飛ばされることになる。
【0010】
メッシュ体4に付着したオイル集合体を、遠心力により離脱させるには、オイル集合体に作用するメッシュ体4への付着力よりも大きな遠心力を必要とする。しかし、この平面状の捕集ディスク1のメッシュ体4の孔の方向が、メッシュ体4を通過する空気の方向と一致し、遠心力が作用する方向とは直交している。
【0011】
従って、一旦、メッシュ体4の孔内に入り込んだオイル集合体を離脱するのは、遠心力が作用する方向に存在するメッシュ体4の隣接する素線が邪魔となって困難となり、目詰まりを起こし易く、頻繁な保守作業を必要とする。
【0012】
本発明の目的は、上記の課題を解消し、回転中心軸を中心にして円筒方向にメッシュ体を配置して、オイル集合体による目詰まりを発生し難くして、交換周期の長期化つまり延命化を可能とする捕集ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る捕集ディスクは、送風機により発生する空気流の上流側に配置し、前記送風機の回転中心軸に固定した捕集ディスクであって、前記空気流中に含まれるオイル集合体を捕集するメッシュ体から成り、前記回転中心軸と中心軸が同軸となる略円筒状の捕集部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る捕集ディスクによれば、メッシュ体から成る略円筒状の捕集部を、送風機の回転中心軸と中心軸が同軸となるように配置することにより、メッシュ体により捕集された固形粉塵を含むオイル集合体が、高速回転による遠心力により飛散され易くなり、目詰まりの発生を減少する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例のオイルミスト捕集装置の概略断面図である。
【
図2】捕集ディスクの(a)前方から見た斜視図、(b)後方から見た斜視図である。
【
図3】捕集ディスクを通過する空気流の説明図である。
【
図4】捕集原理を説明するための(a)実施例の捕集ディスクの模式図、(b)は従来の捕集ディスクの模式図である。
【
図5】捕集ディスクの延命効果を示すグラフ図である。
【
図6】変形例の捕集ディスクの後方から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を
図1~
図5に図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は実施例の捕集ディスクを備えたオイルミスト捕集装置の概略断面図である。オイルミスト捕集装置は、密閉された略直方体の箱体11により囲まれており、箱体11の壁部及び上部には空気吸入口12及び空気排出口13が設けられている。
【0017】
箱体11の奥部には、空気吸入口12から吸入され空気排出口13から排出される空気流を生成するために、水平方向の回転中心軸14を中心に回転する例えばターボファンから成る送風機15が配置されている。回転中心軸14の外端には電動機16の回転駆動軸17が連結され、電動機16は箱体11の外部に設けられている。回転中心軸14の内端には捕集ディスク18が固定され、回転中心軸14により送風機15と共に高速で回転するようにされている。
【0018】
図2は捕集ディスク18の(a)は前方から見た斜視図、(b)は後方から見た斜視図である。捕集ディスク18は高さが低い略円柱状の外形とされ、円柱の上面、底面に相当する位置に、外径が同径の前方円板部19と後方円環部20とが回転中心軸14に沿って所定の間隙を隔てて設けられている。
【0019】
前方円板部19は空気流が通過することのないように全面的に閉塞されており、その中央部には回転中心軸14を挿通する軸取付孔21が設けられており、後方円環部20の背面は開放されている。そして、前方円板部19の外縁部22と後方円環部20の外縁部23との間の回転中心軸14と同軸の側面には、樹脂繊維線や金属線から成り、空気流中に含まれるオイル集合体を捕集するメッシュ体24が円筒状に張設されている。なお、メッシュ体24を備える捕集部は1個の部材から成る円筒状としているが、複数個の平面状のメッシュ体を略円筒状に組み合わせてもよい。
【0020】
更に、必要に応じて、補強のための複数条の連結片25が、外縁部22、23の間に、かつ回転中心軸14と平行にメッシュ体24に沿って設けられている。
【0021】
捕集ディスク18は前方円板部19の軸取付孔21に回転中心軸14を挿通し、固定ねじ26により回転中心軸14に固定されている。なお、捕集ディスク18の回転中心軸14への固定は、軸取付孔21、固定ねじ26によるのではなく、他の手段によって固定してもよい。
【0022】
寸法的には、前方円板部19、後方円環部20の半径は例えば200mm、前方円板部19と後方円環部20との間隔は30mmとされている。厳密には、オイルミストに含まれる固形粉塵の種類、粒径によって、或いは捕集ディスク18の回転数などにより、捕集ディスク18の大きさ、メッシュ体24のメッシュ寸法には、最適な数値が存在するが、本実施例では概略にとどめて説明をすることにする。
【0023】
送風機15の作用により、箱体11内に空気吸入口12から流入した空気流が、捕集ディスク18を通過し、
図1の矢印で示す通路を経て空気排出口13から排出するように、仕切板27により箱体11内は区画化されている。また、捕集ディスク18のメッシュ体24を経由せずに、捕集ディスク18の周囲から空気排出口13への回り込みによってリークする空気流が生じないように、仕切板27は捕集ディスク18の後方円環部20の周囲において、円環状に形成されている。
【0024】
箱体11内の捕集ディスク18の下部には、分離されたオイル集合体を貯留するオイルパン28が配置されており、オイルパン28の底面は箱体11の前面方向に傾斜している。オイルパン28の低部から外部に通ずるオイル抜取管29には図示しない手動コックが設けられている。また、箱体11の側面等には、内部機構の保守を行うための図示しない点検扉が密閉かつ開閉自在に設けられている。
【0025】
このミスト捕集装置の作動時において、送風機15は電動機16の回転駆動軸17を介して高速で回転し、空気吸入口12から捕集ディスク18を経て空気排出口13に至る流速が大きな空気流を生成し、同時に捕集ディスク18も電動機16の駆動力により高速回転する。
【0026】
加工装置からのオイル及び固形粉塵から成るオイル集合体を含むオイルミストの空気流は、空気吸入口12から箱体11内に流入する。
図3に示すように、空気流Fは回転中の捕集ディスク18の前方円板部19により側方のメッシュ体24の方向に回り込み、メッシュ体24の外側に、回転中心軸14の方向に向けて強制的に衝突する。メッシュ体24は高速で一方向に回転しているので、メッシュ体24によって空気流Fが剪断され、空気中のオイル集合体の一部ははじき飛ばされ、大部分が空気流Fにより押し込まれながらメッシュ体24により捕捉されて付着し、流動体状のオイル集合体となって堆積する。
【0027】
堆積したオイル集合体がメッシュ体24上で、或る程度の質量を有する塊にまで成長すると、捕集ディスク18の回転によって発生する遠心力により、オイル集合体はメッシュ体24から外方に離脱して飛散することになる。また、メッシュ体24にも外方への遠心力が作用するが、メッシュ体24は連結片25により保持されている。
【0028】
メッシュ体24からはじき飛ばされ、或いは遠心力により周囲方向に飛散されて箱体11内で浮遊するオイル集合体は、重力により下方に落下し、下部のオイルパン28に流動体として貯留される。この貯留されたオイル集合体は、適当な時間間隔でオイル抜取管29のコックを開いて外部に排出すればよい。
【0029】
一方、捕集ディスク18のメッシュ体24の間隙を通過し、オイル集合体が除去された空気流は、後方円環部20の開放された背面から送り出され、空気排出口13から箱体11の外部に排出される。
【0030】
図4はオイル集合体を構成する粒子Pがメッシュ体24の素線Wに付着した状態を示し、(a)は本実施例のメッシュ体Mの模式図、(b)は従来の平板状のメッシュ体M’の模式図である。(a)において、メッシュ体Mに向う空気流Fは回転中心線Lに対し直交し、(b)におけるメッシュ体M’に向う空気流Fは回転中心線Lに平行である。捕捉したオイル集合体に対する遠心力Cは、共に回転中心線Lを中心に発生し、回転中心線Lと直交する方向に作用する。
【0031】
粒子Pのメッシュ体M、M’の素線Wへの付着は、異物吸着力であるファンデルワールス(VanderWaals)力と液架橋力と空気流の押圧力の和によるものであり、粒子Pが周りのオイルや他の粒子Pと結合することで大きく成長して、これらの付着力よりも成長した粒子Pに対する遠心力Cの方が大きくなると、粒子Pは素線Wから離脱する。
【0032】
素線Wに付着した粒子Pが或る程度の大きさに成長しても、遠心力Cによる離脱がなされないと、粒子Pが次々と連鎖的に付着して大きくなり、メッシュ体の目詰まりに至ることになる。
【0033】
図4(a)に示す実施例のメッシュ体Mにおいては、素線Wに付着した粒子Pが空気流Fに逆らって遠心力Cにより飛散するが、その方向には他の素線Wが存在しないので、この粒子Pが他の素線Wに付着することなく、粒子P’のように外方に飛散し易い。
【0034】
一方、
図4(b)は平面状のメッシュ体M’の場合であり、遠心力により粒子Pが一旦離脱しても、この粒子Pが隣接する素線W’に衝突し、粒子P’のように再び素線W’に付着することもあり、粒子Pがメッシュ体M’から離脱し難くなる。このように、捕捉された粒子Pに他の粒子Pが付着しそのまま離脱することなく目詰まりとなることも多い。
【0035】
図5は捕集ディスクの延命効果を示すグラフ図である。評価試験においては珪素などの固形粉塵を含むオイル集合体を捕集ディスクのメッシュ体上にスプレーを用いて所定量塗布して、捕集ディスクを送風機と共に回転させる。所定時間の例えば15秒間、回転させた後に停止し、メッシュ体に残留した残渣の重量g(グラム)を測定する。続いて、再びオイル集合体の所定量をメッシュ体上に重ねて塗布し、同様に回転後の残渣の重量を測定する。このような測定を8回繰り返すことにより、
図5に示す残渣量のグラフ図が得られた。
【0036】
Aは実施例の円筒状のメッシュ体24を有し、素線Wの径を0.11mm、素線W同士の間隔を0.15mmとして得られた数値であり、Bは同素材、同面積のメッシュ体を
図7に示す従来例のように平面状に配置して得られた数値である。それぞれ8回の評価試験において、Bではオイル集合体の残渣量が回数に比例して増加しているのに対し、Aでは回数が増えても、残渣量はBのように大きくならず、BよりもAの方がオイル集合体の離脱が容易となり、約4倍程度の延命効果があることが分かる。
【0037】
図6は変形例の捕集ディスク18’を示し、後方円環部20の開放された背面には、その外縁部23間に複数本の支持枠30が半径方向に掛け渡されている。支持枠30同士の交叉部には、回転中心軸14を挿通する第2の軸取付孔31が設けられている。この変形例によれば、捕集ディスク18’は2個所の第1、第2の軸取付孔21、31により回転中心軸14に固定されるので、構造的に強固となり回転も安定する。なお、捕集ディスク18’の回転中心軸14への固定は、第1、第2の軸取付孔21、31の何れか一方だけであってもよい。
【0038】
このように、本発明に係る捕集ディスク18、18’によれば、メッシュ体24から成る略円筒状の捕集部を、送風機15の回転中心軸14を中心に回転する側面に形成する、つまり回転中心軸14と中心軸が同軸となるように配置することにより、遠心力の作用を有効に利用でき、オイル集合体がメッシュ体24から効果的に離脱される結果、メッシュ体24の目詰まりの発生が少なくなる。このことは、捕集ディスク18の交換周期が、従来の平面状のメッシュ体を有する捕集ディスクと比較して、数倍程度に延長されることからも証明される。
【符号の説明】
【0039】
11 箱体
12 空気吸入口
13 空気排出口
14 回転中心軸
15 送風機
16 電動機
18、18’ 捕集ディスク
19 前方円板部
20 後方円環部
21、31 軸取付孔
22、23 外縁部
24 メッシュ体
25 連結片
27 仕切板
28 オイルパン
30 支持枠