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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142793
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】巻鉄心の熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20230928BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20230928BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230928BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230928BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230928BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H01F41/02 A
H05B6/10 371
C21D9/00 S
C21D6/00 C
C21D8/12 H
H01F1/153 141
H01F41/02 C
H01F1/153 133
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049884
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】507076126
【氏名又は名称】株式会社IFG
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】100162754
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 真樹
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】森 仁
(72)【発明者】
【氏名】八島 建樹
【テーマコード(参考)】
3K059
4K042
5E041
5E062
【Fターム(参考)】
3K059AB23
3K059AC33
3K059AD05
4K042AA25
4K042BA12
4K042DA06
4K042DB01
4K042DB07
4K042DC01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
4K042EA01
4K042EA03
5E041AA11
5E041BD03
5E041CA02
5E062AA02
5E062AB15
(57)【要約】
【課題】鉄基アモルファス軟磁性合金の巻鉄心全体のナノ結晶粒のサイズを均一にすることが出来る誘導加熱方法を提供する。
【解決手段】鉄基アモルファス軟磁性合金箔体をコイル形状に巻設した巻鉄心1を誘導加熱して該巻鉄心1をナノ結晶化する熱処理方法である。巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)未満の温度(Th)に前記巻鉄心1を保持して前記巻鉄心1全体の均熱化を図る。巻鉄心1の全体が保持温度(Th)に達すると、前記α鉄析出温度(Tx1)まで前記巻鉄心1を急熱する。巻鉄心1が前記α鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で前記巻鉄心1の誘導加熱を停止する。保持温度(Th)は、巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)より、前記巻鉄心1のα鉄析出時の発熱による上昇温度(Tα)だけ低い温度(Tx1-Tα)である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄基アモルファス軟磁性合金箔体をコイル形状に巻設した巻鉄心1を誘導加熱して該巻鉄心1をナノ結晶化する熱処理方法において、
前記巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)未満の温度(Th)に前記巻鉄心1を保持して前記巻鉄心1全体の均熱化を図り、
前記巻鉄心1の全体が保持温度(Th)に達すると、前記α鉄析出温度(Tx1)まで前記巻鉄心1を急熱し、
前記巻鉄心1が前記α鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で前記巻鉄心1の誘導加熱を停止することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
保持温度(Th)は、巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)より、前記巻鉄心1のα鉄析出時の発熱による上昇温度(Tα)だけ低い温度(Tx1-Tα)を越えない温度であることを特徴とする請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
巻鉄心1全体の温度がα鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で前記巻鉄心1を急冷することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
巻鉄心1は前記保持温度(Th=Tx1-Tα)を越えない温度に保たれた不活性雰囲気内で加熱されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱処理方法。
【請求項5】
前記急冷は、常温以下の不活性ガスGを炉内に導入することにより行うことを特徴とする請求項3に記載の熱処理方法。
【請求項6】
巻鉄心1の内周部の巻端3と外周部の巻端4とが電気的接続導体5で接続されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の熱処理方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基アモルファス軟磁性合金の箔体をコイル状に巻き、この巻鉄心を均一に加熱する巻鉄心の熱処理方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素鋼板をコイル状に巻いた巻鉄心はトランスやリアクトルの鉄心として、長年にわたり使用されてきている。また、近年では国際的に送電や機器にて消費される電力の省電力化が強く求められており、より鉄損の小さい巻鉄心として、アモルファス軟磁性合金やナノ結晶軟磁性材料の箔体を材料とする巻鉄心が用いられている。
【0003】
これらの巻鉄心では、コイル状に巻いて成形する際にその内部に歪が生じ、その歪により、特性が悪化することが知られている。そのため、その歪を取り除くために巻鉄心を800℃程度まで加熱する熱処理(焼鈍)が行われている(特許文献1参照)。
また、より高い磁気特性を与えるため巻鉄心に磁界を与えながら熱処理を行う磁場中熱処理も実施されている(特許文献2参照)。
ナノ結晶軟磁性材料を材料とする巻鉄心製造においては、ナノ結晶構造を得るためにアモルファス軟磁性合金の熱処理が実施されている(非特許文献1参照)。この熱処理時に、巻鉄心に磁界を印加することで、巻鉄心の磁気特性を制御することができる。
【0004】
上記ナノ結晶軟磁性材料を使用した巻鉄心の磁気特性は、そのナノ結晶の粒径に依存することが知られており、一般に粒径を小さくすることにより低鉄損の特性が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】吉沢 克仁,山内 清隆著「超微細結晶粒組織からなるFe基軟磁性合金」日本金属学会誌 第53巻 第2号(1989)241-248
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-147980号公報
【特許文献2】特開2003-113421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の研究により特に高い飽和磁束密度を持った材料に対するナノ結晶材料の熱処理においては、急速に加熱することにより、より粒径の小さなナノ結晶を析出できることがわかっている。一方、これらの材料を巻いた巻鉄心を一般的な炉で急速に加熱した場合、巻鉄心の部位によって温度差があり、熱処理された巻鉄心のナノ結晶粒のサイズが部位によって異なるという問題があった。比較的温度差を抑制できる誘導加熱による熱処理においても、巻鉄心の内側の部分は温度が高く、外側に行くほど外気の影響を受けて温度が低くなり、内外の温度分布が均一にならない。
その結果、巻鉄心の内側の温度がナノ結晶析出温度に達して内側部分がナノ結晶の析出を開始したのに、巻鉄心の外側の温度がナノ結晶析出温度に達しておらず、アモルファス状態を保ったままとなっている。そしてその後、巻鉄心の外側の温度がナノ結晶析出温度に達して外側部分がナノ結晶の析出を開始すると、この間、巻鉄心の内側部分はナノ結晶析出温度以上の温度に保たれているので、内側部分のナノ結晶は成長してサイズが大きくなる。熱処理を終えた巻鉄心は、内側部分のナノ結晶は成長してサイズが大きく、外側部分のナノ結晶は内側部分に比べてサイズが小さい。
【0008】
アモルファス軟磁性合金の磁気特性は上記のように、そのナノ結晶粒のサイズに左右されるため、巻鉄心の全体を同一条件下で熱処理する必要がある。上記のように巻鉄心の内外で温度差があると生成されたナノ結晶粒のサイズが内外で異なり、熱処理された巻鉄心の内外で磁気特性が異なるという課題が生じた。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、鉄基アモルファス軟磁性合金の巻鉄心全体のナノ結晶粒のサイズを均一にすることが出来る誘導加熱による熱処理方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明の熱処理方法は、
鉄基アモルファス軟磁性合金箔体をコイル形状に巻設した巻鉄心1を誘導加熱して該巻鉄心1をナノ結晶化する熱処理方法において、
前記巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)未満の温度(Th)に前記巻鉄心1を保持して前記巻鉄心1全体の均熱化を図り、
前記巻鉄心1の全体が保持温度(Th)に達すると、前記α鉄析出温度(Tx1)まで前記巻鉄心1を急熱し、
前記巻鉄心1が前記α鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で前記巻鉄心1の誘導加熱を停止することを特徴とする。
【0011】
請求項2の本発明は、請求項1に記載の熱処理方法において、
保持温度(Th)は、巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)より、前記巻鉄心1のα鉄析出時の発熱による上昇温度(Tα)だけ低い温度(Tx1-Tα)を越えない温度であることを特徴とする。
【0012】
請求項3は、請求項1又は2に記載の熱処理方法において、
巻鉄心1全体の温度がα鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で前記巻鉄心1を急冷することを特徴とする。
【0013】
請求項4は、請求項1~3のいずれかに記載の熱処理方法において、
巻鉄心1は前記保持温度(Th=Tx1-Tα)を越えない温度に保たれた不活性雰囲気内で加熱されることを特徴とする。
【0014】
請求項5は、請求項3に記載の熱処理方法において、
前記急冷は、常温以下の不活性ガスを炉内に導入することにより行うことを特徴とする。
【0015】
請求項6は、請求項1~5のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記巻鉄心1の内周部の巻端3と外周部の巻端4とが電気的接続手段(導体)5で接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法により、鉄基アモルファス軟磁性合金の巻鉄心全体のナノ結晶粒のサイズを均一にすることが出来、巻鉄心全体の磁気特性を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に使用する熱処理装置の一例の断面図である。
図2図1の加熱部分の概略構造を示す斜視図である。
図3】(a)は図2の空芯における加熱部分で、巻鉄心が長尺物の場合の断面図、(b)は有芯の加熱部分で巻鉄心が長尺物の場合の断面図、(c)は有芯の加熱部分で巻鉄心が複数の積層物の場合である。
図4】本発明の巻鉄心の内外の端部が電気的に接続されている場合の斜視図である。
図5】本発明の巻鉄心の内外の端部が電気的に接続されていない場合の斜視図である。
図6】本発明の上下2段の巻鉄心の内外の端部を電気的に接続した場合の斜視図である。
図7】本発明の巻鉄心の昇温グラフの1例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を実施形態に基づいて説明する。なお、この実施形態は本発明に付いて、当業者の理解を容易にするためのものである。すなわち、本発明の明細書の全体に記載されている技術思想によってのみ限定されるものであり、本実施例のみに限定されるものでないことは理解されるべきである。
【0019】
本発明装置の熱処理対象である巻鉄心1は、例えば0.05mm厚以下の鉄系アモルファス軟磁性材料の箔体を、箔と箔の間が絶縁された状態で巻きまわしてコイル状に製作されたものである。
この巻鉄心1は、図5のように最内周の端部3と最外周の端部4とがフリーで、電気的に接続されていないものと、図4のように最内周の端部3と最外周の端部5とが導体等の電気的接続手段(導体)5で接続されているものとがある。
【0020】
また、図3(b)のように、巻鉄心1には長尺のものと、図3(c)短尺なものとがあり、短尺なものの場合は巻鉄心1を1個でもよいが、複数個、積み重ねて熱処理することも可能である。この場合で、接続導体5を用いる場合には、図6に示すように、巻き方向が互いに逆の巻鉄心(コイル)1a・1bを上下に積層し、隣接する端部3a・3b/4a・4b同士を接続導体5a・5bでそれぞれ接続するようにしてもよい。
【0021】
箔と箔間の絶縁は、箔の片側の表面に絶縁体による膜を形成して行うが、箔の間に絶縁紙や絶縁テープなどを挟みながら巻いてもよい。
【0022】
巻鉄心1(1a・1b)の巻端(巻き始めおよび巻き終わり)3・4(3a・3b/4a・4b)は、上記のようにフリーで、電気的に接続していなくてもよいし、電気的接続手段5(5a・5b)によって接続してもよいが、接続の場合には、電気的接続手段(導体)5(5a・5b)としては、電線や導体テープ、或いは上下一対で積層された巻鉄心1a・1bの隣接する巻端3a・3b/4a・4b同士を溶接やろー付け、或いはハンダ付けなどで接続することになる。導電性のクリップで巻鉄芯の内径と外径を挟みこんでも電気的接続手段としては足りる。その他、図示していないが、更には上下一対で積層された巻鉄心1a・1bの巻き方を工夫することで、上下の巻鉄心(1a・1b)を1本の箔で形成し、金属箔体自体を電気的接続導体5とすることも可能である。この電気的接続導体5により、巻鉄心1(1a・1b)は、「入力端子を短絡されたコイルよりなる閉回路」と電気的に等価となる。
なお、巻鉄心1の巻端(巻き始めおよび巻き終わり)3・4(3a・3b/4a・4b)がフリー場合でも、後述するように、熱処理状態においては事実上「入力端子を短絡されたコイルよりなる閉回路」と電気的に等価状態となる。
【0023】
図1は、本発明の熱処理装置Aの実施形態の一つで、磁性コア7、加熱コイル8、これらを収納するケーシング20にて構成されている。
【0024】
ケーシング20は、両端が上蓋22、底蓋23で閉塞された筒体21、設置された巻鉄心1を外から測定器30(以後、放射温度計とする。)で観察できるようにした測定窓25とで概略構成されており、筒体21の中心に磁性コア7が立設され、上蓋22とで底蓋23保持されている。
ケーシング20は耐熱性樹脂で形成されている。
測定窓25の上下に磁性コア7を取り巻くように加熱コイル8が設けられている。
測定窓25には透明耐熱ガラスが嵌め込まれている。
筒体21の上部にはガス供給管27、下部にはガス排出管28が設置されている。
【0025】
熱処理対象の巻鉄心1は、筒体21の一方の閉塞端に設けられた上蓋22を開閉することで、設置場所(測定窓25に一致した場所)に装着される。設置場所には巻鉄心1を保持する保持台26が設けられており、巻鉄心1が載置される。図の巻鉄心1は1個だけであるが、図3(c)のように複数個の巻鉄心1A~1Eを積層して熱処理してもよい。
図1以外は図の煩雑さを避けるために、測定窓25が省略されている。なお、巻鉄心1の温度測定(外面)は測定窓25を通して放射温度計30にて行われる。放射温度計30以外の装置(例えば、熱電対その他)で巻鉄心1の温度測定ができれば、測定窓25は必要ではない。
【0026】
図1図2のように熱処理装置Aの加熱部分が有芯の場合、巻鉄心1の内側を貫通するように磁性コア7が設置される。磁性コア7の材質は、軟磁性材料であり、巻鉄心1と同等、もしくはより高い透磁率を持っている。
【0027】
熱処理装置Aの加熱コイル8は、巻鉄心1の外周より外側に巻鉄心1の一部又は全体を内包する様に巻きまわされて配置される。加熱コイル8を巻鉄心1に重ねて配置することで、磁性コア7の、巻鉄心1の内周側に対面する部分7aに対して、直接、起磁力を与えることができる効果がある。
【0028】
加熱コイル8は、電気伝導性の高い金属(銅、アルミ)の線材を巻きまわして製作される。加熱コイル8は高い周波数の電流を流すため、インダクタンスを低く抑える必要があり、ターン数を減らして通電電流を増やす設計が好ましく、十分な大電流が流せるように断面積の大きな線材が用いられる。高い周波数成分を持つ電流は通電時に、線材断面において、外周部に偏った電流分布をとるため、内部が空洞となったパイプ状の線材を使用し、その内部に水等の冷媒を通水して冷却するコイル構造がもっとも高い熱効率が得られる。
【0029】
以上の構成において、加熱コイル8に交流電流や電流パルス等の変動する電流を通電することにより、加熱コイル8より起磁力が発生する。発生した起磁力は、巻鉄心1および磁性コア7を設けた場合にはこれを磁化させるが、巻鉄心1に比して磁性コア7の径が小さく、また軸方向寸法が長いため、磁性コア7内部に発生する反磁界は、巻鉄心1に発生する反磁界に比して小さくなり、加熱コイル8にて発生した起磁力により誘起する磁束2は、主として磁性コア7を磁路とすることになる。その結果、巻鉄心1の外側にある加熱コイル8からでも、磁性コア7に十分な量の磁束2を発生させることが可能である。この磁性コア7の磁束2は、巻鉄心1を貫通しており、且つ、接続導体5で両端の端子3(3a)(3b)/4(4a)(4b)が接続された巻鉄心1(図4図6)は、「両端の端子短絡された閉磁路のコイル」と電気的に等価であるため、巻鉄心1には磁束変化を打ち消そうとする誘導電流6が誘導される。具体的には、「磁束の時間変化」と「巻鉄心1の巻き数」の積に比例する起電力が誘起され、巻鉄心1内部にコイル状に誘導電流が流れることとなる。そしてこの誘導電流6は巻鉄心1にほぼ均一に流れるため、巻鉄心1は、均一に誘導加熱されることとなる。
【0030】
接続導体5で両端の端子3(3a)(3b)/4(4a)(4b)が接続されていない「フリー」な巻鉄心1(図5)は、箔体の絶縁被膜が非常に薄く、耐圧が低いため、誘導加熱時の誘導加熱時の誘導電圧で絶縁被膜にピンホールが出来、そのピンホールを通して渦電流が流れる。その結果、このような巻鉄心1では両端の端子3(3a)(3b)/4(4a)(4b)が接続されていない「フリー」な場合でも「両端の端子短絡された閉磁路のコイル」と電気的に等価となり、接続の場合と同様の結果をもたらす。
【0031】
次に、本発明の巻鉄心1の熱処理について説明する。熱処理方法としては2通りある。
第1の方法は、真空環境での誘導加熱だけの場合、第2は誘導加熱と不活性ガス(例えば、窒素ガス)を使用する場合である。巻鉄心1はいずれの場合でも図1に示すように、本熱処理装置Aの上蓋22を開き、保持台26上に巻鉄心1をセットする。巻鉄心1は観測窓25に一致した位置に保持される。
【0032】
(第1の熱処理方法)
上記のようにセットされた巻鉄心1を、放射温度計30を使用しつつ誘導加熱する。
誘導加熱の第1段階は、所定の真空度まで真空引きされた熱処理装置Aにおいて、巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)未満の温度(Th)に巻鉄心1を保持して巻鉄心1全体の均熱化を図る。従って、誘導加熱の昇温速度はゆっくりで、例えば3℃/分程度の昇温速度である。α鉄析出温度(Tx1)を越えると一気にα鉄析出が析出するので、α鉄析出温度(Tx1)を越えない温度(これを保持温度(Th)とする。)が選定される。そして、巻鉄心1全体の温度がこの保持温度(Th)になるように一定時間保持される(均熱処理)。
温度は常時放射温度計30で巻鉄心1の外面温度が測定されている。保持温度(Th)は、α鉄析出温度(Tx1)に近いことが好ましく、好ましくは析出温度(Tx1)より10℃低い温度、更に好ましくは5℃低い温度温度(Th)が選定される。
放射温度計30の測定は、巻鉄心1の外面の温度しか測定できないので、巻鉄心1の材質やサイズによって内面温度が予測され、表に表されている。この表に基づき、保持時間は、巻鉄心1の材質やサイズによって予め決められている。
【0033】
なお、巻鉄心1はα鉄析出時に、発熱現象を伴う。この発熱現象による巻鉄心1の上昇温度を(Tα)とすると、上記保持温度(Th)はα鉄析出温度(Tx1)から巻鉄心1の上昇温度を(Tα)を引いた温度(Tx1-Tα)を越えない温度とするのが好ましい。
【0034】
均熱処理が終了すると、α鉄析出温度(Tx1)を出来る限り早く通過するように巻鉄心1を急速加熱する。そして、巻鉄心1の温度(より正確には、巻鉄心1の外面の温度)がα鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で通電を止め、巻鉄心1を放冷或いは急冷する。巻鉄心1の外面の温度がα鉄析出温度(Tx1)を越えた時点では、巻鉄心1の内側の温度はα鉄析出温度(Tx1)を越えている。
急冷の方法としては、低い温度(室温以下)の不活性ガスGを供給して巻鉄心1を急冷する。
【0035】
この熱処理により、巻鉄心1の内外の温度差は極めて小さく抑えられ、巻鉄心1の内外のナノ結晶粒のサイズ差は小さくなり、より優れた磁性特性を発揮する。
なお、上記巻鉄心1は合金なので、α鉄析出温度(Tx1)より高い温度に、添加物の化合物が析出する温度(これを化合物析出温度(Tx2)とする。)が存在する。化合物が析出すると磁気特性を損なうことになるので、冷却は化合物析出温度(Tx2)に至らない温度で行われる。
【0036】
(第2の熱処理方法)
第2の熱処理方法は第1の熱処理方法に不活性ガスGを併用する方法である。
この場合は、上記のように巻鉄心1をセットした熱処理装置Aのガス供給管27に不活性ガスG(例えば、窒素ガス)を供給する。不活性ガスGは、誘導加熱の第1段階は、巻鉄心1のα鉄析出温度(Tx1)未満の温度(Th)とするのが好ましい。不活性ガスGは巻鉄心1を予熱しながらガス排出管28へ向かい、外部に排出される。
不活性ガスGの供給後(或いはその前後)において、巻鉄心1を誘導加熱する。巻鉄心1は不活性ガスGによっても加熱されるので、保持温度(Th=Tx1-Tα)を越えない温度において、第1の熱処理方法の場合より、より速やかに均熱状態になる。
【0037】
均熱処理が終了すると、同様に巻鉄心1を急速加熱し、α鉄析出温度(Tx1)を越えた時点で通電を止め、上記同様、巻鉄心1を放冷、或いは急冷する。
【符号の説明】
【0038】
A:熱処理装置、G:不活性ガス、Tx1:α鉄析出温度、Tx2:化合物析出温度、Th:保持温度、Tα:発熱による上昇温度
1:(短・長尺)巻鉄心
1A、1B,1C,1D,1E:積層した各巻鉄心
2:磁性コア内の磁束
3(3a・3b):巻鉄心の内周部の端子(巻端)
4(4a・4b):巻鉄心の外周部の端子(巻端)
5(5a・5b):電気的接続手段(導体)
6:巻鉄心内の誘導電流
7:磁性コア
8:加熱コイル
20:ケーシング
21:筒体
22:上蓋
23:底蓋
25:測定窓
26:保持台
27:ガス供給管
28:ガス排出管
30:測定器(放射温度計)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7