IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人埼玉大学の特許一覧 ▶ 株式会社昭電の特許一覧

<>
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図1
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図2
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図3
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図4
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図5
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図6
  • 特開-免震システム及び変位抑制装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142833
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】免震システム及び変位抑制装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/06 20060101AFI20230928BHJP
   F16F 3/04 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F16F15/06 D
F16F15/06 G
F16F3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049948
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(71)【出願人】
【識別番号】000145954
【氏名又は名称】株式会社昭電
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】國井 達喜
(72)【発明者】
【氏名】村井 和男
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD02
3J048BC02
3J048BF04
3J048CB03
3J048DA01
3J048EA13
3J059BA02
3J059BB08
3J059CA06
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】変位に応じてばね定数を変化させることができる免震システムを提供する。
【解決手段】免震システム1において、免震対象物5及び可動部材9は支持構造物3に対してD1方向に移動する。可動部材9は、第1相対位置から+D1側への免震対象物5の相対移動を規制するとともに、第1相対位置から-D1側への免震対象物5の相対移動を許容する。圧縮要素13は、可動部材9に連結される連結部13aと、支持構造物3に連結される連結部13bとを有している。圧縮要素13は、連結部13aと連結部13bとを結ぶ第1力方向において、連結部13aと連結部13bとの近接によって増加する、連結部13aと連結部13bとを離反させる復元力を生じる。静止状態において、第1力方向が、D1方向に直交するD2方向に対して、連結部13bが連結部13aよりも+D1側に位置する向きで傾斜している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1移動方向の第1側及び当該第1側の反対側である第2側への第1対象物の第2対象物に対する相対移動を許容するアイソレータと、
第2移動方向の第3側及び当該第3側の反対側である第4側へ前記第2対象物に対して相対移動可能な第1可動部材であって、前記第1側と前記第3側とが同一側になり、前記第2側と前記第4側とが同一側になるように、前記第2移動方向における位置を前記第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、前記第1対象物と前記第1可動部材との所定の第1相対位置から前記第1側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を規制するとともに、前記第1相対位置から前記第2側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を許容する第1可動部材と、
前記第1可動部材に連結される第1連結部と、前記第2対象物に連結される第2連結部とを有しており、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ第1力方向において、前記第1連結部と前記第2連結部との近接によって増加する、前記第1連結部と前記第2連結部とを離反させる復元力を生じ、静止状態において、前記第1力方向が、前記第2移動方向に垂直な方向に対して、前記第2連結部が前記第1連結部よりも前記第3側に位置する向きで傾斜している第1圧縮要素と、
を有している免震システム。
【請求項2】
前記第1移動方向と前記第2移動方向とは同じ方向であり、
前記第1側と前記第3側とは同じ側であり、
前記第2側と前記第4側とは同じ側であり、
前記第1相対位置は、前記第1可動部材が前記第1側から前記第2側へ前記第1対象物に合わさる位置である
請求項1に記載の免震システム。
【請求項3】
前記第1可動部材及び前記第1対象物の一方の物と、前記第2対象物とに連結される第1引張要素を有しており、
前記第1引張要素は、
その少なくとも一部が、前記一方の物における第1作用点と前記第2対象物における第2作用点との間に跨っており、
前記第1引張要素の縮みによって増加する、前記縮みを低減する復元力を生じ、
静止状態において、前記第1作用点と前記第2作用点とを結ぶ方向が、前記第2移動方向に垂直な方向に沿っている
請求項1又は2に記載の免震システム。
【請求項4】
前記第1可動部材は、前記第1連結部が前記第2連結部よりも前記第3側に位置するまで移動可能である
請求項1~3のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項5】
静止状態において、前記第1対象物及び前記第1可動部材が前記第1相対位置に位置する
請求項1~4のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項6】
第3移動方向の第5側及び当該第5側の反対側である第6側へ前記第2対象物に対して相対移動可能な第2可動部材であって、前記第1側と前記第5側とが同一側になり、前記第2側と前記第6側とが同一側になるように、前記第3移動方向における位置を前記第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、前記第1対象物と前記第2可動部材との所定の第2相対位置から前記第2側への前記第1対象物の前記第2可動部材に対する相対移動を規制するとともに、前記第2相対位置から前記第1側への前記第1対象物の前記第2可動部材に対する相対移動を許容する第2可動部材と、
前記第2可動部材に連結される第3連結部と、前記第2対象物に連結される第4連結部とを有しており、前記第3連結部と前記第4連結部とを結ぶ第2力方向において、前記第3連結部と前記第4連結部との近接によって増加する、前記第3連結部と前記第4連結部とを離反させる復元力を生じ、静止状態において、前記第2力方向が、前記第3移動方向に垂直な方向に対して、前記第4連結部が前記第3連結部よりも前記第6側に位置する向きで傾斜している第2圧縮要素と、
を有している請求項1~5のいずれか1項に記載の免震システム。
【請求項7】
第1移動方向の第1側及び当該第1側の反対側である第2側への第1対象物の第2対象物に対する相対移動を抑制する変位抑制装置であって、
第2移動方向の第3側及び当該第3側の反対側である第4側へ前記第2対象物に対して相対移動可能な第1可動部材であって、前記第1側と前記第3側とが同一側になり、前記第2側と前記第4側とが同一側になるように、前記第2移動方向における位置を前記第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、前記第1対象物と前記第1可動部材との所定の第1相対位置から前記第1側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を規制するとともに、前記第1相対位置から前記第2側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を許容する第1可動部材と、
前記第1可動部材に連結される第1連結部と、前記第2対象物に連結される第2連結部とを有しており、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ第1力方向において、前記第1連結部と前記第2連結部との近接によって増加する、前記第1連結部と前記第2連結部とを離反させる復元力を生じ、静止状態において、前記第1力方向が、前記第2移動方向に垂直な方向に対して、前記第2連結部が前記第1連結部よりも前記第3側に位置する向きで傾斜している第1圧縮要素と、
を有している変位抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免震システム、及び当該免震システム等に利用可能な変位抑制装置に関する。なお、免震システムは、地震動に起因する振動を低減するためのシステムに限定されない。ただし、便宜上、慣例的に利用されている「免震システム」の語を用いる。
【背景技術】
【0002】
免震対象物を当該免震対象物を支持する支持構造物に対して水平方向に相対変位可能とした免震システムが知られている(例えば特許文献1及び2)。このような免震システムは、地震が生じたときに免震対象物に加えられる加速度を減じることができる。しかし、その一方で、免震対象物の相対変位が過大になると、免震対象物とその周囲の構造物との衝突を招く等の不都合が生じる。
【0003】
特許文献1及び2では、復元力を生じる機構として、免震対象物の相対変位が大きくなると、免震対象物に作用する復元力のばね定数が実質的に小さくなるものを提案している。このような機構が設けられていると、長周期の地震動が生じた場合は、免震対象物が初期位置付近に位置するときに固有周期が比較的短いことから、免震対象物の共振が避けられ、ひいては、相対変位が過大になる蓋然性が低減される。また、短周期の地震動が生じた場合は、免震対象物が初期位置から離れたときに固有周期が比較的長くなることから、免震対象物の共振が避けられ、ひいては、加速度が過大になる蓋然性が低減される。
【0004】
特許文献1では、ばね定数の変化は、アクティブ制御及びパッシブ制御のいずれによって実現されてもよいことが開示されている。また、パッシブ制御の場合にリンク機構が利用されてよいことが開示されている。特許文献2では、ばね定数の変化は、免震対象物の振動を弾性部材に伝達する機構が、リンクとスライダとを組み合わせて構成されることによって実現されている。特許文献3では、不釣り合い力を利用する弾性機構が縦免震に利用されてよい旨が開示されている。なお、特許文献1~3の内容は、本願において、参照による援用(incorporation by reference)がなされてよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-163799号公報
【特許文献2】特開2020-085079号公報
【特許文献3】国際公開第2017/043230号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3の技術は、いずれも種々の長所及び短所を有している。従って、免震システムに係る多様なニーズに対応するために、変位に応じてばね定数を変化させることができる新たな構造の免震システム及び変位抑制装置が待たれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る免震システムは、第1移動方向の第1側及び当該第1側の反対側である第2側への第1対象物の第2対象物に対する相対移動を許容するアイソレータと、第2移動方向の第3側及び当該第3側の反対側である第4側へ前記第2対象物に対して相対移動可能な第1可動部材であって、前記第1側と前記第3側とが同一側になり、前記第2側と前記第4側とが同一側になるように、前記第2移動方向における位置を前記第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、前記第1対象物と前記第1可動部材との所定の第1相対位置から前記第1側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を規制するとともに、前記第1相対位置から前記第2側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を許容する第1可動部材と、前記第1可動部材に連結される第1連結部と、前記第2対象物に連結される第2連結部とを有しており、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ第1力方向において、前記第1連結部と前記第2連結部との近接によって増加する、前記第1連結部と前記第2連結部とを離反させる復元力を生じ、静止状態において、前記第1力方向が、前記第2移動方向に垂直な方向に対して、前記第2連結部が前記第1連結部よりも前記第3側に位置する向きで傾斜している第1圧縮要素と、を有している。
【0008】
本開示の一態様に係る変位抑制装置は、第1移動方向の第1側及び当該第1側の反対側である第2側への第1対象物の第2対象物に対する相対移動を抑制する変位抑制装置であって、第2移動方向の第3側及び当該第3側の反対側である第4側へ前記第2対象物に対して相対移動可能な第1可動部材であって、前記第1側と前記第3側とが同一側になり、前記第2側と前記第4側とが同一側になるように、前記第2移動方向における位置を前記第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、前記第1対象物と前記第1可動部材との所定の第1相対位置から前記第1側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を規制するとともに、前記第1相対位置から前記第2側への前記第1対象物の前記第1可動部材に対する相対移動を許容する第1可動部材と、前記第1可動部材に連結される第1連結部と、前記第2対象物に連結される第2連結部とを有しており、前記第1連結部と前記第2連結部とを結ぶ第1力方向において、前記第1連結部と前記第2連結部との近接によって増加する、前記第1連結部と前記第2連結部とを離反させる復元力を生じ、静止状態において、前記第1力方向が、前記第2移動方向に垂直な方向に対して、前記第2連結部が前記第1連結部よりも前記第3側に位置する向きで傾斜している第1圧縮要素と、を有している。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成によれば、変位に応じてばね定数を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)及び図1(b)は実施形態に係る免震システムの概要を説明するための模式図。
図2図2(a)及び図2(b)は実施形態に係る免震システムの概要を説明するための他の模式図。
図3】実施形態に係る免震システムの復元力特性の例を示す図。
図4】実施形態及び比較例に係る免震システムの復元力特性の例を示す図。
図5】実施形態に係る免震システムの典型例を示す模式図。
図6】実施形態に係る免震システムの具体例を示す斜視図。
図7図6の免震システムの要部を抽出して示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明で用いられる図は模式的なものである。従って、例えば、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。寸法比率等が図面同士で一致しないこともある。特定の形状及び/又は寸法等が誇張されたり、細部が省略されたりすることがある。ただし、上記は、実際の形状及び/又は寸法が図面の通りとされたり、図面から形状及び/又は寸法の特徴が抽出されたりしてもよいことを否定するものではない。
【0012】
後述するように、復元力を生じる要素(「復元要素」と称することがある。)は、ばねに限定されない。ただし、便宜上、変位(ばねの伸び又は縮みに相当)に対する復元力の変化率を「ばね定数」と称する。また、復元要素のうち、伸びに抗する復元力を生じる要素を「引張要素」と称し、縮みに抗する復元力を生じる要素を「圧縮要素」と称することがある。「直交」又は「垂直」は、矛盾等が生じない限り、ねじれの位置を含むものとする。「静止」は、特に断りが無い限り、例えば、免震システムに振動(別の観点では外力)が入力されていない状態(例えば地震が発生していない状態)を指す。
【0013】
免震システムに係る複数の態様の説明において、後に説明される態様については、基本的に、先に説明された態様との相違点についてのみ述べる。特に言及が無い事項については、先に説明された態様と同様とされたり、先に説明された態様から類推されたりしてよい。また、複数の態様で互いに対応する部材については、便宜上、相違点があっても同一の符号を付すことがある。逆に、同一の部材であっても、説明の便宜上、異なる符号を付すことがある。
【0014】
以下では、概略、下記の順に説明する。第1節~第3節によって実施形態に係る免震システムの要点を説明する。次に、第4節~第6節によって、実施形態に係る免震システムの説明をより詳細に行う。その後、第7節において実施形態について総括を行う。
1.免震システムの構成及び動作の概要(図1(a)~図2(b))
2.免震システムの復元力特性(図3及び図4
3.免震システムの作用及び効果
4.免震システムの構成の詳細
5.免震システムの構成の典型例(図5
6.免震システムの構成の具体例(図6及び図7
7.実施形態のまとめ
【0015】
(1.免震システムの構成及び動作の概要)
ここでは、実施形態に係る免震システムの構成及び動作の概要を端的に述べる。理解を容易にするために、正確性等を無視することがある。
【0016】
図1(a)、図1(b)、図2(a)及び図2(b)は、実施形態に係る免震システム1の概要を説明するための模式図である。これらの図は、同一の免震システム1の互いに異なる状態を示している。これらの図には、直交座標系D1D2D3が付されている。
【0017】
図示の免震システム1は、支持構造物3に対してD1方向に移動可能に免震対象物5を支持するアイソレータ7(免震支承)を有している。ここでは、アイソレータ7が含むレール7aが直線によって表現されている。レール7aは、免震対象物5を支持構造物3に対してD1方向に案内する。別の観点では、レール7aは、D1方向以外の方向のうち、少なくともD2方向において、免震対象物5の支持構造物3に対する移動を規制している。
【0018】
また、免震システム1は、免震対象物5に復元力を付与するための構成要素として、可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13を有している。なお、可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13を含む構成を変位抑制装置15として参照することがある。
【0019】
可動部材9は、支持構造物3に対してD1方向に移動可能であるとともに、免震対象物5に対して+D1側に位置している。図示の例では、可動部材9は、レール7aによってD1方向に案内されている。別の観点では、レール7aは、D1方向以外の方向のうち、少なくともD2方向において、可動部材9の支持構造物3に対する移動を規制している。
【0020】
引張要素11は、端的に言えば、引張ばねに相当するものである。すなわち、引張要素11は、伸びに抗する復元力を生じる。引張要素11は、可動部材9と支持構造物3とに連結されている。引張要素11は、図1(a)に示すように、免震対象物5が静止しているとき、D1方向に垂直になるように設けられている。また、このとき、引張要素11は、例えば、伸びていない(復元力を生じていない。)。
【0021】
圧縮要素13は、端的に言えば、圧縮ばねに相当するものである。すなわち、圧縮要素13は、縮みに抗する復元力を生じる。圧縮要素13は、可動部材9と支持構造物3とに連結されている。圧縮要素13は、図1(a)に示すように、免震対象物5が静止しているとき、D1方向に垂直な方向(D2方向)に対して、支持構造物3側が+D1側になる向きで傾斜している。また、このとき、圧縮要素13は、例えば、縮んでいない(復元力を生じていない。)。
【0022】
図1(a)は、既述のように、地震が発生しておらず、免震対象物5が静止している状態を示している。なお、このときの免震対象物5の位置を初期位置P0とする。他の図では、初期位置P0が2点鎖線で示されている。
【0023】
図1(b)に示すように、免震対象物5が初期位置P0から+D1側へ移動すると、可動部材9も免震対象物5に押されて+D1側に移動する。このとき引張要素11は伸びて復元力を生じる。また、圧縮要素13は縮んで復元力を生じる。これらの復元力は、いずれも可動部材9を介して免震対象物5に伝わり、免震対象物5を初期位置P0へ戻す復元力として作用する。
【0024】
図2(a)に示すように、免震対象物5が更に+D1側に移動した場合、圧縮要素13は、D2方向に対して、これまでとは逆側に傾斜する。その結果、圧縮要素13の復元力は、可動部材9を+D1側へ移動させようとする力として可動部材9に作用する。その結果、免震対象物5を初期位置P0へ戻す復元力は減じられる。なお、免震対象物5の+D1側への変位が小さく、図1(b)の状態から図2(a)の状態に至らずに、図1(b)の状態から図1(a)の状態へ戻ることもある。
【0025】
図2(b)に示すように、免震対象物5が初期位置P0から-D1側へ移動するとき、免震対象物5は、可動部材9を置き去りにして移動する。従って、初期位置P0から+D1側へ移動したときとは異なり、引張要素11及び圧縮要素13は、免震対象物5に対して復元力を作用させない。なお、図2(b)では、図解を容易にするために、可動部材9が静止状態のときの位置に示されている。後述するように、実際には、必ずしもこの限りではない。
【0026】
(2.免震システムの特性)
図3は、免震システム1における復元力特性の例を示す図である。この図において、横軸は免震対象物5の初期位置P0から+D1側への変位(m)を示している。縦軸は、免震対象物5に作用する復元力(kN)を示している。
【0027】
線Ln1は、引張要素11が生じる復元力を示している。線Ln2は、圧縮要素13が生じる復元力を示している。線Ln3は、引張要素11及び圧縮要素13が生じる復元力を足し合わせた復元力を示している。
【0028】
図示されている復元力は、免震対象物5に対して-D1側へ作用する復元力である。従って、例えば、線Ln1は、引張要素11がその伸長方向に生じる復元力ではなく、伸長方向に生じた復元力のうち、D1方向の成分(分力)を示している。線Ln2及びLn3についても同様である。
【0029】
引張要素11は、例えば、一般的な引張ばねと同様に、伸びに概ね比例した復元力F1(図1(b))を引張要素11の伸長方向に生じる。換言すれば、ばね定数は概ね一定である。従って、例えば、仮に図3に上記の伸長方向の復元力F1を示す線を描いたとすると、当該線は、変位が大きくなるほど復元力が大きくなる傾きで延びる直線状となる。
【0030】
ここで、引張要素11のD2方向に対する傾斜角をθ1(図1(b))とする。このとき、上記の復元力F1のうち、免震対象物5に対してD1方向に作用する復元力F1a(分力)は、F1×sinθ1となる。傾斜角θ1は、免震対象物5が初期位置P0にあるときは0°であり、免震対象物5が+D1側へ変位するほど大きくなる。また、免震対象物5が+D1側へ変位するほど、当該変位の増加量に対する引張要素11の伸びの増加量が大きくなる。
【0031】
従って、図3に線Ln1によって示されているように、例えば、復元力F1aは、変位が大きくなるほど変化率が大きくなる。換言すれば、D1方向の復元力に関するばね定数は、変位が大きくなるほど大きくなる。
【0032】
圧縮要素13は、例えば、一般的な圧縮ばねと同様に、縮みに概ね比例した復元力F2(図1(b))を圧縮要素13の収縮方向に生じる。換言すれば、ばね定数は概ね一定である。従って、例えば、仮に図3に上記の伸長方向の復元力F2を示す線を描いたとすると、当該線は、変位が大きくなるほど復元力が大きくなる傾きで延びる直線状となる(図2(a)の状態は除く。)。
【0033】
ここで、圧縮要素13のD2方向に対する傾斜角をθ2(図1(b))とする。このとき、上記の復元力F2のうち、免震対象物5に対してD1方向に作用する復元力F2a(分力)は、F2×sinθ2となる。傾斜角θ2は、免震対象物5が初期位置P0にあるときは0°でない所定の大きさであり、免震対象物5が+D1側へ変位するほど小さくなる。また、このとき、免震対象物5が+D1側へ変位するほど、当該変位の増加量に対する圧縮要素13の縮み(絶対値)の増加量が小さくなる。さらに、免震対象物5が+D1側へ変位すると(図2(a))、傾斜角θ2は負の値となる。
【0034】
従って、図3に線Ln2によって示されているように、例えば、免震対象物5が+D1側へ変位すると、初期においては、圧縮要素13が縮むことによって、復元力F2aは増加する。ただし、変位が大きくなることに伴ってsinθ2が小さくなることなどによって、復元力F2aの変化率(ばね定数)は徐々に小さくなり、さらには、変化率は負の値となる(復元力F2aは減少し始める。)。さらに変位が大きくなると、傾斜角θ2が負の値となり、復元力F2aも負の値となる。
【0035】
上記のような引張要素11の復元力特性と圧縮要素13の復元力特性が組み合わされると、図3によって線Ln3によって示されているように、免震対象物5の+D1側への変位が比較的小さいときは、復元力は増加する(ばね定数は比較的大きい正の値を取る。)。さらに変位が大きくなると、復元力は頭打ちとなる(ばね定数は比較的小さい絶対値を取る。)。さらに変位が大きくなると、復元力は再度増加する(ばね定数は比較的大きい正の値を取る。)。
【0036】
図4は、免震システム1における復元力特性の例を比較例の復元力特性と対比して示す図である。
【0037】
この図において、横軸及び縦軸は図3と同様である。線Ln5は、免震システム1の復元力特性を示しており、図3の線Ln3に相当している。ただし、具体的な設計条件は、線Ln5に係るシステムと線Ln3に係るシステムとで異なっている。また、線Ln6は、比較例に係る免震システムの復元力特性を示している。比較例に係る免震システムは、例えば、特許文献2に開示されている構成と同様又は類似する構成を有している。
【0038】
線Ln5と線Ln6との比較から理解されるように、免震システム1は、変位が初期位置P0を含む一定程度の大きさ以下であるときは、比較例に係る免震システムの復元力特性と同様の特性を示すことが可能である。すなわち、変位が比較的小さいときは、復元力は増加し、変位がある程度大きくなると、復元力は頭打ちとなる。
【0039】
しかし、変位が一定程度の大きさを超えると、免震システム1は、比較例に係る免震システムの復元力特性とは異なる特性を示すことが可能である。具体的には、免震システム1は、復元力が比較的急激に大きくなる特性を示すことが可能である。これは、例えば、引張要素11の復元力の変化率が大きくなることによる。
【0040】
(3.免震システムの作用及び効果)
上述した免震システム1の復元力特性は、例えば、以下のように免震システム1の作用に利用されてよい。
【0041】
免震対象物5の固有周期は、免震対象物5に作用する復元力のばね定数が大きくなるほど短くなる。一方、図3及び図4を参照して説明したように、免震システム1のばね定数は、免震対象物5の変位によって変化し、ひいては、免震対象物5の固有周期は変位によって変化する。
【0042】
具体的には、変位が比較的小さく、線Ln3又はLn5で示される復元力(F1a+F2a)が変位に応じて増加している状態では、固有周期は比較的短い。変位が大きくなり、復元力の増加が頭打ちになった状態では、固有周期は長くなる。さらに変位が大きくなり、再度、復元力が変位に応じて増加する状態になると、固有周期は短くなる。
【0043】
ここで、例えば、免震対象物5の初期位置P0における固有周期は、比較的長周期の地震動の周期に比較して短くなるように設定されてよい。具体的には、例えば、初期位置P0の固有周期は2秒程度(例えば1.5秒以上2.5.秒以下)に設定されてよい。なお、通常の免震システムの固有周期は4秒程度に設定されている。
【0044】
このように固有周期を設定すると、例えば、比較的長周期の地震が生じたときに、支持構造物3に対する免震対象物5の振動が地震動に共振するおそれが低減される。その結果、例えば、支持構造物3に対する免震対象物5の変位が抑制される。支持構造物3に対する免震対象物5の変位が抑制されるということは、免震機能が低下することを意味し、免震対象物5の絶対座標系における加速度は大きくなる。しかし、一般に、長周期の地震動の加速度は短周期の地震動の加速度に比較して小さく、加速度が問題となることは少ない。
【0045】
一方、比較的短周期の地震動が生じたときは、初期位置P0付近における免震対象物5の固有周期が地震動の周期に近いことから、免震対象物5の加速度が大きくなる。ただし、免震対象物5の支持構造物3に対する変位が大きくなると、固有周期が短くなることによって(復元力の増加が頭打ちになることによって)、固有周期と地震動の周期とが乖離し、過大な加速度が生じるおそれが低減される。
【0046】
免震対象物5の支持構造物3に対する変位がさらに大きくなると、再度、固有周期が短くなる(復元力が再度増加する。)。これにより、支持構造物3に対する免震対象物5の変位が過大になる蓋然性が低減され、免震対象物5が支持構造物3又は周囲の構造部に衝突する蓋然性が低減される。
【0047】
なお、復元力が頭打ちになるときの変位は適宜な大きさとされてよい。例えば、当該変位は、0.15m以上0.35m以下とされてよい。また、当該変位における固有周期は、例えば、3秒程度(例えば2.5秒以上3.5秒以下)又はこれよりも大きくされてよい。同様に、復元力が再度増加するときの変位は適宜な大きさとされてよい。例えば、当該変位は、0.20m以上0.40m以下(ただし、復元力が頭打ちになる変位よりも大きい。)とされてよい。
【0048】
図3の説明で述べたように、免震システム1の復元力は、引張要素11及び圧縮要素13の復元力の足し合わせである。また、各要素の復元力は、伸縮方向の復元力にsinθ1又はsinθ2を乗じた値である。従って、引張要素11及び圧縮要素13のばね定数及び伸縮していない状態の長さ、並びに免震対象物5が初期位置P0に位置するときの傾斜角θ1及びθ2に基づいて、免震対象物5の変位から免震システム1の復元力を求める数式が導かれる。固有周期の設定及び固有周期が変化する変位は、例えば、そのような数式に種々の値を代入することによって探査されてよい。
【0049】
図2(b)から理解されるように、免震対象物5が初期位置P0よりも-D1側へ変位するときは、基本的に、引張要素11及び圧縮要素13による復元力は免震対象物5に作用しない。これによる効果としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0050】
図示の例とは異なり、圧縮要素13が、可動部材9ではなく、免震対象物5に連結されている態様を仮定する。そして、圧縮要素13が、免震対象物5の-D1側への変位に応じて引張りに抗する復元力を生じ得るものであると仮定する。ここで、圧縮要素13のその収縮方向におけるばね定数、及び免震対象物5が初期位置P0にあるときの傾斜角θ2は、初期位置P0よりも+D1側への変位に対する復元力特性を考慮して設定されている。このように設定されたばね定数及び傾斜角θ2が、初期位置P0よりも-D1側への変位にとっても都合がよいとは限らない。換言すれば、可動部材9を用いることによって、圧縮要素13の各種のパラメータの設定が容易化される。
【0051】
また、例えば、圧縮要素13は、可動部材9が静止位置よりも-D1側に移動したときに復元力を生じなくてもよい。従って、圧縮要素13の構成として、可動部材9が静止位置にあるときの状態よりも伸びない構成を選択することができる。すなわち、圧縮要素13の設計の自由度が向上する。そのような圧縮要素13の構成としては、例えば、特に図示しないが、テレスコピック構造と、テレスコピック構造の縮みに抗する復元力を生じるコイル状のばね(引張ばね又は圧縮ばね)とを有するものが挙げられる(特許文献3に開示されているバネシャフト等を参照。)。このような構成の圧縮要素13は、例えば、可動部材9が静止位置にあるときに、テレスコピック構造が最大限伸ばされた状態となるように配置されてよい。
【0052】
(4.免震システムの構成の詳細)
以下では、概略、下記の順に、免震システム1について説明する。
4.1.支持構造物3、免震対象物5及びアイソレータ7
4.2.変位抑制装置15
4.2.1.可動部材9
4.2.2.引張要素11
4.2.3.圧縮要素13
4.3.免震システム1の他の構成要素
【0053】
(4.1.支持構造物、免震対象物及びアイソレータ)
図1(a)~図2(b)に示した免震対象物5及び支持構造物3の具体的な組み合わせは任意である。例えば、免震対象物5及び支持構造物3の組み合わせは、建築物(家屋等)及び当該建築物を支持する基礎部分の組み合わせであってよく、また、什器及び当該什器を支持する建築物の組み合わせであってよい。とりわけ、建築物に支持される物のうち免震されることが好ましい物としては、例えば、芸術品及びコンピュータ機器(サーバ)が挙げられる。また、ビルの高層階又は屋上等に配置される免震対象物5は、ビルの共振によって大きな加速度及び/又は変位で振動する可能性が高いことから、免震されることが好ましいとともに、変位が抑制されることが好ましい。上記の例示から理解されるように、実施形態に係る免震システムが適用される対象の大きさは任意である。
【0054】
後述する具体例(図6)の説明から理解されるように、ここでの説明で免震対象物5として言及されている物は、免震対象物5に固定される部材、又は免震対象物5に対してD1方向に交差する方向(D2方向又はD3方向)に相対移動可能に免震対象物5を支持している部材であってもよい。また、支持構造物3として言及されている物は、支持構造物3に固定されている部材、又は支持構造物3に対してD1方向に交差する方向(D2方向又はD3方向)に移動可能に支持されている部材であってもよい。ただし、便宜上、図1図5の説明では、基本的に、図示のように、免震対象物5及び支持構造物3の語を用いる。また、矛盾等が生じない限り、免震対象物5及び支持構造物3の語は、上記のような部材の語又は単なる「対象物」の語に置換されてよい。
【0055】
図1では、免震対象物5の全体が可動部材9に対して-D1側に位置している。また、免震対象物5のD2方向の大きさが可動部材9のD2方向の大きさと同程度に描かれている。ただし、可動部材9との関係において、免震対象物5の形状及び大きさは任意であり、図示のような態様に限定されない。例えば、免震対象物5は、可動部材9よりも+D2側、-D2側、+D3側及び/又は-D3側に位置する部分を有してよく、当該部分の大きさも任意である。また、例えば、免震対象物5は、可動部材9に対して+D1側に位置する部分を有してよい。この+D1側の部分は、可動部材9に対して-D1側に位置する部分に対して、小さくてもよいし、同等でもよいし、大きくてもよい。
【0056】
上記では、免震対象物5を例に取って述べたが、可動部材9(又は免震対象物5)との関係における支持構造物3の形状及び大きさも任意である。例えば、支持構造物3は、免震対象物5及び可動部材9に対して-D2側に位置する部分(図示されている部分)以外に、任意の方向(+D2側、+D3側、-D3側、+D1側及び/又は-D1側)に位置する部分を有してよい。その大きさも任意である。また、例えば、ここでの説明では既述のように支持構造物3の語を用いているが、実際に引張要素11及び圧縮要素13が連結される部材は、支持構造物3の語のイメージとは異なる比較的小さい部材であってもよいし、「支持」の機能を有していなくてもよい。
【0057】
免震システム1において、支持構造物3に対する免震対象物5の移動方向は、水平方向及び上下方向のいずれであってもよく、また、双方であっても構わない。また、上記移動方向が水平方向である場合において、免震システム1は、一の水平方向における免震対象物5の移動を許容するものであってもよいし、任意の水平方向における免震対象物5の移動を許容するものであってもよい。なお、一般的な免震対象物5及び支持構造物3の意味ではなく、図1(a)~図2(b)に示される構成によって変位が抑制される2つの対象物(第1対象物及び第2対象物)の意味においては、両者は、例えば、一の方向(D1方向)以外の移動は規制されている。
【0058】
別の観点では、図1(a)~図2(b)に示した直交座標系D1D2D3と鉛直方向との関係は任意である。例えば、D1方向は水平方向であってよく、この場合において、D2方向が鉛直方向であってもよいし、D3方向が鉛直方向であってもよい。また、例えば、D1方向は鉛直方向(重力方向)であってよい。
【0059】
アイソレータ7は、例えば、公知の構成と同様とされてよい。公知のアイソレータとしては、積層ゴム、転がり支承又は滑り支承が挙げられる。図1(a)~図2(b)では、アイソレータ7は、直線で表されたレール7aを有している。ただし、アイソレータ7は、レール7aを有していなくてもよい。例えば、D2方向(又はD3方向)が鉛直方向である態様において、免震対象物5は、重力及び反力によって+D2側及び-D2側への変位が規制されてよい。また、例えば、D2方向(又はD3方向)が水平方向である態様において、D1方向に配列されたローラによって免震対象物5の一部が案内されてD2方向の変位が規制されてよい。
【0060】
(4.2.変位抑制装置)
変位抑制装置15(可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13)は、従来の免震システム及び/又は既設の免震システムに対して後付けされるものであってもよいし、新たに設計される免震システムに当初から組み込まれているものであってもよい。
【0061】
変位抑制装置15が後付けされるものである場合、免震システム1の復元力は、例えば、従来及び/又は既設の免震システムが含む復元力と、変位抑制装置15の復元力との足し合わせによって得られてよい。なお、変位抑制装置15の流通段階ではなく、変位抑制装置15が従来及び/又は既設の免震システムに付加された後においては、従来及び/又は既設の免震システムが含んでいた復元要素を含んで変位抑制装置が定義されても構わない。
【0062】
変位抑制装置15が含まれることが想定されて新たに免震システムが設計される場合、変位抑制装置15は、免震システム1の復元力の全部を担ってもよいし、一部を担ってもよい(変位抑制装置15とは別の復元要素が設けられてもよい。)。ただし、変位抑制装置15は、引張要素11及び圧縮要素13とは別の復元要素を含んで定義されてもよく、上記の説明は、変位抑制装置15の定義の問題に過ぎないと捉えることもできる。
【0063】
免震対象物5及び支持構造物3に対する変位抑制装置15の接続関係は、図示の例とは逆であってもよい。すなわち、可動部材9は、免震対象物5に対してではなく、支持構造物3に対してD1方向の一方側から当接してよく、また、引張要素11及び圧縮要素13は、支持構造物3に対してではなく、免震対象物5に対して連結されてよい。ただし、実施形態の説明では、便宜上、主として、図示の例を前提とした説明を行う。
【0064】
(4.2.1.可動部材)
可動部材9は、これまでの説明から理解されるように、免震対象物5と同様に、支持構造物3に対して-D1側及び+D1側の双方へ相対移動可能である。また、可動部材9と免震対象物5とが当接すると、可動部材9の免震対象物5に対する-D1側への相対移動が規制される。ひいては、引張要素11及び圧縮要素13によって可動部材9に-D1側への復元力が付与されると、この復元力は免震対象物5に伝わる。
【0065】
可動部材9と免震対象物5との当接という作用は、上位概念化すると、以下のようにいうことができる。可動部材9と免震対象物5とのD1方向における所定の相対位置を「第1相対位置」と称するものとする。図示の例では、可動部材9と免震対象物5とが当接する位置が第1相対位置である。そして、可動部材9は、第1相対位置からD1方向の一方側(図示の例では-D1側)への免震対象物5に対する相対移動が規制される。また、可動部材9は、第1相対位置からD1方向の他方側(図示の例では+D1側)への免震対象物5に対する相対移動が許容される。
【0066】
上記のような上位概念化した作用を実現する構成は、可動部材9が免震対象物5に対して+D1側から当接するもの以外に種々可能である。例えば、可動部材9は、免震対象物5に対して-D1側に離れて位置するとともに、可撓性部材(例えばチェーン又はワイヤー)によって免震対象物5と連結されてよい。免震対象物5が初期位置P0にあるとき、可撓性部材は、例えば、概ね、たるみがない状態とされてよい。このような構成では、免震対象物5が初期位置P0から+D1側へ移動すると可撓性部材を介して可動部材9が+D1側へ引っ張られる。引張要素11及び圧縮要素13によって可動部材9に-D1側への復元力が付与されると、この復元力は可撓性部材を介して免震対象物5に伝わる。一方、免震対象物5が-D1側へ移動して可撓性部材にたるみが生じるときは、免震対象物5に復元力は+D1側への復元力は付与されない。可撓性部材にたるみがないときの可動部材9と免震対象物5との相対位置が、上述した第1相対位置に相当する。
【0067】
上記のように可撓性部材を用いる場合においては、たるみが無い状態の可撓性部材に当接して可撓性部材が延びる方向を変化させる滑車又はピンが設けられてもよい。これにより、免震対象物5の支持構造物3に対する移動方向と、可動部材9の支持構造物3に対する移動方向とを異ならせることができる。例えば、D1方向に移動可能な免震対象物5と、D2方向に移動可能な可動部材9とを連結する可撓性部材は、免震対象物5からD1方向に沿って延びた後に滑車によって屈曲してD2方向に沿って可動部材9に向かって延びてよい。
【0068】
上記のような態様まで考慮すると、可動部材9と免震対象物5との当接という作用は、更に上位概念化して、以下のようにいうことができる。免震対象物5の支持構造物3に対する移動方向を「第1移動方向」というものとし、その両側を「第1側」及び「第2側」というものとする。可動部材9の支持構造物3に対する移動方向を「第2移動方向」というものとし、その両側を「第3側」及び「第4側」というものとする。第1側と第3側とが同一側になり、第2側と第4側とが同一側になるように、第2移動方向における位置を第1移動方向における位置に仮想的に座標変換することを考える。このとき、可動部材9は、免震対象物5と可動部材9との既述の第1相対位置から第1側への免震対象物5の可動部材9に対する相対移動を規制するとともに、第1相対位置から第2側への免震対象物5の可動部材9に対する相対移動を許容する。
【0069】
なお、実施形態の説明では、便宜上、基本的に、上記のような上位概念が含む態様のうち、図示された態様のみを対象として説明する。
【0070】
可動部材9は、支持構造物3に対してD1方向(既述のとおり、他の方向でもよい。)に移動可能とされている。換言すれば、D1方向以外の移動は規制されている。そのような移動の許容及び規制、並びに当該許容及び規制を行うための構成に関しては、免震対象物5の支持構造物3に対する移動の許容及び規制、並びにアイソレータ7の説明が援用されてよい。
【0071】
可動部材9は、図示の例では、既述のように、免震対象物5をD1方向に案内するレール7aによってD1方向に案内されている。換言すれば、可動部材9及び免震対象物5は、アイソレータ7の少なくとも一部を共用している。ただし、図示の例とは異なり、アイソレータ7は、共用されていなくてもよい。例えば、可動部材9は、レール7aに並走する他のレールによって案内されてもよい。また、既述のように、可動部材9の移動方向は、免震対象物5の移動方向と異なっていてもよく、この場合において、アイソレータの一部が共用されていなくてもよいことは明らかである。
【0072】
図1(a)に示す例では、静止状態において、可動部材9は、免震対象物5に対して当接している。上述した上位概念の表現を用いて換言すれば、静止状態において、免震対象物5と可動部材9とは第1相対位置にある。ただし、静止状態において、可動部材9は、免震対象物5から+D1側へ離れていてもよい。この場合は、免震対象物5が+D1側へ移動して可動部材9に当接するまでの間においては、引張要素11及び圧縮要素13による復元力が作用しない。そして、免震対象物5が可動部材9に当接した後に、既述の復元力特性が発揮される。
【0073】
可動部材9は、支持構造物3に対して、静止状態のときの位置(図1(a))から-D1側へ移動可能であってもよいし、移動不可能であってもよい。後者の場合においては、例えば、支持構造物3に固定され、可動部材9が図1(a)の位置にあるときに可動部材9に対して-D1側から+D1側へ当接する不図示のストッパが設けられてよい。なお、このようなストッパは、可動部材9が図1(a)の位置にあるときではなく、図1(a)の位置から所定の距離(例えば図1(a)の位置から+D1側への移動可能距離よりも短い距離)で-D1側に離れた位置にあるときに当接するように設けられてもよい。なお、可動部材9の+D1側の駆動限は、不図示のストッパによって規定されていてもよいし、規定されていなくてもよい。
【0074】
可動部材9の具体的な形状、大きさ及び材料は任意である。例えば、免震対象物5の形状及び大きさについての既述の説明とは逆に、可動部材9は、免震対象物5に対して、+D1側に位置する部分だけでなく、-D1側、+D2側、-D2側、+D3側及び/又は-D3側に位置する部分を有していてもよい。同様に、支持構造物3の形状及び大きさについての既述の説明とは逆に、可動部材9は、支持構造物3に対して、+D2側に位置する部分だけでなく、-D2側、+D1側、-D1側、+D3側及び/又は-D3側に位置する部分を有していてもよい。また、例えば、可動部材9は、免震対象物5に復元力を伝えるために当接する部分以外に免震対象物5に接する部分を有していてもよい。より詳細には、例えば、+D2側、-D2側、+D3側及び/又は-D3側から免震対象物5に対して接して摺動する部分を有していてもよい。
【0075】
可動部材9は、免震対象物5に対して+D1側から当接する部分に不図示の緩衝部材(例えば弾性部材)を有していてもよい。これにより、可動部材9と免震対象物5とが衝突するときの衝撃が緩和されてよい。弾性部材としては、例えば、ゴム及びバネが挙げられる。弾性部材の復元力特性が図3及び図4を参照して説明した復元力特性に及ぼす影響が大きい場合は、当該弾性部材は、可動部材9とは別個の構成要素として捉えられてもよい。なお、緩衝部材は、可動部材9に代えて、又は加えて、免震対象物5に設けられたり、免震対象物5及び可動部材9とは独立してレール7aに案内されたりしてもよい。
【0076】
なお、上記から理解されるように、可動部材9は、免震対象物5に対して直接に当接しなくてもよい。可動部材9と免震対象物5とが直接に当接している態様と、可動部材9と免震対象物5との間に他の部材が介在している態様とのいずれであってもよいことを表現する場合において、可動部材9が免震対象物5に対して+D1側から-D1側へ「合わさる」のような表現を用いることがある。
【0077】
(4.2.2.引張要素)
引張要素11の構成は、公知の種々の構成と同様とされてよい。例えば、引張要素11は、つる巻きばね、板ばね、空気ばね、又はゴムを含んで構成されてよい。すなわち、引張要素11は、適宜な弾性体を含んで構成され、変形に伴って生じる弾性力を復元力としてよい。引張要素11は、伸びに抗する復元力を生じるものであり、典型的には、上記弾性体は、伸びに抗する復元力を生じる引張ばねである。ただし、引張要素11が含む弾性体は、圧縮に抗する復元力を生じるもの(圧縮ばね)とすることも可能である。例えば、引張要素11は、テレスコピック構造と、テレスコピック構造のうち、伸びに応じて互いに近接する部分に介在する圧縮ばねとを有していてもよい(特許文献3の図10参照)。
【0078】
引張要素11は、図1(a)に符号を示すように、作用点11aにて可動部材9に連結されているとともに、作用点11bにて支持構造物3に連結されている。なお、便宜上、作用点11a及び11bの符号を用いて、連結部11a及び11bということがある。例えば、引張要素11は、可動部材9に連結される連結部11aと、支持構造物3に連結される連結部11bとを有している、のように表現することがある。
【0079】
これまでの説明からも理解されるように、連結部11aは、可動部材9に対する引張要素11のD3方向に平行な軸回りの回転を許容している。同様に、連結部11bは、支持構造物3に対する引張要素11のD3方向に平行な軸回りの回転を許容している。連結部11a及び11bの構成は種々の構成とされてよく、例えば、公知の構成とされて構わない。
【0080】
引張要素11は、伸びに抗する復元力を生じ、また、正のばね定数を有している。換言すれば、引張要素11は、作用点11aと作用点11bとを結ぶ方向において両者を近接させる復元力を生じ、この復元力は、上記結ぶ方向における作用点11aと作用点11bとの離反によって増加する。
【0081】
作用点11a及び11bは、引張要素11の可動部材9及び支持構造物3に対する連結位置となっていなくてもよい。例えば、以下のとおりである。
【0082】
作用点11aと11bとの距離よりも短いつる巻きばね(弾性体)と、つる巻きばねに直列につながれたワイヤーとによって引張要素11を構成する。そして、つる巻きばねの、ワイヤーとは反対側の端部を作用点11aにて可動部材9に連結する。一方、ワイヤーは、つる巻きばねから、作用点11bに設けられた滑車又はピンを経由して、作用点11bとは別の位置まで延び、当該別の位置にて支持構造物3に連結される。上記の他、例えば、作用点11aと作用点11b(滑車又はピン)との間に代えて、又は加えて、作用点11bと支持構造物3側の連結部との間につる巻きばねを配置してもよい。上記では、支持構造物3側の作用点11bが連結部でない態様について例示した。同様に、可動部材9側の作用点11aも連結部でなくてよい。ただし、この場合、既述のF2a=F2×sinθ2が成り立つとは限らない。
【0083】
なお、実施形態の説明では、便宜上、特に断り無く、作用点11a及び11bが連結位置である態様を前提とした説明を行うことがある。
【0084】
引張要素11(換言すれば作用点11aから作用点11bへの方向)は、既述のように、静止状態(図1(a))において、D2方向に沿っている(概ね平行である。)。なお、静止状態における引張要素11がD2方向に平行である(換言すれば傾斜角θ1が0°である)というときも、公差が存在してよいことはもちろんである。また、引張要素11は、静止状態において、D2方向に対して傾斜していても構わない。この場合の静止状態における傾斜角θ1は、例えば、静止状態における圧縮要素13の傾斜角θ2よりも小さくされてよい。
【0085】
引張要素11は、既述のように、静止状態において、例えば、伸びていない(復元力を生じていない)。ただし、引張要素11は、静止状態において復元力を生じていてもよい。この場合、引張要素11は、D2方向に平行であってもよいし、D2方向に傾斜していてもよい。前者(平行)の場合、例えば、圧縮要素13の復元力は生じていなくてよく、また、引張要素11の復元力によって傾斜角θ1が0°とされてよい。後者(傾斜)の場合、引張要素11の復元力のうちのD1方向に平行な成分は、例えば、圧縮要素13の復元力のD1方向の成分と釣り合っていてもよいし(作用点11aが作用点11bよりも-D1側に位置するように傾斜している場合)、可動部材9の-D1側への移動を規制する不図示のストッパからの反力と釣り合っていてもよい(作用点11aが作用点11bよりも+D1側に位置するように傾斜している場合)。
【0086】
図示の例とは異なり、引張要素11は、可動部材9ではなく、免震対象物5に対して連結されていてもよい。又は、可動部材9に連結されている引張要素11に代えて、又は加えて、当該引張要素11と同様の向きで免震対象物5と支持構造物3とに連結された他の引張要素が設けられてもよい。そして、免震対象物5に連結された引張要素11又は他の引張要素は、免震対象物5の+D1側への移動と-D1側への移動との双方に関して復元力を生じてよい。上記から理解されるように、可動部材9と支持構造物3とに連結される引張要素11は必ずしも設けられなくてもよい。
【0087】
さらに図示の例とは異なり、免震対象物5のD1方向における変位に伴って傾斜角θ1が変化する引張要素11及び/又は他の引張要素に代えて、又は加えて、D1方向に平行に配置される復元要素が設けられてもよい。この復元要素は、免震対象物5又は可動部材9に連結されるとともに支持構造物3に連結され、支持構造物3に対する免震対象物5又は可動部材9の(少なくとも)+D1側への変位に抗する復元力を生じる。この復元要素は、引張要素又は圧縮要素のいずれによって構成されてもよい。なお、免震対象物5のD1方向における変位に伴って傾斜角θ1が変化する引張要素11及び/又は他の引張要素が設けられず、D1方向に平行な復元要素が設けられる場合は、図3において線Ln1で示した曲線状の復元力特性に代えて、直線状の復元力特性が足し合わされる。
【0088】
(4.2.3.圧縮要素)
圧縮要素13の構成は、公知の種々の構成と同様とされてよい。例えば、圧縮要素13は、引張要素11と同様に、つる巻きばね、板ばね、空気ばね、又はゴムを含んで構成されてよい。すなわち、圧縮要素13は、適宜な弾性体を含んで構成され、変形に伴って生じる弾性力を復元力としてよい。圧縮要素13は、縮みに抗する復元力を生じるものであり、典型的には、上記弾性体は、縮みに抗する復元力を生じる圧縮ばねである。ただし、圧縮要素13が含む弾性体は、引張りに抗する復元力を生じるもの(引張ばね)とすることも可能である。例えば、圧縮要素13は、テレスコピック構造と、テレスコピック構造のうち、縮みに応じて互いに離れる部分に介在する引張ばねとを有していてもよい。
【0089】
圧縮要素13は、図1(a)に符号を示すように、可動部材9に連結される連結部13aと、支持構造物3に連結される連結部13bとを有している。これまでの説明からも理解されるように、連結部13aは、可動部材9に対する圧縮要素13のD3方向に平行な軸回りの回転を許容している。同様に、連結部13bは、支持構造物3に対する圧縮要素13のD3方向に平行な軸回りの回転を許容している。連結部13a及び13bの構成は種々の構成とされてよく、例えば、公知の構成とされて構わない。
【0090】
圧縮要素13は、縮みに抗する復元力を生じ、また、正のばね定数を有している。換言すれば、圧縮要素13は、連結部11aと連結部11bとを結ぶ方向において両者を離反させる方向の復元力を生じ、この復元力は、上記結ぶ方向における連結部13aと連結部13bとの近接によって増加する。
【0091】
圧縮要素13(換言すれば連結部13aから連結部13bへの方向)は、静止状態において(図1(a))、既述のように、連結部13b(支持構造物3側)が連結部13a(免震対象物5)よりも+D1側に位置する向きで傾斜している。静止状態のときの傾斜角θ2(符号は図1(b))の大きさは任意である。例えば、傾斜角θ2は、10°以上、30°以上、40°以上又は50°以上とされてよく、また、80°以下、70°以下、60°以下、50°又は40°以下とされてよい。上記の下限と上限とは、矛盾が生じないように、任意のもの同士が組み合わされてもよい。
【0092】
圧縮要素13は、既述のように、静止状態において、例えば、縮んでいない(復元力を生じていない)。ただし、引張要素11の説明で言及したように、圧縮要素13は、静止状態において復元力を生じていてもよい。この場合、圧縮要素13の復元力のうちのD1方向に平行な成分は、例えば、引張要素11の復元力のD1方向の成分(作用点11aが作用点11bよりも-D1側に位置するように傾斜している場合)、及び/又は可動部材9の-D1側への移動を規制する不図示のストッパからの反力と釣り合っていてよい。
【0093】
免震対象物5に対する連結部13aは、既述のように、可動部材9の+D1側への移動によって、支持構造物3に対する連結部13bよりも+D1側へ移動可能である(図2(a))。ただし、このような可動部材9の移動は、許容されていなくてもよい。例えば、連結部13aが連結部13bよりも+D1側へ移動する前に、支持構造物3に設けられている不図示のストッパが+D1側から可動部材9に当接してよい。
【0094】
(4.3.免震システムの他の構成要素)
免震システム1は、上記以外の種々の構成要素を有していてよい。例えば、引張要素11の説明で触れたように、免震システム1は、引張要素11及び圧縮要素13とは別個に、復元力を生じる復元要素を有していてよい。また、免震システム1は、減衰力を生じる減衰要素を有していてもよい。減衰力は、例えば、支持構造物3に対する免震対象物5の相対速度の方向とは反対方向へ免震対象物5に対して作用する。また、減衰力は、例えば、相対速度の増加に伴って増加し、典型的には、相対速度に対して比例する。
【0095】
復元要素(引張要素11及び圧縮要素13とは別個のもの)及び/又は減衰要素は、例えば、アイソレータ7と一体不可分のものであってもよいし、アイソレータ7とは別個のものであってもよい。なお、前者の態様としては、例えば、積層ゴムの復元力及び滑り支承の摩擦抵抗力が挙げられる。また、この場合、上記の復元要素及び/又は減衰要素は、アイソレータ7の復元機能及び/又は減衰機能を構成要素として概念化したものである。なお、ここで述べた復元要素及び/又は減衰要素は、アイソレータ7と一体不可分であるにせよ、そうでないにせよ、免震システム1において、変位抑制装置15の一部として捉えられても構わない。
【0096】
(5.免震システムの構成の典型例)
図5は、実施形態に係る免震システム1Aの構成を示す模式図である。より詳細には、この図は、静止状態における免震システム1Aを示しており、図1(a)に対応している。
【0097】
免震システム1Aは、端的に言えば、図1(a)~図2(b)に示した免震システム1に対して、+D1側だけでなく、-D1側にも、可動部材9(9B)、引張要素11(11B)及び圧縮要素13(13B)を付加したものである。このような構成により、例えば、免震対象物5は、+D1側へ変位したときと、-D1側へ変位したときとの双方において変位が抑制される。
【0098】
なお、+D1側の部材に関しては、Aの符号を付加して、可動部材9A、引張要素11A及び圧縮要素13Aということがある。また、-D1側の部材に関しては、Bの符号を付加して、可動部材9B、引張要素11B及び圧縮要素13Bということがある。
【0099】
また、図1(a)~図2(b)に示した免震システム1は、実際に+D1側にだけ、可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13を有している構成として捉えられてもよいし、免震システム1A(又は後述する他の免震システムの例)のうちの一部が概念的に抽出されたものとして捉えられてもよい。ただし、免震システム1Aの説明においては、便宜上、特に断りが無い限り、前者であるものとする。
【0100】
一般に、免震システムは、所定方向の両側への変位に対して復元力及び減衰力を生じる。従って、図5に示す免震システム1Aは、実施形態に係る免震システムの典型例ということができる。
【0101】
なお、図1(a)等に示す免震システム1は、例えば、免震対象物5の-D1側への変位を変位抑制装置15によって抑制する必要性が低い場合、及び/又は免震対象物5が+D1側に変位するよりも-D1側に変位した方が好ましい場合に利用されてよい。このような場合としては、例えば、免震対象物5が部屋の壁付近に配置される什器である態様において、+D1側(変位が抑制される側)が部屋の中央側(別の観点では人が存在する側)であり、-D1側が壁側である場合が挙げられる。
【0102】
免震システム1における可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13の説明は、免震システム1Aにおける可動部材9A、引張要素11A及び圧縮要素13Aに援用されてよい。また、免震システム1の可動部材9、引張要素11及び圧縮要素13の説明は、-D1の語と+D1の語とを置換するなどして、可動部材9B、引張要素11B及び圧縮要素13Bに援用されてよい。
【0103】
+D1側の構成要素(9A、11A及び13A等)と、-D1側の構成要素(9B、11B及び13B等)とは、例えば、D1方向に直交する不図示の対称軸(及び/又は対称面)に対して線対称(及び/又は面対称)の構成とされてよい。例えば、+D1側の構成要素と-D1側の構成要素とは、互いに同一(対称を含む)の形状、寸法及び材料を有し、互いに線対称(及び/又は面対称)に配置されてよい。
【0104】
ただし、両者は、D1方向の復元力に関して互いに同等の作用を生じる範囲内で、互いに相違点を有していてもよい。例えば、理論上は、両者は、D1方向に平行な軸回りの位置が互いに異なっていても構わない。さらに、+D1側の構成要素と-D1側の構成要素とは、両者が生じる作用が互いに異なる態様で構成に相違点を有していても構わない。例えば、図1(a)等に示した免震システム1が、-D1側への変位を抑制する必要性が低い場合等に利用されてよいことを既に述べた。このような場合において、+D1側の構成要素による復元力特性と、-D1側の構成要素による復元力特性とは異なっていてもよい。
【0105】
図示の例では、免震対象物5の+D1側への変位を抑制する構成要素は、免震対象物5に対して+D1側に位置しており、免震対象物5の-D1側への変位を抑制する構成要素は、免震対象物5に対して-D1側に位置している。上記とは逆に、免震対象物5の+D1側への変位を抑制する構成要素が免震対象物5に対して-D1側に位置し、免震対象物5の-D1側への変位を抑制する構成要素が免震対象物5に対して+D1側に位置していてもよい。例えば、図示の例よりもD1方向に長い免震対象物5の-D1側の端部に-D2側へ突出する第1凸部が設けられ、図5の+D1側の構成要素が+D1側から-D1側へ第1凸部に復元力を作用させるように設けられ、免震対象物5の+D1側の端部に-D2側へ突出する第2凸部が設けられ、図5の-D1側の構成要素が-D1側から+D1側へ第2凸部に復元力を作用させるように設けられ、その結果、図5の+D1側の構成要素と図5の-D1側の構成要素との位置関係が図示の例とは逆になってもよい。
【0106】
免震システム1の説明では、免震対象物5が初期位置P0にあるとき(別の観点では免震システム1が静止状態であるとき)、引張要素11及び圧縮要素13は、復元力を生じていなくてもよいし、生じていてもよいことについて述べた。また、後者の場合における復元力のD1方向の成分の釣り合いについても述べた。免震システム1Aにおいては、静止状態であるときに引張要素11及び/又は圧縮要素13が復元力を生じる場合、その復元力のD1方向の成分は、-D1側の構成要素と+D1側の構成要素との間で免震対象物5を介して釣り合いを生じてよい。例えば、引張要素11Aと引張要素11Bとで釣り合いを生じ、及び/又は圧縮要素13Aと圧縮要素13Bとで釣り合いを生じてよい。
【0107】
(6.免震システムの構成の具体例)
図6は、より具体化された免震システム1Bの構成を示す斜視図(一部は透視図)である。図7は、免震システム1Cを図1(a)等と同様に模式的に示した図である。
【0108】
これらの図には、直交座標系xyzを付している。直交座標系xyzと鉛直方向(重力方向)との関係は任意である。以下の説明では、便宜上、+z側が鉛直上方であるものとする。また、以下では、基本的に図6に基づいて説明を行う。図7は、図1(a)~図5に関する説明と、図6に示す構成との対応関係の把握に適宜に参照されたい。
【0109】
図6では、アイソレータ7の具体例としてのアイソレータ7Bが示されている。アイソレータ7Bは、支持構造物3に固定される支持部材21と、免震対象物5に固定される免震部材23とを有している。免震部材23は、支持部材21に支持されているとともに、xy平面に沿う(例えばxy平面に平行な)任意の方向(任意の水平方向)における移動が許容されている。これにより、支持構造物3に対する免震対象物5の任意の水平方向における移動が許容されている。
【0110】
なお、ここでの説明とは異なり、支持部材21は、支持構造物3の一部であってもよい。同様に、免震部材23は、免震対象物5の一部であってもよい。また、別の観点では、アイソレータ7(7B)は、支持構造物3及び/又は免震対象物5と明瞭に区別できなくてもよい。
【0111】
アイソレータ7Bは、例えば、支持部材21と免震部材23との間に介在する中間部材25を有している。中間部材25は、y方向に延びるリニアガイド27Yによって支持部材21に対してy方向に移動可能とされている。免震部材23は、x方向に延びるリニアガイド27Xによって中間部材25に対してx方向に移動可能とされている。これにより、免震部材23は、支持部材21に対して、任意の水平方向に移動可能とされている。
【0112】
支持部材21、免震部材23及び中間部材25の形状、寸法及び材料は任意である。図示の例では、これらは、概略、板状に構成されており、また、平面視において、矩形状である。実際の形状は、このような形状と全く異なっていても構わない。ただし、実施形態の説明では、便宜上、支持部材21、免震部材23及び中間部材25の形状が図示の形状であることを前提とした説明を行うことがある。
【0113】
平面視において、支持部材21、免震部材23及び中間部材25の中央には開口21h、23h及び25hが形成されている。開口21h、23h及び25hは、例えば、静止状態において、互いに重なっている。このような開口は、例えば、免震対象物5がコンピュータ(例えばサーバ)である場合において、コンピュータに接続されるケーブルが挿通される開口として利用されてよい。
【0114】
リニアガイド27Yによって、中間部材25は、支持部材21に対してy方向に案内されている。別の観点では、中間部材25は、支持部材21に対するy方向以外の方向における移動が規制されている。ただし、中間部材25の上下方向の移動は、リニアガイド27Yによらずに、重力と反力とによって規制されていてもよい。支持部材21、中間部材25及びリニアガイド27Yを例に取って説明したが、中間部材25、免震部材23及びリニアガイド27Xについても同様である。
【0115】
リニアガイド27Xは、例えば、レール7aを有してよく、また、レール7aに案内される被案内部材29X、31及び33を有してよい。同様に、リニアガイド27Yは、例えば、レール7aを有してよく、レール7aに案内される被案内部材29Y(図7)、31(リニアガイド27Xのものを参照)及び33を有してよい。なお、リニアガイド27X及び27Yの構成は、案内の方向が互いに異なる点を除いて同様とされてもよいし、相違点を有していてもよい。
【0116】
レール7a及び被案内部材29X、29Y、31及び33の具体的な構成は任意である。レール7a及び被案内部材は、支持部材21、中間部材25又は免震部材23の一部であってもよい。レール7aと被案内部材との間には、転がる部材(例えばボール)が介在してもよいし、介在しなくてもよい。前者の場合において、リニアガイドは、例えば、総ボール式又はボールリテーナ式とされてよい。
【0117】
図示の例では、リニアガイド27Xは、中間部材25に固定されたレール7aと、免震部材23に固定された被案内部材29X、31及び33とを有している。図示の例とは逆に、レール7aが免震部材23に固定され、被案内部材が中間部材25に固定されていてもよい。リニアガイド27Xを例に取ったが、同様に、リニアガイド27Yに関しても、支持部材21及び中間部材25のうち、いずれにレール7a(及び被案内部材)が設けられてもよい。ただし、以下の説明では、便宜上、図示の態様を前提とする。
【0118】
免震部材23及び中間部材25に着目したとき、被案内部材29Xは、図1(a)~図5における免震対象物5に相当し、中間部材25は、図1(a)~図5における支持構造物3に相当する。x方向はD1方向に相当し、y方向はD2方向に相当し、z方向はD3方向に相当する。被案内部材29Xの両側には、リニアガイド27Xのレール7aに案内される2つの可動部材9Xが位置している。各可動部材9Xは、中間部材25に連結された引張要素11X及び圧縮要素13Xと連結されている。
【0119】
中間部材25及び支持部材21に着目したとき、被案内部材29Y(図7)は、図1(a)~図5における免震対象物5に相当し、支持部材21は、図1(a)~図5における支持構造物3に相当する。y方向はD1方向に相当し、x方向はD2方向に相当し、z方向はD3方向に相当する。図7に示されているように、被案内部材29Yの両側には、リニアガイド27Yのレール7aに案内される2つの可動部材9Yが位置している。各可動部材9Yは、支持部材21に連結された引張要素11Y及び圧縮要素13Yと連結されている。
【0120】
図6の例では、引張要素11Xは、可動部材9Xから突出するピン35と、中間部材25から突出するピン37とに連結されている。このような構成において、引張要素11Xのz方向(D3方向)に平行な軸の回りの回転は、引張要素11Xのピンに対する回転によって実現されてもよいし、ピンの可動部材9X又は中間部材25に対する回転によって実現されてもよい。中間部材25に隠れて不図示の引張要素11Yについても同様である。
【0121】
また、圧縮要素13Xは、可動部材9Xから突出するピン39と、中間部材25から突出するピン41とに連結されている。このような構成において、引張要素11Xと同様に、圧縮要素13Xのz方向(D3方向)に平行な軸の回りの回転は、圧縮要素13Xのピンに対する回転によって実現されてもよいし、ピンの可動部材9X又は中間部材25に対する回転によって実現されてもよい。中間部材25に隠れて不図示の圧縮要素13Yについても同様である。特に図示しないが、圧縮要素13Xは、圧縮によって撓みを生じない構成とされてよい。例えば、既述のテレスコピック構造が採用されてよい。
【0122】
(7.実施形態のまとめ)
以上のとおり、免震システム1(並びに1A及び1B)は、アイソレータ7と、第1可動部材(9)と、第1圧縮要素(13)と、を有している。アイソレータ7は、第1移動方向(D1方向)の第1側(+D1側)及び当該第1側の反対側である第2側(-D1側)への第1対象物(例えば免震対象物5)の第2対象物(例えば支持構造物3)に対する相対移動を許容する。第1可動部材は、第2対象物に対して第2移動方向(D1方向)の第3側(+D1側)及び当該第3側の反対側である第4側(-D1側)へ相対移動可能である。第1側と第3側とが同一側になり、第2側と第4側とが同一側になるように、第2移動方向における位置を第1移動方向における位置に仮想的に座標変換したときに、第1対象物(免震対象物5)と第1可動部材との所定の第1相対位置(例えば両者が当接する位置)から第1側(+D1側)への第1対象物の第1可動部材に対する相対移動が規制されるとともに、第1相対位置から第2側(-D1側)への第1対象物の第1可動部材に対する相対移動が許容される。第1圧縮要素は、第1可動部材に連結される第1連結部(13a)と、第2対象物(支持構造物3)に連結される第2連結部(13b)とを有している。第1圧縮要素は、第1連結部と第2連結部とを結ぶ第1力方向(符号省略)において、第1連結部と第2連結部との近接によって増加する、第1連結部と第2連結部とを離反させる復元力を生じる。静止状態において、上記第1力方向は、第2移動方向(D1方向)に垂直な方向(D2方向)に対して、第2連結部が第1連結部よりも第3側(+D1側)に位置する向きで傾斜している。
【0123】
従って、既に触れたように、第1対象物(免震対象物5)が第1側(+D1側)へ変位するときは、図3において線Ln2で示した復元力特性を利用することができる。この復元力特性単体、又は、この復元力特性と引張要素11又は他の引張要素の復元力特性との組み合わせによって、初期位置P0における固有周期を相対的に短くするとともに、変位が一定程度の大きさになったときの固有周期を相対的に長くすることができる。これにより、例えば、長周期振動によって大きな変位が生じる蓋然性を低減することなどができる。一方で、第1対象物(免震対象物5)が初期位置P0から第2側(-D1側)へ変位するときは、可動部材9に対する第1対象物の第2側への相対移動が許容されている(ただし、慣性力等の影響によって必ずしも相対移動しなくてもよい。)。従って、圧縮要素13の復元力特性が第1対象物の第2側への変位に及ぼす影響を低減できる。その結果、圧縮要素13の設計においては、基本的に、第1側への変位における特性(傾斜角θ2が初期値から大きくなるときの特性)を中心に考えればよいから、設計が容易化される。
【0124】
第1移動方向(第1対象物の移動方向)と第2移動方向(第1可動部材の移動方向)とは同じ方向であってよい。第1側と第3側とは同じ側であってよい。第2側と第4側とは同じ側であってよい。第1相対位置は、第1可動部材(9)が第1側(+D1側)から第2側(-D1側)へ第1対象物(免震対象物5)に合わさる位置(例えば直接に当接する位置)であってよい。
【0125】
この場合、例えば、可撓性部材を用いて第1対象物(免震対象物5)と第1可動部材(9)とを連結する態様に比較して、構成が簡素である。また、可撓性部材を用いた場合は、可撓性部材が撓んでいるときに撓んでいる部分の位置を制御することが困難であるが、そのような不都合も生じない。
【0126】
免震システム1は、第1引張要素(11)を有していてよい。第1引張要素は、第1可動部材(9)及び第1対象物(例えば免震対象物5)の一方の物(例えば免震対象物5)と、第2対象物(例えば支持構造物3)とに連結されていてよい。また、第1引張要素は、その少なくとも一部が、上記一方の物における第1作用点(11a)と、第2対象物における第2作用点(11b)との間に跨っていてよい。なお、このようにいうとき、既述のように、連結部と作用点とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。第1引張要素は、縮みによって増加する、当該縮みを低減する復元力を生じてよい。静止状態において、第1作用点と第2作用点とを結ぶ方向(符号省略)は、第2移動方向(D1方向)に垂直な方向(D2方向)に沿っていてよい。
【0127】
この場合、例えば、図3において線Ln1で示したように、第1対象物(免震対象物5)に対して第1移動方向(D1方向)に及ぼす復元力に関して、変位の増加によってばね定数が大きくなる復元力特性を利用できる。その結果、例えば、線Ln2で示される圧縮要素13の復元力特性と組み合わされたときに、初期位置P0付近においては、圧縮要素13の復元力特性を主として利用することができる。その一方で、変位が一定程度まで大きくなり、圧縮要素13の復元力が低下したときに、この復元力の低下を補償することが容易化される。その結果、例えば、復元力を一定の大きさに維持したり、復元力が負の値になってしまう蓋然性を低減したりすることが容易化される。また、例えば、図4を参照して説明したように、従来技術とは異なり、変位が過大になったときに復元力を増加させて、変位を抑制することができる。
【0128】
第1可動部材(9)は、第1連結部(13a)が第2連結部(13b)よりも第3側(+D1側)へ位置するまで移動可能であってよい。
【0129】
この場合、変位が大きくなったときに、圧縮要素13の復元力は負の値となる。換言すれば、圧縮要素13は、幅広い範囲で復元力を発揮できることになる。その結果、免震システム1の設計の自由度が向上する。
【0130】
静止状態において、第1対象物(例えば免震対象物5)と第1可動部材(9)が第1相対位置(例えば互いに当接する位置)に位置してよい。
【0131】
この場合、例えば、静止状態において免震対象物5と可動部材9とが離れている態様とは異なり、第1対象物が初期位置P0から少しでもずれると(若しくはそれ以前から)復元力を第1可動部材から第1対象物に付与することができる。その結果、例えば、地震の後、免震対象物5を初期位置P0に復帰させることが容易である。
【0132】
免震システム1A(及び1B)は、第1可動部材(9A)及び第1圧縮要素(13A)に加えて、第2可動部材(9B)及び第2圧縮要素(13B)を有してよい。第2可動部材は、第2対象物(例えば支持構造物3)に対して第3移動方向(D1方向)の第5側(+D1側)及び当該第5側の反対側である第6側(-D1側)へ相対移動可能であってよい。第1側(+D1側)と第5側とが同一側になり、第2側(-D1側)と第6側とが同一側になるように、第3移動方向における位置を第1移動方向(第1対象物の移動方向)における位置に仮想的に座標変換したときに、第1対象物(例えば免震対象物5)と第2可動部材との所定の第2相対位置(例えば両者が当接する位置)から第2側(-D1側)への第1対象物の第2可動部材に対する相対移動が規制されるとともに、第2相対位置から第1側(+D1側)への第1対象物の第2可動部材に対する相対移動が許容されてよい。第2圧縮要素は、第2可動部材に連結される第3連結部(11a)と、第2対象物に連結される第4連結部(11b)とを有してよい。第2圧縮要素は、第3連結部と第4連結部とを結ぶ第2力方向(符号省略)において、第3連結部と第4連結部との近接によって増加する、第3連結部と第4連結部とを離反させる復元力を生じてよい。静止状態において、上記第2力方向は、第3移動方向(D1方向)に垂直な方向(D2方向)に対して、第4連結部が第3連結部よりも第6側(-D1側)に位置する向きで傾斜していてよい。
【0133】
すなわち、図5に示したように、免震システム1Aは、D1方向の両側の変位に対して圧縮要素13A及び13Bによって復元力を生じてよい。これにより、免震対象物5の双方向の変位を抑制するという一般的なニーズに応えることができる。
【0134】
なお、以上の実施形態において、免震対象物5及び支持構造物3の組み合わせ、免震部材23及び中間部材25の組み合わせ、及び中間部材25及び支持部材21の組み合わせは、それぞれ、第1対象物及び第2対象物の組み合わせの一例である。
【0135】
D1方向は、第1移動方向、第2移動方向及び第3移動方向それぞれの一例である。+D1側は、第1側、第3側及び第5側それぞれの一例である。-D1側は、第2側、第4側及び第6側それぞれの一例である。図6及び図7の直交座標系xyzと図5の直交座標系D1D2D3との対応関係の説明から明らかなように、x方向及びy方向も第1~第3移動方向の一例である。
【0136】
図1(a)の可動部材9及び図5の可動部材9Aは、それぞれ第1可動部材の一例である。図1(a)の圧縮要素13及び図5の圧縮要素13Aは、それぞれ第1圧縮要素の一例である。図5の可動部材9Bは、第2可動部材の一例である。図5の圧縮要素13Bは、第2圧縮要素の一例である。図6及び図7の直交座標系xyzと図5の直交座標系D1D2D3との対応関係の説明から明らかなように、図6及び図7に示した可動部材9X及び9Y並びに圧縮要素13X及び13Yも、上記の種々の部材及び要素の例である。
【0137】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0138】
例えば、免震システムの復元力特性は、図3の線Ln3又は図4の線Ln5に示したものに限定されない。例えば、図3及び図4の例では、変位が一定程度になって復元力が頭打ちになった後、さらに変位が大きくなると復元力が増加した。ただし、免震対象物の移動可能範囲内において、頭打ちになった復元力は、増加に転じなくてもよい。
【0139】
また、例えば、支持構造物に対して免震対象物が2方向に移動可能とされている免震システムは、図6に示す免震システムとは異なり、中間部材25が不要な構成とされてもよい。例えば、以下のとおりである。
【0140】
支持部材21上(同一平面上)に、支持部材21に対してx方向に移動可能な被案内部材29Xを含むユニット(29Xの他、9X、11X、13X及び27X等)と、支持部材21に対してy方向に移動可能な被案内部材29Yを含むユニット(29Yの他、9Y、11Y、13Y及び27Y等)とを設ける。別の観点では、図6の構成において、被案内部材29Xに係るユニットを、中間部材25上ではなく、支持部材21上に設け、中間部材25を無くす。そして、被案内部材29X及び29Yの上に免震部材23を配置する。図6とは異なり、免震部材23と被案内部材29Xとの間には両者をy方向に相対移動可能に案内する(換言すればx方向の相対移動を規制する)リニアガイドを介在させる。同様に、免震部材23と被案内部材29Yとの間には両者をx方向に相対移動可能に案内する(換言すればy方向の相対移動を規制する)リニアガイドを介在させる。
【0141】
さらに別の例では、支持部材21上(同一平面上)に被案内部材29Xを含むユニット及び被案内部材29Yを含むユニットを設ける。被案内部材29Xは、x方向だけでなく、y方向にも移動可能とする。例えば、被案内部材29Xは、リニアガイド27Xを介してではなく、水平な任意の方向の移動を許容する免震支承を介して支持部材21に支持される。なお、可動部材9Xは、図6と同様に、リニアガイド27Xに案内されることなどによってy方向の移動が規制される。同様に、被案内部材29Yは、y方向だけでなく、x方向にも移動可能とする。免震部材23を、被案内部材29X及び29Yの上に配置し、かつこれらに固定する。被案内部材29X及び可動部材9Xの形状及び寸法は、被案内部材29Xがy方向に移動しても、被案内部材29Xと可動部材9Xとがx方向において係合可能なものとされる。同様に、被案内部材29Y及び可動部材9Yの形状及び寸法は、被案内部材29Yがx方向に移動しても、被案内部材29Yと可動部材9Yとがy方向において係合可能なものとされる。
【符号の説明】
【0142】
1…免震システム、3…支持構造物(第2対象物の一例)、5…免震対象物(第1対象物の一例)、7…アイソレータ、9…可動部材(第1可動部材の一例)、11…引張要素(第1引張要素の一例)、13…圧縮要素(第1圧縮要素の一例)、13a…連結部(第1連結部の一例)、13b…連結部(第2連結部の一例)、15…変位抑制装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7