(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142835
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ルツボ、結晶製造方法、及び単結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
C30B29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049951
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】川崎 克己
(72)【発明者】
【氏名】有馬 潤
(72)【発明者】
【氏名】藤田 実
(72)【発明者】
【氏名】平林 潤
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BB10
4G077EB01
4G077EG01
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】 添加物濃度の均一性の高い単結晶も得ることが可能なルツボ、結晶製造方法、及び、単結晶を提供する。
【解決手段】
このルツボGは、酸化物単結晶の育成に用いられるルツボGであって、厚み方向に沿って積層され接合された複数の酸化物板G1~G10を備え、それぞれの酸化物板G1~G10における添加物の濃度は異なる。結晶製造方法は、ルツボ内の融液の露出表面に種結晶を接触させつつ、露出表面の位置を鉛直方向に沿って移動させることで、酸化物単結晶を育成する。ガリウム酸化物の単結晶において、育成軸方向に沿った添加物の濃度は、好適には、平均値±5%の範囲内とすることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、
添加物を含有する酸化物を含む本体を備え、
前記本体の前記酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、前記複数の領域のうち、第1領域における前記添加物の濃度は、第2領域における前記添加物の濃度よりも高い、
ことを特徴とするルツボ。
【請求項2】
ガリウム酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、
添加物を含有するガリウム酸化物を含む本体を備え、
前記本体の前記ガリウム酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、前記複数の領域のうち、第1領域における前記添加物の濃度は、第2領域における前記添加物の濃度よりも高い、
ことを特徴とするルツボ。
【請求項3】
前記本体に含まれる前記酸化物の材料に対する前記添加物の実効偏析係数keffは1未満であり、
前記第1領域は、前記単結晶の育成初期段階において融解する側に位置する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のルツボ。
【請求項4】
前記複数の領域の数は、3以上であり、各領域内の前記添加物の濃度は、前記1軸に沿って、前記第1領域から離れるほど、減少している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のルツボ。
【請求項5】
前記添加物を構成する金属又は半導体元素の価数が、
前記本体に含まれる前記酸化物を構成する金属元素の価数より大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のルツボ。
【請求項6】
前記添加物は、SnO2及びSiO2からなる群から選択される少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項2に記載のルツボ。
【請求項7】
酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、
厚み方向に沿って積層され接合された複数の酸化物板を備え、
それぞれの前記酸化物板における添加物の濃度は異なる、
ことを特徴とするルツボ。
【請求項8】
それぞれの前記酸化物板は、ガリウム酸化物を含み、
前記添加物は、SnO2及びSiO2からなる群から選択された少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする請求項7に記載のルツボ。
【請求項9】
請求項1、2又は7に記載のルツボを用い、
前記ルツボ内の融液の露出表面に種結晶を接触させつつ、前記露出表面の位置を鉛直方向に沿って移動させることで、前記酸化物単結晶を育成する工程を含む、
ことを特徴とする結晶製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の結晶製造方法により製造されたことを特徴とする単結晶。
【請求項11】
添加物としてSn又はSiが添加されたインゴットからなるガリウム酸化物の単結晶であって、育成軸方向に沿った添加物の濃度が、この添加物の濃度の平均値±5%の範囲内にある、
ことを特徴とする単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ルツボ、結晶製造方法、及び単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、白金(Pt)又はイリジウム(Ir)等の金属からなるルツボを開示している。このルツボは、チョクラルスキー(CZ)法に用いられる。CZ法では、ロッドの先端に固定した種結晶を、融液に接触させた後、回転させながら、ゆっくりと引っ張ることにより、単結晶を育成する。
【0003】
特許文献2は、イリジウム製のルツボ内に含まれる融液から、酸化ガリウム(β-Ga2O3)単結晶を育成する方法を開示している。
【0004】
特許文献3は、酸化ガリウム製のルツボを開示している。このルツボは、酸化ガリウム単結晶の育成に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6997986号明細書
【特許文献2】米国特許第11028501号明細書
【特許文献3】特許第6390568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者らが、鋭意検討を行ったところ、酸化物単結晶内の添加物濃度が不均一になる場合を発見した。添加物濃度の均一性が高い単結晶を得ることも可能なルツボ、結晶製造方法、及び、単結晶が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のルツボは、酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、添加物を含有する酸化物を含む本体を備え、前記本体の前記酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、前記複数の領域のうち、第1領域における前記添加物の濃度は、第2領域における前記添加物の濃度よりも高いことを特徴とする。
【0008】
本開示のルツボは、ガリウム酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、添加物を含有するガリウム酸化物を含む本体を備え、前記本体の前記ガリウム酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、前記複数の領域のうち、第1領域における前記添加物の濃度は、第2領域における前記添加物の濃度よりも高いことを特徴とする。
【0009】
本開示のルツボは、酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、厚み方向に沿って積層され接合された複数の酸化物板を備え、それぞれの前記酸化物板における添加物の濃度は異なることを特徴とする。
【0010】
本開示の結晶製造方法は、上記ルツボを用い、ルツボ内の融液の露出表面に種結晶を接触させつつ、前記露出表面の位置を鉛直方向に沿って移動させることで、前記酸化物単結晶を育成する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
本開示の単結晶は、上記結晶製造方法により製造されたものである。本開示の単結晶は、添加物としてSn又はSiが添加されたインゴットからなるガリウム酸化物の単結晶であって、育成軸方向に沿った添加物の濃度が、この添加物の濃度の平均値±5%の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示のルツボ、結晶製造方法によれば、添加物濃度の均一性の高い単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図3は、ルツボにおける位置Zと添加物濃度Cとの関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ルツボにおける位置Zと、Snの濃度C(Sn)との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、インゴットからなる単結晶の斜視図である。
【
図9】
図9は、単結晶における位置Zと、Snの濃度C(Sn)との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、ルツボにおける位置Zと、Siの濃度C(Si)との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、単結晶における位置Zと、Siの濃度C(Si)との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、ルツボにおける位置Zと添加物濃度Cとの関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、ルツボにおける位置Zと添加物濃度Cとの関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、固化率gとC
g/C
0との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して種々の例示的実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において、同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附することとし、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、ルツボGの斜視図である。ルツボGは、酸化物単結晶の育成に用いられる。ルツボGの頂面GTの中央部には、凹部4が形成されている。結晶育成期間内においては、凹部4内には、融液が保持され、融液の露出表面上に種結晶が接触する。ルツボGは、厚み方向に沿って積層され、接合された複数の酸化物板G1~G10を備え、酸化物からなる本体を構成している。本体の形状は円柱状である。ルツボGに用いられる酸化物板の数は、2個以上であるが、同図においては、10個の場合が例示される。
【0016】
酸化物板G1~G10の積層方向(厚み方向)をZ軸とする。Z軸に直交する軸をX軸とし、X軸及びZ軸の双方に直交する軸をY軸とする。同図には、XYZ三次元直交座標系が示される。ルツボGの頂面GTは、XY平面に平行である。ルツボGの頂面GTを含むXY平面内において、Z軸方向から見た凹部4の中心位置を、XYZ三次元直交座標系の原点(0,0,0)とする。Z軸の正方向は、この原点から下方に延びる方向に設定する。
【0017】
ルツボGは、製造しようとする単結晶の原材料にもなる。凹部4の内面を構成する固体材料が融解すると、液相の融液に変化する。融液は、育成対象の単結晶の原材料として、用いられる。
【0018】
それぞれの酸化物板G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9、G10における添加物の濃度は異なる。換言すれば、ルツボGの部位により添加物濃度が異なる。酸化物板G1~G10における添加物の濃度を、それぞれC(G1)~C(G10)とする。一例として、これらの濃度は、C(G1)>C(G2)>C(G3)>C(G4)>C(G5)>C(G6)>C(G7)>C(G8)>C(G9)>C(G10)の関係を満たしている。結晶育成においては、個々の酸化物板G1~G10における添加物の濃度を、独立に制御することができるので、設計の自由度が高くなり、最終的に育成されるインゴットの単結晶内の添加物濃度分布を制御することができる。
【0019】
本例におけるそれぞれの酸化物板G1~G10の材料は金属酸化物(例:ガリウム酸化物(Ga2O3))であり、金属酸化物への添加物は、この金属酸化物を構成する金属以外の元素の酸化物(例:SnO2又はSiO2)である。なお、これらの材料以外であっても、最終的に育成されるインゴット(単結晶)内の添加物濃度分布は、複数の酸化物板の積層により、制御することができる。
【0020】
このような観点から、酸化物板G1~G10の材料として、ガリウム酸化物以外に、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、ジルコニア(ZrO2)、及び、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)からなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。酸化物板G1~G10内の添加物の材料として、例えば、SnO2又はSiO2からなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。その他、添加物として、TiO2なども考えられる。
【0021】
なお、Ga2O3は、α、β、γ、δ、ε、κ等の結晶構造を有している。これらの結晶構造において、β-Ga2O3は、単斜晶系のβ相を有する結晶構造を有しており、約4.8eVのエネルギーバンドギャップを有する。β-Ga2O3の融点は、約1800℃である。本形態では、好適なガリウム酸化物として、β-Ga2O3が例示される。
【0022】
なお、インゴット内の添加物(例:Sn)は、酸化物板内の添加物(例:SnO2)に含まれる特定の元素(例:Sn)である。この特定の元素(例:Sn)自体も、酸化物板内の添加物である。したがって、複数の酸化物板における、特定の元素(例:Sn)の濃度の関係は、上述の添加物(SnO2)の濃度の関係と、同一である。各酸化物板内の添加物濃度の相対関係に着目すると、添加物の濃度は、モル濃度、質量パーセント濃度、又は原子パーセント濃度のいずれであってもよい。特に、説明がない場合は、添加物の濃度は、質量パーセント濃度を示している。
【0023】
図2は、ルツボGの分解斜視図である。ルツボGは、複数の酸化物板G1~G10を積層した後、高温で焼結することで、これらを接合して、形成される。同図は、焼結前の酸化物板G1~G10を示している。
【0024】
ルツボGの製造方法は、以下の通りである。例示的な材料として、ルツボGの主原料S1をガリウム酸化物(Ga2O3)、添加物S2をSnO2とする。まず、粉体からなる主原料S1と、粉体からなる添加物S2とを用意する。次に、主原料S1の粉末に、添加物S2の粉末を加えた後、ボールミル等を用いた混合方法により、これらを混ぜ合わせ、混合粉末を得る。混合粉末をゴムラバーの中に充填し、薄い円盤状に形を整えてから、冷間等方圧加圧(CIP)等の方法により、押し固める。これにより、酸化物板G1~G10(円盤状の加圧体)を形成することができる。添加物S2の混合比は、酸化物板G1~G10毎に異ならせる。個々の酸化物板G1~G10は、ガリウム酸化物の粉末を圧縮成型したものであり、ガリウム酸化物の多結晶体である。加圧時の圧力は、約1000kg/cm2(98MPa)であり、好適には、個々の酸化物板G1~G10は、約1300℃で焼結される。なお、個々の酸化物板G1~G10の厚みは、同一であってもよいが、異ならせることもできる。本形態では、酸化物板G1~G10の厚みは、同一であるとする。
【0025】
次に、添加物濃度の異なる酸化物板G1~G10を、添加物濃度の順番に重ね合わせ、積層して、加熱装置より、混合粉末が焼結反応を起こす温度まで加熱し、酸化物板G1~G10を接合して、一体化させる。加熱装置としては、電気炉等の手段を用いることができる。例示的な焼結温度は、1700℃である。添加物濃度を制御するため、焼結温度は、主原料S1の融点(1800℃)よりも低く設定される。
【0026】
ルツボGの凹部4は、結晶製造装置内にルツボGを配置した後で、頂面の中央部を赤外線等により加熱することにより、形成することができる。ルツボGの凹部4は、頂面の中央部を機械的に加工することよっても、形成することができる。ルツボGの凹部4は、焼結前に、第1番目の酸化物板G1の上部表面を機械的に加工しておくとこにより、形成することもできる。凹部4が形成されると、ルツボGは、凹部4内に融液を保持することができる。
【0027】
図3は、ルツボGにおける位置Zと添加物濃度Cとの関係を示すグラフである。添加物濃度Cは、ルツボGの頂面GT(Z軸方向の位置:Z=0(Z0とする))から離れるに従って、階段状に減少している。凹部4の形成前の状態において、頂面GTから第1位置Z1に至るまでの第1領域おける添加物濃度は、第1濃度C1である。第1位置Z1から第2位置Z2に至るまでの第2領域おける添加物濃度は、第2濃度C2である。同様に、(N)を自然数として、位置Z(N-1)から位置Z(N)に至るまでの領域おける添加物濃度は、濃度C(N)である。
【0028】
ルツボGのZ軸方向に沿って、個々の酸化物板に対応する(N)個の領域を設定した場合、個々の領域の上端位置をZ(N-1)、下端位置をZ(N)とした場合、各領域内の添加物濃度C(N)は、Nが2以上の整数の場合、C(N-1)>C(N)を満たしている。
【0029】
本実施形態のルツボGによれば、以下の作用効果を得ることができる。ルツボGを結晶製造中に徐々に融解させ、融解する場所を連続的に移動させる。ルツボGの部位による添加物濃度が異なるため、融液に融け込む添加物の量も変化する。ルツボG内の添加物濃度分布は、ルツボG作製時の積層物の形状、添加物の混合比等により自由に選択できるため、本来、添加物の偏析により生じるインゴット(単結晶)内の不均一な分布を打ち消すように、添加量を制御することも可能であり、インゴット内の添加物濃度を均一にすることが可能となる。
【0030】
図4は、結晶製造装置を示す図である。結晶製造装置は、外部フレーム20内の下部に配置された支持体12を備えている。支持体12上には、ルツボ台2が配置され支持されている。ルツボ台2内には、ルツボGが配置される。ルツボ台2の内面は、ルツボGの外周面に接触している。ルツボGの周囲には、高周波コイル3が配置されている。ルツボGの頂面上には凹部4が設けられ、凹部4内に保持された融液の露出表面に、種結晶7の下端が接触する。凹部4自体、或いは、凹部4内の融液は、赤外線加熱源13から出射された赤外線IRによる加熱により、形成することができる。
【0031】
種結晶7は、種結晶ホルダ10により保持され、種結晶ホルダ10は、支持ロッド11の下端に固定されている。支持ロッド11の上端は、第1駆動機構D1に係合しており、第1駆動機構D1は、支持ロッド11をZ軸に沿って上下移動させることができる。第1駆動機構D1は、支持ロッド11をZ軸周りに回転させる構造であってもよい。第1駆動機構D1は、第1モータM1によって駆動される。
【0032】
高周波コイル3の下端は、支持機構によって支持され、第2駆動機構D2は、この支持機構に係合し、支持機構をZ軸に沿って上下移動させることができる。第2駆動機構D2は、第2モータM2によって駆動される。
【0033】
結晶製造装置の各要素は、コントローラ14によって、制御される。コントローラ14は、第1モータM1に電力を供給する駆動電源15に接続されている。コントローラ14は、第1モータM1に接続され、第1モータM1に回転制御信号を出力する。コントローラ14は、第2モータM2に接続され、第2モータM2に回転制御信号を出力する。コントローラ14は、赤外線加熱用電源16に接続され、赤外線加熱用電源16から出力された電力は、赤外線加熱源13に供給される。コントローラ14は、高周波(RF)電源17に接続され、RF電源17から出力された電力は、高周波コイル3に供給される。
【0034】
ルツボGはルツボ台2内に設置されている。ソレノイド型の高周波コイル3は、ルツボ台2の周囲に配置されている。ルツボGの頂面中央の凹部4は、加熱初期段階において、融液6を保持することができる。ルツボGの凹部4内において、融液6を生成するために、赤外線加熱源13から出射された赤外線IRを、凹部4内に照射することができる。高周波コイル3から発生した磁束密度B(磁束)が、融液及び凹部4の内面を通ると、渦電流による誘導加熱が生じ、ルツボ材料が融解する。
【0035】
ルツボ台2は、ルツボGの外壁面を冷却する機能を有する冷却装置である。ルツボ台2は、冷却媒体5が流れる流路を有している。冷却媒体5は、冷却ポンプ18によって循環させられる。本例の冷却媒体5は、水である。冷却媒体5には、様々な材料がある。重水、二酸化炭素、ヘリウム、金属ナトリウム、ナトリウムカリウム合金、水銀、空気などの冷却媒体も知られている。
【0036】
図5は、ルツボGの周辺の構造を示す図である。上述のように、ルツボGは、ルツボ台2(
図4参照)内に収容されている。ルツボ台2の構造として、複数の構造が考えられる。同図に示す例示的なルツボ台は、複数の冷却管2A、2B、2Cを備えている。個々の冷却管2A、2B、2Cの形状はU字型であり、これらの冷却管2A、2B、2Cは、ルツボGの周囲を囲むように配置されている。冷却媒体5は、冷却管2A、2B、2C内を流れる。個々のU字型の冷却管2A、2B、2Cは、下部に冷却媒体導入口が配置され、冷却媒体導入口から上方に延び、上端でUターンして折れ曲がり、下方に延びて、下部の冷却媒体排出口に至る。冷却管2A、2B、2Cの材料は、熱伝導性の高い金属であることが好ましく、本例の場合、銅(Cu)からなる。同図は断面構造を示しているため、同図に示される冷却管の数は3個であるが、実際には、3個以上(例えば、8個)である。
【0037】
コイルによる磁束密度B(磁束)に誘導された渦電流が発生しないように、冷却管2A、2B、2C間は、絶縁されている。高周波コイル3から発生する磁束密度B(磁束)の向きは、凹部4内の最深部の底面に、ほぼ垂直(例:80度から100度)になるように設定する。融液が生成された場合、磁束密度B(磁束)の向きは、融液の露出表面(種結晶との間の界面)に対して、ほぼ垂直(例:80度から100度)になるように設定することもできる。
【0038】
冷却管2A、2B、2Cは、ルツボGの外周面に密着している。ルツボGの底面は、例えば、当該底面に当接するストッパSA、SB、SCによって支持される。ストッパSA、SB、SCの材料は、耐熱性の高い絶縁体の他、冷却される場合は銅などの導体であってもよく、冷却管2A、2B、2Cに固定することもできる。
【0039】
結晶製造の初期段階において、赤外線加熱源13(
図4参照)から出射された赤外線IRは、凹部4の内面に照射され、凹部4の表面が融解し、融液が生成される。ルツボGが単なる円柱形状の酸化物体からなり、凹部4を備えていない場合おいて、初期の凹部4を、赤外線IRの照射によって、形成してもよい。凹部4が形成されることにより、ルツボGは、融液を凹部4の内部に保持できる構造となる。
【0040】
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)、
図6(D)、
図6(E)、
図6(F)は、結晶製造方法を説明するための図である。結晶製造には、
図4に示した結晶製造装置が用いられ、格段の説明がない場合は、コントローラ14からの指示によって、対象の要素が制御される。
【0041】
図6(A)に示す加熱初期段階では、ルツボGの上面を、上述の赤外線加熱源13(
図4参照)(加熱装置)等を用いて、局所的に加熱し、融液6を生成する。予めルツボGの上面中央に凹部4を設け、融液6の保持位置を安定させてもよい。酸化物(例:Ga
2O
3)を構成する金属元素(例:Ga)と、添加物を構成する金属元素(例:Sn)又は半導体元素(例:Si)の価数(イオン価)は異なる。ルツボGを構成する混合体は、融液状態で導電性を発現する。ここに高周波コイル3により、高周波磁界(磁束密度B)が印加されると、導電性の融体は、誘導加熱されジュール熱を発生する。高周波コイル3に印加する電力量を増加することで、ルツボGの融解が進行する。
【0042】
図6(B)に示すように、ルツボGの上面の凹部4内に融液6が生成された後、種結晶7を上方から下降させ、種結晶7の下端を融液6の液面に接触させ、融液6と種結晶7が共存するように高周波コイル3に印加する電力量を調整し、温度が安定するのを待つ。
【0043】
図6(C)に示すように、温度が安定した後、種結晶7を徐々に上方に移動させることで、種結晶7の下端に、育成結晶8が析出する。種結晶7は、
図4に示した第1駆動機構D1を第1モータM1で駆動することにより、移動させることができ、移動速度及び移動量は、コントローラ14から第1モータM1に出力される制御信号により、制御することができる。
【0044】
図6(D)~
図6(F)に示すように、高周波コイル3に印加する電力量を調整して、結晶成長に必要な融液6の液量を確保しつつ、高周波コイル3を徐々に下方に移動させると、育成結晶8が徐々に大きくなる。高周波コイル3は、
図4に示した第2駆動機構D2を第2モータM2で駆動することにより、移動させることができ、移動速度及び移動量は、コントローラ14から第2モータM2に出力される制御信号により、制御することができる。なお、ルツボGに対する高周波コイル3の相対位置を徐々に下方に移動していけば、ルツボG内に保持されている融液6の位置も、これらの図に示されるように、下がっていく。
【0045】
ルツボG内のZ軸方向の添加物濃度が異なる場合、融液6の位置により、ルツボGから供給される添加物の量も変化する。ルツボGから融液6内に供給される添加物の量が一定の場合、育成結晶8(インゴットの単結晶)内に取り込まれる添加物量が変化する。すなわち、育成結晶8の材料(換言すれば、ルツボGの本体の材料)に対する添加物の実効偏析係数keffが1未満であれば、偏析現象により、育成結晶8内の育成初期の添加物濃度が低く、成長につれ添加物濃度が高くなる。要するに、実効偏析係数keffが1未満である場合、融液6内に含まれる添加物の一部分のみが、育成結晶8内に取り込まれるため、取り込まれなかった添加物が融液6内に残留し、成長とともに、融液6内の添加物濃度が増加する。融液6内の添加物濃度が増加すれば、成長後期の段階において、育成結晶8内の添加物濃度が増加する。
【0046】
これに対し、
図3に示したような添加物濃度分布のように、予め、ルツボG内の添加物濃度を、上方が高く、下方が低くなるように分布させておけば、結晶成長が進行するに従い、ルツボGから供給される添加物の量が減少し、添加物の偏析を抑制することが可能となる。
【0047】
(実施例1)
まず、実施例1について説明する。上述の結晶製造方法を用いて、インゴット(単結晶)を製造した。最初に、純度4Nの酸化ガリウム(Ga2O3)粉末に対して、純度4Nの酸化スズ(SnO2)粉末を秤量して添加し、ボールミルにて混合した。混合粉末をゴムラバー内に充填して円盤状に形を整えた後、冷間等方圧加圧(CIP)装置を用いて、直径約100mm、厚さ約10mmの形状の酸化物板(試料)を作製した。加圧時の圧力は約1000kg/cm2(98MPa)である。10枚の酸化物板は、酸化スズの添加量が異なる。各酸化物板は、約1300℃で、仮の焼結を行った。10個の酸化物板G1~G10に関して、主原料の酸化ガリウムの質量に対する、添加物(酸化スズ)の質量の比率は、G1:0.71%、G2:0.66%、G3:0.60%、G4:0.54%、G5:0.48%、G6:0.42%、G7:0.34%、G8:0.27%、G9:0.18%、G10:0.08%である。
【0048】
積み上げた酸化物板は、電気炉にて、1気圧の大気中、約1700℃の温度で20時間加熱し、焼結により一体化し、本例では、凹部の無いルツボを製造した。ルツボを構成する酸化ガリウムは多結晶である。
【0049】
単結晶の育成期間内において、種結晶の引き上げ速度VUPは5(mm/h)であり、高周波コイル3の下降速度VDOWNは2(mm/h)である。また、種結晶のZ軸周りの回転速度VROTは、50rpmである。好適な一例として、本例の製造方法では、高周波コイル3からの誘導加熱により、融解可能な金属酸化物からなるルツボGの周囲に、高周波コイル3を配置し、高周波コイル3に高周波電力を供給して、ルツボGの上面に設けられた凹部を融解しつつ、ルツボGの凹部内の融液の露出表面に種結晶を接触させ、種結晶を引き上げ速度VUPで引き上げながら、高周波コイル3を下降速度VDOWNで下降させ、酸化物単結晶を育成する工程を含んでおり、VUP>VDOWNに設定されており、良質な酸化物単結晶、特に、ガリウム酸化物単結晶を製造することができる。
【0050】
(比較例1)
比較例1においては、全ての酸化物板における酸化スズ(SnO2)の濃度が同一となるようにした。酸化物板G1~G10に関して、主原料の酸化ガリウムの質量に対する、添加物(酸化スズ)の質量の比率は0.43%である。比較例1における酸化スズの濃度は、実施例1における酸化スズの濃度の平均値に設定した。比較例1は、この点を除いて、実施例1と同一であり、凹部の無いルツボを製造した。ルツボを構成する酸化ガリウムは多結晶である。
【0051】
図7は、ルツボGにおける位置Zと、Snの濃度C(Sn)との関係を示すグラフである。同図は、一体化の焼結前のルツボG内添加物濃度分布を示しているが、焼結後の添加物分布も、分布の概略形状は、同様である。また、添加物(SnO
2)の濃度分布は、これに含まれる特定元素としての添加物(Sn)の濃度分布と同じである。N個(N=10)の酸化物板について、上から順番にN=1,2,3・・・10の番号をつけ、それぞれの酸化物板の下面の位置がZNとなる。それぞれの酸化物板の厚みは10mmであるから、Z1=10mm、Z(N)-Z(N-1)=10mm(Nは2以上の整数)である。このグラフでは、濃度C(Sn)は、平均値で正規化した任意単位で示されている。
【0052】
このグラフにおける実施例1のデータの値は、以下の通りである。
【0053】
(Z1,C1)=(10mm,1.676)
(Z2,C2)=(20mm,1.537)
(Z3,C3)=(30mm,1.397)
(Z4,C4)=(40mm,1.257)
(Z5,C5)=(50mm,1.117)
(Z6,C6)=(60mm,0.978)
(Z7,C7)=(70mm,0.791)
(Z8,C8)=(80mm,0.628)
(Z9,C9)=(90mm,0.428)
(Z10,C10)=(100mm,0.186)
【0054】
なお、比較例1の濃度C(Sn)の値は、位置Zによらず一定であり、濃度平均値CS=1である。
【0055】
図8は、インゴットからなる育成結晶(単結晶)の斜視図である。育成の初期状態において、種結晶との間の初期界面8Tの位置は、Z=0であり、育成時間の経過に伴って、結晶がZ軸の正方向に沿って延びていくものとする。同図では、模式的にインゴットの直径がZ軸方向に沿って一定であるものを示しているが、実際には、上部の直径は、種結晶の直径に依存する。製造されたインゴットをZ軸方向に直交する面(XY面)に沿って切断し、12等分して平板試料を作製し、平板試料の上面におけるSnの濃度C(Sn)を計測した。切断には、マルチワイヤーソーを用いることができる。添加物濃度は、レーザーアブレーションICP質量分析(Laser Ablation Inductively Coupled Plasma MassSpectrometry:LA-ICP-MS)法による発光分析により測定した。混合粉体の場合、加圧成型前にサンプリングした約1gの粉体を測定した。単結晶の場合、上記平板試料の中央部の1箇所と外周近傍の4箇所の位置で測定し、平均値を代表値とした。
【0056】
(添加物濃度分布の評価)
図9は、育成された単結晶における位置Zと、Snの濃度C(Sn)との関係を示すグラフである。このグラフでは、濃度C(Sn)は、平均値で正規化した任意単位で示されている。実施例1における濃度C(Sn)は、Z軸方向に沿って、ほぼ一定であった。平均値を100%とした場合、添加物濃度の最大値は104%、最小値は97.5%であった。最大値104%から1%程度の誤差を許容しても、育成軸(Z軸)方向に沿った添加物の濃度は、この添加物の濃度の平均値±5%の範囲内にあり、バラつきが少ない。比較例1における濃度C(Sn)は、Z軸の正方向に沿って、増加した。
【0057】
なお、同グラフでは、位置Zは、インゴットの直径が一定であると仮定した場合の位置Zを任意定数で示している。実際には、この位置Zは、固化率(融液から単結晶を育成した場合における、全原料の質量(あるいはルツボ全体の質量)と、単結晶になった質量の比)を示している。
【0058】
実施例1における位置Z(固化率)と濃度Cのデータは、(Z,C)=(0,1)、(0.045,1.04)、(0.093,0.995)、(0.15,1.005)、(0.2,0.985)、(0.25,0.99)、(0.3,0.98)、(0.35,0.975)、(0.4,0.985)、(0.44,0.99)、(0.48,1.01)、(0.52,1.005)である。
【0059】
比較例1における位置Z(固化率)と濃度Cのデータは、(Z,C)=(0,0.27)、(0.04,0.278)、(0.09,0.289)、(0.14,0.301)、(0.21,0.320)、(0.26,0.336)、(0.31,0.354)、(0.36,0.373)、(0.41,0.396)、(0.45,0.417)、(0.49,0.441)、(0.53,0.468)である。
【0060】
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。実施例2においては、添加物として、実施例1の酸化スズ(SnO2)の粉末の代わりに、純度4Nの二酸化ケイ素(SiO2)(ケイ素酸化物)を粉末を用いた。10個の酸化物板G1~G10に関して、主原料の酸化ガリウムの質量に対する、添加物(二酸化ケイ素)の質量の比率は、G1:0.27%、G2:0.25%、G3:0.23%、G4:0.21%、G5:0.19%、G6:0.17%、G7:0.14%、G8:0.11%、G9:0.08%、G10:0.03%である。実施例2は、この点を除いて、実施例1と同一であり、凹部の無いルツボを製造した。ルツボを構成する酸化ガリウムは多結晶である。
【0061】
(比較例2)
比較例2においては、全ての酸化物板における二酸化ケイ素(SiO2)の濃度が同一となるようにした。酸化物板G1~G10に関して、主原料の酸化ガリウムの質量に対する、添加物(二酸化ケイ素)の質量の比率は0.17%である。比較例2における二酸化ケイ素の濃度は、実施例2における二酸化ケイ素の濃度の平均値に設定した。比較例2は、この点を除いて、実施例2と同一であり、凹部の無いルツボを製造した。添加物濃度分布は、実施例1、比較例1と同様の方法で測定できる。ルツボを構成する酸化ガリウムは多結晶である。
【0062】
図10は、ルツボGにおける位置Zと、Siの濃度C(Si)との関係を示すグラフである。同図は、一体化の焼結前のルツボG内添加物濃度分布を示しているが、焼結後の添加物濃度分布も、分布の概略形状は、同様である。また、添加物(SiO
2)の濃度分布は、これに含まれる特定元素としての添加物(Si)の濃度分布と同じである。N個(N=10)の酸化物板について、上から順番にN=1,2,3・・・10の番号をつけ、それぞれの酸化物板の下面の位置がZNとなる。それぞれの酸化物板の厚みは10mmであるから、Z1=10mm、Z(N)-Z(N-1)=10mm(Nは2以上の整数)である。このグラフでは、濃度C(Sn)は、平均値で正規化した任意単位で示されている。
【0063】
このグラフにおける実施例2のデータの値は、以下の通りである。
【0064】
(Z1,C1)=(10mm,1.597)
(Z2,C2)=(20mm,1.487)
(Z3,C3)=(30mm,1.371)
(Z4,C4)=(40mm,1.250)
(Z5,C5)=(50mm,1.122)
(Z6,C6)=(60mm,0.983)
(Z7,C7)=(70mm,0.833)
(Z8,C8)=(80mm,0.671)
(Z9,C9)=(90mm,0.480)
(Z10,C10)=(100mm,0.202)
なお、比較例2の濃度C(Si)の値は、位置Zによらず一定であり、濃度平均値CS=1である。
【0065】
実施例2,比較例2においても、実施例1,比較例1と同様に、製造されたインゴットをZ軸方向に直交する面(XY面)に沿って切断し、12等分して平板試料を作製し、実施例1と同様に、平板試料の上面におけるSiの濃度C(Si)を計測した。
【0066】
(添加物濃度分布の評価)
図11は、単結晶における位置Zと、Siの濃度C(Si)との関係を示すグラフである。このグラフでは、濃度C(Si)は、平均値で正規化した任意単位で示されている。実施例2における濃度C(Si)は、Z軸方向に沿って、ほぼ一定であった。平均値を100%とした場合、添加物濃度の最大値は101%、最小値は97%であった。最小値97%から1%程度の誤差を許容しても、育成軸(Z軸)方向に沿った添加物の濃度は、この添加物の濃度の平均値±4%の範囲内にある。少なくとも、育成軸(Z軸)方向に沿った添加物の濃度は、この添加物の濃度の平均値±5%の範囲内にあり、バラつきが抑制されている。比較例2における濃度C(Si)は、Z軸の正方向に沿って、増加した。
【0067】
なお、同グラフでは、位置Zは、インゴットの直径が一定であると仮定した場合の位置Zを任意定数で示している。実際には、この位置Zは、固化率を示している。
【0068】
実施例2における位置Z(固化率)と濃度Cのデータは、(Z,C)=(0,1)、(0.03,0.985)、(0.07,1.01)、(0.12,1.01)、(0.18,0.97)、(0.23,1.01)、(0.28,1.01)、(0.33,1)、(0.38,0.99)、(0.42,1.01)、(0.46,0.99)、(0.5,0.99)である。
【0069】
比較例1における位置Z(固化率)と濃度Cのデータは、(Z,C)=(0,0.35)、(0.04,0.359)、(0.08,0.369)、(0.13,0.38)、(0.19,0.401)、(0.24,0.418)、(0.29,0.43)、(0.34,0.458)、(0.4,0.487)、(0.44,0.510)、(0.47,0.528)、(0.51,0.556)である。
【0070】
以上、説明したように、上述のルツボは、酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、添加物を含有する酸化物を含む本体を備え、本体の酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、複数の領域のうち、第1領域における添加物の濃度は、第2領域における添加物の濃度よりも高い。このルツボを用いた場合、1軸(Z軸)方向に沿って、均一な添加物濃度分布を有する酸化物単結晶を製造することができる。
【0071】
本開示の構造は、様々な変形が可能である。また、必要に応じて、実施形態に開示された要素の省略、置換及び/又は変更をしてもよい。例えば、ルツボの製造に用いられる酸化物板の数を2枚とするなどの変形が可能である。
【0072】
図12は、ルツボにおける位置Zと添加物の濃度Cとの関係を示すグラフである。ルツボには、Z軸方向に沿って、2つの領域が設定されており、表面側の第1領域の添加物濃度が高く設定されている。位置0から第1位置Z1までの第1領域における添加物の第1濃度C1は、第1位置Z1から第2位置Z2までの第2領域における添加物の第2濃度C2よりも高い。ルツボ内に設定される領域数は、上述のように、2以上であってもよい。すなわち、実施例1、実施例2等においては、ルツボに設定される複数の領域の数は、3以上であり、各領域内の添加物の濃度は、1軸(=Z軸)に沿って、第1領域から離れるほど、減少している。ルツボに設定される複数の領域の数が増加するほど、精密な添加物濃度分布制御が可能となるため、その数は、3以上であることが好ましく、N以上(N=4,5,6,7,8,9,10)であることが更に好ましい。この数(N個)の好適な上限は、製造コストの観点から、例えば、50個以下に設定することができる。
【0073】
上述のルツボが、ガリウム酸化物単結晶の育成に用いられるルツボの場合、ルツボは、添加物を含有するガリウム酸化物を含む本体を備え、本体のガリウム酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、複数の領域のうち、第1領域における添加物の濃度は、第2領域における添加物の濃度よりも高い。このルツボを用いた場合、1軸(Z軸)方向に沿って、均一な添加物濃度分布を有するガリウム酸化物単結晶を製造することができる。上述のルツボにおいて、添加物は、SnO2及びSiO2からなる群から選択される少なくとも1つを含む。これらの添加物は、その金属元素又は半導体元素が単結晶内に取り込まれた場合、単結晶のインゴット内において、N型の不純物として、機能することができる。
【0074】
酸化物の材料に拘らず、添加物をN型として機能させるためには、上述のルツボにおいて、添加物を構成する金属元素又は半導体元素(例:Sn又はSi)の価数(イオン化:4価)が、ルツボの本体に含まれる酸化物(例:Ga2O3)を構成する金属元素(Ga:3価)の価数より大きく設定する。上述のルツボにおいては、好適例においては、それぞれの酸化物板は、ガリウム酸化物を含み、添加物は、SnO2及びSiO2からなる群から選択された少なくとも1つを含んでいる。SnO2のみを含む場合、SiO2のみを含む場合、SnO2及びSiO2の双方を含む場合が考えられる。
【0075】
また、例示的に
図1~
図3に示したように、上述のルツボは、酸化物単結晶の育成に用いられるルツボであって、厚み方向(Z軸方向)に沿って積層され接合された複数の酸化物板G1~G2を備え、それぞれの酸化物板における添加物の濃度は異なっている。濃度が異なるので、自由な設計ができ、添加物均一性の高い単結晶も得ることができる。
【0076】
図13は、ルツボにおける位置Zと添加物濃度Cとの関係を示すグラフである。ルツボには、Z軸方向に沿って、2以上の連続した領域が設定されており、表面側の第1領域の添加物濃度が高く設定されている。位置0から表面側の適当な位置までの第1領域における添加物の第1濃度C1は、この位置から、更に深い位置までの第2領域における添加物の第2濃度C2よりも高い。ルツボの頂面における最大値の濃度C
maxは、位置Zが大きくなるにしたがって減少しており、ルツボの底面の位置Z
maxにおいては、最小値の濃度C
minとなる。このような濃度分布の場合においても、上述の効果を奏することができる。
【0077】
上述の結晶製造方法は、上述のルツボを用い、ルツボ内の融液の露出表面に種結晶を接触させつつ、露出表面の位置を鉛直方向に沿って移動させることで、酸化物単結晶を育成する工程を含んでいる。上述のルツボを用いた場合、Z軸方向に沿って、均一な添加物濃度分布を有する単結晶を製造することができる。
【0078】
育成された単結晶は、上述の結晶製造方法により製造されたものである。なお、本形態の数値は、少なくとも±20%の誤差を含んでも、同様の効果を奏する。
【0079】
このような単結晶は、添加物としてSn又はSiが添加されたインゴットからなるガリウム酸化物の単結晶であって、育成軸方向(Z軸方向)に沿った添加物の濃度が、この添加物の濃度の平均値±5%の範囲内にある。この平均値は、インゴット全体に分布する添加物の濃度の平均値である。上記では、インゴットを育成軸に垂直な方向に沿って切断して、複数の平板試料を形成し、平板試料の中央部の1箇所と、外周近傍の4箇所の位置において、添加物濃度を測定し、これら5点のデータの平均値を、1個の平板試料における添加物濃度とした。インゴットにおける添加物濃度の平均値は、N個の平板試料の添加物濃度を加算し、加算値をN個で除算して、求めることができる。
【0080】
図14は、固化率gとC
g/C
0との関係を示すグラフである。同グラフは、一定量の融液を用意し、その融液が徐々に固化していく場合における規格化した濃度C
g/C
0を示している。濃度C
gは結晶(インゴット固体)中の添加物の濃度を示し、C
0は融液中の初期濃度を示す。固化率gが0~1の区間において、添加物の濃度C
gを定積分すれば、その値はC
0になる。なお、C
g=C
0×k
eff×(1-g)
keff-1である。
【0081】
比較例1,2のように、ルツボ内の添加物濃度が一定の場合で、且つ、例えば、実効偏析係数keff=0.3の場合、成長したインゴット結晶内には、あまり添加物が取り込まれないで、融液中添加物濃度は、融液の消費(インゴット固化率g、ルツボ内の位置Zに比例)に伴って、徐々に増加し、同様に、固体中添加物濃度Cgも、徐々に増加する。予め限られた量の融液が用意された場合、インゴット固体中に取り込まれなかった添加物は、成長後期において、濃縮される。焼結前のルツボ内の添加物は、実効偏析係数keffの偏析分布の逆数に比例した濃度分布にすることで、同グラフに示すような偏析を相殺することができる。
【0082】
また、上述のルツボにおいて、酸化物が、ガリウム酸化物の場合ように、本体に含まれる酸化物の材料に対する添加物の実効偏析係数keffが1未満である場合、第1領域は、単結晶の育成初期段階において融解する側に位置する。
【0083】
以下、実効偏析係数keffについて、補足説明を行う。結晶を構成する元素と添加物の元素の価数や大きさ(イオン半径)が異なる場合、融液から固化する際に結晶内への取り込まれ易さが異なる。融液中の添加物濃度に対する、育成対象の結晶中の添加物濃度の比率を偏析係数kとする。偏析係数kは一般的に1と異なる値を示す。偏析係数kは、平衡状態における値を示しているので、実際に、動的に結晶育成が行われている場合の偏析係数kを実効偏析係数keffとする。単結晶成長においては、添加物の一部分のみが取り込まれる場合が多いので、その場合は、実効偏析係数keff<1となる。
【0084】
keff<1の場合、育成対象の結晶中の添加物濃度は融液中の添加物濃度より低く、結晶中に取り込まれなかった添加物が融液中に残され、結晶成長の過程で融液中の添加物は濃縮され、結晶中の添加物濃度も徐々に高くなっていく。結晶化の初期段階で析出した箇所の添加物濃度が低く、結晶化の後期段階で析出した箇所の添加物濃度が高くなり、不均一な濃度分布が形成される。
【0085】
1<keffの場合、逆の現象が生じて、結晶化の初期段階で析出した箇所の添加物濃度が高く、結晶化の後期段階で析出した箇所の添加物濃度が低くなる濃度分布が形成される。
【0086】
上述のルツボは、酸化物単結晶の製造に用いられ、酸化物単結晶の原料から構成され、酸化物融液を保持する容器であり、単結晶に添加する添加物を含有している。このルツボを用いることにより、複雑な添加物供給機構を設けず、結晶育成中に添加される添加物量を制御することができる。上述のルツボでは、添加物の濃度がルツボの部位により異なり、単結晶に対する添加物の実効偏析係数keffが1未満の場合、育成初期に融解されるルツボ部位の添加物濃度は、育成後期に融解されるルツボ部位の添加物濃度より高い。逆に、実効偏析係数keffが1を超える場合、育成初期に融解されるルツボ部位の添加物濃度は、育成後期に融解されるルツボ部位の添加物濃度より低い。本形態に係る酸化物単結晶育成用のルツボ及び製造方法は、添加物の偏析を抑制した単結晶を製造することができる。
【0087】
実効偏析係数keffは、インゴット(単結晶)の材料と添加物の材料に依存する。インゴットの材料は、ルツボの材料と同一であるから、実効偏析係数keffは、ルツボの材料と、添加物の材料の関係に依存する。ルツボは、酸化物からなる。上述の実施形態では、酸化物は金属酸化物であり、具体的にはGa2O3であり、その焼結体は多結晶である。添加物がSn又はSiの場合、実効偏析係数keff<1であり、例えば、0.3である。
【0088】
実効偏析係数keff>1を満たす酸化物と添加物の材料の組み合わせとしては、例えば、Y3Al5O12と、Cr(又は、Cr2O3)がある。このような場合においては、ルツボ内におけるZ軸方向に沿った添加物の分布は、上述の分布とは、反対になる。このルツボは、添加物を含有する酸化物を含む本体を備え、本体の酸化物において、1軸に沿って配置された複数の領域を設定し、複数の領域のうち、第1領域における添加物の濃度は、第2領域における添加物の濃度よりも高いが、第2領域は、第1領域よりも上方に位置することになる。換言すれば、本体に含まれる酸化物の材料に対する添加物の実効偏析係数keffが1よりも大きい場合、当該第2領域は、単結晶の育成初期段階において融解する側に位置する。
【0089】
以上、説明したように、上述のルツボ及び製造方法によれば、育成軸方向に沿った添加物濃度の均一性の高い単結晶も得ることができる。特に、インゴットを構成する金属酸化物として、Ga2O3を用いる場合、電子デバイスへの応用の観点から、電気的な挙動を制御する添加物の濃度制御が重要となる。すなわち、酸化物の中には、高温で熱力学的に不安定で、数%以下の酸素濃度の雰囲気で、融点近傍で加熱されると、酸素欠損を生じる材料がある。結晶内部の酸素欠損は、光学材料の色中心として、光透過率の低下の原因となったり、半導体材料のドーパント活性化に影響を及ぼす原因となる。
【0090】
貴金属であるインジウム製のルツボを用いる場合、これは比較的酸化しにくい金属であるが、酸素濃度20%前後の大気中では、1100℃以上で酸化して酸化物(IrO2等)を生成する。結晶育成時において、イリジウム製ルツボを使用する場合、イリジウムの酸化を抑制する為、酸素濃度を数%以下に抑える必要がある。一方、ワイドギャップ半導体として着目されるβ-Ga2O3も、低酸素濃度下で結晶育成を行うと、成長したβ-Ga2O3結晶中には、高密度の酸素欠損が発生する。酸素欠損はN型不純物として作用し、高濃度のドナーを生成することから、ドナー濃度の精密な制御を困難にする。イリジウム製ルツボに代えて、実施形態に係るルツボを用いた場合、ルツボは酸化物からなるため、酸化抑制の必要がなくなるという利点がある。また、酸素分圧の大きさに拘らず、酸素以外の添加物の制御が望まれる。
【0091】
SnやSiなどの金属又は半導体の添加物を用いた場合において、上述のルツボと、製造方法を用いれば、添加物濃度の均一性が高くなり、有用である。上述の方法によれば、ルツボ材料は、酸化物であるため、正確な添加物濃度の制御が可能となる。ルツボ材料と単結晶材料は、同一であるため、単結晶への不要な不純物の混入も抑制できる。
【0092】
酸化物単結晶には、用途に応じた材料特性を得る目的で、添加物を付加する。上述の方法によれば、単結晶を複数に分割し、素子を形成する場合、結晶内に添加物が均一に分布するので、素子間での特性を揃えることができる。なお、製造された単結晶は、電気的な素子の他、物理的な特性を利用する素子にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
G…ルツボ、G1~G10…酸化物板、GT…頂面、2…ルツボ台、2A…冷却管、3…高周波コイル、4…凹部、5…冷却媒体、6…融液、7…種結晶、8…育成結晶、10…種結晶ホルダ、11…支持ロッド、12…支持体、13…赤外線加熱源、14…コントローラ、15…駆動電源、16…赤外線加熱用電源、17…RF電源、20…外部フレーム、D1…第1駆動機構、D2…第2駆動機構、IR…赤外線、M1…第1モータ、M2…第2モータ、SA,SB,SC…ストッパ。