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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142840
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】処理装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/02 20060101AFI20230928BHJP
   F01M 13/00 20060101ALI20230928BHJP
   F01M 13/04 20060101ALI20230928BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230928BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F01M13/02
F01M13/00 N
F01M13/04 B
F01N3/08 B
C01B3/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049956
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】谷 広貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀輝
【テーマコード(参考)】
3G015
3G091
4G140
【Fターム(参考)】
3G015BD10
3G015BD24
3G015BE02
3G015FB01
3G091AA02
3G091AA05
3G091AA14
3G091AA19
3G091AB05
3G091AB13
3G091BA14
3G091CA17
3G091CA19
3G091EA00
3G091EA25
3G091HA08
3G091HA09
3G091HA15
3G091HA36
3G091HB09
4G140FA02
4G140FC01
4G140FE01
(57)【要約】
【課題】水素エンジンのブローバイガスの引火リスクを低減可能な処理装置を提供する。
【解決手段】処理装置1は、排気流路20に設けられ、排気ガスに含まれる窒素酸化物を、水素を還元剤として還元するための触媒部21と、ブローバイガスG1を流通させるための掃気流路30と、掃気流路30に設けられ、エンジン100からブローバイガスG1を掃気して掃気流路30に流通させるための掃気ポンプ31と、掃気ポンプ31の下流側に設けられ、ブローバイガスG1に含まれる水素を分離することにより、ブローバイガスG1から水素ガスG2と処理済みガスG3とを生成するための水素分離フィルタ32と、水素ガスG2を触媒部21に添加するための水素ガス添加部45と、を備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素エンジンのブローバイガスを処理するための処理装置であって、
前記水素エンジンからの排気ガスを流通させるための排気流路に設けられ、前記排気ガスに含まれる窒素酸化物を、水素を還元剤として還元するための触媒部と、
前記水素エンジンの前記ブローバイガスを流通させるための掃気流路と、
前記掃気流路に設けられ、前記水素エンジンから前記ブローバイガスを掃気して前記掃気流路に流通させるための掃気ポンプと、
前記掃気流路における前記掃気ポンプの下流側に設けられ、前記ブローバイガスに含まれる水素を分離することにより、前記ブローバイガスから水素ガスと水素除去後のブローバイガスである処理済みガスとを生成するための水素分離フィルタと、
前記水素分離フィルタにおいて生成された前記水素ガスを前記触媒部に添加するための水素ガス添加部と、
を備える処理装置。
【請求項2】
前記掃気流路は、前記水素分離フィルタにおいて生成された前記処理済みガスを前記水素エンジンの吸気流路に還流するための還流部を含む、
請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記水素エンジンにおける前記ブローバイガスの水素濃度を計測するための第1計測部と、
前記処理済みガスの水素濃度を計測するための第2計測部と、
前記第1計測部及び前記第2計測部の計測結果に基づいて各部の制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1計測部の計測結果に基づいて、前記水素エンジンにおける前記ブローバイガスの水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第1閾値以上であった場合、前記掃気ポンプによる前記ブローバイガスの掃気量を増大させる第1処理と、
前記第2計測部の計測結果に基づいて、前記処理済みガスの水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第2閾値以上であった場合、前記水素分離フィルタによる前記ブローバイガスからの水素の分離量を増大させる第2処理と、
を実行する、
請求項1又は2に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素ガスを含む燃料での運転が可能なエンジンが記載されている。このエンジンでは、クランクケースに換気口が形成されており、当該換気口には換気流路が設けられている。換気流路には換気ファンが設けられており、これにより、クランクケースの内部の気体を強制的に外部に排出するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-127704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたエンジンでは、クランクケースの内部において水素ガスが着火するおそれがある場合は、換気ファンを駆動してクランクケースの内部を換気することにより、クランクケースの内部での水素ガスの着火の抑制を図っている。
【0005】
ところで、水素を含むブローバイガスをエンジンの吸気に単純に還流させた場合、吸気内での引火リスクが高まる。また、水素を含むブローバイガスを大気開放すると、当該エンジンが搭載された構造体(例えば車両)の一部分にブローバイガスがとどまり、同様に引火リスクが高まるおそれがある。特許文献1では、このような引火リスクを低減するためのブローバイガスの処理について考慮されていない。
【0006】
そこで、本開示は、水素エンジンのブローバイガスの引火リスクを低減可能な処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る処理装置は、水素エンジンのブローバイガスを処理するための処理装置であって、水素エンジンからの排気ガスを流通させるための排気流路に設けられ、排気ガスに含まれる窒素酸化物を、水素を還元剤として還元するための触媒部と、水素エンジンのブローバイガスを流通させるための掃気流路と、掃気流路に設けられ、水素エンジンからブローバイガスを掃気して掃気流路に流通させるための掃気ポンプと、掃気流路における掃気ポンプの下流側に設けられ、ブローバイガスに含まれる水素を分離することにより、ブローバイガスから水素ガスと水素除去後のブローバイガスである処理済みガスとを生成するための水素分離フィルタと、水素分離フィルタにおいて生成された水素ガスを触媒部に添加するための水素ガス添加部と、を備える。
【0008】
この処理装置では、水素エンジンからのブローバイガスを流通させる掃気流路にポンプが設けられている。したがって、このポンプを駆動することにより、水素エンジンから水素を含むブローバイガスを積極的に掃気することが可能である。特に、この処理装置では、掃気流路におけるポンプの下流側に、ブローバイガスから水素を分離して水素ガスと処理済みガスとを生成する水素分離フィルタが設けられている。ブローバイガスから生成されたガスのうちの水素ガスは、触媒部に添加されて窒素酸化物の還元に供されて消費される。よって、ブローバイガスから生成されたガスのうち、水素エンジンの吸気に還流されたり大気開放されたりするガスは、水素濃度が相対的に低い処理済みガスとなる。よって、引火リスクが低減される。また、ブローバイガスから生成された水素ガスが触媒部に添加されて再利用されるので、触媒部に別途添加する水素量を低減することが可能となる。
【0009】
本開示に係る処理装置では、掃気流路は、水素分離フィルタにおいて生成された処理済みガスを水素エンジンの吸気流路に還流するための還流部を含んでもよい。この場合、ブローバイガスのうちの処理済みガスを水素エンジンの吸気側に戻すことが可能となる。
【0010】
本開示に係る処理装置は、水素エンジンにおけるブローバイガスの水素濃度を計測するための第1計測部と、処理済みガスの水素濃度を計測するための第2計測部と、第1計測部及び第2計測部の計測結果に基づいて各部の制御を行う制御部と、を備え、制御部は、第1計測部の計測結果に基づいて、水素エンジンにおけるブローバイガスの水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第1閾値以上であった場合、掃気ポンプによるブローバイガスの掃気量を増大させる第1処理と、第2計測部の計測結果に基づいて、処理済みガスの水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第2閾値以上であった場合、水素分離フィルタによるブローバイガスからの水素の分離量を増大させる第2処理と、を実行してもよい。この場合、ブローバイガスの引火リスクをより確実に低減可能である。なお、第1閾値と第2閾値とは、互いに同一の値であってもよいし、第1閾値より第2閾値が低い(或いは高い)といったように、互いに異なる値であってもよい。また、水素エンジンにおけるブローバイガスの水素濃度とは、水素エンジンにおけるブローバイガスが混入し得る箇所内(例えばクランクケース内)の水素濃度を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、水素エンジンのブローバイガスの引火リスクを低減可能な処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る処理装置を示す模式図である。
図2図2は、図1に示された処理装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。なお、各図において、同一の要素又は相当する要素には互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る処理装置を示す模式図である。図1に示される処理装置1は、例えばバスやトラック等の大型車両、産業車両に搭載され、エンジン100において発生した排気ガスG0やブローバイガスG1の処理を行うためものものである。エンジン100は、水素を含む燃料により駆動される内燃機関(水素エンジン)である。処理装置1が搭載される車両は、例えばエンジン100を発電用の動力源として利用する、いわゆるシリーズ方式のハイブリッド車であってもよい。その場合、エンジン100は、バッテリの残存容量が低下したときに駆動するように構成されてもよい。
【0015】
エンジン100は、例えばレシプロエンジンであり、クランク軸等を収容するクランクケース、クランク軸を駆動するピストン等が収容されるシリンダ、及び、シリンダヘッド等を含む。シリンダ内には、水素を含む燃料が燃焼させられる燃焼室が形成されており、クランクケースやシリンダヘッド等には、燃焼室から漏出した水素を含むブローバイガスG1が留められる。エンジン100には、燃焼室への空気を流通させるための吸気流路10と、燃焼室からの排気ガスG0を流通させるための排気流路20と、が接続されている。
【0016】
処理装置1は、排気流路20に設けられた触媒部21及び後処理部22を有している。触媒部21は、排気ガスG0に含まれる窒素酸化物を、水素を還元剤として選択的に還元するためのH2-SCR(Selective Catalytic Reduction)装置である。後処理部22は、触媒部21の下流側に設けられており、例えば、排気ガスG0に含まれる窒素酸化物を、アンモニア等を還元剤として選択的に還元する別の触媒部(例えば尿素SCR装置)や、排気ガスG0に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するためのフィルタや、排気ガスG0に含まれる炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)等を酸化して浄化する装置等の任意の要素を含み得る。
【0017】
処理装置1は、エンジン100のブローバイガスG1を流通させるための掃気流路30を有している。また、処理装置1は、掃気流路30に設けられた掃気ポンプ31、水素分離フィルタ32、フィルタ33、タンク34、昇圧ポンプ35、及び、水素濃度計36を有している。掃気流路30は、エンジン100のブローバイガスG1を掃気すべき任意の部分(例えばクランクケースやシリンダヘッド等)に接続されている。掃気ポンプ31は、エンジン100からブローバイガスG1を掃気して掃気流路30に流通させるためのものである。
【0018】
水素分離フィルタ32は、掃気流路30における掃気ポンプ31の下流側に設けられている。水素分離フィルタ32は、ブローバイガスG1に含まれる水素を分離することにより、ブローバイガスG1から水素ガスG2と水素除去後のブローバイガスである処理済みガスG3とを生成する。より具体的には、水素分離フィルタ32は、例えばパラジウムを利用して、ブローバイガスG1を高純度水素ガス(水素ガスG2)と水素ガス以外(処理済みガスG3)とに分離する。一例として、水素分離フィルタ32では、パラジウム膜を利用した水素透過メカニズムにより、高純度水素を取り出す方法が想定される。
【0019】
フィルタ33は、掃気流路30における掃気ポンプ31の上流側に設けられている。フィルタ33は、ブローバイガスG1に含まれるオイル及び凝縮水を除去する。タンク34は、掃気流路30における掃気ポンプ31と水素分離フィルタ32との間に設けられている。タンク34は、掃気ポンプ31の駆動によりエンジン100から掃気流路30に導出されたブローバイガスG1を貯留することができる。
【0020】
昇圧ポンプ35は、掃気流路30におけるタンク34と水素分離フィルタ32との間に設けられている。昇圧ポンプ35は、ブローバイガスG1(処理済みガスG3)を後述するように吸気流路10に戻す圧力(吸気圧)、及び、後述するように触媒部21への水素ガスの噴射圧以上となるように、ブローバイガスG1に圧力を付与する。水素濃度計36は、タンク34に設けられており、タンク34内の(すなわち、水素分離フィルタ32の前段での)ブローバイガスG1の水素濃度を計測する。
【0021】
掃気流路30は、水素分離フィルタ32の下流側において、吸気流路10に接続されている。したがって、処理装置1では、水素分離フィルタ32でブローバイガスG1から生成された処理済みガスG3を、吸気流路10に還流させることが可能である。換言すれば、掃気流路30は、水素分離フィルタ32よりも下流側の部分として、処理済みガスG3を吸気流路10に還流させるための還流部30pを含む。そして、処理装置1は、還流部30pに設けられた水素濃度計(第2計測部)37を備えている。水素濃度計37は、処理済みガスG3の水素濃度を計測する。
【0022】
一方、処理装置1は、水素分離フィルタ32を介して掃気流路30に接続された水素ガス流路40と、触媒部21に水素を供給(添加)するための水素供給路50と、を備えている。水素ガス流路40は、一端において水素分離フィルタ32に接続されており、他端において水素供給路50に接続されている。これにより、処理装置1では、水素分離フィルタ32でブローバイガスG1から生成された水素ガスG2を、水素ガス流路40を通じて水素供給路50に導入することが可能である。
【0023】
水素供給路50は、一端において水素供給部51に接続されており、他端部において排気流路20の触媒部21前段に接続されている。これにより、処理装置1では、水素供給部51から供給された水素、及び、水素ガス流路40を通じて水素分離フィルタ32から導入された水素ガスG2を、水素供給路50を通じて触媒部21に供給(添加)することができる。すなわち、水素ガス流路40及び水素供給路50は、水素分離フィルタ32において生成された水素ガスG2を触媒部21に供給して触媒部21に水素を添加するための水素ガス添加部45を構成している。
【0024】
処理装置1は、水素ガス流路40に設けられた水素濃度計41を備えている。水素濃度計41は、水素ガスG2の水素濃度を計測する。また、処理装置1は、エンジン100に設けられた水素濃度計(第1計測部)101を備えている。水素濃度計101は、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度を計測する。水素濃度計101は、例えばクランクケース及びシリンダヘッドといったエンジン100の内部のブローバイガスG1の水素濃度を計測する。
【0025】
水素濃度計101は、クランクケース及びシリンダヘッドの少なくとも一方に設けられて当該一方におけるブローバイガスG1の水素濃度を計測することができる。また、水素濃度計101は、エンジン100の他の部分におけるブローバイガスG1の水素濃度を計測するように当該他の部分に設けられていてもよい。
【0026】
以上の水素濃度計36,37,41,101は、その一部の測定結果に基づいた計算によって別の一部の測定結果を推測(算出)するように構成されることにより、一部省略され得る。例えば、水素濃度計101によるエンジン100でのブローバイガスG1の水素濃度の測定結果と、水素濃度計37による処理済みガスG3の水素濃度の測定結果とに基づいて、水素ガスG2の水素濃度を計算・推定することにより、水素ガスG2の水素濃度を計測するための水素濃度計41を省略することができる。
【0027】
ここで、処理装置1は、制御部60を備えている。制御部60は、水素濃度計36,37,41,101から水素濃度の計測結果を示す情報を取得し、当該情報に基づいて処理装置1の各部の制御を行う。制御部60は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、データ送受信デバイスである通信モジュール等を含むコンピュータシステムとして構成され得る。制御部60の各処理は、上記のハードウェア上に所定のプログラムを読み込ませることにより、CPUの制御のもとで、通信モジュールを動作させるとともにRAM等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現され得る。
【0028】
引き続いて、処理装置1の動作(制御部60の処理)について説明する。図2は、図1に示された処理装置の動作を示すフローチャートである。図2に示されるように、処理装置1では、まず、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度の計測が行われる(工程S101)。エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度とは、エンジン100におけるブローバイガスG1が混入し得る箇所での水素濃度を意味し、一例としては、エンジン100のクランクケース内の水素濃度である。この例によれば、工程S101では、水素濃度計101がエンジン100のクランクケース内の水素濃度を計測し、当該計測結果を示す情報を制御部60に提供する。
【0029】
続いて、制御部60が、工程S101で計測されたエンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度が、第1閾値以上であるかの判定を行う(工程S102)。第1閾値は、水素の空気中での下限可燃限濃度(例えば4%)よりも低い値であり、例えば2%程度に設定され得る。
【0030】
工程S102の判定の結果が、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度が第1閾値未満であることを示す結果であった場合(工程S102:No)、処理装置1の動作は工程S101に戻り、以降の工程を再度実施する。
【0031】
一方、工程S102の判定の結果が、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度が第1閾値以上であることを示す結果であった場合(工程S102:Yes)、制御部60が、掃気ポンプ31によるブローバイガスG1の掃気量を増大させるように調整し、エンジン100の水素濃度の測定箇所の掃気を活発化させる(工程S103)。
【0032】
すなわち、工程S103では、制御部60は、水素濃度計101の計測結果に基づいて、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第1閾値以上であった場合、掃気ポンプ31によるブローバイガスG1の掃気量を増大させる第1処理を実行することとなる。掃気ポンプ31により掃気されたブローバイガスG1は、掃気流路30及び水素分離フィルタ32を介して(処理済みガスG3として)吸気流路10に還流される。その際に、ブローバイガスG1は、タンク34に少なくとも一時的及び部分的に貯留され得る。
【0033】
続いて、処理装置1では、吸気流路10に還流される処理済みガスG3の水素濃度の計測が行われる(工程S104)。これは、吸気流路10内の水素濃度が水素の可燃範囲外であることを担保するためである。この工程S104では、一例として、水素濃度計37が掃気流路30の還流部30pでの処理済みガスG3の水素濃度を計測し、当該計測結果を示す情報を制御部60に提供する。
【0034】
続いて、制御部60が、工程S104で計測された処理済みガスG3の水素濃度が、第2閾値以上であるかの判定を行う(工程S105)。第2閾値は、水素の空気中での下限可燃限濃度(例えば4%)よりも低い値であり、例えば2%程度に設定され得る。なお、第1閾値と第2閾値とは、互いに同一の値であってもよいし、第1閾値より第2閾値が低い(或いは高い)といったように、互いに異なる値であってもよい。
【0035】
工程S105の判定の結果が、処理済みガスG3の水素濃度が第2閾値未満であることを示す結果であった場合(工程S105:No)、処理装置1の動作は工程S104に戻り、以降の工程を再度実施する。
【0036】
一方、工程S105の判定の結果が、処理済みガスG3の水素濃度が第2閾値以上であることを示す結果であった場合(工程S105:Yes)、制御部60が、水素分離フィルタ32における水素分離量を増大するように調整する(工程S106)。すなわち、工程S106では、制御部60が、水素濃度計37の計測結果に基づいて、処理済みガスG3の水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第2閾値以上であった場合、水素分離フィルタ32によるブローバイガスG1からの水素の分離量を増大させる第2処理を実行することとなる。
【0037】
水素分離フィルタ32における水素分離量の調整方法の一例としては、以下の方法が挙げられる。すなわち、例えば水素分離フィルタ32が上記のようなパラジウム膜を利用したものである場合、水素分離フィルタ32における水素透過量J(NL/min・cm)は、α(Pin 1/2-Pout 1/2)と表される(αは水素透過速度、Pinは原料ガス側の水素分圧、Poutは透過ガス側の水素分圧)。したがって、制御部60が、水素分離フィルタ32の入り口側の昇圧ポンプ35を制御してPinをコントロールすることにより、水素透過量J(すなわち水素分離量)を調整することができる。このとき、掃気ポンプ31の掃気によるブローバイガスG1の流量と、所望のPinを実現するために水素分離フィルタ32に導入すべきブローバイガスG1の流量とが異なる場合がある。したがって、水素分離フィルタ32へのブローバイガスG1の流量を調整可能とするために(オンデマンドに利用するため)、タンク34を利用する。
【0038】
その後、処理装置1は、水素分離フィルタ32により分離した水素を触媒部21に添加する(工程S107)。すなわち、処理装置1では、水素分離フィルタ32において生成された水素ガスG2を、水素ガス流路40及び水素供給路50(水素ガス添加部45)を介して、触媒部21に供給する。なお、水素ガス添加部45を介した触媒部21への水素ガスG2の供給は、水素分離フィルタ32により水素ガスG2が生成されている間、常時行うことが可能である。
【0039】
以上説明したように、処理装置1では、エンジン100からのブローバイガスG1を流通させる掃気流路30に掃気ポンプ31が設けられている。したがって、この掃気ポンプ31を駆動することにより、エンジン100から水素を含むブローバイガスG1を積極的に掃気することが可能である。特に、処理装置1では、掃気流路30における掃気ポンプ31の下流側に、ブローバイガスG1から水素を分離して水素ガスG2と処理済みガスG3とを生成する水素分離フィルタ32が設けられている。ブローバイガスG1から生成されたガスのうちの水素ガスG2は、触媒部21に添加されて窒素酸化物の還元に供されて消費される。よって、ブローバイガスG1から生成されたガスのうち、エンジン100の吸気に還流されたり大気開放されたりするガスは、水素濃度が相対的に低い処理済みガスG3となる。よって、引火リスクが低減される。また、ブローバイガスG1から生成された水素ガスG2が触媒部21に添加されて再利用されるので、触媒部21に別途添加する水素量を低減することが可能となる。
【0040】
また、処理装置1では、掃気流路30は、水素分離フィルタ32において生成された処理済みガスG3をエンジン100の吸気流路10に還流するための還流部30pを含む。このため、ブローバイガスG1のうちの処理済みガスG3をエンジン100の吸気側に戻すことが可能となる。
【0041】
さらに、処理装置1は、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度を計測するための水素濃度計101と、処理済みガスG3の水素濃度を計測するための水素濃度計37と、水素濃度計101,37の計測結果に基づいて各部の制御を行う制御部60と、を備えている。制御部60は、水素濃度計101の計測結果に基づいて、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第1閾値以上であった場合、掃気ポンプ31によるブローバイガスG1の掃気量を増大させる第1処理と、水素濃度計37の計測結果に基づいて、処理済みガスG3の水素濃度が水素の下限可燃限界濃度よりも低い第2閾値以上であった場合、水素分離フィルタ32によるブローバイガスG1からの水素の分離量を増大させる第2処理と、を実行する。このため、ブローバイガスG1の引火リスクをより確実に低減可能である。
【0042】
以上の実施形態は、本開示の一側面を説明したものである。したがって、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、上記実施形態を変形したものとされ得る。
【0043】
例えば、上記実施形態では、制御部60は、水素濃度計101によるエンジン100でのブローバイガスG1の水素濃度の計測結果と、水素濃度計37による処理済みガスG3の水素濃度の計測結果とに基づいて、掃気ポンプ31及び水素分離フィルタ32の制御を行う第1処理及び第2処理を実行した。しかし、制御部60は、エンジン100におけるブローバイガスG1の水素濃度や処理済みガスG3の水素濃度を、他の水素濃度計の測定結果から計算・推定することにより、第1処理及び第2処理を実行してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、処理装置1では、水素ガス添加部45を介した触媒部21への水素ガスG2の供給は、水素分離フィルタ32により水素ガスG2が生成されている間、常時行うことが可能であるものとした。これに加えて、処理装置1では、還流部30pを介した吸気流路10への処理済みガスG3の還流を、水素分離フィルタ32により処理済みガスが生成されている間、常時行うことも可能である。
【0045】
一方、処理装置1では、還流部30pにバルブ等を設け、制御部60が処理済みガスG3の水素濃度に応じて当該バルブの開閉を制御することにより、例えば処理済みガスG3の水素濃度が第2閾値以上である場合等に、処理済みガスG3が吸気流路10に還流されないような処理を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1…処理装置、10…吸気流路、20…排気流路、21…触媒部、30…掃気流路、30p…還流部、31…掃気ポンプ、32…水素分離フィルタ、45…水素ガス添加部、60…制御部、100…エンジン(水素エンジン)、G0…排気ガス、G1…ブローバイガス、G2…水素ガス、G3…処理済みガス。
図1
図2