特開 2023-142898 飲料

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2023142898

(43)【公開日】2023-10-06

(54)【発明の名称】飲料

(51)【国際特許分類】

   C12C 5/02 20060101AFI20230928BHJP

   A23L 2/52 20060101ALI20230928BHJP

   A23L 2/00 20060101ALI20230928BHJP

   C12G 3/04 20190101ALI20230928BHJP

   C12C 7/053 20060101ALI20230928BHJP

【ＦＩ】

C12C5/02

A23L2/52

A23L2/00 E

A23L2/00 B

C12G3/04

C12C7/053

【審査請求】未請求

【請求項の数】11

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022050025

(22)【出願日】2022-03-25

(71)【出願人】

【識別番号】303040183

【氏名又は名称】サッポロビール株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100088155

【弁理士】

【氏名又は名称】長谷川 芳樹

(74)【代理人】

【識別番号】100128381

【弁理士】

【氏名又は名称】清水 義憲

(74)【代理人】

【識別番号】100176773

【弁理士】

【氏名又は名称】坂西 俊明

(72)【発明者】

【氏名】小泉 智洋

【テーマコード（参考）】

4B115

4B117

4B128

【Ｆターム（参考）】

4B115LG03

4B115LH12

4B115LP02

4B117LC03

4B117LE10

4B117LK06

4B117LL01

4B117LL09

4B117LP17

4B128CP16

4B128CP21

(57)【要約】

【課題】厚み・ふくらみ及びコクに優れた飲料を提供すること。
【解決手段】γ－ノナラクトンの含有量が０．４ｍｇ／Ｌ以上である、飲料。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】

【請求項1】

γ－ノナラクトンの含有量が０．４ｍｇ／Ｌ以上である、飲料。

【請求項2】

δ－ノナラクトンを更に含有する、請求項１に記載の飲料。

【請求項3】

ビールテイスト飲料である、請求項１又は２に記載の飲料。

【請求項4】

δ－ノナラクトンの含有量が０．４μｇ／Ｌ以上である、請求項３に記載の飲料。

【請求項5】

γ－ノナラクトンの含有量（ｍｇ／Ｌ）をδ－ノナラクトンの含有量（μｇ／Ｌ）で除した値（γ／δ比）が、０．６以上である、請求項３に記載の飲料。

【請求項6】

γ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む、飲料の製造方法。

【請求項7】

δ－ノナラクトンを配合することを更に含む、請求項６に記載の製造方法。

【請求項8】

前記飲料が、ビールテイスト飲料である、請求項６又は７に記載の製造方法。

【請求項9】

γ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む、飲料の厚み・ふくらみ及びコクを向上させる方法。

【請求項10】

δ－ノナラクトンを配合することを更に含む、請求項９に記載の方法。

【請求項11】

前記飲料が、ビールテイスト飲料である、請求項９又は１０に記載の方法。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、飲料に関する。

【背景技術】

【0002】

ビールテイスト飲料の香味の改善にはこれまでにも様々な技術が開示されている。例えば、特許文献１には、苦味が少なく、酸臭が抑えられているビール様発泡性飲料として、［γ－ノナラクトンの含有量］／［２－メチルチオエタノールの含有量］が０．６５以上であり、苦味の強さが５ｍｇ／Ｌのイソα酸水溶液より小さい、ビール様発泡性飲料が開示されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２０２１－１０６５７７号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

本発明者は、ビールテイスト飲料中のγ－ノナラクトンの含有量を特定の範囲に調整することで、ビールテイスト飲料の厚み・ふくらみ及びコクが向上することを見出した。本発明者はまた、厚み・ふくらみ及びコクの向上は、ビールテイスト飲料以外の飲料でも認められることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものであり、厚み・ふくらみ及びコクに優れた飲料を提供することを目的とする。本発明はまた、当該飲料の製造方法を提供することを目的とする。本発明は更に、飲料の厚み・ふくらみ及びコクを向上させる方法を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0005】

本発明は、γ－ノナラクトンの含有量が０．４ｍｇ／Ｌ以上である、飲料に関する。

【0006】

本発明に係る飲料は、γ－ノナラクトンの含有量を上記範囲に調整しているため、厚み・ふくらみ及びコクに優れている。

【0007】

上記飲料は、δ－ノナラクトンを更に含有していてもよい。

【0008】

上記飲料は、ビールテイスト飲料であってもよい。

【0009】

上記飲料は、δ－ノナラクトンの含有量が０．４μｇ／Ｌ以上であってよい。

【0010】

上記飲料は、γ－ノナラクトンの含有量（ｍｇ／Ｌ）をδ－ノナラクトンの含有量（μｇ／Ｌ）で除した値（γ／δ比）が、０．６以上であってよい。

【0011】

本発明はまた、γ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む、飲料の製造方法にも関する。当該製造方法は、δ－ノナラクトンを配合することを更に含むものであってもよい。また、当該製造方法において、飲料は、ビールテイスト飲料であってもよい。

【0012】

本発明は、γ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む、飲料の厚み・ふくらみ及びコクを向上させる方法と捉えることもできる。当該方法は、δ－ノナラクトンを配合することを更に含むものであってもよい。当該方法において、飲料は、ビールテイスト飲料であってもよい。

【発明の効果】

【0013】

本発明によれば、厚み・ふくらみ及びコクに優れた飲料を提供することができる。本発明によればまた、厚み・ふくらみ及びコクに優れた飲料の製造方法を提供することができる。本発明によれば更に、飲料の厚み・ふくらみ及びコクを向上させる方法を提供することができる。

【発明を実施するための形態】

【0014】

以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。

【0015】

本実施形態に係る飲料は、γ－ノナラクトンの含有量が０．４ｍｇ／Ｌ以上である。

【0016】

γ－ノナラクトンは、５－ペンチルジヒドロフラン－２（３Ｈ）－オンとも称される化合物である。本実施形態に係る飲料に含まれるγ－ノナラクトンは、Ｓ体であってもよく、Ｒ体であってもよく、Ｓ体とＲ体の混合物（例えば、ラセミ体）であってもよい。

【0017】

本実施形態に係る飲料中のγ－ノナラクトンの含有量は、０．４ｍｇ／Ｌ以上であればよく、上限は特に制限されないが、飲料の厚み・ふくらみ及びコクが優れるという効果をより顕著に発揮するという観点から、１０ｍｇ／Ｌ以下であってよく、９ｍｇ／Ｌ以下であってよく、８ｍｇ／Ｌ以下であってよく、７ｍｇ／Ｌ以下であってよく、６ｍｇ／Ｌ以下であってよく、５ｍｇ／Ｌ以下であってよく、４ｍｇ／Ｌ以下であってよく、３ｍｇ／Ｌ以下であってよく、２ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．８ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．６ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．５ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．４ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．３ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．２ｍｇ／Ｌ以下であってよく、１．０ｍｇ／Ｌ以下であってよい。同様の観点から、本実施形態に係る飲料中のγ－ノナラクトンの含有量は、０．５ｍｇ／Ｌ以上であってよく、０．６ｍｇ／Ｌ以上であってよく、０．７ｍｇ／Ｌ以上であってよく、０．８ｍｇ／Ｌ以上であってよい。

【0018】

本実施形態に係る飲料中のγ－ノナラクトンの含有量は、例えば、０．５ｍｇ／Ｌ以上１．６ｍｇ／Ｌ以下、又は０．５ｍｇ／Ｌ以上１．２ｍｇ／Ｌ以下であってよい。γ－ノナラクトンの含有量がこの範囲内にあると、厚み・ふくらみ及びコクが優れるという効果に加えて、ココナッツの風味が感じられる一方でべたつきが抑えられるという効果も得られ、飲料としての完成度がより高くなる。加えて、本実施形態に係る飲料がビールテイスト飲料である場合、穀物臭低減という効果も得られる。

【0019】

γ－ノナラクトンの含有量は、例えば、固相マイクロ抽出－ガスクロマトグラフ－質量分析法（ＳＰＭＥ－ＧＣ－ＭＳ法）により測定することができる。ＳＰＭＥ－ＧＣ－ＭＳ法の具体的手順としては、例えば、実施例に記載の手順が挙げられる。γ－ノナラクトンの含有量は、例えば、飲料の製造工程の任意の段階で、γ－ノナラクトンそのもの、又はγ－ノナラクトンを含有する組成物を添加することにより、調整することができる。γ－ノナラクトンを含有する組成物としては、例えば、香料組成物、ココナッツの果実及び胚乳、並びにモモ及びアンズ等の果実及び果汁等が挙げられる。

【0020】

本実施形態に係る飲料は、δ－ノナラクトンを更に含有していてもよい。δ－ノナラクトンは、６－ブチルオキサン－２－オンとも称される化合物である。本実施形態に係る飲料に含まれるδ－ノナラクトンは、Ｓ体であってもよく、Ｒ体であってもよく、Ｓ体とＲ体の混合物（例えば、ラセミ体）であってもよい。

【0021】

本実施形態に係る飲料がδ－ノナラクトンを含有する場合、δ－ノナラクトンの含有量は、特に制限されず、例えば、０．３μｇ／Ｌ以上であってよく、０．４μｇ／Ｌ以上であってよく、０．５μｇ／Ｌ以上であってよく、０．６μｇ／Ｌ以上であってもよい。また例えば、５μｇ／Ｌ以下であってよく、４μｇ／Ｌ以下であってよく、３μｇ／Ｌ以下であってよく、２μｇ／Ｌ以下であってよく、１．８μｇ／Ｌ以下であってよく、１．６μｇ／Ｌ以下であってよく、１．４μｇ／Ｌ以下であってよく、１．２μｇ／Ｌであってよく、１．０μｇ／Ｌ以下であってもよい。

【0022】

本実施形態に係る飲料中のδ－ノナラクトンの含有量は、例えば、０．４μｇ／Ｌ以上１．６μｇ／Ｌ以下、０．６μｇ／Ｌ以上１．６μｇ／Ｌ以下、又は０．６μｇ／Ｌ以上１．２μｇ／Ｌ以下であってよい。δ－ノナラクトンの含有量がこの範囲内にあると、厚み・ふくらみ及びコクが優れるという効果に加えて、熟度の高い有核果実の風味が感じられると共になめらかさにも優れるという効果も得られ、飲料としての完成度がより高くなる。

【0023】

δ－ノナラクトンの含有量は、例えば、固相マイクロ抽出－ガスクロマトグラフ－質量分析法（ＳＰＭＥ－ＧＣ－ＭＳ法）により測定することができる。ＳＰＭＥ－ＧＣ－ＭＳ法の具体的手順としては、例えば、実施例に記載の手順が挙げられる。δ－ノナラクトンの含有量は、例えば、飲料の製造工程の任意の段階で、δ－ノナラクトンそのもの、又はδ－ノナラクトンを含有する組成物を添加することにより、調整することができる。δ－ノナラクトンを含有する組成物としては、例えば、香料組成物、バーゾンウィスキー等が挙げられる。

【0024】

本実施形態に係る飲料がδ－ノナラクトンを含有する場合、γ－ノナラクトンの含有量（ｍｇ／Ｌ）をδ－ノナラクトンの含有量（μｇ／Ｌ）で除した値（γ／δ比）が、０．６以上であることが好ましい。γ／δ比がこの範囲にあると上述した各効果が充分に発揮されると共に、飲料としての完成度がより高くなる。γ／δ比は、０．７以上であっていよく、０．８以上であってよい。γ／δ比の上限は、例えば、２．０以下であってよく、１．９以下であってよく、１．８以下であってよい。

【0025】

本実施形態に係る飲料は、本発明の効果を損なわない範囲で、飲料に通常配合される苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類等を含んでいてもよい。苦味料としては、例えば、ホップ、イソα酸、カフェイン、ゲンチアナ抽出物、ペプチド類、テオブロミン、ナリンジン、ニガキ抽出物、ニガヨモギ抽出物、キナ抽出物等が挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素を挙げることができる。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲン、デンプンを挙げることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムＫ、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームを挙げることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンＣ、ビタミンＥ、ポリフェノールを挙げることができる。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、ＤＬ－リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、ＤＬ－酒石酸、Ｌ－酒石酸、ＤＬ－酒石酸ナトリウム、Ｌ－酒石酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、ＤＬ－リンゴ酸ナトリウムを挙げることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムを挙げることができる。

【0026】

本実施形態に係る飲料は、アルコール度数が１ｖ／ｖ％以上であるアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が１ｖ／ｖ％未満であるノンアルコール飲料であってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。

【0027】

アルコール飲料のアルコール度数は、特に制限されず、例えば、１ｖ／ｖ％以上、１．５ｖ／ｖ％以上、２ｖ／ｖ％以上、２．５ｖ／ｖ％以上、３ｖ／ｖ％以上、３．５ｖ／ｖ％以上、４ｖ／ｖ％以上、４．５ｖ／ｖ％以上、又は５ｖ／ｖ％以上であってよい。また、アルコール飲料のアルコール度数は、例えば、２０ｖ／ｖ％以下、１５ｖ／ｖ％以下、１０ｖ／ｖ％以下、９ｖ／ｖ％以下、８ｖ／ｖ％以下、７ｖ／ｖ％以下、６ｖ／ｖ％以下、５ｖ／ｖ％以下、４ｖ／ｖ％以下、３．５ｖ／ｖ％以下、３ｖ／ｖ％以下、２．５ｖ／ｖ％以下、２ｖ／ｖ％以下、又は１．５ｖ／ｖ％以下であってよい。

【0028】

ノンアルコール飲料のアルコール度数は、１ｖ／ｖ％未満であればよく、０．７ｖ／ｖ％以下であってよく、０．５ｖ／ｖ％以下であってよく、０．３ｖ／ｖ％以下であってよく、０．１ｖ／ｖ％以下であってよく、０．００５ｖ／ｖ％未満（０．００ｖ／ｖ％）であってもよい。また、ノンアルコール飲料のアルコール度数は、例えば、０．００５ｖ／ｖ％以上であってよく、０．０１ｖ／ｖ％以上であってよく、０．０５ｖ／ｖ％以上であってよく、０．１ｖ／ｖ％以上であってよく、０．２ｖ／ｖ％以上であってよく、０．３ｖ／ｖ％以上であってよく、０．４ｖ／ｖ％以上であってよく、０．５ｖ／ｖ％以上であってよい。

【0029】

飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法（訓令）「３清酒 ３－４アルコール分」に記載されている振動式密度計法に基づいて測定することができる。

【0030】

本実施形態に係る飲料は、非発泡性であってもよく、発泡性であってもよい。ここで、非発泡性とは、２０℃におけるガス圧が０．０４９ＭＰａ（０．５ｋｇ／ｃｍ^２）未満であることをいい、発泡性とは、２０℃におけるガス圧が０．０４９ＭＰａ（０．５ｋｇ／ｃｍ^２）以上であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は０．２９４ＭＰａ（３．０ｋｇ／ｃｍ^２）程度としてもよい。

【0031】

本実施形態に係る飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製（アルミニウム製又はスチール製など）のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。

【0032】

本実施形態に係る飲料は、ビールテイスト飲料であってもよい。本明細書において「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。ビールテイスト飲料としては、これに限られるものではないが、例えば、酒税法（平成三十年法律第五十九号）上のビール、発泡酒、その他の醸造酒、リキュールに分類されるものが挙げられる。また、アルコール度数が１ｖ／ｖ％未満のノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。

【0033】

本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料として麦原料を含有していてもよく、原料として麦原料を含有していなくてもよい。本明細書において麦原料とは、麦又は麦加工物をいう。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽は麦を発芽させることにより得られる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。

【0034】

本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料としてホップを含有していてもよく、原料としてホップを含有していなくてもよい。ホップには、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスが含まれ、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品も含まれる。

【0035】

本実施形態に係るビールテイスト飲料は、麦芽比率（水及びホップ以外の原料に占める麦芽の割合）が０質量％以上１００質量％以下であってよい。麦芽比率は、１０質量％以上、２０質量％以上、３０質量％以上、４０質量％以上、５０質量％以上、６０質量％以上、６５質量％以上、６６質量％以上、６７質量％以上、７０質量％以上、８０質量％以上、９０質量％以上、９５質量％以上、９９質量％以上、又は１００質量％であってよい。また、麦芽比率は、１００質量％未満、９５質量％以下、９０質量％以下、８０質量％以下、７０質量％以下、６０質量％以下、又は５０質量％以下であってよい。

【0036】

本実施形態に係るビールテイスト飲料の苦味価（ＢＵ）は、例えば、０．０以上５０．０以下であってよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料のＢＵは、例えば、４０．０以下、３０．０以下、２０．０以下、又は１５．０以下であってよく、１．０以上、２．０以上、３．０以上、４．０以上、５．０以上、又は１０．０以上であってよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料の苦味価は、改訂ＢＣＯＪビール分析法（公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、２０１３年増補改訂）の「８．１５ 苦味価」に記載されている方法によって測定することができる。苦味価は、例えば、原料の種類及び使用量を調整することにより、上記範囲で適宜設定することができる。

【0037】

本実施形態に係る飲料は、γ－ノナラクトンの含有量を上述した範囲内に調整することの他は、常法に従って製造することができる。

【0038】

一実施形態に係る飲料の製造方法は、飲料中のγ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む。γ－ノナラクトンの含有量の調整は、例えば、γ－ノナラクトンそのもの、又はγ－ノナラクトンを含有する組成物を添加することにより実施することができる。本実施形態に係る製造方法は、δ－ノナラクトンを配合すること、及びδ－ノナラクトンの含有量を調整することを更に含むものであってもよい。δ－ノナラクトンの配合及び含有量の調整は、δ－ノナラクトンそのもの、又はδ－ノナラクトンを含有する組成物を添加することにより実施することができる。

【0039】

本実施形態に係る製造方法は、例えば、水と、γ－ノナラクトンと、必要に応じて、δ－ノナラクトン、アルコール（例えば、原料用アルコール、スピリッツ及びウォッカ等の蒸留アルコール、醸造により得られた発酵液）及び／又は各種添加剤（例えば、苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類等）と、を原料タンクに配合する配合工程を含む。配合工程は、γ－ノナラクトンの含有量を上記範囲内に調整することの他は、常法に従って実施することができる。δ－ノナラクトンの含有量を調整する場合も配合工程で実施してよい。

【0040】

本実施形態に係る製造方法は、配合工程において各成分を混合して得た混合液をろ過するろ過工程と、ろ過工程でろ過したろ過液を殺菌する第一の殺菌工程と、第一の殺菌工程で殺菌した殺菌済みのろ過液をビン、缶、ペットボトル等の容器に充填する充填工程と、充填工程で容器に充填されたろ過液を容器ごと殺菌する第二の殺菌工程と、を更に含んでいてもよい。

【0041】

配合工程は、各成分がよく混ざるよう、撹拌機等により撹拌しながら混合してもよい。また、ろ過工程は、例えば、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。第一の殺菌工程は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行ってもよく、同様の処理を行うことができるのであれば、これに限定されることなく適用可能である。充填工程は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにて充填してもよい。第二の殺菌工程は、所定の温度及び所定の時間でろ過液を容器ごと加熱することにより行うことができる。第一又は第二の殺菌工程は、非加熱の殺菌工程としてもよい。非加熱の殺菌工程としては、紫外線（ＵＶ）殺菌等が挙げられる。殺菌工程を行わない無殺菌充填を行うことも可能である。

【0042】

本実施形態に係る飲料がビールテイスト飲料である場合、当該ビールテイスト飲料は、上述した製造方法（調合による方法）のみならず、酵母等による発酵を経る製造方法（発酵法）によって製造してもよい。発酵法は、例えば、仕込工程及び発酵工程を備える。

【0043】

仕込工程では、原料及び仕込水（仕込工程で使用される水）を用いて、発酵前液を得る。つまり、仕込工程は、発酵に用いられる発酵前液を調製する工程である。仕込工程は、糖含有液を煮沸する煮沸工程、原料液中の固形分を除去する除去工程、原料液を冷却する冷却工程をこの順に含んでいてよい。

【0044】

煮沸工程では、糖含有液を煮沸して煮沸後液（煮沸後の糖含有液）を得る。糖含有液とは、酵母によるアルコール発酵が可能な成分を含有するものである。糖含有液としては、例えば、麦汁、シロップが挙げられる。麦汁とは、上述の麦原料の糖化を経て得られる液であり、未発酵のものである。麦汁は、例えば、上述の麦原料等の原料と水とを混合する工程、原料と水とを含む液を常法により糖化して糖化液を得る工程、及び糖化液をろ過する工程を経て得ることができる。

【0045】

煮沸工程では、原料液にホップを添加してよい。添加するホップとしては、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。

【0046】

除去工程では、煮沸後液中の固形分を除去して精製液を得る。除去工程は、例えば、煮沸後液に含まれる不溶性の固形分を沈殿させることにより行うことができる。固形分としては、煮沸工程により生じた熱凝固物、煮沸工程でホップを添加した場合には、ホップのかす等が挙げられる。除去工程は、ワールプール中で実施してよい。冷却工程では、酵母による発酵が可能な温度まで精製液を冷却して発酵前液を得る。

【0047】

発酵工程では、発酵前液を酵母により発酵させて発酵後液を得る。発酵工程では、酵母を添加してアルコール発酵が行われる。より具体的には、発酵前液に酵母を接種して発酵させ、酵母により生成するアルコールを含む発酵後液を得る。

【0048】

本実施形態に係る製造方法では、発酵工程後の発酵後工程として、発酵後液を熟成、冷却する工程、及び発酵後液をろ過する工程を備えていてもよい。ろ過工程を実施することにより、発酵後液から不溶性の固形分、酵母等を除去することができる。

【0049】

本実施形態に係る製造方法では、他の発酵後工程として、発酵後液（又はろ過工程後の発酵後液）に対して加熱（殺菌）、各種添加剤（例えば、苦味料、着色料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、香料、塩類）の添加等を行ってもよい。

【0050】

γ－ノナラクトンの含有量の調整は、例えば、γ－ノナラクトンそのもの、又はγ－ノナラクトンを含有する組成物を原料液に添加することにより実施することができる。δ－ノナラクトンの含有量を調整する場合も同様に、δ－ノナラクトンそのもの、又はδ－ノナラクトンを含有する組成物を原料液に添加することにより実施することができる。本明細書において、原料液とは、ビールテイスト飲料のもととなる液を意味する。原料液には、各工程で使用又は製造される液（例えば、糖含有液、煮沸後液、精製液、発酵前液、発酵後液）が含まれる。

【0051】

上述した本発明は、γ－ノナラクトンの含有量を０．４ｍｇ／Ｌ以上に調整することを含む、飲料の厚み・ふくらみ及びコクを向上させる方法と捉えることもできる。本実施形態に係る方法は、δ－ノナラクトンを配合すること、又はδ－ノナラクトンの含有量を所定の範囲に調整することを更に含んでいてもよい。本実施形態に係る方法における具体的な態様等として、上述した態様を制限なく適用することができる。

【実施例0052】

以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。

【0053】

〔試験例１：清涼飲料の製造及び評価〕
炭酸水に表１及び表２に示した濃度になるようにγ－ノナラクトン及びδ－ノナラクトン（いずれも、Ｓ体とＲ体の混合物）を添加して試験例１－１～１－７及び試験例２－１～２－５の清涼飲料を製造した。

【0054】

（官能評価）
試験例１－１～１－７の清涼飲料に対して、「厚み・ふくらみ」、「コク」、「ココナッツ様」及び「べたつき」の評価項目について官能評価を実施した。同様に、試験例２－１～２－５の清涼飲料に対して、「厚み・ふくらみ」、「コク」、「なめらかさ」及び「フルーツ様」の評価項目について官能評価を実施した。官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル４名により実施した。いずれの評価項目も評点０～３の４段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。

【0055】

「厚み・ふくらみ」は、風味のボリューム及び広がりを感じる感覚であり、評点が高いほど風味のボリュームが大きく、広がりがある感覚を強く感じることを示す。「コク」は、風味の持続性を伴う余韻を感じる感覚であり、評点が高いほど風味の持続性を伴う余韻を長く感じることを示す。「ココナッツ様」は、ココナッツの風味を感じる感覚であり、評点が高いほどココナッツの風味を強く感じることを示す。「べたつき」は、口内にまとわりつく、後味で雑味が残る感覚であり、評点が高いほどべたつきを強く感じることを示す。すなわち、「べたつき」は評点が低いほど好ましいことを意味する。「なめらかさ」は、後味のギザギザやざらざら感を感じる感覚であり、評点が高いほど後味のギザギザやざらざら感が少なく感じることを示す。「フルーツ様」は、熟度の高い有核果実の風味を感じる感覚であり、評点が高いほど当該風味を強く感じることを示す。

【0056】

なお、いずれの評価項目も試験例１－１の清涼飲料（炭酸水）の評点を０点として固定し、これを基準として他の清涼飲料を評価した。結果を表１及び表２に示す。

【0057】

【表1】

【0058】

【表2】

【0059】

表１に示すとおり、γ－ノナラクトンを０．４ｍｇ／Ｌ以上含有する飲料（試験例１－３～１－７の飲料）は、厚み・ふくらみ及びコクの評価スコアが顕著に向上しており、厚み・ふくらみ及びコクに優れていた。表２に示すとおり、γ－ノナラクトンに加えて、δ－ノナラクトンを更に含む飲料（試験例２－２～２－５の飲料）は、厚み・ふくらみ及びコクの評価スコアが維持されるか、又は更に向上しており、厚み・ふくらみ及びコクにより優れていた。さらに、δ－ノナラクトンを０．４μｇ／Ｌ以上１．６μｇ／Ｌ以下含有する飲料（試験例２－２～２－４の飲料）は、なめらかさ及びフルーツ様の評価スコアが顕著に向上しており、熟度の高い有核果実の風味が感じられると共になめらかさにも優れていた。

【0060】

〔試験例２：ビールテイスト飲料の製造及び評価〕
（ビールテイスト飲料の製造）
市販のビール（麦芽比率：１００質量％、アルコール度数：５．５ｖ／ｖ％）を用意し、試験例３－１のビールテイスト飲料とした。また、市販のビールにγ－ノナラクトン（Ｓ体とＲ体の混合物）を添加して試験例３－２～３－６のビールテイスト飲料を製造した。

【0061】

（γ－ノナラクトン含有量の測定）
ビールテイスト飲料のγ－ノナラクトン含有量は、固相マイクロ抽出－ガスクロマトグラフ－質量分析法（ＳＰＭＥ－ＧＣ－ＭＳ法）により測定した。具体的には、３ｇの塩化ナトリウムを入れたＳＰＭＥ用バイアルに試料８ｍＬを入れ密栓した。検量線は標準添加法にて作成した。各バイアルを５０℃で１５分間振盪した後、ＳＰＭＥ用ファイバー（Ｐｏｌｙｄｉｍｅｔｈｙｌｓｉｌｏｘａｎｅ／Ｄｉｖｉｎｙｌｂｅｎｚｅｎｅ６５μｍ：スペルコ社製）をバイアル中のヘッドスペースに露出させた。５０℃で３０分間、揮発性成分をファイバーに吸着させた後、注入口で３分間脱着させ、ＧＣ／ＭＳにより分析を行った。ＧＣ／ＭＳの分析条件は次のとおりであった。
分析機器：Ａｇｉｌｅｎｔ ＧＣ－ＭＳ ７８９０Ａ―５９７５Ｃ。
カラム：ＩｎｅｒｔＣａｐ ＰｕｒｅＷａｘ （ＧＬサイエンス） ３０ｍ×０．２５ｍｍ、膜厚０．２５μｍ。
注入法：スプリットレス注入。
コンスタントフロー：１ｍＬ／ｍｉｎ。
キャリアガス：Ｈｅ。
注入口温度：２７０℃。
トランスファーライン温度：２５０℃。
オーブン温度：４０℃（３ｍｉｎ）→５℃／ｍｉｎ→２５０℃（５ｍｉｎ）。
各ビールテイスト飲料中のγ－ノナラクトン含有量は、表３に示した。

【0062】

（官能評価）
試験例３－１～３－６のビールテイスト飲料に対して、「厚み・ふくらみ」、「コク」、「ココナッツ様」、「べたつき」、「穀物臭低減」及び「総合評価」の評価項目について官能評価を実施した。官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル４名により実施した。いずれの評価項目も評点０～３の４段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。

【0063】

「厚み・ふくらみ」、「コク」、「ココナッツ様」及び「べたつき」の評価項目についての説明は、試験例１で記載したとおりである。「総合評価」は、飲料としての完成度に基づき評価を行い、評点が高い程、飲料としての完成度が高いことを示す。「穀物臭低減」は、穀物臭（麦原料由来の麦臭さを感じる感覚）が低減されていることを意味し、評点が高い程、穀物臭が低減されていることを示す。

【0064】

なお、いずれの評価項目も試験例３－１のビールテイスト飲料（市販のビール）の評点を０点として固定し、これを基準として他のビールテイスト飲料を評価した。結果を表３に示す。

【0065】

【表3】

【0066】

表３に示すとおり、γ－ノナラクトンを０．４ｍｇ／Ｌ以上含有するビールテイスト飲料（試験例３－２～３－６のビールテイスト飲料）は、厚み・ふくらみ、コク、及び穀物臭低減の評価スコアが顕著に向上しており、厚み・ふくらみ及びコクに優れると共に、穀物臭が低減されていた。

【0067】

〔試験例３：ビールテイスト飲料の製造及び評価〕
麦芽、水、ココナッツ及びホップを使用し、常法に従って麦汁を得た。得られた麦汁にビール酵母を添加して常法に従って発酵を行い、発酵液を得た。得られた発酵液に香料（ココナッツフレーバー）を添加して、試験例４－１のビールテイスト飲料（アルコール度数：６ｖ／ｖ％）を得た。また、試験例４－１のビールテイスト飲料にγ－ノナラクトン及びδ－ノナラクトン（いずれも、Ｓ体とＲ体の混合物）を添加して試験例４－２～４－６のビールテイスト飲料を製造した。

【0068】

（γ－ノナラクトン含有量の測定）
ビールテイスト飲料のγ－ノナラクトン含有量は、試験例２と同じ手順で測定した。各ビールテイスト飲料中のγ－ノナラクトン含有量は、表４に示した。

【0069】

（δ－ノナラクトン含有量の測定）
ビールテイスト飲料のδ－ノナラクトン含有量は、γ－ノナラクトン含有量と同じ手順で測定した。各ビールテイスト飲料中のδ－ノナラクトン含有量は、表４に示した。

【0070】

（官能評価）
試験例４－１～４－６のビールテイスト飲料に対して、「厚み・ふくらみ」、「コク」、「ココナッツ様」、「べたつき」、「なめらかさ」、「穀物臭低減」及び「総合評価」の評価項目について官能評価を実施した。官能評価は、選抜された識別能力のあるパネル４名により実施した。いずれの評価項目も評点０～３の４段階で評価し、その平均値を評価スコアとした。各評価項目についての説明は、試験例１及び２で記載したとおりである。なお、いずれの評価項目も試験例３－１のビールテイスト飲料（市販のビール）の評点を０点として固定し、これを基準として他のビールテイスト飲料を評価した。結果を表４に示す。

【0071】

【表4】

【0072】

表４中、γ／δ比は、γ－ノナラクトンの含有量（ｍｇ／Ｌ）をδ－ノナラクトンの含有量（μｇ／Ｌ）で除した値である。

【0073】

表４に示すとおり、いずれのビールテイスト飲料もγ－ノナラクトンを０．４ｍｇ／Ｌ以上含有しており、厚み・ふくらみ及びコクの評価スコアが高く、厚み・ふくらみ及びコクに優れていた。