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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142906
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20230928BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
F04C18/344 351L
F04C29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050034
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 功史
【テーマコード(参考)】
3H040
3H129
【Fターム(参考)】
3H040AA08
3H040BB05
3H040BB07
3H040BB11
3H040CC05
3H040CC09
3H040DD05
3H040DD11
3H129AA05
3H129AA17
3H129AB02
3H129AB06
3H129BB43
3H129CC03
3H129CC09
(57)【要約】
【課題】内部リークを抑制可能なベーンポンプを提供する。
【解決手段】ベーンポンプ1は、カム面12によって画定されるポンプ室14を含むポンプケーシング10と、カム面12に対向する外周面21を有し、外周面21に複数のスリット22が形成されたロータ20と、複数のスリット22にそれぞれ配置された複数のベーン30と、を備える。カム面12は、ロータ20の中心Oを通る最小長さの第1軸60と、ロータ20の中心Oを通り且つ第1軸60に直交する最大長さの第2軸62とを有する非円形の輪郭13によって規定される。カム面12の輪郭13は、第1軸60を含む第1角度範囲θ1において、第1軸60が短軸であり且つ第2軸62が長軸である仮想楕円13’よりも径方向内側に位置する第1領域64を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム面によって画定されるポンプ室を含むポンプケーシングと、
前記カム面に対向する外周面を有し、前記外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
前記複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、
を備え、
前記カム面は、前記ロータの中心を通る最小長さの第1軸と、前記ロータの前記中心を通り且つ前記第1軸に直交する最大長さの第2軸とを有する非円形の輪郭によって規定され、
前記輪郭は、前記第1軸を含む第1角度範囲において、前記第1軸が短軸であり且つ前記第2軸が長軸である仮想楕円よりも径方向内側に位置する第1領域を有する
ベーンポンプ。
【請求項2】
前記輪郭は、前記第2軸を含む第2角度範囲において、前記仮想楕円よりも径方向外側に位置する第2領域を有する
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記中心から前記輪郭までの距離rは、前記中心の周りの角度θ、前記輪郭の最小径Rmin、および、前記輪郭の最大径Rmaxを用いて下記式(A)によって表される
請求項1又は2に記載のベーンポンプ。
【数4】
【請求項4】
前記第1角度範囲は、前記ポンプ室にそれぞれ連通するように前記第1軸を挟んで両側に設けられる吸気口及び排気口の間の角度範囲を含む
請求項1乃至3の何れか一項に記載のベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポンプ室のカム面に対向する外周面を有するロータと、ロータの外周面に形成された複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンとを含むベーンポンプが知られている。
【0003】
各々のベーンは、ロータの回転に起因した遠心力によって、ポンプ室のカム面に押し付けられながら、カム面上を摺動する。ポンプ室は、複数のベーンによって周方向に複数の隔室に分割される。各々の隔室は、ロータの回転に伴い、容積の縮小および拡大を繰り返しながら周方向に移動する。ポンプ室には、吸気口及び排気口が連通しており、吸気口の開口位置に到達した隔室に気体が流入し、排気口の開口位置に到達した隔室から気体が排出される。
【0004】
ロータに作用する圧力が釣り合う平衡型のベーンポンプの場合、一般に、ポンプ室のカム面の輪郭が楕円状である。
【0005】
これに対し、特許文献1には、ベーンポンプの摩耗およびノイズを低減する観点から、典型的な楕円状の輪郭よりも外側に軌跡を描くような輪郭によってカム面が規定されたベーンポンプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-59572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のベーンポンプでは、吸気口と排気口との間の内部リークが発生し得る。
具体的には、楕円状のカム面とロータの外周面との間の最小クリアランス部を介して、排気口に連通する隔室から吸気口に連通する隣の隔室へと気体が意図せず漏れ出てしまう可能性がある。
【0008】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、内部リークを抑制可能なベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係るベーンポンプは、
カム面によって画定されるポンプ室を含むポンプケーシングと、
カム面に対向する外周面を有し、外周面に複数のスリットが形成されたロータと、
複数のスリットにそれぞれ配置された複数のベーンと、
を備え、
カム面は、ロータの中心を通る最小長さの第1軸と、ロータの中心を通り且つ第1軸に直交する最大長さの第2軸とを有する非円形の輪郭によって規定され、
カム面の輪郭は、第1軸を含む第1角度範囲において、第1軸が短軸であり且つ第2軸が長軸である仮想楕円よりも径方向内側に位置する第1領域を有する。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
カム面の輪郭は、第2軸を含む第2角度範囲θ2において、仮想楕円よりも径方向外側に位置する第2領域を有する。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
ロータの中心から輪郭までの距離rは、ロータの中心の周りの角度θ、輪郭の最小径Rmin、および、輪郭の最大径Rmaxを用いて下記式(A)によって表される。
【数1】
【0012】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)~(3)の構成において、
第1角度範囲θ1は、ポンプ室にそれぞれ連通するように第1軸を挟んで両側に設けられる吸気口及び排気口の間の角度範囲θを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、カム面の輪郭が楕円状である典型的なベーンポンプに比べて、ロータの外周面とカム面との間のクリアランスが十分に小さいシール領域の長さを確保することが容易になり、ベーンポンプ内におけるリーク流が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るベーンポンプの内部構造を示す図である。
図2】一実施形態に係るカム面の輪郭を示す図である。
図3】一実施形態に係るカム面の輪郭とロータ中心Oとの間の距離rを角度θの関数として示したグラフである。
図4】他の実施形態に係るカム面の輪郭を示す図である。
図5】他の実施形態に係るカム面の輪郭とロータ中心Oとの間の距離rを角度θの関数として示したグラフである。
図6】他の実施形態に係るカム面の輪郭を示す図である。
図7】他の実施形態に係るカム面の輪郭とロータ中心Oとの間の距離rを角度θの関数として示したグラフである。
図8】一実施形態に係るベーンポンプの全体構造を示す概略的な分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0016】
図1は、一実施形態に係るベーンポンプの内部構造を示す図である。
幾つかの実施形態において、図1に示すように、ベーンポンプ1は、ポンプケーシング10と、ポンプケーシング10内に回転可能に設けられるロータ20とを含む。
【0017】
ポンプケーシング10は、ロータ20が収容されるポンプ室14を有する。ポンプ室14は、ポンプケーシング10の内周面であるカム面12によって画定される。カム面12は、滑らかな曲線からなる非円形の輪郭13によって規定される。カム面12を規定する非円形の輪郭13については、後で詳述する。
【0018】
ポンプ室14には、少なくとも一つの吸気口40、および、少なくとも一つの排気口50が連通している。
図1に示す例示的な実施形態では、ポンプ室14に対して、ロータ20の中心Oを挟んで両側に一対の吸気口40(40A,40B)と、ロータ20の中心Oを挟んで両側に一対の排気口50(50A,50B)とが連通する。吸気口40Aおよびこれに対応する排気口50Aは、ポンプケーシング10のカム面12とロータ20の外周面21との間の最小クリアランス部11Aを挟んで両側に配置される。同様に、吸気口40Bおよびこれに対応する排気口50Bは、ポンプケーシング10のカム面12とロータ20の外周面21との間の最小クリアランス部11Bを挟んで両側に配置される。
【0019】
ロータ20は、不図示の回転シャフトを介して後述するモータ80(図8参照)に連結され、ポンプ室14内において中心O周りに回転可能に構成される。
【0020】
ロータ20は、点Oを中心とする円形の輪郭によって規定される外周面21を有する。外周面21には、複数のスリット22が形成される。
図1に示す例示的な実施形態では、6本のスリット22が、ロータ20の周方向に均等な間隔で外周面21に形成されている。各々のスリット22の延在方向は、ロータ20の径方向内側におけるスリット22の端24から外周面21上におけるスリット22の開口端に近づくにつれてロータ20の回転方向の下流側に向かうように、ロータ20の径方向に対して斜めになっていてもよい。図1に示す例では、ロータ20の回転方向が反時計周りであり、各々のスリット22は、径方向内側の端24から外周面21上の開口端に近づくにつれてロータ20の回転方向の下流側(反時計周り)に向かうように、径方向に対して斜めになっている。
【0021】
複数のスリット22には、それぞれ、スリット22内を往復動可能な複数のベーン30が設けられる。
各々のベーン30は、ロータ20の回転に起因した遠心力によって、ポンプ室14のカム面12に押し付けられながら、カム面12上を摺動する。各々のベーン30の外周面21からの突出長さは、ロータ20の回転位相に応じて周期的に変化する。具体的には、最小クリアランス部11(11A,11B)を通過するとき、ベーン30の外周面21からの突出長さは最小(ゼロであってもよい。)となり、一対の最小クリアランス部11(11A,11B)の中間の角度位置においてベーン30の外周面21からの突出長さは最大となる。
【0022】
周方向において隣り合う一対のベーン30間には、これら一対のベーン30と、カム面12と、ロータ20の外周面21とによって隔室15が画定される。図1に示す例示的な実施形態では、6本のベーン30によってポンプ室14が6個の隔室15に分割される。ロータ20の回転によって隔室15を画定する一対のベーン30が周方向に移動すると、隔室15も容積の縮小および拡大を繰り返しながら周方向に移動する。
隔室15が吸気口40(40A,40B)の開口位置に到達したとき、隔室15の容積は拡大傾向であり、吸気口40から隔室15に気体が取り込まれる。この後、しばらくの間は隔室15の容積は隔室15の周方向の移動に伴い拡大を続けるが、隔室15が排気口50(50A,50B)の開口位置に近づく過程で、隔室15の容積は減少に転じる。隔室15が排気口50(50A,50B)の開口位置に到達したとき、隔室15の容積は縮小傾向であるため、隔室15内の気体が排気口50から排出される。
こうして、吸気口40からベーンポンプ1に吸入された気体が、排気口50から排出される。
【0023】
図1に示す例示的な実施形態では、各々のベーン30は、ベーン30の長さ方向(スリット22の延在方向)に対して斜めの先端面31を有する。
先端面31は、ロータ20の回転方向の下流側において、カム面12と接触する接触部33を有する。先端面31のうち接触部33よりも回転方向上流側の部位は、接触部33を基準としてカム面12から後退しており、カム面12との間に隙間が形成される。このような斜めの先端面31を有するベーン30は、ベーン30の厚さ方向に関してベーン長が一定ではなく、ロータ20の回転方向の下流側に向かってベーン長が大きくなる。
【0024】
図2は、一実施形態に係るカム面12の輪郭13Aを示す図であり、ロータ20の中心Oを原点とする極座標系にカム面12の輪郭13Aを図示したものである。図3は、中心Oから輪郭13Aまでの距離rを角度θの関数として示したグラフである。
図4は、他の実施形態に係るカム面12の輪郭13Bを示す図であり、ロータ20の中心Oを原点とする極座標系にカム面12の輪郭13Bを図示したものである。図5は、中心Oから輪郭13Bまでの距離rを角度θの関数として示したグラフである。
図6は、さらに別の実施形態に係るカム面12の輪郭13Cを示す図であり、ロータ20の中心Oを原点とする極座標系にカム面12の輪郭13Cを図示したものである。図7は、中心Oから輪郭13Cまでの距離rを角度θの関数として示したグラフである。
【0025】
図2図4及び図6に示すように、輪郭13(13A~13C)は、ロータ20の中心Oを通る最小長さの第1軸60と、ロータ20の中心Oを通り且つ第1軸60に直交する最大長さの第2軸62とを有する非円形である。第1軸60は、点P2及び点P4を結んだ線分P2-P4である。点P2及び点P4は、それぞれ、図1に示した最小クリアランス部11A及び11Bに対応する。第2軸62は、点P1及び点P3を結んだ線分P1-P3である。線分P1-P3は、上述の線分P2-P4に直交する。
なお、輪郭13(13A~13C)は、それぞれ、第1軸60を対象軸とした線対称の図形であってもよい。また、輪郭13(13A~13C)は、それぞれ、第2軸62を対象軸とした線対称の図形であってもよい。
【0026】
ここで、輪郭13(13A~13C)上の任意の点Pの座標は、ロータ20の中心O(原点O)から点Pまでの距離rと角度θによって表すことができる。
図2図7に示すように、点P1及び点P3において(θ=0およびθ=π)、距離rは最大径Rmaxとなる。点P2及び点P4において(θ=π/2およびθ=3π/2)、距離rは最小径Rminとなる。すなわち、ロータ20の中心から輪郭13(13A~13C)までの距離rは、点P1及び点P3において最大となり(r=Rmax)、点P2及び点P4において最小となる(r=Rmin)。
なお、輪郭13(13A~13C)の第1軸60の長さはRminの2倍であり、中心Oを通過する輪郭13上の任意の組み合わせの2点を結んだ線分の長さの最小値である。同様に、輪郭13(13A~13C)の第2軸の長さはRmaxの2倍であり、中心Oを通過する輪郭13上の任意の組み合わせの2点を結んだ線分の長さの最大値である。
【0027】
上述の輪郭13(13A~13C)は、短径が最小径Rmin、長径が最大径Rmaxである楕円とは異なる形状である。
【0028】
図2図7に示す輪郭13’は、第1軸60が短軸であり且つ第2軸62が長軸である仮想楕円である。楕円形状の輪郭13’は、下記式によって表すことができる。なお、下記式において、r’はロータ20の中心Oから輪郭13’までの距離を意味し、θはロータ20の中心O周りの角度位置を示す。
【数2】
【0029】
幾つかの実施形態では、カム面12の輪郭13(13A~13C)は、第1軸60を含む第1角度範囲θ1において、輪郭13’によって規定される仮想楕円よりも径方向内側に位置する第1領域64を有する。
すなわち、第1領域64において、原点Oから輪郭13(13A~13C)までの距離r(θ)は、輪郭13’の原点Oからの距離r’(θ)よりも小さい。
【0030】
図2及び図3に示す実施形態では、カム面12の輪郭13Aは、仮想楕円の輪郭13’と点P1~P4を共有するとともに、仮想楕円の輪郭13’と4つの点Pcで交差する。輪郭13Aのうち、点Pcと点P2との間の区域、および、点Pcと点P4との間の区域は、r(θ)<r’(θ)を満たす第1領域64を構成する。
図4及び図5に示す実施形態では、カム面12の輪郭13Bは、仮想楕円の輪郭13’と点P1~P4を共有するとともに、仮想楕円の輪郭13’と4つの点Pcで接する。輪郭13Bのうち、点Pcと点P2との間の区域、および、点Pcと点P4との間の区域は、r(θ)<r’(θ)を満たす第1領域64を構成する。
図6及び図7に示す実施形態では、カム面12の輪郭13Cは、仮想楕円の輪郭13’と点P1~P4を共有する。輪郭13Cのうち点P1~P4を除く全区域が、r(θ)<r’(θ)を満たす第1領域64を構成する。
【0031】
ここで、幾つかの実施形態では、カム面12の輪郭13(13A~13C)は、仮想楕円の輪郭13’と点P1~P4を共有するだけでなく、点P1~P4における輪郭13(13A~13C)の接線と、点P1~P4における輪郭13’の接線とが一致してもよい。
すなわち、カム面12の輪郭13(13A~13C)は、点P1~P4において、仮想楕円の輪郭13’と接していてもよい。
【0032】
なお、内部リークの主たる発生場所は、吸気口40及び排気口50の間の角度範囲θ*(図1参照)である。
よって、カム面12の輪郭13(13A~13C)が仮想楕円の輪郭13’よりも径方向内側に位置する第1角度範囲θ1(図2図5及び図7参照)は、第1軸60を挟んで両側に設けられる吸気口40及び排気口50の間の角度範囲θ*(図1参照)を少なくとも部分的に含んでいてもよい。一実施形態では、第1角度範囲θ1は、吸気口40及び排気口50の間の角度範囲θ*の全体を含む。
例えば、図1に示す例では、吸気口40及び排気口50の間の角度範囲θ*を用いて、第1角度範囲θ1は、θ*[deg]-10deg≦θ1[deg]≦θ*[deg]+40degを満たすように設定されてもよい。典型的なベーンポンプでは、θ*は30°以上50°以下である。この場合、第1角度範囲θ1は20°以上90°以下であってもよく、例えば50°以上80°以下であってもよい。
【0033】
上述のとおり、カム面12の輪郭13(13A~13C)は、第1軸60を含む第1角度範囲θ1において、r(θ)<r’(θ)を満たす第1領域64を有する。
このため、カム面が楕円状である輪郭13’を有する場合に比べて、第1角度範囲θ1におけるロータ20の外周面21とカム面12との間のクリアランスが狭くなる。よって、ロータ20の外周面21とカム面12との間のクリアランスが十分に小さいシール領域(すなわち、最小クリアランス部11近傍の領域)の長さを確保することが容易になり、ベーンポンプ1内におけるリーク流が低減される。
【0034】
幾つかの実施形態では、図2及び図3に示すように、カム面12の輪郭13Aは、第2軸62を含む第2角度範囲θ2において、仮想楕円の輪郭13’よりも径方向外側に位置する第2領域66を有する。すなわち、第2領域66において、原点Oから輪郭13Aまでの距離r(θ)は、輪郭13’の原点Oからの距離r’(θ)よりも大きい。
カム面12の輪郭13Aは、点P1を含む第2角度範囲θ2、および、点P3を含む第2角度範囲θ2のそれぞれにおいて、点P1又は点P3を挟んで両側に一対の第2領域66を有していてもよい。
【0035】
幾つかの実施形態では、図2及び図3に示すように、仮想楕円の輪郭13’と4つの点Pcで交差し、各々の点Pcを境に第1領域64と第2領域66とが隣り合う。
【0036】
このように、仮想楕円の輪郭13’と4つの点Pcで交差し、点Pcを境に第1領域64と第2領域66とが隣り合うような輪郭13Aは、例えば、下記式(A)によって表されてもよい。
【数3】
上記式(A)において、rはロータ20の中心Oからカム面12の輪郭13Aまでの距離であり、θはロータ20の中心Oの周りの角度であり、Rmin及びRmaxは、それぞれ、輪郭13Aの最小径及び最大径である。右辺第1項は、輪郭13Aの最小径Rminと最大径Rmaxの平均径Raveを意味する。上述した特徴を有する輪郭13Aにおける任意の角度位置θでの距離rを表現するためには、平均径Raveに対して右辺第2項を付加する必要がある。右辺第2項は、RmaxとRminとの間で変化する距離rを表現するために、輪郭13Aの最大径Rmaxと平均径Raveとの差(半幅)に対して、-1以上1以下の角度位置θに依存する変数αを乗算したものである。右辺第2項の前半部分は、輪郭13Aの最大径Rmaxと平均径Raveとの差(半幅)を意味する。右辺第2項の後半部分は、-1以上1以下の角度位置θに依存する変数αを意味する。θ=0及びθ=πのとき、変数αは1であり、r=Rmaxとなる。これに対し、θ=π/2及びθ=3π/2のとき、変数αは-1であり、r=Rminとなる。
【0037】
他の実施形態では、図4及び図5に示すように、カム面12の輪郭13Bは、第2軸62を含む第3角度範囲θ3において、仮想楕円の輪郭13’と一致する第3領域68を有する。
すなわち、第3領域68において、原点Oから輪郭13Bまでの距離r(θ)は、輪郭13’の原点Oからの距離r’(θ)と等しい。
【0038】
カム面12の輪郭13Bは、複数種の曲線を滑らかに接続することで形成してもよい。
例えば、仮想楕円の輪郭13’よりも径方向内側に位置する第1領域64を規定する曲線と、仮想楕円の輪郭13’と一致する第3領域68を規定する曲線によって、カム面12の輪郭13Bを形成してもよい。
あるいは、カム面12の輪郭13Bは、第1角度範囲θ1の一部において、上記式(A)によって表される輪郭を有し、第3角度範囲θ3の一部において仮想楕円の輪郭13’を有し、さらにこれら2種類の曲線とは別に、上記式(A)の輪郭と仮想楕円13’とを滑らかに接続する曲線からなる輪郭を点Pc近傍に有していてもよい。
【0039】
続けて、図8を参照して、上述した実施形態に係るベーンポンプ1の全体構造について述べる。
【0040】
図8は、一実施形態に係るベーンポンプ1の全体構造を示す概略的な分解斜視図である。
図8に例示的に示すベーンポンプ1は、バキュームポンプであってもよい。例えばベーンポンプ1は、自動車等の車両におけるブレーキブースター(マスターバック)の負圧室内を負圧にするためのベーン式の電動バキュームポンプであってもよい。
以下において「上」及び「下」とは、ベーンポンプ1が車両に設置された状態における「上」及び「下」を意味する。
【0041】
図8に示すように、ベーンポンプ1は、ポンプケーシング10と、ポンプケーシング10内に回転可能に設けられるロータ20とを含む。ロータ20は、ポンプケーシング10の下方に設けられたモータ80によって駆動され、中心O周りに回転する。
【0042】
ポンプケーシング10は、ロータ20が収容されるポンプ室14を有する。ポンプ室14は、ポンプケーシング10の内周面であるカム面12によって画定される。カム面12は、上述した非円形の輪郭13(13A~13C)によって規定される。
【0043】
ロータ20は、点Oを中心とする円形の輪郭によって規定される外周面21を有する。外周面21には、複数のスリット22が形成される。各々のスリット22には、ポンプ室14を複数の隔室15(図1参照)に分割するベーン30が設けられる。
【0044】
図8に示す例では、ポンプケーシング10は、ロータ20が収容されるポンプ室14の底面および側面を形成する凹部を有するポンプケーシング本体70と、ポンプ室14の上面を形成するポンプカバー72とを含む。
ポンプカバー72の上方には、ポンプカバー72を覆うトップカバー74が設けられる。ポンプケーシング本体70とモータ80との間には、ポンプケーシング本体70の下側を覆うボトムカバー76が設けられる。
【0045】
ポンプケーシング本体70は、ポンプ室14に向かう気体流れの入口である吸気ポート90を有する。
吸気ポート90は、ポンプケーシング本体70に設けられた連通路91Aと、ポンプカバー72に設けられた連通路91Bとを介して、ポンプカバー72とトップカバー74との間に形成される吸気通路93に導かれる。連通路91Bは、ポンプカバー72を貫通しており、ポンプケーシング本体70に設けられた連通路91Aを通過後の気体は、連通路91Bを通ってポンプカバー72の上方に形成される吸気通路93へと流入する。吸気通路93は、ポンプカバー72に設けられた吸気口40(40A,40B)を介してポンプ室14(隔室15)に連通している。
吸気通路93は、ポンプカバー72に設けられた隔壁部94によって後述する排気通路95から流体的に隔離される。隔壁部94によって囲まれる吸気通路93は、ロータ20の中心Oを挟んで反対側に位置する一対の吸気口40A,40Bを介してポンプ室14(隔室15)と連通するように、ロータ20の径方向に沿って、連通路91Bから中心Oを挟んで反対側に向かって延在する。
これにより、最小クリアランス部11(図1参照)の近傍でポンプ室14に開口する吸気口40(40A,40B)を介して、吸気ポート90からの気体がポンプ室14(隔室15)内に取り込まれる。
【0046】
ポンプカバー72は、ポンプ室14から排出される気体流れの出口である排気ポート92を有する。
排気ポート92は、ポンプカバー72とトップカバー74との間に形成される排気通路95に連通する。排気通路95は、上述のとおり、吸気通路93を取り囲む隔壁部94によって吸気通路93と流体的に隔離される。ポンプカバー72は、排気通路95と連通する連通路96を有する。ポンプカバー72の連通路96は、ポンプケーシング本体70に設けられた連通路97と、ポンプ室14を形成するポンプケーシング本体70の凹部の底面に開口する排気口50(50A,50B)とを介してポンプ室14(隔室15)に連通する。なお、図8には、最小クリアランス部11A(図1参照)を挟んで吸気口40Aとは反対側に設けられる排気口50Aのみを示している。
排気口50(50A,50B)を介してポンプ室14から排出された気体は、ポンプケーシング本体70の連通路97を介してポンプ室14の側方を上方に向かって流れ、連通路96を介して、ポンプカバー72の上方に形成される排気通路95に流入する。この後、排気通路95内の気体は、排気通路95に連通する排気ポート92を介して外部に排出される。
【0047】
上述した幾つかの実施形態では、ポンプ室14のカム面12の輪郭13は、第1軸60を含む第1角度範囲θ1において、第1軸60が短軸であり且つ第2軸62が長軸である仮想楕円13’よりも径方向内側に位置する第1領域64を有する。これにより、カム面の輪郭が楕円状である典型的なベーンポンプに比べて、第1角度範囲θ1におけるロータ20の外周面21とカム面12との間のクリアランスが狭くなる。よって、ロータ20の外周面21とカム面12との間のクリアランスが十分に小さいシール領域の長さを確保することが容易になり、ベーンポンプ1内におけるリーク流が低減される。
【0048】
ベーンポンプ1の押しのけ容積を増大させるためには、第2軸62の長さを大きくすることが考えられる。しかし、第2軸62の長さを大きくすると、ロータ20のスリット22へのベーン30のかかり代(係合長さ)が減少することから、ベーン30の許容摩耗長さを小さくする必要があり、ベーンポンプ1の耐久寿命が減少してしまう。また、ロータ20のスリット22へのベーン30のかかり代(係合長さ)の減少に伴い、ベーン30の背面とスリット22との接触面積の減少に起因して接触面圧が増加し、ベーン30の背面およびスリット22の摩耗が進行してしまう。ベーン30の背面およびスリット22の摩耗は、スリット22とベーン30との間のクリアランス(スリットクリアランス)を介したベーンポンプ1の内部リークの増加を招く。
この点、上述の幾つかの実施形態では、カム面の輪郭が楕円状である典型的なベーンポンプに比べて、第2角度範囲θ2における隔室15の容積が増加する。このため、第1軸60および第2軸62の長さを維持したまま、ベーンポンプ1の押しのけ容積を増大させることができる。
【0049】
また、上記式(A)を満たすカム面12の輪郭13Aは、第1軸60を含む第1角度範囲θ1では、第1軸60が短軸であり且つ第2軸62が長軸である仮想楕円13’よりも径方向内側に位置する第1領域64を有する。また、上記式(A)を満たすカム面12の輪郭13Aは、第2軸62を含む第2角度範囲θ2において、仮想楕円13’よりも径方向外側に位置する第2領域66を有する。
また、上記式(A)を満たす輪郭13Aは、変曲点の無いスムーズな曲線として実現可能である。
【0050】
上述の幾つかの実施形態によれば、リーク流の発生場所である吸気口40と排気口50との間の角度範囲θ*において、カム面12の輪郭13が仮想楕円13’よりも径方向内側に位置することで、カム面の輪郭が楕円状である典型的なベーンポンプに比べて吸気口40と排気口50との間のリーク流を効果的に低減できる。
【0051】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0052】
1 ベーンポンプ
10 ポンプケーシング
12 カム面
13 仮想楕円
13 輪郭
14 ポンプ室
20 ロータ
21 外周面
22 スリット
30 ベーン
40 吸気口
50 排気口
60 第1軸
62 第2軸
64 第1領域
66 第2領域
O ロータ中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8