IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2023-142922多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置
<>
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図1
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図2
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図3
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図4
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図5
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図6
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図7
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図8
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図9
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図10
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図11
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図12
  • -多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142922
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20230928BHJP
   A01G 13/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A01G31/00
A01G13/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050056
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】市毛 敬介
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊英
(72)【発明者】
【氏名】河上 充佳
【テーマコード(参考)】
2B024
2B314
【Fターム(参考)】
2B024DB10
2B024DC01
2B024DC03
2B024DC10
2B314PC24
2B314PC29
2B314PC38
2B314PC42
2B314PC44
2B314PC48
2B314PC50
(57)【要約】
【課題】 多孔質構造物において、環境負荷を低減できる技術を提供する。
【解決手段】 多孔質構造物は、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造物であって、
植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する、
ことを特徴とする多孔質構造物。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質構造物であって、
前記植物は、水生植物である、
ことを特徴とする多孔質構造物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の多孔質構造物であって、
前記植物は、茎の一部が切り取られている、
ことを特徴とする多孔質構造物。
【請求項4】
植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する多孔質構造物の製造方法であって、
水槽内の液体中に設置されている、対向する一対の部材の間で植物の根を成長させる第1工程と、
前記第1工程で成長させた植物の根を前記一対の部材の間から取り出す第2工程と、を備える、
ことを特徴とする多孔質構造物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質構造物の製造方法であって、
前記第2工程では、前記一対の部材を植物の根とともに液体から取り出したのち、前記一対の部材を前記植物の根から取り外して、前記植物の根を前記一対の部材の間から取り出す、
ことを特徴とする多孔質構造物の製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の多孔質構造物の製造方法は、さらに、
前記第1工程で育てた植物の茎の一部を切り取る第3工程を備える、
ことを特徴とする多孔質構造物の製造方法。
【請求項7】
植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する多孔質構造物の製造装置であって、
液体を貯留する水槽と、
前記水槽の液体中に設置される型枠であって、前記型枠の内側で成長する植物の根の成長方向を制限する型枠と、を備える、
ことを特徴とする多孔質構造物の製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の多孔質構造物の製造装置であって、
前記型枠は、
円柱形状を有する第1部材と、
前記第1部材を収容する収容部を有する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とを接続する接続部と、を備え、
前記第1部材は、前記第2部材との間に、植物の根が成長するための隙間をあけて、前記収容部に収容されている、
ことを特徴とする多孔質構造物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造物、多孔質構造物の製造方法、および、多孔質構造物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質構造物が知られている。例えば、特許文献1には、セラミックスから形成されている多孔質構造物が開示されている。特許文献2には、熱可塑性樹脂から多孔質構造物を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-139400号公報
【特許文献2】特開2015-101030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2のような先行技術によっても、多孔質構造物において、環境負荷を低減する技術については、なお、改善の余地があった。例えば、特許文献1に記載の多孔質構造物は、セラミックスから形成されているため、自然環境中では分解されない。このため、使用後に破砕処理などによって細かく砕いたのちに埋め立てる必要があり、環境負荷が増大する。また、特許文献2に記載の多孔質構造物は、原油を原料とする樹脂から形成されているため、使用後に放置しても自然環境中で分解されない。さらに、樹脂を処分するときに燃焼すると、二酸化炭素などを含む燃焼ガスが排出されるため、環境負荷が増大する。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、多孔質構造物において、環境負荷を小さくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、多孔質構造物が提供される。この多孔質構造物は、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する。
【0008】
この構成によれば、板状の形状を有する多孔質構造物は、有機物である植物の根が互いに絡み合うことで形成されている。これにより、多孔質構造物は、自然環境中で分解されやすいため、多孔質構造物の使用による環境への影響は小さい。したがって、環境負荷を小さくすることができる。
【0009】
(2)上記形態の多孔質構造物において、前記植物は、水生植物であってもよい。この構成によれば、多孔質構造物は、水生植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する。これにより、多孔質構造物は、水耕栽培によって製造することができる。したがって、環境の変化に左右されず、安定して大量に製造することができる。
【0010】
(3)上記形態の多孔質構造物において、前記植物は、茎の一部が切り取られていてもよい。この構成によれば、多孔質構造物は、茎の一部が切り取られた植物の根が互いに絡み合うことで、板状の形状を形成している。これにより、多孔質構造物の形状を植物の根によって所望の形状とすることができる。
【0011】
(4)本発明の別の形態によれば、多孔質構造物の製造方法が提供される。この多孔質構造物の製造方法は、水槽内の液体中に設置されている、対向する一対の部材の間で植物の根を成長させる第1工程と、前記第1工程で成長させた植物の根を前記一対の部材の間から取り出す第2工程と、を備える。この構成によれば、多孔質構造物の製造方法では、液体中に設置されている一対の部材の間で植物の根を成長させることで、板状の形状を有する多孔質構造物を製造する。このように、多孔質構造物は、水耕栽培によって製造することができるため、環境の変化に左右されず、安定して大量に製造することができる。
【0012】
(5)上記形態の多孔質構造物の製造方法において、前記第2工程では、前記一対の部材を植物の根とともに前記水槽内から取り出したのち、前記植物の根を前記一対の部材の間から取り出してもよい。この構成によれば、一対の部材は、水槽に対して脱着可能な構成を有している。これにより、多孔質構造物を一対の部材とともに水槽から取り出したのち、多孔質構造物から一対の部材を取り外すことで、多孔質構造物を製造することができるため、多孔質構造物を容易に製造することができる。
【0013】
(6)上記形態の多孔質構造物の製造方法は、前記第1工程で成長した植物の茎の一部を切り取る第3工程を備えていてもよい。この構成によれば、多孔質構造物は、第3工程として、一対の部材の間で成長した、植物の根が絡み合った板状の形状を有する部分を利用できるように、植物の茎の一部を切り取る。これにより、多孔質構造物の形状を所望の形状とすることができる。
【0014】
(7)本発明のさらに別の形態によれば、多孔質構造物の製造装置が提供される。この多孔質構造物の製造装置は、液体を貯留する水槽と、前記水槽内の液体中に少なくとも一部が設置される型枠であって、前記型枠の内側で成長する植物の根の成長方向を制限する型枠と、を備える。この構成によれば、多孔質構造物の製造装置は、植物の根の成長方向を制限する型枠を備えている。これにより、植物の根が互いに絡み合った板状の形状を有する多孔質構造物を所望の形状とすることができる。
【0015】
(8)上記形態の多孔質構造物の製造装置において、前記型枠は、円柱形状を有する第1部材と、前記第1部材を収容する収容部を有する第2部材と、前記収容部に収容されている前記第1部材と前記第2部材とを接続する接続部であって、前記第1部材と前記収容部との間に、植物の根が成長するための隙間を形成する接続部と、を備えていてもよい。この構成によれば、型枠は、円柱形状を有する第1部材と、第1部材を収容する第2部材とを接続する接続部を備えている。接続部は、第1部材と第2部材の収容部との間に、植物の根が成長するための隙間を形成するように、第1部材と第2部材とを接続する。これにより、第1部材と収容部との間で、曲面を有する多孔質構造物を製造することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、植物の根が絡み合った塊状の形状を有する多孔質構造物、特定の機能を発揮する物質を担持する多孔質構造物、多孔質構造物を含む部材、多孔質構造物の利用方法、などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の多孔質構造物の概略構成を示す模式図である。
図2】多孔質構造物の断面図である。
図3】多孔質構造物の製造装置の概略構成を示す模式図である。
図4】第1実施形態の多孔質構造物を製造するための型枠の模式図である。
図5】多孔質構造物の製造装置における型枠の設置例を示す模式図である。
図6】多孔質構造物の製造方法を説明する第1の図である。
図7】多孔質構造物の製造方法を説明する第2の図である。
図8】多孔質構造物の製造方法を説明する第3の図である。
図9】多孔質構造物の製造方法を説明する第4の図である。
図10】多孔質構造物の使用例を説明する図である。
図11】第2実施形態の多孔質構造物の概略構成を示す模式図である。
図12】第2実施形態の多孔質構造物を製造するための型枠の模式図である。
図13】第1実施形態の型枠の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の多孔質構造物の概略構成を示す模式図である。図2は、本実施形態の多孔質構造物の断面図であって、図1のA-A線断面図である。本実施形態の多孔質構造物1は、植物の根5aが絡み合って形成されている、植物根構造物である。具体的には、多孔質構造物1は、図2の多孔質構造物1の断面図に示すように、植物の根5aが絡み合うことで、所定の形状を有する多孔質材となっている。本実施形態では、図1に示すように、多孔質構造物1は、水生植物の根5aが絡み合った略矩形の平板形状を有する。なお、図1,2のそれぞれには、多孔質構造物1の外形を示す外形線S5が点線で示されている。
【0019】
図3は、多孔質構造物の製造装置の概略構成を示す模式図である。次に、多孔質構造物1の製造装置について、説明する。多孔質構造物の製造装置10(以下、単に「製造装置10」という)は、水槽11と、型枠20と、上蓋12と、定植パネル13と、タンク14と、ポンプ15と、コンプレッサ16と、分散板17と、を備える。
【0020】
水槽11は、多孔質構造物1を水耕栽培によって製造するための培養液11aを貯留する。型枠20は、水槽11の培養液に漬かるように、水槽11に設置される。本実施形態では、型枠20は、水槽11に対して着脱可能な形状を有している。
【0021】
図4は、本実施形態の多孔質構造物の製造装置が備える型枠の模式図である。図4(a)は、型枠20が備える平板部材21の正面図であり、図4(b)は、平板部材21の平面図であり、図4(c)は、平板部材21の側面図である。図4に示す平板部材21は、培養液中で腐食しない、例えば、アクリル、ポリカーボネート、テフロン(登録商標)などから形成されており、板部21aと、拡幅部21bと、2つの係合部21cと、を備える。板部21aは、平板状に形成されており、培養液11aが入れられている型枠20を水槽11に設置すると、培養液11a中に位置する。板部21aに接続する拡幅部21bは、水槽11の内側の幅とほぼ同じ幅となるように形成されている。これにより、拡幅部21bは、平板部材21が水槽11に設置されると、水槽11の内側に接触する。2つの係合部21cのそれぞれは、拡幅部21bを挟むように配置され、拡幅部21bに接続している。
【0022】
図5は、本実施形態の多孔質構造物の製造装置における型枠の設置例を示す模式図である。図5(a)は、平板部材21の正面側から見た図であり、図5(b)は、平板部材21の上方から見た図であり、図5(c)は、平板部材21の側方から見た図である。図5(a)に示すように、平板部材21を水槽11に設置するとき、係合部21cを水槽11の開口側の縁11bに係合させることで、水槽11に支持される。このとき、図5(a)に示すように、板部21aは、水槽11の内側において、水槽11の内底面11cおよび内側面11dから離間した状態が維持される。
【0023】
本実施形態では、図5(b)および図5(c)に示すように、2つの平板部材21を組み合わせた一対の平板部材21の間の距離dが、多孔質構造物1の厚みd(図2参照)となるように、平板部材21が一列に並べられている。一対の平板部材21からなる型枠20は、水槽11の内底面11cに対向する部分と、内側面11dに対向する部分とが開放されている。これにより、型枠20の内側には、培養液が流入しやすくなっている。本実施形態の多孔質構造物の製造方法では、一対の平板部材21の間で水生植物の根5aを成長させて、多孔質構造物1を製造する。
【0024】
図3に戻り、上蓋12は、略平板状の部材である。上蓋12は、水槽11の開口部分を塞ぐように配置されている。
【0025】
定植パネル13は、例えば、合成樹脂からなるスポンジ状の部材であって、型枠20の上端部に配置される。本実施形態では、定植パネル13は、図3に示すように、上蓋12に形成されている貫通孔13aに嵌め込まれている。定植パネル13は、多孔質構造物の製造方法において、水生植物の種が播種される。これにより、多孔質構造物の製造方法では、水生植物は、定植パネル13を中心として、定植パネル13の上方に茎が成長していく一方、定植パネル13の下方であって型枠20の内側に根が成長していくこととなる。
【0026】
タンク14は、水槽11の培養液11aを貯留している。タンク14と水槽11とは、流路部14a,14bとによって接続されている。流路部14aは、タンク14内の培養液11aを水槽11に送るための流路を有する。流路部14aは、タンク14側の先端に、タンク14内の培養液11aに含まれる異物を除去するためのフィルタ14cを有する。流路部14aには、タンク14内の培養液11aを水槽11に送るためのポンプ15が設置されている。流路部14bは、水槽11内の培養液11aをタンク14内に送るための流路を有する。流路部14bは、流路部14bが有する流路での培養液11aの流れを制御するバルブ14dを有する。
【0027】
コンプレッサ16は、流路部16aを介して、水槽11の内側に接続されている。コンプレッサ16は、外部の空気を加圧し、水槽11内の培養液11aに空気を注入する。流路部16aは、水槽11側の端部に、多孔質材料からなる分散板17を有する。分散板17は、空気を細かい気泡に変換する。これにより、分散板17は、水槽11内の培養液11a中の溶存酸素濃度を増大させることができる。
【0028】
次に、本実施形態の多孔質構造物1の製造方法の詳細を説明する。本実施形態の多孔質構造物1は、土を使わずに培養液のみで植物を栽培する水耕栽培の一つである湛液型水耕栽培で製造する。水耕栽培は、栽培環境を制御しやすいため、植物における病気の発生抑制、品質の安定化、製造規模の拡大のしやすさ、などのメリットがある。
【0029】
本実施形態の多孔質構造物1の製造方法では、最初に、定植パネル13に水生植物の種子を播種する。定植パネル13に播種された種子が発芽すると、水生植物の根5aは、型枠20が有する一対の平板部材21の間において、平板部材21の板部21aに沿って成長する。すなわち、水生植物の根5aは、成長の方向が平板部材21によって制限される。平板部材21の板部21aに沿って成長する水生植物の根5aは、互いに絡み合うように成長する。
【0030】
図6は、多孔質構造物の製造方法を説明する第1の図である。本実施形態の多孔質構造物1の製造方法では、水生植物5の根5aは、培養液11a中の溶存酸素によって成長する。製造装置10は、コンプレッサ16を用いて、培養液11a中の溶存酸素濃度が、水生植物5が成長可能な程度の濃度となるように、空気を培養液11a中に供給する(図6の点線矢印F1)。
【0031】
図7は、多孔質構造物の製造方法を説明する第2の図である。上述したように、コンプレッサ16を用いて空気を供給しても培養液11a中の溶存酸素濃度が不足している場合、製造装置10は、図7に示すように、水槽11の培養液11aを一旦タンク14に排水する(図7の点線矢印F2)。これにより、水生植物5の根5aを空気にさらすことができるため、水生植物5を成長させることができる。水生植物5の根5aを空気に十分にさらした後、製造装置10は、ポンプ15を用いて、タンク14内の培養液11aを水槽11に戻す。
【0032】
図8は、多孔質構造物の製造方法を説明する第3の図である。製造装置10において、水生植物5の根5aが十分に成長し、型枠20の内側で多孔質構造物1が形作られると、水生植物5を製造装置10から取り出す。例えば、図8に示すように、水生植物5は、型枠20と定植パネル13とともに製造装置10から取り出される。
【0033】
図9は、多孔質構造物の製造方法を説明する第4の図である。製造装置10から取り出された水生植物5は、根5aと茎5bの部分とに切断される。例えば、図9に示すように、最初に、水生植物5が固定されている定植パネル13から一対の平板部材21を外す(図9(a)参照)。定植パネル13から一対の平板部材21を外したのち、図9(b)に示すように、水生植物5を定植パネル13に沿って切断し(図9(b)の切断線C1)、根5aの部分と、茎5bの部分とに切断する。これにより、平板状に形成されている根5aが得られ、多孔質構造物1が完成する。
【0034】
図10は、多孔質構造物の使用例を説明する図である。図10は、平板状の多孔質構造物1の使用例として、畑90の土壌表面91を覆うマルチング材1aを説明している。マルチングには、農作物8が植えられている畑90の土壌表面91の乾燥を防止する効果、雨滴による衝撃を緩和することで土壌が流失することを抑制する効果、太陽光を遮ることで土壌の温度変化を緩和する効果、直射日射を遮ることで雑草が生えることを抑制する効果などのメリットがある。水生植物5の根5aから形成される多孔質構造物1をマルチング材1aとして利用すると、マルチングとしての上述のメリットを発揮するとともに、使用後に、自然環境中で微生物によって分解されやすい。これにより、マルチング材1aは、土壌表面91に残らないため、樹脂材料から形成されるマルチング材に比べ、環境負荷を小さくすることができる。
【0035】
本実施形態の多孔質構造物1の利用方法は、上述のマルチング材に限定されない。多孔質構造物1は、互いに絡み合う水生植物5の根5aによって、多孔質状に形成されているため、様々な物質を保持する機能を有する。これにより、多孔質構造物1は、例えば、下水道などの水路に沈めて設置されることによって、水路を流れる水に含まれる異物を回収することができるため、水の浄化に利用することができる。さらに、多孔質構造物1は、有機物から形成されているため、水を浄化することで汚泥などの有機物が付着した多孔質構造物1を畑に利用しても、残留物は発生しにくい。これにより、環境負荷を低減しつつ、肥料として畑の農作物に養分を供給することができる。
【0036】
また、多孔質構造物1は、上述したように、植物の根という有機物から形成されているため、他の材料との親和性が比較的良好である。これにより、多孔質構造物1は、多孔質状で比較的比表面積が大きいことも利用して、特定の機能を有する様々な材料を担持させることで、当該特定の機能を発揮する構造物を形成することができる。
【0037】
さらに、多孔質構造物1は、上述したように、植物の根という有機物から形成されているため、容易に炭化させることができる。炭化させた多孔質構造物1によって、室内の調湿、消臭、有害化学物質吸着などの機能を発現させることができる。
【0038】
以上説明した、本実施形態の多孔質構造物1によれば、平板状の形状を有する多孔質構造物1は、有機物である水生植物5の根5aが互いに絡み合うことで形成されている。これにより、多孔質構造物1は、自然環境中で分解されやすいため、多孔質構造物1の使用による環境への影響は小さい。したがって、環境負荷を小さくすることができる。
【0039】
また、本実施形態の多孔質構造物1によれば、多孔質構造物1は、水生植物5の根5aが互いに絡み合った平板状の形状を有する。これにより、多孔質構造物1は、水耕栽培によって製造することができる。したがって、環境の変化に左右されず、安定して大量に製造することができる。
【0040】
また、本実施形態の多孔質構造物1によれば、多孔質構造物1は、茎5bが切り取られた水生植物5の根5aが互いに絡み合うことで、平板状の形状を形成している。これにより、多孔質構造物1の形状を水生植物5の根5aによって所望の形状とすることができる。
【0041】
また、本実施形態の多孔質構造物1の製造方法によれば、培養液11a中に設置されている一対の平板部材21の間で水生植物5の根5aを成長させることで、平板状の形状を有する多孔質構造物1を製造する。このように、多孔質構造物1は、水耕栽培によって製造することができるため、環境の変化に左右されず、安定して大量に製造することができる。
【0042】
また、本実施形態の多孔質構造物1の製造方法によれば、一対の平板部材21は、水槽11に対して脱着可能な構成を有している。これにより、多孔質構造物1を一対の平板部材21とともに水槽11から取り出したのち、多孔質構造物1から一対の平板部材21を取り外すことで、多孔質構造物1を製造することができるため、多孔質構造物1を容易に製造することができる。
【0043】
また、本実施形態の製造装置10によれば、製造装置10は、水生植物5の根5aの成長方向を制限する型枠20を備えている。これにより、水生植物5の根5aが互いに絡み合った平板状の形状を有する多孔質構造物1を製造することができる。
【0044】
<第2実施形態>
図11は、第2実施形態の多孔質構造物の概略構成を示す模式図である。第2実施形態の多孔質構造物2は、第1実施形態の多孔質構造物1(図1)と比較すると、凹凸の曲面形状を有する点が異なる。
【0045】
本実施形態の多孔質構造物2は、水生植物5の根5aが絡み合って形成されている植物根構造物である。多孔質構造物2は、図11に示すように、底部を有する筒形状の部材であって、管形状の円管部2aと、円管部2aの端部に接続する底部2bと、を備える。本実施形態では、円管部2aは、外側の表面2cが凸状に形成されており、内側の表面2dが凹形状に形成されている。底部2bは、中央部分に、多孔質構造物2の内側と外側とを連通する貫通孔2eが形成されている。多孔質構造物2には、円管部2aと底部2bとによって、物体を収容可能な収容部2fが形成されている。多孔質構造物2は、例えば、収容部2fに苗を収容することで、苗を育てるための育苗ポットとして利用することが可能である。多孔質構造物2を育苗ポットとして利用すると、樹脂フィルムから形成される育苗ポットに比べ自然環境中で分解されやすいため、使用後の廃棄処分が不要となる。なお、図11には、多孔質構造物2の外形を示す外形線S2を点線で示す。
【0046】
図12は、第2実施形態の多孔質構造物を製造するための型枠の模式図である。図12(a)は、型枠30の正面図であり、図12(b)は、型枠30の平面図である。型枠30は、底部を有する筒形状を有しており、円柱部材31と、円筒部材32と、2つの連結部33と、2つの係合部34と、を備える。
【0047】
円柱部材31は、型枠30の軸心CA30に、自身の軸心が重なるように配置されている円柱形状の部材である。円柱部材31は、底部に、多孔質構造物2に貫通孔2eを形成するための貫通孔形成部31aを有する。
【0048】
円筒部材32は、略筒状に形成されている部材であって、内側に円柱部材31を収容する収容部32aを有する。円筒部材32は、底の部分に、収容部32aの内側と型枠30の外側とを接続する穴部32bを有する。穴部32bには、円柱部材31の貫通孔形成部31aが挿入される。
【0049】
2つの連結部33は、図12(b)に示すように、円柱部材31の頂部において、円柱部材31に対して対角の位置に配置されるように、接続されている。連結部33は、円筒部材32の縁に係合するように形成されている。これにより、円筒部材32に収容されている円柱部材31と、円筒部材32との間には、多孔質構造物2の厚みd(図11参照)に相当する離間距離dが設定される。
【0050】
2つの係合部34は、図12(b)に示すように、円筒部材32の頂部において、円筒部材32に対して対角の位置であり、かつ、2つの連結部33に対して90度の位置に配置されるように、接続されている。係合部34は、型枠30を水槽11に設置するとき、水槽11の縁11bに係合する。これにより、型枠30は、水槽11の内側において、水槽11の内底面11cおよび内側面11dから離間した状態が維持される。
【0051】
型枠30を用いて多孔質構造物2を製造するとき、水生植物5の種子は、図12(b)にドットのハッチングで示す、円柱部材31と円筒部材32との間の隙間R1に播種される。隙間R1に種子が播種された水生植物5は、多孔質構造物2の円管部2aとなる部分を形成したのち、底部2bとなる部分を形成する。型枠30内に多孔質構造物2が形成されると、2つの連結部33による円柱部材31と円筒部材32との連結を解除し、型枠30を分解して、多孔質構造物2を取り出す。これにより、底部を有する筒形状の多孔質構造物2を製造することができる。
【0052】
本実施形態の多孔質構造物2は、収容部2fを備えており、多孔質状に形成されている。これにより、多孔質構造物2は、適度な通気性を備えているため、例えば、上述の苗のように、通気が必要な物体を収容することで、その物体に適した状態で物体を保存することができる。、また、収容部2fは奥まった形状を有しているため、収容部2fに注入される流体(気体や液体など)に含まれる異物を円管部2aと底部2bとによって回収し、流体を浄化することができる。
【0053】
以上説明した、本実施形態の多孔質構造物1によれば、型枠30は、円柱形状を有する円柱部材31と、円柱部材31を収容する円筒部材32とを接続する連結部33を備えている。連結部33は、円柱部材31と円筒部材32の収容部32aとの間に、水生植物5の根5aが成長するための隙間R1を形成するように、円柱部材31と円筒部材32とを接続する。これにより、円柱部材31と収容部32aとの間で、曲面を有する多孔質構造物2を製造することができる。
【0054】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0055】
[変形例1]
上述の実施形態では、多孔質構造物を形成する植物は、水耕栽培によって成長させる水生植物5であるとした。しかしながら、多孔質構造物を形成する植物は、水生植物に限定されない。水耕栽培で成長する植物が望ましいが、これにも限定されない。
【0056】
[変形例2]
上述の実施形態では、多孔質構造物を形成する植物は、茎の一部が切り取られるとした。茎の部分がついた状態でも多孔質構造物として使用可能である。
【0057】
[変形例3]
上述の実施形態では、多孔質構造物の製造方法では、水槽内で成長した植物を型枠ごと水槽から取り外してから、多孔質構造物を型枠から取り出すとした。しかしながら、水槽内に設置された状態の型枠から水生植物を取り出してもよい。
【0058】
[変形例4]
第1実施形態では、平板状の多孔質構造物1は、水槽11の培養液11a中に配置された一対の平板部材21の間で、水生植物5の根5aを成長させることで製造するとした。しかしながら、平板状の多孔質構造物1を製造するための型枠はこれに限定されない。
【0059】
図13は、第1実施形態の多孔質構造物を製造するための型枠の変形例の説明図である。図13(a)は、型枠40の正面図であり、図13(b)は、型枠40の平面図であり、図13(c)は、型枠40の側面図である。型枠40は、略箱状の部材であり、対向する一対の板部41と、一対の板部41を接続する2つの接続部42と、2つの係合部43と、を備える。板部41は、図4で説明した、平板部材21の板部21aと拡幅部21bとを組み合わせた形状とほぼ同じ形状を有している。接続部42は、一対の板部41の間の距離dが、多孔質構造物1の厚みdとなるように、一対の板部41の端部同士を接続する。2つの係合部43は、2つの接続部42のそれぞれに設けられている。型枠40を水槽11に設置するとき、係合部43を水槽11の縁11bに係合させることで、型枠40は、水槽11に支持される。このとき、型枠40は、水槽11の内側において、水槽11の内底面11cおよび内側面11dから離間した状態が維持される。図13に示すような型枠40でも、平板状の多孔質構造物1を製造することができる。
【0060】
[変形例5]
第1実施形態では、一対の平板部材21の間で水生植物の根を成長させることで、平板状の形状を有する多孔質構造物1を製造するとした。第2実施形態では、円柱部材31と円筒部材32との間で水生植物の根を成長させることで、底部を有する筒形状の多孔質構造物2を製造するとした。多孔質構造物の形状は、これに限定されない。例えば、複数の平板形状が接続されている形状であってもよいし、両面に凸形状を有する板状であってもよい。また、円筒部材32のみで形成した型枠で植物の根を成長させて、円柱状の塊の多孔質構造物を製造してもよいし、円筒部材の代わりに多角筒部材を型枠として用いて、多角柱状の塊の多孔質構造物を製造してもよい。さらには、球殻状部材を型枠として用いて、球状の塊の多孔質構造物を製造してもよい。
【0061】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,2…多孔質構造物
5…水生植物
5a…根
5b…茎
11…水槽
11a…培養液
20,30,40…型枠
21…平板部材
31…円柱部材
32…円筒部材
32a…収容部
33…接続部
41…板部
R1…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13