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  • 特開-かしめ機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142924
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】かしめ機
(51)【国際特許分類】
   B21J 15/30 20060101AFI20230928BHJP
   B21J 15/10 20060101ALI20230928BHJP
   B21D 37/01 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B21J15/30 L
B21J15/10 C
B21D37/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050059
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安積 慶一
【テーマコード(参考)】
4E050
【Fターム(参考)】
4E050JB09
4E050JD07
(57)【要約】
【課題】
長期間使用可能なかしめ機を提供する。
【解決手段】
頭部1と脚部2とを有するリベットをワークWにかしめるかしめ機10において、前記ワークWと直交する方向に往復移動可能に構成され、前記リベットをワークWに向けて押圧するステム20と、前記ステム20と対向して配置され、前記リベットの脚部2を変形させるかしめ凹部33を有するロールセット30とを備え、前記ロールセット30は前記リベットより3倍以上高い硬度を有する基材から構成されており、その表面には、基材よりさらに高い硬度を有する硬質皮膜層37が形成されていることを特徴とするかしめ機10による。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と脚部とを有するリベットをワークにかしめるかしめ機において、
前記ワークと直交する方向に往復移動可能に構成され、前記リベットをワークに向けて押圧するステムと、
前記ステムと対向して配置され、前記リベットの脚部と当接し、当該脚部を変形させるかしめ凹部を有するロールセットとを備え、
前記ロールセットは、その基材が前記リベットより3倍以上高い硬度を有する超硬材料から構成されているとともに基材の表面には、さらに高い硬度を有する硬質皮膜層が形成されていることを特徴とするかしめ機。
【請求項2】
前記基材は、ビッカース硬度において1000HV以上の硬度を有する超硬材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載のかしめ機。
【請求項3】
前記硬質皮膜層は、ビッカース硬度において1800HV以上の硬度を有するダイヤモンドライクカーボンから構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のかしめ機。
【請求項4】
前記ロールセットは、前記かしめ凹部を有するかしめ工具と、このかしめ工具を固定する固定軸部とから構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のかしめ機。
【請求項5】
前記リベットの脚部下端には、嵌合穴が形成されており、
前記ロールセットのかしめ凹部には、その中央に前記嵌合穴より小径の中央凸部がワーク側に突出しており、
前記ステムは、下穴が形成されていないワークに対して前記リベットを抜き打ちして、当該リベットをロールセットに当接させることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載のかしめ機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リベットをかしめ加工するかしめ機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の部材の結合、あるいは、各種装飾用として、リベットが広く利用されており、このリベットをワークにかしめる加工機として特許文献1に示されるようなかしめ機が知られている。このかしめ機は、ワークを保持するワーク保持治具と、ワークの上方で昇降駆動し、リベットをワークに向けて押圧するステムと、前記ワークの下方に配されるとともにリベットの一端を折り返すよう構成されるロールセットと呼ばれるかしめ工具とを備えて構成されている。このようなかしめ機は、前記ステムの移動経路上にリベットおよびワークが位置するよう配設された後、ステムを下降させることで、前記リベットの脚部をロールセットに押し付けるよう構成されている。また、ロールセットの上面には、半円環形状のかしめ凹部が形成されており、当該ロールセットに押し当てられたリベットの脚部は、このかしめ凹部に沿って外側に向かい湾曲するように折り曲げられる。このようにリベットの下端が外側に向かい折り曲げられることで、ワークは、リベットの頭部と折り曲げられた下端とに挟まれて締結される。
【0003】
上述のようにかしめ機は、リベットの脚部下端をロールセットのかしめ凹部に押圧させて、このかしめ凹部に沿うようにリベットの脚部下端を押し広げることで複数の部材を結合している。このように、前記ロールセットは、脚部下端との摩擦や、脚部下端を変形さる際の反発力等の強い負荷がかかるため、かしめ凹部の内面曲面は、こすれによる擦り傷が生じやすくなる。また、この擦り傷によりかしめ凹部内の滑りが悪くなると、摩擦が増大して焼き付き等が発生する。そのため、特許文献2に示すように基材である鉄鋼材の表面に高硬度かつ滑りの良いダイヤモンドライクカーボンを含むコーティング材を塗布して、カシメ凹部の表面に高硬度な硬質皮膜を有するロールセットが創成されている。このような硬質皮膜が形成されたロールセットは、リベットとのこすれた際にかしめ凹部表面に擦り傷が形成されないため、比較的長い期間使用可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60-031619号公報
【特許文献2】特許第4334063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記かしめ機のロールセットは、リベットが鉄鋼材等の固い材質であったりすると、前記硬質皮膜の下にある基材がリベットからの荷重によって弾性変形することがあり、この結果、基材に支持されなくなった硬質皮膜が割れる等の問題があった。また、硬質皮膜が割れた状態でリベットが押圧されることで、リベットが当該割れた箇所と固着するとともに、この固着状態のリベットがかしめ凹部に沿って変形していく過程で、基材ごと硬質皮膜が削り取られる等の問題も生じていた。さらに、このように基材ごと硬質皮膜が削り取られたロールセットは、再利用できないという問題も有していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて創成されたものであり、長期間使用可能なかしめ機の提供を目的とする。この目的を達成するために本発明は、頭部と脚部とを有するリベットをワークにかしめるかしめ機において、前記ワークと直交する方向に往復移動可能に構成され、前記リベットをワークに向けて押圧するステムと、前記ステムと対向して配置され、前記リベットの脚部と当接し、当該脚部を変形させるかしめ凹部を有するロールセットとを備え、前記ロールセットは、その基材が前記リベットより3倍以上高い硬度を有する超硬材料から構成されており、その表面には、基材よりさらに高い硬度を有する硬質皮膜層が形成されていることを特徴とする。なお、前記基材は、ビッカース硬度において1000HV以上の硬度を有する超硬材料から構成されていることが好ましい。また、前記硬質皮膜層は、ビッカース硬度において1800HV以上の硬度を有するダイヤモンドライクカーボンから構成されていることが好ましい。さらに、前記ロールセットは、前記かしめ凹部を有するかしめ工具と、このかしめ工具を固定する固定軸部とから構成されていることが好ましい。しかも、前記リベットの脚部下端には、嵌合穴が形成されており、前記ロールセットのかしめ凹部には、その中央に前記嵌合穴より小径の中央凸部がワーク側に突出しており、前記ステムは、下穴が形成されていないワークに対して前記リベットを抜き打ちして、当該リベットをロールセットに当接させることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るかしめ機によれば、ロールセットの基材が超硬材料で構成されており、その表面にさらに高い硬度を有する超硬皮膜層が形成されているため、かしめ凹部が摩耗することおよび基材が変形することの両方が防止される。これにより、超硬皮膜層が剥離することがなく、長期間にわたって使用可能等の利点がある。なお、基材がビッカース硬度において1000HV以上の硬度を有するため、鋼材からなるリベットをかしめた場合であっても基材が変形しない等の利点もある。また、超硬皮膜層が高強度かつ円滑性を有するダイヤモンドライクカーボンから構成されているため、リベットがかしめ凹部に沿って湾曲し易くなり、よりロールセットが破損し難くなる等の利点もある。さらに、ロールセットがかしめ工具と固定軸部とから構成されているため、万一ロールセットが破損した際も円滑にかしめ工具のみを交換出来る等の利点もある。しかも、このように破損し難いロールセットを用いることにより、ワークを突き破るために比較的固いリベットを使用する抜き打ちかしめ機等であっても長期間使用することが可能になる等の利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係るかしめ機の構造を示す概略側面図である。
図2図1から次の状態に移った状態を示す概略側面図である。
図3図2から次の状態に移った状態を示す概略側面図である。
図4図1の要部拡大概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1において10は、ワークWにリベットRをかしめるかしめ機10であり、ワークWを保持するワークW保持治具(図示せず)と、このワークWの上方で昇降するステム20と、このステム20の昇降経路上に前記リベットRを設置する設置手段(図示せず)と、前記ワークWの下方に配されるロールセット30とを備えている。
【0010】
前記リベットRは、円板形状の頭部R1と、この頭部R1の下面から延びる脚部R2とが一体形成された頭付き棒状部材であり、その中心には、嵌合穴R3が貫通形成されている。なお、本実施形態においてリベットRは、ビッカース硬さ350HV程度の鋼材から構成されており、具体的には、SUS304から構成されている。また、前記ワークWは、リベットRの脚部R2より十分薄い板材であり、本実施形態において、リベットRと同様にSUS304から構成されている。
【0011】
前記ステム20は、上下方向に延びる円柱形状部材であり、前記ワークWの上側に配置されている。このステム20の上方には、当該ステム20を下方に向かい押圧する押圧手段21が設けられており、この押圧手段21は、前記リベットRがワークWを抜き打ちするとともに、リベットRの脚部R2が前記ロールセット30のかしめ凹部33に沿って変形する強さでステム20を下方に押圧するように構成されている。
【0012】
前記ロールセット30は、ロールセット取り付け治具(図示せず)により前記ワークWの下方に配置されており、当該ロールセット取り付け治具により前記押圧手段21の駆動によるステム20の移動経路上に固定される固定軸部31を有している。この固定軸部31の上面には、ステム20の同軸上に固定穴が形成されており、この固定穴には、かしめ工具32の下端円柱部が挿入後、ねじ止め固定されている。このかしめ工具32の上面には、略半円環形状のかしめ凹部33が形成されており、このかしめ凹部33の周方向断面は、略半円形状に構成されている。このかしめ凹部33の中心には、かしめ凹部33より外周側の平面部34より上側に突き出す中央凸部35が形成されており、この中央凸部35は、リベットRの脚部R2が当該中央凸部35に連続する内側曲面部分36に当接するよう、前記リベットRの嵌合穴R3の穴径より小さい寸法に設定されている。
【0013】
なお、前記かしめ工具32は、その基材がリベットRより十分高い硬度を有する硬質の材料から構成されているとともに前記かしめ凹部33およびその周辺には、図4に示すように基材よりさらに高い硬度を有する硬質被覆層37が形成されている。このかしめ工具32の基材は、ビッカース硬さ1000HV以上の材料で構成されていることが好ましく、本実施形態においてはビッカース硬さ約1500HVの超硬合金にて構成されている。また、前記かしめ凹部33は、その内面が十点平均粗さRz=6.3となるように研磨されていることがこのましい。さらに、前記硬質被覆層37は、前記かしめ工具32の基材より硬くかつビッカース硬さ1800HV以上の材料で構成されていることが好ましく、本実施形態においては、ビッカース硬さ2000HVから3000HVのダイヤモンドライクカーボンからなり、1.0μmから3.0μmの厚さで構成されている。
【0014】
また、前記ロールセット30は、前記押圧手段21の駆動を受けて最下端まで下降した状態のステム20の下端面からリベットRの頭部R1の厚さ寸法およびワークWの厚さ寸法程度離れた高さに前記平面部34が位置するように前記ロールセット取り付け治具によって高さ調整されており、後述のかしめ加工時にリベットRの頭部R1座面とワークWとの間に隙間が生じない一方、過度な押圧によりリベットRの頭部R1が圧壊しないように設定されている。
【0015】
次に上述の様に構成されたかしめ機10の作用を説明する。
ワークWが前記ステム20の下方に供給された状態で駆動信号が入力されると、前記設置手段が作動してリベットRを前記ステム20の直下に設置する。このようにリベットRが設置されると、前記押圧手段21が駆動してステム20をワークWに向けて下降させる。これにより、ステム20は、その移動経路上に位置するリベットRをワークWに向けて押圧する。これにより、ワークWの下面が前記ロールセット30の中央凸部35に当接する。その後、押圧手段21がステム20およびリベットRをさらに下方に押圧することにより、図1に示すようにワークWがリベットRの脚部R2下端と中央凸部35の上面とに挟まれ、これらからせん断方向の力を付与されることとなる。結果、図2に示すようにリベットRの脚部R2がワークWを突き破り中央凸部35と係合する。この時、突き破られたワークWの切片W1は、リベットRの嵌合穴R3内に収容される。
【0016】
その後、中央凸部35がリベットRが嵌合穴R3内に入り込み、リベットRの脚部R2先端が中央凸部35周辺の内側曲面部分36に当接する。この状態でリベットRがさらに下方に押圧されることで、リベットRの脚部R2がかしめ凹部33の内側曲面部分36に沿って徐々に湾曲しながら拡開していく。これにより、図3に示すようにワークWは、かしめ凹部33に沿って湾曲したリベットRの脚部R2下端および当該リベットRの頭部R1に挟まれて締結される。このようにリベットRがワークWに締結されると前記押圧手段21が逆駆動してステム20を当初待機位置に復帰させる。
【0017】
前述のかしめ加工時、かしめ凹部33の表面に高硬度かつ円滑性を有するダイヤモンドライクカーボンからなる硬質被覆層37が形成されているため、当該硬質被覆層37がリベットRからの荷重により割れることも、リベットRの脚部R2に固着することもない。このため、ロールセット30が摩耗することなく、長期間安定してかしめ加工を行える等の利点がある。また、ロールセット30は、前記硬質皮膜層36に被覆される基材もリベットRより十分硬い超硬材料で形成されているため、SUS304等の比較的固く材料からなるリベットRをかしめ加工した際も当該基材が変形することがない。また、リベットRの脚部R2と当接するとともに、当該脚部R2を広げさせるため、最も高い負荷が加えられるかしめ凹部33の内側曲面部分36も変形が防止されることにより、従来のロールセット30のように硬質被覆層37との間に空隙等が形成されず、硬質被覆層37の割れ等も防止される。
【0018】
上述の様に構成されたかしめ機10のロールセット30は、かしめ工具32が固定軸部31から取り外し可能に構成されているため、所定の期間ごとにかしめ工具32のみを交換することが可能である。また、ロールセットは、上述のように基材が超硬材料からなり変形し難いため、万一、硬質被覆層37が割れたり、傷ついたりした際に一緒に基材まで削られることがない。このため、割れたり傷ついたりした硬質被覆層37を基材から剥離させるた後に再度硬質被覆層37を基材表面に形成しなおすことが可能となる。このようにかしめ装置1は、ロールセット30が破損し難く、また破損した際も再利用可能であるため、ロールセット30に係る維持費を安く出来る等の利点もある。
【0019】
なお、本発明に係るかしめ機10は、前述したものに限定するものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、リベットの嵌合穴R3が、軸方向に貫通する構成ではなく、長尺の脚部R2の先端側から所定の深さ切削される構成であってもよい。また、かしめ機10は、下穴が形成されていないワークWに対してリベットRを抜き打ちしたままかしめるものに限定されず、ワークに形成された下穴に対してリベットの脚部R2を嵌合させた後にかしめるものであっても良い。
【符号の説明】
【0020】
10 … かしめ機
20 … ステム
30 … ロールセット
32 … かしめ工具
33 … かしめ凹部
34 … 平面部
35 … 中央凸部
36 … 内側曲面部分
37 … 硬質被覆層
図1
図2
図3
図4