(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142937
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ガス吸着装置、ガス吸着方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/04 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
B01D53/04 230
B01D53/04 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050075
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山本 征治
(72)【発明者】
【氏名】國富 誠一
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲治
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 翔
(72)【発明者】
【氏名】堀部 伸光
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 裕貴
【テーマコード(参考)】
4D012
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012BA02
4D012BA03
4D012CA03
4D012CB16
4D012CD04
4D012CD07
4D012CD10
4D012CE01
4D012CE02
4D012CF01
4D012CF10
4D012CG01
4D012CJ05
4D012CK03
(57)【要約】
【課題】被吸着ガスの処理量に即した適切な流通方向で熱媒体を流通させることができる技術を提供する。
【解決手段】ガス吸着装置であって、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着する吸着材を収容する吸着器と、吸着器の内部にパージガスを供給するパージガス供給部と、吸着材との間で熱交換を行う熱媒体が流通する熱媒体流路を形成する熱媒体流路形成部と、熱媒体流路内に熱媒体を流通させるとともに熱媒体の流通方向を変更可能な熱媒体送出部と、ガス吸着装置を制御する制御部と、を備え、制御部は、吸着材に被吸着ガスを吸着させる吸着工程と、吸着器の内部にパージガスを供給して吸着材から被吸着ガスを脱離する脱離工程と、を繰り返し実行し、脱離工程における熱媒体の流通方向を、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りする被吸着ガスの処理量に応じた流通方向とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス吸着装置であって、
混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着する吸着材を収容する吸着器と、
前記吸着器の内部にパージガスを供給するパージガス供給部と、
前記吸着材との間で熱交換を行う熱媒体が流通する熱媒体流路を形成する熱媒体流路形成部と、
前記熱媒体流路内に前記熱媒体を流通させるとともに前記熱媒体の流通方向を変更可能な熱媒体送出部と、
前記ガス吸着装置を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記吸着材に前記被吸着ガスを吸着させる吸着工程と、前記吸着器の内部に前記パージガスを供給して前記吸着材から前記被吸着ガスを脱離する脱離工程と、を繰り返し実行し、
前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記吸着工程が開始されてから前記脱離工程が終了するまでの間に前記吸着器を出入りする前記被吸着ガスの処理量に応じた流通方向とする、ガス吸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガス吸着装置であって、
前記制御部は、前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記吸着器内部における前記パージガスの流れ方向と同じ方向である並行方向と、前記吸着器内部における前記パージガスの流れ方向とは逆方向である対向方向と、のうち一方の方向としてから、他方の方向に切り替える、ガス吸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載のガス吸着装置であって、
前記制御部は、前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記並行方向としてから、前記対向方向に切り替える、ガス吸着装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のガス吸着装置であって、
前記制御部は、
前記処理量が少ないほど、前記脱離工程において前記熱媒体を前記並行方向で流通させる並行期間を長くし、
前記処理量が多いほど、前記脱離工程において前記熱媒体を前記対向方向で流通させる対向期間を長くする、ガス吸着装置。
【請求項5】
請求項4に記載のガス吸着装置であって、さらに、
前記吸着材から脱離した前記被吸着ガスの脱離量を取得する脱離量取得部を備え、
前記制御部は、前記処理量に応じた前記並行期間の長さ及び前記対向期間の長さを、前記脱離量に応じて補正する、ガス吸着装置。
【請求項6】
ガス吸着方法であって、
混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着する吸着材を収容する吸着器の内部にパージガスを供給するパージガス供給工程と、
前記吸着材との間で熱交換を行う熱媒体が流通する熱媒体流路内に前記熱媒体を流通させるとともに前記熱媒体の流通方向を変更する熱媒体送出工程と、
前記パージガス供給工程と、前記熱媒体送出工程とを制御する制御工程と、を備え、
前記制御工程では、
前記吸着材に前記被吸着ガスを吸着させる吸着工程と、前記パージガス供給工程を実行して前記吸着材から前記被吸着ガスを脱離させる脱離工程と、を繰り返し実行させ、
前記脱離工程において実行される前記熱媒体送出工程における前記熱媒体の流通方向
を、前記吸着工程が開始されてから前記脱離工程が終了するまでの間に前記吸着器を出入りする前記被吸着ガスの処理量に応じた流通方向とする、ガス吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着装置、ガス吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸着材を利用して混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着して回収する技術が知られている。例えば、特許文献1には、熱媒体の流通方向を、吸着器に収容された吸着材から被吸着ガスを脱離するために水素噴射部から噴射される水素の噴射方向とは反対方向にして、被吸着ガスを回収する技術が開示されている。また、特許文献2には、吸着器での脱離工程において被吸着ガスの吸着量を目標在庫量になるまで脱離させて消費電力の低減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6791177号公報
【特許文献2】特開2021-171727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1における熱媒体の流通による被吸着ガスの脱離には、なお改善の余地があった。特許文献1に記載の流通方向による回収では、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りする被吸着ガスの処理量が比較的多い場合には有効であるものの、同処理量が比較的少ない場合には、脱離工程後の吸着材において被吸着ガスが吸着していない未吸着部分が多くなることがある。吸着材の未吸着部分には不純物が吸着され得ることから、脱離工程後の未吸着部分が多くなると、吸着工程を経ても吸着材に未吸着部分が多く残る可能性が高くなり、吸着材から回収される被吸着ガス中に不純物が混入する可能性も高くなる。また、特許文献2では、熱媒体を循環させる加熱装置を用いて被吸着ガスを脱離しているが、その熱媒体の流通方向については、何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、被吸着ガスの吸着量に即した適切な流通方向で熱媒体を流通させることができるガス吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、ガス吸着装置が提供される。このガス吸着装置は、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着する吸着材を収容する吸着器と、前記吸着器の内部にパージガスを供給するパージガス供給部と、前記吸着材との間で熱交換を行う熱媒体が流通する熱媒体流路を形成する熱媒体流路形成部と、前記熱媒体流路内に前記熱媒体を流通させるとともに前記熱媒体の流通方向を変更可能な熱媒体送出部と、前記ガス吸着装置を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記吸着材に前記被吸着ガスを吸着させる吸着工程と、前記吸着器の内部に前記パージガスを供給して前記吸着材から前記被吸着ガスを脱離する脱離工程と、を繰り返し実行し、前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記吸着工程が開始されてから前記脱離工程が終了するまでの間に前記吸着器を出入りする前記被吸着ガスの処理量に応じた流通方向とする。
【0008】
この構成によれば、脱離工程における熱媒体の流通方向を、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りする被吸着ガスの処理量に応じた流通方向とする。この流通方向には、吸着器内部におけるパージガスの流れ方向と同じ方向である並行方向と、吸着器内部におけるパージガスの流れ方向と逆方向である対向方向と、が含まれる。被吸着ガスの処理量が比較的少ない低負荷である場合、脱離工程において並行方向と対向方向とのうちいずれの流通方向で熱媒体を流通させても被吸着ガスの回収率は同等であるが、並行方向で流通させた方が、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性を低くすることができる。一方、被吸着ガスの処理量が比較的多い高負荷である場合には、脱離工程において並行方向よりも対向方向で熱媒体を流通させた方が、被吸着ガスの回収率を高くできる。したがって、被吸着ガスの処理量に関わらず脱離工程における熱媒体の流通方向が一定である形態と比べて、この構成によれば、被吸着ガスの処理量に応じて脱離工程における熱媒体の流通方向を並行方向や対向方向に可変であることから、被吸着ガスの処理量に即した適切な流通方向で熱媒体を流通させることができる。
【0009】
(2)上記形態のガス吸着装置において、前記制御部は、前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記吸着器内部における前記パージガスの流れ方向と同じ方向である並行方向と、前記吸着器内部における前記パージガスの流れ方向とは逆方向である対向方向と、のうち一方の方向としてから、他方の方向に切り替えてもよい。
並行方向で熱媒体を流通させた場合、対向方向と比べて吸着材から脱離される被吸着ガス量が少ないことから、脱離工程後の吸着材において被吸着ガスが吸着していない部分(不純物が吸着され得る未吸着部分)を少なくすることができる。その結果、その後の吸着工程を経て更に未吸着部分が少なくなることから、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性を低くすることができるが、その反面、被吸着ガスの回収率は、高負荷になるにつれて低くなる。一方、対向方向で熱媒体を流通させた場合、並行方向と比べて吸着材から脱離される被吸着ガス量が多いことから、被吸着ガスの回収率を高くすることができる。しかし、その反面、脱離工程後の吸着材において未吸着部分が多くなり、その後の吸着工程を経ても未吸着部分が多く残る可能性が高いことから、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性が高くなる。この構成によれば、脱離工程における熱媒体の流通方向を、並行方向と対向方向とのうち一方の方向から他方の方向に切り替えることによって、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程による被吸着ガスの回収率を高くすることと、を両立することができる。
【0010】
(3)上記形態のガス吸着装置において、前記制御部は、前記脱離工程における前記熱媒体の流通方向を、前記並行方向としてから、前記対向方向に切り替えてもよい。
この構成によれば、初めに、吸着材において未吸着部分を少なくする並行方向で熱媒体を流通させてから、次に、吸着材から脱離される被吸着ガス量が多い対向方向で熱媒体を流通させる。したがって、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程による被吸着ガスの回収率を高くすることと、を両立することができる。
【0011】
(4)上記形態のガス吸着装置において、前記制御部は、前記処理量が少ないほど、前記脱離工程において前記熱媒体を前記並行方向で流通させる並行期間を長くし、前記処理量が多いほど、前記脱離工程において前記熱媒体を前記対向方向で流通させる対向期間を長くしてもよい。
この構成によれば、被吸着ガスの処理量に応じて並行期間及び対向期間を調整可能であることから、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程による被吸着ガスの回収率を高くすることと、を一層精度よく両立することができる。
【0012】
(5)上記形態のガス吸着装置において、さらに、前記吸着材から脱離した前記被吸着ガスの脱離量を取得する脱離量取得部を備え、前記制御部は、前記処理量に応じた前記並
行期間の長さ及び前記対向期間の長さを、前記脱離量に応じて補正してもよい。
この構成によれば、並行期間中における被吸着ガスの脱離量が想定より少なかった場合、並行期間を短くするとともに対向期間を長くすることができる。また、対向期間中における被吸着ガスの脱離量が想定より多い場合、対向期間を短くするとともに並行期間を長くすることができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス吸着方法、ガス吸着装置の制御方法、ガス吸着装置を制御するためのコンピュータプログラム、炭化水素製造システム、メタン製造システム、これらシステムの制御方法、これらシステムを制御するためのコンピュータプログラム、これらコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、そのコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態のガス吸着装置の構成を例示した説明図である。
【
図2】第1~3吸着器における各工程の切り替わりを示す説明図である。
【
図3】脱離工程における熱媒体の流通方向を示した説明図である。
【
図4】熱媒体の流通方向の違いによる回収率を示す説明図である。
【
図5】吸着工程終了時及び脱離工程終了時の吸着量を示す説明図である。
【
図6】脱離工程における熱媒体の流通方向の配分を示す説明図である。
【
図7】脱離工程時の並行期間と対向期間を検討した試験結果を示す説明図である。
【
図8】流通方向調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのガス吸着装置1の構成を例示した説明図である。ガス吸着装置1は、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着及び脱離することで、混合ガスから被吸着ガスを回収する装置である。ガス吸着装置1は、第1吸着器10と、第2吸着器20と、第3吸着器30と、燃焼設備40と、排ガス供給流路50と、水素供給源60と、水素供給流路70と、原料ガス流路80と、炭化水素合成装置90と、熱媒体流路100と、制御部110と、を備えている。なお、第1~3吸着器10,20,30を総称して単に吸着器とも呼ぶ。
【0016】
第1吸着器10は、特定の被吸着ガスを回収するための装置である。第1吸着器10は、混合ガスに含まれる特定の被吸着ガスを吸着する第1吸着材12を収容している。ガス吸着装置1では、燃焼設備40から排出される排ガスを混合ガスとし、二酸化炭素(CO2)を特定の被吸着ガスとする。第1吸着材12としては、例えば、ゼオライト、活性炭、シリカゲルが挙げられる。第2吸着器20,第3吸着器30は、第1吸着器10と同様の吸着器である。第2吸着器20,第3吸着器30は、第1吸着器10に対応する第1吸着材12と同様に、それぞれ第2吸着材22,第3吸着材32を収容している。なお、第1~3吸着材12,22,32を総称して単に吸着材とも呼ぶ。第1~3吸着器10,20,30には、吸着器内の温度、圧力を測定するための図示しない温度センサ、圧力センサが設けられている。
【0017】
燃焼設備40は、工場の燃焼炉である。燃焼設備40から排出される排ガスには、第1~3吸着材12,22,32に吸着されるCO2の他に、O2、N2、H20などが含まれている。排ガス供給流路50は、燃焼設備40から排出される排ガスを第1~3吸着器10,20,30に供給するためのガス流路であり、複数の配管で形成されている。排ガス供給流路50を形成している配管には、第1排ガス供給バルブ51、第2排ガス供給バルブ52及び第3排ガス供給バルブ53が設けられている。これらバルブは、各配管内の流量
を調整可能である。第1~3排ガス供給バルブ51~53の各々の開閉は、後述する制御部110によって制御されている。また、排ガス供給流路50を形成している配管には、排ガスの温度、圧力、流量、CO2濃度を測定するための図示しない温度センサ、圧力センサ、流量センサ及びCO2濃度センサが設けられている。
【0018】
燃焼設備40から第1排ガス供給バルブ51を経由して第1吸着器10に供給された排ガスにおいて、その排ガスに含まれるCO2は、第1吸着材12に吸着される。そして、その排ガスのうち残りの成分は、第1排出流路54から外部に放出される。第1排出流路54を形成している配管には、第1排出バルブ57が設けられている。一方、燃焼設備40から第2,3排ガス供給バルブ52,53を経由して第2,3吸着器20,30に供給された排ガスにおいて、その排ガスに含まれるCO2は、それぞれ第2,3吸着材22,32に吸着される。そして、その排ガスのうち残りの成分は、それぞれ第2,3排出流路55,56から外部に放出される。第2,3排出流路55,56を形成している配管には、それぞれ第2,3排出バルブ58,59が設けられている。第1~3排出バルブ57~59の各々の開閉は、後述する制御部110によって制御されている。
【0019】
水素供給源60は、水電解装置である。水素供給流路70は、水素供給源60から供給されるH2を、第1~3吸着器10,20,30に供給するためのガス流路であり、複数の配管で形成されている。水素供給流路70を形成している配管には、第1水素供給バルブ71、第2水素供給バルブ72、第3水素供給バルブ73及び第4水素供給バルブ74が設けられている。これらバルブは、各配管内の流量を調整可能である。第1~4水素供給バルブ71~74の各々の開閉は、後述する制御部110によって制御されている。水素供給源60から第1~3水素供給バルブ71~73を経由して第1~3吸着器10,20,30に供給されたH2は、第1~3吸着材12,22,32に吸着したCO2を脱離するためのパージガスとして利用される。すなわち、水素供給源60は、第1~3吸着器10,20,30の内部にパージガスを供給するパージガス供給部にあたる。また、水素供給源60から第4水素供給バルブ74を経由して後述する原料ガス流路80に供給されたH2は、原料ガス流路80を流通する原料ガスに付加される。
【0020】
原料ガス流路80は、第1~3吸着器10,20,30から送り出されたH2とCO2とを含む原料ガスを炭化水素合成装置90に供給するためのガス流路であり、複数の配管で形成されている。原料ガス流路80を形成している配管には、第1原料ガス供給バルブ81、第2原料ガス供給バルブ82及び第3原料ガス供給バルブ83が設けられている。これらバルブは、各配管内の流量を調整可能である。また、原料ガス流路80を形成している配管には、真空ポンプ85が設けられている。真空ポンプ85は、第1~3原料ガス供給バルブ81~83のうちいずれかが開弁されて空間的に真空ポンプ85と接続している第1~3吸着器10,20,30のいずれかの内部を減圧可能である。また、原料ガス流路80を形成している配管には、原料ガスの温度、圧力、流量、CO2濃度を測定するための図示しない温度センサ、圧力センサ、流量センサ及びCO2濃度センサが設けられている。
【0021】
炭化水素合成装置90は、第1~3吸着器10,20,30から原料ガス流路80を経由して供給された原料ガスを用いて、メタン化反応によりメタンを合成する装置である。熱媒体流路100は、第1~3吸着材12,22,32との間で熱交換を行う熱媒体が流通する流路であり、複数の配管(熱媒体流路形成部)で形成されている。メタン化反応によって炭化水素合成装置90で生じた熱は、熱媒体流路100を流通する熱媒体を介して、第1~3吸着器10,20,30に供給される。熱媒体流路100を形成している配管には、第1流路切替バルブ104と、第2流路切替バルブ105と、第3流路切替バルブ106と、第4流路切替バルブ107と、が設けられている。第1~4流路切替バルブ104~107は、いずれも三方弁であり、熱媒体流路100に含まれる第1流路101,
第2流路102及び第3流路103の中から熱媒体を流通させる流路を切り替える。第1~3流路101~103は、二重管で構成された第1~3吸着器10,20,30の外側管と内側管との間を通過する流路である。例えば、熱媒体を流通させる流路を第1流路101に切り替えると、第1吸着器10内に収容された第1吸着材12に対して第1流路101を流通する熱媒体から熱が供給される。
図1では、第1吸着器10のうち熱媒体が通過する部分は、ドット状のハッチングにて図示されている。また、熱媒体流路100を形成している配管には、ポンプ108と、温度調整部109と、が設けられている。ポンプ108は、第1~3流路101~103のうち第1~4流路切替バルブ104~107の切替により空間的にポンプ108と接続している流路を経由して、熱媒体流路100内に熱媒体を流通させるとともに、熱媒体の流通方向を変更可能な熱媒体送出部である。温度調整部109は、熱媒体の温度を調整可能な装置であり、炭化水素合成装置90で昇温された熱媒体の温度が設定温度よりも高い場合には、常温の熱媒体を付加して温度を調整する。また、設定温度よりも低い場合には、流量調整の他にもヒータ等によって設定温度まで加熱する場合もある。
【0022】
制御部110は、ROM、RAM及びCPUを含んで構成されるコンピュータであり、ガス吸着装置1の全体の制御をおこなう。制御部110は、上述の各流路に設けられている各種バルブ、各種センサ(温度センサ、流量センサ、濃度センサ等)のほか、各種ポンプや温度調整部109と電気的に接続され、各種センサからの測定値等に基づいて、各種バルブや各種ポンプ、温度調整部109等の制御を行う。制御部110は、制御工程として、後述するパージガス供給、吸着工程、脱離工程、冷却工程、熱媒体送出、を制御する。
【0023】
図2は、第1~3吸着器10,20,30における吸着工程、脱離工程及び冷却工程の切り替わりを示す説明図である。ガス吸着装置1では、第1~3吸着器10,20,30のそれぞれに、吸着材に被吸着ガスであるCO
2を吸着させる吸着工程と、吸着工程後の吸着器の内部にパージガスであるH
2を供給しながら吸着材からCO
2を脱離する脱離工程と、脱離工程後の吸着材を冷却する冷却工程と、を実行させる。
図2に示すように、サイクル1、サイクル2及びサイクル3の順で、第1~3吸着器10,20,30は、互いに異なる工程を繰り返す。本実施形態では、各工程の長さは、1800秒である。すなわち、制御部110は、吸着工程と、脱離工程と、冷却工程と、を第1~3吸着器10,20,30に繰り返し実行させる。なお、吸着工程中及び冷却工程中の吸着器には、第1~3吸着器10,20,30のそれぞれに形成された図示しない流路(熱媒体流路100とは異なる流路)を介して、常温の熱媒体が供給される。一方、脱離工程中の吸着器には、熱媒体流路100を介して加熱された熱媒体が供給される。換言すれば、脱離工程中の吸着器に対して、制御部110により、熱媒体を流通させる熱媒体送出が実行される。
【0024】
第1吸着器10が吸着工程であるとき、第1排ガス供給バルブ51及び第1排出バルブ57は開弁状態であるとともに、第1水素供給バルブ71及び第1原料ガス供給バルブ81は閉弁状態である。このような状態において、燃焼設備40から第1吸着器10に供給された排ガスに含まれるCO2は、第1吸着材12に吸着される。そして、その排ガスのうち残りの成分は、第1排出流路54から外部に放出される。また、吸着工程の際には、第1吸着器10に形成された図示しない流路(熱媒体流路100とは異なる流路)を介して、常温の熱媒体が第1吸着器10に供給されて第1吸着材12を冷却する。
【0025】
第1吸着器10が脱離工程であるとき、第1排ガス供給バルブ51及び第1排出バルブ57は閉弁状態であるとともに、第1水素供給バルブ71及び第1原料ガス供給バルブ81は開弁状態である。このような状態において、水素供給源60から第1吸着器10に供給されたH
2は、パージガスとして、第1吸着材12に吸着したCO
2を脱離する。脱離されたCO
2は、H
2とともに原料ガスとして原料ガス流路80に送り出される。また、脱離
工程の際、真空ポンプ85が稼働して第1吸着器10の内部が減圧されているとともに、第1~4流路切替バルブ104~107の切替により熱媒体を流通させる流路が、第2流路102から第1流路101に切り替わっている(
図2参照)。このとき、第1吸着器10内に収容された第1吸着材12に対して、ポンプ108により第1流路101を流通する熱媒体から熱が供給される。
【0026】
第1吸着器10が冷却工程であるとき、第1排ガス供給バルブ51及び第1排出バルブ57は閉弁状態であるとともに、第1水素供給バルブ71及び第1原料ガス供給バルブ81は閉弁状態である。冷却工程の際、第1~4流路切替バルブ104~107の切替により熱媒体を流通させる流路が、第1流路101から第3流路103に切り替わっている(
図2参照)。また、冷却工程の際には、第1吸着器10に形成された図示しない流路(熱媒体流路100とは異なる流路)を介して、常温の熱媒体が第1吸着器10に供給されて第1吸着材12を冷却する。
【0027】
第2,3吸着器20,30がそれぞれ吸着工程、脱離工程及び冷却工程であるときには、上述した吸着工程、脱離工程及び冷却工程であるときの第1吸着器10と同様に、第1吸着器10の各種バルブに対応する第2,3吸着器20,30の各種バルブの開閉及び切替によって、各工程が実行される。
【0028】
図3は、脱離工程における熱媒体の流通方向を示した説明図である。脱離工程における熱媒体の流通方向とは、熱媒体流路100内を流れる熱媒体の流通方向のことである。本実施形態では、制御部110は、脱離工程における熱媒体の流通方向を、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りするCO
2の処理量に応じた流通方向とする。この流通方向には、
図3(A)に示した並行方向と、
図3(B)に示した対向方向と、が含まれる。
図3(A)(B)では、第1吸着器10と同様の吸着器10a(吸着材12aを収容)を例示して、並行方向及び対向方向について説明する。
図3(A)に示すように、並行方向は、吸着器10a内部におけるパージガスの流れ方向(実線矢印)と同じ方向(破線矢印)のことである。一方、
図3(B)に示すように、対向方向は、吸着器10a内部におけるパージガスの流れ方向(実線矢印)と逆方向(破線矢印)のことである。
【0029】
吸着器10a内部に供給される熱媒体は、吸着器10a内部に進入する位置INで最も高温であり、吸着器10a内部から外部に送り出される位置OTに近付くほど低温となることから、吸着器10a内部において位置INに近いほど、吸着材12aからのCO
2脱離が促進される。一方、吸着器10a内部に供給される水素は、吸着器10a内部に進入する位置IJに近いほど、吸着材12aからのCO
2脱離を促進する。
図3(A)に示すように、並行方向で熱媒体を流通させた場合(位置INと位置IJとが同じ側にある場合)、対向方向で熱媒体を流通させた場合(位置INと位置IJが反対側にある場合)と比べて、吸着材12aから脱離されるCO
2量は少なくなる傾向にある。
【0030】
図4は、脱離工程における熱媒体の流通方向の違いによるCO
2回収率を示す説明図である。
図4において、横軸は負荷を示し、縦軸はCO
2回収率を示す。負荷は、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りするCO
2の処理量のことである。燃焼設備40から吸着器に供給される排ガスの流量に応じて負荷は変動することに基づいて、負荷を示す数値は、ある流量の排ガスが燃焼設備40から吸着器に供給されたときを1.0とし、その流量の4,6,8割の流量の排ガスが供給された場合をそれぞれ0.4、0.6、0.8とした。以降の説明では、0.6未満の負荷を低負荷と呼び、0.6から1.0未満までの負荷を中負荷と呼び、1.0以上の負荷を高負荷と呼ぶ。CO
2回収率は、脱離工程において吸着器から脱離されるCO
2量を、当該脱離工程の直前の吸着工程において吸着器に供給されたCO
2量で除した値である。
図4の実線は、脱離
工程において並行方向で熱媒体を流通させた場合の結果を示し、
図4の1点鎖線は、脱離工程において対向方向で熱媒体を流通させた場合の結果を示している。
【0031】
図4に示すように、低負荷(~0.6)においては、並行方向と対向方向とのうちいずれの流通方向で熱媒体を流通させても脱離工程におけるCO
2回収率は同等である。中負荷から高負荷(0.6~1.0)においては、並行方向で熱媒体を流通させた場合にはCO
2回収率は低下する一方、対向方向で熱媒体を流通させた場合には、並行方向でのCO
2回収率と比べて、CO
2回収率は高い。
【0032】
図5は、吸着工程終了時及び脱離工程終了時の吸着材におけるCO
2吸着量を示す説明図である。
図5において、横軸は負荷を示し、縦軸は吸着材重量あたりのCO
2吸着量を示す。
図5(A)は、脱離工程時に常に並行方向で熱媒体を流通させた場合の結果である。
図5(B)は、脱離工程時に常に対向方向で熱媒体を流通させた場合の結果である。
図5(A)及び
図5(B)に示された点a1~a8は吸着工程終了時のCO
2吸着量を示し、点d1~d8は脱離工程終了時のCO
2吸着量を示す。例えば、点a1と点d1との差が脱離工程において吸着器から回収されるCO
2量を示す。
図5(A)及び
図5(B)に示された結果は、吸着工程と脱離工程とを複数回繰り返して得られた複数の結果の平均である。
【0033】
図4で説明したように、低負荷(~0.6)においては、並行方向と対向方向とのうちいずれの流通方向で熱媒体を流通させても脱離工程におけるCO
2回収率は同等である。一方、低負荷(~0.6)において、脱離工程時に常に並行方向で熱媒体を流通させた場合の吸着工程終了時のCO
2吸着量(
図5(A)の点a1,a2)は、脱離工程時に常に対向方向で熱媒体を流通させた場合の同CO
2吸着量(
図5(B)の点a5,a6)と比べて多い。このため、脱離工程終了時の吸着材(
図5(A)の点d1,d2)においても、CO
2が吸着していない未吸着部分は、(
図5(B)の点d5,d6と比べて)少なくなる(ここでいう未吸着部分は、CO
2吸着量0.10と点d1,d2との間の長さで表される)。これは、
図3にて説明したように、並行方向で熱媒体を流通させた場合(
図3(A)参照)、対向方向で熱媒体を流通させた場合(
図3(B)参照)と比べて、片側端部の吸着材から重点的にCO
2が脱離されることによるものと考えられる。未吸着部分には、排ガスに含まれるCO
2以外の不純物(例えば窒素等)が吸着される可能性があることから、未吸着部分が多くなると、吸着材から回収されるガス中に不純物が混入する可能性が高くなる。よって、低負荷(~0.6)では、吸着材から回収されるガスのCO
2純度を高くする観点から、脱離工程において並行方向で熱媒体を流通させた方が有利である。
【0034】
図4で説明したように、中負荷から高負荷(0.6~1.0)においては、並行方向で熱媒体を流通させた場合にはCO
2回収率は低下する一方、対向方向で熱媒体を流通させた場合には、並行方向でのCO
2回収率と比べて、CO
2回収率は高い。また、
図5(B)の点a8に示すように、高負荷(1.0)において、脱離工程時に常に対向方向で熱媒体を流通させた場合、吸着工程終了時のCO
2吸着量はある程度多くなることから、低負荷(~0.6)の場合(点a5,a6)と比べて、未吸着部分は少なくなっている。よって、高負荷(1.0)では、未吸着部分を少なくしつつ吸着器から回収されるCO
2量を確保する観点から、脱離工程において対向方向で熱媒体を流通させた方が有利である。このように、ガス吸着装置1において、制御部110は、脱離工程における熱媒体の流通方向を、低負荷(~0.6)では並行方向とし、高負荷(1.0)では対向方向とする。次に、中負荷(0.6~1.0未満)における流通方向について説明する。
【0035】
図6は、脱離工程における熱媒体の流通方向の配分を示す説明図である。
図6において、横軸は負荷を示し、縦軸は対向期間割合を示す。
図6において、対向期間割合は、脱離
工程1回あたりの時間の長さを1.0とし、その脱離工程中に熱媒体を対向方向で流通させる対向期間の割合である。例えば、低負荷(~0.6)では、脱離工程中は常に熱媒体を並行方向で流通させる並行期間であり、高負荷(1.0)では、脱離工程中は常に対向期間である。一方、中負荷(0.6~1.0未満)では、
図6に示すように、ガス吸着装置1では、制御部110は、ポンプ108を制御して、脱離工程における熱媒体の流通方向を、並行方向と対向方向とのうち一方の方向としてから、他方の方向に切り替える。すなわち、制御部110は、脱離工程で実行される熱媒体送出において、熱媒体の流通方向を変更する。本実施形態では、制御部110は、脱離工程における熱媒体の流通方向を、並行方向としてから、対向方向に切り替える。また、
図6に示すように、制御部110は、中負荷(0.6~1.0未満)において、CO
2の処理量が少ないほど(負荷が低いほど)並行期間を長くし、CO
2の処理量が多いほど(負荷が高いほど)対向期間を長くする。
【0036】
図7は、中負荷(0.8)における脱離工程時の並行期間と対向期間とを検討した際の試験結果を示す説明図である。
図7において、横軸は並行期間割合を示し、縦軸はCO
2回収率(
図4と同様)と、吸着工程後の吸着材におけるCO
2吸着量と、を示す。
図7において、並行期間割合は、脱離工程1回あたりの時間の長さを1.0とし、その脱離工程中の並行期間の割合である。例えば、並行期間割合が1である場合、脱離工程中はすべて並行期間であり、並行期間割合が0である場合、脱離工程中はすべて対向期間である。また、並行期間割合が0.5である場合、脱離工程中の前半期間を並行期間とし、後半期間を対向期間とする。すなわち、
図7には、図面右側に向かうほど脱離工程時に占める並行期間割合が高いときの結果が示されている。黒塗りの丸は、CO
2回収率を示す。黒塗りの矩形は、吸着工程後の吸着材におけるCO
2吸着量を示す。
【0037】
図7にて黒塗りの矩形で示されるように、並行期間割合が高いほど、吸着工程後の吸着材におけるCO
2吸着量は増加しており、並行期間割合が低いほど(対向期間の割合が高いほど)、同吸着量は減少している。一方、
図7にて黒塗りの丸で示されるように、並行期間割合が高いほど、CO
2回収率は概ね減少しており、並行期間割合が低いほど(対向期間の割合が高いほど)、CO
2回収率は概ね増加している。
図7に示された結果より、中負荷(0.8)での脱離工程における並行期間割合は、0.6~0.8の範囲内に設定されることが好ましい。この範囲内であれば、CO
2回収率を低下させずに、且つ、吸着工程後の吸着材におけるCO
2吸着量を高くすることができる。そして、吸着工程後の吸着材においてCO
2吸着量が高ければ、脱離工程後の吸着材においても未吸着部分を少なくできる可能性が高いことから、吸着材から回収されるガス中に不純物が混入する可能性は低くなる。
【0038】
図8は、流通方向調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。流通方向調整処理は、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りするCO
2処理量に応じて、制御部110が脱離工程における熱媒体の流通方向を調整する処理である。したがって、流通方向調整処理は、第1~3吸着器10,20,30のうち脱離工程を開始する吸着器に対して実施される。これ以降、流通方向調整処理の説明において、第1~3吸着器10,20,30のうち流通方向調整処理の対象となる吸着器を対象吸着器と呼び、対象吸着器に収容されている吸着材を対象吸着材と呼ぶ。
【0039】
流通方向調整処理が開始されると、制御部110は、まず初めに、対象吸着器で処理されるCO2処理量Gaを取得する(ステップS10)。CO2処理量Gaは、上述してきたように、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りするCO2処理量である。このとき、制御部110は、排ガス供給流路50を形成している配管に設けられた図示しない温度センサ、圧力センサ、流量センサ及びCO2濃度センサから受信した情報(燃焼設備40から対象吸着器に供給される排ガスに関する情報)を用いて
、予め準備された関係式やマップ等から、対象吸着器で処理されるCO2処理量Gaを求める。
【0040】
次に、制御部110は、炭化水素合成装置90によるメタンの合成に用いられるCO2量を取得する(ステップS20)。制御部110は、ステップS10にて取得したCO2処理量Gaを参照して、予め準備された関係式やマップ等からメタンの合成に用いられるCO2量を取得する。
【0041】
次に、制御部110は、脱離条件を決定する(ステップS30)。脱離条件には、脱離工程時に水素供給源60から対象吸着器に供給されるH2量や真空ポンプ85の稼働期間の長さが含まれる。制御部110は、ステップS10にて取得したCO2処理量Gaに応じて、脱離条件を決定する。
【0042】
次に、制御部110は、CO
2処理量Gaが基準処理量Gthrより小さいか判定する(ステップS40)。基準処理量Gthrは、CO
2処理量Gaが中負荷以下であるか高負荷であるかを切り分けるための基準値である(
図6参照)。CO
2処理量Gaが基準処理量Gthrより大きい場合、すなわち、CO
2処理量Gaが高負荷である場合(ステップS40:NO)、制御部110は、対象吸着器における熱媒体の流通方向を対向方向にして(ステップS100)、対象吸着器に脱離工程を開始させたのち、流通方向調整処理を終了する。対向方向での熱媒体の流通は、次の冷却工程が開始されるまで継続する。本実施形態では、各工程の長さは、1800秒であるから、CO
2処理量Gaが高負荷である場合(ステップS40:NO)、対向方向での熱媒体の流通を1800秒間行う。
【0043】
一方、CO2処理量Gaが基準処理量Gthrより小さい場合、すなわち、CO2処理量Gaが低負荷もしくは中負荷である場合(ステップS40:YES)、制御部110は、切替タイミングTthrを取得する(ステップS50)。切替タイミングTthrは、脱離工程が開始されて、初めに並行方向で熱媒体が流通されてから、次に対向方向での熱媒体の流通に切り替えるタイミングである。制御部110は、図示しない記憶部からCO2処理量Gaに応じた切替タイミングTthrを取得する。この切替タイミングTthrは、CO2処理量Gaが少ないほど(負荷が低いほど)並行期間が長くなるよう設定されている。なお、CO2処理量Gaが低負荷とみなされる場合、それに応じた切替タイミングTthrは、脱離工程が終了するタイミングで並行方向から対向方向へ流通方向を切り替える(すなわち、対向方向での熱媒体の流通を1800秒間行ったのちに対向方向へ切り替える)タイミングであり、この場合、対向方向で熱媒体が流通する時間は実質的にゼロである。切替タイミングTthrを取得したのち(ステップS50)、制御部110は、対象吸着器における熱媒体の流通方向を並行方向にして(ステップS60)、対象吸着器に脱離工程を開始させる。
【0044】
次に、制御部110は、脱離工程経過期間Tが切替タイミングTthrを経過したか判定する(ステップS70)。脱離工程経過期間Tは、対象吸着器が脱離工程を開始してから経過した期間である。脱離工程経過期間Tが切替タイミングTthrを経過した場合(ステップS70:YES)、制御部110は、対象吸着器における熱媒体の流通方向を対向方向に切り換えたのち(ステップS100)、流通方向調整処理を終了する。対向方向での熱媒体の流通は、次の冷却工程が開始されるまで継続する。
【0045】
一方、脱離工程経過期間Tが切替タイミングTthrを経過していない場合(ステップS70:NO)、制御部110は、実脱離量が想定脱離量より少ないか判定する(ステップS80)。実脱離量は、脱離工程が開始されてから対象吸着材から脱離した実際のCO2脱離量である。制御部110は、原料ガス流路80を形成している配管に設けられた図示しない温度センサ、圧力センサ、流量センサ及びCO2濃度センサから受信した情報を
用いて、予め準備された関係式やマップ等から、実脱離量を求める。想定脱離量は、脱離工程が開始されてから対象吸着材から脱離されることが想定されるCO2脱離量であり、脱離工程開始後の経過時間ごとに設定されている。制御部110は、脱離量取得部として機能することにより、図示しない記憶部から脱離工程開始後の経過時間に応じた想定脱離量を取得し、実脱離量が想定脱離量より少ないか判定する。実脱離量が想定脱離量より多い場合(ステップS80:NO)、制御部110は、再びステップS70の処理を実行する。
【0046】
実脱離量が想定脱離量より少ない場合(ステップS80:YES)、制御部110は、切替タイミングTthrを補正する(ステップS90)。詳細には、制御部110は、当初ステップS50にて取得した切替タイミングTthrより並行期間が短くなるよう、切替タイミングTthrを補正する。このように、制御部110は、CO2処理量Gaに応じた並行期間の長さ及び対向期間の長さ(当初取得した切替タイミングTthr)を、実脱離量に応じて補正する。その後、制御部110は、補正した切替タイミングTthrを用いて、脱離工程経過期間Tが切替タイミングTthrを経過したか判定する(ステップS70)。
【0047】
以上説明したように、第1実施形態のガス吸着装置1によれば、脱離工程における熱媒体の流通方向を、吸着工程が開始されてから脱離工程が終了するまでの間に吸着器を出入りするCO
2の処理量に応じた流通方向とする。上述したように、CO
2の処理量が比較的少ない低負荷である場合、脱離工程において並行方向と対向方向とのうちいずれの流通方向で熱媒体を流通させても被吸着ガスの回収率は同等であるが(
図4参照)、並行方向で流通させた方が、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性を低くすることができる(
図5参照)。一方、CO
2の処理量が比較的多い高負荷である場合には、脱離工程において並行方向よりも対向方向で熱媒体を流通させた方が、CO
2回収率を高くできる(
図4参照)。したがって、CO
2の処理量に関わらず脱離工程における熱媒体の流通方向が一定である形態と比べて、この構成によれば、CO
2の処理量に応じて脱離工程における熱媒体の流通方向を並行方向や対向方向に可変であることから、CO
2の処理量に即した適切な流通方向で熱媒体を流通させることができる。具体的には、第1実施形態のガス吸着装置1では、脱離工程における熱媒体の流通方向を、低負荷(~0.6)では並行方向とし、高負荷(1.0)では対向方向とし、中負荷(0.6~1.0未満)では並行方向としてから対向方向に切り替える(
図6参照)。
【0048】
また、第1実施形態のガス吸着装置1では、CO
2の処理量が中負荷である場合、脱離工程における熱媒体の流通方向は、並行方向と対向方向とのうち一方の方向としてから、他方の方向に切り替わる。並行方向で熱媒体を流通させた場合、対向方向と比べて吸着材から脱離されるCO
2量が少ないことから、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることができる(
図5参照)。その結果、その後の吸着工程を経て更に未吸着部分が少なくなることから、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性を低くすることができる。しかし、その反面、CO
2回収率は、高負荷になるにつれて低くなる(
図4参照)。一方、対向方向で熱媒体を流通させた場合、並行方向と比べて吸着材から脱離されるCO
2量が多いことから、CO
2回収率を高くすることができる(
図4参照)。しかし、その反面、脱離工程後の吸着材において未吸着部分が多くなり、その後の吸着工程を経ても未吸着部分が多く残る可能性が高いことから、吸着材から回収される回収ガス中に不純物が混入する可能性が高くなる(
図5参照)。この点、第1実施形態のガス吸着装置1によれば、脱離工程における熱媒体の流通方向を、並行方向と対向方向とのうち一方の方向から他方の方向に切り替えることによって、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程によるCO
2回収率を高くすることと、を両立することができる。
【0049】
第1実施形態のガス吸着装置1における流通方向の切替について、具体的には、CO2の処理量が中負荷である場合、脱離工程における熱媒体の流通方向は、並行方向としてから対向方向に切り替わる。すなわち、初めに、吸着材において未吸着部分を少なくする並行方向で熱媒体を流通させてから、次に、吸着材から脱離されるCO2量が多い対向方向で熱媒体を流通させることにより、上述した両立を実現している。
【0050】
また、第1実施形態のガス吸着装置1では、中負荷における流通方向の切替について、CO2の処理量が少ないほど(負荷が低いほど)並行期間を長くし、CO2の処理量が多いほど(負荷が高いほど)対向期間を長くする。このため、CO2の処理量(負荷)に応じて並行期間及び対向期間を調整可能であることから、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程による被吸着ガスの回収率を高くすることと、を一層精度よく両立することができる。
【0051】
また、第1実施形態のガス吸着装置1では、CO2の処理量に応じて取得された切替タイミングTthrを、実脱離量に応じて補正する。このため、脱離工程のうち初めの並行期間中におけるCO2脱離量が想定より少なかった場合、並行期間を短くするとともに対向期間を長くすることができる。
【0052】
<第2実施形態>
第2実施形態のガス吸着装置は、第1実施形態のガス吸着装置1と比べて、中負荷(0.6~1.0未満)では、脱離工程における熱媒体の流通方向を、対向方向としてから、並行方向に切り替える点を除いて第1実施形態のガス吸着装置1と同じである。
【0053】
第2実施形態における流通方向調整処理では、第1実施形態と比べて、ステップS50,60,80,90,100の処理が異なる(ステップS10~40,70の処理は同じである)。第2実施形態における流通方向調整処理では、まず、ステップS50において取得される切替タイミングTthrは、脱離工程が開始されて、初めに対向方向で熱媒体が流通されてから、次に並行方向での熱媒体の流通に切り替えるタイミングである。なお、この切替タイミングTthrにおいても、CO2の処理量が少ないほど(負荷が低いほど)並行期間が長くなるよう設定されている。また、ステップS60において、対象吸着器における熱媒体の流通方向を対向方向とするとともに、ステップS100において、対象吸着器における熱媒体の流通方向を並行方向とする。また、ステップS80において、実脱離量が想定脱離量より多いか判定する。そして、実脱離量が想定脱離量より多い場合には、ステップS90において、当初ステップ50にて取得した切替タイミングTthrより対向期間が短くなるよう、切替タイミングTthrを補正する。
【0054】
以上のような第2実施形態のガス吸着装置によっても、第1実施形態と同様に、CO2の処理量に即した適切な流通方向で熱媒体を流通させることができる。また、脱離工程後の吸着材において未吸着部分を少なくすることと、脱離工程によるCO2回収率を高くすることと、を両立することができる。さらに、第2実施形態のガス吸着装置によれば、脱離工程のうち初めの対向期間中におけるCO2脱離量が想定より多い場合、対向期間を短くするとともに並行期間を長くすることができる。
【0055】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
[変形例1]
上記実施形態では、二酸化炭素(CO2)を特定の被吸着ガスとしていたが、これに限られない。例えば、特定の被吸着ガスは、水(H2O)、窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化
物(SOX)等であってもよい。
【0057】
[変形例2]
上記実施形態では、水素供給源60は、水電解装置であったが、これに限られない。例えば、水素供給源60は、水素ガスを貯蔵したガスタンクであってもよい。
【0058】
[変形例3]
上記実施形態では、脱離工程における熱媒体の流通方向を、低負荷では並行方向とし、高負荷では対向方向とし、中負荷では、並行方向と対向方向とのうち一方の方向としてから他方の方向に切り替えていたが、これに限られない。例えば、低負荷及び高負荷においても、流通方向を切り替えてもよい。この場合、低負荷では、脱離工程中の大半を並行期間にするとともに残余の期間を対向期間とし、高負荷では、脱離工程中の大半を対向期間にするとともに残余の期間を並行期間とする。
【0059】
[変形例4]
第1実施形態では、脱離工程において初めの並行期間が開始されてから(ステップS60)、実脱離量に応じて脱離工程中に切替タイミングTthrが補正されていたが、これに限られない。例えば、脱離工程中に切替タイミングTthrは補正されず、脱離工程以外の間(吸着工程や冷却工程)に切替タイミングTthrは補正されて、その補正された切替タイミングTthrは、それ以降の脱離工程に用いられてもよい。この補正に用いられる実脱離量は、直前の脱離工程において求められた実脱離量であってもよいし、脱離工程の繰り返しによって蓄積された複数の実脱離量であってもよい。
【0060】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…ガス吸着装置
10…第1吸着器
12…第1吸着材
20…第2吸着器
22…第2吸着材
30…第3吸着器
32…第3吸着材
40…燃焼設備
50…排ガス供給流路
51…第1排ガス供給バルブ
52…第2排ガス供給バルブ
53…第3排ガス供給バルブ
54…第1排出流路
55…第2排出流路
56…第3排出流路
57…第1排出バルブ
58…第2排出バルブ
59…第3排出バルブ
60…水素供給源
70…水素供給流路
71…第1水素供給バルブ
72…第2水素供給バルブ
73…第3水素供給バルブ
74…第4水素供給バルブ
80…原料ガス流路
81…第1原料ガス供給バルブ
82…第2原料ガス供給バルブ
83…第3原料ガス供給バルブ
85…真空ポンプ
90…炭化水素合成装置
100…熱媒体流路
101…第1流路
102…第2流路
103…第3流路
104…第1流路切替バルブ
105…第2流路切替バルブ
106…第3流路切替バルブ
107…第4流路切替バルブ
108…ポンプ
109…温度調整部
110…制御部