IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電力変換装置 図1
  • 特開-電力変換装置 図2
  • 特開-電力変換装置 図3
  • 特開-電力変換装置 図4
  • 特開-電力変換装置 図5
  • 特開-電力変換装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142981
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20230928BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H02M3/28 Y
H05K7/20 J
H02M3/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050148
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【弁理士】
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 渉
【テーマコード(参考)】
5E322
5H730
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AB10
5E322BA01
5E322BA03
5E322BB01
5E322BB05
5E322BB06
5E322EA10
5H730AA12
5H730AA20
5H730AS01
5H730AS08
5H730AS17
5H730FD61
5H730FG05
5H730XX11
5H730XX31
5H730XX38
5H730XX42
5H730ZZ01
5H730ZZ07
5H730ZZ11
5H730ZZ15
(57)【要約】
【課題】冷却用のファンが故障しているか凍結しているかを的確に判定する。
【解決手段】筐体内において、ファン(24)は、電力変換回路(21)を冷却するためのものである。回転数センサ(26)は、ファン(24)の回転数を計測する。温度センサ(23)は、筐体内の温度を計測する。制御部(22)は、回転数センサ(26)からファン(24)の回転数を取得し、温度センサ(23)から温度を取得し、電力変換回路(21)とファン(24)を制御する。制御部(22)は、温度が所定値よりも低い場合、ファン(24)の回転数に基づくファン(24)の故障判定を保留する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
電力変換回路と、
前記電力変換回路を冷却するためのファンと、
前記ファンの回転数を計測する回転数センサと、
前記筐体内の温度を計測する温度センサと、
前記回転数センサから前記ファンの回転数を取得し、前記温度センサから温度を取得し、前記電力変換回路と前記ファンを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記温度が所定値よりも低い場合、前記ファンの回転数に基づく前記ファンの故障判定を保留する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電力変換回路の通電時において、前記温度が前記所定値以上であって、かつ前記ファンの回転数が閾値未満の場合、前記ファンが故障していると判定する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ファンを加熱するための電熱ヒータをさらに備え、
前記制御部は、前記温度が前記所定値よりも低い状態で、事前の運転開始指示または即時の運転開始指示に応じて、前記電熱ヒータを稼働させる、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度が所定値よりも低い状態で、即時の運転開始指示を取得した場合、事前の運転開始指示を取得した場合より、前記電熱ヒータの強度を強く設定する、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電熱ヒータを稼働させた後、前記ファンの回転数が正常値になると、前記電熱ヒータを停止させる、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記ファンの近傍に、非電気的な熱源を一時的に設置するための設置スペースをさらに備える、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
ユーザに情報を提示するための報知部をさらに備え、
前記制御部は、前記温度が前記所定値よりも低く、かつ前記ファンの回転数が閾値未満の場合、前記報知部から凍結アラートを出力させる、
請求項1または6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記温度が前記所定値よりも低く、かつ前記ファンの回転数が閾値未満の場合であっても、前記電力変換回路の通電を継続する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ファンを内蔵する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今後、世界的なEVの普及が見込まれる。EVの普及には、ユーティリティの高いEV充電器の開発が求められる。EV充電規格は多数存在しているが、一般的なEV充電規格は、EVとEV充電器との整合部分のみを規定しているものが多い。EV自体あるいはEV充電器自体は充電規格動作に連動して動作し、その連動に従えない場合は不具合となる。些細な不具合で動作が停止する場合、EV充電器は性能不十分と市場から評価され、市場シェア獲得の機会を失う。従って、EV充電器の各メーカは、あらゆる事象を想定した機器設計が求められる。
【0003】
EV充電器では充電時に、筐体内のスイッチングデバイス(例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))などの発熱で庫内温度が100℃を超える高温となることがある。冷却機構を搭載しない場合、高温により暫く停止した後、再度充電を開始する動作の繰り返しになることが想定される。そこで、冷却用のファンを内蔵することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。ファンを搭載する機器では、ファンの回転数が低回転閾値未満になると故障と判定する故障検出モードが搭載されていることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-92837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
EV充電器を寒冷地で屋外設置した場合、ファンが凍結して回転できない事象が発生し得る。上記故障検出モードでは、ファンの凍結を故障と判定し、システム全体が停止してしまうことがあった。
【0006】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、冷却用のファンが故障しているか凍結しているかを的確に判定することができる電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の電力変換装置は、筐体と、電力変換回路と、前記電力変換回路を冷却するためのファンと、前記ファンの回転数を計測する回転数センサと、前記筐体内の温度を計測する温度センサと、前記回転数センサから前記ファンの回転数を取得し、前記温度センサから温度を取得し、前記電力変換回路と前記ファンを制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記温度が所定値よりも低い場合、前記ファンの回転数に基づく前記ファンの故障判定を保留する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、冷却用のファンが故障しているか凍結しているかを的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る分散型電源システムの全体構成を示す図である。
図2】車両用電力変換装置の構成例を示す図である。
図3】ヒートシンクとトランス、第1基板、第2基板の設置場所を示す斜視図である。
図4】実施の形態に係る車両用電力変換装置の動作例1を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る車両用電力変換装置の動作例2を示すフローチャートである。
図6】実施の形態に係る車両用電力変換装置の動作例3を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施の形態に係る分散型電源システム1の全体構成を示す図である。実施の形態に係る分散型電源システム1は、屋内に設置された電力変換システム10、および屋外に設置された車両用電力変換装置20を備える。電力変換システム10は、太陽電池5用のDC/DCコンバータ11、定置型蓄電部6用のDC/DCコンバータ13、インバータ12、および制御部14を備える。電力変換システム10は、太陽光発電システム用のパワーコンディショナ機能と、蓄電システム用のパワーコンディショナ機能を一体化させた統合型の電力変換システム(パワーステーション(登録商標)とも呼ばれる)で構成されてもよいし、それぞれ独立した太陽光発電システム用のパワーコンディショナと、蓄電システム用のパワーコンディショナの組み合わせで構成されてもよい。
【0011】
太陽電池5は光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接、直流電力に変換する発電装置である。太陽電池5として、ヘテロ接合太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、薄膜シリコン太陽電池、化合物系太陽電池などを使用することができる。太陽電池5は、電力変換システム10のDC/DCコンバータ11と接続され、発電した電力を電力変換システム10に出力する。
【0012】
DC/DCコンバータ11は、太陽電池5と直流バスBdとの間に接続され、太陽電池5から出力される直流電力の電圧を調整可能なコンバータである。DC/DCコンバータ11は例えば、昇圧チョッパで構成することができる。DC/DCコンバータ11は基本制御として、太陽電池5の出力電力が最大になるようにMPPT(Maximum Power Point Tracking) 制御する。また、DC/DCコンバータ11は、直流バスBdの電圧の計測値が目標値を維持するように、または太陽電池5の発電電力の計測値が目標値を維持するように昇圧率を制御することもできる。この制御は、太陽電池5の発電量を抑制する必要がある場合に発動される。
【0013】
インバータ12は、直流バスBdと分電盤3との間に接続される。インバータ12は、直流バスBdから入力される直流電力を交流電力に変換し、変換した交流電力を分電盤3に出力する。分電盤3には、商用電力系統(以下、単に系統2という)が接続される。また分電盤3には負荷4が接続される。負荷4は宅内の負荷の総称である。インバータ12は、系統2から分電盤3を介して供給される交流電力を直流電力に変換し、変換した直流電力を直流バスBdcに出力することもできる。
【0014】
定置型蓄電部6は電力を充放電可能であり、リチウムイオン蓄電池、ニッケル水素蓄電池、鉛蓄電池などの蓄電池、または電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタなどのキャパシタを備える。定置型蓄電部6は、電力変換システム10のDC/DCコンバータ13と接続され、DC/DCコンバータ13により充放電制御される。DC/DCコンバータ13は、定置型蓄電部6と直流バスBdとの間に接続され、定置型蓄電部6を充放電するための双方向DC/DCコンバータである。
【0015】
DC/DCコンバータ13は、定電流(CC)または定電圧(CV)で定置型蓄電部6を充放電することができる。また、DC/DCコンバータ13は、直流バスBdの電圧が目標値を維持するように定置型蓄電部6を充放電することもできる。
【0016】
制御部14は、電力変換システム10全体を統括的に制御する。制御部14は、太陽電池5用のDC/DCコンバータ11、インバータ12および定置型蓄電部6用のDC/DCコンバータ13の指令値をそれぞれ生成して、DC/DCコンバータ11、インバータ12およびDC/DCコンバータ13をそれぞれ制御することができる。また制御部14は、電動車7用のDC/DCコンバータ21の指令値を生成して、車両用電力変換装置20の制御部22に通知することもできる。
【0017】
車両用電力変換装置20は、屋内の電力変換システム10と電動車7を連携させ、電動車7に搭載された蓄電部を充放電するためのV2H機器である。車両用電力変換装置20と電動車7は、直流の充放電ケーブル30で接続される。充放電ケーブル30の先端にはガンコネクタ31が取り付けられており、ユーザがガンコネクタ31を電動車7のインレットに差し込むことにより、車両用電力変換装置20と電動車7が接続される。
【0018】
代表的なEV充電規格であるCHAdeMO(登録商標)V2Hガイドラインは、電動車と充電器(本実施の形態では車両用電力変換装置20)との間の信号、通信、充放電シーケンスなどを規定している。充放電ケーブル30内にはCAN(Controller Area Network)通信線が含まれている。車両用電力変換装置20は、電動車7からCAN通信により、車両情報(車両ID、電池総容量、SOC(State Of Charge)など)を取得することができる。
【0019】
車両用電力変換装置20は、DC/DCコンバータ21、制御部22、温度センサ23、ファン24、駆動部25、回転数センサ26および報知部27を備える。電動車7に搭載された蓄電部は、複数のセルを含む充放電可能な蓄電部であり、主に走行用モータを駆動するための電源として使用される。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセルなどを用いることができる。
【0020】
DC/DCコンバータ21の一端は充放電ケーブル30を介して電動車7の蓄電部に接続され、DC/DCコンバータ21の他端は、直流バスBd(より具体的には電力変換システム10と車両用電力変換装置20を接続する直流ケーブル)に接続される。
【0021】
DC/DCコンバータ21は、電動車7に搭載された蓄電部を充放電するための双方向DC/DCコンバータである。DC/DCコンバータ21は、定電流(CC)または定電圧(CV)で電動車7に搭載された蓄電部を充放電することができる。
【0022】
制御部22は、車両用電力変換装置20全体を統括的に制御する。制御部22は、電動車7に搭載された蓄電部のSOCを参照して、DC/DCコンバータ21の指令値を生成する。なお、DC/DCコンバータ21の指令値として、電力変換システム10の制御部14または電動車7の制御部から通知される指令値を使用してもよい。
【0023】
温度センサ23は、車両用電力変換装置20の筐体内の温度を計測して、計測した温度を制御部22に出力する。温度センサ23には例えば、サーミスタや熱電対を使用することができる。温度センサ23は、筐体内のどの位置に設置されてもよい。例えば、DC/DCコンバータ21が実装された基板上に設置されてもよい。
【0024】
ファン24は、DC/DCコンバータ21を冷却するためのファンである。本実施の形態では、PWMコントロール機能付きのDCファンを使用することを想定する。PWMコントロール機能付きのDCファンは、PWMデューティを付与することで回転速度を制御可能なファンである。PWMデューティを0に近づけるほど回転速度が遅くなり、PWMデューティを1に近づけるほど回転速度が速くなる。
【0025】
回転数センサ26は、ファン24の回転数を計測して、計測した回転数を制御部22に出力する。回転数センサ26には例えば、ファンモータ1回転あたり2周期の矩形波信号を出力するパルスセンサを使用することができる。
【0026】
制御部22は、温度センサ23から取得する温度をもとにファン24の回転数を決定する。制御部22は例えば、予め保持している、庫内温度とファン24の回転数の関係を規定したマップを参照してファン24の回転数を決定する。制御部22は、決定したファン24の回転数に応じたPWMデューティを駆動部25に供給する。駆動部25は、制御部22から供給されるPWMデューティをもとに、ファンモータを駆動する。
【0027】
制御部22は、庫内温度が高温になった場合、ファン24の回転数を上げる。また制御部22は、庫内温度が高温になった場合、DC/DCコンバータ21の電流指令値または電圧指令値を下げて、充放電電力を低下させることができる。制御部22は、ファン24の検査モードとして、所定のPWMデューティを駆動部25に供給し、回転数センサ26から取得される回転数が所望の回転数にあるかを確認することで、ファン24が正常に動作しているか否かを確認することができる。
【0028】
報知部27は、ユーザに情報を提示するためのユーザインタフェースであり、例えば、LEDランプ、ディスプレイ、スピーカの少なくとも一つが設置される。
【0029】
図2は、車両用電力変換装置20の構成例を示す図である。図2に示す車両用電力変換装置20は、縦長で長尺な箱型の筐体Hを備える。筐体H内の底部に配線スペースSwが設けられる。配線スペースSwの上に、第1基板B1、第2基板B2を密閉して配置するための密閉スペースSeが設けられる。密閉スペースSeは例えば、縦長で長尺な金属箱で構成される。金属箱内において上から順に、トランスTR、第1基板B1、第2基板B2が、高さ方向に並べて配置される。
【0030】
第1基板B1には例えば、DC/DCコンバータ21を構成するスイッチングデバイス(MOSFET、IGBTなどのパワー半導体素子)、リアクトル、キャパシタ、および温度センサ23が実装される。第2基板B2には例えば、制御部22、駆動部25、回転数センサ26、リレーが実装される。
【0031】
金属箱のトランスTR、第1基板B1、第2基板B2が配置されている面の背面に、ヒートシンクHsが設置される。ヒートシンクHsは、複数の放熱フィンを有する放熱部材である。
【0032】
図3は、ヒートシンクHsとトランス(リアクトルL)、第1基板B1、第2基板B2の設置場所を示す斜視図である。トランス、リアクトル、スイッチングデバイスは温度が100℃以上に上昇することがあり、それらの電子部品とヒートシンクHsは、できるだけ近い距離に配置されることが望ましい。
【0033】
図2に戻る。ファン24は筐体H内の下方部に配置され、庫内温度を撹拌する。筐体Hの下部に下部通気口Vbが設置され、筐体Hの上部に上部通気口Vtが設置される。下部通気口Vbから冷却用の空気が筐体H内に流入し、流入した空気がヒートシンクHsを通過して上昇し、上部通気口Vtから外に抜けていく。筐体H内の主な発熱源であるトランスTR、リアクトル、スイッチングデバイスが筐体H内の上方部に配置されているため、筐体H内の上方部の方が空気密度が低くなり、筐体H内で上昇気流が発生しやすくなっている。さらにファン24が上向きの風を生成することで、空気の流通量を増加させることができる。
【0034】
本実施の形態では、充放電動作に付随して動作させるファン24の動作状況の判別に注目する。家庭用の太陽光発電システム、蓄電システム、または両者を統合したハイブリッド蓄電システム(創蓄連携システムともいう)と連携する車両用電力変換装置20では、消費電力の極小化と低コスト化が、特に求められる。
【0035】
一般的に充放電動作はスイッチングデバイスを用いた電力変換動作で実施されるが、電力変換動作が長時間継続されると、筐体H内の温度が上昇する。放熱が不十分な場合、スイッチングデバイスや他の部品の耐熱許容範囲を超え、部品故障につながる。筐体H内の発熱を外部に放出あるいは筐体Hの内部の空気を攪拌することで、筐体H内の温度上昇を抑制し、長時間の充放電動作が可能となる。
【0036】
車両用電力変換装置20は様々な利用シーンでの動作が求められる。寒冷地の家庭において複数の電動車7を所有し、複数の電動車7で一つの車両用電力変換装置20を共用するシーンを考える。例えば、1台目の電動車7を10時間で充電し、3時間休止後、2台目の電動車7を充電する予定の場合、3時間休止中に、低温かつ高湿度によりファン24の回転部が凍結することも起こり得る。充電動作に付随して動作すべきファン24が凍結して停止している場合に故障と判定すると、充電動作も停止してしまう。特に、車両用電力変換装置20が寒冷地の屋外に設置される場所、夜間にファン24の回転部が凍結しやすい。
【0037】
筐体H内の電子部品については必要十分な湿気対策が可能であるが、機構部品(ファン、リレーなど)はその性質上、完全な湿気対策は困難である。本実施の形態では、庫内温度を参照しながら、ファン24の凍結の有無を判別し、ファン24が凍結している場合は早期に解凍することが可能な車両用電力変換装置20を実現する。
【0038】
図2において、ファン24の近傍に、熱源を格納するための格納スペースが設けられる。第1格納スペースSh1および第2格納スペースSh2にはそれぞれ、熱伝導性が高い格納ボックスが設置される。第1格納スペースSh1に設置される第1格納ボックスは、ファン24の複数の羽根部を収容している矩形フレームとの間に空間を開けずに接触した状態で設置される。第2格納スペースSh2に設置される第2格納ボックスは、当該矩形フレームとの間に空間を開けて非接触の状態で設置される。
【0039】
第1格納ボックスは、炎が発生しない熱源を格納するための格納ボックスであり、熱結合でファン24を加熱するための格納ボックスである。第1格納ボックスには例えば、電熱ヒータが格納される。また、第1格納ボックスには使い捨てカイロを格納することもできる。寒冷地仕様ではない車両用電力変換装置20では、電熱ヒータが設置されない機種が一般的である。使い捨てカイロは、非電気的な熱源であり、ユーザにより一時的に設置される熱源である。第1格納ボックスに電熱ヒータ以外の熱源が設置される仕様の場合、第1格納ボックスには、ユーザが熱源を出し入れするための扉が設置される。なお、第1格納ボックスは、ファン24の矩形フレームのいずれの面(空気の吹出面を除く)に設置されてもよい。また、第1格納ボックスは、矩形フレームの複数の面(空気の吹出面を除く)に設置されてもよい。
【0040】
第2格納ボックスは、炎が発生する熱源を格納するための格納ボックスであり、あぶり熱でファン24を加熱するための格納ボックスである。第2格納ボックスの天面は開口されていてもよいし、空気孔が開いた蓋が被せられていてもよい。第2格納ボックスには例えば、ロウソク、ガスバーナー、ライター、火鉢を格納することができる。ロウソク、ガスバーナー、ライター、火鉢は、非電気的な熱源であり、ユーザにより一時的に設置される熱源である。第2格納ボックスには、ユーザが熱源を出し入れするための扉が設置される。
【0041】
車両用電力変換装置20のDC/DCコンバータ21、制御部22、温度センサ23、ファン24、駆動部25、回転数センサ26、報知部27、および電熱ヒータの動作電源は、通常、系統2から電力変換システム10を介して供給される。停電時は太陽電池5または定置型蓄電部6から電力変換システム10を介して電源供給を受けることができる。また、電動車7のシガーソケットに配線を接続して、電動車7から電源供給を受けることもできる。また、車両用電力変換装置20内に非常用の蓄電池またはキャパシタが搭載されていてもよい。
【0042】
家庭用の車両用電力変換装置20は未使用時の消費電力を無くすため、基本的に、ユーザ操作に起因する起動タイミングで動作開始となる。ユーザは、車両用電力変換装置20に設置された操作スイッチを直接操作して車両用電力変換装置20の運転開始を指示することができる。また、ユーザは事前に運転開始時刻を設定して、車両用電力変換装置20をタイマー運転させることもできる。
【0043】
また、車両用電力変換装置20と、屋内に設置されたHEMS(Home Energy Management System)コントローラが接続されている場合、ユーザは、HEMS端末からHEMSコントローラを介して車両用電力変換装置20を操作することができる。また、ユーザが保持するスマートフォンと、車両用電力変換装置20またはHEMSコントローラが連携している場合、ユーザは、スマートフォンから車両用電力変換装置20を操作することもできる。
【0044】
ファン24は基本的に、DC/DCコンバータ21の動作中に動作し、DC/DCコンバータ21の停止中は動作しない。制御部22はファン24を、DC/DCコンバータ21の動作中、常時固定の回転数で動作させてもよいし、庫内温度に応じて適応的に回転数を変化させながら動作させてもよい。
【0045】
本実施の形態では、ファン24の異常モードとして、経時劣化モード、故障モード、凍結モードの3つのモードが定義される。経時劣化モードは、ファン24の長期間利用による回転数低下が観測される状態である。経時劣化したファン24は、定回転数を維持できなくなる。ファン24の経時劣化は、樹脂部分やベアリングの摩耗または腐食、ホコリの堆積などに起因して進行する。
【0046】
故障モードは、機械的または電気的な不具合により回転不能な状態である。例えば、筐体H内の部品が羽根の間に落下して羽根の間に挟まることで回転不能な状態、機構部分(ベアリングなど)の物理的な破損により回転不能な状態、電流線や信号線の断線で回転不能な状態、などが該当する。
【0047】
凍結モードは、回転部が凍結していることにより回転不能な状態である。ファン24に通電しても回転しない場合、故障モードと凍結モードのいずれかの可能性があるが、本実施の形態では、故障モードと凍結モードを的確に判別する制御が導入されている。以下の説明では、故障モードは劣化モードも含む概念とする(広義の故障モード)。
【0048】
図4は、実施の形態に係る車両用電力変換装置20の動作例1を示すフローチャートである。動作例1では、電熱ヒータが搭載されている車両用電力変換装置20を前提とする。制御部22は、ユーザ操作またはHEMSコントローラの制御に基づき運転開始が指示されると、DC/DCコンバータ21の運転を開始するとともに(S10)、ファン24の運転を開始する(S11)。制御部22は、温度センサ23から庫内温度を取得し、回転数センサ26からファン24の回転数を取得する(S12)。
【0049】
制御部22は、庫内温度と所定値(例えば、4℃)を比較する(S13)。庫内温度が所定値未満の場合(S13のN)、制御部22は、ファン24の回転数と閾値を比較する(S14)。閾値はファン24の回転数が正常であるか否かを判別するための閾値であり、使用するファン24の仕様に応じた値に設定される。
【0050】
ファン24の回転数が閾値未満の場合(S14のY)、制御部22は電熱ヒータを稼働させる(S15)。既に電熱ヒータが稼働している場合は稼働を継続する。ステップS110に遷移する。ファン24の回転数が閾値以上の場合(S14のN)、制御部22は電熱ヒータを停止させる(S16)。既に電熱ヒータが停止している場合は停止を継続する。ステップS110に遷移する。
【0051】
ステップS13において、庫内温度が所定値以上の場合(S13のY)、制御部22は、ファン24の回転数と閾値を比較する(S17)。ファン24の回転数が閾値未満の場合(S17のY)、制御部22は、ファン24が広義の故障モードにあると判定し、報知部27から故障アラートを通知させる(S18)。制御部22は例えば、ファン故障ランプを点灯させる、ディスプレイにファン24の故障メッセージを表示させる、スピーカからファン24の故障メッセージを音声出力させる、の少なくとも一つを実行する。ファン24の回転数が閾値以上の場合(S17のN)、制御部22は電熱ヒータを停止させる(S19)。既に電熱ヒータが停止している場合は停止を継続する。ステップS110に遷移する。
【0052】
制御部22は、ユーザ操作またはHEMSコントローラの制御に基づく運転停止指示を取得するまで、または電動車7に搭載された蓄電部の充電が完了するまで(S110のY)、ステップS12-ステップS19の処理を繰り返す。
【0053】
動作例1では、庫内温度が所定値未満の状態においてファン24の回転数に基づくファン24の故障判定が保留される。庫内温度が所定値未満の状態では、ファン24が広義の故障モードにあるか凍結モードにあるか判別が難しいため、制御部22は観察状態とし、庫内温度が上昇するまで故障判定を待機する。
【0054】
図5は、実施の形態に係る車両用電力変換装置20の動作例2を示すフローチャートである。動作例2では、ユーザにより運転開始時刻が指定された予約運転設定が事前になされることを前提とする。制御部22は、ユーザにより入力された予約運転設定を取得する(S20)。制御部22は、運転開始予約時刻の所定時間前になると(S21のY)、温度センサ23から庫内温度を取得する(S22)。
【0055】
制御部22は、庫内温度と所定値(例えば、4℃)を比較する(S23)。庫内温度が所定値未満の場合(S23のN)、制御部22は、電熱ヒータを稼働させる(S24)。既に電熱ヒータが稼働している場合は稼働を継続する。制御部22は、運転開始予約時刻までの時間と、庫内温度と所定値との温度差をもとに電熱ヒータに供給する電力を決定する。制御部22は例えば、予め保持している、運転開始予約時刻までの時間および温度差の組み合わせと、電熱ヒータに供給する電力の関係を規定したマップを参照して、電熱ヒータに供給する電力を決定する。ステップS26に遷移する。
【0056】
なお、庫内温度が所定値よりも低い状態で、ユーザの直接操作またはHEMSコントローラの制御により即時の運転開始指示を取得した場合、制御部22は、事前の運転開始指示を取得した場合より、電熱ヒータの強度を強く設定する。制御部22は例えば、速やかにファン24を解凍させるために電熱ヒータに仕様上の最大電力を供給してもよい。
【0057】
ステップS23において、庫内温度が所定値以上の場合(S23のY)、制御部22は、電熱ヒータを停止させる(S25)。既に電熱ヒータが停止している場合は停止を継続する。ステップS26に遷移する。
【0058】
運転開始予約時刻に到達すると(S26のY)、制御部22は、図4に示したステップS10以下の処理を実行する。運転開始予約時刻に到達するまでは(S26のN)、ステップS22-ステップS25の処理を繰り返す。動作例2では、予約運転に備え、事前に電熱ヒータを稼働させることで、事前にファン24の凍結を解凍させることができる。
【0059】
図6は、実施の形態に係る車両用電力変換装置20の動作例3を示すフローチャートである。動作例3では、電熱ヒータが搭載されていない車両用電力変換装置20を前提とする。制御部22は、ユーザ操作またはHEMSコントローラの制御に基づき運転開始が指示されると、DC/DCコンバータ21の運転を開始するとともに(S30)、ファン24の運転を開始する(S31)。制御部22は、温度センサ23から庫内温度を取得し、回転数センサ26からファン24の回転数を取得する(S32)。
【0060】
制御部22は、庫内温度と所定値(例えば、4℃)を比較する(S33)。庫内温度が所定値未満の場合(S33のN)、制御部22は、ファン24の回転数と閾値を比較する(S34)。ファン24の回転数が閾値未満の場合(S34のY)、制御部22は、報知部27から凍結アラートを通知させる(S35)。制御部22は例えば、ファン凍結ランプを点灯させる、ディスプレイにファン24の凍結メッセージを表示させる、スピーカからファン24の凍結メッセージを音声出力させる、の少なくとも一つを実行する。また制御部22は、ユーザのスマートフォンに凍結アラートを通知してもよい。ユーザは、凍結アラートに気付くと、第1格納スペースSh1または第2格納スペースSh2に、使い捨てカイロなどの非電気的な熱源を設置して、ファン24を加熱する。ステップS310に遷移する。
【0061】
ステップS34において、ファン24の回転数が閾値以上の場合(S34のN)、制御部22は凍結アラートを解除する(S36)。制御部22は例えば、ファン凍結ランプを消灯させる、ディスプレイにファン24の解凍メッセージを表示させる、スピーカからファン24の解凍メッセージを音声出力させる、の少なくとも一つを実行する。また制御部22は、ユーザのスマートフォンに解凍メッセージを通知してもよい。ユーザは、解凍メッセージに気付くと、第1格納スペースSh1または第2格納スペースSh2から、使い捨てカイロなどの非電気的な熱源を回収することができる。当初から凍結アラートが発動されていない場合は凍結アラートの非活性を継続する。ステップS310に遷移する。
【0062】
ステップS33において、庫内温度が所定値以上の場合(S33のY)、制御部22は、ファン24の回転数と閾値を比較する(S37)。ファン24の回転数が閾値未満の場合(S37のY)、制御部22は、ファン24が広義の故障モードにあると判定し、報知部27から故障アラートを通知させる(S38)。ファン24の回転数が閾値以上の場合(S37のN)、制御部22は凍結アラートを解除する(S39)。当初から凍結アラートが発動されていない場合は凍結アラートの非活性を継続する。ステップS310に遷移する。
【0063】
制御部22は、ユーザ操作またはHEMSコントローラの制御に基づく運転停止指示を取得するまで、または電動車7に搭載された蓄電部の充電が完了するまで(S310のY)、ステップS32-ステップS39の処理を繰り返す。
【0064】
なお動作例3は、電熱ヒータが搭載されている車両用電力変換装置20において、停電などにより電熱ヒータの電源を確保できない状況(ブラックスタートの状況)になった場合にも適用可能である。
【0065】
本実施の形態では、制御部22は、庫内温度が所定値よりも低く、かつファン24の回転数が閾値未満の場合であっても、DC/DCコンバータ21の通電を継続する。従って、DC/DCコンバータ21の損失に伴う発熱により庫内温度は自然に上昇していく。密閉スペースSe内の電子部品の耐熱設計に十分な余裕がある場合、ファン24の自然解凍を待つ設計でもよい。
【0066】
以上説明したように本実施の形態によれば、庫内温度が低温の場合、ファン24の故障判定を保留することで、ファン24が故障しているか凍結しているかの的確な判定が可能となる。また、ファン24を解凍させるための電熱ヒータを搭載したり、その他の熱源を設置するスペースを確保したりすることで、凍結したファン24を早期に解凍させることができる。また本実施の形態によれば、不要なシステム停止が抑制された、寒冷地仕様の車両用電力変換装置20を低コストで生成することができる。
【0067】
以上、本開示を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0068】
本開示に係るファン24の故障モードと凍結モードの判定処理は、ファンを搭載している電力変換装置であれば、車両用電力変換装置20以外の電力変換装置にも適用可能である。例えば、太陽光発電システムのパワーコンディショナ、蓄電システムのパワーコンディショナ、ハイブリッド蓄電システムのパワーコンディショナ、定置蓄電池用のコンバータ装置などに適用可能である。
【0069】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0070】
[項目1]
筐体(H)と、
電力変換回路(21)と、
前記電力変換回路(21)を冷却するためのファン(24)と、
前記ファン(24)の回転数を計測する回転数センサ(26)と、
前記筐体(H)内の温度を計測する温度センサ(23)と、
前記回転数センサ(26)から前記ファン(24)の回転数を取得し、前記温度センサ(23)から温度を取得し、前記電力変換回路(21)と前記ファン(24)を制御する制御部(22)と、を備え、
前記制御部(22)は、前記温度が所定値よりも低い場合、前記ファン(24)の回転数に基づく前記ファン(24)の故障判定を保留する、
電力変換装置(22)。
これによれば、ファン(24)が故障しているか凍結しているかを的確に判定することができる。
[項目2]
前記制御部(22)は、前記電力変換回路(21)の通電時において、前記温度が前記所定値以上であって、かつ前記ファン(24)の回転数が閾値未満の場合、前記ファン(24)が故障していると判定する、
項目1に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、ファン(24)の故障判定の精度を上げることができる。
[項目3]
前記ファン(24)を加熱するための電熱ヒータ(Sh1)をさらに備え、
前記制御部(22)は、前記温度が前記所定値よりも低い状態で、事前の運転開始指示または即時の運転開始指示に応じて、前記電熱ヒータ(Sh1)を稼働させる、
項目1に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、凍結したファン(24)を早期に解凍させることができる。
[項目4]
前記制御部(22)は、前記温度が所定値よりも低い状態で、即時の運転開始指示を取得した場合、事前の運転開始指示を取得した場合より、前記電熱ヒータ(Sh1)の強度を強く設定する、
項目3に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、運転開始後できるだけ早期に、凍結したファン(24)を解凍させることができる。
[項目5]
前記制御部(22)は、前記電熱ヒータ(Sh1)を稼働させた後、前記ファン(24)の回転数が正常値になると、前記電熱ヒータ(Sh1)を停止させる、
項目3に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、無駄または有害な加熱を防止することができる。
[項目6]
前記ファン(24)の近傍に、非電気的な熱源を一時的に設置するための設置スペース(Sh2)をさらに備える、
項目1に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、電熱ヒータ(Sh1)を搭載していない場合、または電熱ヒータ(Sh1)の電源が確保できない場合でも、凍結したファン(24)を早期に解凍させることができる。
[項目7]
ユーザに情報を提示するための報知部(27)をさらに備え、
前記制御部(22)は、前記温度が前記所定値よりも低く、かつ前記ファン(24)の回転数が閾値未満の場合、前記報知部(27)から凍結アラートを出力させる、
項目1または6に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、ユーザに、非電気的な熱源の設置を促すことができる。
[項目8]
前記制御部(22)は、前記温度が前記所定値よりも低く、かつ前記ファン(24)の回転数が閾値未満の場合であっても、前記電力変換回路(21)の通電を継続する、
項目1に記載の電力変換装置(22)。
これによれば、ジュール熱で筐体(H)内を加温することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 分散型電源システム、 2 系統、 3 分電盤、 4 負荷、 5 太陽電池、 6 定置型蓄電部、 7 電動車、 10 電力変換システム、 11 DC/DCコンバータ、 12 インバータ、 13 DC/DCコンバータ、 14 制御部、 20 車両用電力変換装置、 21 DC/DCコンバータ、 22 制御部、 23 温度センサ、 24 ファン、 25 駆動部、 26 回転数センサ、 27 報知部、 30 充放電ケーブル、 31 ガンコネクタ、 Bd 直流バス、 H 筐体、 Hs ヒートシンク、 L リアクトル、 TR トランス、 B1 第1基板、 B2 第2基板、 Sw 配線スペース、 Sh1 第1格納スペース、 Sh2 第2格納スペース、 Vb 下部通気口、 Vt 上部通気口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6