IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本エステル株式会社の特許一覧 ▶ ユニチカ株式会社の特許一覧 ▶ ユニチカトレーディング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ポリエステル繊維 図1
  • 特開-ポリエステル繊維 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143005
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20230928BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
D01F6/92 301M
D01F6/84 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050182
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳記
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD19
4L035JJ05
4L035KK01
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】製糸性が良好で、繊維同士の密着による融着が生じにくく、環境中への特定金属成分流出を抑制できるポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂により構成される繊維であって、ポリエステル系樹脂は球状シリカ粒子を含有しており、該球状シリカ粒子は、レーザー回折法により測定した粒度分布において重量平均粒子径が1.0μm以下であるポリエステル繊維。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸とからなり、ジオール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂により構成される繊維であって、ポリエステル系樹脂は球状シリカ粒子を含有しており、該球状シリカ粒子は、レーザー回折法により測定した粒度分布において重量平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸とからなり、ジオール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ジカルボン酸成分において、イソフタル酸を18~40モル%含むことを特徴とする請求項2記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
共重合ポリエステルと、前記共重合ポリエステルの融点よりも高い高融点ポリエステルと複合してなる複合繊維であり、前記共重合ポリエステルが少なくとも繊維表面に配されてなることを特徴とする請求項2記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
ポリエステル繊維が、繊維長が2~100mmである短繊維であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
ポリエステル繊維が、ノークリンプであり、繊維長が2~15mmのショートカット繊維であることを特徴とする請求項5記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項記載のポリエステル繊維によって構成されてなることを特徴とする繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンに代わる繊維用フィラーとして特定のシリカ粒子を含むポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維は、機械的物性に優れ、コストは比較的安価であることから、衣料用、産業資材用等、種々の用途に使用されている。また熱接着性の芯鞘型ポリエステル系複合繊維は不織布や布帛の形状維持、メッシュ織物の交点融着などを目的に使用されている。
【0003】
繊維用途として使用するポリエステル樹脂中には、艶消し剤、平滑剤用途として酸化チタン等の金属成分からなる無機粒子を添加することが知られている(特許文献1)。しかし、このような無機粒子を含むポリエステル樹脂からなる繊維は特定金属成分を含み、そのような繊維を適用する用途によっては、環境中へ金属成分が流出の懸念がある。
また、酸化チタンは、欧州においては発がん性物質の一つと区分されていることから、環境中への流出を抑制するために、酸化チタンを添加せずにポリエステル繊維を製造しようとすると、繊維同士の摩擦係数が高くなることによる擦過が生じ、また、延伸工程や製造後の製品保管中において、繊維同士が密着した箇所において繊維同士の融着が生じることもある。
【0004】
一方、特許文献2には、酸化チタンの代替としてシリカ粒子を用いることを提案しているが、シリカ粒子は凝集しやすく、製造工程での紡糸時に切れ糸が多発し、操業性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-65989号
【特許文献2】特開2002-309444号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に鑑みて、本発明の課題は、製糸性が良好で、繊維同士の密着による融着が生じにくく、環境中への特定金属成分流出を抑制できるポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、ポリエステル系樹脂により構成される繊維であって、ポリエステル系樹脂は球状シリカ粒子を含有しており、該球状シリカ粒子は、レーザー回折法により測定した粒度分布において重量平均粒子径が1.0μm以下であることを特徴とするポリエステル繊維を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ポリエステル繊維において、一般的に繊維のフィラーとして用いられている酸化チタンではなく、球状シリカ粒子を用いたことにより、特定金属成分フリーであることから、環境中へ特定有害物質の流出を抑制できる。また、シリカ粒子の形状が球状であることから、凝集が生じにくく、ポリエステル系樹脂中に均一に存在でき、繊維同士の擦過が生じにくく、繊維の製造や繊維製品を得る際の操業性が良好で、また保管時に繊維同士が密着することによる融着の発生を良好に抑制し、さらに繊維製品にした際のハンドリング性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明で用いる球状シリカ粒子の電子顕微鏡写真を示す。
図2】不定形シリカ粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステル繊維を構成するポリエステル系樹脂は、球状シリカ粒子を含有しており、該球状シリカ粒子は、レーザー回折法により測定した粒度分布において重量平均粒子径が1.0μm以下である。
【0012】
本発明においては、その形状が球状であるシリカ粒子を用いることが必要である。形状が不定形シリカ粒子を使用した場合、ポリエステル系樹脂中へのフィラーの分散が悪く、凝集しやすいものとなり、繊維製造工程における紡糸や延伸工程において、凝集したフィラーが存在することによって、その凝集部が破断の起点となるため好ましくない。これに対して、本発明において用いるシリカ粒子は、球状であるため、凝集しにくく、ポリエステル系樹脂中への分散が良好であり、樹脂中に均一に分散する。したがって、繊維製造において紡糸性や延伸性が良好である。なお、図1には、本発明で用いる球状シリカ粒子の電子顕微鏡写真を示し、図2には、不定形シリカ粒子の電子顕微鏡写真を示す。
【0013】
本発明において、球状シリカ粒子は、レーザー回折法により測定した粒度分布において重量平均粒子径が1.0μm以下であり、重量平均粒子径が0.8μm以下であることが好ましく、0.6μm以下がより好ましい。重量平均粒子径を1.0μm以下のものは、シリカ粒子同士が凝集することなく存在しており、紡糸、延伸工程において操業性が良好で、ポリエステル径樹脂中に均一分散しやすく、本発明の目的を達成するものとなる。
【0014】
本発明において、重量平均粒子径は、以下の方法により算出する。すなわち、シリカ粒子を含有するポリエステル繊維を、フェノール/テトラクロロエタン=60/40質量%の混合溶媒に10質量%となるよう溶解させ、得られた溶液をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製「SALD-7100」)を用いて、回折/散乱光強度が40~60%の範囲内となるよう同溶媒にて希釈調整し、測定する。4回の測定により得られた値の平均値をシリカ粒子の重量平均粒子径とする。
【0015】
本発明においては、球状シリカ粒子の比表面積(BET法による測定)はより小さいことが好ましく、50m/g以下であることが好ましく、30m/g以下であることがより好ましく、10m/g以下であることがさらに好ましい。比表面積が上記したように小さいことにより、ポリエステル系樹脂中で凝集が生じにくくなり好ましい。シリカ粒子が凝集すると、シリカ粒子の形状が凝集により粗大化し、ポリエステル樹脂中に均一に分散し難くなり、繊維製造工程における切れ糸の発生や、ガイド摩耗等により操業性が悪化する。
【0016】
本発明において、上記した特定の球状シリカ粒子がポリエステル系樹脂に含まれるが、本発明が所望する効果を良好に奏するためには、ポリエステル系樹脂中に球状シリカ粒子を0.05~5質量%の範囲内で含有することが好ましく、より好ましくは0.1~2質量%であり、さらに好ましくは0.2~1質量%である。含有量を上記範囲とすることにより、本発明が所望する効果を良好に奏し、良好に紡糸・延伸できるとともに、延伸工程や製品保管時において繊維同士の密着による融着が発生を防止することができる。
【0017】
球状シリカ粒子をポリエステル系樹脂に添加する方法は特に限定するものではなく、使用するポリエステル系樹脂の重合時にエチレングリコール中に分散させ、樹脂中に均一分散させる方法や、高濃度マスターチップを用いてバージンチップにて希釈する方法で含有量をコントロールし、繊維中に分散させる方法等が挙げられるが、繊維化した際の繊維への均一分散性を考慮すると、前者の方法がより好ましい。
【0018】
本発明のポリエステル繊維においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、一般的に使用されている酸化防止剤、艶消剤、着色剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤を含有してもよい。
【0019】
本発明のポリエステル繊維を構成する樹脂としては、ポリエステル系樹脂であれば特に限定されず、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルなどが挙げられる。
【0020】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリ-α-ヒドロキシ酸、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸、ポリ-(β-ヒドロキシ酪酸/β-ヒドロキシ吉草酸)などのポリ-β-ヒドロキシアルカノエート、ポリ-β-プロピオラクトン、ポリ-ε-カプロラクトンなどのポリ-ω-ヒドロキシアルカノエートなどが挙げられる。
【0021】
芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体としたポリエステルが挙げられる。
また、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステルは下記に示す共重合成分を共重合したものでもよい。共重合成分の代表例としてはイソフタル酸、5-アルカリイソフタル酸、3,3’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸などの脂肪族ジカルボン酸、ジエチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,4シクロヘキサンジオールなどの脂肪族、脂環式ジオール、P-ヒドロキシ安息香酸などの共重合成分が挙げられる。
【0022】
本発明においては、ポリエステル系樹脂が、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸とからなり、ジオール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルを用いることにより、本発明の効果をより効果的に奏することができる。イソフタル酸を共重合した低融点のポリエステル系樹脂は、非晶性で明確な融点を示さず、ガラス転移点以上となれば軟化が始まるものである。そのため、延伸工程や製造した繊維製品を保管時に繊維同士が密着した状態であると、密着した繊維同士の境界面で融着が生じることがある。本発明においては、ポリエステル系樹脂に特定の球状シリカ粒子を含むため、非晶性で明確な融点を示さない低融点のポリエステル系樹脂からなるポリエステル繊維であっても、繊維同士が密着した状態においても、繊維同士が密着箇所で融着が生じにくく、また繊維間の摩擦係数が小さく滑りやすいものとなる。非晶性で明確な融点を示さない低融点のポリエステル系樹脂としては、特に、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸とからなり、ジオール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであって、ジカルボン酸成分において、イソフタル酸を18~40モル%含む共重合ポリエステルを採用すると、より効果的に本発明の効果を奏することができる。
【0023】
上記した共重合ポリエステルにおいて、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸を共重合成分として使用する場合の共重合量が18モル%以上のものは、非晶性で明確な融点を示さず、イソフタル酸の共重合量が18モル%のものは約200℃の雰囲気下で軟化、流動し、また40モル%のものは約100℃の雰囲気下で軟化、流動する。このような共重合ポリエステルからなる繊維は、熱接着性も有し、熱接着処理の際に高温での熱処理を施す必要がないため好ましく、バインダー繊維として好適に利用できる。本発明においては、バインダー繊維でありながら、保管時等において、繊維同士の密着による融着が生じにくいことから、繊維製品の保管管理が容易となる。なお、イソフタル酸の共重合量が40モル%を超えると、副生されるジエチレングリコールの量が増加する傾向となり、ガラス転移点温度の低下に起因して、繊維製造工程における延伸時に繊維同士の密着が発生やすくなる。
【0024】
本発明において、ポリエステル系樹脂を重合して得る際に用いる触媒は、特に限定されず、例えば、アンチモン触媒、チタン触媒、ゲルマニウム触媒、有機スルホン酸系触媒などが好適に使用される。
なかでも、有機スルホン酸系化合物を用いると、金属成分の含有量を低減させたポリエステル系樹脂を得ることができるため、好ましい。有機スルホン酸系化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、m-またはp-ベンゼンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、o-、m-またはp-スルホ安息香酸、ベンズアルデヒド-o-スルホン酸、アセトフェノン-p-スルホン酸、アセトフェノン-3,5-ジスルホン酸、o-、m-またはp-アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、2-アミノトルエン-3-スルホン酸、フェニルヒドロキシルアミン-3-スルホン酸、フェニルヒドラジン-3-スルホン酸、1-ニトロナフタレン-3-スルホン酸、チオフェノール-4-スルホン酸、アニソール-o-スルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、o-、m-またはp-クロルベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ブロモベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン-2,4-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-3,5-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-2,5-ジスルホン酸、2-ニトロトルエン-5-スルホン酸、2-ニトロトルエン-4-スルホン酸、2-ニトロトルエン-6-スルホン酸、3-ニトロトルエン-5-スルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸、3-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、2-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、3-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、5-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、6-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、3,5-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-メチルベンゼンスルホン酸、2-クロロ-4-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホ安息香酸無水物、3,4-ジメチル-2-スルホ安息香酸無水物、4-メチル-2-スルホ安息香酸無水物、5-メトキシ-2-スルホ安息香酸無水物、1-スルホナフトエ酸無水物、8-スルホナフトエ酸無水物、3,6-ジスルホフタル酸無水物、4,6-ジスルホイソフタル酸無水物、2,5-ジスルホテレフタル酸無水物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メチオン酸、シクロペンタンスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸無水物、3-プロパンジスルホン酸、β-スルホプロピオン酸、イセチオン酸、ニチオン酸、ニチオン酸無水物、3-オキシ-1-プロパンスルホン酸、2-クロルエタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、β-フェニルエタンスルホン酸、α-フェニルエタンスルホン酸、クロルスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸エチル、5-スルホサリチル酸ジメチル、4-スルホフタル酸トリメチル等、およびこれらの塩が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩などが挙げられる。
【0025】
本発明のポリエステル繊維は、上記した特定の球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂によって構成されるが、特定の球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂のみから構成される単相型の繊維であってもよく、特定の球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂によって繊維の一部が構成されるものであってもよい。繊維の一部を構成するものである場合、他の樹脂と複合した複合型の繊維がよい。複合型とする際の例としては、芯鞘型、サイドバイサイド型等が挙げられる。本発明の効果をより効果的に奏するためには、特定の球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂が、繊維の表面に配した形態であることがよく、芯鞘型や海島型の複合繊維とし、特定の球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂が鞘成分や海成分として配された複合繊維が好ましい。このとき、ポリエステル系樹脂が、低融点の共重合ポリエステルの場合、より本発明の効果を奏することができ、好ましい。複合する他の樹脂は、球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂よりも高融点の樹脂が配するとよい。例えば、球状シリカ粒子を含むポリエステル系樹脂として、ジカルボン酸成分がテレフタル酸とイソフタル酸とからなり、ジオール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルとし、この共重合ポリエステルを鞘成分に配し、前記共重合ポリエステルよりも融点の高い高融点ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレートを芯成分に配した芯鞘型複合繊維は、好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル繊維の繊維断面形状は、特に限定されず、例えば、円形断面形状、十字断面形状や六葉断面形状などであってもよく、使用用途に合わせて使用する口金を選定し、断面形状をコントロールすればよい。
【0027】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステル繊維中に特定のシリカ粒子を含有するポリエステル系樹脂により構成されるため、特定金属フリーな繊維でありながら、延伸工程でのガイド摩擦が小さく、操業性が良好であり、金属に対する動摩擦係数が低いものである。ポリエステル繊維において、下記の方法により測定される動摩擦係数が0.30以下であることがより好ましい。動摩擦係数が0.30以下であることにより、紡糸、延伸工程でのガイド摩耗を良好に低減することができる。なお、動摩擦係数は低いほどよく、その下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.1程度であれば十分である。
【0028】
動摩擦係数は、以下の方法により測定する。すなわち、糸走行摩擦係数測定装置(英光産業株式会社製 ME―P01)を使用し、摩擦体として、鏡面研磨加工を施した外径16mm×長さ100mmのステンレス製丸棒を使用し、摩擦角度を180°として試験糸を接触するようにし、糸速度100m/min、自動テンションコントローラーの設定張力を10gとし、試験糸を通糸した。摩擦体と糸とが接触する前後の張力T(接触前の張力)、T(接触後の張力)を測定し、次式により動摩擦係数(μd)を算出した。
μd={(1/(摩擦角度×π/180)}×ln(T/T
【0029】
本発明のポリエステル繊維の単繊維繊度は、特に限定されず、例えば、0.6~25デシテックス程度の範囲において、繊維の使用用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、高機能フィルター用途などの高機能性を重視する場合は、0.6~3デシテックス程度が好ましく用いられる。一方で、クッション材、寝具用等の詰め綿、衣料用等の中綿等の肌触りの柔軟性と適度なクッション性が求められる場合は、2~10デシテックス程度が好ましく用いられる。さらに、敷き布団用の固綿やマットレス等の適度に厚みがあり、柔軟性とクッション性が求められる用途等の場合は、4~25デシテックス程度が好ましく用いられる。
【0030】
本発明のポリエステル繊維の形態は、連続繊維であるフィラメントでも、特定の繊維長を有する短繊維であるステープル繊維やショートカット繊維であってもよく、また、用途に応じて適宜選択すればよい。ステープル繊維の場合は繊維の繊維長は20~100mm程度とし、カード通過性等を考慮し、クリンパー等を用いて機械捲縮を付与するとよい。ショートカット繊維は、主として抄造法に適用する材料であり、水中での分散性が必要であることから機械捲縮によるクリンプを有さず(ノークリンプ)、繊維長は20mm未満程度であって、好ましくは2~15mm程度である。
【0031】
本発明のポリエステル繊維を用いた繊維製品としては、マルチフィラメント糸や紡績糸、合撚糸、織編物、また、不織布(湿式抄造シートを含む。)、クッション等の中綿や固綿等が挙げられる。また、本発明のポリエステル繊維の用途としては、気相用や液相用フィルターなどのフィルター用途や、おむつやフェイスマスクなどの衛生材料用途が挙げられる。
【0032】
不織布の形態としては、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、エアレイド不織布、湿式不織布(湿式抄造シート)などが挙げられる。本発明のポリエステル繊維が、前記した芯鞘複合繊維の場合であって、鞘成分に低融点の共重合ポリエステルが配されるものは、鞘成分が熱接着性のバインダー成分として機能させることができることから、サーマルボンド不織布、湿式不織布(湿式抄造シート)の構成繊維として好適に使用できる。
【0033】
不織布の目付は、用途に応じて適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、柔軟性を考慮すると100g/cm以下が好ましい。なお、目付が小さくなりすぎると、繊維の絡みが弱くなる傾向となるため、より好ましくは40~100g/cm2の目付がよい。
【0034】
本発明のポリエステル繊維は、それのみを用いて繊維製品としてもよく、また、用途や目的に応じて他の繊維を混合したり併用したりして繊維製品としてもよい。また、本発明のポリエステル繊維が、芯鞘複合繊維の場合であって、鞘成分に低融点の共重合ポリエステルが配されるものは、鞘成分が熱接着性のバインダー成分として機能させることができることから、高融点の重合体から構成される繊維や融点を有しない天然繊維等を併用して用いるとよい。
【0035】
本発明のポリエステル繊維を得るにあたっては、前述した特定の球状シリカ粒子を含有するポリエステル系樹脂を用いて、紡糸速度、延伸倍率および熱処理条件等を適切に選定することにより得ることができる。例えば、球状シリカ粒子を含有するポリエステル系樹脂を鞘成分に配し、高融点のポリエステル樹脂を芯成分に配した芯鞘型複合短繊維を得る場合は、通常の複合紡糸装置を用いて、引き取り速度900~1200m/minで溶融紡糸し、集束して糸状束とした後、延伸温度40~80℃、延伸倍率2~5倍で延伸した後、所定の長さに切断して短繊維とする。得られた短繊維は、乾式不織布用や紡績糸用繊維として使用する場合は、熱処理後に押し込み式スタッフィングボックスや加熱ギアを用いて捲縮を付与すればよい。湿式不織布用途として使用する場合は捲縮を付与することなく所定の長さに切断する。
【実施例0036】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。測定、評価は以下の方法により行った。シリカ粒子の平均粒径の測定、繊維動摩擦係数の測定は、前述した方法により測定した。なお、繊維動摩擦係数は、連続繊維について測定した。
(1)繊度(dtex)
JIS-L-1015-8-5-1-1Aの方法により測定した。
(2)延伸時操業性
延伸操業した際の、延伸工程(ローラー延伸)での糸切れ回数を測定し、下記の基準で評価した。
〇:糸切れ回数が0.5回/t未満
△:糸切れ回数が0.5~1.5回/t
×:糸切れ回数が1.5回/t以上
(3)原綿繊維(ショートカット繊維)の保管時の融着発生度
標準状態にある試料となる繊維80gを、チャック付きポリエチレン製袋(生産日本社製「ユニパックC」内寸70×100mm)に投入し、袋内の空気を抜きながらチャックを閉じて、繊維を投入したポリエチレン製袋の片側面の中央部付近に、カッターナイフで約5mmの切れ込みを入れた後、袋全体を静かに加圧して袋内の空気をさらに抜き、袋内に再度空気が入らないようにするためにセロハンテープで切れ込み箇所を塞ぎ、繊維同士が密着した状態を形成する。この繊維が梱包された袋(梱包試料)を42個作成し、雰囲気温度30℃の状態下で、0.036g/cmの荷重条件となるよう梱包試料上に荷重をかけて放置し、放置後1日経過から42日経過までの間、袋内の繊維を取り出して、繊維同士の融着度合を下記の基準により判定した。本発明においては、40日経過後も◎であることが好ましい。
◎:ビーカーに水1リットル、原綿10gを投入し、攪拌機にて300rpm×10秒攪拌した後、大型水槽へ投入した際に、繊維同士が全て解離し、未離解の繊維は無し。
〇:上◎の融着度合評価(撹拌機にて300rpm×10秒攪拌後、大型水槽へ投入)において、解離しなかった繊維が存在した梱包試料について、ビーカーに水1リットル、原綿10gを投入し、攪拌機にて850rpm×1分攪拌した後、大型水槽へ投入した際に、繊維同士が全て解離し、未離解の繊維は無し。
△:上〇の融着度評価(攪拌機にて850rpm×1分攪拌した後、大型水槽へ投入)において、解離しなかった繊維が存在した梱包試料について、ビーカーに水1リットル、原綿10gを投入し、攪拌機にて3000rpm×1分攪拌した後、大型水槽へ投入した際に、繊維同士が全て解離し、未離解の繊維は無し。
×:上〇の融着度評価(攪拌機にて850rpm×1分攪拌した後、大型水槽へ投入)において、解離しなかった繊維が存在した梱包試料について、ビーカーに水1リットル、原綿10gを投入し、攪拌機にて3000rpm×1分攪拌した後、大型水槽へ投入した際に、繊維同士が全て解離せず、未離解の繊維が存在。
【0037】
実施例1(連続繊維)
繊維を構成するポリエステルとして、ポリエステル重合時にフィラーとして、真球状シリカ粒子(株式会社アドマテックス製、真球状シリカ粒子「アドマファインSO-C2」比表面積4-7g/m)を添加した極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートをポリエステル系樹脂(ポリエステル系樹脂中の真球状シリカ粒子の含有量は0.5質量%)を用いた。このポリエステル系樹脂を、溶融紡糸装置を用いて、円形紡糸孔を36個有する紡糸口金(口径0.20φ)を用い、紡糸温度300℃、引取速度1400m/分、吐出量24g/分で紡糸し、未延伸の糸条を得た。得られた糸条を、延伸倍率3.1倍、延伸温度90℃で延伸し単糸繊度1.6dtexの実施例1のポリエステル長繊維を得た。得られたポリエステル繊維中の真球状シリカ粒子の重量平均粒子径は0.489μmであり、繊維動摩擦係数は0.28であった。延伸操業性は〇であった。
【0038】
比較例1
実施例1において、ポリエステル重合時にフィラーとして不定形シリカ粒子を添加した極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートをポリエステル系樹脂(ポリエステル系樹脂中の不定形シリカ粒子の含有量は0.5質量%)として用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のポリエステル長繊維を得た。得られたポリエステル繊維中の不定形シリカ粒子の重量平均粒子径は1.0μmを超えていた。繊維動摩擦係数は0.32、延伸操業性は×であった。
【0039】
比較例2
実施例1において、ポリエステル重合時にフィラーとして酸化チタンを添加した極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートをポリエステル系樹脂(ポリエステル系樹脂中の酸化チタンの含有量は0.5質量%)として用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のポリエステル長繊維を得た。得られたポリエステル繊維中の酸化チタンの重量平均粒子径は0.425μmであり、繊維動摩擦係数は0.31、延伸操業性は〇であった。
【0040】
比較例3
実施例1において、ポリエステル重合時にフィラーを添加しなかった極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートをポリエステル系樹脂として用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3のポリエステル長繊維を得た。得られたポリエステル繊維の繊維動摩擦係数は0.35、延伸操業性は×であった。
【0041】
実施例2(芯鞘型複合ショートカット繊維)
鞘成分として、エチレンテレフタレート単位を主体とし、イソフタル酸(IPA)33.0モル%を共重合した共重合ポリエステル(軟化温度 約130℃)であって、共重合ポリエステルを重合時にフィラーとして真球状シリカ粒子(株式会社アドマテックス製、真球状シリカ粒子「アドマファインSO-C2」)を添加した共重合ポリエステル(共重合ポリエステル中の真球状シリカ粒子の含有量は0.5質量%)を用いた。
【0042】
芯成分として、極限粘度0.72のポリエチレンテレフタレートを用いた。
【0043】
前述した鞘成分と芯成分とを、複合溶融紡糸装置を用いて、円形紡糸孔を1014個有する紡糸口金(口径0.50φ)を用い、質量比50/50の芯鞘型とし、紡糸温度272℃、引取速度1100m/分、吐出量550g/分で複合紡糸し、未延伸の糸条を得た。得られた糸条を集束して糸条束とし、延伸倍率3.9倍、延伸温度55℃で延伸した後、仕上げ油剤を付与し、繊維長5mmに切断し、単糸繊度1.7dtexの実施例2のポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維中の真球状シリカ粒子の重量平均粒子径は0.489μmであった。また、延伸操業性は〇であった。
【0044】
比較例4
実施例2において、鞘成分として、共重合ポリエステルを重合する際に、フィラーとして不定形シリカ粒子を添加した共重合ポリエステル(共重合ポリエステル中の不定形シリカ粒子の含有量は0.5質量%)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例4のポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維中の不定形シリカ粒子の重量平均粒子径は1.0μmを超えていた。また、延伸操業性は×であった。
【0045】
比較例5
実施例2において、鞘成分として、共重合ポリエステルを重合する際に、フィラーとして酸化チタンを添加した共重合ポリエステル(共重合ポリエステル中の酸化チタンの含有量は0.5質量%)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例5のポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。得られたポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維中の酸化チタンの重量平均粒子径は0.425μmであった。また、延伸操業性は〇であった。
【0046】
比較例6
実施例2において、鞘成分として、フィラーを添加しない共重合ポリエステルを用いたこと以外は、実施例2と同様比較例6のポリエステル芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。また、延伸操業性は×であった。
【0047】
ショートカット繊維を得た実施例2、比較例4-6について、原綿繊維(ショートカット繊維)の保管時の融着発生度の評価結果を表1に示す。本発明の実施例2は、42日間経過後も水中ですぐに解離し、保管時に融着が発生することはなく、繊維の形状変形もなく、良好に水中で分散した。一方、比較例4、6は、数日後に融着が発生した。比較例4は、フィラーとして不定形シリカ粒子を用いたものであり、比表面積が大きいことにより粒子の凝集が発生し、粗大粒子となった個所が延伸工程において破断の起点となり、さらに、ポリエステル樹脂中に均一に存在しないこととなり、フィラーが存在しない個所においてバーガイドとの摩擦が大きくなったと考えられ、また、このようにフィラーが存在しない個所において、原綿保管時に融着が発生しやすくなったと考える。
【0048】
なお、比較例5は、実施例2と同様で保管時の融着は発生せず、延伸操業性は本発明と同程度で良好であるが、酸化チタンをフィラーとして用いたものであり、本発明が目的とするものではない。
【0049】
【表1】
図1
図2