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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143118
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】フッ素ゴムシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4318 20120101AFI20230928BHJP
   D01F 6/12 20060101ALI20230928BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20230928BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
D04H1/4318
D01F6/12 Z
D04H1/728
D06M10/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050327
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 善宏
【テーマコード(参考)】
4L031
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L031AA14
4L031AB34
4L031CB07
4L031CB08
4L031DA11
4L035AA04
4L035BB02
4L035CC20
4L035DD13
4L035FF01
4L035FF05
4L047AA18
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】耐熱性、耐油性、耐薬品性等のフッ素ゴムが有する特性を活かしたまま、通気性に優れるフッ素ゴムシートを得ることができるフッ素ゴムシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】下記工程1~3を含む、フッ素ゴムシートの製造方法。
工程1:フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物を紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布を形成する工程
工程2:前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなることを確認する工程
工程3:前記工程2の後、前記フッ素ゴムを架橋する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程1~3を含む、フッ素ゴムシートの製造方法。
工程1:フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物を紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布を形成する工程
工程2:前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなることを確認する工程
工程3:前記工程2の後、前記フッ素ゴムを架橋する工程
【請求項2】
前記フッ素ゴム組成物の、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10)が75以下である、請求項1に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系重合体を含む、請求項1または2に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【請求項4】
前記フッ素ゴム組成物が充填材を含み、前記フッ素ゴムシートが該充填材を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【請求項5】
前記工程3が、前記工程2の後、放射線を照射する工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【請求項6】
前記工程1で得られた不織布の厚みをaμmとした場合、
前記工程2が、前記工程1で得られた不織布の厚みが2/3×aμm以下になることを確認する工程である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【請求項7】
前記工程1で得られた不織布の空隙率が80体積%以上であり、前記工程3で得られたフッ素ゴムシートの空隙率が80体積%未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素ゴムシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性などのフッ素樹脂の特性を有しながら、通気性と撥水性とを兼ね備えるフッ素樹脂製の多孔質シートが従来より知られている。
【0003】
一方、自動車産業、航空宇宙産業、石油・ガス掘削産業、半導体産業、医療産業をはじめとする分野の厳しい要求仕様に応えて、耐熱性、耐油性、耐薬品性等に優れるフッ素ゴム、具体的には、フルオロエラストマー(FKM)やパーフルオロエラストマー(FFKM)が開発されている。
【0004】
このようなフッ素ゴムを含む多孔質シートの製造方法としては、例えば、特許文献1には、フッ素ゴムとフッ素ゴム用溶媒とを混合し、次いで気孔形成材を混合させた混合物の成形体から、気孔形成材を水により抽出除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-097367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の方法では、耐熱性等に優れる多孔質シートを得ることはできるものの、通気性の点で改良の余地があることが分かった。
【0007】
本発明は、耐熱性、耐油性、耐薬品性等のフッ素ゴムが有する特性を活かしたまま、通気性に優れるフッ素ゴムシートを得ることができるフッ素ゴムシートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0009】
[1] 下記工程1~3を含む、フッ素ゴムシートの製造方法。
工程1:フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物を紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布を形成する工程
工程2:前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなることを確認する工程
工程3:前記工程2の後、前記フッ素ゴムを架橋する工程
【0010】
[2] 前記フッ素ゴム組成物の、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10)が75以下である、[1]に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【0011】
[3] 前記フッ素ゴムが、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系重合体を含む、[1]または[2]に記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【0012】
[4] 前記フッ素ゴム組成物が充填材を含み、前記フッ素ゴムシートが該充填材を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【0013】
[5] 前記工程3が、前記工程2の後、放射線を照射する工程である、[1]~[4]のいずれかに記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【0014】
[6] 前記工程1で得られた不織布の厚みをaμmとした場合、
前記工程2が、前記工程1で得られた不織布の厚みが2/3×aμm以下になることを確認する工程である、[1]~[5]のいずれかに記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【0015】
[7] 前記工程1で得られた不織布の空隙率が80体積%以上であり、前記工程3で得られたフッ素ゴムシートの空隙率が80体積%未満である、[1]~[6]のいずれかに記載のフッ素ゴムシートの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性、耐油性、耐薬品性等のフッ素ゴムが有する特性を活かしたまま、通気性に優れるフッ素ゴムシート提供することができる。
また、本発明によれば、特に薄膜のフッ素ゴムシート提供することができ、フレキシブルなフッ素ゴムシート提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
図2】実施例2で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率200倍)である。
図3】実施例3で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
図4】参考例1で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
図5】参考例2で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
図6】参考例3で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
図7】参考例4で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
≪フッ素ゴムシートの製造方法≫
本発明に係るフッ素ゴムシート(以下「本シート」ともいう。)の製造方法(以下「本方法」ともいう。)は、下記工程1~3を含む。
工程1:フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物を紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布を形成する工程
工程2:前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなることを確認する工程
工程3:前記工程2の後、前記フッ素ゴムを架橋する工程
【0019】
本方法は、具体的には、工程1において、一旦不織布を形成した後、その不織布の厚みが薄くなったこと、つまり、形成した不織布の形状が変化した(崩れた)後、その厚みが薄くなった(形状が変化した)状態の形状を固定するように、工程3を行う方法であり、このように、一旦形成した所定の構造を変化させて(崩して)、他の形状のシートを形成するという、従来のシートの製造方法とは異なる新規な製造方法である。
【0020】
このような本方法によれば、工程3を行うタイミング等を変えることで、得られる本シートを構成するフッ素ゴム繊維の繊維径を任意の大きさに(例えば、紡糸し難いような大きさにも)することができる。例えば、培養基材は、培養する対象物によって、該基材を構成する繊維の好ましい繊維径が異なる場合があり、本方法によれば、構成するフッ素ゴム繊維の繊維径が任意の大きさである本シートを容易に得ることができるため、本方法は、このような培養基材用のフッ素ゴムシートの製造方法として好適に使用され得る。
【0021】
また、本方法によれば、工程1において、下記充填材を含むフッ素ゴム組成物を用いることで、該充填材が分散したフッ素ゴム繊維からなる不織布が形成され、さらに、工程2および3を経るため、該充填材がシート中で高分散した本シートを容易に得ることができる。
また、例えば、工程3における架橋を、以下のように、放射線を照射することにより行う場合、実質的に、熱をかけることなく本シートを製造することができるため、前記充填材として、耐熱性に劣る充填材(機能材料)を用いた場合であっても、その充填材が有する機能、性質等を生かした本シートを得ることができる。
【0022】
<工程1>
前記工程1は、フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含むフッ素ゴム組成物を紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布を形成する工程である。
【0023】
前記工程1としては、例えば、電界紡糸(エレクトロスピニング)法、溶融紡糸法、溶融電界紡糸法、スパンボンド法(メルトブロー法)が挙げられるが、これらの中でも、電解紡糸法、溶融紡糸法が好ましく、所望形状の繊維を容易に紡糸することができ、繊維径が小さい繊維を得ることができ、得られる不織布が、空孔率が高くかつ高比表面積となる傾向にある等の点から、特に電界紡糸法が好ましい。
【0024】
紡糸により形成された繊維から不織布を形成するには、例えば、電界紡糸法等により、繊維を形成する工程、および、形成された繊維をシート状に集積して不織布を形成する工程を同時に行ってもよいし、繊維を形成する工程を行った後に、形成された繊維を用い、湿式抄紙方式、ウォーターパンチ方式、ケミカルボンド方式、サーマルボンド方式、スパンボンド方式、ニードルパンチ方式、ステッチボンド方式等により、シート状に集積して不織布を形成する工程を行ってもよい。
【0025】
・電解紡糸
電界紡糸法により繊維を形成する際には、好ましくは、必要により溶媒を含むフッ素ゴム組成物が用いられる。
電界紡糸法により繊維を形成する場合、該繊維をコレクター(捕集コレクター)で捕集することにより、該コレクター上に不織布を形成することができる。
【0026】
電界紡糸を行う際の条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
印加電圧(紡糸ノズルとファイバー捕集コレクター間の印加電圧)は、好ましくは1~100kV、より好ましくは5~50kV、さらに好ましくは10~40kVである。
紡糸距離(紡糸ノズルとファイバー捕集コレクター間の距離)は、好ましくは5~30cmである。
前記フッ素ゴム組成物の吐出速度は、好ましくは0.01~3ml/分である。
電界紡糸に用いられる紡糸ノズルの先端径(外径)は、好ましくは0.1~2.0mm、より好ましくは0.2~1.6mmである。
紡糸雰囲気は、特に制御を行わなくてもよいが、相対湿度は、例えば10~50%、温度は、例えば10~35℃とすることが好ましい。
【0027】
ファイバー捕集コレクターは、回転コレクターや平板状のものを用いることができる。回転コレクターを用いると、ドラムを回転させることにより紡糸ノズルから射出された繊維がドラムに巻き取られ、繊維が一定方向に配向した不織布を得ることができる。回転コレクターの回転数は、例えば50~5,000回転/分である。平板状ファイバー捕集コレクターを用いると、無配向な繊維からなる不織布を得ることができる。
【0028】
・溶融紡糸
溶融紡糸は、例えば、前記フッ素ゴム組成物を熱で溶かした状態にして、紡糸口金(ノズル)から押し出して繊維状にした後、冷却することで行うことができる。溶融紡糸の具体的な方法は特に限定されず、用いる原料に応じて、公知の方法で行うことができる。
【0029】
〔フッ素ゴム組成物〕
前記フッ素ゴム組成物は、フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種のフッ素ゴムを含めば特に制限されない。
【0030】
前記フッ素ゴム組成物の、121℃におけるムーニー粘度(ML1+10)は、紡糸しやすく、経時により厚みが変化しやすい不織布を容易に形成することができる等の点から、好ましくは80以下、より好ましくは75以下であり、その下限は特に制限されないが、好ましくは20である。
以下、本明細書における「ムーニー粘度」は、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10)のことをいう。
【0031】
[フッ素ゴム]
前記フッ素ゴムは、フルオロエラストマー(FKM)およびパーフルオロエラストマー(FFKM)から選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、紡糸がしやすい等の点から、FKMが好ましい。また、FKMは、耐薬品性、耐熱性に優れ、さらに、しみや汚れ、酸化や紫外線に対しても優れた耐性を有するため、前記フッ素ゴムとしてFKMを用いることで、得られる本シートは、ウェアラブル部材の素材として好適に使用することができる。
前記フッ素ゴム組成物に用いるフッ素ゴムは1種でもよく、2種以上でもよい。
【0032】
前記フッ素ゴム組成物に用いるフッ素ゴムとしては、前記と同様の理由等の点から、得られるフッ素ゴム組成物のムーニー粘度が前記範囲となるようなフッ素ゴムを用いることが好ましい。
該フッ素ゴムとしては、ムーニー粘度が前記範囲にあるフッ素ゴムを1種または2種以上用いてもよいが、ムーニー粘度が前記範囲にあるフッ素ゴム組成物を容易に調製することができ、紡糸しやすく、経時により厚みが変化しやすい不織布を容易に形成することができる等の点から、ムーニー粘度が10以上40未満であるフッ素ゴム(A1)を含むこと、または、ムーニー粘度が10以上40未満であるフッ素ゴム(A1)と、ムーニー粘度が40~150であるフッ素ゴム(A2)とを含むことが好ましい。
【0033】
前記フッ素ゴムとして、フッ素ゴム(A1)と、フッ素ゴム(A2)とを用いる場合、これらの合計100質量%に対する、フッ素ゴム(A1)の含有量は、ムーニー粘度が前記範囲にあるフッ素ゴム組成物を容易に調製することができる等の点から、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、上限は、好ましくは100質量%である。
【0034】
前記フッ素ゴムの、ゲル浸透クロマトグラフ法で測定した重量平均分子量は、溶解性および紡糸安定性に優れ、機械的強度に優れる本シートを容易に得ることができる等の点から、好ましくは1×103~5×107、より好ましくは1×104~1×107である。
【0035】
前記フッ素ゴム中のフッ素含有量は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは62質量%以上、特に好ましくは64質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは78質量%以下である。
フッ素含有量が前記範囲にあると、紡糸しやすく、耐薬品性に優れる本シートを容易に得ることができる。
前記フッ素含有量は、固体核磁気共鳴法(NMR)または質量分析法(MSスペクトル法)等により、測定・算出することができる。
【0036】
前記フッ素ゴム組成物中に含まれるフッ素ゴムの含有量は、例えば5~100質量%、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~70質量%である。
本シート中のフッ素ゴム(架橋フッ素ゴム)の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上であり、該含有量の上限は特に限定されないが、本シートが下記充填材を含まない場合、100質量%であってもよい。
フッ素ゴムの含有量が前記範囲にあると、フッ素ゴムの有する耐薬品性や耐熱性などの物性がより発揮される本シートを容易に得ることができる。
【0037】
・FFKM
FFKMとしては特に制限されないが、ポリマー主鎖(末端を除く)中に水素原子(炭素-水素結合)を含まないポリマーが挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)-パーフルオロビニルエーテル系共重合体が挙げられ、TFE由来の構成単位と、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位とを含み、さらに必要により架橋部位含有モノマー由来の構成単位を含む共重合体が好ましい。
【0038】
前記パーフルオロビニルエーテルの好適例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)が挙げられる。
【0039】
前記パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、該アルキル基の炭素数が、例えば、1~10である化合物が挙げられ、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が挙げられ、好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。
【0040】
前記パーフルオロ(アルコキシアルキルビニルエーテル)としては、ビニルエーテル基(CF2=CFO-)に結合する基の炭素数が、例えば、3~15である化合物が挙げられ、具体例としては、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCn2n+1
CF2=CFO(CF23OCn2n+1
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1
CF2=CFO(CF22OCn2n+1
が挙げられる。
これらの式において、nはそれぞれ独立に、例えば1~5であり、mは、例えば1~3である。
【0041】
FFKMが、架橋部位含有モノマー由来の構成単位を含むことによって、FFKMに架橋性を付与することができる。該架橋部位とは、架橋反応可能な部位を意味し、例えば、ニトリル基、ハロゲン基(例:I基、Br基)、パーフルオロフェニル基が挙げられる。
【0042】
架橋部位としてニトリル基を有する架橋部位モノマーとしては、例えば、ニトリル基含有パーフルオロビニルエーテルが挙げられ、具体例としては、
CF2=CFO(CF2nOCF(CF3)CN(nは、例えば2~4)、
CF2=CFO(CF2nCN(nは、例えば2~12)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]m(CF2nCN(nは、例えば1~4、mは、例えば1~5)、
CF2=CFO[CF2CF(CF3)O]nCF2CF(CF3)CN(nは、例えば0~4)
が挙げられる。
【0043】
架橋部位としてハロゲン基を有する架橋部位含有モノマーとしては、例えば、ハロゲン基含有パーフルオロビニルエーテルが挙げられ、具体的には、前述のニトリル基含有パーフルオロビニルエーテルの具体例において、ニトリル基をハロゲン基に置き換えた化合物等が挙げられる。
【0044】
FFKMにおける、TFE由来の構成単位の含有量は、好ましくは50.0~79.9モル%、パーフルオロビニルエーテル由来の構成単位の含有量は、好ましくは20.0~46.9モル%、架橋部位含有モノマー由来の構成単位の含有量は、好ましくは0.1~2.0モル%である。
【0045】
・FKM
FKMとしては、前記FFKM以外のフルオロエラストマーが挙げられ、特に制限されないが、具体例としては、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン系重合体;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系重合体;テトラフルオロエチレン-プロピレン系重合体;フッ化ビニリデン-プロピレン-テトラフルオロエチレン系重合体;エチレン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル系重合体;フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル系重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル系重合体が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、耐薬品性等に優れる等の点から、三元系ポリマーであることが好ましく、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系重合体がより好ましい。
FKMに架橋性を付与するために、FKMは、前記FFKMの欄と同様の、架橋部位含有モノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。
【0046】
[他の添加剤]
前記フッ素ゴム組成物は、前記フッ素ゴムの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、紡糸の際に使用されてきた従来公知の他の添加剤や、繊維に配合されてきた従来公知の他の添加剤を含んでいてもよい。該他の添加剤としては、例えば、前記フッ素ゴム以外の重合体(例:フッ素樹脂)、架橋剤、共架橋剤、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、安定剤、シランカップリング剤、充填材(補強剤)、可塑剤、難燃剤、ワックス類、滑剤、溶媒、界面活性剤、分散剤、電荷調整剤、粘度調整剤、繊維形成剤が挙げられる。
前記他の添加剤はそれぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0047】
なお、前記他の添加剤として、前記フッ素ゴム以外の重合体を用いる場合、前記フッ素ゴム組成物中の前記フッ素ゴムと該重合体の合計100質量%に対する前記フッ素ゴムの含有量は、50質量%以上である。
【0048】
本方法では、前記工程3を行うが、このような工程3を行う場合であっても、架橋剤および/または共架橋剤を含むフッ素ゴム組成物を用いてもよく、架橋剤および/または共架橋剤を含まないフッ素ゴム組成物を用いてもよい。
【0049】
前記架橋剤としては、用いるフッ素ゴムに応じて適宜選択すればよいが、例えば、FKMを用いる場合、例えば、パーオキサイド系架橋剤、ポリアミン系架橋剤、ポリオール系架橋剤が挙げられ、FFKMを用いる場合、例えば、パーオキサイド系架橋剤、ビスフェノール系架橋剤、トリアジン系架橋剤、オキサゾール系架橋剤、イミダゾール系架橋剤、チアゾール系架橋剤が挙げられる。
架橋剤を用いる場合、フッ素ゴム100質量部に対する架橋剤の使用量は、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0050】
パーオキサイド系架橋剤としては、例えば、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、p-クロロベンゾイルパーオキサイドが挙げられる。
【0051】
前記共架橋剤としては、従来公知の共架橋剤(架橋助剤)を用いることができる。
前記共架橋剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド等のラジカルによる共架橋が可能な化合物(多官能性モノマー)が挙げられ、これらの中でも、反応性や得られる繊維の耐熱性等の点から、トリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。
共架橋剤を用いる場合、フッ素ゴム100質量部に対する共架橋剤の使用量は、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。
【0052】
前記フッ素ゴム組成物において、例えば、フッ素ゴムの溶媒への溶解度が低い場合には、紡糸時にフッ素ゴムを繊維形状に保持させる等の点から、1種または2種以上の繊維形成剤を含むことが好ましい。
前記繊維形成剤としては、溶媒に対し高い溶解度を有する有機ポリマーであることが好ましく、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、デキストラン、アルギン酸、キトサン、でんぷん、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、セルロース、ポリビニルアルコールが挙げられる。
前記繊維形成剤を使用する場合の使用量は、溶媒の粘度、溶媒への溶解度等にもよるが、前記フッ素ゴム組成物100質量%に対し、例えば0.1~15質量%、好ましくは1~10質量%である。
【0053】
前記充填材としては、例えば、本繊維の用途に応じた機能性充填材(例:熱伝導性粒子、導電性粒子、絶縁性粒子、補強繊維)が挙げられ、具体的には、炭素材料(例:カーボンブラック、ナノカーボン、カーボンナノチューブ、グラファイト)、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ケイ酸化合物(ケイ酸塩等)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム、金属(例:銀)粒子、樹脂微粒子が挙げられる。
前記充填材の形状は特に制限されず、例えば、粒子状、繊維状が挙げられる。
【0054】
前記フッ素ゴム組成物が前記充填材を含む場合、該充填材の含有量は、フッ素ゴムの有する耐薬品性や耐熱性などの物性が発揮され、かつ、該充填材の有する物性が十分に発揮される本シートを容易に得ることができる等の点から、前記フッ素ゴム組成物の固形分(溶媒・分散媒以外の成分)100質量%に対し、好ましくは0.1~80質量%、より好ましくは1~70質量%である。
【0055】
前記溶媒としては、前記フッ素ゴムを溶解または分散し得るものであれば特に限定されず、例えば、水、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルピロリドン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、エチルベンゼン、シクロヘキサン、ベンゼン、スルホラン、メタノール、エタノール、フェノール、ピリジン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、トリクロロエタン、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジエチルエーテルが挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
前記溶媒の使用量は、前記フッ素ゴム組成物100質量%に対し、例えば0~90質量%、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~80質量%である。
【0056】
〔不織布〕
前記工程1で形成される不織布は、フッ素ゴム繊維の不織布であり、通常、フッ素ゴム繊維からなる不織布である。
【0057】
前記不織布の厚みは特に制限されず、本シートの厚み等を考慮して適宜選択すればよいが、通常5μm~1mm、好ましくは10~500μmである。
【0058】
前記不織布の空隙率は特に制限されないが、例えば、0.1~95体積%、好ましくは30~90体積%である。
該空隙率は、不織布を構成する材質の比重と、不織布の質量実測値とから、空隙がないものとして算出された理論体積と、同不織布の寸法を測定することにより算出された実測体積との差から下記式により算出することができる。
空隙率(体積%)=(1-(理論体積/実測体積))×100
【0059】
前記不織布の目付は特に制限されないが、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは1~80g/m2である。
【0060】
前記不織布を構成するフッ素ゴム繊維の平均繊維径は特に制限されないが、好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.5~10μmである。
【0061】
本明細書における平均繊維径は、測定対象となる繊維(群)を走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:1000倍)し、得られたSEM画像から無作為に10本の繊維を選び、これらの各繊維の繊維径(長径)を測定し、この測定結果に基づいて算出される平均値である。
【0062】
前記不織布を構成するフッ素ゴム繊維の繊維長は特に制限されないが、好ましくは0.1~1000mm、より好ましくは0.5~100mm、さらに好ましくは1~50mmである。
【0063】
<工程2>
前記工程2は、前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなることを確認する工程である。
「前記工程1で得られた不織布の厚みが薄くなる」とは、通常、前記工程1で形成した不織布の形状が、該不織布を構成するフッ素ゴム繊維が融け、不織布を構成するフッ素ゴム繊維の繊維径や繊維間距離が変化することなどにより、変化する(崩れる)ことをいう。
【0064】
本シートは、通常、工程2後の形状を工程3で固定した形状、つまり、本シートの形状は、工程2後の形状と同様の形状になるめ、工程2は、得られる本シートの用途等に応じて、得られる本シートが所望の形状となるような工程であることが好ましい。特に、前記工程2は、前記工程1で得られた不織布の厚みが、本シートの所望の膜厚と同程度まで薄くなることを確認する工程であるが好ましい。
前記工程2は、具体的には、前記工程1で得られた不織布の厚みをaμmとした場合、厚みが、好ましくは2/3×aμm以下になることを確認する工程であることが望ましい。
【0065】
前記工程2は、前記工程1で得られた不織布を常温で放置して、該不織布の厚みが薄くなることを確認する工程であってもよく、前記工程1で得られた不織布を電気炉、マイクロ波や赤外線などで加熱して、該不織布の厚みが薄くなることを促進し、該不織布の厚みが薄くなることを確認する工程であってもよい。また、これらの際には、必要により、圧力をかけてもよい。
前記常温で放置する場合の条件としては、その温度にもよるが、例えば、23℃で放置する場合の放置時間は、例えば0.5~240時間、好ましくは1~200時間である。
前記電気炉にて加熱する場合の条件としては、加熱温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。
【0066】
<工程3>
前記工程3は、前記工程2の後、前記フッ素ゴムを架橋する工程である。
この工程3により、前記工程2後のシートの形状を固定(長期にわたり維持)することができる。また、この工程3により、引張強度や引張弾性率などの引張特性が向上したシートを得ることもできる。
【0067】
前記工程3としては、具体的には、前記工程2後のシートに放射線を照射する工程(放射線架橋)、前記工程2後のシートに熱をかける工程(熱架橋)等が挙げられ、これらの中でも、短時間で架橋処理が可能であり、前記工程2後のシートの形状(多孔質形状、不織布形状)を容易に保持することができる等の点から、放射線架橋が好ましい。
【0068】
・放射線架橋
前記放射線としては、例えば、X線、ガンマ線、電子線、陽子線、中性子線、重粒子線、アルファー線、ベータ線が挙げられ、これらの中でも、電子線が好ましい。
照射する放射線は、1種単独でもよく、2種以上でもよい。
【0069】
放射線架橋の方法は、従来公知の方法で行えばよいが、電子線を照射する場合の条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
吸収線量が、好ましくは10~500kGy、より好ましくは20~300kGy、さらに好ましくは30~150kGyとなるように電子線を照射することが望ましい。
前記放射線を照射する際には、架橋反応が阻害されにくく、機械的特性に優れる繊維を容易に得ることができる等の点から、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0070】
・熱架橋
前記熱架橋における加熱条件は、用いるフッ素ゴム組成物の組成等に応じて設定すればよいが、例えば、加熱温度としては150~200℃、加熱時間としては1~24時間が挙げられる。
【0071】
<本シート>
本方法で得られる本シートは、該シートを構成している(架橋)フッ素ゴムが、繊維形状を有している、所謂不織布であってもよく、前記工程1で形成したフッ素ゴム繊維が繊維形状を有さない程度まで変形し(融け)、該シートを構成している(架橋)フッ素ゴムが、繊維形状を有していない、所謂多孔質膜であってもよい。
なお、本明細書では、フィルムとシートとは特に区別しているわけではなく、膜(板)状体を総称してシートと言う。
【0072】
本シートのガーレー透気度(通気性)は、好ましくは1秒/100mL以下、より好ましくは0.5秒/100mL以下、その下限は特に制限されないが、例えば0.1秒/100mLである。
ガーレー透気度が前記範囲にある本シートは、通気性に極めて優れるといえ、このような通気性が求められる用途に好適に用いることができる。
なお、前記ガーレー透気度は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定される。
【0073】
本シートの空隙率は特に制限されないが、例えば、40~80体積%、好ましくは50体積%以上80体積%未満である。
該空隙率は、本シートを構成する材質の比重と、本シートの質量実測値とから、空隙がないものとして算出された理論体積と、同本シートの寸法を測定することにより算出された実測体積との差から下記式により算出することができる。
空隙率(体積%)=(1-(理論体積/実測体積))×100
【0074】
また、本方法は、前記工程1で得られた不織布の空隙率が80体積%以上であり、前記工程3で得られた本シートの空隙率が、好ましくは80体積%未満となるような方法であることが好ましい。
【0075】
本シートの厚みは、該本シートの用途に応じて適宜選択すればよいが、通気性により優れる本シートを容易に得ることができる等の点から、好ましくは1~20μmである。
なお、本方法によれば、厚み10μm以下の本シートを得ることもできる。このような厚みの本シートは、例えば、各種基材のスキン層(表面層)としても利用できる。
【0076】
本シートの目付は、好ましくは100g/m2以下、より好ましくは0.5~80g/m2である。
【0077】
本シートが前記不織布である場合、該不織布を構成する(架橋)フッ素ゴム繊維の平均繊維径は、好ましくは100μm以下、より好ましくは0.05~70μm、さらに好ましくは0.1~20μmである。
なお、該平均繊維径は、下記図1のように、作製したフッ素ゴムシートを構成しているフッ素ゴム繊維を確認できなかった場合、無作為に、2つの孔が隣接している箇所を10箇所選び、各10箇所それぞれにおける2つの孔の間の長さ(2つの孔の間の壁の長さ)を測定した平均値(平均孔間距離)のことをいう。
【0078】
本シートは、自動車部材、航空宇宙部材、化学プラント、半導体関連機器、医療機器などのフィルター、セパレータ、基板、基材等として用いることができる。
また、本発明によれば、長期にわたり繊維形状や多孔質形状等の形成したい形状を維持し、フレキシブルかつストレッチャブルなフッ素ゴムシートを提供することができるため、本シートは、フレキシブル基板(例:フレキシブルプリント基板)やウェアラブル部材等のフレキシブル性や伸縮性等が求められる部材の材料として好適に使用することができる。さらに、本発明によれば、通気性や撥水性に優れ汚れにくいフッ素ゴムシートを得ることができるため、この点からも、本シートは、ウェアラブル部材として好適に使用することができる。
【0079】
また、本発明によれば、本シートを構成するフッ素ゴム繊維の繊維径を任意の大きさにすることができる。例えば、培養基材は、培養する対象物によって、該基材を構成する繊維の好ましい繊維径が異なる場合があるため、本シートは、このような培養基材として好適に使用され得る。
【実施例0080】
次に、本発明の一実施形態について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
メチルエチルケトン(特級、富士フィルム和光純薬(株)製)に、濃度が10質量%となるように、FKM1(ダイエル G902、ダイキン工業(株)製、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10):21)を溶解させることで、フッ素ゴム組成物を調製した。
【0082】
調製したフッ素ゴム組成物を用い、電界紡糸装置((株)メック製)を用いて、以下の条件で、銅製のメッシュ状金属シート(100メッシュ、線径:φ0.1mm)の上に、フッ素ゴム繊維を直接紡糸し、フッ素ゴム繊維の不織布(架橋前)を形成した。
【0083】
(紡糸条件)
・電圧:25kV
・吐出量:2.0ml/分
・吐出時間:1時間
・ドラム回転数:300rpm
【0084】
得られたフッ素ゴム系繊維をSEM(日本電子(株)製、電界放射型SEM(IT-800 SHL)、以下のSEMも同様の装置を用いた。)観察し、該不織布を構成する繊維が繊維形状を有していることを確認した。なお、得られた不織布の厚みは31μmであり、得られた不織布を構成するフッ素ゴム繊維の平均繊維径は約2.4μmであった。
【0085】
不織布を形成してから24時間後(不織布の厚みが12μmになった後)のシートに、EB装置(岩崎電気(株)製、CB250/30/20mA)を用い、電子線(EB)を照射することで、フッ素ゴムシート(厚み:12μm)を作製した。この照射の際は、室温(21℃)、N2下において、吸収線量が100kGyの条件になるように電子線を照射した。
【0086】
[実施例2]
実施例1において、不織布を形成してから168時間後(不織布の厚みが8μmになった後)に電子線を照射した以外は、実施例1と同様にしてフッ素ゴムシート(厚み:8μm)を作製した。
【0087】
[実施例3]
実施例1において、FKM1 100質量%の代わりに、FKM1 50質量%と、FKM2(ダイエル G901H、ダイキン工業(株)製、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10):135)50質量%とを用いた以外は実施例1と同様にして、フッ素ゴム組成物を調製した。
調製したフッ素ゴム組成物の、ASTM D 1646に準拠して測定した121℃におけるムーニー粘度(ML1+10)は、69であった。
【0088】
調製したフッ素ゴム組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、不織布を形成し(厚み:32μm)、実施例1と同様にして、不織布を形成してから24時間後(不織布の厚みが18μmになった後)、電子線を照射することで、フッ素ゴムシート(厚み:18μm)を作製した。
【0089】
[参考例1]
実施例1において、不織布を形成した直後に(不織布の厚みが変化する前に)、電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、フッ素ゴムシート(厚み:31μm)を作製した。
【0090】
[参考例2]
実施例3において、不織布を形成した直後に(不織布の厚みが変化する前に)、電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、フッ素ゴムシート(厚み:32μm)を作製した。
【0091】
[参考例3]
実施例1において、FKM1 100質量%の代わりに、FKM2 100質量%を用いた以外は実施例1と同様にして、フッ素ゴム組成物を調製した。
調製したフッ素ゴム組成物を用いた以外は実施例1と同様にして、不織布を形成し(厚み:33μm)、該不織布を形成した直後に(不織布の厚みが変化する前に)、電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして、フッ素ゴムシート(厚み:33μm)を作製した。
【0092】
[参考例4]
参考例3と同様にして、不織布(厚み:30μm)を形成し、不織布を形成してから24時間後の不織布に電子線を照射することで、フッ素ゴムシート(厚み:30μm)を作製した。
【0093】
<厚み測定>
得られたフッ素ゴム系不織布およびフッ素ゴムシートの厚み測定は、不織布厚み測定器((株)フジワーク製、HKT-Lite1.0F)にて、一般不織布試験方法(JIS L 1913:2010)に記載されている厚さ測定方法のA法に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0094】
<空隙率>
フッ素ゴムシートを構成する材質の比重を1.91とし、フッ素ゴムシートの質量実測値とから、空隙がないものとして算出された理論体積と、該フッ素ゴムシートの寸法を測定することにより算出された実測体積との差から、下記式により空隙率を算出した。
空隙率(体積%)=(1-(理論体積/実測体積))×100
なお、参考例1および2では、不織布を形成した直後と電子線を照射した後の空隙率は変化していない。従って、実施例1~3で得られた不織布の空隙率は88%である。
【0095】
<平均繊維径または平均孔間距離>
作製したフッ素ゴムシートをSEM観察(倍率1000倍)し、得られたSEM画像において、フッ素ゴムシートを構成しているフッ素ゴム繊維を確認できた場合、無作為に10本のフッ素ゴム繊維を選び、これらの各繊維の繊維径(長径)を測定し、その平均値(平均繊維径)を算出した。
なお、下記図1のように、作製したフッ素ゴムシートを構成しているフッ素ゴム繊維を確認できなかった場合、無作為に、2つの孔が隣接している箇所を10箇所選び、各10箇所それぞれにおける2つの孔の間の長さ(2つの孔の間の壁の長さ)を測定し、その平均値(平均孔間距離)を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
図1~7に、それぞれ実施例1~3および比較例1~4で作製したフッ素ゴムシートのSEM画像(倍率1000倍)を示す。
【0097】
<平均繊維間距離または平均孔径>
作製したフッ素ゴムシートをSEM観察(倍率1000倍)し、得られたSEM画像において、フッ素ゴムシートを構成しているフッ素ゴム繊維を確認できた場合、無作為に、フッ素ゴムシートの表面に存在している繊維間の長さを20箇所選び、各20箇所それぞれにおける繊維間の長さを測定し、その平均値(平均繊維間距離)を算出した。
なお、下記図1のように、作製したフッ素ゴムシートを構成しているフッ素ゴム繊維を確認できなかった場合、無作為に、20個の孔を選び、各20個の孔径を測定し、その平均値(平均孔径)を算出した。結果を表1に示す。
【0098】
<通気性>
作製したフッ素ゴムシートの通気性(ガーレー透気度)を、細孔径分布測定装置(PMI社製、Automated Perm Porometer)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7