(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143138
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】電力変換装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050360
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】麻植 実
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】清水 健介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730BB57
5H730BB61
5H730DD03
5H730EE08
5H730FG05
(57)【要約】
【課題】電力変換装置におけるソフトスイッチング性能を改善する。
【解決手段】電力変換装置(1)において、1次側回路(10)からトランス(Tr)へと流れる電流をItrとして表す。1次側回路(10)のブリッジ回路(BRG)における、U相スイッチングレグ(LEGU)とV相スイッチングレグ(LEGV)とのスイッチング位相差をφとして表し、第1スイッチング素子(Sw1)および第2スイッチング素子(Sw2)の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイムをTdとして表す。ブリッジ回路(BRG)における各スイッチング素子(Sw1~Sw4)と並列接続された各キャパシタ(C1~C4)の内の任意の1つのキャパシタを、注目キャパシタと称する。ブリッジ回路(BRG)を制御する制御部(90)は、注目キャパシタに印加される電圧である注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準相スイッチングレグおよび被制御相スイッチングレグを有するブリッジ回路を備えた1次側回路と、
2次側回路と、
上記1次側回路と上記2次側回路との間に接続されたトランスと、
上記ブリッジ回路を制御する制御部と、を備えた電力変換装置であって、
上記基準相スイッチングレグは、
上記基準相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第1スイッチング素子と、
上記基準相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第2スイッチング素子と、
上記第1スイッチング素子と並列接続された第1キャパシタと、
上記第2スイッチング素子と並列接続された第2キャパシタと、を有しており、
上記被制御相スイッチングレグは、
上記被制御相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第3スイッチング素子と、
上記被制御相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第4スイッチング素子と、
上記第3スイッチング素子と並列接続された第3キャパシタと、
上記第4スイッチング素子と並列接続された第4キャパシタと、を有しており、
上記1次側回路から上記トランスへと流れる電流をItrとして表し、
上記基準相スイッチングレグと上記被制御相スイッチングレグとのスイッチング位相差をφとして表し、
上記第1スイッチング素子および上記第2スイッチング素子の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイムをTdとして表した場合、
上記制御部は、上記第1キャパシタから上記第4キャパシタまでの4つのキャパシタの内の任意の1つのキャパシタである注目キャパシタに印加される電圧である注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定する、電力変換装置。
【請求項2】
上記第1スイッチング素子から上記第4スイッチング素子までの4つのスイッチング素子の内、上記注目キャパシタと並列接続されたスイッチング素子を、注目スイッチング素子と称し、
上記制御部は、
上記演算式を用いて導出された、上記注目電圧が0となる所定のタイミングを、上記注目スイッチング素子の点弧タイミングとして決定し、
決定された上記点弧タイミングに基づき、指定されたItrに対応するφを決定し、
決定された上記点弧タイミングおよび決定されたφに基づき、Tdを決定する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
上記第1スイッチング素子から上記第4スイッチング素子までの4つのスイッチング素子の内、上記注目キャパシタと並列接続されたスイッチング素子を、注目スイッチング素子と称し、
上記制御部は、
上記演算式にて示されている上記注目電圧が常に正の値をとる場合、上記演算式を用いて導出された、上記注目電圧が極小値をとる所定のタイミングを、上記注目スイッチング素子の点弧タイミングとして決定し、
決定された上記点弧タイミングに基づき、指定されたItrに対応するφを決定し、
決定された上記点弧タイミングおよび決定されたφに基づき、Tdを決定する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
電力変換装置を制御する制御方法であって、
上記電力変換装置は、
基準相スイッチングレグおよび被制御相スイッチングレグを有するブリッジ回路を備えた1次側回路と、
2次側回路と、
上記1次側回路と上記2次側回路との間に接続されたトランスと、を備えており、
上記制御方法は、上記ブリッジ回路を制御する制御ステップを含んでおり、
上記基準相スイッチングレグは、
上記基準相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第1スイッチング素子と、
上記基準相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第2スイッチング素子と、
上記第1スイッチング素子と並列接続された第1キャパシタと、
上記第2スイッチング素子と並列接続された第2キャパシタと、を有しており、
上記被制御相スイッチングレグは、
上記被制御相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第3スイッチング素子と、
上記被制御相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第4スイッチング素子と、
上記第3スイッチング素子と並列接続された第3キャパシタと、
上記第4スイッチング素子と並列接続された第4キャパシタと、を有しており、
上記1次側回路から上記トランスへと流れる電流をItrとして表し、
上記基準相スイッチングレグと上記被制御相スイッチングレグとのスイッチング位相差をφとして表し、
上記第1スイッチング素子および上記第2スイッチング素子の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイムをTdとして表した場合、
上記制御ステップは、上記第1キャパシタから上記第4キャパシタまでの4つのキャパシタの内の任意の1つのキャパシタである注目キャパシタに印加される電圧である注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定するステップを含んでいる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置に関して、様々な技術が提案されている。例えば、下記の特許文献1には、DC/DCコンバータにおけるスイッチング損失の低減を一目的とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様の目的は、電力変換装置におけるソフトスイッチング性能を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電力変換装置は、基準相スイッチングレグおよび被制御相スイッチングレグを有するブリッジ回路を備えた1次側回路と、2次側回路と、上記1次側回路と上記2次側回路との間に接続されたトランスと、上記ブリッジ回路を制御する制御部と、を備えた電力変換装置であって、上記基準相スイッチングレグは、上記基準相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第1スイッチング素子と、上記基準相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第2スイッチング素子と、上記第1スイッチング素子と並列接続された第1キャパシタと、上記第2スイッチング素子と並列接続された第2キャパシタと、を有しており、上記被制御相スイッチングレグは、上記被制御相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第3スイッチング素子と、上記被制御相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第4スイッチング素子と、上記第3スイッチング素子と並列接続された第3キャパシタと、上記第4スイッチング素子と並列接続された第4キャパシタと、を有しており、上記1次側回路から上記トランスへと流れる電流をItrとして表し、上記基準相スイッチングレグと上記被制御相スイッチングレグとのスイッチング位相差をφとして表し、上記第1スイッチング素子および上記第2スイッチング素子の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイムをTdとして表した場合、上記制御部は、上記第1キャパシタから上記第4キャパシタまでの4つのキャパシタの内の任意の1つのキャパシタである注目キャパシタに印加される電圧である注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定する。
【0006】
また、本発明の一態様に係る制御方法は、電力変換装置を制御する制御方法であって、上記電力変換装置は、基準相スイッチングレグおよび被制御相スイッチングレグを有するブリッジ回路を備えた1次側回路と、2次側回路と、上記1次側回路と上記2次側回路との間に接続されたトランスと、を備えており、上記制御方法は、上記ブリッジ回路を制御する制御ステップを含んでおり、上記基準相スイッチングレグは、上記基準相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第1スイッチング素子と、上記基準相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第2スイッチング素子と、上記第1スイッチング素子と並列接続された第1キャパシタと、上記第2スイッチング素子と並列接続された第2キャパシタと、を有しており、上記被制御相スイッチングレグは、上記被制御相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子である第3スイッチング素子と、上記被制御相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子である第4スイッチング素子と、上記第3スイッチング素子と並列接続された第3キャパシタと、上記第4スイッチング素子と並列接続された第4キャパシタと、を有しており、上記1次側回路から上記トランスへと流れる電流をItrとして表し、上記基準相スイッチングレグと上記被制御相スイッチングレグとのスイッチング位相差をφとして表し、上記第1スイッチング素子および上記第2スイッチング素子の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイムをTdとして表した場合、上記制御ステップは、上記第1キャパシタから上記第4キャパシタまでの4つのキャパシタの内の任意の1つのキャパシタである注目キャパシタに印加される電圧である注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定するステップを含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、電力変換装置におけるソフトスイッチング性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1における電力変換装置の要部の構成を示す図である。
【
図2】従来例における回路動作波形を例示する図である。
【
図3】実施形態1の電力変換装置の主回路における、PとφとTdとの間の関係の一例を示す図である。
【
図4】従来例におけるソフトスイッチング条件の例について説明するための図である。
【
図5】実施形態1の電力変換装置におけるソフトスイッチング条件の例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1の電力変換装置1について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した各コンポーネント(構成要素)と同じ機能を有するコンポーネントについては、以降の実施形態では、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。
【0010】
本明細書において述べる各構成および各数値は、特に明示されない限り、単なる一例であることに留意されたい。従って、特に明示されない限り、各部材の位置関係は、各図の例に限定されない。本明細書における「接続されている」という文言は、特に明示されない限り、「電気的に接続されている」ことを意味する。また、本明細書における「位相差」という文言は、特に明示されない限り、「スイッチング位相差」を意味する。
【0011】
(電力変換装置1の概要)
図1は、電力変換装置1の要部の構成を示す図である。
図1に示す通り、電力変換装置1は、例えばDC/DCコンバータであってよい。電力変換装置1は、以下に述べる1次側回路10から2次側回路20へとエネルギー(言い換えれば、電力)を出力できるように構成されている。
【0012】
電力変換装置1は、主回路9および制御部90を備える。主回路9は、(i)1次側回路10と、(ii)2次側回路20と、(iii)1次側回路10と2次側回路20との間に接続されたトランスTRと、を備える。以下では、例えば、トランスTRを、単にTRと略記する。TRによれば、1次側回路10と2次側回路20とが磁気的に結合されるとともに、1次側回路10と2次側回路20とが電気的に絶縁される。TRは、1次巻線PW、2次巻線SW、およびコアCRを備える。
【0013】
制御部90は、電力変換装置1の各部を統括的に制御する。後述する通り、制御部90は、1次側回路10のブリッジ回路BRGにおける各スイッチング素子を制御する。具体的には、制御部90は、各スイッチング素子のON(点弧,導通)/OFF(消弧,非導通)を制御する。例えば、制御部90は、各スイッチング素子のON/OFFを制御する信号(スイッチング制御信号)を生成し、当該スイッチング制御信号を各スイッチング素子に供給する。
【0014】
1次側回路10は、ブリッジ回路BRGを備えている。1次側回路10は、1次側直流電源810の後段かつBRGの前段に、1次側平滑コンデンサCf1をさらに備えている。Cf1は、1次側直流電源810と並列に接続されている。
図1の例では、1次側直流電源810の電圧(1次側直流電圧)をVdとして表す。1次側直流電源810は、1次側回路10から2次側回路20へと供給されるエネルギーの源である。
【0015】
図1の例におけるBRGは、2相フルブリッジ回路である。BRGは、U相スイッチングレグLEGUおよびV相スイッチングレグLEGVを有する。LEGUとLEGVとは、互いに並列に接続されている。1次側回路10におけるU相およびV相はそれぞれ、本発明の一態様における基準相および制御相の一例である。従って、LEGUおよびLEGVはそれぞれ、本開示の一態様に係る基準相スイッチングレグおよび被制御相スイッチングレグの一例である。
【0016】
BRGは、4つのスイッチング素子として、第1スイッチング素子Sw1、第2スイッチング素子Sw2、第3スイッチング素子Sw3、および第4スイッチング素子Sw4を備える。
図1に示されている通り、本開示の一態様に係るスイッチング素子は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor,絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であってよい。
【0017】
具体的には、LEGUは、(i)基準相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子としてSw1を備え、かつ、(ii)当該基準相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子としてSw2を備える。そして、LEGUは、(i)Sw1と並列接続された第1キャパシタC1と、(ii)Sw2と並列接続された第2キャパシタC2と、を備える。C1およびC2は、LEGUにおけるスナバコンデンサの一例である。
【0018】
LEGVは、(i)被制御相スイッチングレグにおける上側スイッチング素子としてSw3を備え、かつ、(ii)当該被制御相スイッチングレグにおける下側スイッチング素子としてSw4を備える。そして、LEGVは、(i)Sw3と並列接続された第3キャパシタC3と、(ii)Sw3と並列接続された第4キャパシタC4と、を備える。C3およびC4は、LEGVにおけるスナバコンデンサの一例である。
【0019】
図1に示されている通り、Sw1とSw2とは、1次側U相接続ノードNN1Uを介して、互いに直列接続されている。そして、S1およびSw2はそれぞれ、NN1Uを介して、PWの一端(PWの第1端)に接続されている。これに対し、Sw3とSw4とは、1次側V相接続ノードNN1Vを介して、互いに直列接続されている。そして、Sw3とSw4とは、NN1Vを介して、PWの他端(PWの第2端)に接続されている。
【0020】
LEGUおよびLEGVはそれぞれ、1次側直流電源810に接続されている。具体的には、Sw1およびSw3はそれぞれ、1次側直流電源810の正極に接続されている。他方、Sw2およびSw4はそれぞれ、1次側直流電源810の負極に接続されている。
【0021】
制御部90は、Sw1~Sw4のそれぞれに、スイッチング制御信号を供給する。一例として、制御部90は、Sw1~Sw4のそれぞれのゲート端子に、スイッチング制御信号としてのゲート駆動信号を供給してよい。
図1の例では、制御部90は、(i)Sw1に第1スイッチング制御信号S1を、(ii)Sw2に第2スイッチング制御信号S2を、(iii)Sw3に第3スイッチング制御信号S3を、(iv)Sw4に第4スイッチング制御信号S4を、それぞれ供給する。一例として、制御部90は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって、S1~S4を生成してよい。
【0022】
BRGでは、制御部90から供給されたスイッチング制御信号に従って、BRGの各スイッチング素子がON/OFFされることにより、1次側直流電源810からBRGに供給された直流電流が、BRGからTRに流れる電流(交流電流)Itrに変換される。
図1の例におけるItrは、NN1UからPWに流れる電流である。BRGでは、各スイッチング制御信号に従って、各スイッチング素子がON/OFFされることにより、指定されたItr1が生成されてよい。
【0023】
また、BRGにおける各スイッチング素子のON/OFFに伴って、PWに印加される電圧(交流電圧)Vtrが変化する。
図1の例におけるVtrは、NN1UとNN1Vとの間の電位差として表される。
【0024】
主回路9において、1次側回路10から2次側回路20へと出力される電力(出力電力)Pは、Itrと1対1に対応している。より具体的には、Pは、Itrと正の相関を有している。従って、電力変換装置1では、あるItrを指定することにより、所望のPを生じさせることができる。このことから、本明細書における「指定されたItr」という記載は、文脈上矛盾が無い限り、「指定されたP」と読み替えられてよい。あるいは、文脈上矛盾が無い限り、本明細書における「指定されたP」という記載は、「指定されたItr」と読み替えられてもよい。
【0025】
続いて、2次側回路20について説明する。2次側回路20は、2次側直流電源820に接続されている。例えば、2次側直流電源820は、1次側回路10から2次側回路20へと供給されたエネルギーによって充電されてよい。このように、
図1における2次側直流電源820は、当該エネルギーを消費する負荷装置の一例である。
図1の例では、2次側直流電源820に印加される電圧をVd2として表す。
【0026】
2次側回路20は、整流回路210を備えている。2次側回路20は、整流回路210の後段かつ2次側直流電源820の前段に、平滑フィルタ220をさらに備えている。平滑フィルタ220は、平滑リアクトルLfと2次側平滑コンデンサCf2とを有する。2次側平滑コンデンサCf2は、2次側直流電源820と並列に接続されている。
【0027】
図1に示されている通り、整流回路210は、全波整流回路であってよい。整流回路210は、4つの整流素子として、第1整流素子Rf1、第2整流素子Rf2、第3整流素子Rf3、および第4整流素子Rf4を備える。
図1に示されている通り、本開示の一態様に係る整流素子は、例えばダイオードであってよい。
【0028】
Rf1とRf2とは、直列接続されている。Rf1のアノードとRf2のカソードとは、SWの一端(SWの第1端)に接続されている。Rf3とRf4とは、直列接続されている。Rf3のアノードとRf4のカソードとは、SWの他端(SWの第2端)に接続されている。Rf1とRf3とは、並列接続されている。Rf1およびRf3のそれぞれのカソードは、平滑リアクトルLmを介して、2次側直流電源820の正極に接続されている。Rf2およびRf4のそれぞれのアノードは、2次側直流電源820の負極に接続されている。
【0029】
SWには、上述のVtrに対応する交流電圧(便宜上、Vtr2と称する)が印加される。
図1の例では、Vtr2=N×Vtrの関係が成立する。Nは、TRの巻数比である。Nは、変圧比とも称される。整流回路210は、Vtr2を整流した直流電圧を出力する。平滑フィルタ220は、整流回路210から出力された整流後の直流電圧を平滑化する。このように、2次側回路20では、整流回路210によって整流され、かつ、平滑フィルタ220によって平滑化された直流電圧が、Vd2として2次側直流電源820に供給される。
【0030】
(従来例における回路動作波形の一例)
電力変換装置1における制御手法(便宜上、本件制御手法と称する)の説明に先立ち、
図2を参照し、従来の電力変換装置(便宜上、従来例と称する)において生じうる問題点について述べる。
図2には、従来例における回路動作波形が例示されている。具体的には、
図2には、従来例における各信号のタイミングチャートが示されている。
図2に示されている各信号の波形は、説明の便宜上の例示的なものであり、実際の波形とは必ずしも一致しないことに留意されたい。
【0031】
以下の説明では、従来例における主回路は、
図1の主回路9と同等であるものとする。但し、従来例は、従来の制御手法によって各スイッチング素子のスイッチングが行われるものとする。
図2に例における各スイッチング信号(S1~S4)のHigh値およびLow値はそれぞれ、OFF信号値およびON信号値に対応する。
【0032】
本明細書では、基準相スイッチングレグ(例:LEGU)と被制御相スイッチングレグ(例:LEGV)との位相差を、φとして表す。
図2の例におけるΦは、φに対応する時間(2つのスイッチング素子間におけるスイッチングの時間差)である。Φは、φと1対1に対応するので、後述の通りΦをφへと換算することができる。また、φをΦへと換算することもできる。このことから、本明細書では、Φを、位相差対応時間と称する。
【0033】
φは、S1とS3との位相差である。このため、
図2に示されている通り、Φは、Sw1の点弧タイミング(ターンONタイミング)からSw3の点弧タイミングまでの時間差である。φは、S2とS4との位相差でもある。従って、Φは、Sw2の点弧タイミングからSw4の点弧タイミングまでの時間差でもある。
【0034】
また、本明細書では、あるスイッチングレグ(例:基準相スイッチングレグとしてのLEGU)における2つのスイッチング素子(Sw1およびSw2)の内の一方の消弧タイミングから他方の点弧タイミングまでのデッドタイム(時間差)を、Tdと称する。デッドタイムは、上記2つのスイッチング素子が共にOFF状態にある時間帯とも表現できる。
図2に示されている通り、Tdは、例えば、Sw2の消弧タイミングからSw1の点弧タイミングまでの時間差である。Tdは、SW1の消弧タイミングからSW2の点弧タイミングまでの時間差でもある。
【0035】
実施形態1の例では、LEGVにおけるデッドタイムは、LEGUにおけるデッドタイムと等しく設定されるものとする。従って、
図2の例におけるTdは、Sw3の消弧タイミングからSw4の点弧タイミングまでの時間差でもある。Tdは、Sw4の消弧タイミングからSw3の点弧タイミングまでの時間差でもある。
【0036】
従来例では、Tdは一定値として設定されている。従って、従来例では、Pは、φと1対1に対応する。このため、従来例では、指定されたPに応じて、φが一義的に決定される。後述の
図4に示す通り、従来例では、Pの増加に伴ってφが小さくなるものとする。
【0037】
図2の例におけるVc1~Vc4はそれぞれ、C1~C4に印加される電圧を表す。上述の通り、Sw1~Sw4はそれぞれ、C1~C4に並列接続されている。それゆえ、Vc1~Vc4はそれぞれ、Sw1~Sw4への印加電圧に等しい。
【0038】
図2に示される通り、各スイッチング信号の信号値の切り替えに伴って、各キャパシタの電圧は変化しうる。一例として、
図2におけるVc1(Sw1に対応するキャパシタであるC1の電圧)について考える。Vc1についての下記の説明は、その他のキャパシタの電圧にも同様に当てはまる。従って、Sw1に関する下記の説明は、その他のスイッチング素子にも同様に当てはまる。
【0039】
まず、「S1:Low、S2:High、S3:High、S4:Low」である期間(便宜上、第1状態期間と称する)を考える。第1状態期間においては、「Sw1:OFF、Sw2:ON、Sw3:ON、Sw4:OFF」である。従って、
図2に示されている通り、第1状態期間においては、Vc1=Vdである。
【0040】
次いで、S2がHighからLowへと切り替えられる。そこで、「S1:Low、S2:Low、S3:High、S4:Low」である期間(便宜上、第2状態期間と称する)を考える。第2状態期間では、Sw2が消弧されたことを契機として、時間の経過に伴ってVc1が減少する。従って、第2状態期間の終了時点において、Vc1は最小値をとる(
図2における点線の丸囲み部分を参照)。
図2の例では、Vc1の最小値は0である。但し、後述の各説明から明らかである通り、当該最小値は0に限定されないことに留意されたい。
【0041】
次いで、S3がHighからLowへと切り替えられる。そこで、「S1:Low、S2:Low、S3:Low、S4:Low」である期間(便宜上、第3状態期間と称する)を考える。第3状態期間では、Sw3が消弧されたことを契機として、時間の経過に伴ってVc1が増加する。そして、
図2の例では、Vc1がVd付近まで増加したタイミングにおいて、S1がHighからLowへと切り替えられる(Sw1が点弧される)。
【0042】
Sw1のスイッチング損失を低減するためには、Sw1をソフトスイッチングすることが好ましい。すなわち、Vc1が0となるタイミング、または、Vc1が比較的小さい正の値をとるタイミングにおいて、Sw1を点弧することが好ましい。Sw1をソフトスイッチングすることにより、Sw1に生じるサージ電流に起因する損失を低減できる。
【0043】
しかしながら、上述の通り、従来例では、Tdは固定値である。そして、従来例では、φは、指定されたPに対して一義的に設定される。このため、従来例では、固定値であるTdに対応するPとφとの組み合わせ次第では、第2状態期間は短くなりうる。この場合、Vc1の最小値は増加しうる。この場合にSw1を点弧すると、Sw1に大きいサージ電流が流れうる。このように、従来例では、Tdが固定値であることに起因して、Sw1のソフトスイッチングが不能となるケースが生じうる。
【0044】
例えば、後述の
図4に示す通り、従来例では、Pが小さくなるにつれて(言い換えれば、Itrが小さくなるにつれて)、ソフトスイッチングが不能となるおそれが高くなる。このため、従来例では、φが大きいほど、ソフトスイッチングが不能となるおそれが高くなる。
【0045】
(本件制御手法の一例)
続いて、本件制御手法の一例について述べる。以下の説明では、BRG内の4つのスイッチング素子(Sw1~Sw4)にそれぞれ並列接続されている4つのキャパシタ(C1~C4)の内の、任意の1つのキャパシタを、注目キャパシタと称する。そして、注目キャパシタに印加される電圧を、注目電圧Vcと称する。さらに、Sw1~Sw4の内、注目キャパシタと並列接続されているスイッチング素子を、注目スイッチング素子と称する。従って、Vcは、注目スイッチング素子の印加電圧でもある。一例として、C1が注目キャパシタである場合、注目スイッチング素子はSw1であり、Vc=Vc1である。
【0046】
以下では、注目スイッチング素子に対するソフトスイッチングを行うことを意図したケースについて説明する。上述の
図2から理解される通り、主回路9では、ある時刻において、(i)Sw1またはSw2(基準相スイッチングレグ内の2つのスイッチング素子)の一方がON状態に設定され、かつ、(ii)Sw3またはSw4(被制御相スイッチングレグ内の2つのスイッチング素子)の一方がON状態に設定されうる。
【0047】
それゆえ、本発明の一態様では、各スイッチングレグにおいて、1つの注目スイッチング素子がそれぞれ考慮されてよい。例えば、(i)Sw1またはSw2の一方が1つ目の注目スイッチング素子(第1注目スイッチング素子)として考慮され、かつ、(ii)Sw3またはSw4の一方が2つ目の注目スイッチング素子(第2注目スイッチング素子)として考慮されてもよい。従って、2つの注目スイッチング素子に対応する2つの注目キャパシタが考慮されてもよい。但し、以下の説明では、簡単のために、1つの注目スイッチング素子および1つの注目キャパシタについて述べる。
【0048】
図1の主回路9におけるVcは、例えば下記の式(1)の通り表される。
【数1】
…(1)
ここで、k1およびk2はそれぞれ、下記の式(2)および式(3)の通り表される。
【数2】
…(2)
【数3】
…(3)
【0049】
式(1)~(3)において、Lは、1次側回路10における、配線インダクタンスとTRの漏れインダクタンスとの合成インダクタンスである。Rは、1次側回路10における配線抵抗である。Cは、注目キャパシタと注目スイッチング素子との合成キャパシタンスである。実施形態1では、(i)Sw1~Sw4は互いに等しいキャパシタンスCsを有しており、かつ、(ii)C1~C4は互いに等しいキャパシタンスCpを有しているものとする。この場合、C=Cs+Cpとして表される。
【0050】
式(1)におけるtは、時刻(時点)を表す。式(1)における初期時刻(t=0)は、点弧状態にあった注目スイッチング素子が消弧される時刻である。以下では、時刻tの関数としてのVcを、Vc(t)とも表記する。式(1)から明らかである通り、Vc(0)=Vdである(上述の
図2も参照)。
【0051】
上述の(1)は、Vcを表す式の一例である。そこで、制御部90は、式(1)を演算式として用いて、各時刻におけるVcを算出してよい。そして、制御部90は、Vcの算出結果に基づいて、主回路9の動作条件を設定してよい。例えば、制御部90は、Vcの算出結果に基づいて、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定してよい。言い換えれば、制御部90は、Vc(t)に基づいて、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定してよい。以上の通り、制御部90は、上記演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定してよい。
【0052】
一例として、制御部90は、式(1)に基づき、指定されたPに対応するφおよびTdを決定してよい。
図3は、主回路9における、PとφとTdとの関係の一例を示す3次元グラフである。当該グラフにおいて、第1軸はφを、第2軸はTdを、第3軸(高さ軸)はPを、それぞれ示す。
図3から理解される通り、Pは、φおよびTdに応じて変化する。そして、1つのPに対応するφおよびTdのペア(組み合わせ)は、複数通り存在しうる。制御部90によれば、
図3に示された関係を満たすように、指定されたPに応じたφとTdとのペアを、例えば式(1)に基づき決定できる。
【0053】
以上の通り、本件制御手法によれば、従来の制御手法とは異なり、Tdを変更できる。それゆえ、後述の通り、従来例に比べてソフトスイッチング性能を改善することが可能となる。その結果、従来例に比べて、電力変換装置の効率を向上させることができる。加えて、ソフトスイッチング性能の改善に伴い、スイッチングノイズを低減することもできる。
【0054】
本件制御手法は、以下に述べる点弧タイミング決定ステップと位相差決定ステップとデッドタイム決定ステップとを含んでいてよい。注目スイッチング素子のスイッチング損失を効果的に低減する観点からは、Vc=0となるタイミング(Vcのゼロクロス点)において注目スイッチング素子を点弧することが理想的である。そこで、まずは、式(1)に示されているVcにおいて、Vcのゼロクロス点が存在している場合について説明する。
【0055】
なお、上述の式(1)および(3)から理解される通り、Vcの最小値および極小値は、Irの増加に伴って小さくなる。それゆえ、Pがある程度大きい場合には、Vcのゼロクロス点が存在する蓋然性が高いと期待される。
【0056】
本件制御手法の処理の流れの一例について概説すれば、次の通りである。まず、制御部90は、式(1)を用いて導出された、Vc(t)=0となる所定のタイミングを、注目スイッチング素子の点弧タイミングt=tpとして決定する(点弧タイミング決定ステップ)。次いで、制御部90は、tpに基づき、指定されたItrに対応するφ(便宜上、φpと称する)を決定する(位相差決定ステップ)。次いで、制御部90は、tpおよびφpに基づき、Tdを決定する(デッドタイム決定ステップ)。
【0057】
(点弧タイミング決定ステップにおける処理の例)
点弧タイミング決定ステップにおける処理の例をより具体的に説明すれば、次の通りである。以下の説明では、点弧タイミング決定ステップにおいて決定されるtpの候補を、点弧タイミング候補tpcと称する。
【0058】
まず、制御部90は、Vc(t)を解析することにより、Vc(t)=0の解を導出する。一例として、Vc(t)=0の解がN個導出された場合を考える(Nは自然数)。そして、これらN個の解のそれぞれを、値が小さい順に、tzc1、tzc2、…、tzcNと表記する。tzc1~tzcNはそれぞれ、第1ゼロクロス点~第Nゼロクロス点と称されてもよい。
【0059】
一例として、制御部90は、tpcの第1候補として、tzc1(第1ゼロクロス点)を選択してよい。この場合、制御部90は、tpc=tzc1として設定する。実施形態1では、スイッチング動作の安全マージンを考慮して、下記の式(4)に示す条件、
tpc>Tdmin …(4)
が設定されているものとする。便宜上、式(4)に示されている条件を、第1安全条件と称する。
【0060】
Tdminは、電力変換装置1のユーザによって予め設定されたデッドタイムの最小値である。Tdminは、「第1安全条件が満たされている場合、時刻tpc(注目スイッチング素子が消弧された時点からtpcだけ経過した時点)において、当該注目スイッチング素子を点弧することは、安全マージンの観点から許容可能である」という要件を満たすように設定されていればよい。一例として、Tdminは、2μsに設定されてよい。別の例として、Tdminは、1μsに設定されてもよい。さらに別の例として、Tdminは、0.5μsに設定されてもよい。
【0061】
点弧タイミング決定ステップでは、制御部90は、第1安全条件が満たされているか否かを判定する。第1安全条件が満たされている場合、制御部90は、tp=tpcとして、tpを決定する。すなわち、第1安全条件が満たされている場合、制御部90は、現行の点弧タイミング候補を点弧タイミングとして選択する。
【0062】
他方、第1安全条件が満たされていない場合(すなわち、tpc≦Tdminである場合)、時刻tpcにおいて注目スイッチング素子を点弧することは、安全マージンの観点から望ましくない。そこで、第1安全条件が満たされていない場合、制御部90は、現行の点弧タイミング候補を更新する。
【0063】
一例として、第1安全条件が満たされていない場合、制御部90は、現行の点弧タイミング候補の次に大きい値を有するゼロクロス点を、新たな点弧タイミング候補として選択してよい。例えば、現行の点弧タイミング候補(例:tpcの第1候補)であるtzc1が第1安全条件を満たしていない場合、制御部90は、新たなtpcとして、tzc2(第2ゼロクロス点)を選択する。この例におけるtzc2は、tpcの第2候補である。
【0064】
制御部90は、第1安全条件を満たす点弧タイミング候補が、tzc1~tzcN(第1ゼロクロス点~第Nゼロクロス点)の内から見出されるまで、上述の処理を繰り返してよい。このようにして、制御部90は、第1安全条件を満たす最小のtpを、tzc1~tpcNの内から選択できる。
【0065】
制御部90によって第1安全条件を満たす点弧タイミング候補が見出された場合、位相差決定ステップに進む。他方、制御部90によって第1安全条件を満たす点弧タイミング候補が見出されなかった場合、制御部90は、注目スイッチング素子のソフトスイッチングが不能である旨を示す情報(ソフトスイッチング不能情報)を出力してよい。
【0066】
(位相差決定ステップにおける処理の例)
次いで、位相差決定ステップにおける処理の例をより具体的に説明する。以下の説明では、主回路9の動作周波数(スイッチング周波数)をfとして表す。実施形態1では、f=20kHzの場合を例示する。また、主回路9の動作周期(スイッチング周期)をTとして表す。Tは、fの逆数として定義される。従って、実施形態1の例では、T=50μsである。本明細書では、Tの半値を、T_halfとして表す。T_halfは、動作半周期またはスイッチング半周期と称されてもよい。実施形態1の例では、T_half=25μsである。
【0067】
実施形態1では、スイッチング動作の安全マージンを考慮して、下記の式(5)に示す条件、
tp-Tdmin≧Φ-T_half…(5)
がさらに設定されているものとする。便宜上、式(5)に示されている条件を、第2安全条件と称する。
【0068】
図2から理解される通り、Φとφ(単位:rad)との間には、
φ=(Φ-T_half)×πf …(6)
の関係が近似的に成立すると見なすことができる。そこで、制御部90は、式(6)を用いて、Φをφに換算してよい。
【0069】
Tdが一定である場合における、
図1の主回路9におけるPの簡易演算式(Pとφとの関係を近似的に表す式)の一例として、下記の式(7)が知られている。
【数4】
…(7)
【0070】
そこで、制御部90は、式(7)を用いて、指定されたPに対応するφを決定してよい。例えば、制御部90は、式(7)をφについて解くことにより、当該式(7)の解としてφpを導出する。その後、制御部90は、上述の式(6)を用いて、φpに対応するΦを、Φpとして導出する。Φpは、指定されたPに対応するΦとも表現できる。
【0071】
次いで、制御部90は、Φpが第2安全条件を満たすか否かを判定する。Φpが第2安全条件を満たしている場合、デッドタイム決定ステップに進む。他方、Φpが第2安全条件を満たしていない場合、制御部90は、上述のソフトスイッチング不能情報を出力してよい。
【0072】
(デッドタイム決定ステップにおける処理の例)
次いで、デッドタイム決定ステップにおける処理の例をより具体的に説明する。制御部90は、(i)点弧タイミング決定ステップにおいて決定されたtp(第1安全条件を満たす点弧タイミング)と、(ii)位相差決定ステップにおいて決定されたΦp(第2安全条件を満たす位相差対応時間)とに基づき、Tdを決定してよい。一例として、制御部90は、下記の式(8)、
Td=tp-Φp …(8)
に従って、Tdを決定してよい。
【0073】
式(8)に従ってTdを決定することにより、第1安全条件および第2安全条件の両方が満たされていることを保証しつつ、Tdをなるべく小さい値に設定できる。なお、制御部90は、Tdを決定した後に、注目スイッチング素子のソフトスイッチングが可能である旨を示す情報(ソフトスイッチング可能情報)を出力してよい。
【0074】
以上の通り、上記の例では、制御部90は、Vcのゼロクロス点に対応するφpおよびTdを決定できる。それゆえ、ソフトスイッチング性能をより効果的に改善できる。その結果、電力変換装置の効率を一層向上させることができる。また、スイッチングノイズをより効果的に低減することもできる。
【0075】
(点弧タイミング決定ステップにおける処理の別の例)
上記の例では、式(1)によって示されるVcにおいて、Vcのゼロクロス点が存在している場合について説明した。但し、Vcのゼロクロス点が必ずしも存在しているとは限らない。例えば、Itrが比較的小さい場合(言い換えれば、Pが比較的小さい場合)には、Vcの最小値は正となりうる。この場合、Vc(t)は、任意のtに対して正の値をとる。
【0076】
そこで、Vc(t)が常に正の値をとる場合、点弧タイミング決定ステップにおいて、制御部90は、式(1)を用いて導出された、Vc(t)が極小値をとる所定のタイミングを、注目スイッチング素子の点弧タイミングt=tpとして決定してよい。以下、Vc(t)が常に正の値をとる場合における、点弧タイミング決定ステップにおける処理の例について述べる。
【0077】
制御部90は、Vc(t)を解析することにより、Vc(t)が極小値をとる時刻(極小タイミング)を導出する。一例として、M個の極小タイミングが導出された場合を考える(Mは自然数)。そして、これらM個の極小タイミングのそれぞれを、値が小さい順に、tm1、tm2、…、tmMと表記する。tm1~tmMはそれぞれ、第1極小タイミング~第M極小タイミングと称されてもよい。
【0078】
一例として、制御部90は、tpcの第1候補として、tm1(第1極小タイミング)を選択してよい。この場合、制御部90は、tpc=tm1として設定する。そして、制御部90は、上述の第1安全条件が満たされているか否かを判定する。第1安全条件が満たされている場合、制御部90は、tp=tpcとして、tpを決定する。
【0079】
他方、第1安全条件が満たされていない場合、制御部90は、現行の点弧タイミング候補を更新する。一例として、第1安全条件が満たされていない場合、制御部90は、現行の点弧タイミング候補の次に大きい値を有する極小タイミングを、新たな点弧タイミング候補として選択してよい。例えば、現行の点弧タイミング候補(例:tpcの第1候補)であるtm1が第1安全条件を満たしていない場合、制御部90は、新たなtpcとして、tm2(第2極小タイミング)を選択する。この例におけるtm2は、tpcの第2候補である。
【0080】
制御部90は、第1安全条件を満たす点弧タイミング候補が、tm1~tmM(第1極小タイミング~第M極小タイミング)の内から見出されるまで、上述の処理を繰り返してよい。このようにして、制御部90は、第1安全条件を満たす最小のtpを、tm1~tmMの内から選択できる。制御部90は、このようにtpを決定した後、位相差決定ステップに進む。以降の処理の流れは、上述の例と同様である。
【0081】
以上の通り、制御部90によれば、Vcのゼロクロス点が存在しない場合であっても、tpを決定できる。このため、当該ゼロクロス点が存在しない場合であっても、φpおよびTdを決定できる。それゆえ、当該ゼロクロス点が存在しない場合であっても、ソフトスイッチング性能を改善できる。
【0082】
(従来例におけるソフトスイッチング条件の例)
本件制御手法との対比のために、再び従来例について述べる。
図4は、従来例におけるソフトスイッチング条件の例について説明するための図である。
図4には、従来例におけるφとPとの関係を表すグラフが示されている。当該グラフにおいて、第1軸(横軸)はφを、第2軸(縦軸)はPを、それぞれ示す。
図4の例では、φが大きくなるにつれて、Pが減少する。上述の通り、従来例におけるTdは、予め設定された固定値である。
図4の例におけるTdは、2μsに設定されている。
【0083】
一例として、従来例において、P=250kWに対応するφが8°である場合を考える。
図4の例では、φ=5°が、各スイッチング素子のソフトスイッチングが可能である位相差の臨界値(便宜上、φcと称する)であるものとする。具体的には、
図4の例では、Vcのゼロクロス点が存在している場合に、各スイッチング素子のソフトスイッチングが可能であるものとする。さらに、φc以下の位相差(ソフトスイッチング可能位相差帯)において上記ゼロクロス点が生じる一方、φcよりも大きい位相差(ソフトスイッチング不能位相差帯)においては当該ゼロクロス点は生じないものとする。
【0084】
図4に示す通り、φ=8°は、ソフトスイッチング不能位相差帯に属している。このため、従来例では、Pが250kWとして指定されている場合には、ソフトスイッチング不能である。このため、従来例では、P=250kWにて主回路を駆動した場合には、スイッチング損失が増加してしまう。このことから、従来例では、指定されたPに応じた一義的に決定されたφがソフトスイッチング不能位相差帯に属している場合には、電力変換装置の効率が低下してしまう。
【0085】
(電力変換装置1におけるソフトスイッチング条件の例)
図5は、電力変換装置1におけるソフトスイッチング条件の例について説明するための図である。
図5の例においても、上述の
図4の例と同じく、Pは250kWとして指定されている。本件制御手法によれば、例えば、上述の
図3に示された関係を満たす、P=250kWに対応するφとTdとのペア(パターン)を複数個見出すことができる。
【0086】
図5には、本件制御手法によって見出された、P=250kWに対応する5つのパターン(パターン1~パターン5)が例示されている。各パターンの番号は、当該番号が大きくなるにつれて、Tdが大きくなるように割り当てられている。
図5の例では、説明の便宜上、第1安全条件および第2安全条件の少なくとも一方が満たされないパターンについても、本件制御手法による探索がなされている。
【0087】
図5における項目「ソフトスイッチング可否」に示される通り、パターン1~2は、ソフトスイッチング可能パターンである。これに対し、パターン3~5は、ソフトスイッチング不能パターンである。パターン3は、上述の
図4の例におけるφ=8°の動作点に対応する。
【0088】
上述の通り、本件制御手法によれば、指定されたPに応じて、Tdを変更できる。それゆえ、本件制御手法によれば、指定されたPに対して、主回路9の駆動パターンについて複数個の候補を見出すことができる。それゆえ、例えば、指定されたPに対してTdを適切に設定することにより、従来例におけるソフトスイッチング不能位相差帯においても、ソフトスイッチングを行うことが可能となる(パターン1~2を参照)。
【0089】
制御部90は、複数のソフトスイッチング可能パターンのうちの任意の1つを、駆動パターンとして選択する。
図5の例では、制御部90は、パターン1~2の内の一方を駆動パターンとして選択してよい。一例として、制御部90は、パターン1~2の内、Tdがより小さいパターン(言い換えれば、φがより大きいパターン)を、駆動パターンとして選択してよい。この場合、制御部90は、パターン1を駆動パターンとして選択する。別の例として、制御部90は、パターン1~2の内、Tdがより大きいパターン(言い換えれば、φがより小さいパターン)を、駆動パターンとして選択してもよい。この場合、制御部90は、パターン2を駆動パターンとして選択する。
【0090】
以上の通り、本件制御手法によれば、指定されたPに対してTdを適切に設定することにより、従来例ではソフトスイッチング不能であったケースにおいても、ソフトスイッチングを行うことが可能となる。このように、本件制御手法によれば、従来例に比べてソフトスイッチング性能を改善することができる。
【0091】
一例として、制御部90は、指定されたPに対して選択された駆動パターンにおけるφおよびTdに応じて、各スイッチング制御信号を生成してよい。そして、制御部90は、生成した各スイッチング制御信号を各スイッチング素子に供給して、当該各スイッチング素子を駆動してよい。これにより、指定されたPに対応する駆動パターンにおけるソフトスイッチングが実現される。
【0092】
〔実施形態2〕
制御部90は、注目電圧を表す演算式に基づき、指定されたItrに対応するφおよびTdを決定できればよい。従って、例えば、点弧タイミング決定ステップ、位相差決定ステップ、およびデッドタイム決定ステップは、必ずしも実施形態1において例示された順番通りに実行されなくともよい。
【0093】
一例として、点弧タイミング決定ステップ、デッドタイム決定ステップ、および位相差決定ステップの順に、各ステップが実行されてもよい。実施形態2では、この順に各ステップが実行される場合の一例について述べる。但し、点弧タイミング決定ステップの処理は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。実施形態2の例では、上述の第1安全条件は満たされているものとする。
【0094】
実施形態2では、制御部90において、φが一定である場合における、
図1の主回路9におけるPとTdとの関係を示す関係式が予め設定されていてよい。この場合、デッドタイム決定ステップにおいて、制御部90は、当該関係式を用いて、指定されたPに対応するTdを決定できる。
【0095】
次いで、制御部90は、(i)点弧タイミング決定ステップにおいて決定されたtpと、(ii)デッドタイム決定ステップにおいて決定されたTdとに基づき、φpを決定してよい。
【0096】
ところで、上述の式(8)を変形することにより、
Φp=tp-Td …(8’)
が得られる。一例として、位相差決定ステップにおいて、制御部90は、式(8’)に従ってΦpを決定してよい。続いて、制御部90は、上述の式(6)を用いて、Φpに対応するφpを算出してよい。
【0097】
次いで、制御部90は、決定されたtpおよびΦpのペアが上述の第2安全条件を満たすか否かを判定する。当該ペアが第2安全条件を満たす場合、制御部90は、当該ペアに対応するTdおよびφpのペアを、指定されたPに対応するソフトスイッチング可能パターンとして決定してよい。
【0098】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電力変換装置1(以下では、単に「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部90に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0099】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0100】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0101】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0102】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0103】
〔付記事項〕
本発明の一態様は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0104】
1 電力変換装置
10 1次側回路
20 2次側回路
90 制御部
TR トランス
BRG ブリッジ回路
LEGU U相スイッチングレグ(基準相スイッチングレグ)
LEGV V相スイッチングレグ(被制御相スイッチングレグ)
Sw1~Sw4 第1スイッチング素子~第4スイッチング素子
C1~C4 第1キャパシタ~第4キャパシタ