(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143170
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】多孔質セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/10 20060101AFI20230928BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20230928BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20230928BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20230928BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C04B38/10 E
A61F2/28
A61L27/10
A61L27/12
A61L27/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050406
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】598163064
【氏名又は名称】学校法人千葉工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 凱
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛人
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA12
4C081BA13
4C081BB08
4C081CF021
4C081DB03
4C081DB06
4C081EA02
4C081EA04
4C097AA01
4C097BB01
4C097FF05
4C097MM02
4C097MM03
4C097MM04
(57)【要約】
【課題】微細繊維状セルロースを用いて製造した場合に、超ミクロ径の気孔を多く備え、かつ圧縮強さに優れる多孔質セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】上記課題は、粉末状のセラミックス原料、発泡剤及び微細繊維状セルロースを混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程と、前記気泡形成体を焼結させて、気孔を多数有する焼結体を得る焼結工程を有し、前記発泡剤のHLB値が、10~15となるものであり、前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~10nmであり、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、所定の構造式に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されていることを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法により解決される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のセラミックス原料、発泡剤及び微細繊維状セルロースを混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程と、
前記気泡形成体を焼結させて、気孔を多数有する焼結体を得る焼結工程を有し、
前記発泡剤のHLB値が、10~15となるものであり、
前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~10nmであり、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されている、
ことを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
[構造式(1)]
【化1】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【請求項2】
前記官能基が亜リン酸エステルである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記微細繊維状セルロースが、前記セラミックス原料1質量部に対して0.0015~0.040質量部の比率で含まれるものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記気孔が開気孔と閉気孔からなり、
全気孔率に占める開気孔率の百分率が70%以上、99%以下である、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記焼結工程は、多段階に昇温して行い、
第1段階では、4~5℃/分で昇温して170~190℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第1昇温工程と、
第2段階では、前記第1昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して290~310℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第2昇温工程と、
第3段階では、前記第2昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して390~410℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第3昇温工程と、
第4段階では、前記第3昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して1020~1100℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第4昇温工程とを有するものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記形成工程は、さらに分散剤を添加するものであり、前記セラミックス原料に前記分散剤と前記微細繊維状セルロースを添加して混ぜて第1混合物とし、前記第1混合物に前記発泡剤を添加して混ぜて発泡させ気泡形成体を形成するものである、
請求項1記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記気孔として、孔径が1μm以下である第1の気孔と、孔径が前記第1の気孔を上回る範囲内にある第2の気孔とを有し、
前記第1の気孔と前記第2の気孔の存在比が9:1~5:5である、
請求項6記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記気孔の真円度が0.15以下である、
請求項6記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【請求項9】
全気孔率が60~95%である、
請求項6記載の多孔質セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨補填材等として利用可能な多孔質セラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、リン酸カルシウムを含有するセラミックス材料は、骨補填材として注目され、生体親和性や安全性に優れていることから、人工骨材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用の薬剤担持材料、細胞培養用の足場材料等の用途に用いられている。また、リン酸カルシウム系セラミックス材料は骨に関する疾患、例えば腫瘍、変性疾患などの治療に用いられてもいる。
【0003】
このように、リン酸カルシウム系セラミックス材料は骨補填材としての用途に用いられ、これに関する研究開発が従来よりなされている。リン酸カルシウム系セラミックス材料に関する技術を開示する文献として次の特許文献1を例示することができる。特許文献1は、生体吸収性セラミックスで形成され、所定条件を満足する多孔質構造を有することを特徴とする生体吸収性インプラントに関する技術を開示し、この技術によれば、優れた骨結合能力を維持しつつも補填作業時はもちろん補填作業が完了するまで形状を保持し、高い有用性を保持することができるとしている。
【0004】
別の文献、特許文献2は、β-リン酸三カルシウムからなる多孔質セラミックスの内部に、骨髄細胞が組み込まれていることを特徴とする人工骨に関する技術を開示し、この技術によれば、良好に骨形成を促進することが可能な人工骨材とすることができ、等方圧等の機械的刺激やVEGFのような細胞増殖因子を複合することにより、さらに確実に骨形成することができ、有用性を向上させることができるとしている。
【0005】
特許文献3は、開気孔と閉気孔を有するセラミックスに関する技術に関して、セルロースナノファイバーを用いて製造した多孔質体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-184878号公報
【特許文献2】特開2002-282285号公報
【特許文献3】特開2020-196649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リン酸カルシウム系セラミックス材料が骨補填材の用途に用いられる場合、骨伝導性が重要な要素となってくる。具体的には、骨形成細胞を当該材料に備わる開気孔から材料内部に遊走・定着させて、骨を形成させる性質に優れることが求められる。
【0008】
特許文献3では、気孔が多数備わる多孔質セラミックスを提案しているが、この多孔質セラミックスが開示された図面を見るに、マクロ径の気孔が多い反面、ミクロ径、特に超ミクロ径の気孔が少なく、かつ気孔の形成面が角ばった形状をしているように見受けられる。このような気孔を有する多孔質セラミックスは、隙間(大径の気孔)が多く強度に乏しいため用途が限定される可能性がある。
【0009】
なお、特許文献1や特許文献2では、多孔質セラミックスの製造方法が特許文献3とは異なるものなので、気孔の形成面が丸みを帯びており、前述の不具合は発生しにくいものと考えられる。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする主たる課題は、微細繊維状セルロースを用いて製造した場合に、超ミクロ径の気孔を多く備え、かつ圧縮強さに優れる多孔質セラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための態様は、次のとおりである。
粉末状のセラミックス原料、発泡剤及び微細繊維状セルロースを混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程と、
前記気泡形成体を焼結させて、気孔を多数有する焼結体を得る焼結工程を有し、
前記発泡剤のHLB値が、10~15となるものであり、
前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~10nmであり、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されている、
ことを特徴とする多孔質セラミックスの製造方法。
[構造式(1)]
【化1】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0012】
本態様の多孔質セラミックスは、従来の微細繊維状セルロースを加えて製造された多孔質セラミックスと比較すると、相対的にミクロ径の気孔が多く、かつ圧縮強さが改善されたものとなっている。このような多孔質セラミックスが製造される主たる理由は、明らかではないがおそらく、親水性に富む気泡剤と微細繊維状セルロースの平均繊維幅の小ささに起因するものと考えられる。微細繊維状セルロースの形成過程において、親水性の気泡剤によって微細なミセルが多数形成され、これらのミセルが、平均繊維幅の小さな微細繊維状セルロースが分散された混合液中で相互に合体を抑制される結果、巨大化し難くなっていると推測される。
【0013】
具体的には形成工程で添加する発泡剤のHLB値が上記範囲であるので、相対的に径が大である気孔の形成が抑制される。発泡剤の添加により形成されるミセルの形状は、発泡剤のHLB値にある程度影響される。仮に発泡剤が疎水的であれば、ミセルの形成が不安定化する結果、大径の気孔になり易い。他方、発泡剤が親水的であれば、水の表面張力を抑制するように働き、相対的に小径の気孔になり易くなる。本態様における発泡剤は、HLB値が上記範囲であり、親水的に作用する。
【0014】
また、本態様における微細繊維状セルロースがエステル化されたものであるので、形成される気孔が丸みを帯びた形態になり、気孔が真円から大きく外れた形態になりにくいという効果を奏する。メカニズムについては後述する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、主な効果として微細繊維状セルロースを用いて製造した場合に、超ミクロ径の気孔を多く備え、かつ圧縮強さに優れる多孔質セラミックスの製造方法になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】β-TCP粉末のFT-IRスペクトルである。
【
図8】発泡剤と微細繊維状セルロースで形成される気泡の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0018】
本形態の多孔質セラミックスの製造方法は、例えば、粉末状のセラミックス原料、発泡剤及び微細繊維状セルロースを混ぜて発泡させ気泡形成体を形成する形成工程と、前記気泡形成体を焼結させて、気孔を多数有する焼結体を得る焼結工程を有し、前記発泡剤のHLB値が、10~15となるものであり、前記微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~10nmであり、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されていることを特徴とする。
[構造式(1)]
【化1】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0019】
本発明における微細繊維状セルロースは前述の通りリンオキソ酸のエステルが導入されたものであり、本明細書では、エステル化微細繊維状セルロースともいう。
【0020】
多孔質セラミックスの製造に当たっては、上記態様のうち微細繊維状セルロースを除いて製造することはもちろん可能であるが、微細繊維状セルロースと発泡剤を添加することで、次の効果がある。多孔質セラミックスの製造方法の一例として、セラミックス原料に発泡剤を添加して発泡させ、気泡形成体を得る手法を挙げることができる。発泡した気泡は静置しておくと時間経過とともに、浮力により浮き上がったり、破泡したりする。ここで、
図8に示すようにセラミックス原料10と発泡剤30とともに微細繊維状セルロース20が含まれていると、気泡40の浮上や破泡が抑制される効果がある。これは、微細繊維状セルロース20が発泡した液中に分散された状態となっていることで、気泡40の流動が微細繊維状セルロース20によって妨げられ、また微細繊維状セルロース20が気泡40の形成面の一部となり、気泡40が消失するのを抑制することによるものと思われる。
図8中、(a)が発泡剤30と微細繊維状セルロース20で形成された気泡40を示し、(b)が焼結処理によりセラミックス11で形成された気孔41を示す。
【0021】
(セラミックス原料)
セラミックス原料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コーディエライト、チタニア、サイアロン、カーボン、炭化珪素、窒化珪素、スピネル、アルミン酸ニッケル、チタン酸アルミニウム、リン酸カルシウム等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として使用する場合においては、リン酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0022】
リン酸カルシウムとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸カルシウム系ガラス等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、β型リン酸三カルシウム(β-Ca3(PO4)2)(以下、単に「β-TCP」ともいう。)を使用するのが特に好ましい。
【0023】
セラミックス原料は、平均粒径500μm以下の粉末状であるのが好ましく、平均粒径10~500μmの粉末状であるのがより好ましい。
【0024】
β-TCPの粉末は、次の方法によって製造すると好適である。まず、炭酸カルシウム(CaCO3)及びリン酸水素カルシウム二水和物(CaHPO4・2H2O)に純水を加え、ボールミル、ニーダー等の混合機を使用する等して混合する。この混合は、例えば、24~48時間行うと好適である。また、純水は、常温でもよいが、80~90℃に加温しておくと容易に粉末が分散され好適である。
【0025】
次に、この混合により得られた混合物を乾燥する。この乾燥は、例えば、60~70℃で行うと好適である。また、この乾燥は、24~48時間行うと好適である。
【0026】
この乾燥により得られた乾燥体は、いったん粉砕する。この粉砕は、平均粒径が、例えば、0.3~0.5μmとなるまで行うと好適である。この粉砕は、例えば、メノウ乳鉢、自動乳鉢、スタンプミル、乾式ボールミル、ハンマーミル等の粉砕器具を使用して行うことができる。
【0027】
次に、この粉砕により得られた粉砕物を仮焼する。この仮焼は、例えば、700~800℃で行うと好適である。この際、昇温速度は、例えば、3℃/分とすることができる。この仮焼は、8~24時間行うと好適である。
【0028】
この仮焼により得られた仮焼体は、再度粉砕する。この粉砕は、平均粒径が、例えば、0.3~0.5μmとなるまで行うと好適である。この粉砕も前述した粉砕器具を使用して行うと好適である。
【0029】
以上のようにして、粉末状のβ-TCPが得られる。
【0030】
(微細繊維状セルロース)
本発明において微細繊維状セルロースは発泡助剤として機能する。従来の多孔質セラミックスは、一例として発泡剤を発泡させて気泡形成体を得て、この発泡形成体を焼結して製造されていた。他方、本発明の形態では、微細繊維状セルロースが発泡により形成された気泡の流動や消失を抑制するように作用する。この作用により、製造される多孔質セラミックス中に形成される気孔の分布の偏りが軽減され、極端に大きな径の気孔の形成が抑制されるので、骨補填材の用途に即したものとなる。
【0031】
セラミックス原料に添加する微細繊維状セルロースとしては、例えば、繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維、繊維幅が一種のセルロース繊維、あるいはセルロース繊維及びセルロース繊維の凝集物を使用することができ、特に、平均繊維幅が1~10nmのセルロース繊維を使用するのが好ましい。なお、セルロース繊維は熱分解性を有し、加熱すると気化する等して消失する特性を有する。
【0032】
ここで、「繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維」の意味について、説明を加える。本形態において繊維幅が異なる複数種のセルロース繊維とは、平均繊維幅が所定の範囲内にあるセルロース繊維を1種類としてカウントし、平均繊維幅がこれとは異なる範囲内にあるセルロース繊維を他の1種類としてカウントし、このような前提のもと、セルロース繊維が複数種類となる場合を意味する。
【0033】
微細繊維状セルロースの原料としては、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0034】
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。また、機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0035】
本形態の微細繊維状セルロースは、平均繊維幅が1~10nmであり、かつセルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入(修飾、変性)されたもの(エステル化)である。
【0036】
【0037】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
【0038】
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及びなしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0039】
リンオキソ酸のエステルは、リン原子にヒドロキシル基(ヒドロキシ基)(-OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、かつそのヒドロキシル基が酸性プロトンを与える化合物である。リンオキソ酸のエステルはマイナス電荷が高く、したがって、リンオキソ酸のエステルを導入すると、セルロース分子間の反発が強くなり、セルロース繊維の解繊が容易になる。導入するリンオキソ酸のエステルとしては、亜リン酸のエステルがより好ましい。亜リン酸のエステルを導入した場合は、セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が下記構造式(2)に示す官能基で置換される。
【0040】
【0041】
構造式(2)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0042】
リンオキソ酸のエステル、あるいは亜リン酸のエステルの導入量は、微細繊維状セルロース1g当たり、好ましくは2.0mmol超、より好ましくは2.1mmol以上、特に好ましくは2.2mmol以上である。また、3.4mmol以下であることが好ましく、より好ましくは3.3mmol以下、特に好ましくは3.0mmol以下である。導入量が2.0mmol超であることにより、超ミクロ気孔をより多く備えるセラミックスを製造しやすくなる。他方、導入量が3.4mmolを超えると、セルロース繊維が水に溶解するおそれがある。
【0043】
リンオキソ酸のエステルの導入量は、元素分析に基づいて評価した値である。この元素分析には、堀場製作所製X-Max 50 001を使用する。
【0044】
(微細繊維状セルロースの製造方法)
本形態の製造方法においては、セルロース繊維に、リンオキソ酸類及びリンオキソ酸金属塩類の少なくともいずれか一方を含む添加物(A)からなるpH3未満の溶液を添加し、加熱してセルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入する。そして、このリンオキソ酸のエステルを導入したセルロース繊維を解繊して微細繊維状セルロースを得る。
【0045】
(添加物(A))
添加物(A)は、リンオキソ酸類及びリンオキソ酸金属塩類の少なくともいずれか一方を含む。添加物(A)としては、例えば、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの添加物は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、リンオキソ酸類の一部又は全部としては、亜リン酸類を使用するのが好ましい。亜リン酸類を使用すると、平均繊維幅が10nm以下のセルロース繊維が生成され易く、本形態の多孔質セラミックスの製造に好適に用いることができる。
【0046】
添加物(A)を添加するにあたって、セルロース繊維は、乾燥状態であっても、湿潤状態であっても、スラリーの状態であってもよい。また、添加物(A)は、粉末の状態であっても、水溶液の状態であってもよい。ただし、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に水溶液の状態の添加物(A)を添加するのが好ましい。
【0047】
添加物(A)の添加量は、セルロース繊維1kgに対して、好ましくは1~10,000g、より好ましくは100~5,000g、特に好ましくは300~1,500gである。添加量が1g未満であると、添加物(A)の添加による効果が得られないおそれがある。他方、添加量が10,000gを超えても、添加物(A)の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0048】
(その他の添加物)
セルロース繊維には、添加物(A)のほか、水酸化塩類、特に水酸化ナトリウムを添加するのが好ましい。水酸化塩類は、pH調整剤としての機能を有するほか、浸透圧の差によりセルロース繊維の解繊がより容易になる。
【0049】
(加熱)
添加物(A)を添加したセルロース繊維を加熱する際の加熱温度は、好ましくは100~210℃、より好ましくは100~200℃、特に好ましくは100~160℃である。加熱温度が100℃以上であれば、リンオキソ酸のエステルを導入することができる。ただし、加熱温度が210℃を超えると、セルロースの劣化が急速に進むおそれがある。また、加熱温度が160℃を超えると、微細繊維状セルロースのB型粘度が低下するおそれがある。
【0050】
添加物(A)を添加したセルロース繊維を加熱する際のpHは、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.8以下、特に好ましくは2.5以下である。pHが低い方がリンオキソ酸のエステルが導入され易くなる。ただし、pHが2.1未満であると粘度が低下する傾向にあり、特にpHが2.0未満であるとセルロース繊維の劣化が急速に進行してしまうおそれがある。したがって、pHは、好ましくは、2.0以上、より好ましくは2.1以上である。
【0051】
添加物(A)を添加したセルロース繊維の加熱は、当該セルロース繊維が乾燥するまで行うのが好ましい。具体的には、セルロース繊維の水分率が、好ましくは10%以下となるまで、より好ましくは0.1%以下となるまで、特に好ましくは0.001%以下となるまで乾燥する。もちろん、セルロース繊維は、水分の無い絶乾状態になっても良い。
【0052】
添加物(A)を添加したセルロース繊維の加熱時間は、例えば1~1,440分、好ましくは10~180分、より好ましくは30~120分である。加熱時間が長過ぎると、リンオキソ酸のエステルの導入が進み過ぎるおそれがある。また、セルロース繊維が黄変化するおそれがある。
【0053】
添加物(A)を添加したセルロース繊維を加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、キルン、加熱式混練機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0054】
(前処理)
セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルを導入するに先立って、又はリンオキソ酸のエステルを導入した後において、セルロース繊維には、必要により、アルカリ処理、酵素処理、酸処理、酸化処理、叩解等の前処理を施すことができる。セルロース繊維の解繊に先立って当該パルプ繊維に前処理を施しておくことで、解繊の回数を大幅に減らすことができ、解繊のエネルギーを削減することができる。
【0055】
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース繊維の分散が促進される。
【0056】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
【0057】
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、エステル化微細繊維状セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、エステル化微細繊維状セルロースの保水度が低いと乾燥し易くなり、セラミックス原料及びエステル化微細繊維状セルロースの混合物を乾燥する際にセラミックス原料にひび割れ等が生じるのを防ぎ易くなる。このような観点から、エステル化微細繊維状セルロースの保水度は、300%以上であるのが好ましく350%以上であるのがより好ましい。なお、保水度は、原料の選定、前処理、解繊等で任意に調整することができる。
【0058】
一方、酵素処理や酸処理、酸化処理によると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均一性や分散性を向上することができる。繊維の均一性は、気孔の均一性に直結する。また、以上の前処理により、結晶領域の繊維全体に占める割合が上がるため、微細繊維状セルロースの分散性が向上する。ただし、前処理は、微細繊維状セルロースのアスペクト比を低下させるため、過度の前処理は避けるのが好ましい。
【0059】
原料の解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料を叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
【0060】
(物性等)
エステル化微細繊維状セルロースの結晶化度は、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましい。また、当該結晶化度は、99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましい。当該結晶化度が以上の範囲内であれば、エステル化微細繊維状セルロースを発泡助剤として使用するにおいて好適なものとなる。なお、結晶化度は、例えば、原料の選定、前処理、解繊等で任意に調整することができる。
【0061】
また、エステル化微細繊維状セルロースのパルプ粘度は、1.0cps以上であるのが好ましく、1.5cps以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が以上の範囲内であれば、エステル化微細繊維状セルロースを発泡助剤として使用するにおいて好適なものとなる。
【0062】
エステル化微細繊維状セルロースを水に分散して得られるスラリー(濃度1%)のB型粘度は、3000~100000cpsが好ましく、4000~75000cpsがより好ましく、5000~50000cpsが特に好ましい。当該スラリーのB型粘度を以上の範囲内にすると、セラミックス原料との混合や、混合物の乾燥、成形加工等が容易になる。
【0063】
マクロ気孔を形成するためには、例えば、より太い繊維幅のセルロース繊維を使用することが考えられるが、分散剤等の添加剤の量をコントロールして気孔の径が大きくなるようにすることもできる。その他、マクロ気孔を形成するためには、セルロース繊維の凝集物や発泡剤を使用してマクロ気孔を形成することができる。ただし、発泡剤を使用するよりも、セルロース繊維の凝集物を使用する方が好ましい。セルロース繊維の凝集物を使用する方が、気孔が形成され易く、また、径の大きさが均一化し易くなる。本形態の多孔質セラミックスはミクロ径の気孔が多く形成されたものとなるが、セルロース繊維の凝集物を併用することで、マクロ径の気孔を併存させることも可能である。
【0064】
発泡剤の使用(発泡法)には、多くの経験則が存在するというメリットがあるので、発泡剤の使用も現時点においては好ましいものである。この際に使用する発泡剤(起泡剤)としては、界面活性剤であれば特に限定なく用いることができるが、特に非イオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルカノールアミド、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。また、これらの非イオン性界面活性剤には、酸化エチレンを添加して発泡剤とすることもできる。
【0065】
特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、非常に毒性が弱く人体への害が少ないし、弱発泡性で適度な大きさの気泡が多数発生し、大径の気孔が支配的になりにくいので骨補填材用途の多孔質セラミックスとして好適である。
【0066】
発泡剤のHLB値は、10~15、好ましくは10.5~14.8、より好ましくは11~14.5である。当該HLB値が15を超過すると気孔の形状が真球になりにくいとの知見を発明者等は得ている。これは、おそらく発泡剤が相対的に疎水的であるので、ミセルの形成が不安定化することによるものと考えられる。また、気泡が大径化してしまい脆い多孔質セラミックスとなってしまうおそれがある。他方HLB値が10未満だと水の表面張力の抑制作用が強く、小径の気孔が多数発生するものとなる反面、気泡形成体における微細繊維状セルロースの分散性が乏しくなるおそれがある。なお、HLB値はグリフェイン法(Griffin法)に準じて算出したものである。
【0067】
(形成工程)
気泡形成体を形成する形成工程は、一例として次の手順で行うことができる。粉末状のセラミックス原料、発泡剤及び微細繊維状セルロースを混ぜて発泡させて気泡形成体を形成する手順である。発泡には適量の水を混ぜておくとよい。
【0068】
形成工程は、上記手順のほか、次の手順とすることもできる。具体的には、さらに分散剤を添加するものであり、前記セラミックス原料に前記分散剤と前記微細繊維状セルロースを添加して混ぜて第1混合物とし、前記第1混合物に前記発泡剤を添加して混ぜて発泡させ気泡形成体を形成するものである、この手順とすることで、気泡分布に偏りが発生しづらくなる。分散剤としては、水溶性高分子化合物、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸アンモニウム塩等のポリアクリル酸誘導体、ポリカルボン酸アンモニウムなどの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0069】
ただし、分散剤の添加にあたっては、セルロース繊維の分散機能を有し、かつセラミックス原料の分散機能も有する分散剤を使用するのが好適である。このような分散剤としては、ポリアクリル酸アンモニウム(PAA)を使用するのが好ましい。PAAは、気孔形成のために発泡剤を使用する場合においてセラミックス原料の解膠剤として使用されているが、発泡助剤としてセルロース繊維を使用する場合にも有用であることを知見している。
【0070】
PAAの濃度は高いものとするのが好ましく、好適には起泡前の混合液全体量(前述の混合物に分散剤を加えた全体量)に対して10容量%以上、より好適には25~45容量%、特に好適には30~40容量%である。濃度を高くするのではなく添加量を増やすこともできるが、添加量を増やすと次いで行う乾燥の負荷が上がり、乾燥時間を長くするか、乾燥温度を高くする必要が生じる。しかるに、これらの対応によると、セラミックス原料が収縮し易くなり、ひび割れが生じる原因となる。
【0071】
一方、PAAの濃度が高過ぎると、得られる多孔質セラミックスがぼろぼろになり易くなる。
【0072】
混合にあっては、セラミックス原料、微細繊維状セルロース、及び分散剤を混合し、この混合物に発泡剤を添加して、ボールミル、ニーダー等の混合機を使用する等してさらに混合するとよい。この混合は、例えば、5~10分間行うと好適である。この混合操作は、超音波を当てながら行うと泡立ちが良く好ましい。
【0073】
微細繊維状セルロース(固形分量)はセラミックス原料1質量部に対して、0.0015~0.040質量部、好ましくは0.002~0.035質量部、より好ましくは0.003~0.033質量部である。微細繊維状セルロースがセラミックス原料1質量部に対して0.040質量部を超過すると、微細繊維状セルロースの持ち込み水分が多くなり、セラミックス原料の沈降やあるいは微細繊維状セルロースの分散不良により、焼結後多孔質セラミックの気孔分布に偏りが発生するおそれがある。他方、微細繊維状セルロースがセラミックス原料1質量部に対して0.015質量部未満だと、微細繊維状セルロースを添加することによる超ミクロ気孔の形成が得にくい。
【0074】
次に、この混合により得られた混合物は、極端に大きく発泡した気泡が発生することがあるので、タッピングを行って大きな泡を消泡するとよい。その後、低温で乾燥することで気泡形成体が形成される。乾燥の条件は、次の通りにすることができる。温度は、例えば35~60℃、好適には38~55℃である。また、乾燥時間は、例えば2~3日、好適には3日である。この点、本形態においては微細繊維状セルロースを使用することで、ミクロ気孔、マクロ気孔のほか超ミクロ気孔を形成することができる仕様になっており、穏やかな乾燥が適する。なお、この乾燥を急激に行うと、セラミックス原料のひび割れの原因となる。また、乾燥の条件を次のとおり多段階としてもよい。例えば、まず温度を35~45℃、好適には36~44℃とし、乾燥時間を24~48時間とする。次に温度を65~75℃、好適には66~74℃とし、乾燥時間を48~72時間とする。多段階に乾燥することで、上記効果に加えて、製造される多孔質セラミックスの圧縮強さがより大きくなる効果が付与されることを発明者等は知見している。
【0075】
(焼結工程)
乾燥によって得られた気泡形成体は、焼結する。この焼結は、気泡形成体を加熱して焼結するものである。加熱は特に限定されないが、二段以上の複数段(段階)で行うとセラミックスのひび割れを抑制でき好ましい。例えば、低温焼結と高温焼結との二段で行う場合は、当該焼結が180~600℃(好適には200~500℃)での低温焼結と、これに次ぐ1020~1120℃(好適には1040~1120℃)での高温焼結とであると好適である。この形態によると、低温焼結においては主にセラミックス原料が焼結され、高温焼結においては主にセルロース繊維等の発泡助剤が気化除去される。低温焼結が先行することで発泡助剤の除去に先立ちセラミックス原料が確実に固まった状態になるため、小さな径の開気孔が確実に形成される。
【0076】
低温焼結の時間は、例えば2~6時間、好適には3~5時間である。また、高温焼結の時間は、例えば40~300分、好適には200~240分である。低温でゆっくり焼結し、高温で一気に発泡助剤を除去してしまうと、セラミックス原料のひび割れ等を可及的に防ぐことができる。なお、昇温速度は、例えば、1~5℃/分とすることができる。
【0077】
また、4段階に焼結するとより好ましい。焼結を4段で行う場合は、第1段階目が150~200℃(好適には160~180℃)で2~6時間の焼結と、これに次ぐ第2段階目が250~350℃(好適には280~320℃)で2~6時間の焼結と、続く第3段階目が350~450℃(好適には380~420℃)で2~6時間の焼結と、その後、第4段階目が1020~1120℃(好適には1040~1120℃)で0.5~24時間の焼結とするとよい。4段階による焼結方法の中でも、特に第1段階では、4~5℃/分で昇温して170~190℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第1昇温工程と、第2段階では、前記第1昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して290~310℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第2昇温工程と、第3段階では、前記第2昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して390~410℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第3昇温工程と、第4段階では、前記第3昇温工程の後に4~5℃/分で昇温して1020~1100℃とし、3~4時間、当該温度を維持する第4昇温工程とを有するものが好適である。この形態によると、第1段階~第3段階の焼結においては主にセルロース繊維等の気泡助剤が気化除去され、第4段階の焼結においてはセラミックス原料が焼結される。段階的に昇温することで気泡助剤等の除去が行われた後に,セラミックス原料が焼結していくために、大きな径の気孔、小さな径の気孔が確実に形成される。第4段階目の温度が1020℃を下回ると、得られるセラミックスの圧縮強さが損なわれるおそれがある。
【0078】
(多孔質セラミックス)
以上のようにして製造された本形態の多孔質セラミックスは、多数の気孔が形成される。気孔は、多孔質セラミックスの表面から連通する開気孔と、多孔質セラミックスの内部に存在する気孔であり、多孔質セラミックスの表面から連通しない閉気孔とからなる。なお、特許文献、特開昭63-40782号公報には、焼結品は全て閉気孔のない開気孔であった旨の記載が存在する。しかしながら、本発明者等は、発泡助剤として発泡剤を使用した従来の方法(発泡法)によると、閉気孔率が30%程度にもなることを知見している。
【0079】
本形態の多孔質セラミックスは、全気孔率が50~95%、好ましくは60~90%、より好ましくは70~90%である。全気孔率が95%を超過すると骨補填材として用いる強度として不十分になるおそれがある。他方、全気孔率が50%未満だと細胞伸展の良好な足場に用い難いものとなるおそれがある。
【0080】
本形態の多孔質セラミックスの開気孔率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。本形態のセラミックス原料は、上記したように閉気孔の百分率を低く抑えているため、このような高い開気孔率にしたとしても強度の点で問題を生じるおそれが極めて少ない。
【0081】
ここで、全気孔率は、全気孔の容積/多孔質セラミックスの容積×100(%)で求めることができ、開気孔率は、開気孔の容積/多孔質セラミックスの容積×100(%)で、閉気孔率は、閉気孔の容積/多孔質セラミックスの容積)×100(%)でそれぞれ求めることができる。
【0082】
また、本形態の多孔質セラミックスは、全気孔率に占める開気孔率の百分率が70%以上、好ましくは80%以上、好適には90%以上であり、99%以下、好ましくは98%以下、好適には97以下である。他方、全気孔率に占める閉気孔率の百分率は30%以下、好適には20%以下、より好適には10%以下に抑えられている。このように開気孔の割合を高くすることで、気孔率を極端に高くすることなく、開気孔率を従来と同程度、又はそれ以上とすることができる。したがって、多孔質セラミックスの強度が低下するおそれがない。この点、例えば、骨補填材の場合であれば、骨補填材は骨欠損部に補填され、当該骨欠損部が修復されるまでの初期段階においては骨欠損部の補強を行い、骨欠損部の修復後においては生体骨に吸収される。したがって、骨補填材の強度は、極めて重要である。また、このように開気孔率を高くすることができると、次いで説明するように、ミクロ開気孔及びマクロ開気孔の併存が可能になる。
【0083】
本形態の多孔質セラミックスは、気孔として、孔径が1μm超かつ20μm以下、好ましくは1μm超かつ19μm以下、より好ましくは1μm超かつ18μm以下の範囲内にあるミクロ気孔(ミクロ開気孔及びミクロ閉気孔)と、孔径が前記所定の範囲を上回る範囲内にあるマクロ気孔(マクロ開気孔とマクロ閉気孔)が併存している。このようにミクロ気孔とマクロ気孔、特にミクロ開気孔とマクロ開気孔を併存させることで、例えば、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として利用する場合においては、血管や細胞等と、栄養分やたんぱく質等との両方の遊走・定着に対応した多孔質セラミックスとなる。
【0084】
マクロ気孔の孔径は、20μm超~600μm以下、好ましくは25μm超~600μm以下、より好ましくは30μm超~600μm以下である。
【0085】
本形態の多孔質セラミックスは、より好適には、孔径がミクロ気孔の範囲を下回る微小径範囲内にある超ミクロ気孔(超ミクロ開気孔及び超ミクロ閉気孔)が併存する。この形態においては、気孔が超ミクロ気孔、ミクロ気孔、及びマクロ気孔の3種類となり、例えば、本形態の多孔質セラミックスを骨補填材として利用する場合においては、より需要に即したものとなる。
【0086】
超ミクロ気孔(超ミクロ開気孔及び超ミクロ閉気孔)は、例えば、前述した微細繊維状セルロース(発泡助剤)によって形成される。また、上記小径範囲、つまり超ミクロ気孔の孔径は、好ましくは1μm以下である。
【0087】
マクロ気孔は、微細繊維状セルロースと発泡剤で形成された気泡が焼結して形成されたものと考えられる。ミクロ気孔は、発泡剤が攪拌されて形成された気泡が焼結して形成されたものであり、マクロ気孔は、ミクロ気孔大の気泡が相互に合体する等して形成された大径の気泡が焼結して形成されたものである。気泡は、発泡剤、微細繊維状セルロース、セラミックス原料の添加量やこれらを含む混合物の掻き混ぜ方やタッピングしだいで、小径の気泡となったり、大径の気泡となったりする場合がある。
【0088】
超ミクロ気孔は、微細なミセルが焼結したり、微細繊維状セルロースが焼結工程で焼失したりした結果、形成された気孔である。
【0089】
マクロ気孔やミクロ気孔は主に細胞伸展の良好な足場となり、超ミクロ気孔は細胞の伸展に関与する。そのため、孔径が1μm以下である第1の気孔(超ミクロ気孔に相当)と、孔径が前記超ミクロ気孔を上回る範囲内にある第2の気孔(ミクロ気孔、マクロ気孔及び超マクロ気孔)とを有し、前記第1の気孔と前記第2の気孔の存在比が9:1~5:5、より好ましくは8:2~6:4である多孔質セラミックスは好ましい形態である。
【0090】
本形態の多孔質セラミックスは、気孔の真円度が、0.15以下、好ましくは0.14以下、より好ましくは0.13以上であるとよい。当該真円度が0.15以上の気孔は、気孔の形状が歪になりやすい。真円度の測定方法は次のとおりである。SEM画像(50倍)から孔径10~300μmの範囲にある気孔を無作為に10点抽出し、抽出された各気孔について最も長い径(長径)と最も短い径(短径)を測定し、長径と短径の割合を求める。そして、長径を1に正規化して、当該割合から短径の長さ(正規化された短径)を算出する。これを10点について行う。こうして算出された10点の正規化された短径の平均値を求める。次の算式により真円度を求める。
(真円度)=(1-正規化された短径の平均値)/2
真円度は、0に近づくほど真円に近い気孔といえる。
【0091】
本形態では、形成される気孔の形状が球状に近いものとなるが、このようになるのは、発泡剤のHLB値と微細繊維状セルロースが相互的に関係し合っているものと推測される。具体的には、微細繊維状セルロースがエステル化していない未変性のものであると、HLB値が所定範囲である発泡剤を用いても、製造された気孔の形状を観察した場合、球状から外れた形態(例えば、気孔の形成面がゴツゴツした形状や多面体、気孔の形成面の一部だけ突出した形状等)となる場合がある。他方、微細繊維状セルロースとしてエステル化されたものを用いたとしても、HLB値が所定範囲を外れると、気孔が相対的に大径のものが支配的に形成される一方、小径の気孔が極端に少ない多孔質セラミックスが製造されたり、気孔が小径の気孔のみが支配的である多孔質セラミックスが製造されることとなり、骨補填材に用いることが困難なものとなる。
【0092】
本形態の多孔質セラミックスは、圧縮強さが1.5MPa以上、好ましくは1.6MPa、より好ましくは2MPa以上である。圧縮強さが1.5MPa未満だと、術時のハンドリング性に乏しく、非常に脆くなるため、多孔質体の形状を保ちにくくなる。他方、圧縮強さの上限は、特に制限はされないが、例えば4MPa以下である、4MPa超となると全気孔率が60%以下となり、相対的に開気孔も低下するため、骨形成細胞がスムーズに遊走しにくくなるおそれがある。圧縮強さはJIS-R1608(2003)に準拠し、クロスヘッド速度を0.5mm/分として測定される。
【0093】
焼結工程を経て製造された本形態の多孔質セラミックスは、形状としては特に限定されないが、例えば直方体をしたものとなる。直方体であれば、幅6cm×奥行き6cm×高さ3cmを例示できる。このほかにも立方体(例えば、一辺5cm。)等の六面体、球体等として提供することができる。この大きさの多孔質セラミックスを得るにあたっては、例えば、大きな多孔質セラミックスを製造し、適宜の大きさに切り出すとよい。大きく製造し、小さく切り出す方が、多孔質セラミックが均質化する。
【0094】
製造過程で用いられる微細繊維状セルロースとしては、エステル化微細繊維状セルロースを用いているが、エステル化等の化学変性していない微細繊維状セルロース(未変性微細繊維状セルロース)を用いることももちろん可能である。しかしながら、未変性微細繊維状セルロースを用いて多孔質セラミックスを製造すると、真円度に乏しい(いびつな)形状の気孔が散見されることとなる。この点、エステル化微細繊維状セルロースを用いて製造された多孔質セラミックスであれば、当該真円度に乏しい形状の気孔の頻度が少ないもの、すなわち球に近い形状の気孔が多く形成されたものとなる。
【0095】
本実施形態で製造された多孔質セラミックスは、気孔を形成する形成面が丸みを帯びたものとなっているが、丸みを帯びた気孔が形成されるメカニズムは厳密にはわかっていない。しかしながら、おそらく次のように推察できる。
【0096】
一つは、発泡剤とエステル化微細繊維状セルロースとの相互作用である。微細繊維状セルロースはリンオキソ酸を導入してエステル化することで、導入部分の官能基が極性を帯びた基、すなわち極性基となる。この極性基が発泡剤と静電的に結合することによるものと考えられる。
【0097】
もう一つは、エステル化微細繊維状セルロースが未変性微細繊維状セルロースよりも平均繊維幅が小さいことである。微細繊維状セルロースが発泡剤による泡形成をサポートする発泡助剤としての機能を有すると考えた場合、発泡剤による泡形成は微細繊維状セルロースを介してなされる。平均繊維幅が相対的に大である未変性の微細繊維状セルロースを用いた場合、微細繊維状セルロースが泡の形状に強く関与するが、平均繊維径が相対的に小であるエステル化微細繊維状セルロースを用いた場合は、当該微細繊維状セルロースの関与が弱い。その結果、泡は発泡剤によって形成される本来の形状に近いものとなると推察できる。
【0098】
(用途)
本形態の多孔質セラミックスは、好適には骨補填材として利用することができる。ただし、骨補填材等の生体材料としてのほか、例えば、フィルター、燃料電池やガス・湿度センサー等の電極、触媒担体、断熱材、経口投与薬、加工食品、飲料、各種吸着カラム材、化粧料、歯磨剤、消臭剤、脱臭剤、入浴剤、洗顔剤、シャンプー、トイレタリー用品等の添加剤などとしても利用することができる。
【0099】
(その他)
本明細書において開気孔率は、アルキメデス法で測定した値である。また、閉気孔率は、全気孔率から開気孔率で引いた値であり、全気孔率はアルキメデス法で求めたかさ比重と計算密度(理論密度)とを用いて計算した値である。
【0100】
本明細書において骨補填材とは、生体のインプラント材として骨、歯、歯根等の補填用に使用する多孔質セラミックスをいう。
【0101】
本明細書において微細繊維状セルロースを含むセルロース繊維の平均繊維幅(径)は、次のようにして測定した値である。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロース繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍又は30000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維幅とする。
【0102】
本明細書において結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロース繊維は非晶質部分と結晶質部分とを有し、結晶化度はセルロース繊維全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0103】
本明細書においてパルプ粘度は、JIS-P8215(1998)に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどセルロース繊維の重合度が高いことを意味する。
【0104】
本明細書において微細繊維状セルローススラリー(1%)のB型粘度は、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。
【0105】
本明細書において保水度は、JAPAN TAPPI No.26:2000に準拠した保水度の測定法により、測定した値である。
【実施例0106】
次に、本発明の実施例について説明する。
β-TCP粉末及び微細繊維状セルロースから多孔質セラミックス(多孔体)を製造し、得られた多孔体に存在する気孔の平均孔径や、全気孔率、開気孔率、閉気孔率、圧縮強さ、気孔の孔径分布、嵩密度、及び真円度を測定する試験を行った。この試験においては、微細繊維状セルロースとして亜リン酸エステル化された微細繊維状セルロース(大王製紙株式会社製「エレックス(登録商標)-スター」,平均繊維幅3nm)を、濃度を変えて用いた。ただし、参考例として未変性の微細繊維状セルロース(大王製紙株式会社製「エレックス(登録商標-S)」,平均繊維幅40nm)を使用した。
また、発泡剤の種類、乾燥温度を変えて試験を行った。詳細は、次のとおりである。
【0107】
(β-TCP粉末の合成)
β-TCP粉末は、次の手順で合成した。
まず、炭酸カルシウム(純度99.5%,和光純薬,和光特級)0.1125mоl及びリン酸水素カルシウム二水和物(純度98.0%,純正特級)0.225mol(Ca/Pmоl比=1.50)に80℃の純水450mlを加え、ジルコニアポット(ニッカトー製)及びジルコニア製ボール(ニッカトー製,直径5mmのボール600g,直径10mmのボール900g)を使用して24時間、湿式混合した。次に、この混合物を70℃で24時間乾燥した。得られた乾燥体は、メノウ乳鉢を使用して粉砕し、更に750℃で10時間、大気雰囲気下で仮焼した。昇温速度は、3℃/分とした。得られた仮焼体は、粉砕して粉末状にした(β-TCP粉末)。この粉末のSEM画像を、
図1に示した。
【0108】
得られたβ-TCP粉末のXRDパターンを
図2に、FT-IRスペクトルを
図3に示した。XRDパターンより上記の得られたβ-TCP粉末が、β-TCPの結晶構造に帰属する回折パターンと一致した。また、副生成物に見られるピークが確認できなかったため、上記の得られたβ-TCP粉末がβ-TCPであると同定された。FT-IRの結果よりβ-TCPに備わるPO
4の変角振動が420cm
-1,580cm
-1近傍に、PO
4の伸縮振動が800~1200cm
-1近傍にそれぞれ見られたため、上記の得られたβ-TCP粉末がβ-TCPであると同定された。
【0109】
(多孔質セラミックスの作成)
得られたβ-TCPの粉末30g及び微細繊維状セルロースを入れた容器に、10%ポリアクリル酸アンモニウム(PAA,和光一級)水溶液30mlを加え、超音波を当てつつハンドミキサーで均一に分散するように5分間撹拌した。なお、超音波は、容器を超音波水槽(アズワン社製)内に浸して当てたものである。その後、発泡剤4mLを当該容器に加えて5分間撹拌して発泡させた。発泡剤はノニオン界面活性剤のポリオキシエチレンラウリルエーテル(SG-L200、SG-L400、SG-L900、いずれも日光ケミカルズ社製)又はポリオキシエチレンアルキルエーテル (NIKKOL BT-7、日光ケミカルズ社製)を使用した。
【0110】
得られた発泡体を角さや(縦60mm×横60mm)に流し込み、高さが30mmになるようにタッピングし、その後、乾燥させた。乾燥の条件は、タッピングした発泡体を40℃で48時間放置し、その後70℃で24時間放置して気泡形成体(乾燥体)を得た。得られた乾燥体を焼結した。焼結工程は多段階に行い具体的には次の通りに行った。第1段階として昇温速度5℃/分で昇温して180℃とし、4時間、当該温度を維持した。次に第2段階として5℃/分で昇温して300℃とし、4時間、当該温度を維持した。さらに第3段階として5℃/分で昇温して400℃とし、4時間、当該温度を維持した。加えて第4段階として5℃/分で昇温して1120℃(又は1060℃)とし、4時間、当該温度(焼結維持温度ともいう。)を維持した。その後、放冷して多孔質セラミックスを得た。
【0111】
得られた多孔質セラミックスはそれぞれ表1に示す処方で製造された。表1中、HLB値はグリフェィン法(Griffin法)で求めた値である。
【0112】
【0113】
上記手順で直方体の多孔質セラミックス(試験例1~5、参考例1~3)を得た。多孔質セラミックスは、高さ方向の中点を通る水平面を切断面として、水平方向に切断して2つの切断片(上片、下片)とした。多孔質セラミックスのSEM画像を
図4~7にそれぞれ示し、上片と下片を示した。上記多孔質セラミックスのうち、未変性の微細繊維状セルロースを用いて製造した多孔質セラミックスは参考例2とした。
【0114】
試験例1~5、参考例1~3について、全気孔率A、開気孔率B、閉気孔率C、全気孔率に占める開気孔率の百分率(B/A)、圧縮強さ、嵩密度及び真円度の測定結果を表2に示す。
【0115】
【0116】
試験例1、参考例1,2の多孔質セラミックスの気孔の孔径分布を測定した。結果を表3に示す。表3において孔径1μm以下とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径1μm以下の気孔の全容積の総和の百分率という。また、孔径1μm超20μm以下とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径1μm超かつ20μm以下の気孔の全容積の総和の百分率という。孔径20μm超600μm以下とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径20μm超かつ600μm以下の気孔の全容積の総和の百分率という。孔径600μm超とは、気孔の全容積の総和に占める、孔径600μm超の気孔の全容積の総和の百分率という。
【0117】