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特開2023-143173光集積回路モジュール、及び光送受信機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143173
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】光集積回路モジュール、及び光送受信機
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/065 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G02F1/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050409
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三田村 宣明
(72)【発明者】
【氏名】大塚 百合香
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋平
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA03
2K102BA40
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD01
2K102CA23
2K102DA05
2K102DB05
2K102DC08
2K102DD01
2K102EA02
2K102EA22
2K102EB12
2K102EB16
2K102EB22
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】有機電気光学材料の光酸化現象が抑制された光集積回路モジュールを提供する。
【解決手段】光集積回路モジュールは、有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、前記光集積回路素子を内部に収容して気密封止されたパッケージと、前記パッケージの内部に設けられて酸素を吸着する酸素ゲッターと、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子を内部に収容して気密封止されたパッケージと、
前記パッケージの内部に設けられて酸素を吸着する酸素ゲッターと、
を有する光集積回路モジュール。
【請求項2】
前記パッケージはリッドにより気密封止されており、
前記酸素ゲッターは、前記リッドに固定されている、
請求項1に記載の光集積回路モジュール。
【請求項3】
前記酸素ゲッターは、前記リッドの内面に形成された酸素吸着層を含む、
請求項2に記載の光集積回路モジュール。
【請求項4】
前記酸素ゲッターは、両面が酸素吸着材料で覆われた酸素吸着シートを複数枚含み、複数の前記酸素吸着シートは、シート面と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、
請求項1または2に記載の光集積回路モジュール。
【請求項5】
前記酸素吸着シートは、所定の位置に突起を有し、複数の前記酸素吸着シートは前記突起の高さで決まる間隔で互いに離れている、
請求項4に記載の光集積回路モジュール。
【請求項6】
前記パッケージの内部に設けられて水分を吸着する水分ゲッター、
をさらに有する請求項1または2に記載の光集積回路モジュール。
【請求項7】
前記パッケージの内部は第18族元素の不活性ガスで満たされている、
請求項1または2に記載の光集積回路モジュール。
【請求項8】
前記光集積回路素子は、2本の電極の間に前記有機電気光学材料が充填されたスロット導波路で形成された光変調器を有する、
請求項1または2のいずれか一項に記載の光集積回路モジュール。
【請求項9】
請求項1に記載の光集積回路モジュールと、
前記光集積回路モジュールと電気的に接続される電気回路素子と、
前記電気回路素子と電気的に接続されるデジタル信号プロセッサと、
を有する光送受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光集積回路モジュール、及び光送受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
光データ伝送容量の急増を支えるための通信デバイスまたは機器の開発が、急務となっている。光変調器は高速データ伝送のコアであり、産業界からは800Gbit/sec(シンボルレートで96Gbaud)の高速化が望まれている。光変調器の材料として、これまで主流であったニオブ酸リチウム(LiNbO)に替わる、より高い電気光学効果と広帯域特性をもつ有機電気光学材料(電気光学ポリマ)が期待されている。電気光学ポリマを2本の電極間に塗布、充填したスロット導波路を用いた光変調器が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。電気光学ポリマ材料は、信頼性に対する懸念があることから実用化が進んでいなかったが、信頼性試験(85℃、2000時間)において、電気光学定数を保持可能な有機非線形光学材料が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0003】
大気中、すなわち酸素がある状態で、電気光学ポリマに光通信波長である1550nm帯の強い光を透過させると、ポリマ自体が劣化し、変調特性または光学特性が劣化することが報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。酸素によるこの劣化現象は、光酸化現象と呼ばれている。電気光学ポリマ導波路を実用化するには、光酸化現象を考慮する必要がある。LiNbO光変調器を気密封止する構成が知られている(たとえば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7643714号
【特許文献2】特許第6935884号
【特許文献3】特開2019-53313号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Rezzonico, M. Jazbinsek, P. Gunter, C. Bosshard, D. H. Bale, Y.Liao, L. R. Dalton, and P. J. Reid, "Photostabililty studies of pi-conjugated chromophores with resonant and nonresonant light excitation for long-life polymeric telecommunication devices," J. Opt. Soc. Am. B., vol. 24, no. 9, pp. 2199-2207, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、電気光学ポリマ導波路を用いた光集積回路に公知の気密封止構造を適用しても、実用に耐え得る特性が得られないことを見出した。電気光学ポリマ導波路を用いた光集積回路を接着剤で気密封止パッケージ内に接着固定し、ベイキング等で水分をできるだけ揮発させ、窒素雰囲気中で気密封止しても、ある程度の酸素や水分がパッケージ内に残る。電気光学ポリマ材料や接着剤が酸素、空気、水分等を吸収しており、ベイキングを行っても吸収された酸素や水分を十分に揮発されず、気密封止パッケージ内に残留するためと考えられる。
【0007】
発明の一つの側面では、有機電気光学材料の光酸化現象が抑制された光集積回路モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態では、光集積回路モジュールは、
有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子を内部に収容して気密封止されたパッケージと、
前記パッケージの内部に設けられて酸素を吸着する酸素ゲッターと、
を有する。
【発明の効果】
【0009】
有機電気光学材料の光酸化現象が抑制された光集積回路モジュールが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来の気密封止構造の模式図である。
図2】有機電気光学材料を用いた導波路構成に図1の気密封止構造を適用したときの電気特性を示す図である。
図3】第1実施形態の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
図4図3の光集積回路モジュールのXY面に沿った断面模式図である。
図5】有機電気光学材料を用いたスロット導波路の断面模式図である。
図6】第1実施形態の光集積回路モジュールの変形例の模式図である。
図7】第1実施形態の光集積回路モジュールの電気特性を示す図である。
図8】第2実施形態の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
図9】第2実施形態の光集積回路モジュールの電気特性を示す図である。
図10】第2実施形態の酸素ゲッターの変形例の模式図である。
図11】第2実施形態の酸素ゲッターの別の変形例の模式図である。
図12】第3実施形態の光集積回路モジュールのYZ面に沿った断面模式図である。
図13】第3実施形態の光集積回路モジュールの電気特性を示す図である。
図14】光集積回路モジュールを用いた光送受信機の模式図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の光集積回路モジュールの具体的な構成を説明する前に、有機電気光学材料を用いた導波路構成に従来の気密封止構造を適用したときの課題を、より詳しく説明する。
図1は、従来の気密封止構造の模式図、図2は、有機電気光学材料を用いた導波路構成に図1の気密封止構造を適用したときの電気特性を示す。
【0012】
図1で、パッケージ121内に、光集積回路チップ120が接着剤127で固定されている。光集積回路チップ120は、有機電気光学材料を用いた導波路を含む。有機電気光学材料を用いた導波路で、光変調器等の光学素子が形成されている。パッケージ121はリッド128で覆われ、内部が気密状態になっている。光集積回路チップ120と光学的に接続された光ファイバ122は、気密封止用のパイプ124を通してパッケージ121の外部に引き出されている。パイプ124とパッケージ121の間には、半田材料125が充填され、光ファイバ122の周囲も気密封止されている。
【0013】
組み立て時には、光集積回路チップ120を接着剤127でパッケージ121の内部に固定した後、真空中でベイキングして水分をできるだけ揮発し、続いて窒素置換された雰囲気中で、パッケージ121の上面開口に、リッド128をシーム溶接する。さらに、パイプ124から外部に引き出される光ファイバ122の周囲を半田材料125で埋める。これにより、純度が100%に近い窒素ガスで気密封止されたモジュールが得られる。しかし、このような気密封止によってもなお、パッケージ21の内部に0.05~0.20Volume%程度の酸素や、0.05~0.50Volume%程度の水分が残存する。
【0014】
図2は、図1の気密封止パッケージの電気特性を示す。横軸は高温通電時間(hour)、縦軸は、半波長電圧(Vπ)である。半波長電圧は光変調器の電気特性の指標の一つであり、出力光の位相が180°(πラジアン)変化するのに必要な電圧である。有機電気光学材料を用いた光導波路を含む光集積回路チップ120に、実用上必要となる18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DCバイアス3.5V、AC駆動電圧±2.0Vで高温通電したときのVπ電圧を測定する。Vπ電圧は経時的に増加し、2000時間では7.5倍以上に増加する。これは、上述した有機電気光学材料の光酸化現象によるものと推測される。
【0015】
実施形態では、実用上求められる強度の光を透過させながら光集積回路を駆動しても光酸化現象を抑制できる光集積回路モジュールを提供する。以下の説明で、同一の構成要素には同じ符号をつけて重複する説明を控える場合がある。
【0016】
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態の光集積回路モジュール10AのYZ面に沿った断面模式図、図4は、図3の光集積回路モジュール10AのXY面に沿った断面模式図、図5は、有機電気光学材料を用いた光導波路の断面模式図である。光集積回路モジュール10Aは、有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子20と、光集積回路素子20を気密封止するパッケージ21と、パッケージ21内に設けられた酸素ゲッター50Aとを有する。
【0017】
図3を参照すると、光集積回路素子20は、パッケージ21内に接着剤27で固定されている。パッケージ21はリッド28で覆われ、内部に不活性ガス30が充填されて気密状態が保たれている。光集積回路素子20の端面で、ガラスブロック23により、光ファイバ22が光集積回路素子20上の光導波路にバットジョイント接続されている。ガラスブロック23は、光学接着剤で光集積回路素子20の端面に固定されている。光ファイバ22は、パイプ24からパッケージ21の外部に引き出されている。光ファイバ22の外周の一部にメタライズ部25を形成し、パイプ24とメタライズ部25の間に低融点の半田材料26を充填することで、光ファイバ22の周囲が気密封止される。
【0018】
パッケージ21の内部に、酸素ゲッター50Aが設けられる。酸素ゲッター50Aは、たとえば、リッド28の内面281に設けられている。従来の気密封止構造では、封止ガスとして安価な窒素ガスが用いられていたが、酸素ゲッター50Aとして機能する酸素吸着層29は、活性ガスとしての側面も併せ持つ窒素を吸着する。酸素吸着層29の表面積が限られていることから、活性ガスを吸着する限界(飽和吸着量)があり、ほぼ窒素ガスだけで飽和吸着量に達するおそれがある。その場合、0.10~0.20Volume%程度の酸素を効率的に除去できなくなる。
【0019】
実施形態では、酸素の効率的な除去のため、不活性ガス30として、純度が98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%に近い不活性ガスを用いる。不活性ガスは、He、Ar、Kr、Xe等の第18族元素ガス(希ガス)である。一例として、比較的安価なArガスを用いる。
【0020】
このような不活性ガス30雰囲気中で用いられる酸素吸着層29は、非蒸発型の酸素ゲッターであることが好ましい。酸素吸着層29として、Zr、Ti、ZrAl合金、ZrNi合金、ZrFe合金、ZrVFe合金、ZrVE合金(EはFe、Ni、Mg、Alまたはその混合物)、ZrM1M2合金(M1、M2はCr、Mn、Fe、Co、Niから選択される)、ZrCoA合金(AはY、La等の希土類金属またはその混合物)、ZrFeMgMm(Mmは希土類金属とCe、La、Ndとの混合物)等を用いることができる。これらの酸素吸着層29の材料は、蒸着、スパッタ等の物理的成膜方法でリッド28に直接、2~3μmの厚さに成膜してもよい。あるいは、上述した酸素ゲッター材料を、NiCrFe、SUS、コバール(登録商標)等の薄い金属シートに蒸着し、蒸着後の金属シートを、スポット溶接または耐熱性接着剤でリッド28に固定してもよい。
【0021】
パッケージ21をリッド28で気密封止する前に、酸素吸着層29のデガスと活性化を行ってもよい。たとえば、真空中または不活性ガス雰囲気下で、200℃で30分~1時間の加熱でデガスを行い、続いて、真空中または不活性ガス雰囲気下で、300~450℃で15分以上活性化を行う。その後、光集積回路素子20が接着固定されているパッケージ21内を純度100%に近いArガスで満たし、酸素吸着層29が形成されたリッド28でパッケージ21を封止する。
【0022】
図4を参照すると、パッケージ21に3つのパイプ24が設けられ、3本の光ファイバ22-1、22-2、22-3がパッケージ21から引き出されている。光ファイバ22-1、22-2、22-3の各々は、ガラスブロック23により光集積回路素子20の端面に露出する光導波路にバットジョイント接続されている。光集積回路素子20は、シリコンフォトニクス技術で作製され、シンボルレートが96Gbaud以上の高速光通信に適用可能である。
【0023】
光集積回路素子20は、基板15上に、有機電気光学材料を用いた光導波路で形成された光変調器19を有する。図4の例で、光変調器19は、シンボルレート96GbaudのDP-QPSK方式の変調器であり、マッハツェンダ干渉計の組み合わせで構成されている。光変調器19を構成する光導波路のうち、電気と光が相互作用する領域に、有機電磁光学材料を用いたスロット導波路191が形成されている。8本のスロット導波路191で、4つの子マッハツェンダ干渉計SMZ1~SMZ4と、2つの親マッハツェンダ干渉計MMZ1、MMZ2が形成されている。スロット導波路191と、シリコンフォトニクスで形成されたシリコン導波路123は、モード変換器により接続されている。
【0024】
図5は、有機電気光学材料を用いたスロット導波路191の断面模式図である。図5の(A)で、Siの基板15上にSiO層16が形成され、SiO層16のエッチングされた溝161の内部に、所定間隔だけ離れた2本の電極17が、互いに近接して形成されている。電極17はたとえば不純物が濃度に添加されたシリコンで形成され、2本の電極17の間にスロットが形成されている。
【0025】
図5の(B)で、溝161内に電気光学ポリマ18を充填する。電極17間のスロットの内部も電気光学ポリマ18で充填される。これにより、スロット導波路191が形成される。電気光学ポリマ18として、特許文献2に開示される非線形光学活性ポリマを用いてもよい。スロット導波路191は、電気光学ポリマ18を用いることで電気と光の速度整合性が良好であり、高速、広帯域の光伝送に適している。光Lは、2本の電極17で決まる領域に閉じ込められて伝搬する。
【0026】
2本の電極17に電圧を加えると、電気光学ポリマ18の屈折率nが変化して、光学的な光路長ndが変化する。図4の光変調器19のマッハツェンダ干渉計の2つのアームで適切な電圧差を与えることで干渉条件が変化し、光位相変調がかけられる。電気光学ポリマ18が充填された状態でスロット導波路191の光伝搬損失が小さくなるように、2本の電極17の形状とスロット間隔が設計されている。
【0027】
図4に戻って、光集積回路素子20は、光変調器19に加えて、受光素子アレイ2a及び2b、90°ハイブリッド素子3a及び3b、偏波ビームスプリッタPBS、偏波ビームコンバイナPBC、偏波ローテータPR1及びPR2を有する。受光素子アレイ2a、2bは、たとえばGe受光素子の配列を含む。パッケージ21の外部のレーザ光源から出射された光LLDは、光ファイバ22-1を通って光集積回路素子20に入射し、その一部が分岐されて光変調器19で所望の光変調を受ける。レーザ光源は、たとえば波長可変レーザ光源である。
【0028】
親マッハツェンダ干渉計MMZ2からの変調信号光は、偏波ローテータPR1で偏光軸の方向が90°回転され、偏波ビームコンバイナPBCで、もうひとつの親マッハツェンダ干渉計MMZ1からの変調信号光と偏波合成される。偏波合成された光は、DP-QPSK光信号として、光ファイバ22-2から出力される。一方、光ファイバ22-3から光集積回路素子20に受信信号光が入射し、偏波ビームスプリッタPBSで互いに直交する2つの偏波に分離される。一方の偏波は90°ハイブリッド素子3aに入射し、他方の偏波は、偏波ローテータPR2で偏光軸が90°回転されて、90°ハイブリッド素子3bに入射する。
【0029】
一方、光ファイバ22-1から入射して分岐された光LLDの別の部分は、ローカル光として、90°ハイブリッド素子3aと3bに入射する。90°ハイブリッド素子3a及び3bは、ローカル光を参照光として受信信号光の位相状態を光強度に変換する。光強度は受光素子アレイ2a及び2bでそれぞれ検出される。
【0030】
光集積回路素子20上で有機電気光学材料の光導波路が用いられていても、パッケージ21の内部に酸素ゲッター50Aが設けられているので、有機材料に吸収されていた酸素や水分がパッケージ21内に存在しても、酸素ゲッター50Aに吸着される。パッケージ21の内部は酸素や水分が非常に少ない状態に維持され、光酸化現象を抑制することができる。
【0031】
図6は、第1実施形態の変形例である光集積回路モジュール10Bの模式図である。光集積回路モジュール10Bは、パッケージ21の内部に、光集積回路素子20と、酸素ゲッター50Bを有する。酸素ゲッター50Bは、酸素吸着層29と抵抗体31とを含む。気密封止装置で300~450℃の加熱ができない場合などに、抵抗体31の周囲に酸素吸着層29を形成してもよい。この場合、リッド28による気密封止前に、抵抗体31に電流を流すことで、酸素吸着層29のデガスと活性化を行うことができる。その後、リッド28でパッケージ21が気密封止される。気密封止後に抵抗体31はパッケージ21の内部に残るが、酸素ゲッターとしての酸素吸着層29の機能に影響はない。
【0032】
気体中の酸素体積濃度を測定する酸素計を用いて、光集積回路モジュール10Aのパッケージ21内のガスを分析したところ、酸素量は0.02Volume%であった。
【0033】
図7は、光集積回路モジュール10Aの電気特性を示す。第1実施形態の効果を確認するため、光集積回路モジュール10Aに18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DC電圧3.5V、AC電圧±2.0Vの条件で高温通電を行う。2000時間経過後のVπの経時変化率は、図2の従来の気密構造と比較して、1/2に低減されている。これは、パッケージ21の内部に酸素ゲッター50Aを設けたことで、パッケージ21内の酸素が除去され、有機材料である電気光学ポリマ18の光酸化現象を抑制できた効果であると推測される。
【0034】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の光集積回路モジュール10CのYZ面に沿った断面模式図である。光集積回路モジュール10Cは、パッケージ21の内部に、光集積回路素子20と、酸素ゲッター50Cを有する。光集積回路素子20は、第1実施形態と同様に、電気光学ポリマ18を用いたスロット導波路191の光変調器19を有する。酸素ゲッター50Cは、複数の酸素吸着層29と、これら複数の酸素吸着層29を、間隔をおいて保持するスペーサ32とを有する。酸素ゲッター50Cは、活性ガスである酸素を化学的に吸着する酸素吸着層29の表面積を増やして、パッケージ21内の酸素をより効率的に低減する。
【0035】
スペーサ32の材料は特に限定されず、金属、セラミック、ガラスなどを用いることができる。スペーサ32と酸素吸着層29とは、耐熱性接着剤で固定されていてもよい。スペーサ32として耐熱性接着シートを用いてもよい。後者の場合は、スペーサとしての機能と接着剤としての機能を同時に与えることができる。
【0036】
酸素吸着層29を複数層用いることで、酸素ゲッター50Cの酸素低減効果を高めることができる。上述した第1実施形態では、酸素ゲッター50A(または50B)を設けることで、パッケージ21内に残存する酸素量を低減して、Vπ変化量を従来の気密封止構造の半分に低減した。しかし、パッケージ21の内部には、0.02Volume%程度の酸素が残留する場合がある。
【0037】
光変調器を含む光集積回路素子20の小型化が要求される中で、リッド28の大きさには制限があり、酸素吸着層29の表面積にも制限がある。第2実施形態では、スペーサ32を使って酸素吸着層29を複数層設けることで、酸素吸着面積を大きくする。図8の構成例で、酸素吸着層29として、両面に酸素吸着機能面が露出する金属膜、あるいは、酸素吸着機能のない薄い金属シートの両面に、酸素吸着材料を成膜またはコーティングした酸素吸着シートを用いることができる。図8の例では、4枚の酸素吸着層29を、間に空間を設けてスペーサ32で保持する。第1実施形態と比較して、酸素吸着層29のトータルの表面積は、約8倍である。
【0038】
スペーサ32の厚さとしては、2枚の酸素吸着シートの間に酸素ガス分子が自由に入り込めればよいので、数ミクロン以上離れていれば十分である。実施形態では、スペーサ32として、厚さ50μmの耐熱性接着シートを用いている。酸素ゲッター50Cの構成を除くパッケージ21の気密構造については、第1実施形態と同じである。酸素系で、光集積回路モジュール10Cのパッケージ21内のガスを分析したところ、酸素量は用いた酸素計の検出限界未満(0.01Volume%未満)であった。
【0039】
図9は、第2実施形態の光集積回路モジュールの電気特性を示す。光集積回路モジュール10Cに18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DC電圧3.5V、AC電圧±2.0Vの条件で高温通電を行う。2000時間経過後のVπの経時変化は、図2の従来の気密構造と比較して、1/2に低減されている。第2実施形態で、酸素ゲッター50Cの酸素吸着面積を第1実施形態の8倍に増やしたことで、パッケージ21内の酸素がほとんどすべて除去されている。光集積回路素子20で電気光学ポリマ18を用いても、光酸化現象が十分に抑制されることがわかる。
【0040】
図10は、第2実施形態の変形例の酸素ゲッター50Dの模式図である。光集積回路モジュール10Dは、酸素ゲッター50Dの構成を除いて、第1実施形態の光集積回路モジュール10Aと同様の構成をもつ。
【0041】
酸素ゲッター50Dは、NiCrFeなどの薄い金属シート33の両面に酸素吸着材料291が蒸着された酸素吸着シート29Dを、複数枚有する。酸素吸着シート29Dの端部で金属シート33が露出し、金属シート33に突起34が設けられている。突起34の存在により、複数枚の酸素吸着シート29Dの間に隙間が生じ、酸素ガス分子が自由に入り込む。突起34が設けられた酸素吸着シート29Dの端部領域は、スペーサ32として機能する。複数の酸素吸着シート29Dは、シート面と垂直な方向に突起34の高さで決まる間隔をおいて設けられる。
【0042】
スペーサ32を、たとえば耐熱性接着剤でリッド28の内面281に固定することで、複数の酸素吸着シート29Dを含む酸素ゲッター50Dが、パッケージ21の内部に設けられる。図10の構成でも酸素吸着面積を大幅に拡張することができるので、光集積回路素子20に電気光学ポリマ18を用いる場合でも、光酸素現象を抑制できる。
【0043】
図11は、第2実施形態の別の変形例の酸素ゲッター50Eの模式図である。光集積回路モジュール10Eは、酸素ゲッター50Eの構成を除いて、第1実施形態の光集積回路モジュール10Aと同様の構成をもつ。
【0044】
酸素ゲッター50Eは、NiCrFeなどの薄い金属シート33の両面に酸素吸着材料291が蒸着された酸素吸着シート29Eを複数枚有する。酸素吸着シート29Eの端部で金属シート33が露出し、露出した金属シート33が、ホルダ35により保持されている。ホルダ35には、リッド28の内面281に垂直な方向(-Z方向)に所定の間隔で溝351が形成されている。溝351の間隔は、複数の酸素吸着シート29Eが保持されるピッチに対応する。
【0045】
たとえば耐熱性接着剤でホルダ35をリッド28の内面281に固定することで、複数の酸素吸着シート29Eを含む酸素ゲッター50Eが、パッケージ21の内部に設けられる。図11の構成でも酸素吸着面積を大幅に拡張することができるので、光集積回路素子20に電気光学ポリマ18を用いる場合でも、光酸素現象を抑制できる。
【0046】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態の光集積回路モジュール10FのYZ面に沿った断面模式図である。光集積回路モジュール10Fは、パッケージ21の内部に、光集積回路素子20と、酸素ゲッター50と、水分ゲッター60とを有する。光集積回路素子20は、第1実施形態と同様に、電気光学ポリマ18を用いたスロット導波路191の光変調器19を有する。酸素ゲッター50は、この例では、図8の酸素ゲッター50Cと同様に、スペーサ32aによって複数の酸素吸着層29が保持されているが、変形例の酸素ゲッター50Dまたは50Eを用いてもよい。また、リッド28に十分な面積が確保できる場合は、第1実施形態の酸素ゲッター50Aまたは50Bを用いてもよい。
【0047】
酸素ゲッター50に加えて、水分ゲッター60を設けることで、パッケージ21内に残存する水分を低減することができる。水分ゲッター60は、水分を化学的に吸着する水分吸着層36を複数有する。水分吸着層36は、塗布膜であってもよいし、シート状の層であってもよい。
【0048】
水分吸着層36は、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化マグネシウム、多孔質アルミナなどの塗布材料を用いて形成されてもよい。たとえば、これらの塗布材料を、NrCrFeなどの薄い金属シートの両面に塗布し、150℃以上で乾燥した水分吸着シートを作製してもよい。複数の水分吸着層36は、スペーサ32bにより、所定の間隔で保持される。パッケージ21内に組み込む前に、水分吸着層36に対してデガスを行ってもよい。この場合、酸素ゲッター50の酸素吸着層29のデガス処理と、水分吸着層36のデガス処理を同時に行ってもよい。
【0049】
第1実施形態で、光集積回路モジュール10Aの電気特性が従来の気密封止構造と比較して大幅に改善されているものの、電気光学ポリマ18の光酸化現象の抑制効果をさらに強化する余地がある。これは、電気光学ポリマ18や接着剤27に吸収された水分や、パッケージ21の内壁、その他の部品の表面に吸着されている水分が存在するためと考えられる。実施形態1の構成で、純度100%に近いArガスを充填してパッケージ21を気密封止しても、気密封止されたパッケージ21内に、0.05~0.50Volume%程度の水分が残存することが、ガス分析でわかっている。
【0050】
水分(HO)には酸素原子(O)が含まれるため、18dBmの強い光を透過させながら高温通電を行うと、水分が分解または光励起され、活性酸素(オゾンまたは一重項酸素)が生成される。この活性酸素が電気光学ポリマ18の光酸化現象を起こしていると考えられる。
【0051】
そこで、第3実施形態では、酸素ゲッター50に加えて、水分ゲッター60をパッケージ21内に設けることで、水分による悪影響を低減する。光集積回路モジュール10Fの気密封止後に、パッケージ21内のガスを分析したところ、計測器の検出限界未満(0.01Volume%未満)であった。
【0052】
図13は、光集積回路モジュール10Fの電気特性を示す。第3実施形態のパッケージ構成の効果を確認するために、光集積回路モジュール10Fに18dBmの強い光を透過させながら、85℃、DCバイアス3.5V、AC駆動電圧±2.0Vで高温通電したときのVπ電圧を測定する。
【0053】
図13に示すように、Vπの経時変化は、2000時間経過後でも測定誤差以下に抑えられていることがわかる。これは、パッケージ21内の水分が水分ゲッター60によりほぼすべて除去され、有機物である電気光学ポリマ18の光酸化現象が十分に抑制されたためと考えられる。
【0054】
第3実施形態の光集積回路モジュール10Fによれば、有機電気光学材料を用いた光集積回路素子20をパッケージ21内に入れて密封した校正で、パッケージ21内部の酸素及び水分を効率的に除去して、有機電気光学材料の光酸化原料を抑制することができる。
【0055】
<光送受信機への適用>
図14は、実施形態の光集積回路モジュール10を用いた光送受信機100の模式図である。光送受信機100は、光集積回路モジュール10と、この光集積回路モジュール10に電気的に接続される電気回路素子40と、電気回路素子40に電気的に接続されるデジタル信号プロセッサ(DSP)12を有する。光集積回路モジュール10は、パッケージ21内に、有機電気光学材料を用いた光導波路が形成された光集積回路素子20を有する。たとえば、光集積回路素子20の光変調器19は、電気光学ポリマを用いたスロット導波路で形成されている。
【0056】
電気回路素子40は、ドライバ41とトランスインピーダンスアンプ(TIA)42を有する。ドライバ41、TIA41、DSP110のそれぞれが個別のLSIとして形成されていてもよい。DSP110は、DP-QPSK等の多値変調方式の送信信号の変調処理と復調処理を行う。DSP110からの変調電気信号は、ドライバ41に入力され、ドライバ41で、変調電気信号が増幅される。この増幅変調電気信号で、光変調器19を通過する光が変調される。
【0057】
受信側では、受光素子アレイ2により、光受信信号が電気信号に変換され、TIA42で増幅されたあとに、DSP110で復調処理を受ける。受光素子アレイ2は、たとえばGeドープ型の受光素子のアレイであり、光集積回路素子20の上に光変調器19とともに集積されている。
【0058】
パッケージ21内には酸素ゲッター50が設けられており、パッケージ21内に残留する酸素を除去することで、光集積回路素子20で使用されている有機電気光学材料の光酸化現象を抑制する。これにより、光集積回路モジュール10の動作の長期信頼性が維持され、結果として光送受信機100の信頼性が向上する。
【0059】
特定の構成例に基づいて実施形態を説明してきたが、本開示は上述した構成例に限定されない。実施形態1~3の構成の一部または全部は、矛盾が生じない限り、相互に組み合わせ可能である。たとえば、第1実施形態と第2実施形態の酸素ゲッターのいずれも、水分ゲッターと組み合わせることができる。第1実施形態で、リッド28の内面281に酸素吸着層29を成膜する替わりに、両面が酸素吸着材料で覆われた酸素吸着シートを一枚用いて、この酸素吸着シートをリッド28の内面から所定間隔話して保持してもよい。この場合は、図3の構成と比較して、酸素吸着層として2倍の表面積が確保される。
【0060】
酸素吸着層29と水分吸着層36の両方を用いる場合、共用ホルダを用い、共用ホルダの一方の面で酸素吸着層29の端部を保持し、他方の面で水分吸着層36の端部を保持してもよい。酸素吸着層29と水分吸着層36を、リッド28と垂直な方向に所定間隔離して設けてもよい。いずれの場合も、パッケージ21内部の酸素と水分が効果的に除去され、長時間の高温通電後も、Vπをほぼ一定に維持することができる。図5では、有機電気光学材料を用いたスロット導波路191の電極17に電圧を印加する配線を省略しているが、電極17よりも不純物濃度の高いシリコン層で電圧印加用の配線を設けてもよい。
【0061】
以上の記載について、下記の付記を提示する。
(付記1)
有機電気光学材料を用いた光導波路を有する光集積回路素子と、
前記光集積回路素子を内部に収容して気密封止されたパッケージと、
前記パッケージの内部に設けられて酸素を吸着する酸素ゲッターと、
を有する光集積回路モジュール。
(付記2)
前記パッケージはリッドにより気密封止されており、
前記酸素ゲッターは、前記リッドに固定されている、
付記1に記載の光集積回路モジュール。
(付記3)
前記酸素ゲッターは、前記リッドの内面に形成された酸素吸着層を含む、
付記2に記載の光集積回路モジュール。
(付記4)
前記酸素ゲッターは、前記酸素吸着層に設けられた抵抗体を有する、
付記3に記載の光集積回路モジュール。
(付記5)
前記酸素ゲッターは、両面が酸素吸着材料で覆われた酸素吸着シートを複数枚含み、複数の前記酸素吸着シートは、シート面と垂直な方向に間隔をおいて設けられている、
付記1または2に記載の光集積回路モジュール。
(付記6)
前記酸素吸着シートは、所定の位置に突起を有し、複数の前記酸素吸着シートは前記突起の高さで決まる間隔で互いに離れている、
付記5に記載の光集積回路モジュール。
(付記7)
複数の前記酸素吸着シートの間に設けられるスペーサ、
を有する付記5に記載の光集積回路モジュール。
(付記8)
複数の前記酸素吸着シートをシート面と垂直な方向に間隔をあけて保持するホルダ、
を有す付記5に記載の光集積回路モジュール。
(付記9)
前記パッケージの内部に設けられて水分を吸着する水分ゲッター、
をさらに有する付記1から8のいずれかに記載の光集積回路モジュール。
(付記10)
前記パッケージの内部は第18族元素の不活性ガスで満たされている、
付記1から9のいずれかに記載の光集積回路モジュール。
(付記11)
前記光集積回路素子は、2本の電極の間に前記有機電気光学材料が充填されたスロット導波路で形成された光変調器を有する、
付記1から10のいずれかに記載の光集積回路モジュール。
(付記12)
前記酸素ゲッターは、Zr、Ti、ZrAl合金、ZrNi合金、ZrFe合金、ZrVFe合金、ZrVE合金(EはFe、Ni、Mg、Alまたはその混合物)、ZrM1M2合金(M1、M2はCr、Mn、Fe、Co、Niから選択される)、ZrCoA合金(AはY、La等の希土類金属またはその混合物)、及び、ZrFeMgMm(Mmは希土類金属とCe、La、Ndとの混合物)の中から選択される酸素吸着材料を含む、
付記1から11のいずれかに記載の光集積回路モジュール。
(付記13)
前記水分ゲッターは、シリカゲル、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化マグネシウム、及び多孔質アルミナから選択される水分吸着材料を含む、
付記9に記載の光集積回路モジュール。
(付記14)
付記1から13のいずれかに記載の光集積回路モジュールと、
前記光集積回路モジュールと電気的に接続される電気回路素子と、
前記電気回路素子と電気的に接続されるデジタル信号プロセッサと、
を有する光送受信機。
【符号の説明】
【0062】
10、10A~10F 光集積回路モジュール
15 基板
17 電極
18 電気光学ポリマ
19 光変調器
20 光集積回路素子
21 パッケージ
22、22-1、22-2、22-3 光ファイバ
24 パイプ
27 接着剤
28 リッド
29 酸素吸着層
32、32a、32b スペーサ
33 金属シート
34 突起
35 ホルダ
36 水分吸着層
40 電気回路素子
50、50A~50E 酸素ゲッター
60 水分ゲッター
100 光送受信機
110 DSP
123 シリコン導波路
191 スロット導波路
L 光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14