(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143174
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】施工治具及びスペーサの設置方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20230928BHJP
E04C 5/18 20060101ALI20230928BHJP
E04B 5/40 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
E04G21/12 105D
E04C5/18 104
E04B5/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050410
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】奈良本 光太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 鐘悟
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋介
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164BA42
(57)【要約】
【課題】デッキプレートへスペーサを設置する作業負担を軽減する。
【解決手段】本発明に係る施工治具1は、傾斜部230を介して互いに連続する複数の山頂部210と谷底部220が連なって波形状をなすデッキプレート200において長手方向Lに配される鉄筋400を谷底部220において支持する金属製のスペーサ300を回転させてデッキプレート200に設置する施工治具1であって、スペーサ300と係合する少なくとも一端が開口した筒状の筒状部材10を備え、係合部材10は、内周面14として円周面と、スペーサ300と係合するように内周面14に形成されていて、スペーサ300を収容する開口側の一端から反対側の他端に向かって周方向に延びる少なくとも2つの係合凸部21,22と、を有し、係合凸部21,22がスペーサ300と係合した状態において係合部材10を軸線xに沿って移動させることにより、スペーサ300を係合凸部21,22に沿って回転させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なって波形状をなすデッキプレートにおいて長手方向に配される鉄筋を前記谷底部において支持するスペーサを回転させて前記デッキプレートに設置する施工治具であって、
前記スペーサと係合する少なくとも一端が開口した筒状の係合部材を備え、
前記係合部材は、
内周面として円周面と、
前記スペーサと係合するように前記内周面に形成されていて、前記スペーサを収容する開口側の一端から反対側の他端に向かって周方向に延びる少なくとも2つの係合部と、
を有し、
前記係合部が前記スペーサと係合した状態において前記係合部材を軸線に沿って移動させることにより、前記スペーサを前記係合部に沿って回転させる
ことを特徴とする施工治具。
【請求項2】
前記係合部は、径方向において対向する位置で互いに平行に延びていることを特徴とする請求項1に記載の施工治具。
【請求項3】
前記少なくとも2つの係合部は、少なくとも前記一端の側における一端部及び前記他端の側における他端部を除いた部分が前記係合部材の軸線に互いに重ならないことを特徴とする請求項1又は2に記載の施工治具。
【請求項4】
前記係合部は、前記一端の側における一端部と前記他端の側における他端部との間で、少なくとも90°の角度範囲に亘って延びていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載の施工治具。
【請求項5】
前記係合部材は、他端が閉鎖されており、前記係合部材の閉鎖された側に連結されていて、前記スペーサと係合した状態にある前記係合部材を前記軸線の方向に移動させる操作部材を備えることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の施工治具。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の施工治具を用いて前記スペーサを回転させて前記デッキプレートに設置する設置方法であって、
前記スペーサを前記谷底部に仮置きする仮置工程と、
前記谷底部に設置されたスペーサに前記施工治具を係合させる係合工程と、
前記スペーサと係合した状態の前記施工治具を前記デッキプレートに向かって押し込んで前記スペーサを回転させる回転工程と、
前記スペーサを前記デッキプレートに係止させる係止工程と、
を含む
ことを特徴とするスペーサの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工治具及びスペーサの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成スラブ構造に使用される、山頂部、谷底部及びこれらを繋ぐ傾斜部を有し、長手方向に交差した断面が波形状であるデッキプレート上において鉄筋を支持する配筋用のスペーサが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のスペーサは、2つの支持脚部と2つの載置部とを有する2組のゲート状の構成を組み合わせて構成されており、各ゲートそれぞれにおいてワイヤメッシュ等の荷重を支持するとともに、全体としては荷重を4つの支持脚部に分散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3は、スペーサ300の一例を示す図である。支持部310と、一対の脚部320と、一対の係合部330と、を備える、鋼板により形成されたスペーサ300が知られている。このようなスペーサ300は、例えば、所定のデッキプレートを用いた合成スラブ構造を構築する現場において、デッキプレートに設置される。
【0005】
スペーサ300は、デッキプレートと係合部330において係合するようになっており、作業員が現場において複数あるスペーサ300のそれぞれをデッキプレートに係止する必要があった。スペーサ300をデッキプレートに係止させる(設置する)作業は、作業員にとって大きな負担となっており、作業効率を改善したいという需要がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、デッキプレートへスペーサを設置する作業負担を軽減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る施工治具は、傾斜部を介して互いに連続する複数の山頂部と谷底部が連なって波形状をなすデッキプレートにおいて長手方向に配される鉄筋を前記谷底部において支持するスペーサを回転させて前記デッキプレートに設置する施工治具であって、前記スペーサと係合する少なくとも一端が開口した筒状の係合部材を備え、前記係合部材は、内周面として円周面と、前記スペーサと係合するように前記内周面に形成されていて、前記スペーサを収容する開口部の側の一端から反対側の他端に向かって周方向に延びる少なくとも2つの係合部と、を有し、前記係合部が前記スペーサと係合した状態において前記係合部材を軸線に沿って移動させることにより、前記スペーサを前記係合部に沿って回転させることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る施工治具において、前記係合部は、径方向において対向する位置で互いに平行に延びていると好ましい。
【0009】
本発明の一態様に係る施工治具において、前記少なくとも2つの係合部は、少なくとも前記一端の側における一端部及び前記他端の側における他端部を除いた部分が前記係合部材の軸線に互いに重ならないことが好ましい。
【0010】
本発明の一態様に係る施工治具において、前記係合部は、前記一端の側における一端部と前記他端の側における他端部との間で、少なくとも90°の角度範囲に亘って延びていると好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る施工治具において、前記係合部材は、他端が閉鎖されており、前記係合部材の閉鎖された側に連結されていて、前記スペーサと係合した状態にある前記係合部材を前記軸線の方向に移動させる操作部材を備えていると好ましい。
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るスペーサの設置方法は、上記施工治具を用いて前記スペーサを回転させて前記デッキプレートに設置する設置方法であって、前記スペーサを前記谷底部に仮置きする仮置工程と、前記谷底部に設置されたスペーサに前記施工治具を係合させる係合工程と、前記スペーサと係合した状態の前記施工治具を前記デッキプレートに向かって押し込んで前記スペーサを回転させる回転工程と、前記スペーサを前記デッキプレートに係止させる係止工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、デッキプレートへスペーサを設置する作業負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】スペーサ付きデッキプレートを用いた合成スラブを示す図である。
【
図1B】コンクリート部を部分的に除いて合成スラブを示す斜視図である。
【
図2】デッキプレートの構成を説明するための正面図である。
【
図3】スペーサの構成を説明するための斜視図である。
【
図4】本実施の形態に係る施工治具を示す斜視図である。
【
図7A】デッキプレートにスペーサを仮置きした状態を示す図である。
【
図7B】本実施の形態に係る施工治具とスペーサとの係合状態を示す平面図である。
【
図8A】施工治具によりスペーサを回転させる工程を示す図である。
【
図9A】施工治具によりスペーサをデッキプレートに係止させる工程を示す図である。
【
図9B】スペーサがデッキプレートに係止された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0016】
<合成スラブ>
図1Aは、スペーサ付きデッキプレート200を用いた合成スラブ100を示す図である。
図1Bは、コンクリート部600を部分的に除いて合成スラブ100を示す斜視図である。本実施の形態に係る合成スラブ100は、例えば、鉄骨構造物の床又は屋根に用いられるものである。合成スラブ100は、デッキプレート200と、スペーサ300と、補強材としての鉄筋400と、溶接金網500と、コンクリート部600と、を備える。デッキプレート200は、構造物において互いに対向して配置された、例えば、H型鋼からなる梁と梁との間に架け渡される。
【0017】
[デッキプレート]
図2は、デッキプレート200の構成を説明するための正面図である。デッキプレート200は、亜鉛メッキ等の表面処理が施された薄板状の鋼板をロールフォーミング等することによって形成した波型鋼板である。デッキプレート200は、山頂部210と、谷底部220と、傾斜部230と、を有する。なお、デッキプレート200には、亜鉛メッキ等の表面処理が施されていなくてもよい。
【0018】
以下において、デッキプレート200が梁と梁とに架け渡される方向を、デッキプレート200の長手方向(長さ方向)Lとし、長手方向Lに交差してデッキプレート200が敷き詰められる方向を短手方向(幅方向)Wとする。デッキプレート200は、それぞれ長手方向Lに延びる山頂部210及び谷底部220が傾斜部230を介して互いに短手方向Wに連続する波形状をなしている。
【0019】
デッキプレート200のプレート単体では、2つの山頂部210と、1つの谷底部220と、2組の一対の傾斜部230とからなり、短手方向Wに沿った断面において波型に形成されている。デッキプレート200は、長手方向Lの両端部においてエンドクローズ加工が施されていてもよい。
【0020】
山頂部210は、梁と梁との間に架け渡された状態において、梁に対して上側に位置する平坦に形成された部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。山頂部210は、溝211を有する。溝211は、谷底部220の側に向けて凹むように形成されている。溝211は、長手方向Lに延在し、溝211が1つの場合には短手方向Wにおいて中央近傍に設けられている。山頂部210における溝211により、山頂部210の強度が向上する。溝211は、山頂部210に1つ形成されている場合に限らず、複数形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
【0021】
谷底部220は、山頂部210に対して平行又は略平行であり、梁と梁との間に架け渡された状態において、山頂部210に対して梁に載置される平坦に形成された部分である。谷底部220は、長手方向Lに延在する板状の部分である。谷底部220は、短手方向Wにおいて山頂部210とは重ならない。なお、谷底部220には長手方向Lに沿って延び、山頂部210に向かって突出した凸条部が形成されていてもよい。
【0022】
傾斜部230は、山頂部210と谷底部220とを連結する部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。傾斜部230は、短手方向Wにおいて山頂部210の両端部の側から斜めに谷底部220に向かって斜めに延びている。傾斜部230は、山頂部210及び谷底部220に対して所定の角度、例えば、鈍角を形成するように傾斜している。なお、傾斜部230には長手方向Lに沿って延び、谷底部220を挟んで対向する傾斜部230に向かって突出した凸条部又は長手方向Lに所定の間隔をあけて設けられた複数の凸部が形成されていてもよい。
【0023】
谷底部220と傾斜部230との間の移行部240には膨出部241が形成されている。膨出部241は、一対の傾斜部230において互いに反対の側に突出した部分である。すなわち、谷底部220を挟んで対向する傾斜部230において、膨出部241は、互いに近づく方向に膨出している。
【0024】
膨出部241と谷底部220との間には、スペーサ300が係合する係合溝(蟻溝)242が形成されている。短手方向Wに沿った係合溝242の短手方向Wに沿った断面は湾曲するように形成されている。すなわち、デッキプレート200の一方の面における対向する一対の傾斜部230において、係合溝242は対向するように形成されており、互いに離れる方向に湾曲している。係合溝242には、後述するスペーサ300の係合部330が進入する。谷底部220を挟んで対向する係合部330にスペーサ300が入り込むことにより、スペーサ300は、デッキプレート200に係止される。
【0025】
[スペーサ]
スペーサ300は、対向する係合溝242に後述する一対の係合部330がそれぞれ入り込んで係合して、デッキプレート200に対する位置が固定され、膨出部241によって係合溝242からの離脱が規制される。スペーサ300は、この固定された状態において、鉄筋400を下方から支持し、デッキプレート200に配置される鉄筋400との間隔を保つことができる。
【0026】
図3は、スペーサ300の構成を説明するための斜視図である。スペーサ300は、デッキプレート200の一方の面(上面)の谷底部220において長手方向Lに所定の間隔をあけて複数設けられる。スペーサ300は、谷底部220に設置された状態において、デッキプレート200の長手方向Lに沿って配される鉄筋400を、山頂部210を越えて谷底部220から所定の高さだけ離間した位置で支持する。スペーサ300は、長手方向Lに沿って鉄筋400を谷底部220の側から支持する。
【0027】
スペーサ300は、例えば、鋼板により形成されている。スペーサ300は、主として、支持部310と、一対の脚部320と、一対の係合部330と、を備える。スペーサ300は、支持部310と、一対の脚部320と、一対の係合部330とが連続して、一体に形成された部材である。なお、支持部310において鉄筋400を支持する方向は、デッキプレート200の長手方向Lに一致する。
【0028】
支持部310は、鉄筋400を支持する部分であり、例えば、平面視において矩形又は略矩形に形成されている。支持部310は、スペーサ300をデッキプレート200に設置した状態において、最も上方に位置している。支持部310は、例えば、1つの凹部311を有する。凹部311は、スペーサ300をデッキプレート200に設置した状態において、デッキプレート200の谷底部220に向かって円弧状に凹に形成されており、デッキプレート200の長手方向Lに沿って延びている。凹部311は、その延在方向(長手方向L)に沿って鉄筋400を受容する。
【0029】
一対の脚部320は、支持部310の互いに対向する一対の縁部から支持部310の主面に対して所定の角度をなして互いに同じ側に延びる。一対の脚部320は、支持部310に対して鈍角をなして、それぞれの延在方向の一端部が支持部310に連なるように設けられ、互いに離れるようにして支持部310から延びている。つまり、一対の脚部320間の幅320Dは、スペーサ300の高さ300Hの方向に沿って連続的に変化しており、具体的には、支持部310の側から係合部330の側に向かうに連れて拡大している。
【0030】
一対の脚部320は、一枚の鋼板により連続して形成されているので、互いに接近及び離間するように弾性変形自在である。それぞれの脚部320において、支持部310とは反対の側の他端部(延在方向の他端部)には、係合部330が設けられている。
【0031】
一対の係合部330は、それぞれ、各脚部320の他端部から互いに離れる方向に延出している。一対の係合部330は、スペーサ300をデッキプレート200に設置した状態において、短手方向Wに沿って支持部310に対して平行又は略平行に延びている。一対の係合部330は、それぞれの一端部が脚部320に連なるように設けられている。
【0032】
一対の係合部330がデッキプレート200のそれぞれ対向する係合溝242に係合されることにより、デッキプレート200からのスペーサ300の離脱が規制される。これにより、スペーサ300は、デッキプレート200に設置された状態となる。一対の係合部330は、スペーサ300をデッキプレート200に設置した状態において、谷底部220に接触している。
【0033】
一対の係合部330は、自由端部(他端部)の側に2つの角部331,332を有する。一方の角部331は、脚部320から延びる縁と、脚部320に対向する縁とが直角又は略直角に交差した部分である。他方の角部332は、一方の角部331に対して反対の側に設けられており、脚部320から延びる縁と、脚部320に対向する縁とが丸味を帯びて円弧状に連続した部分である。
【0034】
各係合部330において、各角部331,332は、対角上に向かい合う位置に形成されている。これは、スペーサ300を回転させて、係合部330を係合溝242に係止させる際に、係合部330における回転方向において先行する側を角部332とすることで、係合溝242への引っ掛かりを防止し、滑らかに回転させて係合部330を係合溝242に係止させるためである。
【0035】
[鉄筋、溶接金網]
鉄筋400は、デッキプレート200の長手方向Lに沿って設けられた複数のスペーサ300に支持されて、デッキプレート200の長手方向Lに延びるように配置されている。具体的には、鉄筋400は、デッキプレート200の係合溝242に係合されたスペーサ300の支持部310の凹部311に載置されており、鉄筋400が支持部310から転げ落ちないように配置されている。
【0036】
鉄筋400は、例えば、鋼を圧延して表面にリブや節と呼ばれる凹凸の突起を設けた異形鉄筋である。ただし、これに限らず、合成スラブ100の補強材として機能するものであれば、例えば、丸鋼や角鋼等のその他種々の形状および種類の鉄筋、他の材料からなる棒材を用いてもよい。溶接金網500は、例えば、鋼製の線材により格子状に形成されていて、スペーサ300及び鉄筋400の上に載せられている。
【0037】
[コンクリート部]
コンクリート部600は、コンクリートをデッキプレート200の一方の面(上面)に打設して固化することにより形成されている。コンクリート部600は、スペーサ300、鉄筋400及び溶接金網500を覆うように打設され、コンクリート部600の固化後は、コンクリート部600内に埋設された状態にある。
【0038】
<施工治具>
スペーサ300をデッキプレート200に設置するために、作業員は、デッキプレート200に仮置きされたスペーサ300を時計回り又は反時計回りに、例えば、90°回転させて、スペーサ300の係合部330をデッキプレート200の係合溝242に入り込ませる。この作業は、屈んだ姿勢において行われ、デッキプレート200に仮置きされた複数のスペーサ300を設置する作業員の作業負担が大きい。
【0039】
また、スペーサ300の係合部330がデッキプレート200の係合溝242に進入しやすくするために、一対の脚部320を接近させて回転させる必要がある。しかしながら、スペーサ300は、鋼板により形成されているため、作業員が手作業によりスペーサ300の一対の脚部320を接近させることには大きな労力が必要になる。
【0040】
そこで、本実施の形態に係る施工治具1が用いられる。施工治具1は、スペーサ300に係合して、スペーサ300を回転させて、係合部330をデッキプレート200の係合溝242に挿入して、スペーサ300をデッキプレート200に係止させるための治具である。
【0041】
本実施の形態に係る施工治具1は、傾斜部230を介して互いに連続する複数の山頂部210と谷底部220が連なって波形状をなすデッキプレート200において長手方向Lに配される鉄筋400を谷底部220において支持するスペーサ300を回転させてデッキプレート200に設置する施工治具1であって、スペーサ300と係合する少なくとも一端が開口した筒状の筒状部材(係合部材)10を備え、筒状部材10は、内周面14として円周面と、スペーサ300と係合するように内周面14に形成されていて、スペーサ300を収容する開口部12の側の一端から反対側の他端に向かって周方向に延びる少なくとも2つの係合凸部(係合部)21,22と、を有し、係合凸部21,22がスペーサ300と係合した状態において筒状部材10を軸線xに沿って移動させることにより、スペーサ300を係合凸部21,22に沿って回転させることを特徴とする。以下に本実施の形態に係る施工治具1について具体的に説明する。
【0042】
図4は、本実施の形態に係る施工治具1を示す斜視図である。施工治具1は、筒状部材(係合部材)10と、操作部材30と、を有する。筒状部材10及び操作部材30はともに、例えば金属製の部材であり、例えば、溶接により互いに一体に形成されている。筒状部材10は、中心を通る軸線xに交差した断面が円形状又は略矩円形状に形成されている。筒状部材10は、筒部11と、閉鎖部13と、を有する。筒部11は、円筒状に形成されて軸線xの回りに延在する。筒部11は、一端の側に開口部12を有するとともに、他端の側で閉鎖部13によって閉鎖されている。
【0043】
筒状部材10の閉鎖部13には2つのマークM1,M2が設けられている。マークM1,M2は、筒状部材10の軸線xを挟んで径方向に対向する位置にある。筒状部材10の開口部12の側においてマークM1,M2のある位置に対応する位置には、後述する係合凸部21,22の始端部21a,22aがある。なお、マークM1,M2は、設けられていなくてもよい。
【0044】
図5Aは、筒状部材10を開口側から見た平面図である。
図5Bは、筒状部材10の軸線xに沿った断面図である。筒状部材10の内周面14は円周面として形成されている。筒状部材10は、2つの係合凸部21,22を有する。係合凸部21,22は、内周面14から筒状部材10の中心を通る軸線xに向かって内側に突出している。本実施の形態において、係合凸部21,22は、筒状部材10の一端の側から他端の側に向かって内周面に沿って軸線xの回りに螺旋状に延びている。係合凸部21,22の一端の側の始端部(一端部)21a,22aは、筒状部材10の開口部12の側の端に位置し、他端の側の終端部(他端部)21b,22bは、筒状部材10の閉鎖部13の側に位置する。
【0045】
係合凸部21の始端部21aと、係合凸部22の始端部22aとは、径方向において対向する位置にあり、係合凸部21の終端部21bと、係合凸部22の終端部22bとは、径方向において対向する位置にある。本実施の形態において、係合凸部21,22の始端部21a,22aと終端部21b,22bとの間の角度範囲Radは、180°であるが、角度範囲Radは、少なくとも90°以上あればよい。
【0046】
係合凸部21,22は、所定の厚さを有し、内周面14に沿って延びていて、径方向に面する係合面21c,22cを有する。係合凸部21,22は、例えば、係合面21c,22cにおいてスペーサ300の対角線上にある所定の個所でスペーサ300に係合する。係合凸部21,22の幅は、始端部21a,22aから終端部21b,22bに亘って同じである。係合凸部21,22における筒状部材10の内径は、高さ300Hの方向においてスペーサ300の脚部320のいずれかの位置の対角幅300CW(
図3参照)よりも小さく設定されている。
【0047】
図6は、筒状部材10の内周面14の展開図である。筒部11の軸線xに沿った高さ10Hは、施工治具1が係合凸部21,22の始端部21a,22a及び終端部21b,22bの間でスペーサ300と接触している間に、スペーサ300を少なくとも90°回転させることを期待できるだけの寸法を有していればよい。例えば、筒状部材10の係合凸部21,22の始端部21a,22aとスペーサ300とが係合し、筒状部材10をスペーサ300に向かって軸線xに沿って押し込んでスペーサ300を回転させた場合、筒部11が開口部12の側の端でスペーサ300の係合部330に接触するまでの間に、スペーサ300を回転させてスペーサ300とデッキプレート200とを係合させるだけの高さ10Hを筒状部材10が有していることが好ましい。
【0048】
係合凸部21,22は、係合部材10の開口部12の側の開口縁12a及び閉鎖部13側の閉鎖縁13aに対して所定の角度θをなして延びている。角度θは、0°<θ<90°であり、好ましくは35°<θ<80°、さらに好ましくは50°<θ<60°である。なお、角度θは、筒状部材10の高さ10H、係合凸部21,22が延在する角度範囲Rad及び係合凸部21,22の内径並びに回転対象となるスペーサ300の高さ300H及び筒状部材10と最初に係合する位置におけるスペーサ300の対角幅300CW等に基づいて適宜、規定又は制限される。
【0049】
操作部材30は、棒状の延在部31と、把持部32と、を有する。延在部31は、例えば、金属製の棒状部材により形成されている。延在部31の一端は、筒状部材10の閉鎖部13の中心に、例えば、溶接により連結されている。延在部31の延在長さは、適宜設定されていればよく、例えば、施工治具1を使用する作業員が起立した状態において、スペーサ300の設置作業を行えるようになっている。
【0050】
把持部32は、例えば、金属製の棒状部材により形成されている。把持部32の延在方向は、延在部31の延在方向と直交している。延在部31と把持部32とは、互いに連結されてT字状に形成されている。長さ方向において把持部32の略中心において、延在部31の他端が、例えば、溶接により連結されている。把持部32は、作業員がスペーサ300を回転させる際に掴む部分である。
【0051】
<スペーサの設置方法>
次に、本実施の形態に係る施工治具1を使用して、スペーサ300を谷底部220に仮置きする仮置工程と、谷底部220に設置されたスペーサ300に施工治具1を係合させる係合工程と、スペーサ300と係合した状態の施工治具1をデッキプレート200に向かって押し込んでスペーサ300を回転させる回転工程と、スペーサ300をデッキプレート200に係止させる係止工程と、を含むことを特徴とする。以下、デッキプレート200へのスペーサ300の設置方法について具体的に説明する。
【0052】
図7Aは、デッキプレート200にスペーサ300を仮置きした状態を示す図である。
図7Bは、本実施の形態に係る施工治具1とスペーサ300との係合状態を示す平面図である。スペーサ300は、デッキプレート200の谷底部220に、一対の脚部320がそれぞれ長手方向Lに向くように、例えば、支持部310の対向する縁がそれぞれ、互いにデッキプレート200の係合溝242に平行又は略平行になるように仮置きされる。複数のスペーサ300がデッキプレート200の谷底部220に長手方向Lに沿って所定の間隔をあけて並べられる(仮設置工程)。
【0053】
この状態において、施工治具1を開口部12の側からスペーサ300に接近させる。この場合、筒状部材10のマークM1,M2それぞれがスペーサ300の対角線上に位置するように、筒状部材10をスペーサ300に接近させる。これにより、係合凸部21,22が始端部21a,22aにおいて又は始端部21a,22a付近でスペーサ300の、支持部310と脚部320に対角線上において係合(接触)する(係合工程)。例えば、係合凸部21,22が高さ10Hの方向において位置P1(
図6及び
図7B参照)でスペーサ300の脚部320に係合する。
【0054】
図8Aは、施工治具1によりスペーサ300を回転させる工程を示す図である。
図8Bは、スペーサ300が回転する状態を示す図である。次いで、作業員は、把持部32を握って筒状部材10をデッキプレート200に向かって軸線xに沿って押し込む。この場合、係合凸部21,22に接触するスペーサ300の高さ300Hの方向における位置は、同じ又は略同じであるが、スペーサ300と接触する係合凸部21,22の高さ10Hの方向における位置は、位置P1から位置P2に変化する(
図6及び
図8B参照)。これに伴いスペーサ300は、係合凸部21,22により対角線上の位置で同じ方向に押圧されるので、係合凸部21,22延び方向に沿って回転する(回転工程)。
【0055】
また、スペーサ300の脚部320は、高さ300Hの方向において上側から下側に向かって拡張されているので、係合凸部21,22との接触により互いにスペーサ300の高さ300Hの方向において係合部330の側で接近するようになるとともに、弾性的に元の状態に戻ろうとする。そのため、脚部320と、係合凸部21,22との係合状態は強固になる。なお、スペーサ300を回転させる方向は、他方の角部332が回転方向において先行する方向とすることが好ましい。
【0056】
図9Aは、施工治具1によりスペーサ300をデッキプレート200に係止させる工程を示す図である。
図9Bは、スペーサ300がデッキプレート200に係止された状態を示す図である。スペーサ300に対して筒状部材10をさらに押し込むことにより、筒状部材10の係合凸部21,22は、スペーサ300の一対の脚部320との接触(係合)を維持しつつ、スペーサ300と接触する位置を高さ10Hの方向において位置P2から位置P3へと変化させる(
図6B及び
図9B参照)。筒状部材10の押し込みは、デッキプレート200の係合溝242内にスペーサ300の係合部330が滑り込むまで実施する。
【0057】
最後に、施工治具1を引き上げて筒状部材10をスペーサ300から引き抜く。スペーサ300の係合部330がデッキプレート200の係合溝242内に入り込んでいるので、筒状部材10は、スペーサ300から外れる。
【0058】
以上のような、施工治具1によれば、作業員による直接的な手作業ではなく、施工治具1の筒状部材10をスペーサ300に対して押し込むだけでスペーサ300を回転させて、スペーサ300の係合部330をデッキプレート200の係合溝242内に入れ込むことができるので、作業効率が上がり、作業負担も大幅に減じられる。
【0059】
さらに、係合凸部21,22は、対向する位置に互いに平行に設けられているので、スペーサ300を対角線上において作用することができるので、スペーサ300を安定的にかつ確実に回転させることができる。
【0060】
さらに、係合凸部21,22は、高さ10Hの方向において互いに始端部21a,22aと終端部21b,22bとの間では重なっていないので、例えば、一の脚部320に2つの係合凸部21,22が異なる高さ位置で接触することがなく、スペーサ300からの筒状部材10の引き抜きが容易になる。
【0061】
さらに、係合凸部21,22は、筒状部材10の内周面14において少なくとも90°の角度範囲Rad、本実施の形態においては180°の角度範囲Radに亘って延びているので、スペーサ300を90°だけ回転させるための領域を十分に確保することができる。
【0062】
さらに、施工治具1は、筒状部材10から高さ方向に延びる延在部31を有する操作部材30を備えているので、作業員が屈まずに起立した状態において施工治具1を扱うことができる。また、操作部材30の把持部32により作業員の操作性は向上する。
【0063】
さらに、マークM1,M2に基づいてスペーサ300に接近させることができるので、係合凸部21,22をそれぞれの始端部21a,22aにおいて又は始端部21a,22aに近い位置で最初にスペーサ300に係合させることができ、係合凸部21,22がスペーサ300と係合する距離を高さ方向において長く稼ぐことができる。
【0064】
さらに、本実施の形態に係る施工治具1によれば、仮にスペーサ300の係合部330がデッキプレート200の係合溝242に進入する前に、筒部11の開口部12の側の端面がスペーサ300の係合部330と接触した場合、操作部材30を回転させて筒状部材10を回転させることにより、スペーサ300と係合している係合凸部21,22によりスペーサ300をさらに回転させることができる。
【0065】
<変形例>
以下に変形例1,2に係る施工治具1A,1Bについて説明する。
図10は、変形例1に係る施工治具1Aの斜視図である。なお、以下では、施工治具1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略することがある。変形例1に係る施工治具1Aは、筒状部材10と、操作部材30と、踏み板40と、を有する。踏み板40は、例えば、鋼板により形成されており、閉鎖部13に取り付けられている。踏み板40は、平面視矩形に形成されており、一部が筒部11から径方向に突出した状態において閉鎖部13に取り付けられている。施工治具1Aによれば、施工治具1が奏する効果を奏することができる。さらに、施工治具1Aによりスペーサ300を回転させる際に踏み板40を踏むことにより、スペーサ300に対する施工治具1Aの押し込みが容易になる。
【0066】
図11は、変形例2に係る施工治具1Bの斜視図である。なお、以下では、施工治具1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略することがある。変形例2に係る施工治具1Bは、筒状部材10Bと、踏み板40と、を有する。筒状部材10Bは、軸線xの方向において両端側で開放しており、開口部12とは反対の側の開口は、踏み板40によって閉鎖されている。施工治具1Bによれば、施工治具1,1Aが奏する効果を奏することができる。
【0067】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態及び変形例1~3に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記の実施の形態等において、筒状部材10の高さ10Hの一端は、係合凸部21,22の終端部21b,22bに一致していたが、筒部11は、係合凸部21,22の終端部21b,22bから開口部12とは反対の側に軸線xに沿って延びる延長部(図示せず)を有していてもよい。延長部によれば、係合凸部21,22の終端部21b,22bが、例えば、スペーサ300の支持部310を超えて係合部330の側においても、係合凸部21,22とスペーサ300との係合を可能にする。
【0068】
また、上記実施の形態等において筒状部材10の内周面14には、2つの係合凸部21,22が180°の角度範囲Radに亘って設けられていたが、例えば、3つの係合凸部21,22が等間隔に120°の角度範囲Rad、又は4つの係合凸部21,22が等間隔に90°の角度範囲Radに亘って設けられていてもよい。これにより、スペーサ300に対する施工治具1,1A,1Bの係合個所が拡大する。
【0069】
また、上記実施の形態等において、筒状部材10は、係合凸部21,22によりスペーサ300と係合していたが、係合凸部21,22の代わりに、例えば、内周面14において凹に形成されて、周方向に螺旋状に延びる凹条部が形成されていてもよい。凹条部は、例えば、スペーサ300と支持部310における各角部300C(
図3参照)において係合する。
【符号の説明】
【0070】
1,1A,1B…施工治具
10…筒状部材(係合部材)
21,22…係合凸部
30…操作部材
40…踏み板
100…合成スラブ
200…デッキプレート、210…山頂部、211…溝、220…谷底部、230…傾斜部、240…移行部、241…膨出部、242…係合溝(蟻溝)
300…スペーサ