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  • 特開-複合糸およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143196
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】複合糸およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/28 20060101AFI20230928BHJP
   D02G 3/12 20060101ALI20230928BHJP
   D02G 3/32 20060101ALI20230928BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230928BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20230928BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20230928BHJP
   D03D 15/25 20210101ALI20230928BHJP
   D03D 15/56 20210101ALI20230928BHJP
   D03D 15/49 20210101ALI20230928BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20230928BHJP
   A41D 31/24 20190101ALN20230928BHJP
【FI】
D02G3/28
D02G3/12
D02G3/32
D02G3/04
D04B1/14
D04B21/00 B
D03D15/47
D03D15/25
D03D15/56
D03D15/49
A41D31/00 503P
A41D31/00 503K
A41D31/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050446
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597122792
【氏名又は名称】原田商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】古庭 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和義
(72)【発明者】
【氏名】犬山 久夫
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA00
4L002AA05
4L002AA06
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC01
4L002AC07
4L002BA00
4L002EA00
4L002EA05
4L002EA06
4L002FA04
4L036MA04
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA37
4L036MA39
4L036PA05
4L036PA19
4L036PA33
4L036PA47
4L036RA24
4L048AA04
4L048AA25
4L048AA26
4L048AA34
4L048AA51
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB18
4L048AB21
4L048AC09
4L048AC12
4L048CA01
4L048CA04
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】捲縮加工糸巻取り後のカバリング工程が不要で生産性が高く、設備・コスト面等で実用的で毛羽塵が少ない複合糸、および、同一機上で、原糸の仮撚り加工と芯糸への巻き付けを可能にする複合糸の製造方法を提供する。
【解決手段】有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなるマルチフィラメント糸から構成される仮撚り加工糸1本と、該仮撚り加工糸と逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維が、同一機上で混繊されてなる複合糸、および、前記有機繊維のみからなるマルチフィラメント糸にヒートセット工程を含む仮撚り加工を施し、異なる方向の撚りを有する2本の仮撚り加工糸を得る仮撚り工程と、該仮撚り加工糸1本、それと逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維とを混繊する混繊工程とを含み、仮撚り工程および混繊工程が同一機上で連続して行われる複合糸の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなるマルチフィラメント糸から構成される仮撚り加工糸1本と、上記仮撚り加工糸と逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維が、同一機上で混繊されてなる複合糸。
【請求項2】
弾性糸もしくは金属繊維に対する有機繊維の被覆率が、70%以上95%以下である、請求項1に記載の複合糸。
【請求項3】
複合糸がノントルクヤーンである、請求項1または2に記載の複合糸。
【請求項4】
有機繊維の繊度が56~1,670dtexで、弾性糸もしくは金属繊維の繊度が22~200dtexである、請求項1~3いずれかに記載の複合糸。
【請求項5】
弾性糸がポリウレタン弾性糸である、請求項1~4いずれかに記載の複合糸。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の複合糸を含む繊維構造物。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維構造物からなる防護衣料。
【請求項8】
有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなる複数本のマルチフィラメント糸に、ヒートセット工程を含む仮撚り加工を施し、異なる方向の撚りを有する2本の仮撚り加工糸を得る仮撚り工程と、
前記仮撚り加工糸1本、それと逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維とを混繊する混繊工程と、を含み、
前記仮撚り工程および混繊工程が、同一機上で連続して行われることを特徴とする複合糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合糸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業着や作業用手袋は、炎や熱、刃物、釘等様々なリスクから作業者の身体を防護する役割を担っている。アラミド繊維等高機能有機繊維を用いた手袋等の防護材は、当該有機繊維が刃物で切断されにくいので、木綿等を使用した従来の防護材に比べて耐切創性が画期的に高い。そのため、自動車産業、家電製品産業等においてバリの出た板金加工品を扱う作業、割れ易いガラス製品を扱う作業、金属片やガラス片が混入している可能性のある一般塵芥を扱うゴミ収集作業等、切創事故を起こし易い作業において作業者の手や体を保護するために広く使用されてきた。
【0003】
しかし、このような高機能有機繊維を用いて製造した作業用手袋は、耐切創性に優れているが、着心地感、毛羽塵等の問題があるため、高機能有機繊維のマルチフィラメント糸条に捲縮加工を施したものが使用されている。
【0004】
高機能有機繊維を捲縮加工する方法として、特許文献1には、高機能有機繊維のマルチフィラメント糸に加撚-脱水処理-解撚の連続仮撚り加工を施したS加撚方向とZ加撚方向の各仮撚り捲縮加工糸を、同一機上で引き揃え交絡処理した後、巻き上げる方法が、また、特許文献2には、仮撚り加工機において、互いに加撚方向が反対に加撚された2本以上の糸条を巻き取り前工程で合糸し、その後空気噴射流により糸条相互をからみ合わせることでノントルク嵩高加工糸を製造する方法が開示されている。
【0005】
一般的に、嵩高加工された高機能有機繊維(鞘糸)と芯糸(弾性糸、金属繊維等)を同一機上で引き揃えて複合化した場合、芯糸の被覆性が悪い。そのため、嵩高加工された高機能有機繊維は一旦巻き上げられた後、カバリング機において、弾性糸あるいは金属繊維の周囲に巻回され芯鞘糸に加工される。その後、芯鞘糸は、繊維構造物に編織される。
高機能有機繊維のマルチフィラメント糸の毛羽塵は、精密機械分野等への適用を考慮すると少なければ少ないほど望ましいわけであり、特許文献3には、編機糸道部のガイドやテンションワッシャーを変更することで毛羽塵を軽減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-306838号公報
【特許文献2】特開昭48-50054号公報
【特許文献3】特許第6016399号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~2に開示される方法では、発塵の問題は十分解消できていない。
特許文献1に開示される方法は、高機能有機繊維糸条が捲縮を有しないマルチフィラメント糸や紡績糸等の糸形状で適用されてきた結果、着心地感が悪く、ユニホーム等の作業用製品として着用した場合に活動しにくく、とくに精密部品を取り扱う航空機産業、情報機器産業等で使用される作業用手袋において、フィラメント糸使いでは着用感が悪く作業性が低下する、紡績糸使いでは毛羽塵が発生する、等の問題に対応したものである。
具体的には、マルチフィラメント糸条を用いて高機能有機繊維の捲縮加工糸を合理的に製造する方法として、S加撚方向とZ加撚方向の各仮撚捲縮加工糸を同一機上で引き揃え交絡処理を施した後、巻き上げることにより、双糸状の高機能捲縮加工糸の残留トルク撚り数がほぼゼロになることが開示されているだけである。
また、単糸状で巻き取った高機能捲縮加工糸と他の合成繊維のフィラメント糸や紡績糸とを、撚糸や混繊等複合加工を施してもかまわないことが記載されているが、両者を巻き取る前に同一機上で引き揃えることは記載されていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、捲縮加工糸巻取り後のカバリング工程が不要で、生産性が高く、設備・コスト面等で実用的であり、毛羽塵が少ない複合糸を提供することを課題とする。
また本発明は、同一機上で、原糸の仮撚り加工と、芯糸への巻き付けを可能にする複合糸の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、鋭意検討した結果、同一機(同一の装置)で、仮撚り加工された仮撚り加工糸および逆方向の撚りを有する他の仮撚り加工糸と、芯糸を、流体交絡ノズルに供給することにより、本発明が解決しようとする課題を一挙に解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなるマルチフィラメント糸から構成される仮撚り加工糸1本と、上記仮撚り加工糸と逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維が、同一機上で混繊されてなることを特徴とする複合糸を提供する。
【0011】
また本発明は、有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなる複数本のマルチフィラメント糸に、ヒートセット工程を含む仮撚り加工を施し、異なる方向の撚りを有する2本の仮撚り加工糸を得る仮撚り工程と、
前記仮撚り加工糸1本、それと逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維とを混繊する混繊工程と、を含み、
前記仮撚り工程および混繊工程が、同一機上で連続して行われることを特徴とする複合糸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、仮撚り機上で撚り方向が異なる2本の仮撚り糸を得、それを同一機(同一の装置)で、弾性糸や金属繊維と複合化することにより、複合糸の製造工程を簡略化することができる(すなわち、芯糸に対するカバリング工程を省略できる)だけでなく、有機繊維の繊維ダメージを抑制できる。特に、アラミド繊維等を含む複合糸の製造に有効な方法である。
複合糸は、製造工程が簡略化されているため、複合糸を加工した繊維製品(作業用手袋等)において、従来の芯鞘糸に比して発塵が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の複合糸の製造方法の代表例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の複合糸の製造方法および複合糸について詳細を説明する。
【0015】
(芯糸)
本発明の複合糸における芯糸としては、公知の有機系または無機系のフィラメント糸を用いることができ、例えば、有機系では弾性糸、無機系では金属繊維、鉱物繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【0016】
芯糸として、伸縮性のある弾性糸を用いることにより、複合糸に伸縮復元性を付与できる。弾性糸は、公知の有機系の弾性糸を用いることができ、高い伸縮性を持つ点よりポリウレタン弾性糸が好ましい。ポリウレタン弾性糸は、その断面形状は特に限定されるものではなく、円形であっても扁平であってもよく、また、その繊維はモノフィラメントであっても溶着されたマルチフィラメントであっても良い。
【0017】
弾性糸は、繊維構造物に対する伸縮性付与の観点より、破断伸度が200%以上であることが好ましく、より好ましくは300%以上である。200%未満であると、編成した手袋に十分な伸縮性を付与できなくなる恐れがある。
弾性糸は、伸縮復元率が10%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上である。伸縮復元率は、JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.12に従って測定した数値である。
【0018】
芯糸として、無機系フィラメントを用いることにより、複合糸に耐切創性を付与できる。無機系フィラメントの中でも、加工性および耐切創性に優れている点より金属繊維が好ましい。金属繊維は、特に金属製薄板や部品、ガラス板、ナイフ、刃物等の鋭利な縁での耐切創性に優れており、細線での使用が可能である。
金属繊維を構成する金属としては、例えば、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS316)、タングステン、銅、アルミニウム等が挙げられる。これらの金属繊維のなかでも、耐錆性、引張特性、製編性が良好である観点より、ステンレス鋼またはタングステン繊維フィラメントが好ましい。
【0019】
無機系フィラメントは、フィラメントの単糸またはマルチフィラメント糸条を1本、あるいは複数本を引き揃えたもの、合撚したもの等を用いることができる。また、後述する糸切れ、耐切創性、製編性を阻害しない範囲で、無機系フィラメントに樹脂やゴム等を被覆または溶着したものを用いることができる。無機系フィラメントは、複合糸の製造時において被覆率の低下を防止する観点より、1本の無機フィラメントまたはそれに樹脂やゴムを被覆・溶着したもので構成してもよい。
【0020】
有機系および無機系のフィラメントの繊度は、22~200dtexの範囲が好ましく、より好ましくは44~156dtexの範囲である。22dtex以上あれば、複合糸製造時および繊維構造物の製造工程において糸切れの原因となりにくく、また、200dtex以下であれば、手袋等防護衣料を着用した時のフィット感が良い。
なお、金属繊維の場合は、直径が15μm~100μmであることが好ましい。15μm以上であれば耐切創性が十分となり、100μm以下であれば糸の製編性(編立て性)や布帛の風合いが著しく劣ることがない。金属繊維の直径は、より好ましくは20μm~70μm、さらに好ましくは30μm~60μmである。
【0021】
(有機繊維)
本発明で用いるマルチフィラメント糸は、有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみから構成される。無機繊維(金属繊維、炭素繊維等)を含む糸では、着用感の良い繊維構造物を得ることが困難だからである。
【0022】
複合糸を構成する有機繊維としては、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強さが、好ましくは17.5cN/dtex以上、より好ましくは20cN/dtex以上である、高強力有機繊維が好ましい。
また、有機繊維は、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が、400cN/dtex以上であることが好ましく、440cN/dtex以上がより好ましい。弾性率が高い高強力有機繊維を用いることにより、複合糸に対して、引張強さと高度の耐屈曲性および耐摩耗性を付与することができ、また、編み立て時の糸切れが無く、織編物に動的引裂き性能および耐切創性を付与できるため、芯糸に沿わせたり巻き付けたりする糸(随伴糸)が不要になる。
【0023】
上記の高強力有機繊維としては、パラ系アラミド繊維もしくはメタ系アラミド繊維等からなる繊維糸条であって、優れた耐熱性や耐久性を兼ね備えた糸物性を有しているものが採用できる。例えば、アラミド繊維(例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名ノーメックス)、コポリパラフェニレン-3,4'-ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)等が挙げられる。
【0024】
アラミド繊維の他には、全芳香族ポリエステル繊維(例えば、株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば、東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」)、高強度ポリエチレン繊維(例えば、東洋紡株式会社製、商品名「イザナス」)、ポリケトン繊維(例えば、旭化成せんい株式会社製、商品名「サイバロン」)、ポリアミドイミド繊維(例えば、ローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」)、液晶ポリエステル繊維、ポリエーテルケトン(PEK)繊維、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)繊維、およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維等が挙げられる。
【0025】
高強力有機繊維のなかでも、耐熱性、難燃性であるとともに、高強度および耐切創性に優れている点から、アラミド繊維が好ましく、パラ系アラミド繊維がさらに好ましい。アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、市販品を用いても良い。それらの中でも、高強度、高弾性率で、耐切創性および耐熱性に優れている点から、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0026】
有機繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、高強力有機繊維と、ポリエステル繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、ポリビニルアルコール系繊維等他の公知の繊維と混繊、交撚等した複合糸として使用しても良い。
【0027】
(複合糸の製造方法)
次に本発明の複合糸の製造方法を工程順に説明する。
図1に本発明の複合糸の製造方法の代表例を示す。チーズから巻き出された仮撚り前の高機能繊維のマルチフィラメント糸(1,2)は、フィードローラー(3)を通過した後、仮撚りヒーター(4)で乾熱処理される。乾熱処理された高機能繊維のマルチフィラメント糸(1,2)は、スピンドル装置(5)において、それぞれ、S撚りまたはZ撚りの撚りをかけられる。
すなわち、マルチフィラメント糸(1)がS撚り(Z撚り)であれば、マルチフィラメント糸(2)はZ撚り(S撚り)に加工される。このように反対の撚りを加えることでトルクが逆向きとなり、かつ、トルクが同程度であると、複合糸はノントルクヤーンになる。ノントルクヤーンであると、編地にした場合、編地が斜行することがない。
【0028】
仮撚りスピンドル装置(5)による仮撚り数は、糸を適度に捲縮させるとともに撚りをかけすぎることによる繊維の切断を防ぐため、下記式(I)で表わされる撚り係数(K)の値が約10,000~40,000程度、好ましくは約12,000~38,000程度であるの好ましい。仮撚りスピンドルとしては、1本ピン、2本ピンまたは4本ピンのスピナーを用いることができる。
【0029】
=t×D1/2 (I)
〔但し、tは仮撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
【0030】
仮撚りヒーターにおける熱セット温度条件は、捲縮糸が所望の嵩高性と伸縮性を有するようにするためには高温処理が好適であり、有機繊維の融点もしくは分解開始温度付近とすることが好ましい。好ましい温度条件は繊維によって異なるが、パラ系アラミド繊維の場合は、糸が通過するヒーター内部の雰囲気温度を約300~650℃にし、より好ましくは350~600℃にする。
【0031】
乾熱処理におけるヒーターは、接触ヒーターでも、非接触ヒーターでもよく、公知の手段によって行われて良い。加熱時間は、有機繊維の種類、糸条の太さまたは加熱温度等により異なるが、通常、0.005~2秒程度が望ましい。より好ましくは約0.01~1.5秒程度である。乾熱処理は、加圧下、減圧下、常圧下のいずれで行われても良いが、常圧下で行われることが好ましい。
【0032】
図1に示すように、スピンドル装置(5)を通過したマルチフィラメント糸(2)は、弾性糸または金属繊維と共に第1デリベリーローラー(7)に供給された後、マルチフィラメント糸(1)とともに交絡ノズル(8)に供給されて交絡処理される。その後、第2デリベリーローラー(9)を経て、巻取りチーズ(10)に巻き取られる。
交絡ノズル(8)は、公知のタスランノズルまたはインターレースノズル等の流体加工ノズルが用いられる。なかでもインターレースノズルを用いることが好ましい。
【0033】
図1において、第1デリベリーローラー(7)に供給される弾性糸は、ドラフト倍率が1.5~5.0倍、好ましくは2.0~4.0倍であることが好ましい。1.5倍未満であると、弾性糸が芯糸となり難くなることでマルチフィラメント糸が芯糸の外周に廻り難くなり、5.0倍を超えると、芯糸が糸切れしやすくなり生産性が悪くなる。
図1において、芯糸(6)として使用される弾性糸は、転がし給糸ローラーにより積極送りされ、第1デリベリーローラー(7)との間でプレドラフトされる。この場合のドラフトの倍率は、全体すなわち給糸ローラー(6)から第1デリベリーローラー(7)の間のドラフトを指す。
得られた複合糸Aは、第2デリベリーローラー(9)によりチーズ(10)に巻き取られる。
【0034】
上記の仮撚り加工法による製造方法において、パラ系アラミド繊維の捲縮糸を製造する場合は、仮撚り加工前のパラ系アラミド繊維として、水分率が好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは1~10%のものを使用することが望ましい。この場合、上記式(I)において、Dは水分を含む繊度(tex)を表す。撚りを加える前の水分率が20%を超えると、乾熱処理において熱が糸へ効率よく伝わらなくなり熱セット効果が得られないために良好な捲縮糸になり難い。一方、撚りを加える前の水分率が1%未満であると、糸道ガイド等の擦れにより糸がフィブリル化を起こす恐れがある。
【0035】
有機繊維のフィラメント数は、用途目的に応じて、あるいは繊維構造物の動的引裂き性能、切創力、伸縮性、柔軟性、風合い等を考慮して、適宜選択すれば良い。繊度としては56~1,670dtexの範囲が好ましい。繊度が56dtex以上であれば、弾性糸を芯糸に使用した際でも繊維構造物に動的引裂き性能、さらには切創力を付与することができる。また、繊度が1,670dtex以下であれば、汎用編機で手袋を編立てすることができ、繊維構造物(手袋)が硬化し着用感が悪化する恐れがない。より好ましくは220~1,100dtexである。
【0036】
有機繊維の単糸繊度は0.1~10.0dtexの範囲が好ましい。より好ましくは0.6~6.0dtex、さらに好ましくは1.0~3.0dtexの範囲である。単糸繊度を0.1dtex以上とすることで原糸の生産性(糸切れ削減)、仮撚り糸の品質面(毛羽発生を抑制)、繊維構造物の柔軟性および耐切創力を付与することができ、また、10.0dtex以下とすることで繊維構造物の柔軟性と耐切創力を付与しつつ、布帛の硬化がなく、着用感にすぐれた繊維構造物が得られやすくなる。
【0037】
(複合糸)
本発明の複合糸は、有機繊維(ただし、弾性糸を含まない)のみからなるマルチフィラメント糸から構成される仮撚り加工糸1本と、上記仮撚り加工糸と逆方向の撚りを有する仮撚り加工糸1本と、弾性糸もしくは金属繊維が、同一機上で混繊されてなる。
上記複合糸において、弾性糸または金属繊維(芯糸)と、有機繊維との比率は、質量比で5~70:30~95の範囲が好ましい。弾性糸の比率が少なすぎる場合は、繊維構造物の伸びが不十分となる傾向があり、一方、多すぎる場合は、繊維構造物の耐切創性が低下する傾向が見られる。また、金属繊維の比率が少なすぎる場合は、繊維構造物の耐切創性が不十分となる傾向があり、一方、多すぎる場合は、繊維構造物が硬くなる傾向が見られる。より好ましい比率は、質量比で10~50:50~90の範囲である。
【0038】
本発明の複合糸において、芯糸に対する有機繊維の被覆率(実施例で詳述する)は、70%以上95%以下であることが好ましい。被覆率は、70%以上であると複合糸の耐切創性を高水準で維持することができ、また、被覆率が95%以下であると、混繊工程におけるコスト高および複合糸の生産性の著しい低下を防止することができる。被覆率は、より好ましくは75%以上95%以下、さらに好ましくは80%以上95%以下である。
【0039】
上記の方法で得られた複合糸は、より良好な被覆性等を得る観点から、さらにその上に、高機能繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維やポリエステル繊維等の合成繊維、綿等の天然繊維等、他の公知の繊維をらせん状に巻き付け、芯糸の周りを二重(DCY:ダブル・カバード・ヤーン)もしくは三重に被覆しても良い。
【0040】
芯糸を除いた複合糸に占めるパラ系アラミド繊維の比率は、切創力が小さい弾性糸を芯糸に使用した場合でも、耐切創性を有する繊維構造物を得る観点より、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。パラ系アラミド繊維と併用する好ましい繊維としては、メタ系アラミド繊維の他には、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維などが挙げられる。
【0041】
本発明の複合糸は、仮撚りと混繊が同一機上で行われる。同一機上で仮撚りおよび混繊することにより、仮撚り後の巻き上げ工程における有機繊維の毛羽塵を減少させることが可能となり、また、毛羽塵発生に至らずとも毛羽塵発生原因になり得る、繊維のフィブリル化を抑制することができる。そのため、本発明の複合糸を織編した繊維構造物では発塵が大幅に抑制される。
【0042】
複合糸の総繊度は、繊維構造物の種類や用途、編機・織機の種類により異なるため、繊維構造物に対して、所定の耐切創性を付与することができ、製編性や製織性が著しく悪化することなく軽量の繊維構造物を得ることができる範囲で設定するのが良い。例えば手袋編成用の複合糸の場合、200~800dtexの範囲が好ましい。
本発明で用いる複合糸は、必要に応じて染料や顔料で着色されていても良い。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した糸を用いても良い。編物を染料や顔料で着色しても良い。
【0043】
[繊維構造物]
本発明の繊維構造物は、本発明の複合糸を、公知の方法により織物・編物等に編織することにより製造される。当該繊維構造物においては、上記の複合糸の他に、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の公知の繊維糸条を、本発明の効果を阻害しない範囲で、添え糸等の形態で含むことができる。
【0044】
本発明の繊維構造物は、目付が200~500g/mの範囲で低発塵性が発現する。目付が200g/m以上であれば作業用手袋として耐切創性を確保することができ、目付が500g/m以下であれば編み立て性が著しく劣ることがない。繊維構造物の目付は、300g/m以上がさらに好ましく、400g/m以上が特に好ましい。目付が200g/m未満の場合、繊維構造物がクギや突起物と接触した時に編み地が拡がり易く、切創力が低下する恐れがある。
【0045】
例えば、複合糸を編地に編成して編物(手袋)を作製する場合は、市販の編機を適宜採用することができる。プレーティング編みにおいては、本発明の複合糸を地糸として用い、地糸と添え糸のどちらか一方の糸を外面または内面に配置するように編む。地糸を外面/添え糸を内面に配置して編む場合は、そのままの状態を手袋とし、また、地糸を内面/添え糸を外面に配置して編む場合は、編み上がりの手袋を内/外面を逆にして、最終的に地糸を外面/添え糸を内面に配置した状態を手袋とする。こうすることで、手袋着用の際、複合糸と使用者の皮膚との接触を比較的抑えることができ、添え糸が皮膚と接触するので着用感、吸汗性が向上するとともに、外面の地糸(複合糸)が、作業における外部の鋭利物等によるダメージから内面の添え糸の損傷を防ぎ、手袋の耐久性を高めることができる。前記編み方については、編み立てのし易さ等により、いずれの方法でも編むことができる。
【0046】
添え糸としては、手袋のフィット感(締め付け具合、伸び具合)、作業性が良好な点より、伸縮性のあるウーリーナイロン糸、ポリウレタン弾性糸、該弾性糸とそれ以外の繊維とを流体ジェットにより交絡処理して形成された伸縮性交絡糸等が好ましく用いられる。添え糸の繊度としては、30~190dtexが好ましい。
【0047】
シームレス編機およびコンピューター手袋編機を用いて編成する場合は、編成時の設定ゲージ数を、10ゲージ~15ゲージに設定することが好ましい。ゲージ数は1インチ間の針本数を表す指標で、数が大きくなるほど薄手手袋が得られる。ゲージ数が10ゲージ未満では目付が大きくなるために軽量性を損ない、15ゲージを超えると所望の発塵個数(塵の粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋2枚あたり4万個/m以下)を達成できなくなる恐れがある。
【0048】
編成用の糸条をパッケージから巻き出した後に、編機の糸道に存在する主な装置としては、ヤーンガイドプレート、1つめのテンション調整機、追油用フェルト、糸切れ検知バネ、2つめのテンション調整機があり、さらに天バネを経て、ヤーンフィーダーへ導かれ、最終的にニードル針により編成される。この2つのテンション調整機は、糸に安定的な張力を付与するための糸道ガイドであり、ワッシャーテンサーやスプリングテンサー等がある。
【0049】
糸道ガイドの表面仕上げ方法としては、梨地仕上げの他、鏡面仕上げが一般的である。糸道ガイドの糸との接触面が梨地状であると、糸との摩擦が減少することにより、パッケージ近くの糸道ガイドでは、主に有機繊維のフィブリル化を抑制することができ、その後の糸道ガイドでは、有機繊維のフィブリルの断片化または繊維表面が削れる現象を抑制することができる。
【0050】
テンション調整機の糸との接触面の材質としては、例えば、梨地クロムメッキを施した金属;金属上にチタン、アルミナ、チタンカーバイド等のセラミックスや、テフロン(登録商標)、シリコーン等でコーティングを施したもの;チタン、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス等が挙げられる。
【0051】
糸に張力を付与するための糸道ガイドであるテンション調整機として、糸との接触面が梨地状のものを用いることが効果的である。該テンション調整機としては、梨地処理を施した構成部材、或いは、材質が梨地状の構成部材(例えば、テンションワッシャー表面が梨地処理品で、テンサーシャフトがアルミナセラミック製部品である)を組み合せたもの等が挙げられる。糸を安定供給するため糸に張力を付与した際に、糸が擦れて大量のフィブリルや削れ屑が発生するのを防止する効果がある。さらに、他の糸道ガイドにセラミックス製のものを用いることが好ましく、より優れた効果が発現する。
【0052】
本発明の繊維構造物(手袋)の表面(全部または一部分)には、ゴム、または、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂コーティング材を被着することができる。
得られた繊維構造物は、作業衣、作業用手袋、作業用腕カバー、作業用指サック等の防護用品の素材として、或いは、アウトドアスポーツ衣、一般スポーツ衣等のスポーツ衣の素材として、或いは、靴、バッグ、カバン等の物品の素材、その他の産業用資材等として、好適に用いることができる。
【実施例0053】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各物性値の測定方法は次の通りである。
【0054】
[繊度]
JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により測定した。
【0055】
[被覆率]
下記算出方法により求めた。
1)編地の1インチ当たりのウェール(縦方向の編目)、コース(横方向の編目)を数える。
2)ウェールとコースを掛けた値を算出する。(全交錯点)
3)縦1インチ、横1インチ当たりの面積において、芯糸が剥き出している個数を数える。
4)芯糸が剥き出している個数を、ウェールとコースを掛けた値(全交錯点)で除して被覆していない割合を求め、これを元に被覆率を求める。
【0056】
[手袋の切創抵抗(切れ難さCut resistance )]
JIS T 8052:2005「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、手袋1枚における手の平部の切創力(N)を測定した。切創力(N)を織編物の目付で除した値を100倍して、耐切創性を求めた。切創力の値が大きいほど切れ難いと判定した。測定機は、RGI社製のTDM-100を用いた。
【0057】
[発塵量の評価方法]
手袋4枚を、クリーン洗濯(註)を行わずに、クリーンルーム(清浄度:ISOクラス5)中に設置したタンブリング式発塵性試験機を用いて、JIS B 9923-1997(クリーンルーム用衣服の汚染粒子測定方法)タンブリング法により発塵し、パーティクルカウンターで各粒径以上の発塵個数を測定し、粒径0.1μm以上の塵の個数(粒子数)を求めた。
測定回数は5回、最大値及び最小値を除き、残りの測定値の平均値を手袋2枚あたりの発塵量に換算した。なお、ドラムの回転数は30回転/分、排出空気の流量は0.0102m/秒とした。
(註)クリーンルーム洗濯;手袋に付着している塵芥を落とすためにクリーンルームに設置した洗濯機で洗濯処理した後、純水ですすぎ処理を行い、次いで乾燥し、バッキングする選択方法。
【0058】
[手袋の装着感、フィット感]
5名の被験者による着用試験を実施した。EN 420:2003 Protective gloves -General requirements and test methodsの5.2によって被験者全員がデクステリティ(Dexterity)にレベル5の性能評価を与え、かつ、官能評価で5名中3名以上が「着用感良好」と評したものを合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。
【0059】
(実施例1)
総繊度221dtex、単繊維繊度1.65dtex、フィラメント本数134本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下「PPTA」と記す)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に総繊度44dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))3倍にドラフトしながら供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0060】
仮撚り加工速度 :80m/min
仮撚り加工温度(乾熱) :450℃
仮撚り数t :2000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
ポリウレタン系弾性糸のドラフト倍率:3倍
【0061】
得られた複合糸を1本、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは22.6g、掌部の目付は278g/mであった。
すなわち、ワッシャーテンサーのテンサーシャフトの糸道部をアルミナセラミック製ガイド(湯浅糸道株式会社製YM99C、密度3.8、硬度1,800、Rmax1.5μm)、上下2枚のテンションワッシャーを梨地クロムメッキ製とし、その他の糸道ガイドは、編機仕様から変更せずに、アルミナセラミック製、梨地クロムメッキ製やメッキ処理のないガイドを混在させて用いた。
【0062】
実施例1で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり23,537個/m以下(低発塵性)で切創力は5.5Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0063】
(実施例2)
総繊度221dtex、単繊維繊度1.65dtex、フィラメント本数
134本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に総繊度78dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))3倍にドラフトしながら供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0064】
仮撚り加工速度 :80m/min
仮撚り加工温度(乾熱) :450℃
仮撚り数t :2000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
ポリウレタン系弾性糸のドラフト倍率:3倍
【0065】
得られた複合糸を1本、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは25.8g、掌部の目付は301g/mであった。
【0066】
実施例2で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり22,137個/m以下(低発塵性)で切創力は7.3Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0067】
(実施例3)
総繊度221dtex、単繊維繊度1.65dtex、フィラメント本数134本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に金属繊維(SUS、線径50μm)を供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0068】
仮撚り加工速度 :80m/min
仮撚り加工温度(乾熱):450℃
仮撚り数t :2000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
【0069】
得られた複合糸を1本、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは30.6g、掌部の目付は320g/mであった。
【0070】
実施例3で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり25,231個/m以下(低発塵性)で切創力は19.5Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0071】
(実施例4)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に総繊度78dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))3倍にドラフトしながら供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0072】
仮撚り加工速度 :70m/min
仮撚り加工温度(乾熱) :500℃
仮撚り数t :1000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
ポリウレタン系弾性糸のドラフト倍率:3倍
【0073】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは35.2g、掌部の目付は350g/mであった。
【0074】
実施例4で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり31,113個/m以下(低発塵性)で切創力は12.1Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0075】
(実施例5)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数
267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(以下「PPTA」と
記す)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチ
フィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に総繊度156dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))3倍にドラフトしながら供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0076】
仮撚り加工速度 :70m/min
仮撚り加工温度(乾熱) :500℃
仮撚り数t :1000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
ポリウレタン系弾性糸のドラフト倍率:3倍
【0077】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは39.0g、掌部の目付は381g/mであった。
【0078】
実施例5で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり34,089個/m以下(低発塵性)で切創力は14.0Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0079】
(実施例6)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を2本用いて、以下仮撚り条件にてS撚りおよびZ撚りにて各仮撚り加工糸を得た後、同一機上において、更に金属繊維(SUS、線径50μm)を供給し、前記各仮撚り糸とともに交絡して複合糸を得た。
【0080】
仮撚り加工速度 :70m/min
仮撚り加工温度(乾熱):500℃
仮撚り数t :1000回/m
仮撚り加撚方向 :S撚り、Z撚り
【0081】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは40.3g、掌部の目付は450g/mであった。
【0082】
実施例6で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり38,221個/m以下(低発塵性)で切創力は22.0Nであった。結果として、着用評価も良好で、かつ低発塵性の手袋が得られた。
【0083】
(比較例1)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を用い、仮撚り機にて、Z撚りの仮撚りを行い、加工糸1本を得た。その後別工程で、総繊度78dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))を芯糸とし、得られた上記加工糸1本を鞘糸として用いて、以下の条件でカバリング加工を施した。
【0084】
ドラフト :3.0倍
撚り数 :200T/m
スピンドル回転数:5000rpm
巻取比 :93.0%
【0085】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは37.0g、掌部の目付は354g/mであった。
【0086】
比較例1で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり52,562個/m以下(低発塵性)で切創力は11.8Nであった。結果として、仮撚り加工、カバリング加工の2工程に分かれているため、加工中の糸道部と複合糸の擦過回数が増加し発塵性が悪化、またカバリング糸は収束性が良好である一方、嵩高性に劣り生地が薄くなるため耐切創性は低くなった。
【0087】
(比較例2)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を用い、仮撚り機にて、Z撚りの仮撚りを行い、加工糸1本を得た。その後別工程で、総繊度235dtexのポリウレタン系弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、商品名「ライクラ」(登録商標))を芯糸とし、得られた上記加工糸1本を鞘糸として用いて、以下の条件でカバリング加工を施した。
【0088】
ドラフト :3.0倍
撚り数 :200T/m
スピンドル回転数:5000rpm
巻取比 :93.0%
【0089】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは44.2g、掌部の目付は411g/mであった。
【0090】
比較例2で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり62,341個/m以下(低発塵性)で切創力は14.9Nであった。結果として、仮撚り加工、カバリング加工の2工程に分かれているため、加工中の糸道部と複合糸の擦過回数が増加し発塵性が悪化、またカバリング糸の芯糸に用いた弾性糸の繊度が太く、生地が詰まり耐切創性は上がるが、生地の硬化により着用感は悪化した。
【0091】
(比較例3)
総繊度444dtex、単繊維繊度1.66dtex、フィラメント本数267本のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(PPTA)(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」(登録商標))のマルチフィラメント糸を用い、仮撚り機にて、S撚りの仮撚りを行い、加工糸1本を得た。その後別工程で、金属繊維(SUS、線径50μm)を芯糸とし、得られた上記加工糸1本を鞘糸としてS方向に、らせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維を仮撚り糸と反対方向にらせん状に巻き付けたカバリング糸を得た。
【0092】
ドラフト :3.0倍
撚り数 :200T/m
スピンドル回転数:5000rpm
巻取比 :93.0%
【0093】
得られた複合糸を1本、10ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給する際に、糸道ガイドのうち、2箇所のワッシャーテンサーを表面が梨地状のものを用いた以外は、常法により、シームレス手袋を編みあげた。手袋2枚の重さは48.9g、掌部の目付は443g/mであった。
【0094】
比較例3で作製した手袋は、粒径0.1μm以上の発塵個数が、手袋の目付当たり81,762個/m以下(低発塵性)で切創力は23.0Nであった。結果として、仮撚り加工、カバリング加工の2工程に分かれているため、加工中の糸道部と複合糸の擦過回数が増加し発塵性が悪化した。
【0095】
手袋構成および評価結果を表1にまとめて示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1より、通常、仮撚り加工後にカバリング加工(芯糸:弾性糸や金属繊維、鞘糸:仮撚り糸)を行う2工程での加工となるが、仮撚りとカバリング加工を同一機上で実施することで、工程減少による生産性改善、加えて糸と糸道ガイド等での擦過がなくなることから、編織物の耐切創性低下を防ぎ、かつ、粒径0.1μm以上の発塵数が、手袋2枚当たり4万個/m以下である、従来のカバリング糸で作製した手袋に比べて低発塵性な編織物が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の複合糸を用いることにより、従来に比べて、低発塵性かつ耐切創性に優れる手袋(繊維構造物)を得ることができる。本発明の低発塵性および耐切創性の手袋は、クリーンルーム用衣服の基準を満たすためクリーンルーム内で行われる各種作業用の手袋として、また、医療、ハイテク産業等における作業用手袋として、特に有用である
その他、林業(枝伐採のため入山するため突起物との接触)、漁業(釣り針との接触)、食料品製造業(刃物との接触)、設備工事業、鉄鋼業、化学工業、窯業・土石製品製造業および輸送用機械器具製造業(作業時のバリ等の突起物との接触)、電気機械器具製造業(電線先端との接触)における防護服、作業服、作業用手袋等として、或いはスポーツ用手袋や二輪車用スーツ・手袋等として有用である。
【符号の説明】
【0099】
1:マルチフィラメント糸(仮撚り前原糸)
2:マルチフィラメント糸(仮撚り前原糸)
3:フィードローラー
4:仮撚りヒーター
5:スピンドル装置
6:弾性糸または金属繊維
7:第1デリベリーローラー
8:交絡ノズル
9:第2デリベリーローラー
10:巻取りチーズ
11:巻取りローラー
図1