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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143226
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】医療用管状体搬送装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230928BHJP
   A61F 2/962 20130101ALI20230928BHJP
   A61M 25/098 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61M25/00 532
A61F2/962
A61M25/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050493
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一博
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA05
4C267BB02
4C267BB40
4C267BB63
4C267CC09
4C267GG14
4C267GG34
4C267HH14
(57)【要約】
【課題】先端チップの内腔にガイドワイヤを挿通しやすく、しかも先端チップの内腔に通したガイドワイヤのブレが抑制され、操作性が良好な医療用管状体搬送装置を提供する。
【解決手段】医療用管状体を体内に搬送する医療用管状体搬送装置であって、前記医療用管状体が内腔に配置されている外側チューブと、前記外側チューブの内腔に配置されている内側チューブと、前記内側チューブの遠位端部に接着性材料を介して固定されている先端チップと、を有しており、前記先端チップは、長軸方向に延在する内腔を有し、該内腔は前記内側チューブの内腔に連通しており、前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内側面よりも内側に延出している医療用管状体搬送装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用管状体を体内に搬送する医療用管状体搬送装置であって、
前記医療用管状体が内腔に配置されている外側チューブと、
前記外側チューブの内腔に配置されている内側チューブと、
前記内側チューブの遠位端部に接着性材料を介して固定されている先端チップと、
を有しており、
前記先端チップは、長軸方向に延在する内腔を有し、該内腔は前記内側チューブの内腔に連通しており、
前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内側面よりも内側に延出している医療用管状体搬送装置。
【請求項2】
前記接着性材料の一部は、前記内側チューブの内側面よりも内側に延出している請求項1に記載の医療用管状体搬送装置。
【請求項3】
前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内周の一部に延出している請求項1または2に記載の医療用管状体搬送装置。
【請求項4】
前記接着性材料の一部は、前記内側チューブの内側面よりも内側に延出しており、且つ該内側チューブの内周の一部に延出している請求項1~3のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
【請求項5】
前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置より遠位側における長軸方向に垂直な断面での前記先端チップの内腔の空隙面積S1と、
前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置における長軸方向に垂直な断面での内腔の空隙面積S2と、
前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置より近位側における長軸方向に垂直な断面での前記内側チューブの内腔の空隙面積S3は、下記式で表される関係を満足する請求項1~4のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
S2<S1≦S3
【請求項6】
前記内側チューブの遠位端部の外側は、前記先端チップの近位端部で覆われている請求項1~5のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
【請求項7】
前記内側チューブの遠位端部にX線不透過マーカーが配されている請求項1~6のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用管状体搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体内に医療用管状体を搬送し、配置する最小侵襲治療技術が開発されている。医療用管状体としては、例えば、ステント、ステントグラフト、閉塞具、注入カテーテル、プロテーゼ弁等が用いられている。これらのうちステントは、一般に、体内管腔が狭窄または閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために用いられる医療用管状体である。
【0003】
医療用管状体は、搬送装置を用い、体内管腔を通して体内に搬送される。搬送装置は、外側チューブを備えており、この外側チューブの内腔に医療用管状体を保持させた状態で、体内管腔に挿入される。体内の所定位置に搬送された医療用管状体は、外側チューブの内腔から解放されることによって、体内の所定位置に配置(留置)される。
【0004】
搬送装置を用いて体内に医療用管状体を搬送するにあたっては、まず、体内管腔にガイドワイヤを通し、次に、ガイドワイヤに沿って医療用管状体搬送装置の先端部に配されている医療用管状体が病変部に到達するまで挿入する。しかし、このようにガイドワイヤを先行させていても、体内管腔内に事前に留置されているステントや、体内管腔の狭窄部や、体内管腔の急な屈曲部などにより、医療用管状体搬送装置が進行できず、ガイドワイヤに対する追従性が悪くなることがある。
【0005】
ガイドワイヤに対してカテーテル(搬送装置)の追従性を向上させたカテーテルが特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されているカテーテルは、その先端部の内径が狭められるようにテーパ状に縮径されている。これにより、先端部内周とガイドワイヤ外周とのクリアランスが小さくなり、ガイドワイヤがカテーテルの先端部において偏心せず、がたつくことが防止されている。その結果、ガイドワイヤに対するカテーテルの追従性が向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-149442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のように、カテーテルの先端部の内径を狭めることにより、ガイドワイヤに対するカテーテルの追従性が向上するが、カテーテルの先端部の内径を狭めると、ガイドワイヤを挿通させにくくなる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、先端チップの内腔にガイドワイヤを挿通しやすく、しかも先端チップの内腔に通したガイドワイヤのブレが抑制され、操作性が良好な医療用管状体搬送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の通りである。
[1] 医療用管状体を体内に搬送する医療用管状体搬送装置であって、前記医療用管状体が内腔に配置されている外側チューブと、前記外側チューブの内腔に配置されている内側チューブと、前記内側チューブの遠位端部に接着性材料を介して固定されている先端チップと、を有しており、前記先端チップは、長軸方向に延在する内腔を有し、該内腔は前記内側チューブの内腔に連通しており、前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内側面よりも内側に延出している医療用管状体搬送装置。
[2] 前記接着性材料の一部は、前記内側チューブの内側面よりも内側に延出している[1]に記載の医療用管状体搬送装置。
[3] 前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内周の一部に延出している[1]または[2]に記載の医療用管状体搬送装置。
[4] 前記接着性材料の一部は、前記内側チューブの内側面よりも内側に延出しており、且つ該内側チューブの内周の一部に延出している[1]~[3]のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
[5] 前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置より遠位側における長軸方向に垂直な断面での前記先端チップの内腔の空隙面積S1と、前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置における長軸方向に垂直な断面での内腔の空隙面積S2と、前記接着性材料の一部が前記先端チップの内側面よりも内側に延出している位置より近位側における長軸方向に垂直な断面での前記内側チューブの内腔の空隙面積S3は、下記式で表される関係を満足する[1]~[4]のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
S2<S1≦S3
[6] 前記内側チューブの遠位端部の外側は、前記先端チップの近位端部で覆われている[1]~[5]のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
[7] 前記内側チューブの遠位端部にX線不透過マーカーが配されている[1]~[5]のいずれかに記載の医療用管状体搬送装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る医療用管状体搬送装置は、内側チューブの遠位端部に先端チップが接着性材料を介して固定されており、該接着性材料の一部が、先端チップの内側面よりも内側に延出している。そのため、先端チップの先端の内径を狭めなくとも、延出した接着性材料により、先端チップの内腔に通したガイドワイヤが保持されるため、ガイドワイヤのブレが抑制され、医療用管状体搬送装置の操作性が向上する。また、ガイドワイヤの挿通性についても良好なままとなる。更に、接着性材料の一部を、先端チップの内周の一部に延出させることにより、ガイドワイヤのブレ抑制と摺動性確保の両面で性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明に係る医療用管状体搬送装置の一実施形態を示す断面図である。
図2図2は、内側チューブの内腔に芯材を挿入した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る医療用管状体搬送装置は、医療用管状体を体内に搬送する医療用管状体搬送装置であり、前記医療用管状体が内腔に配置されている外側チューブと、前記外側チューブの内腔に配置されている内側チューブと、前記内側チューブの遠位端部に接着性材料を介して固定されている先端チップと、を有している。そして、前記先端チップは、長軸方向に延在する内腔を有し、該内腔は前記内側チューブの内腔に連通しており、前記接着性材料の一部は、前記先端チップの内側面よりも内側に延出しているものである。接着性材料の一部が、先端チップの内側面より内側に延出していることにより、先端チップの内腔径が局所的に小さくなる。そのため、先端チップの内腔にガイドワイヤを通すと、ガイドワイヤは、内腔径が局所的に小さくなった箇所に存在している接着性材料により保持される。その結果、先端チップの先端の内径を狭めなくとも、ガイドワイヤ摺動時のブレが抑制される。従って、本発明によればガイドワイヤの挿通性を良好なままとしつつ、ガイドワイヤ摺動時のブレも併せて抑制できる。
【0013】
以下、本発明に係る医療用搬送装置について、実施形態に基づいてより具体的に説明するが、本発明は下記実施形態によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。以下では、近位側とは使用者(術者)の手元側を指し、遠位側とは近位側の反対側(すなわち処置対象側)を指す。また、近位側から遠位側への方向を長軸方向または遠近方向と称する。
【0014】
図1は、本発明に係る医療用管状体搬送装置の一実施形態を示す断面図であり、医療用管状体搬送装置の遠位部分のみを示している。図1では、矢印xの右側が近位側であり、矢印xの左側が遠位側である。
【0015】
医療用管状体搬送装置1は、医療用管状体(図示せず)が内腔に配置されている外側チューブ2と、外側チューブ2の内腔に配置されている内側チューブ3と、内側チューブ3の遠位端部に接着性材料5を介して固定されている先端チップ4と、を有している。先端チップ4は、長軸方向xに延在する内腔を有し、該内腔は内側チューブ3の内腔に連通している。
【0016】
接着性材料5の一部は、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している。これにより、先端チップ4の内腔に挿入されたガイドワイヤは、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している接着性材料5により保持されるため、ブレを抑制でき、医療用管状体搬送装置1の操作性が向上する。また、本発明によれば、内側チューブ3と先端チップ4との固定位置に配される接着性材料5を、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出させているため、先端チップ4の先端の内径を狭めなくとも、ガイドワイヤの挿通性を良好なままとしつつ、ガイドワイヤのブレを抑制できる。
【0017】
接着性材料5は、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出していればよい。接着性材料5は、先端チップ4の内周の全部にわたって延出していてもよいが、先端チップ4の内周の一部に延出していることが好ましい。接着性材料5の一部を、先端チップ4の内周の一部に延出させることにより、ガイドワイヤのブレ抑制と摺動性確保の両面で性能が向上する。
【0018】
接着性材料5が先端チップ4の内周の一部に延出している場合は、1カ所に延出していてもよいし、2カ所以上に延出していてもよいが、2カ所以上に延出していることが好ましい。2カ所以上に延出させることによりガイドワイヤのブレを一層抑制できる。
【0019】
接着性材料5が先端チップ4の内周の2カ所以上に延出している場合は、接着性材料5が延出している位置は、周方向に等間隔でもよいし、非等間隔でもよいが、等間隔が好ましい。等間隔の方が、ガイドワイヤを軸の中心位置で保持できる。
【0020】
接着性材料5としては、例えば、有機系接着剤を用いることができ、具体的には、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、オレフィン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコーン系接着剤などの樹脂系接着剤を用いることができる。これらのなかでも、ウレタン樹脂系接着剤を用いることが好ましい。
【0021】
先端チップ4は、遠近方向に延在しており、内腔を有している。先端チップ4が配されていることにより、体内管腔の狭窄部を医療用管状体搬送装置1が通過しやすくなる。先端チップ4の長軸方向xに直交する断面の外形形状は、例えば、円形状、C字型、楕円形状、多角形状等が挙げられる。先端チップ4の最大内径は、内側チューブ3の外径より大きいことが好ましい。
【0022】
先端チップ4は、柔軟性を有する材料により形成されていることが好ましい。
【0023】
先端チップ4を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ポリエーテルポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)等のフッ素系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;シリコーン系樹脂;等の合成樹脂等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、先端チップ4を構成する材料は、ポリアミド系樹脂が好ましく、ポリアミドエラストマーがより好ましい。先端チップ4がこのように構成されていることにより、先端チップ4のガイドワイヤへの追従性と先端の安全性を両立した医療用管状体搬送装置1とすることが可能となる。
【0024】
先端チップ4は、1つの部材で構成されていてもよいし、2つ以上の部材で構成されていてもよい。先端チップ4は、2つ以上の部材(特に、2つの部材)で構成されていることが好ましい。先端チップ4は、近位側から遠位側に向かって外径が縮径するテーパを有することが好ましい。これにより、医療用管状体搬送装置1の生体管腔への通過性を高めることができる。
【0025】
先端チップ4は、接着性材料5を介して内側チューブ3の遠位端部に固定されている。
【0026】
内側チューブ3を構成する材料としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ポリエーテルポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)等のフッ素系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;シリコーン系樹脂;等の合成樹脂、或いは天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、内側チューブ3を構成する材料は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、およびフッ素系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、およびフッ素系樹脂の少なくとも1種を含有していることにより、内側チューブ3の内面における滑り性が向上するため、内側チューブ3の内腔にガイドワイヤを挿通し、ガイドワイヤに沿って医療用管状体搬送装置1を体内へ送り込みやすくなる。
【0027】
内側チューブ3は、単層構造でもよいし、複層構造でもよい。複層構造の場合は、例えば、内側チューブ3の中間層として金属編組等の編組層を備える構造が挙げられる。複層構造であることにより、内側チューブ3の引張強度や、内側チューブ3に対する滑り性、耐キンク性を高めることができる。金属編組としては、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケルチタン合金等が挙げられる。これらのなかでも、ステンレス鋼が好ましい。
【0028】
内側チューブ3の遠位側における剛性は、内側チューブ3の近位側における剛性よりも低いことが好ましい。内側チューブ3の近位側の剛性を高めることにより、医療用管状体搬送装置1のプッシャビリティを向上させることができる。内側チューブ3の遠位側における剛性を低くするには、内側チューブ3を遠位側内側チューブと近位側内側チューブを有する構成とし、遠位側内側チューブの剛性を近位側内側チューブの剛性より低くすることが挙げられる。例えば、遠位側内側チューブを合成樹脂の単層構造とし、近位側内側チューブを合成樹脂の中間層として上述した金属編組を有する複層構造とすることが挙げられる。
【0029】
接着性材料5の一部は、更に、内側チューブ3の内側面3aよりも内側に延出していることが好ましい。接着性材料5が、更に、内側チューブ3の内側面3aよりも内側に延出していることにより、ガイドワイヤのブレを防止できる。
【0030】
接着性材料5は、内側チューブ3の内側面3aよりも内側に延出していればよい。接着性材料5は、内側チューブ3の内周の全部にわたって延出していてもよいが、内側チューブ3の内周の一部に延出していることが好ましい。接着性材料の一部を、内側チューブ3の内周の一部に延出させることにより、ガイドワイヤのブレ抑制と摺動性確保の両面で性能が向上する。
【0031】
接着性材料5が内側チューブ3の内周の一部に延出している場合は、1カ所に延出していてもよいし、2カ所以上に延出していてもよいが、2カ所以上に延出していることが好ましい。2カ所以上に延出させることによりガイドワイヤのブレを一層抑制できる。
【0032】
接着性材料5が内側チューブ3の内周の2カ所以上に延出している場合は、接着性材料5が延出している位置は、周方向に等間隔でもよいし、非等間隔でもよいが、等間隔が好ましい。等間隔の方が、ガイドワイヤを軸の中心位置で保持できる。
【0033】
本発明に係る医療用管状体搬送装置1は、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2における長軸方向xに垂直な断面での内腔の空隙面積S2と、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より遠位側における位置s1における長軸方向xに垂直な断面での先端チップ4の内腔の空隙面積S1と、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より近位側における位置s3における長軸方向xに垂直な断面での内側チューブ3の内腔の空隙面積S3が、下記式で表される関係を満足することが好ましい。
S2<S1≦S3
【0034】
空隙面積S1、空隙面積S2、空隙面積S3が、上記式で表される関係を満足することにより、ガイドワイヤのブレを防止できる。
【0035】
接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2における長軸方向xに垂直な断面での内腔の空隙面積S2は、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より遠位側における位置s1における長軸方向xに垂直な断面での先端チップ4の内腔の空隙面積S1より小さく、空隙面積S2は、空隙面積S1を100%としたとき、99%以下であることが好ましく、より好ましくは98%以下であり、更に好ましくは97%以下である。空隙面積S1に対する空隙面積S2の割合の下限は特に限定されないが、空隙面積S2は、空隙面積S1を100%としたとき、95%以上が好ましく、より好ましくは96%以上であり、更に好ましくは97%以上である。
【0036】
接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より近位側における位置s3における長軸方向xに垂直な断面での内側チューブ3の内腔の空隙面積S3は、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より遠位側における位置s1における長軸方向xに垂直な断面での先端チップ4の内腔の空隙面積S1と、同じであるか、大きいことが好ましく、空隙面積S3は、空隙面積S1と同じであることがより好ましい。空隙面積S3は、空隙面積S1を100%としたとき、110%以下が好ましく、より好ましくは108%以下、更に好ましくは107%以下であり、最も好ましくは100%である。即ち、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より近位側における位置s3における内側チューブ3の内腔径d3は、接着性材料5の一部が先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出している位置s2より遠位側における位置s1における先端チップ4の内腔径d1と、同じであるか、大きいことが好ましく、内腔径d3は、内腔径d1と同じであることがより好ましい。
【0037】
空隙面積S1、空隙面積S2、空隙面積S3は、例えば、各位置における断面を写真撮影し、画像解析により算出すればよい。
【0038】
内側チューブ3の遠位端と、先端チップ4の近位端は、突き当てられていてもよいが、図1に示すように、内側チューブ3の遠位端部の外側は、先端チップ4の近位端部で覆われていることが好ましい。これにより、先端チップ4と内側チューブ3が強固に固定されるため、先端チップ4が脱離しにくくなる。
【0039】
先端チップ4の長軸方向xにおける長さL1に対し、先端チップ4で覆われている内側チューブ3の長軸方向xにおける長さL2の割合は、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上であり、更に好ましくは20%以上である。長さL1に対する長さL2の割合は、65%以下が好ましく、より好ましくは60%以下、更に好ましくは55%以下である。
【0040】
内側チューブ3の遠位端部には、X線不透過マーカーが配されていることが好ましい。これにより、先端チップ4の位置を把握しやすくなる。X線不透過マーカーを配する位置は、内側チューブ3の遠位端と、先端チップ4の近位端が、突き当てられていている場合は、内側チューブ3の遠位端が好ましく、内側チューブ3の遠位端部の外側が、先端チップ4の近位端部で覆われている場合は、内側チューブ3の遠位端部のうち、先端チップ4で覆われている領域か、または先端チップ4の近位端に対応する位置が好ましい。
【0041】
X線不透過マーカーの形状は、特に限定されず、円筒状であってもよいし、長軸方向xに直交する断面の形状が、C字になっている筒状であってもよい。
【0042】
X線不透過マーカーは、X線不透過物質を含んでおり、X線不透過物質としては、例えば、鉛、バリウム、ヨウ素、タングステン、金、白金、イリジウム、ステンレス、チタン、コバルトクロム合金等が挙げられる。これらのなかでも白金を含むことが好ましい。
【0043】
内側チューブ3の外側には、外側チューブ2が配置されており、該外側チューブ2の内腔には、医療用管状体(図示せず)が配置されている。
【0044】
外側チューブ2を構成する材料としては、公知の樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;PET等のポリエステル系樹脂;PEEK等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ポリエーテルポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリイミド系樹脂;PTFE、PFA、ETFE等のフッ素系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;等の合成樹脂等が挙げられる。外側チューブ2を構成する材料は、なかでも、ナイロン等のポリアミド系樹脂であるか、ポリエーテルポリアミド系樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂またはポリエーテルポリアミド系樹脂を用いることにより、高強度で、耐摩耗性が良好で、低摩擦係数を有し、加工性も改善できる。
【0045】
外側チューブ2は、単層構造でもよいし、複層構造でもよい。複層構造の場合は、例えば、外側チューブ2の中間層として金属編組等の編組層を備える構造、内層にフッ素系樹脂を配し、外層にポリアミド系樹脂を配した構造等が挙げられる。複層構造であることにより、外側チューブ2の引張強度や、外側チューブ2に対する滑り性、耐キンク性を高めることができる。金属編組としては、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ニッケルチタン合金等が挙げられる。なかでも、ステンレス鋼が好ましい。
【0046】
外側チューブ2の外径は、例えば、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.7mm以上、更に好ましくは1.0mm以上である。外側チューブ2の内径を一定としたとき、外側チューブ2の外径を大きくすることにより、外側チューブ2の肉厚を厚くすることができるため、外側チューブ2の引張強度を高めることができる。外側チューブ2の外径は、例えば、3.5mm以下が好ましく、より好ましくは3.3mm以下、更に好ましくは3.0mm以下である。外側チューブ2の外径をこの範囲にすることにより、医療用管状体搬送装置1の遠位側における外径が大きくなりすぎることを防止できるため、医療用管状体搬送装置1の低侵襲性を向上できる。また、医療用管状体搬送装置1の遠位側の剛性が大きくなりすぎることを防止できるため、体内への送達時における操作性を向上できる。
【0047】
外側チューブ2の肉厚は、例えば、10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。外側チューブ2の肉厚をこの範囲にすることにより、外側チューブ2の引張強度を高めることができ、医療用管状体搬送装置1の安全性を向上できる。外側チューブ2の肉厚は、例えば、350μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは250μm以下である。外側チューブ2の肉厚をこの範囲にすることにより、外側チューブ2の内腔を広くすることができるため、外側チューブ2の内腔に収納できる医療用管状体の径の種類を増やすことができ、様々な種類の医療用管状体を医療用管状体搬送装置1で搬送可能となる。
【0048】
内側チューブ3の肉厚は、外側チューブ2の肉厚より小さくてもよいし、外側チューブ2の肉厚より大きくてもよいが、外側チューブ2の肉厚と同じであることが好ましい。
【0049】
外側チューブ2の内腔に配されている医療用管状体としては、例えば、ステント、ステントグラフト、閉塞具、注入カテーテル、プロテーゼ弁等が挙げられる。ステントは、一般に、胆管等の消化管や血管等の生体内管腔が狭窄または閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するものである。ステントとしては、例えば、一本の線状の金属で形成されたコイル状のステント、金属チューブをレーザーによって切り抜いて加工したステント、線状の部材をレーザー溶接して組み立てたステント、複数の線状の金属を織って作ったステント、またはこれらの金属製のステントと同型状であって高分子材料で形成されたもの等が挙げられる。ステントは、自己拡張型ステントを用いることが好ましい。自己拡張型ステントとは、ステントの拡張を抑制する外側チューブ2を取り除くことによって自ら拡張する力を有するステントである。
【0050】
次に、本発明に係る医療用管状体搬送装置を製造する方法の一例について説明する。
【0051】
本発明に係る医療用管状体搬送装置は、内側チューブの内腔に、芯材を挿入する工程(以下、芯材挿入工程ということがある)と、前記内側チューブの遠位端部の外側に接着性材料を配する工程(以下、接着性材料配置工程ということがある)と、前記内側チューブの遠位端部の外側に先端チップを配する工程(以下、先端チップ配置工程ということがある)と、前記内側チューブの遠位端部と前記先端チップを固定する工程(以下、先端チップ固定工程ということがある)と、を含む方法によって製造できる。以下、各工程について説明する。
【0052】
[芯材挿入工程]
芯材挿入工程では、内側チューブ3の内腔に、芯材6を挿入する。内側チューブ3の内腔に芯材を挿入した状態を示す断面図を図2に示す。図2では、矢印xの右側が近位側であり、矢印xの左側が遠位側である。図1と同じ部材には同じ符号を付すことにより重複説明を避ける。
【0053】
内側チューブ3は、遠近方向に延在しており、該内側チューブ3の少なくとも遠位端部における内腔に、芯材6を挿入する。内側チューブ3の内腔に芯材6を配置することによって、内側チューブ3の内腔が減少することを防止できる。
【0054】
内側チューブ3の内腔に挿入する芯材6は、該芯材6の遠位端に突き当て部材6aが配されていてもよい。芯材6の遠位端に突き当て部材6aが配されている場合は、芯材6は、突き当て部材6aの近位端面が、内側チューブ3の遠位端面に接触せず、突き当て部材6aの近位端面と内側チューブ3の遠位端面との間に隙間を空けた状態で、内側チューブ3の遠位端部に挿入することが好ましい。突き当て部材6aの近位端面と内側チューブ3の遠位端面との間に隙間を空けることにより、後の工程において、接着性材料5の一部を、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出させることができる。そのため、ガイドワイヤのブレを低減できる。
【0055】
芯材6の遠位端に突き当て部材6aが配されている場合、突き当て部材6aの近位端面と内側チューブ3の遠位端面との隙間の距離は、例えば、0.05mm~5mmであることが好ましく、より好ましくは0.08mm以上、更に好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは1mm以下である。
【0056】
芯材6および突き当て部材6aの材料は特に制限されないが、例えば、銅、銀、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料を用いることができる。
【0057】
[接着性材料配置工程]
接着性材料配置工程では、内側チューブ3の遠位端部の外側に接着性材料5を配する。
【0058】
接着性材料5の形状は特に限定されず、例えば、フィルム状、ベルト状、シート状、粉体状、糸状、網状、リング状、筒状、液状等、種々の形状を用いることができる。これらのなかでも、フィルム状、ベルト状、シート状、リング状、筒状、または液状が好ましい。
【0059】
接着性材料5の形状が例えば筒状の場合は、接着性材料5の一部が、先端チップ4の内側面4aよりも内側に延出させるために、内側チューブ3の遠位端部の外側に筒状の接着性材料5を配したときに、該筒状の接着性材料5が、内側チューブ3の先端面の少なくとも一部を覆うことが好ましい。
【0060】
[先端チップ配置工程]
先端チップ配置工程では、内側チューブ3の遠位端部の外側に先端チップ4を配する。上記接着性材料5の形状が例えば液状の場合は、内側チューブ3の遠位端部の外側に先端チップ4を配することにより、液状の接着性材料5が、先端チップ4と内側チューブ3の突き当て部から先端チップ4の内側面4aよりも内側に染み出てくる。
【0061】
[先端チップ固定工程]
先端チップ固定工程では、内側チューブ3の遠位端部と先端チップ4を固定する。先端チップ4は、上記接着性材料5を介して内側チューブ3の遠位端部に固定される。
【0062】
先端チップ4を固定した後は、公知の方法に従って内側チューブ3の外側に、外側チューブ2を配し、外側チューブ2の内腔に医療用管状体を配すればよい。内側チューブ3の外側に、外側チューブ2を配するに当っては、外側チューブ2の内腔に医療用管状体を予め配置しておき、この医療用管状体が内腔に配置されている外側チューブ2を、内側チューブ3の外側に配してもよい。
【0063】
接着性材料配置工程において、内側チューブ3の遠位端部の外側に接着性材料5を配した後、内側チューブ3の内腔に芯材6を留置したままでもよいし、内側チューブ3の内腔から芯材6を抜去してもよい。内側チューブ3の内腔から芯材6を抜去した場合は、先端チップ固定工程において内側チューブ3の遠位端部と先端チップ4を固定する際に、再度、先端チップ4および内側チューブ3の遠位端部に芯材6を配してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 医療用管状体搬送装置
2 外側チューブ
3 内側チューブ
3a 内側チューブの内側面
4 先端チップ
4a 先端チップの内側面
5 接着性材料
6 芯材
6a 突き当て部材
x 長軸方向
図1
図2