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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143263
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】樹脂組成物、および、成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230928BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20230928BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/521
C08L27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050545
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】林 宏美
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 智文
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD15Z
4J002CG01W
4J002CG01X
4J002CG01Y
4J002EW126
4J002FD136
4J002FD13Z
4J002GC00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物であって、残炎時間がより短縮された樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品の提供。
【解決手段】 (A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)リン酸エステル系難燃剤6~20質量部と、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー0.01~3質量部とを含み、(A)ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)を含み、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、10~99質量部であり、ポリカーボネート樹脂(A-1)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105未満であり、ポリカーボネート樹脂(A-2)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上である、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、
(B)リン酸エステル系難燃剤6~20質量部と、
(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー0.01~3質量部とを含み、
前記(A)ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)を含み、
前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、10~99質量部であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A-1)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105未満であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A-1)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の重量平均分子量が35,000以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)は、ポリカーボネート樹脂から形成された成形品に由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、および、成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、汎用エンジニアリングプラスチックとして、透明性、機械的強度、電気的性質、耐熱性、寸法安定性などに優れているので、電気・電子機器部品、OA機器、機械部品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類などの幅広い分野で使用されている。
ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物(以下、「ポリカーボネート樹脂組成物」ということがある)については、難燃性を求められることが多く、種々の難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物が検討されている(特許文献1、特許文献2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-187863号公報
【特許文献2】特開2021-155499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、難燃性に優れたポリカーボネート樹脂組成物は種々知られているが、ポリカーボネート樹脂組成物の需要拡大に伴い、さらに新規な難燃性を有するポリカーボネート樹脂組成物が求められている。特に、残炎時間が短縮されたポリカーボネート樹脂組成物が求められている。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物であって、残炎時間がより短縮された樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂と、リン酸エステル系難燃剤と、フィブリル形成能を有するフルオロポリマーとを含む、難燃性のポリカーボネート樹脂組成物において、所定のポリカーボネート樹脂をブレンドすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)リン酸エステル系難燃剤6~20質量部と、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー0.01~3質量部とを含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)を含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、10~99質量部であり、前記ポリカーボネート樹脂(A-1)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105未満であり、前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上である、樹脂組成物。
<2>前記ポリカーボネート樹脂(A-1)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16以下である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の重量平均分子量が35,000以上である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記ポリカーボネート樹脂(A-2)は、ポリカーボネート樹脂から形成された成形品に由来する、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂組成物であって、残炎時間がより短縮された樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)リン酸エステル系難燃剤6~20質量部と、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー0.01~3質量部とを含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)を含み、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、10~99質量部であり、前記ポリカーボネート樹脂(A-1)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105未満であり、前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上であることを特徴とする。
このように、ポリカーボネート樹脂と、リン酸エステル系難燃剤と、フィブリル形成能を有するフルオロポリマーとを含む、難燃性のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂(A-1)に加え、ポリカーボネート樹脂(A-2)を配合することにより、難燃性をより向上させることができる。特に、得られる成形品の残炎時間をより短縮することができる。
この理由は、以下の通りであると推測される。すなわち、難燃剤として、リン酸エステル系難燃剤を配合した樹脂成形品は、燃焼した場合、その表面にチャーを形成して、燃焼を抑制する。より具体的には、リン酸エステル系難燃剤が熱分解されて、生成した酸成分がさらに加熱によって重合し、ポリメタリン酸を生成する。このポリメタリン酸は強酸であるため、他の分子をプロトン化する強い脱水剤でもある。そして、この強酸でチャーの形成が促進される。本実施形態においては、酸化劣化がある程度、進んでいるポリカーボネート樹脂(A-2)を配合することにより、樹脂成形品がポリメタリン酸と結合しやすくなり、チャーの形成をより促進でき、残炎時間を短くすることができたと推測される。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0009】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を含む。本実施形態において、(A)ポリカーボネート樹脂は、通常、主成分となるものである。本実施形態の樹脂組成物において、(A)ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)を含む。
【0010】
<<ポリカーボネート樹脂(A-1)>>
本実施形態の樹脂組成物は、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps未満であるポリカーボネート樹脂(A-1)を含む。
また、前記ポリカーボネート樹脂(A-1)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量の下限は、特に定めるものではないが、例えば、1.0×105cps以上である。
前記ポリカーボネート樹脂(A-1)は、また、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16以下であることが好ましく、0.14以下であることが好ましい。前記(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)の下限値としては、特に定めるものではないが、0.01以上であることが好ましい。
【0011】
前記ポリカーボネート樹脂(A-1)の波長532nmのレーザー光にて、露光時間1.0秒、露光回数4回、レーザー出力1.6mWでラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度が、1,000cps未満であることが好ましく、900cps未満であることがより好ましく、800cps未満であることがさらに好ましく、600cps以下であることが一層好ましく、400cps以下であることがより一層好ましく、200cps以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。また、前記ラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度の下限は、特に定めるものではないが、10cps以上が実際的である。
【0012】
上記ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率、および、ラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0013】
上記ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率、ラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度を満たすポリカーボネート樹脂としては、バージンポリカーボネート樹脂が挙げられる。後述する実施例A6、A7に示されるポリカーボネート樹脂などの市販品はバージンポリカーボネート樹脂である。
【0014】
具体的には、ポリカーボネート樹脂(A-1)は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、有機基、好ましくは炭化水素基、より好ましくは、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールA由来の構成単位であることがより好ましい。
【0015】
本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂(A-1)の重量平均分子量(Mw)は35,000以上であることが好ましく、より好ましくは40,000以上であり、さらに好ましくは45,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限値は、200,000以下であることが好ましく、より好ましくは100,000以下であり、さらに好ましくは80,000以下である。前記上限値以下とすることにより、成形品の成形加工性がより向上する傾向にある。
ポリカーボネート樹脂(A-1)の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0016】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0017】
上記の他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2021-084942号公報の段落0013~0041の記載、特開2021-119211号公報の段落0030~0035を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0018】
<<ポリカーボネート樹脂(A-2)>>
本実施形態の樹脂組成物は、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上である、ポリカーボネート樹脂(A-2)を含む。このようなポリカーボネート樹脂(A-2)を含むことにより、ポリカーボネート樹脂について程よい分岐化が進行し、炭化が促進され難燃性が向上させることができると推測される。
【0019】
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)は、0.20以上であることが好ましく、0.25以上であることがより好ましく、0.30以上であることがさらに好ましく、0.35以上であることが一層好ましく、0.40以上であることがより一層好ましく、0.50以上であることがさらに一層好ましく、0.60以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の難燃性が向上する。また、前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)は、10.00以下であることが好ましく、5.00以下であることがより好ましく、3.00以下であることがさらに好ましく、1.0以下であることが一層好ましく、0.80以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。
【0020】
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量は、8.0×105cps以上であることが好ましく、1.0×106cps以上であることがより好ましく、1.4×106cps以上であることがさらに好ましく、2.0×106cps以上であることが一層好ましく、3.0×106cps以上であってもよく、4.5×10cps6以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。また、前記ポリカーボネート樹脂(A-2)のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量は、10.0×107cps以下であることが好ましく、5.0×107cps以下であることがより好ましく、1.0×107cps以下であることがさらに好ましく、9.0×106cps以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。
【0021】
前記ポリカーボネート樹脂(A-2)の波長532nmのレーザー光にて、露光時間1.0秒、露光回数4回、レーザー出力1.6mWでラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度が、1000cps以上であることが好ましく、2000cps以上であることがより好ましく、5000cps以上であることがさらに好ましく、10000cps以上であることが一層好ましい。また、前記ポリカーボネート樹脂(A-2)のラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度は、200,000cps以下であることが好ましく、30,000cps以下であってもよい。前記上限値以下および下限値以上とすることにより、得られる成形品の難燃性がより向上する傾向にある。
【0022】
本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂(A-2)の重量平均分子量は35,000以上であることが好ましく、より好ましくは40,000以上であり、さらに好ましくは42,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐久性がより向上する傾向にある。前記ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)の上限値は、100,000以下であることが好ましく、より好ましくは80,000以下であり、さらに好ましくは60,000以下である。前記上限値以下とすることにより、成形品の成形加工性がより向上する傾向にある。
【0023】
上記ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率、ラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度、および、重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0024】
上記ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率、および、ラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度の少なくとも1つを満たすポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート樹脂から形成された成形品に由来するポリカーボネート樹脂が例示される。
ポリカーボネート樹脂から形成された成形品に由来するポリカーボネート樹脂としては、バージンポリカーボネート樹脂が何かしらの成形加工を施されたものを意味し、リサイクルポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂成形品の不合格品、ポリカーボネート樹脂成形品製造の際の端材などを含む趣旨である。成形加工品としては、射出成形品、押出成形品、その他の製法によって成形された成形品を含む趣旨である。
リサイクルポリカーボネート樹脂としては、回収された使用済ポリカーボネート樹脂成形品を粉砕、アルカリ洗浄して繊維等に再利用するマテリアルリサイクルにより得られたもの、ケミカルリサイクル(化学分解法)より得られたものおよびメカニカルリサイクルにより得られたもの等が挙げられる。
ケミカルリサイクルは、回収された使用済ポリカーボネート樹脂成形品を化学分解して、原料レベルに戻してポリカーボネート樹脂を再合成するものである。一方、メカニカルリサイクルは、上述したマテリアルリサイクルにおけるアルカリ洗浄をより厳密に行うこと、あるいは高温で真空乾燥すること等によって、マテリアルリサイクルよりもポリカーボネート樹脂成形品の汚れを確実に取り除くことを可能にした手法である。
例えば、使用済ポリカーボネート樹脂成形品からは、異物が取り除かれた後に、粉砕・洗浄され、次に押出機によりペレット化することにより、リサイクルポリカーボネート樹脂が得られる。
使用済みポリカーボネート樹脂成形品の例には、ディスク、シート(フィルムを含む)、メーターカバー、ヘッドランプレンズ、水ボトルが含まれ、メーターカバー、シート、または、ヘッドランプレンズであることが好ましい。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A-2)は、また、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OC(=O)]-単位(Rが、有機基、好ましくは炭化水素基、より好ましくは、脂肪族基、芳香族基、または、脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されない。本実施形態においては、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂がより好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を用いることにより、より優れた耐熱性と靱性が達成される。本実施形態においては、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート樹脂は、全構成単位の90モル%以上がビスフェノール骨格を有する構成単位であることが好ましく、全構成単位の90モル%以上がビスフェノールA由来の構成単位であることがより好ましい。
【0026】
<<ポリカーボネート樹脂(A-1)と(A-2)のブレンド形態>>
本実施形態においては、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、10質量部以上であり、さらには、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、35質量部以上、40質量部以上、45質量部以上、50質量部以上であってもよい。また、本実施形態においては、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部中のポリカーボネート樹脂(A-2)の割合が、99質量部以下であり、95質量部以下であることが好ましく、さらには、90質量部以下、85質量部以下、80質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、難燃性がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A-1)およびポリカーボネート樹脂(A-2)を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
本実施形態においては、樹脂組成物に含まれる(A)ポリカーボネート樹脂におけるポリカーボネート樹脂(A-1)とポリカーボネート樹脂(A-2)が占める割合が、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物における(A)ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物が強化材を含まない場合、樹脂組成物中、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、97質量%以上であることがより一層好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物における(A)ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物が強化材を含む場合、樹脂組成物中、強化材を除く成分の、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、97質量%以上であることがより一層好ましい。
【0028】
<(B)リン酸エステル系難燃剤>
本実施形態の樹脂組成物は、(B)リン酸エステル系難燃剤を含む。リン酸エステル系難燃剤を含むことにより、難燃性に優れた成形品が得られる。
リン酸エステル系難燃剤としては、縮合リン酸エステル系難燃剤が好ましく、下記式(P)で表される縮合リン酸エステル系難燃剤がより好ましい。
式(P)
【化1】
【0029】
式(P)において、kが異なる数を有する化合物の混合物であってもよく、かかるkが異なる縮合リン酸エステルの混合物の場合は、kはそれらの混合物の平均値となる。kは、通常0~5の整数であり、異なるk数を有する化合物の混合物の場合は、平均のk数は好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.95以上であり、また、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.15以下の範囲である。
【0030】
また、X1は、2価のアリーレン基を示し、例えば、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、2,3’-ジヒドロキシビフェニル、2,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシ化合物から誘導される二価の基である。これらのうち、特に、レゾルシノール、ビスフェノールA、3,3’-ジヒドロキシビフェニルから誘導される2価の基が好ましい。
【0031】
式(P)におけるp、q、rおよびsは、それぞれ独立に、0または1を表し、なかでも1であることが好ましい。
【0032】
式(P)におけるR11、R12、R13およびR14は、それぞれ、炭素数1~6のアルキル基またはアルキル基で置換されていてもよい炭素数6~20のアリール基を示す。このようなアリール基としては、フェニル基、クレジル基、キシリル基、イソプロピルフェニル基、ブチルフェニル基、tert-ブチルフェニル基、ジ-tert-ブチルフェニル基、p-クミルフェニル基等が挙げられるが、フェニル基、クレジル基、キシリル基がより好ましい。
【0033】
式(P)で表される縮合リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート(EHDP)、tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(tert-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(tert-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、ビス-(イソプロピルフェニル)ジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート等の芳香族リン酸エステル類;レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート(RDP)、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート(RDX)、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート(BDP)、ビフェニルビス-ジフェニルホスフェート等の縮合リン酸エステル類;等が挙げられる。
【0034】
式(P)で表される縮合リン酸エステル系難燃剤の酸価は、0.2mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは0.15mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.1mgKOH以下であり、特に好ましくは0.05mgKOH/g以下である。かかる酸価の下限は実質的に0とすることも可能である。また、式(P)で表される縮合リン酸エステル系難燃剤のハーフエステルの含有量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。酸価を0.2mgKOH/g以下とすることにより、また、ハーフエステル含有量を1質量%以下とすることにより、得られる成形品の熱安定性や耐加水分解性がより向上する傾向にある。
【0035】
リン酸エステル系難燃剤としては、上述のものの他に、リン酸エステル部位を含有するポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂またはエポキシ樹脂も含まれる。
また、国際公開第2017/038737号の段落0030~0034の記載も参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物における(B)リン酸エステル系難燃剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、6質量部以上であり、7質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であることがより好ましく、9質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより樹脂成形品の燃焼時のチャーの形成を促進し、難燃性をより高めることができる。また、前記(B)リン酸エステル系難燃剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、20質量部以下であり、19質量部以下であることが好ましく、18質量部以下であることがより好ましく、17質量部以下であることがさらに好ましく、16質量部以下であることが一層好ましく、16質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、難燃剤の含有量が減るにもかかわらず、より効果的に難燃効果が発揮される傾向にある。さらに、得られる樹脂組成物の耐熱性を向上すると共に、ペレットの製造性も向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(B)リン酸エステル系難燃剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
本実施形態の樹脂組成物は、(B)リン酸エステル系難燃剤以外の難燃剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。(B)リン酸エステル系難燃剤以外の難燃剤としては、アルカリ金属塩、ハロゲン系難燃剤等が例示される。
本実施形態の樹脂組成物の一例は、(B)リン酸エステル系難燃剤以外の難燃剤を実質的に含まないことである。実質的に含まないとは、樹脂組成物に含まれる難燃剤のうち、(B)リン酸エステル系難燃剤以外の難燃剤の含有量が、(B)リン酸エステル系難燃剤以外の難燃剤の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
<(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー>
本実施形態の樹脂組成物は、フィブリル形成能を有するフルオロポリマーを含む。
フィブリル形成能を有するフルオロポリマーは、樹脂組成物中に容易に分散し、かつ重合体同士を結合して繊維状構造を作る傾向を示すという滴下防止剤であり、フィブリル形成能を有するフッ素系樹脂である。
フィブリル形成能を有するフルオロポリマーの分子量は、好ましくは100万~1000万の極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりフルオロポリマー同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。フルオロポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)樹脂、パーフロロアルコキシ(PFA)樹脂、フッ化エチレンプロピレン(FEP)樹脂等が好ましく、特に、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
【0039】
フィブリル形成能を有するフルオロポリマーとしては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)6Jや、ダイキン工業社製のポリフロンが挙げられる。
【0040】
フルオロポリマーは、その水性ディスパージョンの形態のものを用いることも好ましい。このディスパージョンは、通常乳化重合で得られたフッ素系樹脂ラテックスに、界面活性剤を加え、濃縮・安定化して製造された水性分散体である。水性ディスパージョン中のフルオロポリマーの含有量は、20~80質量%が、特には30~70質量%であることが好ましい。
ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液として、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J、ダイキン工業社製のフルオンD-1や、ビニル系単量体を重合してなる多層構造を有するポリテトラフルオロエチレン重合体、例えば三菱レイヨン社製のメタブレンA-3800が挙げられる。
【0041】
また、フィブリル形成能を有するフルオロポリマーは、その1次粒子径が0.05~1.0μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは0.1~0.5μmである。そして、フルオロポリマーは、樹脂組成物中において、主に0.5ミクロン以下の太さのフィブリル状の形態をなし、フィブリルが、ネットワーク構造、および/または、分岐状で存在することが好ましい。
【0042】
本実施形態の樹脂組成物における(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマーの含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上であり、0.03質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.07質量部以上であることがさらに好ましく、0.1質量部以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、滴下防止効果が効果的に発揮される傾向にある。また、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマーの含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、3質量部以下であり、2.5質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましく、0.7質量部以下であることが一層好ましく、0.5質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の機械的強度が向上し、また、外観が向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0043】
<エラストマー>
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを含有することも好ましい。
エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分をグラフト共重合した共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0044】
上記ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下のものが好ましく、さらには-30℃以下のものが好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、オルガノポリシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、オルガノポリシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-αオレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、オルガノポリシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0045】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0046】
本実施形態において用いるエラストマーは、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。中でもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、オルガノポリシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が好ましく、特にブタジエン系ゴムをコアとするコア/シェル型エラストマーが好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸成分は、10質量%以上含有するものが好ましい。
【0047】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、アクリルニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。この様なゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
上記の他、エラストマーとしては、特開2019-123809号公報の段落0068~0079に記載のものを用いることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
本実施形態の樹脂組成物がエラストマーを含む場合、その含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の耐衝撃性が向上する傾向にある。また、前記エラストマーの含有量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、7質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の表面硬度や耐熱性、剛性などが向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、エラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0049】
<エポキシ化合物>
本実施形態の樹脂組成物はエポキシ化合物を含むことも好ましい。エポキシ化合物を含むことにより、機械的強度により優れた成形品が得られる。
エポキシ化合物としては、1分子中に1個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類またはカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物としては、例えば、ノボラック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ブタジエン重合体、レゾルシン型エポキシ化合物等が挙げられる。
【0050】
ノボラック型エポキシ化合物としては、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等を例示できる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル等が挙げられ、ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0051】
脂環式エポキシ化合物の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシル-3,4-シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0052】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0053】
グリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル類等が挙げられる。
【0054】
エポキシ化ブタジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン-ブタジエン系共重合体等を例示できる。
レゾルシン型エポキシ化合物としてはレゾルシンジグリシジルエーテル等が例示できる。
【0055】
また、エポキシ化合物は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、α-オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0056】
エポキシ化合物としては、エポキシ当量50~10000g/eq、重量平均分子量8000以下のエポキシ化合物が好ましい。
【0057】
エポキシ化合物の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.001質量部以上が好ましく、より好ましく0.005質量部以上、さらには0.01質量部以上が好ましく、また、2質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、さらには0.5質量部以下、特に0.1質量部以下が好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、エポキシ化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0058】
<安定剤>
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
安定剤としては、また、フェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系熱安定剤および/またはフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0059】
リン系熱安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0060】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標。以下同じ)1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標。以下同じ)168」等が挙げられる。
【0061】
フェノール系酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0062】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0063】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0064】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、ライトアマイドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルが好ましく、脂肪族カルボン酸の塩がより好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載、特開2015-117298号公報の段落0106~0115の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~0.8質量%であることがより好ましく、0.1~0.6質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0065】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、強化材、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、および、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
強化材としては、特開2014-136710号公報の段落0107~0115の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
樹脂添加剤としては、例えば、色剤(染料、顔料)、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
樹脂添加剤としては、また、特開2015-117298号公報の段落0117~0128の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0066】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は難燃性に優れていることが望まれる。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、0.8mm厚さに成形し、UL94に準拠した試験を行ったとき、V-0を達成することが好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物は、0.8mm厚さに成形したときの、UL94に準拠した試験を行ったとき、全残炎時間が50秒以下であることが好ましく、32秒以下であることがより好ましく、28秒以下であることがさらに好ましく、25秒以下であることが一層好ましい。
【0067】
<樹脂組成物の製造>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)アルカリ金属塩、および、(C)フィブリル形成能を有するフルオロポリマー、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0068】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。
【0069】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらの方法で得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0070】
本実施形態の成形品は、難燃性が求められる用途に広く用いられる。具体的には、電気電子機器/部品、OA機器/部品、情報端末機器/部品、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などに好ましく用いられる。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0072】
ポリカーボネート樹脂A1、A2、および、A8は、水ボトル由来のリサイクルポリカーボネート樹脂を用いた。A3は、シート由来のリサイクルポリカーボネート樹脂を用いた。A4およびA5は、ヘッドランプレンズ由来のポリカーボネート樹脂を用いた。
ポリカーボネート樹脂A6、A7は、下記市販品のバージンポリカーボネート樹脂を用いた。
【0073】
【表1】
【0074】
<ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量および(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)>
ポリカーボネート樹脂のケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量、および、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)は、以下の通り測定した。
【0075】
サンプル(ポリカーボネート樹脂)約200mgを、ケミルミネッセンス法測定装置にセットし、窒素流量50mL/分の窒素雰囲気下で、50℃から昇温速度20℃/分で350℃まで昇温し、1秒毎に発光量(単位:cps)を測定した。
0秒から810秒までの積算発光量(ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量)(単位:cps)を測定した。
0~500秒の間の最大発光量を「低温側の最大発光量」とし、500秒超810秒以下の中の最大発光量を「高温側の最大発光量」とし、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)を算出した。ただし、高温側で810秒が最大発光量となる場合は、810秒以前で、810秒に最も近いピークを最大発光量とした。
ケミルミネッセンス法測定装置は、東北電子産業製の、CLA-FS4(本体)、CLS-SH0(試料室)を用いた。
結果を下記表2に示す。
【0076】
<2000cm-1ラマンスペクトル強度>
波長532nmのレーザー光にて、露光時間1.0秒、露光回数4回、レーザー出力1.6mWでラマンスペクトルを測定した際の2000cm-1での強度を測定した。測定に際し、ペレットの表面にピントを合わせて測定した。
ラマンスペクトルの強度の測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック製 DXR IIを用いた。
結果を下記表2に示す。
【0077】
<ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定>
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、以下の条件で測定し、ポリスチレン換算重量平均分子量として算出した。結果を下記表2に示す。
装置:HLC-8320GPC EcoSEC(東ソー社製)
<<分析条件>>
カラム Shodex KF-G + KF-805L×3 + KF-800D
流量 1.2mL/min
検出器 HLC-8320GPC
注入量 200μL
カラム温度 40℃
溶離液 Tetrahydrofuran
【0078】
【表2】
【0079】
その他の原料を下記表3に示す。
【表3】
【0080】
実施例1~10、比較例1~3
<樹脂ペレットの調製>
表1~3に記載の各成分を表5または表6に示す割合(各成分は質量部である)で配合し、タンブラーで20分間混合した。この混合物を日本製鋼所製押出機(TEX30HSST)に供給しスクリュー回転数220rpm、吐出量30kg/時間、バレル温度260~270℃の条件で混練し、ストランド状に押出した。これを水で冷却し、ペレタイザーを用いてペレットとした。
【0081】
<燃焼試験片の製造>
得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業社製「SE100DUHP」)を用い、設定温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚0.8mmの成形品である試験片(UL試験片)を得た。得られたUL試験片について、UL94に準拠した垂直燃焼試験を行い、燃焼性結果は良好な順からV-0、V-1、V-2とした。
【0082】
<難燃性の評価>
上記で作製したUL試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿した後、UL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して難燃性を評価した。結果を表5~10に示した。この試験は、鉛直に保持した試験片にバーナーの炎を10秒間接触させた後の残炎時間やドリップ性から、以下の基準により難燃性を評価する方法である。
【0083】
【表4】
【0084】
残炎時間とは、バーナーを離した後に、UL試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さである。ドリップによる綿着火とは、UL試験片の下端から約300mmのところにある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるか否かを調べる試験である。5個の試料のうち、一つでも上記基準を満たさないものがあれば、V-2を満足しないとしてNR(not rated)として示される。
【0085】
【表5】
【0086】
【表6】
【0087】
上記結果から明らかなとおり、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の低温側の最大発光量と高温側の最大発光量の比率である、(低温側の最大発光量)/(高温側の最大発光量)が0.16超であり、かつ、ケミルミネッセンス法で昇温測定した際の積算発光量が8.0×105cps以上であるポリカーボネート樹脂(A-2)を含まない場合(比較例1)、全残炎時間が長く、難燃性評価がV-1になってしまった。また、リン酸エステル系難燃剤を含まない場合(比較例2)、全残炎時間が長く、難燃性評価がNRであり、ドリップも認められた。リン酸エステル系難燃剤の含有量が多い場合(比較例3)、さらに、全残炎時間が長くなってしまった。また、リン酸エステル系難燃剤を配合しても、配合量が少ない場合、全残炎時間が長く、難燃性もV-1に低下してしまった。