(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143283
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離材、二酸化炭素を分離又は回収する方法、および、二酸化炭素分離材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20230928BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20230928BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20230928BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230928BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20230928BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20230928BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20230928BHJP
C07C 215/14 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B01J20/22 A ZAB
B01J20/26 A
B01J20/34 F
B01J20/34 H
B01J20/34 Z
B01J20/30
B01D53/14 100
B01D53/62
B01D53/82
C07C215/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050574
(22)【出願日】2022-03-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「CCUS研究開発・実証関連事業/CO2分離回収技術の研究開発/先進的二酸化炭素固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」委託事業(事業期間、2020年度から2022年度)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウドリ フィロツ アラム
(72)【発明者】
【氏名】ブ ティ クェン
(72)【発明者】
【氏名】余語 克則
(72)【発明者】
【氏名】村岡 利紀
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
4H006
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC05
4D002AC10
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA32
4D002EA07
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB03
4D002GB04
4D002GB12
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA21
4D020BB01
4D020BC01
4D020BC02
4D020BC10
4D020CA01
4D020DA03
4D020DB02
4D020DB04
4D020DB20
4G066AA04C
4G066AA05C
4G066AA16C
4G066AA20C
4G066AA22C
4G066AA61C
4G066AA63C
4G066AA66C
4G066AA75C
4G066AB10B
4G066AC17C
4G066AC27B
4G066BA09
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
4G066FA15
4G066GA01
4G066GA06
4G066GA16
4H006AA03
4H006AB99
4H006BN10
4H006BU32
(57)【要約】
【課題】低コストで高性能な二酸化炭素分離材を提供し、高効率で二酸化炭素を分離又は回収する。
【解決手段】ポリアミンを含み、前記ポリアミンは、窒素原子に結合する水素原子もしくは官能基を有するとともに1分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有するイソプロピルポリアミン成分を含み、少なくとも1つの前記イソプロピル基はヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、前記ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、ヒドロキシ基を有さない前記イソプロピル基は非置換イソプロピル基である、二酸化炭素分離材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミンを含み、
前記ポリアミンは、窒素原子に結合する水素原子または官能基を有するとともに分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有するイソプロピルポリアミン成分を含み、
少なくとも1つの前記イソプロピル基は、ヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、前記ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、
ヒドロキシ基を有さない前記イソプロピル基は非置換イソプロピル基である、二酸化炭素分離材。
【請求項2】
前記イソプロピル基は2級アミンを構成する窒素原子に結合している、請求項1に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項3】
前記イソプロピルポリアミン成分は、2つ以上のNH基と、窒素原子間に介在する1つ以上のアルキレン基と、を有する、請求項1または2に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項4】
前記ポリアミンは、前記イソプロピルポリアミン成分として、第1ポリアミン成分および第2ポリアミン成分からなる群より選択される少なくとも1種を含み、任意成分として、更に、第3ポリアミン成分を含んでもよく、
前記第1ポリアミン成分は、前記非置換イソプロピル基を有さず、かつそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上の前記ヒドロキシイソプロピル基を有し、
前記第2ポリアミン成分は、それぞれ別の窒素原子に結合する1つ以上の前記ヒドロキシイソプロピル基と1つ以上の前記非置換イソプロピル基とを有し、
前記第3ポリアミン成分は、前記ヒドロキシイソプロピル基を有さず、かつそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上の前記非置換イソプロピル基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項5】
前記第1ポリアミン成分、前記第2ポリアミン成分および前記第3ポリアミン成分が、一般式(1):
で表される骨格を有し、
式(1)中のRは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルキルアミノ基を示し、
Aは、炭素数2~6のアルキレン基を示し、
mは、2~50の整数を示し、
複数あるAは、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい、請求項4に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項6】
前記第1ポリアミン成分、前記第2ポリアミン成分および前記第3ポリアミン成分が、それぞれ一般式(2):
で表され、
式(2)中、R
Aは、R
6または基:-A-NR
6R
7を示し、
R
Bは、R
8または基:-A-NR
8R
9を示し、
Aは、炭素数2~6のアルキレン基を示し、
nは、0~5の整数を示し、
pおよびqは、それぞれ独立して0または1を示し、
複数あるAは、同一であっても、それぞれ異なっていてもよく、
複数ある場合のR
5は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよく、
前記第1ポリアミン成分の場合、R
1、R
2、R
6およびR
8は前記ヒドロキシイソプロピル基を示し、R
3、R
4、R
5、R
7およびR
9は水素原子を示し、
前記第2ポリアミン成分の場合、R
1、R
2、R
6およびR
8の少なくとも1つは前記ヒドロキシイソプロピル基を示し、R
1、R
2、R
6およびR
8の残部は前記非置換イソプロピル基を示し、R
3、R
4、R
5、R
7およびR
9は水素原子を示し、
前記第3ポリアミン成分の場合、R
1、R
2、R
6およびR
8は前記非置換イソプロピル基を示し、R
3、R
4、R
5、R
7およびR
9は水素原子を示す、請求項4に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項7】
前記ポリアミンの760mmHgにおける沸点が320℃以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項8】
前記ポリアミンの骨格アミンが、エチレンイミン、プロピレンイミン、2-エチルアジリジン、2-プロピルアジリジンおよび2-ブチルアジリジンのモノポリマー並びにこれらの少なくとも2種のコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか一項記載に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項9】
前記ポリアミンの骨格アミンが、テトラエチレンペンタミン、スペルミン、N,N,N’,N’-テトラキス(3-アミノプロピル)-1,4-ブタンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンおよびトリエチレンテトラミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項10】
前記二酸化炭素分離材は、ポリアミン担持体を含み、
前記ポリアミン担持体は、前記ポリアミンと、前記ポリアミンを担持する支持体と、を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項11】
前記支持体が、シリカ、ポリメチルメタクリレート、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、マグネシア、ジルコニア、ゼオライト、ゼオライト類縁化合物、天然鉱物、廃棄物固体、活性炭およびカーボンモレキュラーシーブからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項12】
前記支持体が、比表面積(BET)が50m2/g以上1000m2/g以下であり、かつ、細孔容積が0.1cm3/g~2.3cm3/gである、請求項10または11に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項13】
前記ポリアミン担持体と、前記ポリアミン担持体を造粒するバインダーと、を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項14】
前記バインダーが、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、フッ素樹脂、セルロース誘導体およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13に記載の二酸化炭素分離材。
【請求項15】
処理対象のガスを請求項1~14のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および
前記第1工程において二酸化炭素を吸収した前記二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、
を含む二酸化炭素を分離又は回収する方法であって、
前記第2工程が
(A)前記二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、
(B)前記二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、及び
(C)前記二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)
のいずれか一つ以上を含む、二酸化炭素を分離又は回収する方法。
【請求項16】
前記処理対象のガスが温度20~60℃かつ二酸化炭素分圧100kPa以下のガスである請求項15に記載の二酸化炭素を分離又は回収する方法。
【請求項17】
ポリアミンを準備する工程と、
前記ポリアミンを支持体と接触させ、前記ポリアミンと、前記ポリアミンを担持する前記支持体と、を含むポリアミン担持体を得る工程と、
を具備し、
前記ポリアミンは、窒素原子に結合する水素原子または官能基を有するとともに分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有するイソプロピルポリアミン成分を含み、
少なくとも1つの前記イソプロピル基は、ヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、前記ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、
ヒドロキシ基を有さない前記イソプロピル基は非置換イソプロピル基である、二酸化炭素分離材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素分離材、二酸化炭素を分離又は回収する方法、および、二酸化炭素分離材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、窒素原子上に少なくとも2つイソプロピル基を有するポリアミンを支持体に担持したポリアミン担持体を含有する二酸化炭素分離材及び当該二酸化炭素分離材を用いた二酸化炭素の分離又は回収方法を提案している。
【0003】
特許文献2は、水素および触媒の存在下でのカルボニル系化合物とヒドロキシルアルキルアミンとの反応を含む、アルキルアルカノールアミン類の調製方法を提案している。
【0004】
特許文献3は、アミン化合物が固定化された多孔質支持体をコアとして有し、二酸化硫黄による不活性化に耐性を有するアミン層をシェルとして有し、アミンの酸化分解を抑制し、酸素及び二酸化硫黄に耐性のあるキレート剤を含むコアシェル型アミン系二酸化炭素吸着剤を提案している。
【0005】
特許文献4は、変性ポリアミンおよび固体支持体を含み、空気を含むガス混合物から二酸化炭素を吸着するための再生可能な固体収着剤を提案している。変性ポリアミンは、アミンとエポキシドとの反応生成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/208712号
【特許文献2】特表2012-530771号公報(特許第5678050号)
【特許文献3】米国特許第10654025号明細書
【特許文献4】米国公開特許2019/0168185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように二酸化炭素を吸着するための複数の材料が開発されているが、製造コストの低減と性能の更なる向上が求められている。例えば、支持体にポリアミンを担持した二酸化炭素分離材の安定性を高め、ポリアミンの揮散による減少を抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ポリアミンを含み、前記ポリアミンは、窒素原子に結合する水素原子または官能基を有するとともに分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有するイソプロピルポリアミン成分を含み、少なくとも1つの前記イソプロピル基は、ヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、前記ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、ヒドロキシ基を有さない前記イソプロピル基は非置換イソプロピル基である、二酸化炭素分離材に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、処理対象のガスを上記二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および前記第1工程において二酸化炭素を吸収した前記二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、を含む二酸化炭素を分離又は回収する方法であって、前記第2工程が(A)前記二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、(B)前記二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方(好ましくは二酸化炭素を含まないガス)を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、及び(C)前記二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)のいずれか一つ以上を含む、二酸化炭素を分離又は回収する方法に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、ポリアミンを準備する工程と、前記ポリアミンを支持体と接触させ、前記ポリアミンと、前記ポリアミンを担持する前記支持体と、を含むポリアミン担持体を得る工程と、を具備し、前記ポリアミンは、窒素原子に結合する水素原子または官能基を有するとともに分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有するイソプロピルポリアミン成分を含み、少なくとも1つの前記イソプロピル基は、ヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、前記ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、ヒドロキシ基を有さない前記イソプロピル基は非置換イソプロピル基である、二酸化炭素分離材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るポリアミンは、生成反応における反応物の制御が容易であり、このポリアミンを担持した二酸化炭素分離材は安定性が高く、二酸化炭素の吸脱着性能に優れている。よって、低コストで高性能な二酸化炭素分離材を提供することができる。また、本開示に係る二酸化炭素分離材を用いることで、高効率で二酸化炭素を分離又は回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例5のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【
図2】実施例6のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【
図3】比較例1のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【
図4】比較例2のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【
図5】比較例7のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【
図6】比較例8のポリアミン担持体による二酸化炭素の吸脱着挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る二酸化炭素分離材について説明するが、二酸化炭素分離材は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
二酸化炭素分離材は、ポリアミンを含み、ポリアミンは、少なくともイソプロピルポリアミン成分を含む。
【0015】
ここで、イソプロピルポリアミン成分は、窒素原子に結合する水素原子または官能基を有するとともに分子内のそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のイソプロピル基を有する。以下、このようなイソプロピルポリアミン成分を、「ポリアミン成分IP」とも称する。なお、窒素原子に結合する官能基としては、水酸基(N-OH)、アルキル基(N-R(Rはメチル基、エチル基等のアルキル基))等が例示できる。
【0016】
ポリアミン成分IPは、分子内に複数の窒素原子を含む。複数の窒素原子の2つ以上がそれぞれ水素原子と結合している。複数の窒素原子の全てがそれぞれ水素原子と結合していてもよい。イソプロピル基の導入により、NとCO2との化学的結合が緩やかになり、少ないエネルギー(例えば低温)でCO2が脱離できるようになる。
【0017】
水素原子と結合する窒素原子は、1つの水素原子と結合する2級アミノ基を形成していてもよく、2つの水素原子と結合する1級アミノ基を形成していてもよい。
【0018】
ここで、単に「イソプロピル基」と称する場合、ヒドロキシ基を有する「ヒドロキシイソプロピル基」およびヒドロキシ基を有さない「非置換イソプロピル基」の両方の総称として「イソプロピル基」を用いる。よって、「ポリアミン成分IP」は、「ヒドロキシイソプロピル基」および「非置換イソプロピル基」の少なくとも一方を合計で2つ以上有するポリアミン成分である。
【0019】
ポリアミン成分IPは、単一のポリアミン成分のみを含んでもよく、複数のポリアミン成分を含んでもよい。すなわち、ポリアミン成分IPは、複数のポリアミン成分の混合物でもよく、精製された単一のポリアミン成分のみを含んでもよい。ポリアミン成分IPは、非置換イソプロピル基を有するポリアミン成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0020】
ポリアミン成分IPは、直鎖構造でもよく、分岐鎖構造でもよく、窒素原子を含む環構造を有してもよい。中でも直鎖構造のポリアミンはCO2吸着サイトが多い点で望ましい。
【0021】
以下、窒素原子に結合するイソプロピル基を「イソプロピル基N」と称する。ポリアミン成分IPは、分子内に有する2つ以上のイソプロピル基Nのうち、少なくとも1つがヒドロキシイソプロピル基である成分を含む。
【0022】
ポリアミン成分IPが分子内に有する2つ以上のイソプロピル基Nの全てがヒドロキシイソプロピル基であってもよい。以下、分子内の2つ以上のイソプロピル基Nの全てがヒドロキシイソプロピル基であるポリアミン成分IPを「HA-ポリアミン成分(もしくは第1ポリアミン成分)」と称する。すなわち、第1ポリアミン成分は、非置換イソプロピル基を有さず、かつそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上のヒドロキシイソプロピル基を有する。
【0023】
以下に、HA-ポリアミン成分の一例として、骨格アミンであるテトラエチレンペンタミン(TEPA)に、TEPAの1mol当たり2.0molのヒドロキシイソプロピル基を結合させて生成させたポリアミン成分(以下、「2.0HA-TEPA」と称する。)の構造を示す。
【0024】
【0025】
2.0HA-TEPAのように、HA-ポリアミン成分は、それぞれ別の2級アミンを構成する窒素原子に結合する2つのヒドロキシイソプロピル基を有してよい。ヒドロキシイソプロピル基が2級アミンを構成する窒素原子に結合しているため、全ての窒素原子にそれぞれ水素原子が結合している。ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、窒素原子に対するα位置の炭素原子にメチル基が結合している。メチル基は立体障害によってCO2の脱離速度を向上させる作用を有すると考えられる。
【0026】
ポリアミン成分IPが分子内に有する2つ以上のイソプロピル基Nのうち、1つ以上がヒドロキシ基を有するヒドロキシイソプロピル基であり、残りの1つ以上がヒドロキシ基を有さない非置換イソプロピル基(-CH(CH3)CH3)であってもよい。以下、このようなハイブリッド型のポリアミン分子を「HA-IP-ポリアミン成分(もしくは第2ポリアミン成分)」と称する。すなわち、第2ポリアミン成分は、それぞれ別の窒素原子に結合する1つ以上のヒドロキシイソプロピル基と1つ以上の非置換イソプロピル基とを有する。
【0027】
HA-IP-ポリアミン成分を含むポリアミン成分IPの一例として、骨格アミンであるテトラエチレンペンタミン(TEPA)に、TEPAの1mol当たり0.25mol(または0.5mol)のヒドロキシアセトンと1.75mol(または1.5mol)のアセトンを反応させて生成させたポリアミン成分IP(以下、「0.25HA-IP-TEPA」、「0.50HA-IP-TEPA」と称する。)について説明する。このような反応で生成するポリアミン成分IPは、HA-IP-ポリアミン成分と後述のIP-ポリアミン成分(もしくは「IP-TEPA」)とを主成分として含み、HA-ポリアミン成分(2.0HA-TEPA)を含み得る複数のポリアミン成分の混合物である。
【0028】
以下に示す一例のHA-IP-ポリアミン成分(以下、「1.0HA-IP-TEPA」と称する。)は、それぞれ別の2級アミンを構成する窒素原子に結合する1つのイソプロピル基と1つのヒドロキシイソプロピル基とを有する。イソプロピル基およびヒドロキシイソプロピル基がそれぞれ2級アミンを構成する窒素原子に結合しているため、全ての窒素原子にそれぞれ水素原子が結合している。ヒドロキシイソプロピル基においてヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、窒素原子に対するα位置の炭素原子にメチル基が結合している。0.25HA-IP-TEPAと0.50HA-IP-TEPAの違いは、HA-IP-ポリアミン成分とIP-ポリアミン成分とHA-ポリアミン成分の混合比の違いということができる。
【0029】
【0030】
次に、HA-IP-ポリアミン成分を含むポリアミン成分IPの別の例として、骨格アミンである1,11-アミノ-4,7-ジアザデカン(DEDP)に、DEDPの1mol当たり0.25molのヒドロキシアセトンと1.75molのアセトンを反応させて生成させたポリアミン成分(以下、「0.25HA-IP-DEDP」と称する。)について説明する。このような反応で生成するポリアミン成分IPも複数のポリアミン成分の混合物である。ここでも、以下に示す一例のHA-IP-ポリアミン成分(以下、「1.0HA-IP-DEDP」と称する。)は、それぞれ別の2級アミンを構成する窒素原子に結合する1つのイソプロピル基と1つのヒドロキシイソプロピル基とを有し、全ての窒素原子にそれぞれ水素原子が結合している。ヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、窒素原子に対するα位置の炭素原子にメチル基が結合している。
【0031】
【0032】
次に、HA-IP-ポリアミン成分を含むポリアミン成分IPの更に別の例として、骨格アミンであるスペルミン(Spermine)に、Spermineの1mol当たり0.25molのヒドロキシアセトンと1.75molのアセトンを反応させて生成させたポリアミン成分(以下、「0.25HA-IP-Spermine」と称する。)について説明する。このような反応で生成するポリアミン成分IPも複数のポリアミン成分の混合物である。ここでも、以下に示す一例のHA-IP-ポリアミン成分(以下、「1.0HA-IP-Spermine」と称する。)は、それぞれ別の2級アミンを構成する窒素原子に結合する1つのイソプロピル基と1つのヒドロキシイソプロピル基とを有し、全ての窒素原子にそれぞれ水素原子が結合している。ヒドロキシ基は1級炭素原子に結合しており、窒素原子に対するα位置の炭素原子にメチル基が結合している。
【0033】
【0034】
ポリアミン成分IPが複数のポリアミン成分を含む場合、分子内に含まれる2つ以上のイソプロピル基Nの全てが非置換イソプロピル基(-CH(CH3)CH3)であるポリアミン成分IPを含んでもよい。以下、このようなポリアミン成分IPを「IP-ポリアミン成分(もしくは第3ポリアミン成分)」と称する。すなわち、第3ポリアミン成分は、ヒドロキシイソプロピル基を有さず、かつそれぞれ別の窒素原子に結合する2つ以上の非置換イソプロピル基を有する。
【0035】
以下に、IP-ポリアミン成分の一例として、骨格ポリアミンであるテトラエチレンペンタミン(TEPA)に、TEPAの1mol当たり2.0molのアセトンを反応させて生成させたポリアミン成分(以下、「IP-TEPA」と称する。)の構造を示す。
【0036】
【0037】
IP-TEPAのように、IP-ポリアミン成分は、それぞれ別の2級アミンを構成する窒素原子に結合する2つのイソプロピル基を有してよい。イソプロピル基はそれぞれ2級アミンを構成する窒素原子に結合しているため、全ての窒素原子にそれぞれ水素原子が結合している。ここでも、窒素原子に対するα位置の炭素原子にメチル基が結合している。
【0038】
以上のように、ポリアミン成分IPは、例えば、第1ポリアミン成分(HA-ポリアミン成分)および第2ポリアミン成分(HA-IP-ポリアミン成分)からなる群より選択される少なくとも1種を含み、任意成分として、更に、第3ポリアミン成分(IP-ポリアミン成分)を含んでもよい。
【0039】
中でも、第2ポリアミン成分(HA-IP-ポリアミン成分)と第3ポリアミン成分(IP-ポリアミン成分)とを必須成分として含む混合物としてのポリアミン成分IPは、二酸化炭素の吸脱着性能が高く、このポリアミン成分IPを担持した二酸化炭素分離材は安定性に優れている。このとき、第1ポリアミン成分(HA-ポリアミン成分)は必ずしも含まなくてもよい。
【0040】
ポリアミン成分IPに占める第1ポリアミン成分(HA-ポリアミン成分)の含有量は25モル%以下が望ましく、第2ポリアミン成分(HA-IP-ポリアミン成分)の含有量は10モル%以上50モル%以下が望ましく、第3ポリアミン成分(IP-ポリアミン成分)の含有量は50モル%以上90モル%以下が望ましい。
【0041】
HA-ポリアミン成分およびHA-IP-ポリアミン成分は、ポリアミン成分IPを担持した二酸化炭素分離材の安定性を高める。HA-ポリアミン成分およびHA-IP-ポリアミン成分の少なくとも一方を含むポリアミンは、IP-ポリアミン成分のみを含むポリアミンよりも蒸気圧が低く、揮散が抑制されるため、長期的使用に適する。特に、ポリアミン成分IPとしてHA-ポリアミン成分を含むポリアミンを担持した二酸化炭素分離材は安定性に優れるとともに二酸化炭素の吸脱着性能に優れている。
【0042】
例えば、60℃でのIP-TEPAの蒸気圧は1.80kPaであるが、0.5HA-IP-TEPAの蒸気圧は1.47kPaにまで低減される。
【0043】
イソプロピル基Nは、2級アミンを構成する窒素原子または3級アミンを構成する窒素原子に結合し得るが、二酸化炭素の脱離性が高まる点で、イソプロピル基Nが2級アミンを構成する窒素原子に結合していることが望ましい。
【0044】
イソプロピル基Nは、ポリアミン分子の末端に結合していることが望ましい。例えば、直鎖構造のポリアミン分子の場合、2つの末端にイソプロピル基Nが結合していてもよい。分岐鎖構造のポリアミン分子の場合、全ての分岐鎖の末端にイソプロピル基Nが結合していてもよい。
【0045】
2級アミンを構成する窒素原子に結合するイソプロピル基Nは、例えば、イソプロピル基Nの出発原料と、1級アミノ基との反応により形成されてもよい。イソプロピル基Nの出発原料としては、例えば、アセトン、ヒドロキシアセトン(CH3COCH2OH)などを用い得る。
【0046】
ポリアミン成分IP(HA-ポリアミン成分、HA-IP-ポリアミン成分およびIP-ポリアミン成分)は、例えば、市販品され、または公知の方法によって得られた1級アミノ基(-NH2基)および-NH-基を有するポリアミンの1級アミノ基に2個以上のイソプロピル基Nを導入することによって製造することが可能である。
【0047】
イソプロピル基Nを導入する方法としては、-NH2基とアセトン、ヒドロキシアセトンなどのイソプロピル基Nの出発原料を反応させる方法が挙げられる。このとき、アセトンとヒドロキシアセトンとを併用するとともに、アセトンとヒドロキシアセトンのモル比を制御することで、HA-ポリアミン成分とHA-IP-ポリアミンとの混合物や、HA-IP-ポリアミン成分とIP-ポリアミン成分との混合物を、任意の組成で得ることができる。
【0048】
具体的には、フラスコなどの反応容器内に酸化白金触媒と無水エタノールを入れ、反応容器内を水素で置換した後、水素を100kPa~150kPaになるまで入れ、所定時間撹拌し、酸化白金触媒を還元する。次に、1級アミノ基(-NH2基)および-NH-基を有するポリアミンと、アセトンおよびヒドロキシアセトンの少なくとも一方と、無水エタノールを、還元された触媒が入った反応容器に入れて、反応容器内を水素で置換した後、水素を約200kPa~350kPaになるまで入れ、その後、圧力の低下が無くなるまで水素を供給しながら撹拌する。このとき、アセトンとNH2が反応して水が脱水して形成されたN=C結合が水素化される。溶液を濾過して触媒を除去した後、エタノールを減圧除去し、得られた無色の液体をさらに真空下で乾燥すればポリアミン成分IPを得ることができる。
【0049】
アセトンと1級アミノ基との反応(第1反応)では、非置換イソプロピル基が形成される。ヒドロキシアセトンと1級アミノ基との反応(第2反応)では、ヒドロキシイソプロピル基が形成される。アセトンとヒドロキシアセトンと1級アミノ基との反応(第3反応)では、非置換イソプロピル基とヒドロキシイソプロピル基とが形成される。第2反応は、HA-ポリアミン成分IPの生成に適している。第3反応は、HA-IP-ポリアミン成分の生成に適している。
【0050】
ヒドロキシアセトンと1級アミノ基との反応では、1級炭素原子に結合するヒドロキシ基(1級アルコール)を有するヒドロキシイソプロピル基(-CH(CH3)CH2OH)が生成する。2級炭素原子に結合するヒドロキシ基(2級アルコール)を有するヒドロキシイソプロピル基(-CH2CH(OH)CH3)は原則として生成しない。ヒドロキシイソプロピル基は、ポリアミン成分IPの蒸気圧を低減し、このポリアミン成分IPを担持した二酸化炭素分離材の安定性を向上させる作用を有する。
【0051】
また、アセトンおよびヒドロキシアセトンは、1級アミノ基と優先的に反応し、NH基を有する2級アミンを構成する窒素原子を生成する。イソプロピル基は2級アミンを構成する窒素原子に結合する。そのため、生成反応における反応物の制御が容易であり、二酸化炭素を吸脱着するNH基をより多く確保することができる。
【0052】
ポリアミン成分IPとしては、2つ以上のNH基と、窒素原子間に介在する1つ以上のアルキレン基と、を有するポリアミン分子を用いることが望ましい。ポリアミン1分子内に含まれるNH基の数は、二酸化炭素の吸着能力を高める観点からは多いほど望ましく、ポリアミン1分子に含まれるNH基の数は、2以上50以下が望ましく、3以上30以下がより望ましい。一方、ポリアミン分子の取り扱い性を考慮すると、ポリアミン1分子内に含まれるNH基の数は、3以上20以下が望ましく、4以上10以下がより望ましく、4以上7以下が更に望ましい。
【0053】
ポリアミン成分IPにおいて、窒素原子間に介在するアルキレン基としては、炭素数1~6のアルキレン基が望ましく、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが好ましい。ポリアミン1分子内に含まれるアルキレン基の数は、ポリアミン1分子内に含まれるNH基の数に応じて選択すればよい。ポリアミン1分子内に1種のみのアルキレン基が含まれてもよく、2種以上のアルキレン基が含まれて入れもよい。
【0054】
第1ポリアミン成分、第2ポリアミン成分および第3ポリアミン成分は、一般式(1):
【0055】
【0056】
で表される骨格を有してもよい。ただし、式(1)中のRは、水素原子または炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のアルキルアミノ基を示し、Aは、炭素数2~6のアルキレン基を示し、mは、2~50の整数を示し、複数あるAは、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい
【0057】
第1ポリアミン成分、第2ポリアミン成分および第3ポリアミン成分は、例えば、それぞれ一般式(2):
【0058】
【0059】
で表すことができる。
【0060】
式(2)中、RAは、R6または基:-A-NR6R7を示し、RBは、R8または基:-A-NR8R9を示し、Aは、炭素数2~6のアルキレン基を示し、nは、0~5の整数を示し、pおよびqは、それぞれ独立して0または1を示す。
【0061】
複数あるAは、同一であっても、それぞれ異なっていてもよく、複数ある場合のR5は、同一であっても、それぞれ異なっていてもよい。
【0062】
第1ポリアミン成分の場合、R1、R2、R6およびR8はヒドロキシイソプロピル基を示し、R3、R4、R5、R7およびR9は水素原子を示す。
【0063】
第2ポリアミン成分の場合、R1、R2、R6およびR8の少なくとも1つはヒドロキシイソプロピル基を示し、R1、R2、R6およびR8の残部は非置換イソプロピル基を示し、R3、R4、R5、R7およびR9は水素原子を示す。
【0064】
第3ポリアミン成分の場合、R1、R2、R6およびR8は非置換イソプロピル基を示し、R3、R4、R5、R7およびR9は水素原子を示す。
【0065】
ポリアミンの骨格アミンとしては、エチレンイミン、プロピレンイミン、2-エチルアジリジン、2-プロピルアジリジンおよび2-ブチルアジリジンのモノポリマー並びにこれらの少なくとも2種のコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。例えば、テトラエチレンペンタミン、スペルミン、N,N,N’,N’-テトラキス(3-アミノプロピル)-1,4-ブタンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンおよびトリエチレンテトラミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ポリアミンの骨格アミンとは、2級アミンを構成する窒素原子に結合するイソプロピル基Nを生成させる際に、イソプロピル基Nの出発原料(アセトン、ヒドロキシアセトン等)と反応させる1級アミノ基を有するポリアミンをいう。
【0066】
HA-IP-ポリアミン成分の具体例としては、1-イソプロピルアミノ-11-ヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン、N-3-(イソプロピルアミノ)プロピル-N’-3-(ヒドロキシイソプロピルアミノ)プロピル-1,4-ブタンジアミン、N,N-ビス(3-(イソプロピルアミノ)プロピル)-N’,N’-ビス(3-(ヒドロキシイソプロピルアミノ)プロピル)-1,4-ブタンジアミン、1-イソプロピルアミノ-14-ヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,9,12-テトラアザテトラデカン、1-イソプロピルアミノ-17-ヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,9,12,15-ペンタアザヘプタデカン、1-イソプロピルアミノ-8-ヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,-ジアザオクタンなどが挙げられる。なお、市販されているHA-IP-ポリアミンは、通常、複数成分の混合物である。
【0067】
ポリアミン(特にポリアミン成分IP)の760mmHgにおける沸点は320℃以上である。この場合、ポリアミンを含む二酸化炭素分離材を高い温度(例えば、60℃程度)でも安定して使用できる。760mmHgで320℃以上の沸点を有していれば、減圧(例えば、0.2Pa程度)によって沸点が低下しても、ポリアミンが支持体に担持された状態を維持することができる。そのため、これらのポリアミンを用いることにより、使用温度を常温よりも高い温度とし、効率的に二酸化炭素の脱離を行うことができる。
【0068】
<支持体>
支持体は、ポリアミン(特にポリアミン成分IP)を担持することができ、二酸化炭素の分離回収の条件に耐え得る材料であればよい。例えば、セラミックス、多孔質材料、炭素材料、樹脂材料などを用い得る。具体的には、シリカ、ポリメチルメタクリレート、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、マグネシア、ジルコニア、ゼオライト、ゼオライト類縁化合物、天然鉱物、廃棄物固体、活性炭、カーボンモレキュラーシーブ等が挙げられる。支持体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
支持体は、市販品をそのまま用いてもよいし、公知の方法によって合成した支持体を用いてもよい。市販品としては、シグマアルドリッチ社製のメソ構造シリカMSU-F、エボニック社製のSIPERNAT(登録商標)50S、富士シリシア化学株式会社製のCARiACT(登録商標)Q10、Q30、Q50等が挙げられる。
【0070】
支持体は、ポリアミンを多く担持するために、多孔質で比表面積と細孔容積が大きな材料が好ましい。比表面積(BET)は50m2/g以上2000m2/g以下が望ましく、100m2/g以上1000m2/g以下がより望ましい。細孔容積は0.1cm3/g以上2.3cm3/g以下が望ましく、0.7cm3/g以上2.3cm3/g以下がより望ましい。
【0071】
比表面積及び細孔容積は、例えば、定容法を用いて比表面積・細孔径分布測定装置(ASAP2420:株式会社島津製作所製)によって測定することができる。より具体的な比表面積・細孔径分布測定装置を用いたガス吸着測定方法としては、例えば、加熱真空排気により、試料の前処理を行い、サンプル管に測定試料をおよそ0.1g量り取る。その後、40℃まで加熱し、真空排気を6時間行った後、室温まで冷却し、サンプル質量を計量する。測定では液体窒素温度を設定し、圧力範囲を指定する。比表面積、細孔容積及び細孔径は、得られた窒素吸着等温線を解析して算出することができる。
【0072】
<ポリアミン担持体>
ポリアミン担持体は、ポリアミンを支持体に担持させたものである。ポリアミン担持体は、ポリアミン(特にポリアミン成分IP)とこれを担持する支持体とを含む。
【0073】
ポリアミン担持体は、ポリアミンを準備する工程と、ポリアミン担持体を得る工程とを有する製造方法で製造できる。ポリアミン担持体を得る工程では、ポリアミンを支持体と接触させて、ポリアミンを担持する支持体を生成させればよい。
【0074】
ポリアミン担持体は、例えば、ポリアミン(特にポリアミン成分IP)の溶液に、支持体を混合し、例えば室温で撹拌後、溶媒(例えばアルコール)を留去することにより製造することができる。溶媒を留去する方法としては、例えば、エバポレーター等で加熱しながら減圧する方法が挙げられる。
【0075】
ポリアミン(特にポリアミン成分IP)を支持体に担持させることにより、水溶液の二酸化炭素分離材では適用できない圧力スィング法および温度スィング法に適用することが可能である。圧力スィング法は、二酸化炭素分離材を減圧条件下に置き、二酸化炭素を脱離させる工程を含む。温度スィング法は、二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程を含む。
【0076】
<二酸化炭素分離材>
二酸化炭素分離材は、例えば、ポリアミン担持体と、ポリアミン担持体を造粒するバインダーとを含む。すなわち、二酸化炭素分離材は、バインダーを用いた造粒物としてのポリアミン担持体を含んでもよい。バインダーを用いてポリアミン担持体を造粒することにより、耐振性や耐摩耗性を付与することができ、さらに水中での安定性を向上させることが可能である。
【0077】
バインダーとしては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、粘土鉱物、フッ素樹脂、セルロース誘導体およびエポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を用いてもよい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。セルロース誘導体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチル化澱粉等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられ、エポキシ樹脂の硬化剤(変性ポリアミド樹脂等)との混合物として用いてもよい。その他の高分子(ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド等)等を使用してもよい。これらの化合物は市販品として入手可能であるか、公知の方法によって容易に製造することが可能である。バインダーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
バインダーとしては、市販品として、日産化学株式会社製のスノーテック30およびAS-200、ダイキン工業株式会社製のポリフロンPTFE D-210C、三晶株式会社製のNEOVISCO MC RM4000、東レ株式会社製のAQナイロン P-70、ナガセケムテックス株式会社製のデナコール EX-421等を用いることができる。
【0079】
バインダーの二酸化炭素分離材における含有量は、造粒が可能な量であれば、特に限定されないが、ポリアミンの含有量の低下を防ぐ点で少量であることが好ましい。
【0080】
バインダーを用いて、造粒する場合の造粒物の平均粒径は、ガスを吸着材充填層に供給した時の圧力損失を低減する観点から、0.1mm~2.0mmが好ましい。
【0081】
二酸化炭素分離材に含まれるポリアミン(特にポリアミン成分IP)の含有率は、特に限定されないが、効率的に二酸化炭素を分離回収する観点から、ポリアミンの含有率は、例えば、15質量%以上が好ましく、20質量%以上が特に好ましい。ポリアミンの含有率は、例えば、70質量%以下でもよい。
【0082】
<二酸化炭素の分離又は回収する方法>
二酸化炭素分離(回収)方法の処理対象は、二酸化炭素を含むガスである。二酸化炭素を含むガスは、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、コークスで酸化鉄を還元する製鐵所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鐵所の転炉、各種製造所におけるボイラー、セメント工場におけるキルン等、さらには、ガソリン、重油、軽油等を燃料とする自動車、船舶、航空機等の輸送機器から排出される排ガスであってもよい。二酸化炭素を含むガスは、潜水調査船、宇宙ステーション、ビル、オフィス等の室内空間等の密閉空間において、人の呼吸や機器のエネルギー変換等で排出される二酸化炭素等を含むガスであってもよい。また、大気中の二酸化炭素であっても良い。
【0083】
本開示に係る二酸化炭素の分離又は回収方法は、二酸化炭素分離材を用いることを特徴とする。
【0084】
二酸化炭素分離(回収)方法は、処理対象のガスを二酸化炭素分離材に接触させ、二酸化炭素を吸収する第1工程、および、第1工程において二酸化炭素を吸収した二酸化炭素分離材から二酸化炭素を脱離させる第2工程、を含む。
【0085】
第1工程における処理対象のガス中の二酸化炭素含有量及び温度は、二酸化炭素分離材が耐え得る条件であれば、特に限定されない。例えば、二酸化炭素分圧は100kPa以下でもよく、温度は10℃~60℃であってもよい。具体的には、火力発電所等で想定される使用条件(二酸化炭素分圧:7~100kPa、温度:40~60℃)や、宇宙ステーション等で想定される使用条件(二酸化炭素分圧:0~1kPa、温度:20~25℃)等が挙げられる。処理対象のガスは、大気圧であっても、加圧されていてもよい。
【0086】
第1工程の処理対象のガスは、水蒸気を含んでいてもよい。二酸化炭素分離材は水蒸気を含んでいる処理対象ガスであっても、二酸化炭素の吸着性に優れるため、除湿操作を省略することができる。
【0087】
第2工程における二酸化炭素を脱離させる方法としては、(A)二酸化炭素分離材を減圧条件下におき、二酸化炭素を脱離させる工程(圧力スィング法)、(B)二酸化炭素分離材に水蒸気および不活性ガスの少なくとも一方(好ましくは二酸化炭素を含まないガス(もしくは二酸化炭素含有量の低いガス))を接触させ、二酸化炭素を脱離させる工程、及び(C)二酸化炭素分離材を加熱し、二酸化炭素を脱離させる工程(温度スィング法)などを含む方法が挙げられる。
【0088】
工程(A)を含む方法では、二酸化炭素の脱離量及び二酸化炭素分離材の安定性の点で、0.2Pa程度まで圧力を下げることが好ましい。減圧時に二酸化炭素分離材又はこれを含む容器を加熱してもよい。加熱する場合の温度は60℃程度までが望ましく、この場合、0.5Pa程度まで圧力を下げることが好ましい。工程(A)を含む方法は、処理対象のガスが温度20~60℃かつ二酸化炭素分圧100kPa以下である場合に好適である。
【0089】
工程(B)を含む方法では、例えば、不活性ガス、水蒸気、二酸化炭素を含まないガスなどを二酸化炭素分離材に接触させることにより、二酸化炭素分圧を下げ、二酸化炭素を脱離させることができる。二酸化炭素分離材に接触させるガスとしては、二酸化炭素分離材がそのガス中で安定であればよく、アルゴンなどの不活性ガスや窒素、水蒸気等が好ましく、減圧された水蒸気がより好ましい。
【0090】
工程(C)を含む方法では、二酸化炭素吸収時よりも温度を上昇させることにより、二酸化炭素を脱離させることができる。この場合における、二酸化炭素吸収時の温度は、例えば、10~40℃であってもよく、二酸化炭素脱離時の温度は、例えば60℃程度であってもよい。
【0091】
[実施例]
次に、本開示について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、ポリアミンの担持量(質量%)は、二酸化炭素を除いた二酸化炭素分離材(ポリアミン担持体)の質量に対するポリアミンの質量を百分率で表したものである(ここではポリアミンと支持体との合計に対するポリアミンの割合)。
【0092】
化合物の理化学的性質の測定には以下の機器を用いた。
液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS):日本ウォーターズ株式会社製のAllaiance LC/MSシステム
【0093】
以下において、例えば「2HA-TEPA」等の記載の「2HA」は、骨格アミン1mol当たりと反応させたヒドロキシアセトン(HA)のモル数が2molであることを示す。
【0094】
また、例えば「0.5HA-IP-TEPA」等の記載の「0.5HA_IP」は、骨格アミン1分子当たりと反応させたヒドロキシアセトン(HA)のモル数が0.5molであり、かつ骨格アミン1mol当たりと反応させたアセトンのモル数がHAと合計で2molとなる量(すなわち1.5mol)であることを示す。
【0095】
また、例えば「0.5HA-IP-TEPA(29)/Q30」等の記載の「(29)/Q30」は、ポリアミン担持体に含まれるポリアミン成分IPの含有率が29質量%であり、かつ支持体がQ30であることを示す。
【0096】
《実施例1》
<ポリアミン成分IPの合成>
ジヒドロキシイソプロピル化テトラエチレンペンタミン(別名:1,11-ジヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン)(2HA-TEPA)の合成
【0097】
内容量1Lのフラスコに酸化白金触媒2gと市販の無水エタノール100mlを入れ、フラスコ内を水素で置換した後、水素を150kPaになるまで入れ、500rpmで15~20分間撹拌し、酸化白金触媒を還元した。
【0098】
次に、テトラエチレンペンタミン(TEPA)189.31g(1.0モル)、ヒドロキシアセトン(HA:CH3-CO-CH2OH)170.38g(2.3モル)、無水エタノール150mlを還元された触媒が入ったフラスコに入れた。
【0099】
フラスコ内を水素で置換した後、水素を約200kPaになるまで入れ、水素の理論量(2mol)が吸収されて圧力が下がり、その後10時間吸収が無いことが確認されるまで溶液を攪拌した。
【0100】
溶液を濾過して触媒を除去した後、エタノールを40℃で減圧除去し、得られた無色の液体をさらに真空下(10-1mmHg)、50°Cで一晩乾燥して、2HA_TEPAを得た(収率95%)。
【0101】
<二酸化炭素分離材(ポリアミン担持体)の調製>
所定量の2HA_TEPAを秤量し、これを容量300cm3のナスフラスコに量りとったメタノール(和光純薬工業社製;特級)20gに溶解させた。
【0102】
その後、別途秤量した所定量の支持体Q30(富士シリシア化学株式会社製のCARiACT Q30;比表面積100m2/g、平均細孔径30nm、細孔容積0.9mL/g)をナスフラスコに入れ、室温で2時間攪拌した後、これをロータリーエバポレーター(EYELA社製;N-1000)で40℃に加熱しながら、系内の圧力が0.03MPaになるまで減圧することで、メタノール溶媒を除去し、2HA_TEPAを25質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0103】
メタノール溶媒の除去は、フラスコと試薬類の合計の重さを予め量り取り、メタノール溶媒に相当する20gの質量減少が確認できた時点で完了とした。調製したポリアミン担持体は評価試験に供するまでナスフラスコに栓をしてデシケータ内で保管した。
【0104】
《実施例2》
2HA_TEPAの含有率を29質量%に変更したこと以外、実施例1と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0105】
《実施例3》
<IP-ポリアミンの合成>
1-イソプロピルアミノ-11-ヒドロキシイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン)と、1,11-ジイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン)との混合物(0.5HA-IP-TEPA)の合成
【0106】
還元された触媒が入ったフラスコに、イソプロピル基Nの出発原料としてヒドロキシアセトンだけでなく、ヒドロキシアセトン(HA)37.04g(0.5モル)とアセトン87.12g(1.5モル)を入れたこと以外、実施例1と同様に、0.5HA-IP-TEPAを得た(収率95%)。また、実施例1と同様に、0.5HA-IP-TEPAを25質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0107】
《実施例4》
0.5HA-IP-TEPAの含有率を29質量%に変更したこと以外、実施例3と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0108】
実施例1では、フラスコ内で下記スキームの上段の反応が進行する。実施例2では、フラスコ内で下記スキームの下段の反応が進行すると同時に1,11-ジイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン(IP-TEPA)を生成する反応が進行したと考えられる。
【0109】
【0110】
《実施例5》
<IP-ポリアミンの合成>
0.25HA-IP-TEPAの合成
【0111】
還元された触媒が入ったフラスコに、ヒドロキシアセトン(HA)18.52g(0.25モル)とアセトン101.64g(1.75モル)を入れたこと以外、実施例3と同様に、0.25HA-IP-TEPAを得た(収率95%)。また、実施例3と同様に、0.25HA-IP-TEPAを25質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0112】
《実施例6》
0.25HA-IP-TEPAの含有率を29質量%に変更したこと以外、実施例5と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0113】
《実施例7》
0.25HA-IP-TEPAの含有率を35質量%に変更したこと以外、実施例5と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0114】
《実施例8》
0.25HA-IP-TEPAの含有率を40質量%に変更したこと以外、実施例5と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0115】
《実施例9》
0.25HA-IP-TEPAの含有率を50質量%に変更し、かつ支持体としてQ30の代わりにMSU-F(シグマアルドリッチ社製のメソポーラスシリカ、比表面積550m2/g、平均細孔径20nm、細孔容積2.0mL/g)を用いたこと以外、実施例5と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0116】
《実施例10》
支持体としてQ30の代わりにSIPERNAT(エボニック社製、比表面積380、細孔容積1.1mL/g)を用いたこと以外、実施例9と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0117】
《実施例11》
<IP-ポリアミンの合成>
1-イソプロピルアミノ-11-ヒドロキシイソプロピルアミノ-4,7-ジアザデカンと、1,11-ジイソプロピルアミノ-4,7-ジアザデカン)との混合物(0.25HA_IP-DEDP)の合成
【0118】
還元された触媒が入ったフラスコに、骨格アミンとして1,11-アミノ-4,7-ジアザデカン(DEDP)174.29g(1.0モル)を入れ、イソプロピル基Nの出発原料としてヒドロキシアセトン(HA)18.52g(0.25モル)とアセトン101.64g(1.75モル)を入れたこと以外、実施例5と同様に、0.25HA-IP-DEDPを得た(収率95%)。また、実施例6と同様に、0.25HA-IP-DEDPを29質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0119】
《実施例12》
<IP-ポリアミンの合成>
イソプロピルヒドロキシイソプロピルスペルミンと、1,11-ジイソプロピルアミノ-4,9-ジアザドデカン)との混合物(0.25HA-IP-Spermine)の合成
【0120】
還元された触媒が入ったフラスコに、骨格アミンとしてスペルミン(Spermine)202.34g(1.0モル)を入れ、イソプロピル基Nの出発原料としてヒドロキシアセトン(HA)18.52g(0.25モル)とアセトン101.64g(1.75モル)を入れたこと以外、実施例5と同様に、0.25HA-IP-Spermineを得た(収率95%)。また、実施例6と同様に、0.25HA-IP-Spermineを29質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0121】
《比較例1~6》
表1に示す骨格アミンをそのまま表1に示す支持体に表1に示す含有率で担持させてポリアミン担持体を得た。
【0122】
《比較例7》
<IP-ポリアミンの合成>
ジイソプロピル化テトラエチレンペンタミン(別名:1,11-ジイソプロピルアミノ-3,6,9-トリアザウンデカン)(IP-TEPA)の合成
【0123】
還元された触媒が入ったフラスコに、イソプロピル基Nの出発原料としてアセトン127.8g(2.3モル)だけを入れたこと以外、実施例1と同様に、IP-TEPAを得た(収率95%)。また、実施例1と同様に、IP-TEPAを25質量%含むポリアミン担持体を得た。
【0124】
《比較例8》
IP-TEPAの含有率を29質量%に変更したこと以外、実施例7と同様に、ポリアミン担持体を得た。
【0125】
表1に各実施例および比較例のポリアミン担持体の組成をまとめる。
【0126】
【0127】
<評価試験>
実施例および比較例のポリアミン担持体について、所定の温度で二酸化炭素の各圧力における平衡吸収量を定容法によって測定した。測定装置には、株式会社島津製作所製のASAP2020を用いた。この装置は、JIS Z 8831-2およびJIS Z 8831-3に記載の原理でガス吸着量を測定することにより、材料の比表面積および細孔径を求めることができる装置である。本装置を用いて同様の原理により二酸化炭素の吸収量を測定することができる。各評価試験における測定方法は、特に記載のない限り、以下の通りである。
【0128】
サンプル管に測定試料を約0.1g量り取った後、6時間の真空排気により、試料の前処理を行い、さらに27℃、40℃または60℃のいずれかの温度に試料温度を保持した。サンプル管に二酸化炭素を少しずつ導入し、100kPaまでの圧力範囲を指定して、各測定温度における二酸化炭素の分圧と吸収量との関係を得た。
【0129】
減圧による二酸化炭素の脱離(回収)量は、脱離後のポリアミン担持体を用いた場合の二酸化炭素の吸収量とした。脱離した量の二酸化炭素が、その後、吸収されるためである。具体的には、二酸化炭素を吸収させた試料からターボ分子ポンプにより、20分間減圧排気した後、再度、前記方法によって、二酸化炭素を導入し、等温線を測定した。二酸化炭素の吸収量は、100kPaまたは13kPaでの吸収量を読み取った。5分間減圧時の到達真空度は0.5Paであり、20分間減圧時の到達真空度は0.2Paであった。
【0130】
<評価試験1>
実施例1~12および比較例1~9で得られたポリアミン担持体の二酸化炭素の吸収量および減圧による脱離(回収)量を測定した。表2に結果を示す。また、
図1、2に実施例5、6の0.25HA-IP-TEPA(25)/Q30と0.25HA-IP-TEPA(29)/Q30の結果を示し、
図3、4に比較例1、2のTEPA(25)/Q30とTEPA(29)/Q30の結果を示し、
図5、6に比較例7、8のIP-TEPA(25)/Q30とIP-TEPA(29)/Q30の結果を示す。各図において、横軸(Absolute pressure)はCO
2の絶対圧もしくは分圧に相当し、縦軸(CO
2 adsorbed)はCO
2の吸収量を示す。
【0131】
以下、表中の二酸化炭素の吸収量の単位はポリアミン担持体1kg当たりの吸収量(g)である。また、(A)に示す吸収量(mol/kg)は、フレッシュなサンプルの各温度、各圧力における吸収量(
図1~6のFirst adsorption)を示し、(B)に示す減圧による脱離(回収)量は、20分間真空ポンプにて減圧したポリアミン担持体を用いた同条件での吸収量(
図1~6のRegeneration)から求めた値であり、(B)に示す量が吸収と減圧脱離を繰り返した時の吸収量と脱離(回収)量に相当する。(B)では同様の操作を3回繰り返し、同様の値が得られることを確認した。
【0132】
【0133】
<評価試験2>
実施例1~12および比較例1~8で得られたポリアミン担持体を用い、40℃、13kPaの条件で二酸化炭素の吸収量を測定し、40℃で脱離量を測定した他は、評価試験1と同様にして各値を測定した。表3に結果を示す。
【0134】
【0135】
<評価試験3:温度の影響>
実施例6(0.25HA-IP-TEPA(29)/Q30)および比較例2(TEPA(29)/Q30)のポリアミン担持体をそれぞれ用いて、27℃、40℃および60℃のそれぞれ温度で、二酸化炭素の吸収量と脱離(回収)量を測定した。表4に結果を示す。
【0136】
【0137】
<評価試験4:水蒸気の影響検討>
ポリアミン担持体は、二酸化炭素以外に水蒸気を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する条件でも使用されるため、水蒸気の影響を検討した。加湿条件下における二酸化炭素の吸収量の測定には、固定床流通式試験装置(GLサイエンス社製)を用いた。
【0138】
実施例6(0.25HA-IP-TEPA(29)/Q30)または実施例12(0.25HA-IP-Spermine(29)/Q30)のポリアミン担持体1gを反応管に充填し、アルゴン気流中(30cm3・min-1)、80℃で6時間乾燥脱気の前処理後、反応管を60℃に保温した。次に導入ガスをH2O/Ar混合ガス(全流速:30cm3・min-1)に切り替え、ポリアミン担持体に水を吸収させた。
【0139】
水の吸収が飽和に達した後、導入ガスをCO2(13%)-H2O-N2(balance)(全流速:30cm3・min-1)に切り替え、同時に出口ガス組成の経時変化をガスクロマトグラフ(GLサイエンス社製;GC-390又はGC-323)で測定することにより破過曲線を得た。
【0140】
二酸化炭素の吸収量が飽和に達した後、導入ガスをアルゴン(30cm3・min-1)に切り替え、引き続き、出口ガス組成の経時変化をガスクロマトグラフにより測定した。本測定では真空ポンプによる減圧に代えてアルゴンガスを導入することにより、系内の二酸化炭素分圧を下げて二酸化炭素を脱離させた。
【0141】
吸収量は、吸収開始時から飽和に達するまでの時間と出口濃度変化の積算から求めた。脱離量は、アルゴンガスに切り替えた時間から二酸化炭素が出口側からほぼ検出されなくなるまでの時間と出口濃度変化の積算から求めた。表5に結果を示す。乾燥条件での評価は、60℃、13kPaの条件で二酸化炭素の吸収量を測定し、60℃で脱離量を測定した他は、評価試験1と同様にして、前述のASAP2020によって測定した結果である。
【0142】
【0143】
<評価試験5:加熱による脱離の検討>
温度スイング法への適用可能性を検討するため、固定床流通式試験装置(GLサイエンス社製)を用いて、実施例9(0.25HA-IP-TEPA(50)/MSU-F)または比較例5(TEPA(50)/MSU-F)のポリアミン担持体の加熱による脱離(回収)について検討を行った。
【0144】
加熱による脱離は、固定床流通式試験装置を用いて60℃で二酸化炭素を含む混合ガス(CO2(13%)-N2バランス)を通し、二酸化炭素の吸収量が飽和に達した後、アルゴンガスを導入し、60℃で30分間保持して、その間に脱離した二酸化炭素の量を測定した。表6に結果を示す。
【0145】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本開示に係る二酸化炭素分離材は、二酸化炭素の吸収量が増加すると共に、短時間の減圧で多くの二酸化炭素を分離回収できるため、効率的かつ実用的であり、再利用に適している。また、本開示に係る二酸化炭素分離材は、二酸化炭素吸収及び脱離工程において、圧力スィング法、温度スィング法のいずれの方法でも二酸化炭素の分離回収を行うことが可能であり、様々な使用環境に適した二酸化炭素吸収及び脱離工程を選択することが可能である。加えて、本開示に係る二酸化炭素分離材は、水蒸気が共存する場合においても、吸収、脱離及び再吸収の性能が低下せず、除湿工程を必要としないため、省エネルギーのシステム構築及び装置の小型化によるコスト削減が可能である。