(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143300
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】送電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/70 20160101AFI20230928BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20230928BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20230928BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
H02J50/70
H02J50/10
H02J50/12
H05K9/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050603
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 実
(72)【発明者】
【氏名】松沢 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊明
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA17
5E321CC16
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】簡単な構造であり、その外形や質量の過剰な増大を抑制しつつ送電コイルの磁界漏れを抑制し得る送電装置を提供すること。
【解決手段】
送電コイル20を含む送電部2と、前記送電部2を取り囲む周壁30を有する金属製の筐体3と、を具備し、
前記周壁30のうち受電コイル90の配置側に位置する頂端部30tには、前記周壁30の内側に向けて突出する遮蔽部5が一体化されている、送電装置1。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電コイルを含む送電部と、前記送電部を取り囲む金属製の周壁を有する筐体と、を具備し、
前記周壁のうち受電コイルの配置側に位置する頂端部には、前記周壁の内側に向けて突出する金属製の遮蔽部が一体化されている、送電装置。
【請求項2】
前記送電部は、さらに、前記送電コイルに重ねられた磁性部材を有し、
前記送電部のうち受電コイルの非配置側に位置する底面から前記周壁の前記頂端部までの長さLp、前記遮蔽部の突出長さLe、及び、前記送電コイルまたは前記磁性部材の外周端部と前記周壁との最短距離Lxの関係が、Lx<(Lp+Le)である、請求項1に記載の送電装置。
【請求項3】
前記Lp、前記Le、前記Lx、および、前記送電コイルと前記受電コイルとの距離Hの関係が、0.41≦(Lp+Le-Lx)/H≦0.5の範囲内である、請求項2に記載の送電装置。
【請求項4】
前記周壁の前記頂端部に一体化され前記送電部を頂側から覆う蓋部を有し、
前記蓋部の径方向外側領域には前記遮蔽部が設けられ、
前記蓋部の径方向内側領域には、磁界漏れ抑制用金属パターンが設けられている、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の送電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に無線給電するための送電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、電動自転車、ひいてはスマートフォンやタブレット等の携帯情報端末等に代表される電子機器を、電磁結合により無線給電するための送電装置が提案されている。この種の送電装置における電力伝送方式としては、非放射方式のものおよび放射方式のものが知られている。このうち非放射方式の電力伝送方式としては、電磁誘導及び磁界共鳴を含む磁界結合、または、電界結合を用いたものが知られている。放射方式の電力伝送方式としてはマイクロ波やレーザー波といった電磁波エネルギーを用いたものが知られている。
【0003】
現在、送電装置の電力伝送方式としては、非放射方式を採用するのが一般的である。この種の非放射方式の送電装置においては、送電コイル-受電コイル間での電磁誘導や磁界共鳴を用いることで、送電コイル側から受電コイル側への給電がなされるのが一般的である(例えば、特許文献1~4参照)。
【0004】
特許文献1には、送電コイル(1次側コア)から、受電コイル(2次側コア)に無線給電を行い、ひいては当該受電コイルに電気的に接続されたバッテリーセルを充電する非放射方式の送電装置が紹介されている。特許文献2および特許文献3にも、電気自動車に給電を行うための非放射方式の送電装置が紹介されている。特許文献4には、送電コイルと受電コイルとによる電磁共鳴を用いた非放射方式の送電装置が紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-268334号公報
【特許文献2】特開2016-103613号公報
【特許文献3】特開2014-110726号公報
【特許文献4】特開2011-205750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような電磁誘導や磁界共鳴を用いた各種の送電装置により電子機器への送電を行う場合、送電コイルと受電コイルとの隙間から磁界漏れが生じる場合がある。当該磁界漏れは、送電コイルと受電コイルとの間での送電効率の低下の原因となり、さらに、漏れ磁束が他の電子機器等に悪影響を及ぼす虞もある。
【0007】
上記の磁界漏れを抑制するため、例えば特許文献1には、1次側コア、2次側コアで発生する磁場を遮蔽板によって遮蔽する技術が紹介されている。特許文献2には、受電コイルの上方に設けたシールド部材により磁界漏れを抑制する技術が紹介されている。特許文献3には、送電コイルによる漏れ磁束をキャンセルコイルによりキャンセルする技術が紹介されている。
【0008】
ところで、上記した技術における磁界漏れ抑制のための機構は、構造が複雑であるか、または、その外形や質量が大きい。その結果、当該機構を含む送電装置の製造コストが高騰したり、当該送電装置の外形や質量が過大になったりする問題がある。
本発明は、上記事情を考慮して為されたものであり、簡単な構造であり、その外形や質量の過剰な増大を抑制しつつ送電コイルの磁界漏れを抑制し得る送電装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の送電装置は、
送電コイルを含む送電部と、前記送電部を取り囲む金属製の周壁を有する筐体と、を具備し、
前記周壁のうち受電コイルの配置側に位置する頂端部には、前記周壁の内側に向けて突出する金属製の遮蔽部が一体化されている、送電装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の送電装置は、簡単な構造であり、その外形や質量の過剰な増大を抑制しつつ送電コイルの磁界漏れを抑制し得る送電装置である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の送電装置と受電コイルとの関係を模式的に説明する説明図である。
【
図2】実施例1の送電装置を周壁の頂端側からみた様子を模式的に説明する説明図である。
【
図3】実施例1の送電装置を厚さ方向に切断した様子を模式的に説明する説明図である。
【
図4】実施例1の送電装置における磁界漏れ抑制用金属パターンを模式的に説明する説明図である。
【
図5】評価1の結果を模式的に説明する説明図である。
【
図6】評価2の結果を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a~b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例等に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0013】
本発明の送電装置は送電部および筐体を具備する。送電部は送電コイルを含み、当該送電部を取り囲む金属製の周壁を有する。送電装置には、受電コイルが配置される側、すなわち受電コイルが配置される側(本明細書においては受電コイルの配置側と称する)がある。周壁のうち当該受電コイルの配置側に位置する頂端部には、当該周壁の内側に向けて突出する遮蔽部が一体化されている。
【0014】
ここで、送電装置の送電コイルから電子機器の受電コイルに向けて送電を行う際に、送電コイルによってつくられた磁束の一部は、受電コイルと鎖交しない、所謂漏れ磁束となる。当該漏れ磁束の一部は筐体の内側に向かい、他の一部は周壁の頂端部を経て筐体の外側に向かう。
【0015】
本発明の送電装置において、周壁の頂端部には、当該周壁の内側に向けて突出する遮蔽部が一体化されている。このため本発明の送電装置において、周壁の頂端部を経て筐体の外側に向かう漏れ磁束の少なくとも一部は、遮蔽部により遮蔽され、送電コイルの径方向外側かつ筐体の外側への磁界の広がりが抑制される。つまり、本発明の送電装置によると、送電コイルの磁界漏れを抑制することが可能である。また、本発明の送電装置における遮蔽部は、周壁の頂端部に一体化され当該周壁の内側に向けて突出するだけであり、非常に簡単な構造である。このため、本発明の送電装置自体もまた、簡単な構造であり、その外形や質量が過剰に増大することもない。したがって本発明の送電装置は、簡単な構造であり、その外形や質量の過剰な増大を抑制しつつ送電コイルの磁界漏れを抑制し得る送電装置といい得る。
【0016】
以下、本発明の送電装置を具体的に説明する。
【0017】
本発明の送電装置は送電部と筐体とを具備する。このうち送電部は、送電コイルを必須とし、当該送電コイルとともに一般的な送電装置の副部材を含み得る。
送電コイルは、送電対象である電子機器に搭載されている受電コイルとの間で、電磁誘導や磁界共鳴により非放射方式で給電を行い得るものであればよい。送電コイルは一次コイルと称される場合があり、受電コイルは二次コイルと称される場合がある。
【0018】
送電コイルとともに送電部を構成し得る副部材としては、送電コイルに接続されたリード線等、既知の種々のものを含み得る。本発明の送電装置における送電部は、当該副部材として、送電コイルから受電コイルとは逆側に向かう磁束や、当該逆側に広がる磁界を遮蔽するための磁性部材を含むのが特に好適である。
【0019】
送電部に含まれる磁性部材としては、例えば、フェライト、センダスト、カルボニル鉄に代表される一般的な磁性体を含むものを用いれば良い。磁性部材は、これらの磁性体からなるものであっても良いが、コストや取り扱い性を考慮すると、シリコンやゴム等の基材に磁性体が練り込まれたものを用いるのが好適である。
【0020】
磁性部材は送電部のうち受電コイルの非配置側に配置される面、すなわち送電部の底面を構成するのが好ましい。当該磁性部材の形状は特に限定しないが、送電コイルのうち受電コイルの非配置側の面、すなわち送電コイルの底面を広く覆い、かつ、軽量化することを考慮すると、シート状やフィルム状、テープ状等、厚みの薄い形状であるのが好ましい。
送電装置の製造時等における送電部の取り扱い性を考慮すると、当該磁性部材は接着等の方法で送電コイルの底面に一体化されるのが特に好適である。
【0021】
筐体は、既述したように金属製の周壁及び金属製の遮蔽部を含む。周壁および遮蔽部の材料たる金属は、同一のものであっても良いし、異なっていても良い。また、周壁や遮蔽部の一部を構成する金属が、他の一部を構成する金属と異なっていても良い。さらに、周壁や遮蔽部を構成する金属は、各種の金属の単体であっても良いし、合金であっても良い。周壁や遮蔽部を構成する金属としては、一般的な磁気シールドに用いられる材料を選択することが可能である。
【0022】
周壁は、上記した送電コイルを取り囲むものであり、送電コイル側の端部と、受電コイル側の端部とを有する。周壁のうち送電コイル側の端部を周壁の底端部と称する。周壁のうち受電コイル側の端部は既述した頂端部である。
【0023】
周壁は既述したように送電コイルを取り囲む都合上、概略筒状をなせばよく、円筒状であっても良いし角筒状であっても良いし、それ以外の形状であっても良い。送電コイルと周壁との位置関係もまた特に限定されず、送電コイルは周壁の中心に配置されても良いし、周壁の端部側に偏って配置されても良い。
周壁の高さ、すなわち周壁における頂端部-底端部方向の長さは、送電コイルの大きさや送電コイルと受電コイルとの位置関係等に応じて適宜設定すればよく、特に限定しない。周壁の厚さ、すなわち周壁における内側-外側方向の長さもまた特に限定されない。
【0024】
遮蔽部は、周壁の頂端部に一体化されれば良く、周壁の全周にあるのが特に好適であるが、周壁における周方向の一部にのみあっても良い。遮蔽部が周壁における周方向の一部にのみある場合にも、当該一部において上記した送電コイルの磁界漏れを抑制することが可能である。
【0025】
なお、周壁が角筒状をなす場合、遮蔽部は当該周壁の2辺以上にわたって設けられるのが特に好適である。この場合、送電コイルは、周壁の中心ではなく遮蔽部を設けた辺側に偏って配置するのが良い。これにより、遮蔽部を送電コイルに近づけ、上記した送電コイルの磁界漏れをより低減することが可能である。
【0026】
遮蔽部は、周壁の頂端部から当該周壁の内側、換言すると周壁の径方向内側に向けて突出すれば良く、その形状は特に限定しない。例えば遮蔽部は平板状であっても良いし、湾曲板状であっても良いし、柱状や庇状等の板状以外の形状であっても良い。なお当該遮蔽部が周壁に囲まれた送電コイルの近くにまで突出する場合には、送電コイルの磁界漏れをより抑制できる利点がある。
遮蔽部の突出長さLeの好ましい範囲については、実施例の欄で詳説する。
【0027】
筐体は、上記した送電コイルを取り囲む周壁と、当該周壁に一体化されている遮蔽部と、からなる概略筒状をなしても良いし、これに加えて周壁の底端部を覆う底蓋部と当該周壁の頂端部を覆う頂蓋部との少なくとも一方を有する箱状をなしても良い。筐体内部に収容されている送電コイルを外界から隔離することを考慮すると、筐体は上記した底蓋部と蓋部との何れかを有するのが好ましく、底蓋部と頂蓋部との両方を有するのが特に好ましい。当該底蓋部および頂蓋部の材料は金属であっても良いし、金属でなくても良いが、送電コイルからの磁界漏れを抑制するためには、底蓋部および頂蓋部の少なくとも一部が金属であるのが好適である。
【0028】
上記した底蓋部や頂蓋部は、単なる金属板であっても良いが、所定の機能を有する金属パターンが設けられた基板であるのが好適である。当該金属パターンは、送電装置用の回路パターンであっても良いが、磁界漏れ抑制用の金属パターンを含むのが好適である。
【0029】
ここで、送電コイルでは、受電コイルとの電磁誘導等に用いられる周波数域(例えば100kHz~200kHz)外の周波数の電磁波が生じている。当該周波数域外の電磁波は、送電コイル-受電コイル間での電磁誘導や磁界共鳴に干渉し、効率の良い送電の妨げになる虞がある。
【0030】
このため特に、送電コイルと、電子機器の受電コイルとの間に配置される頂蓋部には、送電コイルで生じた上記周波数域外の電磁波に対するフィルタ効果を有し、受電コイル側への当該電磁波の漏洩を抑制する磁界漏れ抑制用金属パターンを設けるのが好適である。
また、上記周波数域外の電磁波のうち、200kHz以上の周波数域はGPSやデジタルオーディオ、FMラジオ等に用いられる。このため当該磁界漏れ抑制用金属パターンは、200kHz以上の周波数域の電磁波の漏洩を抑制するフィルタ効果を有するのが特に好適である。
なお、当該磁界漏れ抑制用金属パターンとしては既知のものを用いれば良いが、後述する実施例で説明する櫛形パターンを好適に使用できる。
【0031】
頂蓋部に上記の磁界漏れ抑制用金属パターンを設ける場合、頂蓋部のうち当該磁界漏れ抑制用金属パターンの径方向外側の領域には、金属パターンからなる遮蔽部を設けるのが好適である。この場合、頂蓋部を周壁に取り付けることにより遮蔽部を周壁に接触させることができ、遮蔽部を有する筐体を容易かつ安価に製造できる利点がある。磁界漏れ抑制用金属パターンと遮蔽部とは、距離をもって配置すれば良く、両者は近接していても良いし離れていても良い。
なお、頂蓋部に上記の磁界漏れ抑制用金属パターンを設けない場合にも、頂蓋部のうち径方向外側の領域に、金属パターンからなる遮蔽部を設ける場合には、同様に、遮蔽部を有する筐体を容易かつ安価に製造できる利点がある。
【0032】
以下、具体例を挙げて本発明の送電装置を説明する。
【0033】
(実施例1)
実施例1の送電装置は、車両室内に取り付けられるものであり、携帯情報端末を充電するためのものである。実施例1の送電装置と受電コイルとの関係を模式的に説明する説明図を
図1に示す。実施例1の送電装置を周壁の頂端側からみた様子を模式的に説明する説明図を
図2に示す。実施例1の送電装置を厚さ方向に切断した様子を模式的に説明する説明図を
図3に示す。実施例1の送電装置における磁界漏れ抑制用金属パターンを模式的に説明する説明図を
図4に示す。評価1の結果を模式的に説明する説明図を
図5に示す。評価2の結果を模式的に説明する説明図を
図6に示す。
【0034】
実施例1の送電装置1は、
図1~
図3に示すように、送電部2及び筐体3を具備する。
【0035】
このうち送電部2は、送電コイル20、磁性部材21、及び、図略のリード線を有する。リード線は送電コイル20に取り付けられており、図略の電源に接続される。
磁性部材21は、シリコンゴムにフェライト粉末が練り込まれたものであり、シート状をなす。磁性部材21は、
図1及び
図3に示すように、送電コイル20の底面20bに接着され、当該送電コイル20を底面20b側から覆う。
【0036】
筐体3は周壁30、底蓋部35および頂蓋部4を有する。
【0037】
このうち周壁30は、アルミニウム製であり、角筒状をなし、軸線を送電コイル20-受電コイル90方向すなわち
図1及び3中のz方向に向けている。周壁30の頂端側及び底端側は各々開口する、ともいい得る。
なお、受電コイル90は電子機器9に含まれ、送電装置1の頂蓋部4に載置されて送電コイル20からの送電を受ける。
【0038】
周壁30の底端部30bには、アルミニウム製であり板状をなす底蓋部35が一体化されている。当該底蓋部35により周壁30の内外は、当該周壁30の底端部30b側において閉じられている。
送電部2は、底蓋部35よりもやや頂端部30t側において、周壁30に固定されている。送電部2は、送電コイル20を頂側に向け磁性部材21を底側に向けている。
【0039】
周壁30の頂端部30tには、板状をなす頂蓋部4が一体化されている。頂蓋部4は二種の金属パターンが基板41上に形成されたプリント基板である。
【0040】
頂蓋部4に形成された金属パターンの一方は、磁界漏れ抑制用の金属パターン40であり、頂蓋部4における径方向内側領域に形成されている。頂蓋部4に形成された金属パターンの他方は、遮蔽部5であり、頂蓋部4における径方向外側領域に形成されている。なお、磁界漏れ抑制用金属パターン40は、導電性を有する金属材料からなり、図略のリード線に接続され、当該リード線を介して図略の電源から給電される。一方遮蔽部5は、周壁30と同じアルミニウム製であり、電源には接続されない。
【0041】
磁界漏れ抑制用金属パターン40は、
図4に示すように、間隔をおいて配列する直線状のパターン40pが櫛歯状に連結されたものである。当該直線状のパターン40pの幅、及び、隣り合うパターン40pの間隔は何れも約5mil(約0.125mm)である。
【0042】
図1及び
図2に示すように、頂蓋部4は略矩形状をなし、当該頂蓋部4における径方向外側領域に形成されている遮蔽部5もまた略矩形のリング状をなす。遮蔽部5の幅すなわち頂蓋部4の径方向内側-外側方向における遮蔽部5の長さは3.5mmであった。
【0043】
図3に示すように、頂蓋部4は、遮蔽部5および磁界漏れ抑制用金属パターン40を底側に向けつつ周壁30の頂端部30tに一体化されている。このうち遮蔽部5は周壁30に対面する。頂蓋部4は、周壁30の頂端部30tに図略のビスによって留められることで、遮蔽部5は周壁30の頂端部30tに一体化される。また、遮蔽部5の幅は周壁30の厚さよりも大きく、遮蔽部5は
図3に示すように周壁30の内側に向けて突出する。遮蔽部5の幅は、当該遮蔽部5の突出長さLe(
図3参照)ということができる。
【0044】
図3に示すように、周壁30の頂端部30tは送電コイル20よりもさらに受電コイル90の配置側にまで延びているため、遮蔽部5は送電コイル20よりもさらに周壁30の頂端側に配置されているといい得る。
【0045】
実施例1の送電装置1において、遮蔽部5の厚さは0.5mm、周壁30の厚さは1、5mm、送電コイル20と受電コイル90との距離Hは5.0mmであった。また、送電部2の底面2bから周壁30の頂端部30tまでの長さLpは3.7mm、遮蔽部5の突出長さLeは3.5mm、送電コイル20または磁性部材21の外周端部と周壁30の最短距離Lxは0.7mmであった。
したがって、Lx、Lp、Leの関係は、Lx<(Lp+Le)を満たす。
【0046】
ここで、送電コイル20からの磁界漏れをより効率よく抑制するためには、上記Lx、Lp、Leの関係は、Lx<(Lp+Le)を満たすのが良いと考えられる。送電コイル20で生じた磁界漏れを、周壁30及び遮蔽部5によって効率よく遮るためである。
【0047】
既述したように、実施例1の送電装置1におけるLx、Lp、Leの関係は、Lx<(Lp+Le)を満たす。したがって、実施例1の送電装置1によると、送電コイル20からの磁界漏れを効率よく遮蔽できるといい得る。
【0048】
〔評価1〕
比較例の送電装置1として、遮蔽部5を持たないこと以外は実施例1の送電装置1と概略同じものを準備した。
実施例1の送電装置1及び比較例の送電装置1につき、シミュレーションにより、送電時に生じる磁界を評価した。結果を
図5に示す。
【0049】
図5に示すように、実施例1及び比較例の送電装置1において、送電コイル20と受電コイル90との間には磁界が生じ、当該磁界の一部は送電コイル20と受電コイル90との間よりも外側つまり周壁30側に漏れ出ている。
【0050】
しかし、各送電装置1に生じ周壁30側に漏れた磁界lfは、特に実施例1の送電装置1においては、x方向の先側、すなわち、送電コイル20に対面する周壁30側において、比較例の送電装置1よりも低減している。これは、当該磁界lfが、周壁30の頂端部30tに設けられている遮蔽部5に遮られたことによると推測できる。この結果から、周壁30の頂端部30tに遮蔽部5を設けた本発明の送電装置1によると磁界漏れを抑制できることがわかる。
【0051】
〔評価2〕
評価用の基準送電装置1として、送電部2の底面2bから周壁30の頂端部30tまでの長さLpが2.35mmであるもの(Lp2.35)、3.7mmであるもの(Lp3.7)、及び、5mmであるもの(Lp5)の3水準を準備した。各基準送電装置1は、Lpの値及びLeの値以外は実施例1の送電装置1と概略同じものである。
これら各基準送電装置1につき、遮蔽部5の突出長さLeを種々に変更した場合に形成される磁界強度平均をシミュレーションにより算出した。結果を
図6に示す。
【0052】
なお、上記の「磁界強度平均」は、各基準送電装置1(Lp2.35、Lp3.7及びLp5)につき、周壁30の頂端部30tの最外側(
図3中にL0で示す)における磁界強度を、当該周壁30における1辺の全長にわたって取得し、その平均値を算出したものである。また、
図6中の縦軸は、各々の基準送電装置1における当該磁界強度の平均値を、遮蔽部5の突出長さLeが0mmの場合を1とした比で表したものである。後述する評価3においても同様である。
【0053】
図6に示すように、各送電装置1における磁界強度は、遮蔽部5の突出長さLeに関連し変化する。より具体的には、遮蔽部5の突出長さLeが所定の長さに達するまでは、磁界強度は当該Leの増大に伴って減少する。磁界強度を最も小さくできるLeの値、すなわち、磁界漏れを最も低減できるLeの値は、送電部2の底面2bから周壁30の頂端部30tまでの長さLp、すなわち、送電部2と受電コイル90との間にある周壁30の高さに応じて異なる。当該Lpが大きければ、磁界強度を最小にするのに必要な遮蔽部5の突出長さLeは小さくなる。本評価2の項目にはないが、LpおよびLeは、当然乍ら、送電コイル20または磁性部材21の外周端部と周壁30の最短距離Lxと関連する。つまりLxが大きければ、すなわち、周壁30が送電部2から離れていれば、送電部2からの磁界漏れを抑制するために周壁30の高さLp及び/又は遮蔽部5の突出長さLeを大きくする必要がある。
これらの結果から、上記した関係式Lx<(Lp+Le)の正当性が裏付けられる。
参考までに、遮蔽部5の突出長さLeが所定の長さを超えると、磁界強度は再度増大する。これは、遮蔽部5に遮られた磁界が乱流状になるためと推測される。但し実際には、遮蔽部5の存在により、当該乱流状の磁界は遮蔽部5の内側に留まるものと推測される。
【0054】
ここで、
図6に示すように、各送電装置1における磁界強度が最小となる点(
図6中矢印で示す)では、LpとLeとの和が7付近となっている。本発明の発明者は、この知見から、各送電装置1における各部の寸法の関係が、磁界漏れの抑制効果に関与すると推測した。
【0055】
〔評価3〕
評価用の基準送電装置1として、送電部2の底面2bから周壁30の頂端部30tまでの長さLp、送電コイル20または磁性部材21の外周端部と周壁30の最短距離Lx、および、送電コイル20と受電コイル90との距離Hの値を種々に変更したものを準備した。そしてこれら各基準送電装置1につき、遮蔽部5の突出長さLeを種々に変更した場合に形成される磁界強度平均をシミュレーションにより算出し、その磁界強度が最小となる点における遮蔽部5の突出長さLeを求めた。そして、当該Le値及び上記した各部の寸法の関係性を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1に示すように、何れの場合にも、磁界強度が最小となる点におけるLeと、各部の寸法との関係(Lp+Le-Lx)/Hは、所定の範囲に収まる。より詳しくは、当該(Lp+Le-Lx)/Hは、0.35~0.55の範囲内、より好ましくは0.4~0.51の範囲内となる。この結果から、磁界強度を最小とするためには、各部の寸法の関係を0.35≦(Lp+Le-Lx)/H≦0.55の範囲内とするのが好ましく、0.4≦(Lp+Le-Lx)/H≦0.51の範囲内とするのがより好ましいといい得る。
【0058】
本発明は、上記し且つ図面に示した実施形態にのみ限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。また、実施形態を含む本明細書に示した各構成要素は、それぞれ任意に抽出し組み合わせて実施できる。
【符号の説明】
【0059】
1:送電装置
2:送電部
20:送電コイル
21:磁性部材
2b:送電部の底面
3:筐体
30:周壁
30t:周壁の頂端部
4:蓋部
40:磁界漏れ抑制用金属パターン
5:遮蔽部
Lp:送電部の底面から周壁の頂端部までの長さ
Le:遮蔽部の突出長さ
Lx:送電コイルまたは磁性部材の外周端部と周壁との最短距離
90:受電コイル