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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023143305
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】焼き嵌め部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/00 20060101AFI20230928BHJP
   B21C 37/06 20060101ALI20230928BHJP
   B23P 11/02 20060101ALI20230928BHJP
   B23P 15/26 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
B21C37/00 C
B21C37/06 D
B23P11/02 A
B23P15/26
B21C37/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050610
(22)【出願日】2022-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文崇
(72)【発明者】
【氏名】久野 修平
(72)【発明者】
【氏名】沢田 聖也
(57)【要約】
【課題】深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管を用いても柱状セラミックス体の破損を抑制可能な焼き嵌め部材の製造方法を提供する。
【解決手段】柱状セラミックス体20を深絞りステンレス鋼管10内に配置して焼き嵌めする焼き嵌め部材30の製造方法である。この製造方法は、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管10及び柱状セラミックス体20を準備する準備工程と、深絞りステンレス鋼管10を900℃以上に加熱する加熱工程と、加熱した深絞りステンレス鋼管10内に柱状セラミックス体20を挿入して焼き嵌めする焼き嵌め工程とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状セラミックス体を深絞りステンレス鋼管内に配置して焼き嵌めする焼き嵌め部材の製造方法であって、
深絞り加工によって作製された前記深絞りステンレス鋼管及び前記柱状セラミックス体を準備する準備工程と、
前記深絞りステンレス鋼管を900℃以上に加熱する加熱工程と、
加熱した前記深絞りステンレス鋼管内に前記柱状セラミックス体を挿入して焼き嵌めする焼き嵌め工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
前記深絞りステンレス鋼管の加熱時間が5秒以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記深絞りステンレス鋼管は、前記深絞り加工後、前記加熱工程前に熱処理が行われていない、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記焼き嵌め工程後に冷却を行う冷却工程を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記柱状セラミックス体が、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体、又は外周壁と、内周壁と、前記外周壁と前記内周壁との間に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記深絞りステンレス鋼管は、0~1100℃における熱膨張率が、10~22×10-6/℃である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き嵌め部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器には、耐食性などの特性が要求されることが多いことから、セラミックス製の熱交換器が用いられている。熱交換器は、化学業界や製薬業界などにおいて、酸(臭素酸、硫酸、弗酸、硝酸、塩酸など)、アルカリ(苛性アルカリなど)、ハロゲン化物、食塩水、有機化合物などを含む各種流体の加熱、冷却、凝縮に利用されている。また、熱交換器は、エンジン始動時に冷却水、エンジンオイル、オートマチックトランスミッションフルード(ATF:Automatic Transmission Fluid)などを早期に暖めてフリクション(摩擦)損失を低減するシステムや、排ガス浄化用触媒を早期に活性化するために触媒を加熱するシステムにも利用されている。
【0003】
セラミックス製の熱交換器としては、金属管内に柱状セラミックス体を収容した構造を有するものがある。このような構造を有する熱交換器は、内部でセラミックス体が破損しても、流体同士が交じり合わないという利点がある。
金属管内に柱状セラミックス体を収容する方法としては、金属管を加熱し、セラミックス体を金属管内の所定の位置に挿入した後に冷却する焼き嵌め法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6510283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、焼き嵌めに使用される金属管としてシームレス管の使用が検討されている。シームレス管は、継ぎ目がある溶接管に比べて強度が高いため、熱交換器の耐久性を向上させるのに有効であると考えられる。
しかしながら、シームレス管として、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管を用いて焼き嵌めを行うと、焼き嵌め時に柱状セラミックス体が破損し易い。これは、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管は、加工硬化によって硬くなっており、焼き嵌め時に柱状セラミックス体に対する面圧が増加したためであると考えられる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管を用いても柱状セラミックス体の破損を抑制可能な焼き嵌め部材の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、以下の本発明によって解決されるものであり、本発明は以下のように特定される。
【0008】
本発明は、柱状セラミックス体を深絞りステンレス鋼管内に配置して焼き嵌めする焼き嵌め部材の製造方法であって、
深絞り加工によって作製された前記深絞りステンレス鋼管及び前記柱状セラミックス体を準備する準備工程と、
前記深絞りステンレス鋼管を900℃以上に加熱する加熱工程と、
加熱した前記深絞りステンレス鋼管内に前記柱状セラミックス体を挿入して焼き嵌めする焼き嵌め工程と
を含む製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管を用いても柱状セラミックス体の破損を抑制可能な焼き嵌め部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面図である。
図2】ハニカム構造体の軸方向に垂直な断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法を説明するための図である。
図4】SUS436Lから形成された深絞りステンレス鋼管の軸方向長さの中央部におけるビッカース硬さの加熱温度依存性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を適宜参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0012】
本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法は、柱状セラミックス体を深絞りステンレス鋼管内に配置して焼き嵌めすることにより行われる。
まず、本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法に用いられる深絞りステンレス鋼管及び柱状セラミックス体について説明する。
【0013】
<深絞りステンレス鋼管>
深絞りステンレス鋼管は、深絞り加工によって作製されたステンレス鋼管である。
また、深絞りステンレス鋼管は、深絞り加工後に熱処理が行われていないものが好ましい。すなわち、深絞りステンレス鋼管は、深絞り加工後、後述する加熱工程前に熱処理が行われていないものを対象とする。深絞り加工後に熱処理が行われていない深絞りステンレス鋼管は、深絞り加工による加工硬化によって硬質化している。
【0014】
深絞りステンレス鋼管の形状としては、深絞りステンレス鋼管内に柱状セラミックス体を挿入可能な形状であれば特に限定されず、円筒形、角筒形などの各種形状とすることができる。また、深絞りステンレス鋼管は、軸方向に均一な径を有するストレート管であってもよく、ストレート管以外の管であってもよい。ストレート管以外の管は、軸方向に径の大きさが変化するように構成された管であり、例えば、テーパー部を一部に有する、縮径及び/又は拡径した管が挙げられる。
【0015】
深絞りステンレス鋼管は、0~1100℃における熱膨張率が、10~22×10-6/℃であることが好ましい。このような熱膨張率を有する深絞りステンレス鋼管であれば、後述する加熱工程時に内部に柱状セラミックス体を挿入し易くすることができる。
【0016】
深絞りステンレス鋼管を構成するステンレス鋼の種類としては、特に限定されず、フェライト系、オーステナイト系などを用いることができる。フェライト系ステンレス鋼としてはSUS430、SUS436Lなど、オーステナイト系ステンレス鋼としてはSUS304などが挙げられる。
【0017】
深絞りステンレス鋼管は、ステンレス鋼板を深絞り加工することによって製造することができる。深絞り加工の条件は、使用するステンレス板の種類などに応じて適宜調整すればよく特に限定されない。また、深絞りステンレス鋼管として市販のものを用いてもよい。
【0018】
<柱状セラミックス体>
柱状セラミックス体は、セラミックスで柱状に形成され、第1端面から第2端面まで延びる流体の流路を有するものである。柱状とは、円柱状に限らず、軸方向(流路が延びる方向)に垂直な断面が楕円形状、円弧が複合されたオーバル形状、四角形、又はその他の多角形の形状のものであってもよい。また、柱状セラミックス体は、軸方向に垂直な断面において中央部に中空部を有する中空型セラミックス体であってもよい。
【0019】
柱状セラミックス体の熱伝導率は、25℃において、50W/(m・K)以上であることが好ましく、100~300W/(m・K)であることがより好ましく、120~300W/(m・K)であることが更に好ましい。柱状セラミックス体の熱伝導率を、このような範囲とすることにより、熱伝導性が良好となり、柱状セラミックス体内の熱を外部に効率良く伝達させることができる。なお、熱伝導率の値は、レーザーフラッシュ法(JIS R1611-1997)により測定した値である。
【0020】
柱状セラミックス体は、セラミックスを主成分とする。「セラミックスを主成分とする」とは、全質量に占めるセラミックスの質量比率が50質量%以上であることをいう。
柱状セラミックス体は、熱伝導性が高いSiC(炭化珪素)を主成分として含むことが好ましい。「SiC(炭化珪素)を主成分として含む」とは、全質量に占めるSiC(炭化珪素)の質量比率が50質量%以上であることを意味する。
具体的には、柱状セラミックス体の材料として、Si含浸SiCや(Si+Al)含浸SiCなどのSi-SiC系材料、金属複合SiC、再結晶SiC、Si34、及びSiCなどを採用することができる。その中でも、安価に製造でき、高熱伝導であることからSi-SiC系材料を採用することが好ましい。
【0021】
柱状セラミックス体は、ハニカム構造体であることが好ましい。
ここで、典型的なハニカム構造体の軸方向に垂直な断面図を図1及び2に示す。
図1に示されるハニカム構造体100は、外周壁110と、外周壁110の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセル120を区画形成する隔壁130とを有する。また、図2に示されるハニカム構造体200は、外周壁110と、内周壁140と、外周壁110と内周壁140との間に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセル120を区画形成する隔壁130とを有する。このハニカム構造体200は、中空型ハニカム構造体と称される。これらのハニカム構造体100,200は、隔壁130を有することにより、セル120を流通する流体からの熱を効率良く集熱し、外部に伝達することができる。
なお、ハニカム構造体100,200の軸方向に垂直な断面におけるセル120の形状は、図示した形状に限定されず、円形、楕円形、三角形などの多角形などとしてもよい。
【0022】
ハニカム構造体100,200の軸方向に垂直な断面におけるセル密度(即ち、単位面積当たりのセル120の数)は、特に限定されず、用途などに応じて適宜調整すればよいが、4~320セル/cm2の範囲であることが好ましい。セル密度を4セル/cm2以上とすることにより、隔壁130の強度、ひいてはハニカム構造体100,200自体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)を十分に確保することができる。また、セル密度を320セル/cm2以下とすることにより、流体が流れる際の圧力損失の増大を防止することができる。
【0023】
ハニカム構造体100,200の隔壁130の厚みは、目的に応じて適宜設計すればよく、特に限定されない。隔壁130の厚みは、50μm~2mmとすることが好ましく、60μm~600μmとすることがより好ましい。隔壁130の厚みを50μm以上とすると、機械的強度が向上して衝撃や熱応力による破損を防止できる。一方、隔壁130の厚みを2mm以下とすると、ハニカム構造体100,200に占めるセル容積の割合が大きくなることによって流体の圧力損失が小さくなり、熱交換率を向上させることができる。
【0024】
ハニカム構造体100,200の外周壁110及び内周壁140の厚みも、目的に応じて適宜設計すればよく、特に限定されない。外周壁110及び内周壁140の厚みは、焼き嵌め部材が一般的な熱伝導用途に用いられる場合は、0.3mm超過10mm以下であることが好ましく、0.5mm~5mmであることがより好ましく、1mm~3mmであることが更に好ましい。また、焼き嵌め部材が蓄熱用途に用いられる場合は、外周壁110の厚みを10mm以上として外周壁110の熱容量を増大させることも好ましい。
【0025】
外周壁110、隔壁130及び内周壁140の気孔率は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。また、外周壁110、隔壁130及び内周壁140の気孔率は0%とすることもできる。外周壁110、隔壁130及び内周壁140の気孔率を10%以下とすることにより、熱伝導率を向上させることができる。
【0026】
ハニカム構造体100,200のアイソスタティック強度は、100MPa超過が好ましく、150MPa以上がより好ましく、200MPa以上が更に好ましい。ハニカム構造体100,200のアイソスタティック強度が、100MPa超過であると、ハニカム構造体100,200が耐久性に優れたものとなる。ハニカム構造体100,200のアイソスタティック強度は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格であるJASO規格M505-87に規定されているアイソスタティック破壊強度の測定方法に準じて測定することができる。
【0027】
柱状セラミックス体は、当該技術分野において公知の方法によって製造することができる。具体的な柱状セラミックス体の製造方法について、ハニカム構造体100,200の製造方法を例に説明する。
まず、セラミックス粉末を含む坏土を所望の形状に押出成形し、ハニカム成形体を作製する。このとき、適切な形態の口金及び治具を選択することにより、セル120の形状及び密度、隔壁130の数、長さ及び厚さ、外周壁110及び内周壁140の形状及び厚さなどを制御することができる。また、ハニカム成形体の材料としては、上記のセラミックスを用いることができる。例えば、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム成形体を製造する場合、所定量のSiC粉末に、バインダーと、水又は有機溶媒とを加え、得られた混合物を混練して坏土とし、成形して所望形状のハニカム成形体を得ることができる。そして、得られたハニカム成形体を乾燥し、減圧の不活性ガス又は真空中で、ハニカム成形体中に金属Siを含浸焼成することによって、ハニカム構造体100,200を得ることができる。
【0028】
本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法は、上記の深絞りステンレス鋼管及び柱状セラミックス体を用いて実施される。この製造方法を説明するための図(斜視図)を図3に示す。
本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法は、準備工程と、加熱工程と、焼き嵌め工程とを含む。また、この製造方法は、焼き嵌め工程後に冷却工程を更に含んでもよい。これらの工程を有する製造方法は、公知の製造装置(例えば、特許第6510283号公報に記載の製造装置)を用いて行うことができる。
【0029】
<準備工程>
準備工程は、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管10及び柱状セラミックス体20を準備する工程である。深絞りステンレス鋼管10は、上述したように深絞り加工によって作製してもよいし、市販品を用いてもよい。また、柱状セラミックス体20は、上述したように公知の方法によって作製することができる。
【0030】
柱状セラミックス体20の軸方向に平行な外周面には、必要に応じて、中間材を巻き付けてもよい。このとき接着剤を用いて、柱状セラミックス体20の軸方向に平行な外周面に中間材を貼り付けてもよい。接着剤を用いることにより、中間材を均一に貼り付けることができる。接着剤は、十分に薄く且つ良伝熱性であることが好ましい。
中間材としては、グラファイトシート、金属シート、ゲルシート、弾塑性流体などが挙げられる。金属シートを構成する金属としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。弾塑性流体とは、小さな力であれば、塑性変形せずに固体として振るまい(弾性率を有する)、大きな力を加えると自由に変形して流体のような変形をする材料であり、グリースなどが例として挙げられる。密着性や熱伝導性などを考慮すると、中間材はグラファイトシートであることが好ましい。
【0031】
<加熱工程>
加熱工程は、深絞りステンレス鋼管10を900℃以上に加熱する工程である。このような温度に深絞りステンレス鋼管10を加熱することにより、深絞り加工によって硬質化した深絞りステンレス鋼管10が軟化する。その結果、焼き嵌め工程時に柱状セラミックス体20に対する深絞りステンレス鋼管10の面圧の増加を抑制できるため、柱状セラミックス体20が破損し難くなる。また、この加熱工程によって焼き嵌めに必要な加熱も同時に行うことができるため、製造時間の短縮化や製造コストの削減も行うことができる。なお、加熱温度は、加熱温度の上昇による製造コストの増加を抑制する観点から、1000℃未満であることが好ましく、980℃以下であることがより好ましい。
【0032】
ここで、SUS436Lから形成された深絞りステンレス鋼管10(軸方向長さ57mm、外径87mm、内径85mm、厚み1mm)の軸方向長さの中央部におけるビッカース硬さの加熱温度依存性のグラフを図4に示す。図4に示されるように、未加熱の深絞りステンレス鋼管10のビッカース硬さは243HVであったのに対し、900℃以上で加熱することで深絞りステンレス鋼管10のビッカース硬さが約150HVまで低下した。したがって、加熱温度を900℃以上とすることにより、深絞り加工によって硬質化した深絞りステンレス鋼管10を十分に軟化させることができる。
なお、上記のビッカース硬さは、ビッカース硬度計を用いて室温(25℃)で測定された5箇所の測定値の平均値である。
【0033】
加熱時間は、特に限定されないが、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましい。このような加熱時間に制御することにより、深絞りステンレス鋼管10を十分に軟化させることができる。また、加熱時間は、加熱時間の長期化による製造コストの増加を抑制する観点から、60秒以下であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましい。
【0034】
加熱方法としては、特に限定されないが、深絞りステンレス鋼管10の外周側に加熱手段を配置し、加熱手段によって深絞りステンレス鋼管10を加熱すればよい。加熱手段としては、例えば、高周波加熱機などを用いることができる。
【0035】
<焼き嵌め工程>
焼き嵌め工程は、加熱した深絞りステンレス鋼管10内に柱状セラミックス体20を挿入して焼き嵌めする工程である。具体的には、図3に示されるように、柱状セラミックス体20を矢印方向に移動させ、加熱した深絞りステンレス鋼管10内の所定の位置に配置して焼き嵌める。加熱した深絞りステンレス鋼管10の温度が低下すると、加熱によって膨張した深絞りステンレス鋼管10が収縮するため、深絞りステンレス鋼管10内の所定の位置に柱状セラミックス体20が固定された焼き嵌め部材30となる。
【0036】
柱状セラミックス体20の移動方法としては、特に限定されないが、公知の各種駆動手段を用いて行うことができる。例えば、深絞りステンレス鋼管10と柱状セラミックス体20とが一直線上となるように位置決めし、駆動軸を有する駆動手段によって柱状セラミックス体20を深絞りステンレス鋼管10内の所定の位置まで移動させればよい。
【0037】
<冷却工程>
冷却工程は、深絞りステンレス鋼管10の冷却を行う工程である。積極的な冷却を行うことにより、焼き嵌め部材30を迅速に得ることができる。
冷却条件としては、特に限定されず、使用する深絞りステンレス鋼管10の種類などに応じて適宜調整すればよい。
【0038】
上記の工程を有する本発明の実施形態に係る焼き嵌め部材の製造方法は、深絞り加工によって硬質化した深絞りステンレス鋼管10を軟化させることにより、焼き嵌め工程時に柱状セラミックス体20に対する深絞りステンレス鋼管10の面圧の増加を抑制できるため、柱状セラミックス体20の破損を抑制することができる。
また、この製造方法によって製造された焼き嵌め部材30は、シームレスの深絞りステンレス鋼管10を用いており、柱状セラミックス体20の破損が抑制されているため、耐久性及び信頼性に優れている。したがって、熱交換部材として用いるのに適している。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
柱状セラミックス体として、軸方向に垂直な断面が円形のハニカム構造体(円柱状)を作製した。まず、SiC粉末を含む坏土を所望の形状に押出成形した後、乾燥させ、所定の外形寸法に加工し、Si含浸焼成することによって、ハニカム構造体を作製した。作製したハニカム構造体は、軸方向に垂直な断面におけるセルの形状を四角形、セル密度を56セル/cm2、外周壁の直径(外径)を85mm、軸方向(第1流体の流路方向)の長さを36mm、外周壁の厚みを1.5mm、隔壁の厚みを0.3mm、外周壁及び隔壁の気孔率を2%、熱伝導率(25℃)を150W/(m・K)、アイソスタティック強度を100MPaに設定した。
【0041】
次に、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管(SUS436L製、未熱処理)を準備した。深絞りステンレス鋼管は、軸方向長さを57mm、外径を87mm、内径を85mm、厚みを1mm、0~1100℃における熱膨張率を11×10-6/℃とした。
次に、深絞りステンレス鋼管を表1に示す温度に加熱した後、深絞りステンレス鋼管内にハニカム構造体を挿入して焼き嵌めすることにより、焼き嵌め部材を得た。
得られた焼き嵌め部材について、ハニカム構造体を目視観察することにより、ハニカム構造体のクラックの有無を評価した。また、深絞りステンレス鋼管の軸方向長さの中央部におけるビッカース硬さを上記で説明した方法で測定した。これらの結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示されるように、深絞りステンレス鋼管の加熱温度が900℃以上の場合、深絞りステンレス鋼管を十分に軟化させることができたため、焼き嵌め後にハニカム構造体にクラックが発生しなかった。これに対して深絞りステンレス鋼管の加熱温度が850℃の場合、深絞りステンレス鋼管を十分に軟化させることができず、焼き嵌め後にハニカム構造体にクラックが発生した。
【0044】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、深絞り加工によって作製された深絞りステンレス鋼管を用いても柱状セラミックス体の破損を抑制可能な焼き嵌め部材の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 深絞りステンレス鋼管
20 柱状セラミックス体
30 焼き嵌め部材
100,200 ハニカム構造体
110 外周壁
120 セル
130 隔壁
140 内周壁
図1
図2
図3
図4